狩人の悪夢*有栖川有栖

  • 2017/06/30(金) 13:35:51

狩人の悪夢
狩人の悪夢
posted with amazlet at 17.06.30
有栖川 有栖
KADOKAWA (2017-01-28)
売り上げランキング: 20,064

「あなたに、悪夢を」 ――火村英生シリーズ、最新長編登場!

「俺が撃つのは、人間だけだ」
彼は、犯罪を「狩る」男。
臨床犯罪学者・火村英生と、相棒のミステリ作家、アリスが、
悪夢のような事件の謎を解き明かす!

人気ホラー小説家・白布施に誘われ、ミステリ作家の有栖川有栖は、
京都・亀岡にある彼の家、「夢守荘」を訪問することに。
そこには、「眠ると必ず悪夢を見る部屋」があるという。
しかしアリスがその部屋に泊まった翌日、
白布施のアシスタントが住んでいた「獏ハウス」と呼ばれる家で、
右手首のない女性の死体が発見されて……。

火村英生シリーズ、待望の長編登場!


待望の火村&アリスシリーズである。個人的には、ドラマを観た後でも、役者のイメージにとらわれずに済む数少ない作品でもある(わたしの中の火村先生は、もっと複雑で深い)。そして相変わらず時に三枚目を演じるアリスとはいいコンビであり、謎解きに至る火村の思考に果たすアリスの役割を、火村自身がいちばんよくわかり、頼りにしていることが改めて判って嬉しくもある。火村対真犯人の構図のほかに、アリスが真犯人に投げかける言葉に内包される愛ゆえの怒りや哀しみが、やり切れなさを誘う。火村&アリスが誕生して25年だそうだが、まだまだふたりを見続けられそうなのがなにより嬉しいと思うシリーズである。

ミステリ国の人々*有栖川有栖

  • 2017/06/25(日) 16:14:19

ミステリ国の人々
ミステリ国の人々
posted with amazlet at 17.06.25
有栖川 有栖
日本経済新聞出版社
売り上げランキング: 9,193

これぞミステリ!と膝を打ついかにも“らしい”52人。あの名探偵から、つい見逃してしまう存在まで、名編の多彩な登場人物にスポットライトをあて、世相を織り交ぜながら、自在に綴ったエッセイ集。作家ならではの読みが冴える、待望のミステリガイド!


ミステリ国に住む人々に焦点を当てたエッセイ集である。名探偵や、その相棒、たまには脇役、そして彼らを生み出した作者や、その作品が生まれた背景にまで及ぶこともある。紹介されている作品を読んだことがあってもなくても、とても魅力的であり、未読の作品はついつい読みたくなって、メモを取ってしまったりもする。愉しくわくわくするひとときをもたらしてくれる一冊である。

星に願いを、そして手を。*青羽悠

  • 2017/05/10(水) 10:10:21

星に願いを、そして手を。 (集英社文芸単行本)
集英社 (2017-02-24)
売り上げランキング: 47,171

「小説すばる新人賞」史上最年少受賞

大人になった僕たちの、“ 夢"との向き合い方。
16 歳の現役高校生が描く、ストレートな青春群像劇。

中学三年生の夏休み。宿題が終わっていない祐人は、幼馴染の薫、理奈、春樹とともに、町の科学館のプラネタリウムに併設された図書室で、毎年恒例の勉強会をおこなっていた。そんな彼らを館長はにこやかに迎え入れ、星の話、宇宙の話を楽しそうに語ってくれた。小学校からずっと一緒の彼らを繋いでいたのは、宇宙への強い好奇心だった。宇宙の話をするときはいつでも夢にあふれ、四人でいれば最強だと信じて疑わなかった。時が経ち、大人になるまでは――。
祐人は昔思い描いていた夢を諦め、東京の大学を卒業後、故郷に帰り、公務員となった。そんな祐人を許せない理奈は、夢にしがみつくように大学院に進み、迷いながらも宇宙の研究を続けている。薫は科学館に勤め、春樹は実家の電気店を継いだ。それぞれ別の道を歩いていた彼らが、館長の死をきっかけに再び集まることになる――。
第29 回小説すばる新人賞 受賞作


