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カラット探偵事務所の事件簿3*乾くるみ

  • 2021/04/07(水) 16:25:09


「謎解き専門」を謳うカラット探偵事務所。父親の墓に人知れず花を供える怪しい墓参者の正体を追う「秘密は墓場まで」事件、「謎を〝作ってほしい″」という不思議な依頼に挑む「遊園地に謎解きを」事件など、日常に潜む些細な謎や奇妙な謎を、所長の古谷と助手の井上が鋭い推理で解き明かす! ミステリの名手による大人気シリーズ、8年振りの最新作にして待望の第三弾。


最後までこの設定は貫き通すのか、とは思ったが、それがあればこその面白さもまたあるので、良しとする。でも、完結してしまいそうな感じの終わり方なのがいささか残念である。カルテットで探偵事務所をやってくれてもいいのに。謎解きは、例によって、ふとしたきっかけによる閃きがヒントになり、何度見ても見事だが、謎解き専門の探偵事務所にやってくる依頼者のバラエティにも驚かされる。いたるところに謎はあるのだ。そして、ホームズとワトソンばりに、事件の記録を小説にまとめている助手の井上だが、かなり年月を要しており、それがまた妙な具合に本作を面白くしているのだから困ってしまう。もっと二人を見ていたいシリーズである。

半沢直樹 アルルカンと道化師*池井戸潤

  • 2021/03/05(金) 07:25:45


東京中央銀行大阪西支店の融資課長・半沢直樹のもとに、とある案件が持ち込まれる。大手IT企業ジャッカルが、業績低迷中の美術系出版舎・仙波工藝社を買収したいというのだ。大阪営業本部による強引な買収工作に抵抗する半沢だったが、やがて背後にひそむ秘密の存在に気づく。有名な絵に隠された「謎」を解いたとき、半沢がたどりついた驚愕の真実とは―。


理不尽を許さない半沢直樹らしいストーリーである。私利私欲のために顧客をないがしろにする東京中央銀行内部のお偉い方々にも、臆すことなく自らの正義を貫く姿勢は一貫していてすがすがしいほどである。だが、そこにはしっかりとした情報収集と、想像力、調査力が大いに役立っていることは言うまでもない。今回も、同期の渡真利の情報収集能力があってこその対策であり、周りの人たちにどれほど助けられているかに改めて思いいたる。また半沢シンパが増えたのは間違いない。読み応えのある一冊だった。

カラット探偵事務所の事件簿2*乾くるみ

  • 2021/01/03(日) 16:14:42


“あなたの頭を悩ます謎を、カラッと解決いたします”―閑古鳥の啼く「謎解き専門」の探偵事務所に持ち込まれた七つの事件を、探偵・古谷が鮮やかに解決!密室状態の事務所から盗まれたあるものを見つけ出す「昇降機の密室」、駐車場の追突事件の真相を暴く「車は急に…」、急死した父親が残した秘伝のたれのレシピを探す「一子相伝の味」など、ミステリの名手による連作短篇集。待望のシリーズ第二弾


地元の名士を親に持つ、高校の同級生・古谷が始めたカラット探偵事務所の唯一の社員の「俺」(井上)が、名探偵の助手の役目のひとつとして、扱った数少ない事件の詳細を、小説の形にして(古谷しか見ないが)書き留めたもの、という趣向である。相変わらずほとんど暇で、時間をつぶすのが苦痛なほどなのだが、たまたま舞い込んだ依頼は、ちょっと変わったものが多い。謎解き専門の探偵事務所、と謳っているので当然と言えば当然なのだが。古谷の着眼点や、解き明かしていく経緯は、充分愉しめるし、一話完結なので、どこから読んでも差しさわりはないのだが、ラストの一行まで愉しむには、やはり一冊目から読まなければならないだろう。次は、既成事実として物語が始まるのか、それとも、そこに辿り着くまでの経緯が明かされるのか、愉しみなシリーズである。

カラット探偵事務所の事件簿1*乾くるみ

  • 2020/12/09(水) 16:31:41


あなたの頭を悩ます謎を、カラッと解決いたします! 高校の同級生・古谷(ふるや)が探偵事務所を開くことになった。体調を崩していた俺は、その誘いを受け新聞記者から転職して、古谷の探偵事務所に勤めることにした。探偵事務所といっても、浮気調査や信用調査などは苦手としているようだ。出不精の所長・古谷を除けば、実質的な調査員は俺だけになってしまうので、張り込みや尾行などといった業務もろくにこなせないのだ。ではいったい何ができるのかというと――実は≪謎解き≫なのだ。 作家とファンのメールのやりとりの中から、隠された真実を明らかにしていく「卵消失事件」、屋敷に打ち込まれた矢の謎を解く「三本の矢」など、技巧の限りを尽くして描いた6つの事件を収録。


