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道然寺さんの双子探偵 揺れる少年*岡崎琢磨

  • 2019/08/27(火) 09:50:47

道然寺さんの双子探偵 揺れる少年 (朝日文庫)
岡崎 琢磨
朝日新聞出版 (2019-05-13)
売り上げランキング: 420,665

福岡の夕筑市にある寺院・道然寺で暮らす中学3年生のランとレン。
人の善意を信じるランと悪意を敏感にかぎ取るレン、正反対の視点を持つ双子が活躍するシリーズ第2弾。
熊本地震から逃れ、転校してきた少年の秘めた思いが引き起こした事件の謎を解き明かす。


複雑な境遇にある双子のレンとランが、身近な問題を解きほぐす物語の二作目である。置き去りにされていた赤ん坊のリンが加わったことで、誰かに守られること、そして誰かを守ることをより意識するようになったように見える。そんな折に、熊本地震で家を失って転校してきた志垣雄哉に関して心配事が出現し、レンがこの頃仲良くしている蓬莱司が深くかかわっていることがわかる。何とかしようともくろむ二人(特にラン)だったが、事態はそれほど単純なものではなかったのである。人の心のなかというのは、表からはうかがい知れないほど複雑で、良かれと思ってしたことが裏目に出ることも少なくない。人と人との関わりの難しさを、中学生のランとレンのみならず、保護者的な立場の僧侶である一海も、改めて認識させられたことだろう。そして、難しくはあるが、誠意をもってあたれば、思いは通じる、というのもまた真理であるような気がする。少しずつ成長していく双子と、一海さんのこれからも、見守り続けたいシリーズである。

アロワナを愛した容疑者*大倉崇裕

  • 2019/07/29(月) 16:45:35

アロワナを愛した容疑者 警視庁いきもの係
大倉 崇裕
講談社
売り上げランキング: 64,927

連ドラ化もされた大人気「警視庁いきもの係」シリーズ、待望の第5弾!
「タカを愛した容疑者」「アロワナを愛した容疑者」「ランを愛した容疑者」の3作品を収録。

さらに「アロワナを愛した容疑者」では、大好評「福家警部補」シリーズの主役・福家警部補と警視庁いきもの係の薄、須藤が夢の共演! このコラボは見逃せない!!


登場人物像が、すっかりドラマに引きずられている。映像のパワーはものすごい。もうたぶん、著者ご自身も、その設定で書いていらっしゃるのではないかという気もしてしまう。薄巡査は、相変わらず天然の頓珍漢ぶりを発揮し、須藤はずいぶん彼女の扱いに慣れ、ほとんどのことには動じなくなっているのがおかしくて、つい苦笑してしまうが、信頼関係も築けていてなかなかいい凸凹コンビである。薄巡査にそのつもりがあるのかないのかはよくわからないが、結果として事件を解決に導いているので、「いきもの係」の知名度も信頼度も少しずつ増してきているのが読者としてもうれしいところである。次はどんな生き物が登場するか、愉しみでもあるシリーズである。

宝の地図をみつけたら*大崎梢

  • 2019/07/07(日) 16:46:23

宝の地図をみつけたら (幻冬舎文庫)
大崎 梢
幻冬舎 (2019-04-10)
売り上げランキング: 207,387

小学生の頃、祖母からこっそり手に入れた 「金塊が眠る幻の村」の地図。それは晶良と 伯斗の友情の証、そして秘密の冒険の始まり だった。「探しに行かないか、昔みたいにふ たりで」。渋々と宝探しを再開する晶良だっ たが、直後、伯斗の消息が途絶えてしまう。 代わりに"お宝"を狙うヤバイ連中が次々に現 れて……! ? 手に汗握る"埋蔵金"ミステリー!


著者の作品なので、もっとほのぼのとした宝探しの物語かと思って読み始めた。途中までは、そんな感じでなくはなかったものの、その後の急展開には目を瞠るものがある。夢を追っていたのに、突然現実に引き戻されたようであり、スリルとサスペンスとハードボイルドが入り交じった展開に驚くばかりである。山の中での道なき道の追跡や逃走。ほんの些細な気配で敵か味方かを判断し、一瞬で足の向く先を決めなければならない緊迫感。命の危険さえはらむ展開にハラハラドキドキが止まらない。宝の山を目前にした人間の本性と、それでも信頼できる人間関係の貴重さを教えてくれる一冊でもあった。

