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舞田ひとみ14歳、放課後ときどき探偵*歌野晶午

  • 2013/01/30(水) 16:52:36

舞田ひとみ14歳、放課後ときどき探偵 (カッパ・ノベルス)舞田ひとみ14歳、放課後ときどき探偵 (カッパ・ノベルス)
(2010/10/20)
歌野 晶午

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ゲームとダンスが大好きで、勉強と父親は嫌い。生意気盛りの中学二年生・舞田ひとみが、小学校時代の同級生・高梨愛美璃と再会したのは、愛美璃が友人たちと、募金詐欺を繰り返す胡散臭い女を尾行していた時だった。数日後、女は死体で発見されて―。驚きのひらめきと無限の想像力で、ひとみは難事件に挑む!14歳の少女たちの日常と、彼女たちの周りで起こる不思議な事件をいきいきと描いた異色の本格ミステリ、シリーズ第二弾。


舞田ひとみシリーズ第二弾。
語るのはひとみの小学生時代の同級生で、いまは私立の森海学園中学に通う高梨愛美璃だが、もちろん主役である探偵役は舞田ひとみである。「私」という一人称を使うのがひとみではなく愛美璃なので、ときどき軽く混乱するが、次第に慣れてくる。中学生にしてこの観察力と洞察力はお見事というしかないが、なんとなく恵まれない境遇っぽいのに、あっけらかんとして見えるキャラクタのおかげか、切れ者という雰囲気が全くないのが同年代に反感を抱かれない秘訣――本人は意図していないと思うが――だろうか。なんだかんだと面倒見のいいところがあるのが苦労人っぽくもある。がんばれひとみ、と応援したくなる一冊である。

コモリと子守り*歌野晶午

  • 2013/01/22(火) 07:27:50

コモリと子守りコモリと子守り
(2012/12/15)
歌野 晶午

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巧緻きわまりない本格ミステリーにして、誘拐ミステリーの傑作!!

引きこもりの友人の窮地を救うため、17歳の舞田ひとみは幼児誘拐事件の謎を追うのだが……。
ひとつの事件の解決は、あらたな事件の始まりだった!
勉強に育児に忙しいひとみが、前代未聞の難事件に挑む!!


舞田ひとみシリーズ第三弾。二作目、読んでいなかったかも…。
語り手が引きこもり(コモリ)の馬場由宇なので、初めのうちは舞田ひとみシリーズとは気づかなかったが、由宇はひとみに厄介ごとを持ちかけ、その手を煩わせるばかりで、やはり、事件を解き明かすのはひとみなのである。高校生の探偵ごっこと言うには、幼児虐待あり、身代金誘拐あり、殺人ありと、事件は本格的すぎるのだが、ひとみの観察眼と洞察力、推理力がものを言うのである。身代金誘拐の顛末は、とてもあの夫婦が考え出したとは思えないのがリアリティに欠けると言えなくもないが、どうしようもないヤツというのはどうしようもない知恵は働くものなのかもしれない。しかしこの動機と結果は痛ましすぎる。まだまだ続いてほしいシリーズである。

もらい泣き*冲方丁

  • 2012/09/29(土) 13:40:22

もらい泣きもらい泣き
(2012/08/03)
冲方 丁

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一族みんなに恐れられていた厳格な祖母が亡くなった。遺品の金庫の中に入っていた意外な中身は?「金庫と花丸」。東日本大震災の後、福島空港で車がなく途方にくれる著者に「乗りますか」と声をかけてくれた人の思い出。「インドと豆腐」。視力薄弱の子供を抱えた父親。奮闘する彼を救った感動のプレゼントとは。「ぬいぐるみ」。思わず、ホロリ。冲方丁が実話を元に創作した、33話のショートストーリー&エッセイ集。


純然たる小説ではなく、実話を元に創作した物語だったが、なかなか良かった。実話が下敷きになっているだけあって、「小説より奇なり」とも言えるような話もあるが、それが人知の及ばない大きな力を感じさせて胸に迫る。え?こんなところで?と思うような箇所で目の前がぼやけてくることがたびたびあり、自覚していなかった泣きのツボを発見したりもしたのである。振り返って自分の身に起きた泣かせる話を思い出そうとしてみたが、自分が泣くことはあっても人を泣かせる話などそうないのだということに改めて気づかされたのだった。ひと粒の涙によってあしたも生きていける、ということがほんとうにあるのだなぁと実感させられた一冊でもある。

天地明察*冲方丁

  • 2012/09/22(土) 20:22:08

天地明察天地明察
(2009/12/01)
冲方 丁

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江戸、四代将軍家綱の御代。ある「プロジェクト」が立ちあがった。即ち、日本独自の太陰暦を作り上げること--日本文化を変えた大いなる計画を、個の成長物語としてみずみずしくも重厚に描く傑作時代小説!!


