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コロナ狂騒録*海堂尊

  • 2021/12/03(金) 18:26:08


あれから1年。浪速では医療が崩壊し、東京には聖火がやってきた――

ワクチンをめぐる厚生労働省技官・白鳥の奔走。そして、ついに東城大学医学部付属病院で院内クラスターが……。田口医師はこの難局をどう乗り越えるか!?

混迷を極める日本の2020—2021を描き尽くす、最新コロナウイルス小説!

『コロナ黙示録』に続く、現代ニッポンの“その後"。
累計1000万部突破『チーム・バチスタの栄光』シリーズ、書き下ろし最新作

(あらすじ)
2020年9月、新型コロナウイルスは第二波が収まりつつあった。安保宰三は体調不良を理由に首相を辞任、後継の酸ヶ湯政権がGotoキャンペーンに励み、五輪の開催に向けて邁進していた。
そんな中、日本に新型コロナウイルスの変異株が上陸する。それまで目先を誤魔化しながら感染対策を自画自賛していた浪速府知事・鵜飼の統治下、浪速の医療が崩壊し始め……。
浪速を再生するべく、政策集団「梁山泊」の盟主・村雨元浪速府知事が、大ボラ吹きと呼ばれるフリー病理医の彦根医師や、ニューヨーク帰りの天馬医師とともに行動を開始する。


いささか肩透かしを食った印象ではある。一応、バチスタシリーズの登場人物を動かして、事を起こそうとはしているが、ほとんどは、このところのコロナ騒動の備忘録のようなものである。大方、すでにわかっていることで、その合間にちょこちょこと、田口先生や白鳥さんたちが画策し、政府の動きの裏側がちらっと描かれているという感じで、小説としては物足りない。ただ、作中でも触れられているが、政府のほとんど黒塗りの公文書と違い、削除されることがない小説という形で記録を残した買ったという意図なら、理解はできる。とは言え、あくまでも、一私人の私見でしかないという点では、正確な記録かどうかという点にも疑問は残る。いささか読むのに苦労した一冊ではあった。

玉村警部補の巡礼*海堂尊

  • 2018/06/14(木) 16:36:14

玉村警部補の巡礼
玉村警部補の巡礼
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海堂 尊
宝島社
売り上げランキング: 53,423

累計1000万部突破『チーム・バチスタの栄光』シリーズに登場する“加納&玉村"コンビが、お遍路道中で難事件を解決!
休暇を利用して八十八箇所を巡拝する四国遍路に出た玉村警部補。
しかし、なぜか同行してきた警察庁の加納警視正と、行く先々で出くわす不可解な事件に振り回され……。
軽やかに跳躍する海堂ワールド、珠玉のミステリー四編。

「阿波 発心のアリバイ」お遍路の道中に遭遇した賽銭泥棒事件。加納警視正は容疑者となった女の無実を証明できるのか。
「土佐 修行のハーフ・ムーン」十年前に起きた政治家秘書不審死事件の容疑者には、鉄壁のアリバイが存在した――。
「伊予 菩提のヘレシー」蚊を信仰する寺で発見された不審死体。事件性はないかに思われたが、加納はAiの実施を主張する。
「讃岐 涅槃のアクアリウム」讃岐のひょうげ祭りに爆破テロ予告が! しかし、その背後には巨大な闇組織の暗躍があった……。


玉村・加納コンビふたたび、である。リフレッシュ休暇でお遍路の旅に出たはずのタマちゃんこと玉村警部補であるが、どういうわけか、もれなく警察庁のハウンド・ドッグの異名を持つ加納警視正と同道することになる。タマちゃんのお遍路計画は台無しであり、加納に無理難題を突き付けられ、反論するたびに、妙に納得してしまう屁理屈でやりこめられるのだった。というのも、加納はただタマちゃんに着いて歩いているわけではなく、しっかり仕事をしているのである。しかも、予定になかった事件まで抱え込んだりする始末。そしてそれらをことごとく解決してしまうのである。恐るべし加納警視正。と書くと、やたらと格好よさそうだが、本人の強引すぎるキャラクタがそう感じさせないところがミソである。ともあれ、でこぼこコンビの珍道中を再び見られて満足な一冊である。

スカラムーシュ・ムーン*海堂尊

  • 2015/11/16(月) 18:16:54

スカラムーシュ・ムーン
海堂 尊
新潮社
売り上げランキング: 13,208

僕は、日本という国家を治療したい――海堂サーガ、遂にクライマックスへ! もうすぐ「ワクチン戦争」が勃発する!? 新型インフルエンザ騒動で激震した浪速の街を、新たな危機が襲った。霞が関の陰謀を察知した医療界の大ぼら吹き・彦根新吾は壮大な勝負を挑むべく、欧州へ旅立っていく。浪速を、そしてこの国を救うことはできるのか。医療の未来を切り拓く海堂エンタメ最大のドラマが幕を開ける!