高校の同級生だった古谷が半分道楽のように始めた探偵事務所に雇われた俺・井上の目線で語られる物語である。古谷がホームズで、井上がワトソンと言ったところか。実家に余裕があるおかげか、カリカリお金儲けをしようとするわけでもなく、気に入った依頼だけを受けて謎解きをする、といったゆるい探偵事務所ではあったが、古谷の謎解き力は見事であると言ってもいい。開所間もないということで、依頼の方向性は、まだまだ定まらず、簡単なものから本格的なものまでさまざまだが、物語が進むにつれて、依頼も増えているようなので、これからも愉しみである。ラスト間近で思わぬ種明かしがあったものの、これからの物語の展開にどう影響してくるのかはまだよくわからない。次作も愉しみなシリーズである。

女帝小池百合子*石井妙子

  • 2020/09/12(土) 16:52:43


コロナに脅かされる首都・東京の命運を担う政治家・小池百合子。
女性初の都知事であり、次の総理候補との呼び声も高い。

しかし、われわれは、彼女のことをどれだけ知っているのだろうか。

「芦屋令嬢」育ち、謎多きカイロ時代、キャスターから政治の道へーー
常に「風」を巻き起こしながら、権力の頂点を目指す彼女。
今まで明かされることのなかったその数奇な半生を、
三年半の歳月を費やした綿密な取材のもと描き切る。


良きにつけ悪しきにつけ、小池百合子という人はが、人びとの興味を引く人物であることは間違いないのだろう。本書は、彼女の真実を暴くことを主眼としているので、間違っても褒め称えたりすることはない、とは理解しつつ、それでも、本書を読み、ひとりの人間の裏側を覗くという行為には、ある種の背徳感が伴う。自ら手を伸ばしてページを繰りながら、何となく後ろめたい心地にもなるのである。だが、内容には思い当たることも多く、丁寧に取材はされているのだろうとは思わされる。カイロ大学の対応や、そうそうたる政治家のみなさんの対応等、腑に落ちず疑問が残ることも多々あるが、だれしも、全面的に信じることはできないのだということは、肝に銘じなければならないということかもしれない。これからの小池百合子を見ていたいと思わせる一冊ではあった。

雲を紡ぐ*伊吹有喜

  • 2020/09/07(月) 19:00:58


壊れかけた家族は、もう一度、ひとつになれるのか?羊毛を手仕事で染め、紡ぎ、織りあげられた「時を越える布」ホームスパンをめぐる親子三代の心の糸の物語。


互いの心のなかを慮ることができず、言葉に現れたものだけでしか判断することができなくなっていた父と母と娘。互いに様子を窺うような家族に、もはや安らぎはない。しかも――だからこそなのかもしれないが――、職場や学校も、安らげる場所ではなくなり、次第に逃げ場がなくなっていく。そんな折、高校生の娘・美緒は、ふとしたきっかけで、父方の祖父がホームスパンの工房を持っている岩手に家出同然にやってくるのである。そこで、糸を紡ぐことのすばらしさに出会って、自分の心の赴くままに何かをやることの楽しさを知り、ほんの少しずつだが、凝っていたものが柔らかくなって、一歩ずつ前へ進める糸口を見つけられそうな気持になるのだった。何ものでもなかった一本の糸が、織られてなにかになっていくように、人と人も、撚り合わされることで強くなれるのかもしれないと、心強く思える一冊だった。

窓辺のこと*石田千

  • 2020/08/11(火) 18:42:47


50歳になった作家の2018年、暮らしに根づいている言葉を丁寧にすくい、文章に放つ。 いいことも悲しいことも書く。人気作家の新境地をひらく傑作エッセイ集! 2018年の1年間、「共同通信」に連載した作品を中心に、その1年に雑誌などに発表したエッセイをまとめる。


特に華々しいこともなく、堅実に丁寧に生きる日々の暮らしに、著者の視線が向けられるだけで、これほどにも愛おしく豊かに感じられるものだということに感動さえ覚える。キラキラと飾った言葉を遣うわけでもなく、淡々と目の前のこと、胸の中のことを書き綴っているような言葉の中に、その「人」がすべて現れていて、うなずかされる。悲しみの深さも、しあわせの噛みしめ方も、抑え目に書かれているからこそ真に伝わるというものだろう。ますます好きになる一冊である。