宇宙への興味と憧れで最強に結びつけられていた高校時代の四人、裕人・理奈・春樹・薫。大人になって、夢は夢としてそれぞれの道を歩んでいる現在、放課後の長い時間を過ごしていた科学館の館長の訃報を受け、思いは現在から過去へ、消化しきれないまま置き去りにしてきてしまったなにかへと戻っていく。その後、追い打ちをかけるように科学館の閉館が決まり、館長夫妻の事情も絡めて、答えを探す心の旅に身を置くことになるのである。そこここに若さゆえの角の取れない感じがある印象もあるが、基本的に前向きで、あしたを信じられるストーリー展開には好感が持てる。高校時代を懐かしく思い出させられる一冊でもある。

人間じゃない*綾辻行人

  • 2017/04/15(土) 18:39:46

人間じゃない 綾辻行人未収録作品集
綾辻 行人
講談社
売り上げランキング: 23,956

衝撃のデビュー作『十角館の殺人』から30年――。メモリアルイヤーにお贈りする綾辻行人の最新刊!
持ち主が悲惨な死を遂げ、今では廃屋同然の別荘<星月荘>。ここを訪れた四人の若者を襲った凄まじい殺人事件の真相は?――表題作「人間じゃない――B〇四号室の患者――」ほか、『人形館の殺人』の後日譚「赤いマント」、『どんどん橋、落ちた』の番外編「洗礼」など、自作とさまざまにリンクする5編を完全収録。単行本未収録の短編・中編がこの一冊に!


「赤いマント」 「崩壊の前日」 「洗礼」 「蒼白い女」 「人間じゃない――B〇四号室の患者――」

後日譚、番外編など、関連の仕方はさまざまだが、既刊作品に関連する物語が集められている。物語のテイストも、純然たる推理小説からホラーまでさまざまで、仕掛けもあったりと飽きさせない。ホラーの部分ではページを閉じたくなることもあったが、愉しい読書タイムをくれる一冊だった。

満潮*朝倉かすみ

  • 2017/02/14(火) 13:20:29

満潮
満潮
posted with amazlet at 17.02.14
朝倉 かすみ
光文社
売り上げランキング: 385,060

人に迎合し、喜ばせることが生きがいの眉子。自意識過剰な大学生茶谷は眉子に一目惚れをし、彼女の夫に取り入り、眉子に近付く。眉子。茶谷。眉子の夫。三人の関係は? ロングセラー『田村はまだか』著者の放つ恋愛サスペンス!


少しずつ歪んだ人たち――それはある意味普通の人たちということでもあると思うのだが――が、自分自身の少しずつ歪んだ価値観で抱いた思いが、ぽたりぽたりと底に溜まっていき、ある時はたぷんと外に飛び出したり零れたりしながら、ひたひたと潮位を増し、ついには表面張力をも乗り越えて充ち溢れだしてしまうまでの経緯が描かれている物語という印象である。怖い。満ちている途中はまったく外からは判らないので、その人の内側で何が起こり、なにが進みつつあるのか他人には判断できないところが、ものすごく怖い。だがそれはいたって普通のことで、誰もが経験したことがあることでもあるだろう。だからなおさら怖い。人の見えない内側で一体何が起こっているのか、そしてその過程で、それはどんなふうに外に現れているのか。同じ出来事に対する反応が、それぞれ違うのは当然のことで、読者には時にそれが見えるが、本人たち同士にはそれはまったく見えず、各々が自分の尺度で受け止めているので、決して噛み合うことがないのだ。そして痛ましいラストへと続いていく。怖くて、それでも目が離せない一冊である。

雨利終活写真館*芦沢央

  • 2017/01/22(日) 19:23:36

雨利終活写真館
雨利終活写真館
posted with amazlet at 17.01.22
芦沢 央
小学館
売り上げランキング: 67,883

巣鴨の路地裏にひっそり佇む、遺影専門の写真館。祖母の奇妙な遺言が波紋を呼ぶ(「一つ目の遺言状」)。母の死を巡る、息子と父親の葛藤(「十二年目の家族写真」)。雨利写真館に残る1枚の妊婦写真の謎(「三つ目の遺品」)。末期癌を患う男性の訳ありの撮影(「二枚目の遺影」)。見事な謎解きで紡ぎ出すミステリー珠玉の4編。