天文学にも算学にも囲碁にも全く明るくはないが、それでも震えるような使命感や喜びや興奮が伝わってきて、いつしか物語にのめりこむように読んでいた。若い晴海の力だけでは何ともしがたい難題だが、彼の熱意と謙虚さ素直さが、自ずと協力者を引き寄せ、事をうまく運ばせたのだろう。そして、上に立つ者の度量の大きさも印象的である。とりわけ保科正之の働きは、現代の日本にとって宝とも言えるのではないだろうか。治政の現状に目をやると、嘆かわしさが倍増する心地である。壮大で感動的な一冊である。

春から夏、やがて冬*歌野晶午

  • 2011/11/17(木) 07:38:57

春から夏、やがて冬春から夏、やがて冬
(2011/10)
歌野 晶午

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スーパーの保安責任者の男と、万引き犯の女。偶然の出会いは神の思い召しか、悪魔の罠か?これは“絶望”と“救済”のミステリーだ。


「ラスト5ページで世界が反転する!」という帯文はない方がより愉しめたのではないか、と思う。確かに惹きつけられるフレーズではある。だがそれ故に半分読者の愉しみを奪っていると言えなくもない。心に傷を負ったスーパーの保安責任者の男・平田と、居場所を見つけられずに自分から傷ついている若い女・末永ますみの、ひとときの心の通い合いを描きながら、それぞれが傷ついたわけを探るような物語である。やさしさなのか、哀れみなのか、自己満足なのか。おそらくそれらすべてが入り交じったひとときだったのだろう。誰も救われず、なにも解決せず、空しさとやるせなさばかりが残る一冊だった。

ニコニコ時給800円*海猫沢めろん

  • 2011/11/11(金) 17:15:49

ニコニコ時給800円ニコニコ時給800円
(2011/07/26)
海猫沢 めろん

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仕事と人間の関係が変わる時、新しい世界への扉が開く。この日本の下流社会のさらに最下層で生きる。


その1 マンが喫茶の悪魔  その2 洋服屋のいばら姫  その3 パチンコ屋の亡霊たち  その4 野菜畑のピーターパン  最終話 ネットワークの王子様

前作の登場人物の誰かが次作のどこかに出てくる、というゆるいつながり方の連作である。そして最低賃金で働いているというキーワードでもつながっている。さまざまな職種で、さまざまな理由でそこに働く人びとの在りようが、ユーモアを交えて描かれているのだが、そこからは苦味や哀しみも立ち上ってくる。間違っても社会派と呼ぶような物語ではないのだが、現代社会に対する皮肉のようなものも感じられる一冊になっているように思う。

密室殺人ゲーム・マニアックス*歌野晶午

  • 2011/11/06(日) 14:22:35

密室殺人ゲーム・マニアックス (講談社ノベルス)密室殺人ゲーム・マニアックス (講談社ノベルス)
(2011/09/07)
歌野 晶午

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“頭狂人”“044APD”“aXe”“ザンギャ君”“伴道全教授”。奇妙なハンドルネームを持つ5人がネット上で日夜行う推理バトル。出題者は自ら殺人を犯しそのトリックを解いてみろ、とチャット上で挑発を繰り返す!ゲームに勝つため、凄惨な手段で人を殺しまくる奴らの命運はいつ尽きる!?


