いつか来た町*東直子

  • 2017/05/12(金) 18:27:54

いつか来た町
いつか来た町
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東 直子
PHP研究所
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町を好きになることは、恋をすることに似ている――。
風が運んできた香り、ふと目にした風景、耳に入ってきた会話、あの日の舌の記憶……。歌壇を牽引する一人であり、心の琴線に触れる言葉を紡いできた著者が、25の町の表情を五感で綴った随想集。まるで、著者と一緒に町を歩いているような気持ちになれる珠玉の25篇を収録する。
本書に登場するのは、山形/松山/名古屋/遠野/下北沢/京都/大森/入谷/紀伊田辺/神保町/立川/仙台/銀座/吉祥寺/池袋/表参道/新宿/御茶ノ水/江古田/有明/青森/パリ/高幡不動/横浜/福岡。
歌人ならではの独特の視点で切り取られた何気ない日常のひとコマは、あたたかく、せつなく、時に妖しく感じられ、あなたの知らない“もうひとつ町の顔"を見せてくれるはず。


なによりまず、それぞれの町の紹介の仕方が特徴的である。直接的に表すのではなく、町の由来や風物などに事寄せて語るうちに自然にどこの町かが判っていくという趣向である。なるほど、と思わされることも多く、それだけでも次の町のことが愉しみになる。さらに、語られるエピソードが、著者の子どもの頃の思い出だったり、過去の体験だったリ、感じたことだったりするのだが、そのどれもが趣に富んでいて惹きこまれる。著者の目線でその街を歩いている心地になれる一冊である。

七つ空、二つ水*東直子

  • 2015/06/18(木) 16:56:03

七つ空、二つ水
七つ空、二つ水
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東 直子
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2009年から2014年まで、人気連載コラムの書籍化。自身の歌や生活、過去の文人たちの歌や逸話など、著者の日常と文人の過去を行き来するようなエッセイ集。


東さんの歌はもちろん、さまざまな作者の歌が、日々の暮らし、訪れた先で心動かされた事々に差し挟まれ、魅力的である。そのときどきの思いがさらに際立つようにも思われ、また、著者とは違う感じ方をも尊ぶ広々とした心を感じられる。さまざまな時代さまざまな作者の歌を通して著者が見た風景を、東さんの目を通してさらに自分で見ているような心地の一冊である。

晴れ女の耳*東直子

  • 2015/05/27(水) 17:11:56

晴れ女の耳 (幽BOOKS)
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東 直子
KADOKAWA/角川書店 (2015-04-25)
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「私」が外に出るときは、どんなに悪天候だったとしても必ず晴れる。ある日、耳の奥から声が聞こえてきた。声の主は、豆粒ほどの小さなおばあさんだった。おばあさんが、なぜ豆粒ほどに小さくなったのか―。訥々と語られる、貧しい炭焼き職人の一家の物語。夫殺しの罪を着せられた母が、幼い子どもたちのためにした選択とは…。哀しみと絶望の底にさす一筋の光をしなやかに描いた傑作「晴れ女の耳」。他、七つの怪談短篇集。


表題作のほか、「イボの神様」 「ことほぎの家」 「赤べべ」 「先生の瞳」 「サトシおらんか」 「あやっぺのために」

どこか懐かしく、そして哀しい物語たちである。出会ったとたんに魅入られてそっと手を差し出し、そのままあちらの世界へ連れていかれてしまいそうな、けれどそれが恐ろしいばかりではなく、寄り添っていたい想いに浸されるようでもあって、怪談でありながら、やさしい気持ちにもなる一冊である。

いとの森の家*東直子

  • 2014/11/15(土) 17:00:41

いとの森の家 (一般書)いとの森の家 (一般書)
(2014/10/29)
東 直子

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「あなたには残酷なできごとが起こりませんように。しあわせな人生でありますように」
おハルさんは、私の頬を両手で包んで微笑んだ――。
福岡市内の団地暮らしだった加奈子は、父の突然の思いつきで、山々に囲まれた小さな村に引っ越すことになる。
都会とのギャップにとまどいながらも、すぐに仲良しの友達もでき、自然の豊かな恵みに満ちた田舎の暮らしに魅了されていく。
中でも特別な存在はおハルさんだ。
童話に出てくるような家に住み、いつもおいしいジャムやクッキーを作ってくれるおばあさん、おハルさんは子どもたちの人気者。
だが、大人たちの中には彼女を敬遠する人もいた。それはおハルさんが毎月行っている死刑囚への慰問が原因だった。
なぜおハルさんは、死刑になるような人に会いに行くの……?
そんな素朴な疑問から、加奈子はおハルさんからさまざまな話を聞くようになり、命の重みや死について、生きていくことについて、考えるようになっていく――。
福岡・糸島の地を舞台に、深い森がはぐくんだ命の記憶を、少女のまなざしで瑞々しく描いたあたたかな物語。