遺影専門の写真館が舞台である。高齢化社会故でもあるのだろう、昨今、「終活」という言葉を目にする機会が、以前と比べて随分と増えてきている。そんな折にタイムリーな設定である。雨利終活写真館のスタッフは、終活コーディネーターの永坂夢子(金儲け主義)、アシスタントの道頓堀(似非大阪弁のお調子者)、カメラマンの雨利(不愛想で態度が悪い)、そして一話目の主人公で、後に雨利写真館のスタッフになる元有名美容室のヘアメイク・黒子ハナ、と癖がありすぎる面々である。依頼される案件も、ひと口に遺影と言っても事情はさまざまで、事前のカウンセリングで聞き出した客の要望に添うように考えて撮影される。そして、それぞれの事情にただならむものを感じ取り、ついつい首を突っ込んで真相を解き明かそうとしてしまうのがハナの悪い癖である。道頓堀がナイスアシストし、雨利がぼそりとつぶやくひと言が、意外なヒントになったりして、すっかり謎解き集団になっている。今作は、登場人物の紹介っぽくもあるし、シリーズ化されたら嬉しいと思う一冊である。

何様*朝井リョウ

  • 2016/11/14(月) 07:16:59

何様
何様
posted with amazlet at 16.11.13
朝井 リョウ
新潮社
売り上げランキング: 1,343

生きていくこと、それは、
何者かになったつもりの自分に裏切られ続けることだ。
光を求めて進み、熱を感じて立ち止まる。
今秋映画公開予定『何者』アナザーストーリー集。

光太郎が出版社に入りたかったのはなぜなのか。
理香と隆良はどんなふうに出会って暮らし始めたのか。
瑞月の両親には何があったのか。拓人を落とした面接官の今は。
立場の違うそれぞれの人物が織り成す、`就活'の枠を超えた人生の現実。
直木賞受賞作『何者』から3年。いま、朝井リョウのまなざしの先に見えているものは――。


『何者』のアナザーストーリーなので、もちろん読んでいれば、あちこちになるほどと思えることが出てきて、何者の登場人物たちのキャラクタがより補完され、深く知ることができる。だが、本作単体でも充分に読み応えがある。人が抱える己の不充分さや未熟さ、それでも何事かを成しながら生きていかなければならないという葛藤の中で、より自らの内面を見つめ、他者の救いを求めるのかもしれない。著者の人間観察の充実ぶりに驚かされる一冊でもある。

裁く眼*我孫子武丸

  • 2016/11/01(火) 20:52:01

裁く眼
裁く眼
posted with amazlet at 16.11.01
我孫子 武丸
文藝春秋
売り上げランキング: 69,974

漫画家になり損ね、浅草の路上で似顔絵を描いて生計を立てている袴田鉄雄。あるとき、彼の腕前を見込んだテレビ局の人間から、「法廷画」を描いてほしいという依頼が舞い込む。注文通り描いた絵が、テレビで放送された直後―鉄雄は頭を殴られて昏倒する。彼は一体、何を描いてしまったのか?


浅草でときどき似顔絵を描いている袴田鉄雄が主人公。ある日カップルの女性の似顔絵を書いたところ、男性からひどく怒られて、早々に引き上げるという出来事があった。その後、法廷画家たちが集団食中毒になり、ピンチヒッターとして法廷画を描くことになった鉄雄だったが、帰宅したところをコンクリートブロックで殴られ、ちょうど帰ってきた姪の蘭花に助けられることになった。それでも、この裁判が終わるまでは、と法廷に通う鉄雄だったが、翌日、同じく代役の法廷画家の女性が殺される。法廷画家を狙った連続殺人なのか、それともまったく別の事件なのか……。鉄雄の書いた法廷画が、裁判にどうかかわってくるのか、知りたくてページを繰る手が止まらなくなる。そしてその謎が明らかにされたとき、そこに目をつけたか、という驚きもある。鉄雄には、知らず知らずのうちに人間の本質を見通してしまうような力があるのだろうか。だとすると、まさに法廷画家はうってつけの職業かもしれない。何かほかにも役立てられそうな能力である。鉄雄と蘭花のコンビをもっと見たいと思わされる一冊でもある。

