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銀行狐*池井戸潤

  • 2020/07/06(月) 18:24:43


銀行には金と秘密と謎がある。いや時には、頭取宛てに「狐」から脅迫状が届いたり、金庫室から老婆の頭部が見つかることも―怨みを買うことは日常茶飯事、となれば犯人像もまた多岐にわたる。動機は金の怨みか、憎しみか、悲しみか。日常に亀裂が走り、平凡な人間に魔が差すときを描いた、ミステリー短編集全5編。


表題作のほか、「金庫室の死体」 「現金その場かぎり」 「口座相違」 「ローンカウンター」

一般には知られざる銀行内部の事情や実情、からくりなどがうかがい知れて、興味深くもあり、恐ろしくもある。個人情報がここまで細かくさらされていると思うと、銀行員のモラルは徹底的に管理してもらわなければ怖くて銀行を利用できなくなりそうでもある。物語は、どれも思ってもいない展開を見せ、狸と狐の化かし合い的なものから、ストーカー的なものまで幅広く、そのどれもが恐ろしが、惹きこまれる。銀行内部を知っている著者ならではの一冊である。

逆ソクラテス*伊坂幸太郎

  • 2020/06/24(水) 12:52:56


逆境にもめげず簡単ではない現実に立ち向かい非日常的な出来事に巻き込まれながらもアンハッピーな展開を乗り越え僕たちは逆転する!無上の短編5編(書き下ろし3編)を収録。


子どもと、かつて子どもだった大人が主人公の物語。小学校時代の恩師・磯憲がかつて語った言葉が、おそらく本人の意図以上に子どもたちの心に響き、その影響を受けたその頃の彼らと、その影響を受け続けて生きてきた大人になった彼らの視点が、それぞれ愛おしい。ともすればお説教じみてしまう教師の言葉が、そうはならずに、絶妙な教訓として児童たちの胸に届いたのは、真心から発せられた言葉だからなのだろう。現在の磯憲の境遇と、あの頃子どもだった彼らの行く末。できることとあきらめてもいいこと、いましなくてはならないこと、などなど。そして、必ず伝わるということ、それを真実ことの意味を考えさせられる一冊でもあった。

株価暴落*池井戸潤

  • 2020/04/12(日) 16:37:44


巨大スーパー・株式会社一風堂を襲った連続爆破事件。企業テロを示唆する犯行声明に株価は暴落、一風堂の巨額支援要請をめぐって、白水銀行審査部の板東洋史は企画部の二戸哲也と対立する。一方、警視庁の“野猿"刑事にかかったタレコミ電話で犯人と目された男の父は、一風堂の強引な出店で自殺に追いこまれていた。傑作金融エンタテイメント。


経済小説のようでもあり、旧態依然とした企業の身勝手な体質を糾弾する物語でもあり、さらには、警察の腐敗体質の話でもあるので、いろんな方面から興味深く読める。警察であれ、私企業であれ、規模が大きくなればなるほど、善意の人間も悪意の人間もいて、しかもそれが企業のためなのか、わが身のためなのかの違いで、影響力がさまざまなのでおもしろい。池井戸作品は、肩入れしたい人物がたいてい決まっているので、得られるカタルシスも大きいのだが、今作は、その辺りは多少微妙ではある。ともかく、のめり込める一冊だった。

果つる底なき*池井戸潤

  • 2020/04/07(火) 12:43:17


これは貸しだからな。」謎の言葉を残して、債権回収担当の銀行員・坂本が死んだ。死因はアレルギー性ショック。彼の妻・曜子は、かつて伊木の恋人だった……。坂本のため、曜子のため、そして何かを失いかけている自分のため、伊木はただ1人、銀行の暗闇に立ち向かう!第44回江戸川乱歩賞受賞作


著者ならではの銀行が舞台の物語である。イエスマンではない気概のある銀行マンが、見て見ぬ振りができなかったが故に命を落とす。その魂を救うために立ち上がった同期の伊木にも、穏やかならぬ事態が次々に出来する。大元はどこなのか、いちばんの悪はだれなのか。こんなに人が死ななくてもいいじゃないか、と思わなくもないが、そのことでさらにハラハラ感が増すのも確かである。人の善意と、そこにつけ込む悪意をまざまざと見せられたような一冊である。

