スカラムーシュ・ムーン*海堂尊

  • 2015/11/16(月) 18:16:54

スカラムーシュ・ムーン
海堂 尊
新潮社
売り上げランキング: 13,208

僕は、日本という国家を治療したい――海堂サーガ、遂にクライマックスへ! もうすぐ「ワクチン戦争」が勃発する!? 新型インフルエンザ騒動で激震した浪速の街を、新たな危機が襲った。霞が関の陰謀を察知した医療界の大ぼら吹き・彦根新吾は壮大な勝負を挑むべく、欧州へ旅立っていく。浪速を、そしてこの国を救うことはできるのか。医療の未来を切り拓く海堂エンタメ最大のドラマが幕を開ける!


「たまごのお城」でバイトするナナミエッグの娘・まどかの話しから始まったので、医療問題と何がどうつながるのか、と興味津々で読み進んだ。浪速府、日本三分の計、インフルエンザワクチン騒動、警察との駆け引きと、さまざまな問題を含み、彦根が日本全国から海外にまで飛び回って策略を巡らす。今回の彦根は、片時もじっとしていない。浪速府と警察と厚労省の利権がらみの駆け引きにはいささかうんざりしつつも、まどかたちの有精卵作りを手に汗握りながら応援することで、物語にメリハリができて愉しめた。彦ねの次の登場が愉しみになる一冊でもある。

アクアマリンの神殿*海堂尊

  • 2014/09/02(火) 06:55:25

アクアマリンの神殿 (単行本)アクアマリンの神殿 (単行本)
(2014/06/30)
海堂 尊

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桜宮市にある未来医学探究センター。そこでたったひとりで暮らしている佐々木アツシは、ある深刻な理由のため世界初の「コールドスリープ」技術により人工的な眠りにつき、五年の時を超えて目覚めた少年だ。“凍眠”中の睡眠学習により高度な学力を身につけていたが、中途編入した桜宮学園中等部では平凡な少年に見えるよう“擬態”する日々を送っていた。彼には、深夜に行う大切な業務がある。それは、センターで眠る美しい女性を見守ること。学園生活に馴染んでゆく一方で、少年は、ある重大な決断を迫られ苦悩することとなる。アツシが彼女のためにした「選択」とは?先端医療の歪みに挑む少年の成長を瑞々しく描いた、海堂尊の新境地長編!


主役は佐々木アツシ。今回はちゃんと目覚めて動いている佐々木アツシである。代わりに日野原涼子が凍眠し、その管理をアツシが任されている。大枠は医療ドラマであるが、描かれている多くが貴重な友人たちとの関わりや学園生活の場面であることもあり、これまでとはいささか趣が違っているのもなかなか新鮮である。そしてちゃんと最後には田口先生も登場し、しっかり役目を果たしているので安心した。完全に夢物語と言ってしまえないところに来ているのかもしれないと思わされる一冊である。

カレイドスコープの箱庭*海堂尊

  • 2014/05/02(金) 17:12:47

カレイドスコープの箱庭カレイドスコープの箱庭
(2014/03/05)
海堂 尊

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東城大学病院は存続の危機に立たされながらも、運営を続けていた。そんな折、肺癌患者が右葉摘出手術で亡くなったのは、病理医の誤診が原因ではないかとの疑惑が浮上。田口医師は実態を把握せよという高階病院長の依頼を受け、仕方なく、呼吸器外科や病理検査室などの医師や技師たちに聞き取り調査を開始する……。万華鏡のように、見る角度によって様々な形となって姿を現す大学病院。果たして事件の真実とは――。海堂ワールドを俯瞰できる登場人物相関図や、600名近くに及ぶシリーズ全登場人物表なども収録した完全保存版。


巻末の人物相関図などの付録を見ると、ほんとのほんとに最後のようである。著者の頭のなかではこの複雑に絡まる人物相関図が混線せずにクリアになっているのだろうか。今回は、AI国際会議の演者ということで、そうそうたるメンバーが勢ぞろい――しかも愚痴外来に――する場面が見応えがある。謎解きのメインは、患者が手術後に亡くなったのは、検体取り違えか誤診か、ということだが、その調査と国際会議が見事に絡めて進められているのも見事である。出世欲があるわけでもないのに田口先生はどんどん東城大の重鎮になっていくが、これから先の田口先生の活躍も、見たかった。白鳥さんとのコントのようなやり取りが見られなくなるのも寂しいと思わせるシリーズである。