魔法がとけたあとも*奥田亜希子

  • 2019/06/23(日) 20:16:09

魔法がとけたあとも
魔法がとけたあとも
posted with amazlet at 19.06.23
奥田 亜希子
双葉社
売り上げランキング: 102,226

妊娠した。周りは正しい妊婦であるよう求めてくる(「理想のいれもの」)。
鼻のつけ根にある大きなホクロ。コンプレックスから解放される日が来た(「君の線、僕の点」)。
中学生の息子に髭、自分の頭には白いものが(「彼方のアイドル」)。
誰もが経験しうる、身体にまつわるあれこれ。
そこから見えてくる新たな景色を、やわらかな眼差しで掬いとった短編集。


人は、一時として同じところに留まってはいない。きのうの自分ときょうの自分は、すっかり同じではないし、だれかとの関係も、きのうときょうでは違っているのだろう。だが、そのことを嘆くのではなく、ほんのわずか視点を変えて見てみれば、新たな何かをみつけることもできるかもしれない。人という生きものの、心細さとたくましさが描かれているような気がした。自分を肯定してやりたくなる一冊と言えるかもしれない。

渦 妹背山婦女庭訓 魂結び*大島真寿美

  • 2019/04/08(月) 18:51:13

渦 妹背山婦女庭訓 魂結び (文春e-book)
文藝春秋 (2019-03-11)
売り上げランキング: 66,281

筆の先から墨がしたたる。やがて、わしが文字になって溶けていく──
虚実の渦を作り出した、もう一人の近松がいた。

江戸時代、芝居小屋が立ち並ぶ大坂・道頓堀。
大阪の儒学者・穂積以貫の次男として生まれた成章。
末楽しみな賢い子供だったが、浄瑠璃好きの父に手をひかれて、芝居小屋に通い出してから、浄瑠璃の魅力に取り付かれる。
近松門左衛門の硯を父からもらって、物書きの道へ進むことに。
弟弟子に先を越され、人形遣いからは何度も書き直しをさせられ、それでも書かずにはおられなかった半二。

著者の長年のテーマ「物語はどこから生まれてくるのか」が、義太夫の如き「語り」にのって、見事に結晶した長編小説。

「妹背山婦女庭訓」や「本朝廿四孝」などを生んだ
人形浄瑠璃作者、近松半二の生涯を描いた比類なき名作!


読み始めは、関西言葉や時代背景に馴染めず、なかなか物語に入り込めなかったが、次第に興が乗ってきて、次の展開が待ちきれないようになった。ランナーにはランナーズハイがあるというが、ライターにもライターズハイのようなものがあるのだろう。自分が書いているのではなく、なにかが降りてきて、あるいは、なにかに憑かれるように、書かされた、という感じなのだろうか。傑作とは往々にしてそんな風にして生み出されるものなのかもしれない。自らが創り出したものに違いはないのに、いつの間にか主人公がそこにいて、彼(彼女)が勝手に物語を紡ぎだしていく感覚のようである。その境地に行きつくまでが凄まじい。後半、半二が生み出したキャラクタ・三輪の語りが混じるが、それが時空を超えて現代にまで及んでおり、わかりやすい。半二が生きた時代と道頓堀という場所の熱気が伝わってくるような一冊だった。

それでも空は青い*荻原浩

  • 2019/02/08(金) 18:28:14

それでも空は青い
それでも空は青い
posted with amazlet at 19.02.08
荻原 浩
KADOKAWA (2018-11-29)
売り上げランキング: 73,932

人と人の組み合わせの数だけ、物語がある―― 読めば心が軽くなる傑作集!

バーテンダーの僕は、骨折で入院した先の看護師の彼女に恋をした。退院後、何度かバーを訪ねてくれたものの、バツイチ7歳年上の彼女との距離はなかなか縮まらない。なぜなら彼女は“牛男”と暮らしているようで……(「僕と彼女と牛男のレシピ」)。

人間関係に正解なんてない――
人づきあいに悩む背中をそっと押してくれる7つの物語。


「人と人との組み合わせの数だけ、物語がある」。まったくその通りだと思う。この物語たちも、ほんの偶然出会って関わることになった人と人が織りなす人生の一場面である。もし相手が違ったら、物語は全く別のものになっていただろう。どれもほんの少し切なく、胸の奥の炎が揺らされるような印象である。地上では過酷なことが起こっていたとしても、頭上には青空があると思うと、なぜかそうひどいことにはならないような気もしてくるから不思議である。愉しい時はもちろん、悲しい時も苦しい時も、なぜか明るさに包まれているような気分になれる。青空の下で思い切り生きたくなる一冊である。