「たまごのお城」でバイトするナナミエッグの娘・まどかの話しから始まったので、医療問題と何がどうつながるのか、と興味津々で読み進んだ。浪速府、日本三分の計、インフルエンザワクチン騒動、警察との駆け引きと、さまざまな問題を含み、彦根が日本全国から海外にまで飛び回って策略を巡らす。今回の彦根は、片時もじっとしていない。浪速府と警察と厚労省の利権がらみの駆け引きにはいささかうんざりしつつも、まどかたちの有精卵作りを手に汗握りながら応援することで、物語にメリハリができて愉しめた。彦ねの次の登場が愉しみになる一冊でもある。

アクアマリンの神殿*海堂尊

  • 2014/09/02(火) 06:55:25

アクアマリンの神殿 (単行本)アクアマリンの神殿 (単行本)
(2014/06/30)
海堂 尊

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桜宮市にある未来医学探究センター。そこでたったひとりで暮らしている佐々木アツシは、ある深刻な理由のため世界初の「コールドスリープ」技術により人工的な眠りにつき、五年の時を超えて目覚めた少年だ。“凍眠”中の睡眠学習により高度な学力を身につけていたが、中途編入した桜宮学園中等部では平凡な少年に見えるよう“擬態”する日々を送っていた。彼には、深夜に行う大切な業務がある。それは、センターで眠る美しい女性を見守ること。学園生活に馴染んでゆく一方で、少年は、ある重大な決断を迫られ苦悩することとなる。アツシが彼女のためにした「選択」とは?先端医療の歪みに挑む少年の成長を瑞々しく描いた、海堂尊の新境地長編!


主役は佐々木アツシ。今回はちゃんと目覚めて動いている佐々木アツシである。代わりに日野原涼子が凍眠し、その管理をアツシが任されている。大枠は医療ドラマであるが、描かれている多くが貴重な友人たちとの関わりや学園生活の場面であることもあり、これまでとはいささか趣が違っているのもなかなか新鮮である。そしてちゃんと最後には田口先生も登場し、しっかり役目を果たしているので安心した。完全に夢物語と言ってしまえないところに来ているのかもしれないと思わされる一冊である。

カレイドスコープの箱庭*海堂尊

  • 2014/05/02(金) 17:12:47

カレイドスコープの箱庭カレイドスコープの箱庭
(2014/03/05)
海堂 尊

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東城大学病院は存続の危機に立たされながらも、運営を続けていた。そんな折、肺癌患者が右葉摘出手術で亡くなったのは、病理医の誤診が原因ではないかとの疑惑が浮上。田口医師は実態を把握せよという高階病院長の依頼を受け、仕方なく、呼吸器外科や病理検査室などの医師や技師たちに聞き取り調査を開始する……。万華鏡のように、見る角度によって様々な形となって姿を現す大学病院。果たして事件の真実とは――。海堂ワールドを俯瞰できる登場人物相関図や、600名近くに及ぶシリーズ全登場人物表なども収録した完全保存版。


巻末の人物相関図などの付録を見ると、ほんとのほんとに最後のようである。著者の頭のなかではこの複雑に絡まる人物相関図が混線せずにクリアになっているのだろうか。今回は、AI国際会議の演者ということで、そうそうたるメンバーが勢ぞろい――しかも愚痴外来に――する場面が見応えがある。謎解きのメインは、患者が手術後に亡くなったのは、検体取り違えか誤診か、ということだが、その調査と国際会議が見事に絡めて進められているのも見事である。出世欲があるわけでもないのに田口先生はどんどん東城大の重鎮になっていくが、これから先の田口先生の活躍も、見たかった。白鳥さんとのコントのようなやり取りが見られなくなるのも寂しいと思わせるシリーズである。

ガンコロリン*海堂尊

  • 2013/12/09(月) 16:44:24

ガンコロリンガンコロリン
(2013/10/22)
海堂 尊

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ついにガン予防薬完成! と思ったら……鬼才炸裂のメディカル・エンタメ傑作集! 医学とは悪食の生命体である――夢の新薬開発をめぐる大騒動の顛末を描く表題作ほか、完全な健康体を作り出す国家プロジェクトに選ばれた男の悲喜劇を綴る「健康増進モデル事業」、医療が自由化された日本の病院の有様をシニカルに描く「ランクA病院の愉悦」など、奇想の中に医療の未来を映し出す海堂ワールドの新機軸!


