ミ・ト・ン*小川糸 文  平澤まりこ 画

  • 2018/02/02(金) 16:55:10

ミ・ト・ン (MOE BOOKS)
ミ・ト・ン (MOE BOOKS)
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小川 糸 平澤 まりこ
白泉社
売り上げランキング: 23,283

昔ながらの暮らしを守る国ルップマイゼで波乱に満ちながらも慎ましく温かい生涯を送った女性マリカ。彼女のそばにはいつも神様の宿る美しいミトンがあった―。小説・小川糸、版画・平澤まりこのコラボレーションが紡ぎだす、愛しい物語世界。作品のモデルとなった国・ラトビアを旅するイラストエッセイも収録!


冬が長い国の、何気ない日々の暮らしと、そこに暮らす人たちの愛情あふれた人生が丁寧に描かれている。些細な日々の営みのひとつひとつをとても大切に暮らしていることが伝わってきて、胸の中があたたかいもので満たされる。悲しいことがあっても、一日一日を丁寧に暮らすことで、心が洗われていく様に心が動かされる。平澤まりこさんの挿画のやさしさが、さらにあたたかい気持ちにさせてくれる。出てくるものたちすべてが愛おしくなる一冊だった。

さよなら僕らのスツールハウス*岡崎琢磨

  • 2018/01/23(火) 06:49:53

さよなら僕らのスツールハウス
岡崎 琢磨
KADOKAWA (2017-10-26)
売り上げランキング: 348,695

関東某所、切り立った崖に建つシェアハウス、「スツールハウス」。
その名の通り、若者たちが腰をかけるように住み、旅立って行く場所。
同じ屋根の下、笑い、ときめき、時間を共有するものたちは、やがて懐かしく思い出す。
日常の謎に満ちた、何気ない生活を。
そしてそこには確かに、青春があったのだと……。

~何気なくも愛おしい青春の謎たち~
第一話 「メッセージ・イン・ア・フォト」弁護士の直之が、元彼女・あゆみの結婚式の動画用に送った写真の謎とは。
第二話 「シャワールームの亡霊」無人のシャワールームから聞こえるシャワーの水音に隠された、ある事件。
第三話 「陰の花」フラワーショップで働く白石は、かつての同居人で既婚の花織から、ある花の写真を見せられ……。
第四話 「感傷用」16年間住み続け、「スツールハウスの主」と呼ばれた女性、鶴屋素子。彼女がそこを去った訳とは。
第五話 「さよなら私のスツールハウス」人気作家となった素子は、「スツールハウス」を訪れるが……。


偶然同じ時期にシェアハウスで暮らすことになった人たちの間で起こった出来事の中に潜む日常の謎が描かれている。謎と言っても、ほのぼのとするものもあれば、心の闇を描くものもあり、テイストはさまざまである。それぞれの事情に絡む謎もあって、飽きさせない。スツールハウスの主と呼ばれる鶴屋素子の事情が明らかにされたときには、腑に落ちることがいくつもあった。腰掛の暮らしが彼らに与えた影響の大きさをも思わされる一冊である。

樹海警察*大倉崇裕

  • 2018/01/17(水) 18:26:43

樹海警察 (ハルキ文庫)
大倉崇裕
角川春樹事務所
売り上げランキング: 51,963

初任幹部科教育を終え、警部補になった柿崎努は、山梨県警上吉田署という辺鄙な場所、しかも聞いたこともない部署へ配属となった。署長に挨拶も行かず署員からおもむろに渡されたのは、カーキグリーンの軍用ベストやズボン、そして登山靴―。さらに連れて行かれた場所はなんと樹海…!?栗柄巡査、桃園巡査、そして事務方の明日野巡査長と共に、樹海で見つかった遺体専門の部署・地域課特別室に勤務することに…!腐乱死体から事件の匂いをかぎ取る!!書き下ろし樹海警察小説登場。


左遷された自覚がなく、あくまでも正論を貫く警部補・柿崎が着任したのは、樹海専門の特別室。課員は栗柄、桃園、そして事務方の明日野の三人。すべて訳ありでここにいる面々であり、それぞれにキャラが濃いが、各自のやり方で確実に捜査を進めていく様子は、強引で違法ぎりぎりの場合もあるが、頼もしくすらある。樹海で見つかる遺体を見て、事件の匂いを嗅ぎつける嗅覚はもちろん、真相を暴き出す手腕も見事である。いろいろ明らかになっていない点もあるので、シリーズ化されるのだろうか。このメンバーのはちゃめちゃぶりをもっと見てみたいと思わされる一冊である。