御社のチャラ男*絲山秋子

  • 2020/02/26(水) 12:16:42


社内でひそかにチャラ男と呼ばれる三芳部長。彼のまわりの人びとが彼を語ることで見えてくる、この世界と私たちの「現実」。すべての働くひとに贈る、新世紀最高“会社員”小説。


チャラ男の存在の可笑しさや迷惑さやあれやこれやがコミカルに描かれている物語を想像していたので、それとはいささか異なる趣向ではあったが、チャラ男を見る周囲の人たちの視点が、それぞれ(当然のことながら)自分基準であるがゆえに、チャラ男をさまざまな角度から分析することになっていて、興味深い。さらに言えば、チャラ男を表することによって、その人自身の在りようまで見えてくるので、それはなかなかに怖いことでもある。自分を見つめ直すきっかけになっていると言えなくもないチャラ男の存在が、有益なのか害悪なのかと言えば、どちらかというと有益なのではないかとさえ思えてくる。チャラ男侮りがたし。時にグサッと深部を刺されながらも面白い一冊だった。

殺し屋、続けてます。*石持浅海

  • 2019/12/29(日) 16:37:45


ビジネスに徹する殺し屋、富澤に商売敵現る? 発売即重版となった『殺し屋、やってます。』に続く、日常(?)の謎シリーズ第二弾。


主人公はプロの殺し屋なので、本来憎むべきなのではあるが、下調べは完ぺきで、仕事は必ず成功させるという優秀さ。加えて、普段は人畜無害の極みのような趣で、経営コンサルタントなどという仕事をしているのである。憎めないではないか。この世界に殺し屋あり、と潔く認めてしまった方が、心行くまで愉しめる、というものである。今回は、そんな殺し屋富澤とは別に、中年女性の殺し屋まで現れ、その私生活も、思わず応援したくなってしまうようなものなので、これはもう応援するしかないではないか。そして、こうなったからには、彼女が富澤の敵になるのか味方になるのか、次作で追ってほしいものである。長く続いてほしい魅力満載のシリーズである。

クジラアタマの王様*伊坂幸太郎

  • 2019/11/11(月) 16:56:25

クジラアタマの王様
クジラアタマの王様
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伊坂 幸太郎
NHK出版 (2019-07-09)
売り上げランキング: 18,077

製菓会社に寄せられた一本のクレーム電話。広報部員・岸はその事後対応をすればよい…はずだった。訪ねてきた男の存在によって、岸の日常は思いもよらない事態へと一気に加速していく。不可思議な感覚、人々の集まる広場、巨獣、投げる矢、動かない鳥。打ち勝つべき現実とは、いったい何か。巧みな仕掛けと、エンターテインメントの王道を貫いたストーリーによって、伊坂幸太郎の小説が新たな魅力を放つ。


途中に川口澄子氏のイラスト(と言うかマンガ)を挟みながら、不思議な物語が進むのだが、文字だけではうまく想像がつかない部分を、まさに過不足なくイラストが補完してくれていて、荒唐無稽とも言える物語をリアリティのあるものとして愉しめるようになっている。物語自体は、普段わたしたちが知っているのと似た日常――とは言い切れないが――の世界と、アクションゲームのようなパラレルワールドとを行き来して語られる。あちらがこちらで眠った時に見る夢なら、こちらはあちらで眠った時に見る夢のようでもある。どちらの世界が先にあったのかは、はっきりとは判らないが、あちらの三人の戦士とリンクする人物が、こちらの世界でも知り合いになり、普通とは言えない縁を結ぶことになる。ときどき、どちらも夢なのかもしれないという気分になるくらい、繋がり方が絶妙で、段々境目が曖昧になっているような気もしてしまう。あちこちに寄り道しているように見えて、読み終えてみれば、終始一貫した目的に向かっていたのかもしれないとも思わされる。とにかく、先が気になり続ける一冊だった。