表題作のほか、「健康推進モデル事業」 「緑剥樹の下で」 「被災地の空へ」 「ランクA病院の愉悦」

コミカルなタッチを織り交ぜながらも、やはりそこは著者である。皮肉たっぷりに医療に対する国策の愚かさを嗤っている。憂えていると言った方がいいのかもしれない。「被災地の空へ」には極北病院の速水医師も登場しているのが嬉しい。実はジェネラル、案外好きなのである。今回は、いつもよりいささかおとなし目ではある。内容紹介には新機軸と謳われているが、相変わらずの主張であると思われる一冊ではある。

輝天炎上*海堂尊

  • 2013/03/15(金) 17:05:40

輝天炎上輝天炎上
(2013/02/01)
海堂 尊

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桜宮市の終末医療を担っていた碧翠院桜宮病院の炎上事件から1年後。東城大学医学生・天馬大吉は学校の課題で「日本の死因究明制度」を調査することに。同級生の冷泉と関係者への取材を重ねるうちに、制度自体の矛盾に気づき始める。そして、碧翠院の跡地にAiセンターが設立され、センター長に不定愁訴外来の田口医師が任命されたことを知る。時を同じくして、碧翠院を経営していた桜宮一族の生き残りが活動を開始する。東城大への復讐を果たすために―。


桜宮一族と東城医大の因縁の対決、という様相の物語である。それを、Aiと解剖の対立に絡め、万年留年医大生・天馬と(なぜか)彼を取り巻く美女たちの鞘当ても絡め、東城医大の伝説の面々のエピソードまで絡めて、飽きさせない一冊に仕立て上げている。もうこの桜宮一族と東城医大の闘いは何がどうなっても終わることはないのだと思えてくる。まだまだ何かが起こりそうな含みを持たせて幕を閉じた一冊である。

スリジエセンター1991*海堂尊

  • 2012/12/13(木) 07:49:28

スリジエセンター1991スリジエセンター1991
(2012/10/25)
海堂 尊

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手術を受けたいなら全財産の半分を差し出せと放言する天才外科医・天城は、東城大学医学部でのスリジエ・ハートセンター設立資金捻出のため、ウエスギ・モーターズ会長の公開手術を目論む。だが、佐伯教授の急進的な病院改革を危惧する者たちが抵抗勢力として動き始めた。桜宮に永遠に咲き続ける「さくら」を植えるという天城と世良の夢の行く末は。
ブラックペアンシリーズの完結編。


世良の目線で天城を縦軸とし、桜宮・東城医大内の攻防を絡めて――というか内部闘争に絡め取られて――天城の理想と日本医療界におけるその異端児振りと行く末が描かれた物語である。ブラックペアンシリーズの完結編でありながら、同時にその後の著者のシリーズの始まりの一冊とも言えるのが、切ないような思いにもなる。

ケルベロスの肖像*海堂尊

  • 2012/08/29(水) 16:58:04

ケルベロスの肖像ケルベロスの肖像
(2012/07/06)
海堂 尊

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『このミステリーがすごい! 』大賞を受賞した、ベストセラー『チーム・バチスタの栄光』から続く、田口&白鳥シリーズ最終巻! 大人気メディカル・エンターテインメント、いよいよ完結です! 「東城大学病院とケルベロスの塔を破壊する」――東城大学病院に送られてきた脅迫状。高階病院長は、院内の厄介事を一手に引き受ける愚痴外来の田口医師に、犯人を突き止めるよう依頼した。厚生労働省のロジカル・モンスター白鳥の部下、姫宮からのアドバイスによって、調査を開始する田口。警察、医療事故被害者の会、内科学会、法医学会など、様々な人間の思惑が交錯するなか、エーアイセンター設立の日、何かが起きる!?


シリーズ最終巻、と謳ってはいるが、一連の物語自体は完結、あるいは収束したわけではなく、謎や消化不良感を残したままである。ということは、何らかの形で後々解き明かされることがあるのかもしれない、という予感を抱かせるラストである。昼行灯のようだった田口先生も、基本的には変わらないが、ずいぶんとしたたかになり、戦車の上でちゃんと愉しんでいたりするのが微笑ましくもある。物語自体は、シリーズを終わらせるための物語的な意味合いが濃かったようにも思うが、田口白鳥コンビと会えなくなると思うと一抹の寂しさもある一冊である。