なんとなく勝手に悲しいことが起こる物語のような気がしていたのだが、ちっともそんなことはなく、あたたかな気持ちで満たされる物語だった。にぎやかさや便利さ、都会のごちゃごちゃが何もない自然あふれる田舎の森での暮らしは、ほんの短い間のことだったがとても濃密で、大切なことをたくさん知ることができ、加奈子にとってかけがえのない時間になったのだった。さまざまな思いを抱える人がいること、そのどの思いもとても大切であることを改めて思わされる一冊でもある。

キオスクのキリオ*東直子

  • 2012/12/02(日) 21:38:10

キオスクのキリオキオスクのキリオ
(2012/10/10)
東 直子

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人生のコツは深刻になりすぎへんこと。ノーと言えないおっちゃん、キリオ。彼のもとには次々と、なにかを胸に抱えた人たちがやってくる。なんだかおかしい、なんとも不思議な連作短篇集。


「迷いへび」 「調合人」 「夕暮れ団子」 「トラの穴」 「シャボン」 「アジサイコーラ」 「ミルキー」 「行方不明未届人」 「空の中」 「時の煮汁」

不思議なおっちゃんである。キリオ。50歳でずっと独身であるが、まるっきりモテないというわけでもなく、なんとなく人にすり寄ってこられる体質でもあるようである。扉絵のイメージそのものである。人はキリオにわざわざ会いに来たりする。しかも探してまで、ということまである。キリオに話を聞いてもらって、スッキリ解決するわけでもないのに、である。不思議だ。キリオは気負うことなくキリオでいるだけなのに。キオスクを見かけたら、キリオがいないかどうか覗いてみたくなる一冊である。もしかすると登場人物たちもみんなそうなのかもしれない。

トマト・ケチャップ・ス*東直子

  • 2012/06/16(土) 19:34:47

トマト・ケチャップ・ストマト・ケチャップ・ス
(2012/03/22)
東 直子

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さえない女子高生・連翹ゆなは、同級生の漆原依理と山口葉から漫才トリオに誘われる。学校で1、2を争う美人で、しかも成績優秀なふたりからの唐突な勧誘に、ゆなは戸惑う。それぞれ家庭に事情を抱える三人のトリオ「トマト・ケチャップ・ス」はどうなるのか?そして、彼女たちのこれからは?―“あの頃”を一生懸命生きていた少女たちの青春グラフィティー。


女子高生の漫才トリオ、と聞くと、お気楽なイメージであるが、イリもヨウもゆなもそれぞれに抱えるものがあり、それが胸に痛い。ぬくぬくと自分のことだけ考えて我儘放題できるのが特権ともいえる学生時代に、屈託を裡に秘める彼女たちは、それでも漫才で人を笑わせようとするのだ。そんな前半は、まだしあわせなのかもしれない。後半はあまりにも思いがけない展開で、どうして?と何度も彼女たちに問いかけてしまう。前半とは違う胸の痛みである。これほど波乱万丈なのに、彼女たちはまだ高校生なのだ。その未来に穏やかなしあわせがあればいいと心から祈らずにはいられない一冊である。

千年ごはん*東直子

  • 2011/11/19(土) 17:26:39

千年ごはん (-)千年ごはん (-)
(2011/09/22)
東 直子

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山手線の中で出会ったおじさんのクリームパンに思いを馳せ、徳島ではすだちを大人買い。これまでも、これからも、連綿と続く日常のひと皿に短歌を添えて。日々のおだやかな風景を歌人が鋭い感性で切り取る食物エッセイ。


その家庭、その人のそのときどきのひと皿というものは、なんと魅力的でときめかされるものなのだろう。その人にとっては日常的、あるいは母から受け継いだ特別の日の食卓の料理の一部なのだが、読者は人さまのプライベートな部分をそっと覗き見するような心地になりもする。どのひと皿にも著者やご家族のそのときにしかない気持ちが宿っていて、料理がどれもおいしそうなのはもちろんなのだが、その周りにいる人のことを思い浮かべてあれこれ想像をめぐらしたりもしてしまう。食べるということの本能的な貪欲さをも感じられるのである。一首が添えてあることで艶かしさ――あくまでも健全な――が更に増す一冊である。