シリーズ第三弾。
今回はゲーム自体が密室を抜け出してインターネット上に曝け出され、さらに厭な感じになっている。いままでどおりの殺人ゲームはもとより、それを見ながら推理を愉しむ観客的な第三者が描かれ、しかも、思ってもみない終わり方で、著者の上手さとは別に、ますます眉を顰めたくなる一冊でもある。

ROMMY 越境者の夢*歌野晶午

  • 2011/10/22(土) 18:44:22

新装版 ROMMY 越境者の夢 (講談社文庫)新装版 ROMMY 越境者の夢 (講談社文庫)
(2011/01/14)
歌野 晶午

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人気絶頂の歌手ROMMYが、絞殺死体となって発見された。ROMMYの音楽に惚れ込み、支え続けた中村がとる奇妙な行動。一瞬目を離した隙に、ROMMYの死体は何者かに切り刻まれ、奇妙な装飾を施されていた―。一体誰が何のために?天才歌手に隠された驚愕の真相とは。新本格の雄、歌野晶午の真髄がここに。


ROMMYが殺された当日と、過去とを行ったり来たりしながら物語りは進み、読者はROMMYに対する理解を少しずつ深めていくことになる。それと共に、事件当日スタジオに集まっていた人びとのROMMYに対するスタンスも明らかになっていく。過去語りの部分では、ROMMYになる前の杉下裕美が描かれ、裕美と共にROMMYを生み出した中村茂が語られる。不遇な時代を乗り越えて絶頂に達したところでの事件だったことがよくわかる。歌野氏なので、どこかに仕掛けがないわけがないと目を凝らして読み進んだが、やはり意表を突かれることになった。ROMMYのパフォーマンスのわけは、そして中村のあの行動のほんとうの理由はそういうことだったのか、と頷かされるのだった。哀しく切ないが、深い深い愛の物語でもあると思わされる一冊である。

放浪探偵と七つの殺人 増補版*歌野晶午

  • 2011/09/14(水) 11:10:20

増補版 放浪探偵と七つの殺人 (講談社文庫)増補版 放浪探偵と七つの殺人 (講談社文庫)
(2011/05/13)
歌野 晶午

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なぜ死体は動いたのか?殺人者が犯した、たった一つの過ちとは?「家シリーズ」の名探偵
信濃譲二が奇想天外な難事件の謎を見事な推理で解決する七つの短編に、幻の未収録作品「マルムシ」を加えた試みと驚きに満ちた傑作ミステリー八編。


いつも違う職業、違う身分で事件関係者の近くにいる、まさに神出鬼没の信濃譲二である。黄色いタンクトップにビーチサンダルという格好でどこにでもいつの季節にも現れるのも彼らしい(のか?)。本質というか実体がなかなかつかめない信濃譲二であるが、その観察眼と着目、そして想像力と推理力は折り紙付である。それぞれまったく異なる趣の殺人事件だが、信濃譲二の手にかかればなにほどのこともない、ように見える。あとがきに書かれているようにある理由によりいままで発表されなかった「マルムシ」もあれこれ動機を想いながら読んだ。中身の詰まった一冊である。

密室殺人ゲーム2.0*歌野晶午

  • 2010/06/03(木) 17:23:19

密室殺人ゲーム2.0 (講談社ノベルス ウC-)密室殺人ゲーム2.0 (講談社ノベルス ウC-)
(2009/08/07)
歌野 晶午

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<頭狂人><044APD><ザンギャ君><伴道全教授>。
奇妙すぎるニックネームの5人が、日夜チャット上で「とびきりのトリック」を出題しあう推理合戦!
ただし、このゲームが特殊なのは各々の参加者が トリックを披露するため、殺人を実行するということ。
究極の推理ゲームが行き着く衝撃の結末とは!?


『密室殺人ゲーム王手飛車取り』の続編である。
前作のハンドルのままの登場人物たちであるが、さて、中身はどうなのだろうか、というところは作中で明らかにされている。前作に増して、想像したくない展開になっていて、いささかげんなりする。実際にこんなことが日常的に行われる世の中にはなって欲しくないものである。その一点を除けば、四人のやりとりもそれなりの役割分担があって興味深いし、トリックはその手があったか、という新しいものであり、それが解かれていく過程もたのしめる。ついつい肩入れしたくなる人物が出てきたりもするのである。だからこそ余計に、小説の中だけのことにしておいてもらいたいものである。