双生児*折原一

  • 2017/12/18(月) 18:25:05

双生児 (ハヤカワ・ミステリワールド)
折原 一
早川書房
売り上げランキング: 132,677

安奈は、自分にそっくりな女性を町で見かけた。それが奇怪な出来事の始まりだった。後日、探し人のチラシが届き、そこには安奈と瓜二つの顔が描かれていた。掲載の電話番号にかけるとつながったのは…さつきは養護施設で育ち、謎の援助者“足長仮面”のおかげで今まで暮らしてきた。突如、施設に不穏なチラシが届く。そこにはさつきと瓜二つの女性の願が描かれていて…“双生児ダーク・サスペンス”。


自分と瓜二つの人物に出会ったら、どんな気分だろう。過去と現在を行きつ戻りつしながら、同じ顔を持つ少女を取り巻く状況を少しずつ理解しようと読み進めた。途中までは、真相に近づいていく手ごたえを感じながらわくわくと先を急ぎたくなる。だが、とうとう事実が明かされようとするとき、なんだか一気に気が抜けるというか、「なぁんだ」という気分になってしまった。なにかもっと複雑で奥が深いからくりが隠されているのかと期待していただけに、肩透かしを食った感じではある。面白くなかったわけではないが、いささか拍子抜け感のある一冊だった。

病弱探偵*岡崎琢磨

  • 2017/10/09(月) 08:57:16

病弱探偵 謎は彼女の特効薬
岡崎 琢磨
講談社
売り上げランキング: 186,270

「患者」と「病(やまい)」を合わせた貫地谷マイという名前の主人公は高校1年生。彼女は病弱でしょっちゅう何かの病気にかかっており学校も休みがち。そして床にふせっている長い時間を使って謎を解く「寝台探偵(ベッド・ディテクティブ)」なのだ。
マイと幼馴染みの同級生、山名井ゲンキは「病まない」の名前通りに病気知らずの健康優良児。ひそかに想いを寄せているマイのために、ゲンキは学校で起こった不思議な事件を、今日もベッドサイドに送り届ける。
6つの謎と2人の恋の行く末は?
『珈琲店タレーランの事件簿』著者が放つ新たなるミステリー。


探偵役がベッドの上、というのもこれまでにない設定ではないだろうか。しかも、臥せっているときには鋭い推理力が、元気なときにはまるで発揮されないというのも独特である。探偵役のマイの手足や目となって活躍するアシスタント役は、その名も元気。こちらは推理力は凡人だが、人間関係は円満で、他人を思いやる気持ちも持ち合わせているので、聞きこみの際も疎ましがられることがないのがメリットでもある。いちいちマイによるそのときどきの病気の解説付きなので、そちらの豆知識も増えていく。高校生活における謎なので、他愛がないとも言えるが、当人たちにとっては一大事を解決してもらったことになり、心の闇をさらけ出されたことにもなる。微笑ましさも切なさも愉しめる一冊である。

横濱エトランゼ*大崎梢

  • 2017/09/21(木) 07:00:00

横濱エトランゼ
横濱エトランゼ
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大崎 梢
講談社
売り上げランキング: 29,363

高校3年生の千紗は、横浜のタウン誌「ハマペコ」編集部でアルバイト中。
初恋の相手、善正と働きたかったからだ。用事で元町の洋装店へ行った千紗は、
そこのマダムが以前あった元町百段をよく利用していたと聞く。
けれども善正によると元町百段は、マダムが生まれる前に崩壊したという。
マダムは幻を見ていた? それともわざと嘘をついた?
「元町ロンリネス」「山手ラビリンス」など珠玉の連作短編集。


タイトルの通り舞台は横浜。推薦で進路が決まった高校三年生の千紗が、幼いころ世話になったご近所さんで、ずっと気になっている善正が勤めるタウン誌の編集部でアルバイトをしながら、投書や取材中などに巡り合ったご当地にまつわる謎を解き明かしていく物語である。とは言え、解き明かすのは、千紗が相談を持ち掛ける善正であり、やさしいのかつれないのかわからない態度ながら、豊富な知識と推理力で、謎を解くカギを見つけ出し、やさしく解きほぐしてしまうのである。横浜の魅力も存分に味わえ、ほろ苦いような甘酸っぱいような恋の進展にも興味を惹かれ、それぞれの謎の主人公である人たちの歴史にも胸を熱くする。横浜に行ってみたくなる一冊である。

間取りと妄想*大竹昭子

  • 2017/09/19(火) 13:32:00

間取りと妄想
間取りと妄想
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大竹 昭子
亜紀書房
売り上げランキング: 20,090