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ブレイズメス 1990*海堂尊

  • 2012/05/29(火) 17:00:17

ブレイズメス1990ブレイズメス1990
(2010/07/16)
海堂 尊

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バチスタの原点を追ってついに海外へ!  おなじみの大学病院を舞台にシリーズ中もっとも派手な手術が登場。富国モナコも絡み日本医療を考える小説はさらにエキサイト!「ブラックペアン」につづく第2弾


内容紹介の通り、なんとも派手な手術が繰り広げられる。だが、そこに至る経緯こそが興味深くもある。佐伯病院長の思惑と、天城医師の思惑が一致しているかと言えばそうでもなく、東城医大のそうそうたる面々はやはり各々の体面や地位に固執しているようにしか見えず、旧態依然とした枠の中でしか物事を考えられないようである。とはいえ、天城のような考え方は世界中探しても珍しいのではないかとは思うが。手技の素晴らしさを見せつけられ、資金の算段をつけられては、すべてを呑みこんで見守るしかない、といったところであろうか。手技の素晴らしさは認めるとしても、命を任せるには一抹の不安を覚える人物でもある。わくわく感とあきらめ感がないまぜになったような読後感の一冊だった。

玉村警部補の災難*海堂尊

  • 2012/04/07(土) 16:51:54

玉村警部補の災難玉村警部補の災難
(2012/02/10)
海堂 尊

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田口&白鳥シリーズでおなじみの、桜宮市警察署の玉村警部補とキレ者・加納警視正が活躍する、ミステリー短編集です。ずさんな検死体制の盲点を突く「東京都二十三区内外殺人事件」、密室空間で起きた不可能犯罪に挑む「青空迷宮」、最新の科学鑑定に切り込んだ「四兆七千億分の一の憂鬱」、闇の歯医者を描く「エナメルの証言」――2007年より『このミステリーがすごい!』に掲載してきた4編をまとめた、著者初の短編集です。


デジタル・ハウンドドッグのコードネーム通り、加納警視正の嗅覚は並の鋭さではない。その嗅覚が嗅ぎつけた正しくない臭いの元に、超法規的な越権行為で食い込み、真相を明らかにしてしまうのだから、正義の味方のような存在であると言ってもいいはずである。だが、そう手放しで褒め称えられないのは、その強引なキャラクターと、手足のように使われる玉村警部補の情けなくもの哀しい表情が目に浮かぶようだからというのも理由のひとつかもしれない。それでも、事件は解決し、ときには警察の捜査の杜撰さも露呈され、玉村警部補は田口先生のところへ愚痴をこぼしにやってくるのである。短篇集ということもあり、大きな事件の隙間的事件の数々でもあるが、玉村警部補の人柄も手伝って、愉しめる一冊になっている。タマちゃんファンが増えるかもしれない。

極北ラプソディ*海堂尊

  • 2012/02/11(土) 16:49:39

極北ラプソディ極北ラプソディ
(2011/12/07)
海堂 尊

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『極北クレイマー』につぐ、週刊朝日連載の迫力満点の第2弾。崩壊した地域医療に未来はあるのか?「夕張希望の杜」の医師である村上智彦氏は朝日文庫判『極北クレイマー』の解説で、「ここで起こった事は将来の日本全体の縮図である」と書いた。
『極北ラプソディ』は閉鎖の危機にある極北市民病院に、赤字建て直しのために世良院長がやって来たところから始まる。彼は再生のために、訪問介護の拡充、人員削減、投薬抑制をかかげた。
また世良院長は雪見市の極北救命救急センターに外科医・今中をレンタル移籍した。瀕死の地域医療でもっとも厳しい局面にたつ救急医療。速水センター長の指示をあおぐことになった。移籍から3日目には、速水が指揮をとる「将軍の日」で、入れ替わり立ち替わり救急患者が訪れる一日になった。文字通りの救急医療の修羅場に遭遇する今中。
一方、極北救命救急センター長の桃倉は息子が出場したスキー大会を見学していたが、雪崩に巻き込まれ、命が危険な状態に。速水はドクターヘリの出動を宣言した。医療と行政の根深い対立をえがき、地域医療の未来を探る渾身のメディカル・エンターテイメント。
目次・ 第一部極北の架橋 1章通り過ぎるサイレン 2章テレビ先生の三つの宣言 3章赤鼻課長の訪問 4章世界は孤立していない 5章古巣探訪 6章極北市を治療しましょう 7章市長懇談会 8章監察医務院の闇 9章救急車の静寂……第二部雪見の夏空 第三部光のヘリポート 第四部オホーツクの真珠