九十九書店の地下には秘密のバーがある*岡崎琢磨

  • 2019/01/19(土) 12:53:01

九十九書店の地下には秘密のバーがある (ハルキ文庫)
岡崎琢磨
角川春樹事務所 (2018-11-14)
売り上げランキング: 103,375

訳あって入社二年で会社を辞め、自信をなくしていた長原佑(たすく)。ある日訪れた書店で、謎めいた女性店主から“仕事を探しているなら、今夜この店にもう一度来て”と告げられる。再訪した佑が案内されたのは、書店の地下を改装した秘密のバー。そこで店主のトワコさんから言い渡された、思いがけない“仕事”とは―。夜ごと悩みを抱えた人が訪れる、小さな書店とバーの日々。


昼間は書店、夜はバー、という極端な設定からまず興味が湧く。書店&バーのオーナーは九十九十八子と書いて「つくもとわこ」と読む。佑は、昼間は書店でアルバイトをし、夜は、バーのママとなったトワコさんからの指令を受けて、さまざまな仕事をこなすことで、飲み代をタダにしてもらうことになっている。常連さんたちの協力も得て、バーに持ち込まれる厄介事を解決するような仕事なのだが、なんの経験もない佑は、右往左往しながら奮闘する。その一生懸命な姿に、思わず応援したくなる。思ったように運ばないことも多々あるが、何となく納まるところに収まってしまうのが不思議なものである。登場人物の背景も少しずつ分かってきたところなので、シリーズ化されると嬉しい一冊である。

アリバイ崩し承ります*大山誠一郎

  • 2018/12/30(日) 16:30:52

アリバイ崩し承ります
大山 誠一郎
実業之日本社
売り上げランキング: 8,337

美谷時計店には、「時計修理承ります」だけでなく「アリバイ崩し承ります」という貼り紙がある。「時計にまつわるご依頼は何でも承る」のだという。難事件に頭を悩ませる捜査一課の新米刑事は、アリバイ崩しを依頼する。ストーカーと化した元夫のアリバイ、郵便ポストに投函された拳銃のアリバイ、山荘の時計台で起きた殺人のアリバイ…7つの事件や謎に、店主の美谷時乃が挑む。あなたはこの謎を解き明かせるか?


捜査一課の新米刑事の僕は、腕時計の電池を交換してもらおうと、商店街の時計店に入った。そこには、時計修理や、電池交換のほかに、「アリバイ崩し承ります」という貼り紙が。若い女性店主・時乃が、成功報酬五千円でアリバイを崩してくれるという。ちょうど担当している事件のアリバイ崩しに行き詰っていた僕は、アリバイ崩しを頼んでみることにする。頼りない男性としっかり者の女性という組み合わせには、特に目新しさはない。しかも、キャラクタがいささか弱い印象でもある。シリーズ化されて練れてくると違ってくるのかもしれないとも思う。アリバイはあっけなく崩れるが、その後の謎解きは面白く読んだ。次があることを期待したい一冊ではある。

夏を取り戻す*岡崎琢磨

  • 2018/12/23(日) 10:53:24

夏を取り戻す (ミステリ・フロンティア)
岡崎 琢磨
東京創元社
売り上げランキング: 83,749

これは、もうすぐ二十一世紀がやってくる、というころに起きた、愛すべき子供たちの闘いの物語。―不可能状況下で煙のように消え去ってみせる子供たちと、そのトリックの解明に挑む大人の知恵比べ。単なる家出か悪ふざけと思われた子供たちの連続失踪事件は、やがて意外な展開を辿り始める。地域全体を巻き込んだ大騒ぎの末に、雑誌編集者の猿渡の前に現れた真実とは?いま最も将来を嘱望される俊英が新境地を切り拓く、渾身の力作長編。ミステリ・フロンティア百冊到達記念特別書き下ろし作品、遂に刊行!