私のミトンさん*東直子

  • 2011/08/06(土) 07:02:52

私のミトンさん私のミトンさん
(2011/07/12)
東 直子

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身長50センチのミトンさんは、アカネの秘密の同居人。わがままで謎の深いミトンさんと、そこに集うどこまでも優しく独創的な人々を描いたほの甘い長編小説。


ミトンさんありきの物語である。アカネが引っ越した先――ミキヒコ叔父さんの家――の床下に、ミトンさんはいたのである。ひと目見た時からわたしの頭のなかではミトンさんはムーミンのミイである。赤い服といい、その小ささといい。果物好きでわがままで、害を為すわけではないがいいことを運んできてくれるわけでもない。恋人は浮気をして離れていくし、間違って電話してしまった友人のベイビーちゃんは眠ったままだし、ミキヒコ叔父さんとはなかなか電話がつながらない。それでもミトンさんがいるからこその巡り合わせのような毎日のなかで、アカネはだんだんミトンさんに心を移していくのだった。あちこちに散らばっている点と点と点と点を――ときにあっちへこっちへ飛んでいくようでありながら――ひと針ひと針縫い進め、気づいてみたらいびつながらも「〇」になっていた、としみじみ思う読後である。ミトンさんのようなものはだれの心のなかにでもいるのではないかと思える一冊。

耳うらの星*東直子

  • 2011/05/01(日) 16:43:33

耳うらの星耳うらの星
(2011/02)
東 直子

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明日、世界が終わるときに食べたいもののことを考える。干しいちじくをかじりつつ、とろとろと世界が終わりになるなら、悪くない。心に沁みこむエッセイ。


短歌のこと、短歌にからめた日常のことが深く静かに語られている。時に足元が頼りなく思えたり、また時にここではないどこかへ身体ごと運ばれたようだったりもするが、ふと戻ってはこつこつと現実を生きているひとりの女性の姿が鮮やかに浮かび上がってくるような一冊である。憧れと親しみを等しく感じながらの読書タイムだった。

十階―短歌日記2007*東直子

  • 2011/03/22(火) 06:51:35

十階―短歌日記2007十階―短歌日記2007
(2011/01)
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2007年1月1日から、12月31日まで、ふらんす堂のホームページで「短歌日記」として毎日掲載されたものをまとめたもの。


日記部分、その日その日のエピソードからしてすでに詩のようである。書かれすぎていないのがとてもいい。想像力をかきたてられて。わたしには真似できないのでなおさらである。歌はもちろん東直子である。歌だけが並んでいるのもいいけれど、ほんの数行の日記に添えられているだけで、瞬くうちに運ばれてゆく心地がする。その場所は作者がいた場所とは違うかもしれない――いや違うだろう――けれど、そのことがまたきゅんとうれしい。一首の歌のなかに読む人の数だけの世界が広がるのだろう。胸にぎゅっと抱きしめていたい一冊である。

ちなみにわたしの誕生日に詠まれた歌はこちら
 「この街が廃墟になっても後ろ手に空を見上げたままなのでしょう」

甘い水*東直子

  • 2010/09/25(土) 18:32:55

甘い水 (真夜中BOOKS)甘い水 (真夜中BOOKS)
(2010/03/08)
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椅子の部屋、地下通路、砂の街、十五番目の水の部屋…閉ざされた奇妙な世界を行き来しながら、途絶えることのない感情のざわめきが、静かな輪唱のように、徐々に解き放たれていく―現代を生きる私たちの寓話。見えない力に強いられ、記憶を奪われた女性の数奇な運命。“甘い水”をめぐって、命とはなにかを痛切に描いた著者渾身の最新長篇小説。


遠い遠いところのことが語られているような、それでいて近く近く我が身の内で起きていることを見せられているような、とても不思議な読み心地の一冊である。「命」というのはそれほど遠くて近く、大きくて小さく、人の思い通りにはならないものだ、ということなのかもしれない。梨木香歩さんの『沼地のある森を抜けて』とも通ずるなにかも感じられて、しんとした心地にさせられる。

らいほうさんの場所*東直子

  • 2010/03/05(金) 11:21:54

らいほうさんの場所らいほうさんの場所
(2009/11/11)
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寄り添って暮らす三姉弟の秘密とは?家族のほころびと再生を詩情あふれることばでつづる新境地。