13の間取り図から広がる、個性的な物語たち。身体の内と外が交錯する、ちょっとシュールで静謐な短編小説集。
まず家の間取を決め、次にそこで展開される物語を書いたのは大竹さんが世界初だろう、たぶん。13の間取りと13の物語。
―藤森照信氏(建築家・建築史家)
家の間取りは、心身の間取りに似ている。思わぬ通路があり、隠された部屋があり、不意に視界のひらける場所がある。空間を伸縮させるのは、身近な他者と過ごした時間の積み重ねだ。その時間が、ここではむしろ流れを絶つかのように、静かに点描されている。
―堀江敏幸氏(作家)
川を渡る船のような家。海を見るための部屋。扉が二つある玄関。そっくりの双子が住む、左右対称の家。わくわくするような架空の間取りから、リアルで妖しい物語が立ちのぼる。間取りって、なんて色っぽいんでしょう。
―岸本佐知子氏(翻訳家)


個人的に、子どものころから家の平面図を眺めてはあれこれ想像するのが好きだったので、タイトルが魅力的過ぎて手に取った。それぞれの物語の初めに平面図が置かれているので、物語を読みながら図面を改めて眺めて想像をたくましくし、また物語に戻って先を愉しむ、という読み方をした。文字を追っているだけの時以上に、見知らぬ町や世界にトリップした感じが強くして、興奮する読書タイムになった。密室ミステリなどでもよく間取り図が載せられているが、それとはひと味違うのめり込み方ができる一冊である。

秋霧*大倉崇裕

  • 2017/09/16(土) 18:35:35

秋霧
秋霧
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大倉崇裕
祥伝社
売り上げランキング: 230,823

「天狗岳に登ってきてくれんか」死期の迫った伝説的経営者上尾の依頼を受けた便利屋の倉持。山行の動画を撮る簡単な仕事のはずが、なぜか不審な影が。一方、元自衛隊特殊部隊員深江は、未解決殺人の対処に動く警視庁の儀藤に神出鬼没の殺し屋「霧」の追跡を依頼される。直後から何者かの襲撃を受け、奥多摩山中では凄惨な殺人現場に遭遇。その帰途、敵の車のカーナビに残っていた足跡を辿ると、目的地の病院で一人の男が拉致される現場を目撃する。直感に従い救出した男こそ、上尾にDVDを届けた倉持だった……。


便利屋の倉持と元自衛隊特殊部隊員の深江の物語が並行して語られるが、どちらも物騒な気配が色濃く漂う。どこでどうつながるのか興味津々で読み進めると、次々に荒事が目の前で繰り広げられ、いつしかふたつの物語はひとつになっている。勝か負けるかが、すなわち、生きるか死ぬかというような過酷な状況に、息が詰まる心地である。誰を信じればいいのかも判らない世界で、それでも本能的に信じられるものがあるというのが不思議でもあり、当然のようにも思われる。結局、ほんとうに勝ったのは誰なのか。当事者それぞれが違う感想を抱いているのかもしれない。どんなに過酷な状況にあっても、まずは人間と人間の繋がりなのだと思わされる一冊でもある。

珈琲店タレーランの事件簿 4 ブレイクは五種類のフレーバーで*岡崎琢磨

  • 2017/09/08(金) 18:46:29


五年前に失意の美星を救ったのは、いまは亡き大叔母が仕掛けた小さな“謎”だった―。京都にひっそりとたたずむ珈琲店“タレーラン”の庭に植えられたレモンの樹の秘密を描いた「純喫茶タレーランの庭で」をはじめ、五つの事件と書き下ろしショート・ショートを特別収録したミステリー短編集。


なんとなくこれまでとは趣が違うような印象だった。ほのぼのというよりも、裏の部分、陰の部分がクローズアップされているような気がする。ちょっとした仕掛けも仕込まれていたが、こういうことをしなくてもいいかもしれないなぁ、とはちょっと思う。最後の伯母さんとのエピソードもそうだが、人はひとりでは生きていけないのだと、改めて人間のつながりのあたたかさを思わされる一冊でもある。

珈琲店タレーランの事件簿5 この鴛鴦茶がおいしくなりますように*岡崎琢磨

  • 2017/09/02(土) 18:53:45


アオヤマが理想のコーヒーを探し求めるきっかけとなった女性・眞子。11年ぶりに偶然の再会を果たした初恋の彼女は、なにか悩みを抱えているようだった。後ろめたさを覚えながらも、アオヤマは眞子とともに珈琲店“タレーラン”を訪れ、女性バリスタ・切間美星に引き合わせるが…。眞子に隠された秘密を解く鍵は―源氏物語。王朝物語ゆかりの地を舞台に、美星の推理が冴えわたる!