アンマーとぼくら*有川浩

  • 2016/10/16(日) 16:55:29

アンマーとぼくら
アンマーとぼくら
posted with amazlet at 16.10.16
有川 浩
講談社
売り上げランキング: 2,877

休暇で沖縄に帰ってきたリョウは、親孝行のため「おかあさん」と3日間島内を観光する。一人目の「お母さん」はリョウが子どもの頃に亡くなり、再婚した父も逝ってしまった。観光を続けるうち、リョウは何かがおかしいことに気がつく。かりゆし58の名曲「アンマ―」に着想を得た、書き下ろし感動長編。


北海道で、大恋愛の末に結ばれた父と母の元に生まれたリョウの身に起きた物語である。母は病を得て若くして亡くなり、写真家で子どものような父は、その事実を受け止められないまま撮影旅行に出かけた先の沖縄で晴子さんという観光ガイドの女性と出会って恋に落ち、量とともに沖縄に移住したのち結婚する。こう聞くと、ロクでもない父親のようではあるが、子どものような父の胸の裡にも、抱えきれない屈託があるのだった。そんな父も大嵐の日に波に呑まれて亡くなり、リョウは晴子さんの元を離れて独立する。このたび、晴子さんの希望で三日間だけ彼女につきあって沖縄をめぐることになるのだが、初めからどこかに少しずつずれがあり、読みながら?マークが頭にちらつくのである。それがすべてわかるのは最後の最後で、真実はどこにあるのかははっきり判らないのだが、ご先祖様を敬い、その魂と近しいところで日々を過ごす沖縄だからこそのことなのかもしれない。じんわりと胸の中にあたたかいものが流れる一冊である。

お隣さんは、名探偵 アーバン歌川の奇妙な日常*蒼井上鷹

  • 2016/09/10(土) 18:31:23

お隣さんは、名探偵  アーバン歌川の奇妙な日常 (角川文庫)
蒼井 上鷹
KADOKAWA/角川書店 (2016-04-23)
売り上げランキング: 67,993

緑豊かな郊外に建つマンション“アーバンハイツ歌川”。住人の静かな日常は、「大家さんのペットを捜しています」とチャイムを鳴らす訪問者により、一変する。事故のため、お笑い芸人の道を諦めた青年、結婚詐欺容疑で妻が失踪中の男、美貌の教育カウンセラー…いつも笑顔のあやさんは、さりげない世間話から、住人たちの意外な“秘密”を見抜いてしまう。ありふれた日常がガラリと変わって見える、痛快な連作ユーモア・ミステリ。


第一話 読み聞かせ  第二話 『KOKORO』の奥に  第三話 最後の晩餐  第四話 舞台を回す  第五話 ドアは知っていた

アーバンハイツ歌川、大家を始め、住人すべてが何らかの事情を抱えて、怪しいことこの上ない。それぞれの思惑が、別の人の事情と絡み合って、余計にややこしくなることもある。マンションの一部を改築してシェアハウスにしようと目論む大家に、住人を立ち退かせる説得を頼まれた小柄なおばあちゃんの平本さん(やはりここの住人である)が、大家の父親が大事にしている蜥蜴を探すという名目で、各部屋を訪ね、それぞれの事情を探るうちに、なにやら別の問題を解決してしまう。しかもその結果、自発的に立ち退くことになるのである。そこに至る過程が、ときには無理やりな感じはするのだが、それさえ自然でお見事である。きょうの平本さんはちょっとキャラが違うけれどどうしちゃったの?と思うと、それもしっかり作戦の内だったりするのである。憎めないおばあちゃんである。しかも立ち退いた住人たちの行方を知れば、あまりにも完璧で、思わず笑ってしまう。平本さんの井戸端会議的探偵術をもっと見たくなる一冊である。