破綻した極北市と隣の健全な雪見市を舞台に繰り広げられる医療現場再生への取り組みの物語。再生へ向けてもがく医療現場と行政の埋められない溝が読んでいるだけでもどかしい。だが、自分の領域で力を尽くしている姿は、それが脚光を浴びるか浴びないかに関係なく輝いて見え、胸を打たれる。世良しかり、速水しかり、そのほかの登場人物たちもみなそれぞれの力を尽くしていてカッコイイのである。そして、科学の最先端の医療現場であっても、全力で心を傾けていれば神は降りてくるのだ、と信じられる。手に汗握り、胸を熱くし、ほろりとさせられる一冊である。ラストの速水は少しばかり切なかったが。

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ナニワ・モンスター*海堂尊

  • 2011/10/16(日) 11:34:37

ナニワ・モンスターナニワ・モンスター
(2011/04/21)
海堂 尊

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新型インフルエンザ「キャメル」患者が発生した浪速府。経済封鎖による壊滅的打撃、やがて仄見える巨大な陰謀。ナニワの風雲児・村雨府知事は、危機を打開できるのか?村雨が目論む、この国を破滅から救うための秘策とは―。


実際の事件や実在の人物を彷彿させる設定で、興味をそそられるのは確かである。われわれ一般人が知らされる事実――と思われることごと――の裏に、現実にはなにが蠢いているかわからないという点において、まさに絶妙に描かれている。だが、著者の主張は決してそれだけではない。初めから一貫して書かれつづけている「AI」導入論に本作でも最後には行きつくのである。結局それか、と鼻白む思いもなくはない。読むたびに刷り込まれているような気にもなるが、嫌なら読まなければいいのに読んでいるのだから仕方がない。いまや高橋克典と化した斑鳩や、仲村トオルと化した白鳥も登場する。時間の流れの扱い方が相変わらず巧みな一冊である。

モルフェウスの領域*海堂尊

  • 2011/02/04(金) 14:32:51

モルフェウスの領域モルフェウスの領域
(2010/12/16)
海堂 尊

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日比野涼子は桜宮市にある未来医学探究センターで働いている。東城大学医学部から委託された資料整理の傍ら、世界初の「コールドスリープ」技術により人工的な眠りについた少年・佐々木アツシの生命維持を担当していた。アツシは網膜芽腫が再発し両眼失明の危機にあったが、特効薬の認可を待つために五年間の “凍眠”を選んだのだ。だが少年が目覚める際に重大な問題が立ちはだかることに気づいた涼子は、彼を守るための戦いを開始する―“バチスタ”シリーズに連なる最先端医療ミステリー。


ミステリと言えるかどうかはともかく、新しい桜宮市シリーズである。主役は――ほとんどの部分が凍眠(とうみん)状態なのだが――佐々木アツシ。実質的な主役は、モルフェウスと名づけたアツシの維持管理をする日比野涼子と言っていいだろう。描かれているのはほんとうにすぐそこの未来である。医療――というか医療機器のシステムだろうか――は格段に進歩しているようだが、お役所仕事は相変わらずのようで、医療現場との温度差が見え隠れし、医療の側の歯がゆさが見て取れる。そして枝葉はさまざまあるが、最も印象深かったのは母性ということについてである。日比野涼子の決断は母性愛以外で説明はできないのではないだろうか。涼子の未来が気になる一冊である。

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アリアドネの弾丸*海堂尊

  • 2010/11/28(日) 20:15:21

アリアドネの弾丸アリアドネの弾丸
(2010/09/10)
海堂 尊

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東城大学病院で再び殺人事件が!「この事件はすべてが不自然すぎる。絶対にどこかがおかしいんだ」東城大学病院に導入された新型MRIコロンブスエッグを中心に起こる事件の数々。さらには、病院長に収賄と殺人の容疑がかけられてしまう!殺人現場に残されていた弾丸には、巧妙な罠が張り巡らされていた…。不定愁訴外来の担当医師・田口公平が、駆けつけた厚生労働省のはぐれ技官・白鳥圭輔とともに完全無欠のトリックに挑む。


このシリーズ、はじまりはミステリだったのに作を追うごとに医療エンターテインメントの趣になっていたが、今作はミステリ風味満載で愉しかった。例のごとく、田口・白鳥コンビの掛け合いが――田口先生には心外だろうが――息の合った漫才コンビのようで絶妙なテンポである。ただ今回は深刻な現場であり、田口先生の胸のうちのみでのツッコミということも多々あったが、それはそれでより鋭くて笑ってしまう。そしていつもに増して白鳥さんの超人的な洞察力と働きぶりに目を瞠らされる。あの不遜さも仕方ないか、と思わされそうな八面六臂の仕事ぶりである。満足の一冊である。

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