シリーズ四作目をうっかり読み落としていたようで、先に五作目を読んでしまった。今作は、アオヤマがコーヒーと関わるきっかけになった眞子さんにまつわる謎がメインなのだが、想像以上に深刻である。それだけに、判断を間違えばとんでもないことになる可能性もあるのだが、そこはさすが美星さんである。ほんの小さな違和感や言葉遣いから、その創造力と推理力で真実を見抜いて、取り返しがつかない事態になりそうなことも、未然に防いでしまうのである。また、今回の物語では、源氏物語も鍵になっている。京都という場所柄、当然とも言えるが、源氏物語に引き寄せられてやって来た眞子さんと、アオヤマの再会には、運命めいたものも感じてしまう。眞子さんが案外弱くて、美星さんが意外に強いことも発見である。鴛鴦茶も一度味わってみたくなる。美星さんとアオヤマと珈琲店タレーランをずっと見ていたいシリーズである。

真夜中のパン屋さん 午前5時の朝告鳥*大沼紀子

  • 2017/08/29(火) 18:31:43

真夜中のパン屋さん 午前5時の朝告鳥 (ポプラ文庫)
大沼 紀子
ポプラ社 (2017-06-14)
売り上げランキング: 5,457

真夜中に開店する不思議なパン屋「ブランジェリークレバヤシ」。希実の母・律子の死から五年の月日が経ち、暮林や弘基の周辺には様々な変化の波が訪れていた。それは、常連客である斑目やソフィアやこだま、美作親子や多賀田たちにとっても同様だった。そしてもちろん、希実にとっても……。累計140万部突破のベストセラー「まよパン」シリーズ、ついに完結!!


前作からいきなり飛んだ印象である。それぞれ身辺に変化があり、思いもよらないしあわせに戸惑ったり、どうにもならずに呑み込まれたり、大きすぎる壁に突き当たってめり込んだり、とそれぞれの時間を過ごし、今作に至っている。完結編ということで、あれにもこれにもけりをつけようというのはわからなくもないが、なんとなくどれもが腑に落ちるところまでは到達していないまま終わってしまった気がしてならない。たとえば希実の父親のこととか。弘基と希実のこれからはどうなるのだろう。ブランジェリークレバヤシはどうなっていくのだろう。ラストの一場面で、暮林がパンを焼き続けるだろうことはわかるので、ひとまずほっとした。誰もが少しずつ足りなくて、誰かがそれを埋めてくれる。そんなことを思わされた一冊でもある。

クジャクを愛した容疑者 警視庁いきもの係*大倉崇裕

  • 2017/08/17(木) 16:39:47

クジャクを愛した容疑者 警視庁いきもの係
大倉 崇裕
講談社
売り上げランキング: 41,910

学同院大学で起きた殺人事件の容疑者は、クジャク愛好会の奇人大学生! だが無実を信じる警視庁いきもの係の名(迷)コンビ、窓際警部補・須藤友三と動物オタクの女性巡査・薄圭子はアニマル推理を繰り広げ、事件の裏側に潜むもうひとつの犯罪を探り当てる!? 犯人確定のカギはクジャクの「アレ」!?

警視庁の「いきもの係」というべき、総務部動植物管理係の名コンビ、窓際警部補・須藤友三(すどう・ともぞう)と動物オタクの女性巡査・薄圭子(うすき・けいこ)のアニマル推理が楽しめます!


ドラマ化もされ、ますます親しみを覚えるシリーズである。(石松の配役は全く別物だが。)今回は、ピラニア、クジャク、ハリネズミである。薄圭子は(すっかり橋本環奈で頭の中に登場するが)、相変わらず、人間社会のことにはまったくといっていいほど興味がなさそうで、とんちんかんな受け答えに苦笑するばかりだが、それを軽くいなす須藤も、なにやらすっかり慣れた様子で微笑ましい。今作では、いきもの係に捜査一課から芦部という新人が配属され、どんなに頼りになるかと思えば、生き物アレルギーだったりして、当てにしていいのかどうか悩ましい。薄の天然の行動によって、捜査中の事件の謎がひとつずつ明らかにされていくのは、見ていて愉しくなる。手柄を手柄と思っていないところも可愛い薄巡査である。最後の最後のそのまた最後に載せられている、「取材協力」にも思わず笑わされてしまった。次は何の生き物か愉しみなシリーズである。