許されようとは思いません*芦沢央

  • 2016/08/13(土) 09:11:44

許されようとは思いません
芦沢 央
新潮社
売り上げランキング: 49,588

あなたは絶対にこの「結末」を予測できない! 新時代到来を告げる、驚愕の暗黒ミステリ。かつて祖母が暮らしていた村を訪ねた「私」。祖母は、同居していた曾祖父を惨殺して村から追放されたのだ。彼女は何故、余命わずかだったはずの曾祖父を、あえて手にかけたのか……日本推理作家協会賞短編部門ノミネートの表題作ほか、悲劇をひき起こさざるを得なかった女たちを端整な筆致と鮮やかなレトリックで描き出す全五篇。


表題作のほか、「目撃者はいなかった」 「ありがとう、ばあば」 「姉のように」 「絵の中の男」

どの物語も昏く凄惨で救いがないように見える。だが、ラストの思ってもみない仕掛けによって、それまで見えていたものとは全く違う世界が立ち現われ、一点の救いの光が差してくるものもある。どれも読後感がいいとは言えないが、すっと納得できる一冊である。

書店ガール 5*碧野圭

  • 2016/07/21(木) 07:19:58

書店ガール 5 (PHP文芸文庫)
碧野 圭
PHP研究所 (2016-05-06)
売り上げランキング: 30,758

取手駅構内の小さな書店の店長に抜擢された彩加。しかし意気込んで並べた本の売れ行きは悪く、店員たちの心もつかめない。一方、ライトノベル編集者の小幡伸光は、新人賞作家の受賞辞退、編集者による原稿改ざん騒動などトラブル続きの中、期待の新人作家との打合せのために取手を訪れる。彩加と伸光が出会った時、思わぬ事実が発覚し……。書店を舞台としたお仕事エンタテインメント第五弾。文庫書き下ろし。


今回は、東京を離れ、取手の駅中の小さな書店が舞台である。店長は、かつて、吉祥寺のペガサス書房でアルバイトしていた宮崎彩加。彼女は、自分の理想の書店と、現実の客層や売れ筋とのギャップに悩んでいた。だが、アルバイトスタッフに余計な仕事を振ることができず、自分の胸のなかでもやもやと思い悩むだけで、何の解決にもならないのだった。そんなとき訪れた書店で、アルバイトも含めてスタッフみんなを巻き込んで書棚を展開しているのを見て、これではいけないと、客層に合わせたラノベやコミックに力を入れようと、詳しそうなアルバイトに声をかけると、次第に彼らと心が通じ合うようになり、よい効果が表れてくるのである。ペガサス書房の亜紀の夫・小幡が編集長を務める疾風書房の新人賞にまつわるあれこれも絡んで、今回も為せば成る的カタルシスを得られ、胸温まる本への愛や家族愛も堪能できる一冊になっている。

菜の花食堂のささやかな事件簿*碧野圭

  • 2016/07/12(火) 20:57:30

菜の花食堂のささやかな事件簿 (だいわ文庫)
碧野 圭
大和書房
売り上げランキング: 57,918

「自分が食べるためにこそ、おいしいものを作らなきゃ」菜の花食堂の料理教室は今日も大盛況。オーナーの靖子先生が優希たちに教えてくれるのは、美味しい料理のレシピだけじゃなく、ささやかな謎の答えと傷ついた体と心の癒し方…?イケメンの彼が料理上手の恋人に突然別れを告げたのはなぜ?美味しいはずのケーキが捨てられた理由は?小さな料理教室を舞台に『書店ガール』の著者がやさしく描き出す、あたたかくて美味しい極上のミステリー!書き下ろし。