銀行狐*池井戸潤

  • 2020/07/06(月) 18:24:43


銀行には金と秘密と謎がある。いや時には、頭取宛てに「狐」から脅迫状が届いたり、金庫室から老婆の頭部が見つかることも―怨みを買うことは日常茶飯事、となれば犯人像もまた多岐にわたる。動機は金の怨みか、憎しみか、悲しみか。日常に亀裂が走り、平凡な人間に魔が差すときを描いた、ミステリー短編集全5編。


表題作のほか、「金庫室の死体」 「現金その場かぎり」 「口座相違」 「ローンカウンター」

一般には知られざる銀行内部の事情や実情、からくりなどがうかがい知れて、興味深くもあり、恐ろしくもある。個人情報がここまで細かくさらされていると思うと、銀行員のモラルは徹底的に管理してもらわなければ怖くて銀行を利用できなくなりそうでもある。物語は、どれも思ってもいない展開を見せ、狸と狐の化かし合い的なものから、ストーカー的なものまで幅広く、そのどれもが恐ろしが、惹きこまれる。銀行内部を知っている著者ならではの一冊である。

逆ソクラテス*伊坂幸太郎

  • 2020/06/24(水) 12:52:56


逆境にもめげず簡単ではない現実に立ち向かい非日常的な出来事に巻き込まれながらもアンハッピーな展開を乗り越え僕たちは逆転する!無上の短編5編(書き下ろし3編)を収録。


子どもと、かつて子どもだった大人が主人公の物語。小学校時代の恩師・磯憲がかつて語った言葉が、おそらく本人の意図以上に子どもたちの心に響き、その影響を受けたその頃の彼らと、その影響を受け続けて生きてきた大人になった彼らの視点が、それぞれ愛おしい。ともすればお説教じみてしまう教師の言葉が、そうはならずに、絶妙な教訓として児童たちの胸に届いたのは、真心から発せられた言葉だからなのだろう。現在の磯憲の境遇と、あの頃子どもだった彼らの行く末。できることとあきらめてもいいこと、いましなくてはならないこと、などなど。そして、必ず伝わるということ、それを真実ことの意味を考えさせられる一冊でもあった。

株価暴落*池井戸潤

  • 2020/04/12(日) 16:37:44


巨大スーパー・株式会社一風堂を襲った連続爆破事件。企業テロを示唆する犯行声明に株価は暴落、一風堂の巨額支援要請をめぐって、白水銀行審査部の板東洋史は企画部の二戸哲也と対立する。一方、警視庁の“野猿"刑事にかかったタレコミ電話で犯人と目された男の父は、一風堂の強引な出店で自殺に追いこまれていた。傑作金融エンタテイメント。


経済小説のようでもあり、旧態依然とした企業の身勝手な体質を糾弾する物語でもあり、さらには、警察の腐敗体質の話でもあるので、いろんな方面から興味深く読める。警察であれ、私企業であれ、規模が大きくなればなるほど、善意の人間も悪意の人間もいて、しかもそれが企業のためなのか、わが身のためなのかの違いで、影響力がさまざまなのでおもしろい。池井戸作品は、肩入れしたい人物がたいてい決まっているので、得られるカタルシスも大きいのだが、今作は、その辺りは多少微妙ではある。ともかく、のめり込める一冊だった。

果つる底なき*池井戸潤

  • 2020/04/07(火) 12:43:17


これは貸しだからな。」謎の言葉を残して、債権回収担当の銀行員・坂本が死んだ。死因はアレルギー性ショック。彼の妻・曜子は、かつて伊木の恋人だった……。坂本のため、曜子のため、そして何かを失いかけている自分のため、伊木はただ1人、銀行の暗闇に立ち向かう!第44回江戸川乱歩賞受賞作


著者ならではの銀行が舞台の物語である。イエスマンではない気概のある銀行マンが、見て見ぬ振りができなかったが故に命を落とす。その魂を救うために立ち上がった同期の伊木にも、穏やかならぬ事態が次々に出来する。大元はどこなのか、いちばんの悪はだれなのか。こんなに人が死ななくてもいいじゃないか、と思わなくもないが、そのことでさらにハラハラ感が増すのも確かである。人の善意と、そこにつけ込む悪意をまざまざと見せられたような一冊である。

御社のチャラ男*絲山秋子

  • 2020/02/26(水) 12:16:42


社内でひそかにチャラ男と呼ばれる三芳部長。彼のまわりの人びとが彼を語ることで見えてくる、この世界と私たちの「現実」。すべての働くひとに贈る、新世紀最高“会社員”小説。