ノーサイド・ゲーム*池井戸潤

  • 2019/10/10(木) 17:01:41

ノーサイド・ゲーム
ノーサイド・ゲーム
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池井戸 潤
ダイヤモンド社 (2019-06-13)
売り上げランキング: 1,327

未来につながる、パスがある。大手自動車メーカー・トキワ自動車のエリート社員だった君嶋隼人は、とある大型買収案件に異を唱えた結果、横浜工場の総務部長に左遷させられ、同社ラグビー部アストロズのゼネラルマネージャーを兼務することに。かつて強豪として鳴らしたアストロズも、いまは成績不振に喘ぎ、鳴かず飛ばず。巨額の赤字を垂れ流していた。アストロズを再生せよ―。ラグビーに関して何の知識も経験もない、ズブの素人である君嶋が、お荷物社会人ラグビーの再建に挑む。


発売から間を置かずにドラマ化されたので、どうしても、ドラマのインパクトに引きずられるが、著者の作品のドラマ化は、ほぼ原作通りなので、場面ごとにくっきりと映像が頭に浮かんで、より強い印象で読み進めることができたように思う。ラグビーに関しては、まったく無知なので、文字だけでは想像できなかったと思われる部分も、ドラマで視覚的に見ているので、充分楽しめ、ゲームの臨場感も味わうことができた気がする。映像が先だとがっかりすることの方が多いが、本作は、それを全く感じさせられなかった。ラグビーに興味を持つきっかけにもなる一冊である。

Rのつく月には気をつけよう 賢者のグラス*石持浅海

  • 2019/09/16(月) 18:47:03

Rのつく月には気をつけよう 賢者のグラス
石持浅海
祥伝社
売り上げランキング: 119,385

長江、渚、夏美は大学時代からの飲み仲間だった。
やがて長江と渚は夫婦になり、夏美は会社の同僚・健太と結婚、それぞれ子を持つ親に。
長江の海外赴任でしばらく途切れていた“宅飲み”が、帰国をきっかけに復活。
簡単&絶品グルメをアテに、世間話はいつも思わぬ方向へ……。

米焼酎×サーモンの酒粕漬け=双子が一日ずれるワケ
日本酒×イカの肝焼き=二年の未婚期間の秘密
紹興酒×鶏手羽のピリ辛煮=受験の本当の成功とは
ビール×たこ焼き=悪口上手なママの離婚
旨い酒×時短レシピの絶品グルメ=極上の謎解き!


おいしい料理とお酒、気心の知れた仲間との語らいのひととき、というところは前作と変わらないのだが、今作では、夏美の夫の健太と、息子の大、そして長江夫妻の娘の咲が新たに加わっている。子どもたちはまだ小学生なので、一足先に夕食を済ませて、ふたりで宿題をしたり漫画を読んだりして過ごし、大人たちは、おいしい料理とそれに合うお酒を愉しみつつ、語らうのである。だが、毎回、何かのきっかけで記憶を刺激され、ミステリめいた話になっていくのである。ああだこうだ言いあいながらの推理を見ているだけで愉しくなる。そして、料理もお酒もあらかたなくなるころ、みんなが納得できる結論へとたどり着くのである。それが毎回、なるほど、とうならされる。最後の物語には、ちょっとした仕掛けが施されているが、次につながっていきそうな予感もして嬉しくなる。ひとつひとつは短い物語なので、読みやすく愉しめる一冊である。

シーソーモンスター*伊坂幸太郎

  • 2019/09/15(日) 07:31:15

シーソーモンスター (単行本)
伊坂 幸太郎
中央公論新社 (2019-04-05)
売り上げランキング: 29,348

我が家の嫁姑の争いは、米ソ冷戦よりも恐ろしい。バブルに浮かれる昭和の日本。一見、どこにでもある平凡な家庭の北山家だったが、ある日、嫁は姑の過去に大きな疑念を抱くようになり…。(「シーソーモンスター」)。ある日、僕は巻き込まれた。時空を超えた争いに―。舞台は2050年の日本。ある天才科学者が遺した手紙を握りしめ、彼の旧友と配達人が、見えない敵の暴走を阻止すべく奮闘する!(「スピンモンスター」)。