ガンコロリン*海堂尊

  • 2013/12/09(月) 16:44:24

ガンコロリンガンコロリン
(2013/10/22)
海堂 尊

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ついにガン予防薬完成! と思ったら……鬼才炸裂のメディカル・エンタメ傑作集! 医学とは悪食の生命体である――夢の新薬開発をめぐる大騒動の顛末を描く表題作ほか、完全な健康体を作り出す国家プロジェクトに選ばれた男の悲喜劇を綴る「健康増進モデル事業」、医療が自由化された日本の病院の有様をシニカルに描く「ランクA病院の愉悦」など、奇想の中に医療の未来を映し出す海堂ワールドの新機軸!


表題作のほか、「健康推進モデル事業」 「緑剥樹の下で」 「被災地の空へ」 「ランクA病院の愉悦」

コミカルなタッチを織り交ぜながらも、やはりそこは著者である。皮肉たっぷりに医療に対する国策の愚かさを嗤っている。憂えていると言った方がいいのかもしれない。「被災地の空へ」には極北病院の速水医師も登場しているのが嬉しい。実はジェネラル、案外好きなのである。今回は、いつもよりいささかおとなし目ではある。内容紹介には新機軸と謳われているが、相変わらずの主張であると思われる一冊ではある。

輝天炎上*海堂尊

  • 2013/03/15(金) 17:05:40

輝天炎上輝天炎上
(2013/02/01)
海堂 尊

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桜宮市の終末医療を担っていた碧翠院桜宮病院の炎上事件から1年後。東城大学医学生・天馬大吉は学校の課題で「日本の死因究明制度」を調査することに。同級生の冷泉と関係者への取材を重ねるうちに、制度自体の矛盾に気づき始める。そして、碧翠院の跡地にAiセンターが設立され、センター長に不定愁訴外来の田口医師が任命されたことを知る。時を同じくして、碧翠院を経営していた桜宮一族の生き残りが活動を開始する。東城大への復讐を果たすために―。


桜宮一族と東城医大の因縁の対決、という様相の物語である。それを、Aiと解剖の対立に絡め、万年留年医大生・天馬と(なぜか)彼を取り巻く美女たちの鞘当ても絡め、東城医大の伝説の面々のエピソードまで絡めて、飽きさせない一冊に仕立て上げている。もうこの桜宮一族と東城医大の闘いは何がどうなっても終わることはないのだと思えてくる。まだまだ何かが起こりそうな含みを持たせて幕を閉じた一冊である。

スリジエセンター1991*海堂尊

  • 2012/12/13(木) 07:49:28

スリジエセンター1991スリジエセンター1991
(2012/10/25)
海堂 尊

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手術を受けたいなら全財産の半分を差し出せと放言する天才外科医・天城は、東城大学医学部でのスリジエ・ハートセンター設立資金捻出のため、ウエスギ・モーターズ会長の公開手術を目論む。だが、佐伯教授の急進的な病院改革を危惧する者たちが抵抗勢力として動き始めた。桜宮に永遠に咲き続ける「さくら」を植えるという天城と世良の夢の行く末は。
ブラックペアンシリーズの完結編。


世良の目線で天城を縦軸とし、桜宮・東城医大内の攻防を絡めて――というか内部闘争に絡め取られて――天城の理想と日本医療界におけるその異端児振りと行く末が描かれた物語である。ブラックペアンシリーズの完結編でありながら、同時にその後の著者のシリーズの始まりの一冊とも言えるのが、切ないような思いにもなる。

ケルベロスの肖像*海堂尊

  • 2012/08/29(水) 16:58:04

ケルベロスの肖像ケルベロスの肖像
(2012/07/06)
海堂 尊

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『このミステリーがすごい! 』大賞を受賞した、ベストセラー『チーム・バチスタの栄光』から続く、田口&白鳥シリーズ最終巻! 大人気メディカル・エンターテインメント、いよいよ完結です! 「東城大学病院とケルベロスの塔を破壊する」――東城大学病院に送られてきた脅迫状。高階病院長は、院内の厄介事を一手に引き受ける愚痴外来の田口医師に、犯人を突き止めるよう依頼した。厚生労働省のロジカル・モンスター白鳥の部下、姫宮からのアドバイスによって、調査を開始する田口。警察、医療事故被害者の会、内科学会、法医学会など、様々な人間の思惑が交錯するなか、エーアイセンター設立の日、何かが起きる!?