チャラ男の存在の可笑しさや迷惑さやあれやこれやがコミカルに描かれている物語を想像していたので、それとはいささか異なる趣向ではあったが、チャラ男を見る周囲の人たちの視点が、それぞれ(当然のことながら)自分基準であるがゆえに、チャラ男をさまざまな角度から分析することになっていて、興味深い。さらに言えば、チャラ男を表することによって、その人自身の在りようまで見えてくるので、それはなかなかに怖いことでもある。自分を見つめ直すきっかけになっていると言えなくもないチャラ男の存在が、有益なのか害悪なのかと言えば、どちらかというと有益なのではないかとさえ思えてくる。チャラ男侮りがたし。時にグサッと深部を刺されながらも面白い一冊だった。

殺し屋、続けてます。*石持浅海

  • 2019/12/29(日) 16:37:45


ビジネスに徹する殺し屋、富澤に商売敵現る? 発売即重版となった『殺し屋、やってます。』に続く、日常(?)の謎シリーズ第二弾。


主人公はプロの殺し屋なので、本来憎むべきなのではあるが、下調べは完ぺきで、仕事は必ず成功させるという優秀さ。加えて、普段は人畜無害の極みのような趣で、経営コンサルタントなどという仕事をしているのである。憎めないではないか。この世界に殺し屋あり、と潔く認めてしまった方が、心行くまで愉しめる、というものである。今回は、そんな殺し屋富澤とは別に、中年女性の殺し屋まで現れ、その私生活も、思わず応援したくなってしまうようなものなので、これはもう応援するしかないではないか。そして、こうなったからには、彼女が富澤の敵になるのか味方になるのか、次作で追ってほしいものである。長く続いてほしい魅力満載のシリーズである。

クジラアタマの王様*伊坂幸太郎

  • 2019/11/11(月) 16:56:25

クジラアタマの王様
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伊坂 幸太郎
NHK出版 (2019-07-09)
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製菓会社に寄せられた一本のクレーム電話。広報部員・岸はその事後対応をすればよい…はずだった。訪ねてきた男の存在によって、岸の日常は思いもよらない事態へと一気に加速していく。不可思議な感覚、人々の集まる広場、巨獣、投げる矢、動かない鳥。打ち勝つべき現実とは、いったい何か。巧みな仕掛けと、エンターテインメントの王道を貫いたストーリーによって、伊坂幸太郎の小説が新たな魅力を放つ。


途中に川口澄子氏のイラスト(と言うかマンガ)を挟みながら、不思議な物語が進むのだが、文字だけではうまく想像がつかない部分を、まさに過不足なくイラストが補完してくれていて、荒唐無稽とも言える物語をリアリティのあるものとして愉しめるようになっている。物語自体は、普段わたしたちが知っているのと似た日常――とは言い切れないが――の世界と、アクションゲームのようなパラレルワールドとを行き来して語られる。あちらがこちらで眠った時に見る夢なら、こちらはあちらで眠った時に見る夢のようでもある。どちらの世界が先にあったのかは、はっきりとは判らないが、あちらの三人の戦士とリンクする人物が、こちらの世界でも知り合いになり、普通とは言えない縁を結ぶことになる。ときどき、どちらも夢なのかもしれないという気分になるくらい、繋がり方が絶妙で、段々境目が曖昧になっているような気もしてしまう。あちこちに寄り道しているように見えて、読み終えてみれば、終始一貫した目的に向かっていたのかもしれないとも思わされる。とにかく、先が気になり続ける一冊だった。

ノーサイド・ゲーム*池井戸潤

  • 2019/10/10(木) 17:01:41

ノーサイド・ゲーム
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池井戸 潤
ダイヤモンド社 (2019-06-13)
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未来につながる、パスがある。大手自動車メーカー・トキワ自動車のエリート社員だった君嶋隼人は、とある大型買収案件に異を唱えた結果、横浜工場の総務部長に左遷させられ、同社ラグビー部アストロズのゼネラルマネージャーを兼務することに。かつて強豪として鳴らしたアストロズも、いまは成績不振に喘ぎ、鳴かず飛ばず。巨額の赤字を垂れ流していた。アストロズを再生せよ―。ラグビーに関して何の知識も経験もない、ズブの素人である君嶋が、お荷物社会人ラグビーの再建に挑む。


発売から間を置かずにドラマ化されたので、どうしても、ドラマのインパクトに引きずられるが、著者の作品のドラマ化は、ほぼ原作通りなので、場面ごとにくっきりと映像が頭に浮かんで、より強い印象で読み進めることができたように思う。ラグビーに関しては、まったく無知なので、文字だけでは想像できなかったと思われる部分も、ドラマで視覚的に見ているので、充分楽しめ、ゲームの臨場感も味わうことができた気がする。映像が先だとがっかりすることの方が多いが、本作は、それを全く感じさせられなかった。ラグビーに興味を持つきっかけにもなる一冊である。