どこにでもありそうな嫁姑問題が描かれていながら、その裏では目には見えないが凄まじい攻防が繰り返されていて、表に見えるものと、その裏側の真実の姿とのギャップが激しすぎて興味深い。そして、二作目は、まったく別の物語かと思いきや、そう来たか、という展開で、絵本作家の名前とか、折々にほんのわずか引っかかるが、突き詰めることなく読み過ごしたあれこれを、ひとつずつ腑に落としてくれるのは、さすが伊坂さんである。当然のこととして描かれる近未来の日常が、まったくの絵空事ではなさそうで、怖くもあり、うなずける部分もあるので興味深い。日常の物語の体裁をとったアクションストーリ―とも言える一冊かもしれない。

むらさきのスカートの女*今村夏子

  • 2019/07/18(木) 18:59:14

【第161回 芥川賞受賞作】むらさきのスカートの女
今村夏子
朝日新聞出版
売り上げランキング: 6

近所に住む「むらさきのスカートの女」と呼ばれる女性のことが、気になって仕方のない〈わたし〉は、彼女と「ともだち」になるために、自分と同じ職場で働きだすように誘導し……。

『こちらあみ子』『あひる』『星の子』『父と私の桜尾通り商店街』と、唯一無二の視点で描かれる世界観によって、作品を発表するごとに熱狂的な読者が増え続けている著者の最新作。


不思議な物語である。とはいえ、作中で起こっていることにはさほど不思議なことはなく、(癖はあるが)普通の女たちの日常が描かれているに過ぎない。それでも、始まりから不穏さが漂う。「むらさきのスカートの女」は、働いたり働かなかったりで、昼間公園の決まったベンチでクリームパンを食べていたり、人にぶつからずに道を歩くことができたり、何となく変わり者として町の名物のようであり、自称「黄色いカーディガンの女」であるわたしは、彼女と友だちになりたいがためにあれこれ策を弄するのである。むらさきの女=変人、と思い込んで読み進めるのだが、ふと立ち止まると、ほんとうに変わっているのは別の人のように思われてくる。その視点の切り替わり方が不思議さにつながるのかもしれない。自分の目が信じられなくなるような……。むらさきのスカートの女を描いていると見せかけて、実は別の人のことをクローズアップしたかったのではないかと、ページが残り少なくなってやっと気づかされる。一筋縄ではいかない物語であり、ラストのその後が気になって仕方がない一冊でもある。

ジグソーパズル48*乾くるみ

  • 2019/06/27(木) 12:53:43

ジグソーパズル48
ジグソーパズル48
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乾 くるみ
双葉社
売り上げランキング: 449,614

『イニシエーション・ラブ』で日本中を驚かせた著者による待望の新刊、次なる舞台は女子校!? 私立曙女子高等学院の問題児ばかり集められるクラス(通称マルキュー)に、ある生徒が異動してきた。家族が抱えた借金のために、学費を稼ぐ目的でやっていたアルバイトがバレたのが理由だという。それを知ったマルキューのメンバーは彼女が特待生資格をとれるよう一致団結するが…(「マルキュー」)ほか、6篇を収録。個性豊かな生徒達が、学校やクラスで起きる事件をチームワークで解決!


名門女子高が舞台である。連作短編ではあるが、登場人物は各章でそれぞれ違う。しかもその名前がどれも独特で忘れられないのだが、いささか人物を連想しにくい。女子高で起こる事件にしては、ずいぶんとハードなものが多く、この学校にいたら、日常的に緊張が絶えない気がしてしまう。ジグソーパズルというよりも、知恵の輪的な複雑さを愉しめる一冊だった。

不老虫*石持浅海

  • 2019/06/01(土) 19:18:46

不老虫
不老虫
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石持 浅海
光文社
売り上げランキング: 347,995

人類の脅威となる恐ろしい習性を持つという寄生虫"不老虫"が日本に入ってくるかもしれない――。日本の未来は美貌の“ハンター"に委ねられた! 本格ミステリー作家・石持浅海が放つ飛びっきりの変化球に仰天せよ!!