絶望ノート*歌野晶午

  • 2009/09/16(水) 16:50:11

絶望ノート絶望ノート
(2009/05)
歌野 晶午

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いじめに遭っている中学2年の太刀川照音は、その苦しみ、両親への不満を「絶望ノート」と名づけた日記帳に書き連ねていた。そんな彼はある日、校庭で人間の頭部大の石を見つけて持ち帰り、それを自分にとっての“神”だと信じた。神の名はオイネプギプト。エスカレートするいじめに耐えきれず、彼は自らの血をもって祈りを捧げ、いじめグループ中心人物の殺人を神に依頼した。「オイネプギプト様、是永雄一郎を殺してください」―はたして是永はあっけなく死んだ。しかし、いじめはなお収まらない。照音は次々に名前を日記帳に書きつけ神に祈り、そして級友は死んでいった。不審に思った警察は両親と照音本人を取り調べるが、さらに殺人は続く―。


主人公は中学二年男子・太刀川照音(ショーン)。ジョン・レノンかぶれの父につけられた名前のせいで、幼い頃から「タチション」とからかわれていた。
中二になってエスカレートしてきたいじめに耐え切れず、「絶望ノート」と題したノートに、いじめの内容や胸のうちをぶちまけるように綴るようになった。ある日天啓のように出会った石ころを、神さまと信じ、オイネプギプトと名づけ、いじめる奴らを懲らしめてくれと願うと、ほんとうにそのなかのひとりが怪我をし、殺してくれと願うと実際にひとりが死んだ。オイネプギプトさまの霊験なのか・・・・・。
いじめの執拗さと、親や学校の無力さにもどかしい思いで読み進んだところに待っていたものは!!
歌野晶午だったのだ、これは。なにをどう言ってもネタバレになりそうなので言えないが、著者は『葉桜の季節に君を想うということ』の歌野晶午なのである。まさに最後の一ページまで気を抜けない一冊である。

おちゃっぴい*宇江佐真理

  • 2009/02/25(水) 13:40:28

おちゃっぴい―江戸前浮世気質おちゃっぴい―江戸前浮世気質
(1999/12)
宇江佐 真理

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鉄火・伝法が玉にキズ。お吉は十六蔵前小町。だが、突然の縁談話にカッとなり…。笑いと涙の人情譚。表題作他5話を収録。


表題作のほか、「町入能(まちいりのう)」 「れていても」 「概ね、よい女房」 「驚きの、また喜びの」 「あんちゃん」

江戸の庶民のささやかながら義理人情に富んだ日々の暮らしが、気持ちよく描かれている。
相身互いの心意気は、現代ではともすればお節介にも通じるのかもしれないが、親戚付き合い同様の長屋暮らしには、教えられることも多い。
おそらく心根は、現代人となんら変わるところはないと思われるのだが、人と人との距離感の変わりようには著しいものがある。一概にどちらがいいとは言えないものの、江戸の町家の暮らしをこうして覗くたびに、胸がきゅんとなるのは何故だろう。

ひとつ灯せ*宇江佐真理

  • 2008/10/08(水) 17:21:23

ひとつ灯せ―大江戸怪奇譚ひとつ灯せ―大江戸怪奇譚
(2006/08)
宇江佐 真理

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山城河岸の料理茶屋「平野屋」の隠居・清兵衛は53歳。家督をゆずったものの、暇をもてあまし、伊勢屋甚助の誘いで「話の会」という集まりに顔を出し始めた。作り話でない怖い話を持ち寄って酒を酌み交わし……。

江戸の四季折々に語られる人情あふれる、宇江佐版・百物語。


表題作のほか、「首ふり地蔵」 「箱根にて」 「守」 「炒り豆」 「空き屋敷」 「入り口」 「長のお別れ」

年齢も職業もさまざまな人たちが月に一度集まって自分が見聞きした不思議な話を披露する。この話の会に、料理茶屋・平野屋の隠居・清兵衛もひょんなことから参加することになった。
不思議な話を聞きあうだけでなく、次第に不思議な出来事を相談されたりもするようになり、会の面々は怖い思いもすることになるのである。言い伝えられる怪談ではなく、実際に誰かの身に起こったことであるというのが、怖さを募らせ、のめりこませる要因にもなったのだろうか。
ただ、出来事そのものは、すべてがすっきり解決されるという風でもなく、仕舞いには会も散会し、会の面々が次々に亡くなっていくのがいささか腑に落ちなくもある。