シリーズ最終巻、と謳ってはいるが、一連の物語自体は完結、あるいは収束したわけではなく、謎や消化不良感を残したままである。ということは、何らかの形で後々解き明かされることがあるのかもしれない、という予感を抱かせるラストである。昼行灯のようだった田口先生も、基本的には変わらないが、ずいぶんとしたたかになり、戦車の上でちゃんと愉しんでいたりするのが微笑ましくもある。物語自体は、シリーズを終わらせるための物語的な意味合いが濃かったようにも思うが、田口白鳥コンビと会えなくなると思うと一抹の寂しさもある一冊である。

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ブレイズメス 1990*海堂尊

  • 2012/05/29(火) 17:00:17

ブレイズメス1990ブレイズメス1990
(2010/07/16)
海堂 尊

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バチスタの原点を追ってついに海外へ!  おなじみの大学病院を舞台にシリーズ中もっとも派手な手術が登場。富国モナコも絡み日本医療を考える小説はさらにエキサイト!「ブラックペアン」につづく第2弾


内容紹介の通り、なんとも派手な手術が繰り広げられる。だが、そこに至る経緯こそが興味深くもある。佐伯病院長の思惑と、天城医師の思惑が一致しているかと言えばそうでもなく、東城医大のそうそうたる面々はやはり各々の体面や地位に固執しているようにしか見えず、旧態依然とした枠の中でしか物事を考えられないようである。とはいえ、天城のような考え方は世界中探しても珍しいのではないかとは思うが。手技の素晴らしさを見せつけられ、資金の算段をつけられては、すべてを呑みこんで見守るしかない、といったところであろうか。手技の素晴らしさは認めるとしても、命を任せるには一抹の不安を覚える人物でもある。わくわく感とあきらめ感がないまぜになったような読後感の一冊だった。

玉村警部補の災難*海堂尊

  • 2012/04/07(土) 16:51:54

玉村警部補の災難玉村警部補の災難
(2012/02/10)
海堂 尊

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田口&白鳥シリーズでおなじみの、桜宮市警察署の玉村警部補とキレ者・加納警視正が活躍する、ミステリー短編集です。ずさんな検死体制の盲点を突く「東京都二十三区内外殺人事件」、密室空間で起きた不可能犯罪に挑む「青空迷宮」、最新の科学鑑定に切り込んだ「四兆七千億分の一の憂鬱」、闇の歯医者を描く「エナメルの証言」――2007年より『このミステリーがすごい!』に掲載してきた4編をまとめた、著者初の短編集です。


デジタル・ハウンドドッグのコードネーム通り、加納警視正の嗅覚は並の鋭さではない。その嗅覚が嗅ぎつけた正しくない臭いの元に、超法規的な越権行為で食い込み、真相を明らかにしてしまうのだから、正義の味方のような存在であると言ってもいいはずである。だが、そう手放しで褒め称えられないのは、その強引なキャラクターと、手足のように使われる玉村警部補の情けなくもの哀しい表情が目に浮かぶようだからというのも理由のひとつかもしれない。それでも、事件は解決し、ときには警察の捜査の杜撰さも露呈され、玉村警部補は田口先生のところへ愚痴をこぼしにやってくるのである。短篇集ということもあり、大きな事件の隙間的事件の数々でもあるが、玉村警部補の人柄も手伝って、愉しめる一冊になっている。タマちゃんファンが増えるかもしれない。

極北ラプソディ*海堂尊

  • 2012/02/11(土) 16:49:39

極北ラプソディ極北ラプソディ
(2011/12/07)
海堂 尊

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『極北クレイマー』につぐ、週刊朝日連載の迫力満点の第2弾。崩壊した地域医療に未来はあるのか?「夕張希望の杜」の医師である村上智彦氏は朝日文庫判『極北クレイマー』の解説で、「ここで起こった事は将来の日本全体の縮図である」と書いた。
『極北ラプソディ』は閉鎖の危機にある極北市民病院に、赤字建て直しのために世良院長がやって来たところから始まる。彼は再生のために、訪問介護の拡充、人員削減、投薬抑制をかかげた。
また世良院長は雪見市の極北救命救急センターに外科医・今中をレンタル移籍した。瀕死の地域医療でもっとも厳しい局面にたつ救急医療。速水センター長の指示をあおぐことになった。移籍から3日目には、速水が指揮をとる「将軍の日」で、入れ替わり立ち替わり救急患者が訪れる一日になった。文字通りの救急医療の修羅場に遭遇する今中。
一方、極北救命救急センター長の桃倉は息子が出場したスキー大会を見学していたが、雪崩に巻き込まれ、命が危険な状態に。速水はドクターヘリの出動を宣言した。医療と行政の根深い対立をえがき、地域医療の未来を探る渾身のメディカル・エンターテイメント。
目次・ 第一部極北の架橋 1章通り過ぎるサイレン 2章テレビ先生の三つの宣言 3章赤鼻課長の訪問 4章世界は孤立していない 5章古巣探訪 6章極北市を治療しましょう 7章市長懇談会 8章監察医務院の闇 9章救急車の静寂……第二部雪見の夏空 第三部光のヘリポート 第四部オホーツクの真珠