「はちみつはささやく」 「茄子は覚えている」 「ケーキに罪はない」 「小豆は知っている」 「ゴボウは主張する」 「チョコレートの願い」


こだわりの食材で丁寧に作られた料理を出す菜の花食堂。オーナーの下河辺靖子先生が、月に二回開いている料理教室にはさまざまな人が集まってくる。まずは、助手として働くことになった私こと館林優希も実はある事情で靖子先生に助けられたのだった。婚約者とうまくいかなかったり、友人関係が歪だったり、歳の差婚の決断ができなかったり、家族関係に悩みがあったり、料理教室に通う生徒たちもさまざまな事情を抱えているのだが、言葉の端々やちょっとした仕草から推理した靖子先生のアドバイスで、絡み合った事情が少しずつ解きほぐされていくのだった。そして実は、靖子先生自身も家族の問題を抱えていて、優希は少しでも役に立ちたいと思うのである。含みを持たせたラストなので、続編が期待できるかもしれない。靖子先生にもぜひ幸せになってもらいたい一冊である。

高座の上の密室*愛川晶

  • 2016/07/06(水) 19:34:57

高座の上の密室 (文春文庫)
愛川 晶
文藝春秋 (2015-06-10)
売り上げランキング: 145,243

出版社から寄席・神楽坂倶楽部に出向中の希美子は新米の席亭(プロデューサー)代理として奮闘中。寄席に欠かせない色物芸の世界を覗き見ると…。手妻「葛篭抜け」で人気を博す美貌の母娘。超難度の芸に精進する太神楽師。彼らの芸が謎と事件を次々と引き寄せる。超絶技巧の本格ミステリ、鍵は「人情」だ!


神楽坂倶楽部シリーズの二作目。希美子も寄席のことが少しずつ分かってきて、なんとか席代の役目を果たしている。いやいや出向してきたはずが、次第に寄席のあれこれに興味を持ち始め、思案を巡らすようにもなってきた。自らの生い立ちをはじめとして、聞かされていないこともまだまだあるが、少しずつ明らかになってきていることもあって、ますます愉しみである。今回スポットが当たっているのは、落語家ではなく、色物と呼ばれる手妻と太神楽であり、落語とはひと味違った興味が湧く。謎解きも、人間関係を軸にしたものであり、やはりつまるところ人間なのだと思わされる。まだまだ解けていない謎があるので、次が愉しみなシリーズである。

少女奇譚 あたしたちは無敵*朝倉かすみ

  • 2016/06/26(日) 06:52:51

少女奇譚 あたしたちは無敵
朝倉 かすみ
KADOKAWA/角川書店 (2016-06-02)
売り上げランキング: 248,330

このことは、あたしたちだけの秘密よ
朝倉かすみが挑む 少女×ふしぎの物語

小学校の帰り道、きらきら光る乳歯のようなものを拾った東城リリア。同級生の清香と沙羅も、似たような欠片を拾ったという。ふしぎな光を放つこれはきっと、あたしたちに特殊な能力を授けてくれるものなのだ。敵と闘って世界を救うヒロイン。あたしたちは、選ばれた――。でも、魔法少女だって、死ぬのはいやだ。(「あたしたちは無敵」)
少女たちの日常にふと覘く「ふしぎ」な落とし穴。表題作のほか、雑誌『Mei(冥)』、WEBダ・ヴィンチに掲載されたものに書き下ろしを加えた全5編を収録。
◆収録作品「留守番」「カワラケ」「あたしたちは無敵」「おもいで」「へっちゃらイーナちゃん」


どれも朝倉さんらしさが存分に出ている物語である。表題作の女子たちの心の動きは、おそらく女の子だったことのある人ならだれでもわかるのではないだろうか。どこまでが現実で、どこからが妄想なのか、判然としないところが一興なのかもしれない。あの無敵感、結構解る。そしてほかの作品も、思春期の女子の微妙で複雑でアンバランスな心と躰、そして周りの大人――ことに身近な男性である父親――との関わり方の変化の描き方が、極端な部分も多々あるが、絶妙だと思う。父と娘、互いの取り扱いに困って過剰反応を起こす時期がたしかにあるのではないだろうか。最後の物語は、いささか違うかもしれないが……。自己愛にあふれつつ自虐的な朝倉流の少女の物語を堪能できる一冊である。