錆びた太陽*恩田陸

  • 2017/08/04(金) 18:41:02

錆びた太陽
錆びた太陽
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恩田 陸
朝日新聞出版
売り上げランキング: 51,947

「最後の事故」で、人間が立ち入れなくなった立入制限区域のパトロールを担当するロボット「ウルトラ・エイト」たちの居住区に、国税庁から派遣されたという謎の女・財護徳子がやってきた。三日間の予定で、制限区域の実態調査を行うという。だが、彼らには、人間の訪問が事前に知らされていなかった!戸惑いながらも、人間である徳子の司令に従うことにするのだが…。彼女の目的は一体何なのか?直木賞受賞後長編第一作。


当然、原発事故にまず思いがいく。立入制限区域にいるのは、一度死んで甦った「マルピー」と呼ばれる存在、巨大な青い九尾の猫、巨大化して帯電した、「青玉」と呼ばれるタンブルウィードなどがいて、見回りをするだけでも一苦労なのである。そんな場所に若い女が派遣されてくることなど、本来考えられることではないのだが、国税庁からやって来たのは、財護徳子という20代後半の女性だった。ウルトラ・エイトたちのキャンプには、人間はいないのだが、ただ一人の人間・財護徳子は、超のつく自然体で、ロボットたちとも何の垣根もなく接している。ロボットたちにも新鮮な体験であり、心のないはずの彼らと徳子との間に心の通い合いがあるように見えるのが印象的である。財護徳子の本当の目的は何なのか、立入制限区域で何が起こっているのか、昔起こった一家殺人事件の真相は……。、近未来の冒険物語のようでもあり、人とロボットとの交流の物語でもあり、政府の隠ぺい体質の恐ろしさを暴く物語でもあり、さまざまな要素が絡み合って、面白さを増している。読み始め手間もなくは、もっと苦手な分野かと思ったが、予想に反して愉しめる一冊だった。

終わりなき夜に生まれつく*恩田陸

  • 2017/05/28(日) 16:31:51

終りなき夜に生れつく
恩田 陸
文藝春秋
売り上げランキング: 79,255

強力な特殊能力を持って生まれ、少年期を共に過ごした三人の“在色者”。彼らは別々の道を歩み、やがて途鎖の山中で再会する。ひとりは傭兵、ひとりは入国管理官、そしてもう一人は稀代の犯罪者となって。『夜の底は柔らかな幻』で凄絶な殺し合いを演じた男たちの過去が今、明らかになる。


スピンオフ作品とは知らずに読んだのだが、この系統がいささか得意ではないので、元作品の方はたぶん未読である。特殊能力を持つ在色者と呼ばれる人々と、一般の人々との軋轢は、現代社会にもある様々な差別意識の権化のようでもあり、痛ましくもやり切れない思いに駆られもする。さらに、在色者同士の心の読み合いや軋轢も存在し、そこには当然力と力のぶつかり合いもあって、何とも言い難い気持ちにさせられる。それぞれがそれぞれに穏やかに生きていくことはできない相談なのだろうか。興味深く読みはしたが、やはり苦手意識はなくならず、元作品はいいかな、といまのところは思っている一冊である。

失われた地図*恩田陸

  • 2017/05/07(日) 16:23:34

失われた地図
失われた地図
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恩田 陸
KADOKAWA (2017-02-10)
売り上げランキング: 20,751

川崎、上野、大阪、呉、六本木…日本各地の旧軍都に発生する「裂け目」。かつてそこに生きた人々の記憶が形を成し、現代に蘇える。記憶の化身たちと戦う、“力”を携えた美しき男女、遼平と鮎観。運命の歯車は、同族の彼らが息子を授かったことから狂い始め―。新時代の到来は、闇か、光か。


実を言うと、個人的には恩田作品のこちらの流れはいささか苦手である。読み始めて間もなくは、ページを閉じようかとも思ったが、もうしばらく、と読み進めていくうちに、次第に惹きこまれてしまった。普通に暮らしている人々には、そのすぐ脇で鮎観(あゆみ)や遼平のような力を持った一族のものたちが過去の禍々しい記憶の産物と苛烈な闘いを繰り広げ、しかも一族ならではの悩みに苦しんでいるなどとは思いもよらず、対比して考えると切なくもなる。ラストの遼平と鮎観のひとり息子・俊平の姿を見ると、続編がありそうな気がするが、それが凶と出るのか吉と出るのかは予測がつかない。彼らに心休まる日々を、とつい願ってしまう一冊でもある。