小学4年生の子どもたちが考えたこととは思えない出来事の連続だった。初めは単純に、子どもらしい動機からだと思って読み始めたが、ほどなく、なにかもっと深い理由が隠されているのではないかと思い始めた。城野原団地の内と外(傘外)との確執や、雑誌記者の佐々木と城野原との関わり、キャンプで起きた哀しい出来事、などなどが絶妙に絡み合い、事実が単純には見えてこないのも興味をそそられる。当事者の子どもたちが、意外過ぎるほど深刻にいろんなことを考えていることにも驚かされ、また、大人もその気持ちをないがしろにはできないと思い知らされる。ラストは、明るい未来を感じさせられるものになっていて、ほっとした。ほんの短い期間の出来事とは思えないほど濃密な内容の一冊だった。

ドアを開けたら*大崎梢

  • 2018/12/15(土) 18:38:30

ドアを開けたら
ドアを開けたら
posted with amazlet at 18.12.15
大崎梢
祥伝社
売り上げランキング: 272,488

鶴川佑作は横須賀のマンションに住む、独身の五十四歳。借りた雑誌を返すため、同じ階の住人・串本を訪ねた。だが、インターフォンを押しても返事がなく、鍵もかかっていない。心配になり家に上がると、来客があった痕跡を残して串本が事切れていた。翌日いっぱいまで遺体が発見されては困る事情を抱える佑作は、通報もせずに逃げ出すが、その様子を佐々木紘人と名乗る高校生に撮影され、脅迫を受けることに。翌朝、考えを改め、通報する覚悟を決めた佑作が紘人とともに部屋を訪れると、今度は遺体が消えていた…… 知人を訪ねただけなのに……最悪の五日間の幕が開く! 著者渾身の本格長編ミステリー!


もっとほのぼのとした物語かと思ったら、ドアを開けたら死体があって……、という目を覆いたくなる始まりだった。同じマンションの串本が倒れており、テーブルには飲みかけの紅茶が入った花柄のティーカップが二客。だが、発見者の祐作は、ごくごく個人的な思惑から見て見ないふりをしてしまった。しかし、高校生の少年・紘人に、部屋の出入りを動画に撮られ、なりゆきで、一緒に探偵まがいの行動をとることになるのだった。病死なのか、殺人なのか。殺人だとしたら犯人は誰なのか。探っていくうちに、さまざまな要因が絡んできて、どんどん話がややこしくなる。とはいえ、祐作と紘人が諦めずに調べ回らなければ、串本の汚名は雪がれることがなかったのだと思うと、何やら運命めいたものも感じられる。たった五日間の出来事とは思えないほど、たくさんの事々が詰まっているが、最後はほっと息がつけてよかった。無闇にドアを開けるのが怖くなる一冊かもしれない。

死神刑事*大倉崇裕

  • 2018/11/17(土) 16:59:31

死神刑事
死神刑事
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大倉 崇裕
幻冬舎 (2018-09-20)
売り上げランキング: 165,738

警視庁に死神あらわる!? 強盗殺人、偽装殺人、痴漢冤罪、誘拐……。無罪となった事件を再捜査する男がいた!! その常識破りの捜査からは、誰も逃げられない――。「福家警部補」シリーズで話題の著者が放つ、新感覚警察小説


どこの部署にも属さず、無罪となった事件を当時担当した警察官を相棒に指名し、独自の再捜査をする、儀藤堅忍は、死神と呼ばれている。だが、その風貌は小太りの冴えない中年男。そのギャップにまず驚かされる。では、さぞや厳しい捜査をするのだろうと思えば、一見そうは思えない。とは言え、なんだかんだで最後には真実を暴き出し、真犯人を追い詰めてしまうのだから、なんとも不思議な刑事である。相棒に指名された者は、初めこそ薄気味悪い心地にさせられるが、最後には、なんともあたたかい気持ちになるのである。不思議なキャラクタである。無罪事件がない時には何をしているのか、いささか気になってしまう。死神・儀藤、もっと見たいと思わされる一冊である。

ポストカプセル*折原一

  • 2018/09/29(土) 16:36:27

ポストカプセル
ポストカプセル
posted with amazlet at 18.09.29
折原一
光文社
売り上げランキング: 289,182

ラブレターが、遺書が、脅迫状が、礼状が、文学賞の受賞通知が、15年遅れで届いたら――? 心温まるはずの善意の企画(?)の裏に、驚愕の真相が……!? 騙しの名手が腕をふるった怪作ミステリーをご堪能ください。


本来ならポストカプセルに投函されるべきではない手紙がポストカプセルとして15年後に届けられたとしたら、受け取った人はどんな反応をするだろうか。ある者は懐かしみ、またある者は訝しみ、焦り、絶望し、何とか送り主に連絡を取ろうとし、あるいは、そのままくずかごに放り込む。本作の受取人たちの反応と、その後の対応、そして展開が早く知りたくて、気が逸る。そこに漂う気配は、決して本来のポストカプセルのようにほほえましいものではなく、怪しく不審なので、なおさらである。たった一通の手紙によって、人の未来はこれほど変わってくるものだろうか。ひとつひとつの事例にぞくぞくするのはもちろん、それらがどこかで繋がっているのに気づいたときには、驚きと戦慄が走る。だれが何のために、とさらにページを繰る手が止まらなくなる。小説ならではのハラハラ感である。読みながら思わず背後を気にしてしまう一冊でもある。

桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活*奥泉光

  • 2018/08/29(水) 10:10:36

桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活
奥泉 光
文藝春秋
売り上げランキング: 668,671

日本一下流の大学教師は今日もまた自虐の詩をうたう。


まさに、上記内容紹介の一文の通りである。読んでいてイライラするほどの自虐と向上心のなさ、そのくせ、ひょんなところで自己評価の高さが垣間見られ、なおさらイライラさせられる。今回は、レータンからたらちねに移籍したクワコーの毎日である。どっちもどっちな底辺の大学で、文芸部の女子たちに囲まれる(教授室を乗っ取られる)クワコーだが、やはり着任早々あれこれと厄介事に巻き込まれている。文芸部の女子たちも、それぞれ個性的に過ぎるキャラだが、学校の裏の林の段ボールハウスで暮らしているホームレス女子大生のジンジンの洞察力と推理力で、何となくミステリチックな謎を解き明かしてしまうのが、今回の注目点だろう。ここだけもっと深く描いてくれたらいいのに、と思わなくもない。ジンジン以外の誰にも思い入れが湧かなかったので、次はもういいか、と思う一冊である。

福家警部補の考察*大倉崇裕

  • 2018/08/24(金) 18:29:30

福家警部補の考察 (創元クライム・クラブ)
大倉 崇裕
東京創元社
売り上げランキング: 29,577

地位と愛情を天秤にかける医師の誤算(「是枝哲の敗北」)、夫の企みを察知し機先を制する料理好きな妻(「上品な魔女」)、身を挺して師匠の名誉を守ろうとするバーテンダー(「安息の場所」)、数年越しの計画で恋人の仇を討つ証券マン(「東京駅発6時00分 のぞみ1号博多行き」)――犯行に至るさまざまな事情と慮外の齟齬。透徹した眼力で犯人の思惑を見抜くシリーズ最新刊。


ドラマを観たときには、福家警部補は檀れいさんじゃないよなぁ、と思っていたのだが、映像の強さなのだろうか、ずっと檀れいさんに引きずられて読んでしまった。実際の(会ったことはないが)福家警部補は、もっと見た目は地味でキャラの立たない人だと思っているので、そんな彼女にぴったりと張り付かれると、心に疚しいところのある人にとっては、なんとも座りの悪い感じなのではないだろうか。今回も、事件発覚直後から、並々ならぬ観察眼と洞察力によって、真犯人に目星をつけ、すっと近寄ってピタッと張り付いている。その後のやり取りも、隙だらけな風でありながら、一分の隙なく論理的に追い詰めていくのが見事である。犯人は、彼女の姿を見た時点で自白したほうがいいと思うが、それでは読者が詰まらないので、これからも最後までじたばたしてほしいものである。次も愉しみなシリーズである。

モーダルな事象 桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活*奥泉光

  • 2018/08/21(火) 16:56:12


大阪のしがない短大助教授・桑潟のもとに、ある童話作家の遺稿が持ち込まれた。出版されるや瞬く間にベストセラーとなるが、関わった編集者たちは次々殺される。遺稿の謎を追う北川アキは「アトランチィスのコイン」と呼ばれる超物質の存在に行き着く…。ミステリをこよなく愛する芥川賞作家渾身の大作。


600ページ近いボリュームである。しかもみっしりと活字が詰まっている。さらには、導入部は、愚にもつかない桑潟幸一准教授の暮らしぶりが延々と続き、思わず本を閉じそうになること多々。だが、次第に、何が何だか判らない、いつ、どんなわけで巻き込まれたのかも判然としない、不可思議な事件の渦中に呑み込まれ、これを解き明かすのかと思えばさにあらず、クワコー自身はただならぬものを感じながらも、相変わらず愚にもつかない生活を送っていて、北川アキと諸橋倫敦という元夫婦がコンビとなって、なぜか調査に乗り出すのである。いまが一体いつなのか、どれが本当にあったことで、どれが妄想なのか、何もかもが混沌としていて、めまいがしそうなのであるが、後半は、なぜか次の展開を早く知りたくなるから不思議なものである。軽く読める物語とは言えないし、クワコーに肩入れしたくもならないのだが、なぜか惹きつけられる一冊でもあった。