さらりとした文体で、終始穏やかに綴られているにもかかわらず、背筋を這い登ってくる恐ろしさにぞくりとさせられる一冊である。
三姉弟が暮らすマンションの専用庭に「らいほうさんの場所」がまずあり、物語はすべてそこからはじまっているのだが、その場所の秘密は最後まですっきりとは明かされない。なにか不穏な空気を漂わせているばかりである。しかし、その場所があるがために、彼女たちの進む道が決められてしまったような、動かしがたい頑なさが感じられ、読者はその場所から目を離すことができない。
「らいほうさんの場所」に縛られる姉・志津。志津の言葉に縛られる俊。姉と弟と家に縛られる真奈美。みなが縛られていると思っているのだが、縛っているのはそれぞれ自分のようにも見える。じわりじわりと家族が壊れていく恐ろしさに、胸が縮む思いがする。健やかな笑いが、彼らの元に訪れる日は来るのだろうか。

薬屋のタバサ*東直子

  • 2009/08/14(金) 16:42:36

薬屋のタバサ薬屋のタバサ
(2009/05)
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自分を消そうとしていた女が、一軒の古めかしい薬屋にたどり着いた。つかみどころのない、独身の薬屋店主、平山タバサと町の住人との不思議な日々。身を任せる安らぎと不安。リリカルな長篇。ややこしくなった、心と身体がほぐれる魔術的な恋愛小説。


内容紹介には恋愛小説とあるが、人間が生きていくことの根源を描いたファンタジーのような印象がより強い。
どこから来て、どこへ行くのか、自分が生きていることの意味、そして居場所……。薬局タバサのある町――すなわちそこに暮らす人々や彼らに必要とされているタバサ――は、どう生きるかをさりげなく教えてくれる場所なのではないだろうか。
ラストには、時間の流れが一瞬にして裏返ったような驚きがあったが、それを含めて、この町全体の包容力のようなものを感じるのである。

ゆずゆずり*東直子

  • 2009/05/19(火) 14:04:01

ゆずゆずりゆずゆずり
(2009/03)
東 直子

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「仮の家」に同居人と暮らす文筆業のシワス。人工都市での日常の狭間で「思考の冒険」を楽しむうち、奇妙なことが次々と…。ささやかな妄想が人生を面白くする。


 この本は、エッセイなのか小説なのかと問われたら、えっと、小説、なんですが・・・・・と小さく答える。エッセイですよね、エッセイに決まっています、と強く言われたら、そうかもしれません、と答えてしまうかもしれない。
                         あとがき より


上記のように、限りなく著者の日常に近い物語であろうことが、より物語に親しみを抱かせる。
イチ、サツキ、ナナ、シワス、という家族の呼称や、頭文字表記だったり、○(漢字一文字)のつく町、というような町の呼び方が、日常を外側から見つめる役割を果たしていて――それにしては場所がほぼ特定できてしまったりもするのだが――小説らしくもある。
なんら特別ではない毎日を、丁寧に暮らし、生きていくことに喜びを見出せる心持ちにさせてくれる一冊だった。

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とりつくしま*東直子

  • 2008/08/29(金) 19:40:49

とりつくしまとりつくしま
(2007/05/07)
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あなたは何に「とりつき」ますか?
死んでしまったあなたに、とりつくしま係が問いかけます。
そして妻は夫のマグカップに、弟子は先生の扇子に、なりました。
切なくてほろ苦くて、じんわりする連作短編集


「ロージン」 「トリケラトプス」 「青いの」 「白檀」 「名前」 「ささやき」 「日記」 「マッサージ」 「くちびる」 「レンズ」 番外編「びわの樹の下の娘」

この世に思いを残して死んだ者に、もう一度一方通行の現世とのかかわりを持たせてくれる「とりつくしま」係をキーとする連作。
命のないものを「とりつくしま」として契約を交わし、現世に帰ることができるのだが、こちらから働きかけることはもちろんできないし、そこに自分がとりついていることは誰にも知られることはない。ただそこにとりついて起こることを見ることができるだけである。というのがこの物語の要である。
もどかしいことこの上ない。愛する人の役に立ってやることもできないし、危機を知らせることもできない。ただ見守るだけ。
それでも、心を残して死んでいく者たちにとってはかけがえのないひと時だったのだろうと思われる。「とりつく」というとおどろおどろしい感じがするが、「しま」がついただけでなにやらちょっぴり情けないような人間臭いような感じである。読後、つい辺りを見回してしまいそうになる。

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