破綻した極北市と隣の健全な雪見市を舞台に繰り広げられる医療現場再生への取り組みの物語。再生へ向けてもがく医療現場と行政の埋められない溝が読んでいるだけでもどかしい。だが、自分の領域で力を尽くしている姿は、それが脚光を浴びるか浴びないかに関係なく輝いて見え、胸を打たれる。世良しかり、速水しかり、そのほかの登場人物たちもみなそれぞれの力を尽くしていてカッコイイのである。そして、科学の最先端の医療現場であっても、全力で心を傾けていれば神は降りてくるのだ、と信じられる。手に汗握り、胸を熱くし、ほろりとさせられる一冊である。ラストの速水は少しばかり切なかったが。

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ナニワ・モンスター*海堂尊

  • 2011/10/16(日) 11:34:37

ナニワ・モンスターナニワ・モンスター
(2011/04/21)
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新型インフルエンザ「キャメル」患者が発生した浪速府。経済封鎖による壊滅的打撃、やがて仄見える巨大な陰謀。ナニワの風雲児・村雨府知事は、危機を打開できるのか?村雨が目論む、この国を破滅から救うための秘策とは―。


実際の事件や実在の人物を彷彿させる設定で、興味をそそられるのは確かである。われわれ一般人が知らされる事実――と思われることごと――の裏に、現実にはなにが蠢いているかわからないという点において、まさに絶妙に描かれている。だが、著者の主張は決してそれだけではない。初めから一貫して書かれつづけている「AI」導入論に本作でも最後には行きつくのである。結局それか、と鼻白む思いもなくはない。読むたびに刷り込まれているような気にもなるが、嫌なら読まなければいいのに読んでいるのだから仕方がない。いまや高橋克典と化した斑鳩や、仲村トオルと化した白鳥も登場する。時間の流れの扱い方が相変わらず巧みな一冊である。

モルフェウスの領域*海堂尊

  • 2011/02/04(金) 14:32:51

モルフェウスの領域モルフェウスの領域
(2010/12/16)
海堂 尊

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日比野涼子は桜宮市にある未来医学探究センターで働いている。東城大学医学部から委託された資料整理の傍ら、世界初の「コールドスリープ」技術により人工的な眠りについた少年・佐々木アツシの生命維持を担当していた。アツシは網膜芽腫が再発し両眼失明の危機にあったが、特効薬の認可を待つために五年間の “凍眠”を選んだのだ。だが少年が目覚める際に重大な問題が立ちはだかることに気づいた涼子は、彼を守るための戦いを開始する―“バチスタ”シリーズに連なる最先端医療ミステリー。


ミステリと言えるかどうかはともかく、新しい桜宮市シリーズである。主役は――ほとんどの部分が凍眠(とうみん)状態なのだが――佐々木アツシ。実質的な主役は、モルフェウスと名づけたアツシの維持管理をする日比野涼子と言っていいだろう。描かれているのはほんとうにすぐそこの未来である。医療――というか医療機器のシステムだろうか――は格段に進歩しているようだが、お役所仕事は相変わらずのようで、医療現場との温度差が見え隠れし、医療の側の歯がゆさが見て取れる。そして枝葉はさまざまあるが、最も印象深かったのは母性ということについてである。日比野涼子の決断は母性愛以外で説明はできないのではないだろうか。涼子の未来が気になる一冊である。