ミステリともサスペンスともホラーともつかない、それらがすべて混ざり合ったような物語である。とても現実とは思えないながら、想定外のことが次々に起こる現代にあっては、絶対にありえないとは言えない恐ろしさがある。しかも、その利用目的が認知症の治療ということであれば、なおさらこういうことも起こり得るかもしれないと思えてしまう。希望を人質に取られて不安と恐怖を突き付けられるようなおぞましさである。だが、認知症の治療薬も捨てがたいのは確かである。ラストまで安心しきれない展開は、この事案が決して終わっていないことを印象付ける。救いは、酒井とジャカランダの心にあたたかいものが通い合ったことだろう。想定外のさらに外を常に考えておかねばならない時代が来ているのかもしれないと思わされる一冊でもあった。

フーガはユーガ*伊坂幸太郎

  • 2019/04/19(金) 09:04:57

フーガはユーガ
フーガはユーガ
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伊坂 幸太郎
実業之日本社 (2018-11-08)
売り上げランキング: 8,337

常盤優我は仙台市のファミレスで一人の男に語り出す。双子の弟・風我のこと、決して幸せでなかった子供時代のこと、そして、彼ら兄弟だけの特別な「アレ」のこと。僕たちは双子で、僕たちは不運で、だけど僕たちは、手強い。


双子の兄・優我がフリーのディレクターに自分たちの身に起きたことを話しているという趣向の物語である。起こったこと自体は過去のことで、いま現在優我はここにいる。だが、物語が次第に現実に追いつき、追い越す時が来る。それでもかこからずっと続いてきたことが途切れることはなく、過去に築いた関係が現在に影響を及ぼすことになる。題材的にも重いものであり、見るに堪えない描写が多く出てくることもあって、読書中も読後感も、決して爽やかとは言えないが、それでも、自分たちの力で少しでも救いのある方へと踏み出そうという願いを感じ取ることはできる。何とかならないのかというもどかしさを抱きつつ、ページを繰る手が止まらない一冊だった。

父と私の桜尾通り商店街*今井夏子

  • 2019/04/05(金) 21:23:36

父と私の桜尾通り商店街
今村 夏子
KADOKAWA (2019-02-22)
売り上げランキング: 38,782

違和感を抱えて生きるすべての人へ。不器用な「私たち」の物語。

桜尾通り商店街の外れでパン屋を営む父と、娘の「私」。うまく立ち回ることがきず、商店街の人々からつまはじきにされていた二人だが、「私」がコッペパンをサンドイッチにして並べはじめたことで予想外の評判を呼んでしまい……。(「父と私の桜尾通り商店街」)
全国大会を目指すチアリーディングチームのなかで、誰よりも高く飛んだなるみ先輩。かつてのトップで、いまは見る影もないなるみ先輩にはある秘密があった。(「ひょうたんの精」)
平凡な日常は二転三転して驚きの結末へ。
『こちらあみ子』『あひる』『星の子』と、作品を発表するたびに読む者の心をざわめかせ続ける著者の、最新作品集!

収録作品
・白いセーター
・ルルちゃん
・ひょうたんの精
・せとのママの誕生日
・モグラハウスの扉(書き下ろし)
・父と私の桜尾通り商店街


タイトルや表紙から想像するのどかさとはいささか趣が違う物語たちである。それぞれにとってごく普通に流れていくはずの日常に、ほんの些細な要素が入り込むことによって、違和感が生じ、初めはぽつんとした点のようだったそれが、じわりじわりと広がっていって、日常そのものを侵食していくようなイメージである。何かが違う、と思った時はすでに遅く、後戻りできずに進むしかない。ほんの半歩違う方向に足を踏み出せば、健やかな流れに乗れそうなのに、それはとてつもなく難しいことなのかもしれない。何となく胸のなかがざわついた感じにさせられる一冊である。