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卵のふわふわ*宇江佐真理

  • 2008/09/07(日) 21:03:51

卵のふわふわ 八丁堀喰い物草紙・江戸前でもなし (講談社文庫)卵のふわふわ 八丁堀喰い物草紙・江戸前でもなし (講談社文庫)
(2007/07/14)
宇江佐 真理

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煮炊きの煙は、人の心を暖める。「のぶちゃん、何かうまいもん作っておくれよ」。夫との心の行き違いは、食い道楽で心優しい舅にいつも扶けられる。喰い物覚え帖に映し出された心模様。


「秘伝 黄身返し卵」 「美艶 淡雪豆腐」 「酔余 水雑炊」 「涼味 心太」 「安堵 卵のふわふわ」 「珍味 ちょろぎ」という、食べものをキーにした連作物語。

食べものにはそれぞれ教訓的ともいえる意味があり、
黄身返し卵・・・・・蓋を開けりゃ、埒もないことの方が多い。
淡雪豆腐・・・・・はかない色と味。
水雑炊・・・・・別れ。
心太・・・・・走りの食べ物としても乙。
卵のふわふわ・・・・・一個ずつしかできない。
ちょろぎ・・・・・無用の用。
という具合である。

実の親と同じように大切に思う舅・姑とは裏腹に、夫・正一郎とは溝が深まるばかりと思い、椙田の家を出ようと決意するおのぶである。
優秀だがちょっと変わったところのある舅・忠右衛門が食べたがる食べものにまつわるあれこれや、舅と一緒に食べたときのことなどを思うにつけ、その情に背くことになるのが心苦しくもあるのだった。
複雑な心うちで暮らす日々に、北町奉行所に奉仕する夫の仕事柄知った事件について、ふと漏らしたひと言が解決のヒントになったり、ときには下手人を見つけたりして、夫の役に立ったりもするのだが、疎まれているという思いは消えず、悶々とした毎日を過ごしているのであった。
正一郎と心を通わせることさえできれば、それ以外はとても恵まれていると言ってもいいほどなのだが、肝心なところがなぜか上手くいかない。読者には、正一郎の不器用さとおのぶの思い込みがもどかしくもある。
心のこもった食べものと、人の心のあたたかさ、夫婦の微妙なすれ違いが絶妙に描かれていて気を逸らさない。
ラストの忠右衛門の不在は、見事な親心、と思いたい。そうでなければ切な過ぎる。

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ラ・パティスリー*上田早夕里

  • 2008/07/12(土) 17:20:57

ラ・パティスリーラ・パティスリー
(2005/11)
上田 早夕里

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坂の上の洋菓子店へようこそ!甘くほろ苦いパティシエ小説誕生。ある日突然現れた謎の菓子職人・恭也と新米パティシエ・夏織。二人の交流を通じて描く洋菓子店の日常と、そこに集う恋人・親子・夫婦たちの人間模様―。


『ショコラティエの勲章』にも出てくるフランス菓子店「ロワゾ・ドール」が舞台である。シリーズものといえるほどではないが、緩やかな連作のイメージだろうか。
製菓学校を出て「ロワゾ・ドール」に勤めはじめた森沢夏織が、新米の朝の仕事である、鍵開けと掃除、厨房の準備のために、いつものように早朝に出勤すると、シャッターが閉まって誰も入れないはずの店の厨房で見知らぬ男が見事な飴細工を作っているのだった。彼は、市川恭也と名乗り、ここ(ロワゾ・アルジャンテ)のシェフだと言う。どうやら記憶の一部を失っているらしいのだが・・・・・。

恭也と夏織の姿や、パティスリーの日々の仕事のめまぐるしさとやりがいを描きながら、ロワゾ・ドールを訪れる客によってもたらされるお菓子がらみの謎を解き明かしていく。そしてその間には、甘い香りが文字の間から立ち上ってくるような美しくおいしそうなお菓子の魅力を堪能できる(目だけでは我慢できなくなりそうである)。そこに、恭也の身元を解き明かすという興味も加わって、ページをめくる手が止まらなくなる一冊である。甘いお菓子がたくさん出てくるが、物語自体はほろ苦さも加わって、甘いものが苦手でもたのしめる。

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