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アリアドネの弾丸*海堂尊

  • 2010/11/28(日) 20:15:21

アリアドネの弾丸アリアドネの弾丸
(2010/09/10)
海堂 尊

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東城大学病院で再び殺人事件が!「この事件はすべてが不自然すぎる。絶対にどこかがおかしいんだ」東城大学病院に導入された新型MRIコロンブスエッグを中心に起こる事件の数々。さらには、病院長に収賄と殺人の容疑がかけられてしまう!殺人現場に残されていた弾丸には、巧妙な罠が張り巡らされていた…。不定愁訴外来の担当医師・田口公平が、駆けつけた厚生労働省のはぐれ技官・白鳥圭輔とともに完全無欠のトリックに挑む。


このシリーズ、はじまりはミステリだったのに作を追うごとに医療エンターテインメントの趣になっていたが、今作はミステリ風味満載で愉しかった。例のごとく、田口・白鳥コンビの掛け合いが――田口先生には心外だろうが――息の合った漫才コンビのようで絶妙なテンポである。ただ今回は深刻な現場であり、田口先生の胸のうちのみでのツッコミということも多々あったが、それはそれでより鋭くて笑ってしまう。そしていつもに増して白鳥さんの超人的な洞察力と働きぶりに目を瞠らされる。あの不遜さも仕方ないか、と思わされそうな八面六臂の仕事ぶりである。満足の一冊である。

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マドンナ・ヴェルデ*海堂尊

  • 2010/09/13(月) 16:42:55

マドンナ・ヴェルデマドンナ・ヴェルデ
(2010/03)
海堂 尊

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「ママは余計なこと考えないで、無事に赤ちゃんを産んでくれればいいの」平凡な主婦みどりは、一人娘で産科医の曾根崎理恵から驚くべき話を告げられる。子宮を失う理恵のため、代理母として子どもを宿してほしいというのだ。五十歳代後半、三十三年ぶりの妊娠。お腹にいるのは、実の孫。奇妙な状況を受け入れたみどりの胸に、やがて疑念が芽生えはじめる。「今の社会のルールでは代理母が本当の母親で、それはこのあたし」。


『ジーン・ワルツ』のパラレルワールドである。前作は生物学的な母・理恵の目線で書かれたものであり、今作は母体であり法律上の母であり理恵の母でもあるみどりの目線で描かれている。
多方面から眺めることによって、理恵が目指し実際に実現させたことの理論上の重大さと感情面での奥深さがより一層わかりやすくなった。だが、これが最善だったのかどうかは、それぞれ生物学上の母と父――この段階では父の委託を受けたみどりである――の元で育つ双子のその後をみきわめなければ判断はできない。薫のその後は、『医学の卵』でも知ることができるので、悲観的な結末にはならない気はするが。
著者は、桜ノ宮市で起こる医療関係の出来事を別作品として多角的に描いているが、一作目を書きはじめるときにすでに世界は出来上がっていたのではないかと思わされる。

夢見る黄金地球儀*海堂尊

  • 2010/07/10(土) 16:52:42

夢見る黄金地球儀 (ミステリ・フロンティア)夢見る黄金地球儀 (ミステリ・フロンティア)
(2007/10)
海堂 尊

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首都圏の端っこに位置する桜宮市に突如舞い込んだ1億円。その名も「ふるさと創生基金」。だがその金は黄金をはめ込んだ地球儀に姿を変え、今では寂れた水族館にひっそり置かれているだけとなった――はずだった。が、ある日を境にトラブル招聘体質の男・平沼平介の日常を一変させる厄介の種へと変貌する。
8年ぶりに現れた悪友が言い放つ。「久しぶり。ところでお前、1億円欲しくない?」
かくして黄金地球儀奪取作戦が始動する。二転三転四転する計画、知らぬ間に迫りくる危機。平介は相次ぐ難局を乗り越え、黄金を手にすることが出来るのか。『チーム・バチスタの栄光』の俊英が放つ、驚愕のジェットコースター・ノベル!


  プロローグ  黄金地球儀は深海の夢を見る 1988年のある日
  第一部  召集令状 2013年・晩夏
  第二部  強奪作戦
  第三部  返却作戦
  エピローグ  カリフォルニアの青い空 二年後・2015年のある晴れた日


桜宮市が舞台であり、バチスタシリーズでお馴染みの人物も登場するのだが、医療エンターテインメントではない。ミステリで味付けされたコメディといったところだろう。だが、主人公・平介と相棒ともいえるガラスのジョーの関係は、バチスタのグッチー先生と白鳥さんそのままである。途中からはガラスのジョーの役割さえも想像できてしまうが、それもまたお約束、だろう。基本的にはドタバタ劇だが、平介の父・豪介が素晴らしくカッコイイ!気楽に愉しめる一冊である。