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約束された移動*小川洋子

  • 2020/01/13(月) 16:44:36


ハリウッド俳優Bの泊まった部屋からは、決まって一冊の本が抜き取られていた。
Bからの無言の合図を受け取る客室係……「約束された移動」。
ダイアナ妃に魅了され、ダイアナ妃の服に真似た服を手作りし身にまとうバーバラと孫娘を描く……「ダイアナとバーバラ」。
今日こそプロポーズをしようと出掛けた先で、見知らぬ老女に右腕をつかまれ、占領されたまま移動する羽目になった僕……「寄生」など、“移動する"物語6篇、傑作短篇集。



さまざまなテイストの物語が集まっている。だが、これらを「移動」に注目してまとめたのは、著者ならではではの感性ではないだろうか。どの物語の主人公も、自分なりのこだわりを持っていて、それは、一般の人に比べても確固としている風に見える。世間との折り合いよりも、自分の中の規則に従って生きる人たちが描かれていて、傍から見ると不自由そうにも見えるのだが、それこそが彼らにとってのしあわせなのだろう、とも思われる。普段気づかない方向からの視点で愉しめる一冊でもある。

罪の轍*奥田英朗

  • 2019/12/24(火) 20:48:37


刑事たちの執念の捜査×容疑者の壮絶な孤独――。犯罪小説の最高峰、ここに誕生! 東京オリンピックを翌年に控えた昭和38年。浅草で男児誘拐事件が発生し、日本中を恐怖と怒りの渦に叩き込んだ。事件を担当する捜査一課の落合昌夫は、子供達から「莫迦」と呼ばれる北国訛りの男の噂を聞く――。世間から置き去りにされた人間の孤独を、緊迫感あふれる描写と圧倒的リアリティで描く社会派ミステリの真髄。


587ページという大作である。だが、終始飽きさせず、次の展開を知りたくてページを繰る手が止まらなくなる。帯の惹句を見ただけで、あの事件がモチーフなのだろうということは判るが、大枠は別として、細部はまったく別の物語である。そして、何より興味深いのは、早い段階から真犯人と目されながら、さっぱり捉えどころのない宇野寛治のことである。罪の意識があるのかないのか、嘘をつくつもりがあるのかないのか、善悪の判断がつくのか憑かないのか、知能犯なのか莫迦なのか。寛治の行動のひとつひとつが、どれをとってもちぐはぐで、ひとつの人格に収まり切らない印象なのである。それゆえになおさら、寛治のことを知りたくて、先を急ぎたくなるのである。舞台となった時代背景も現在とはかなり違うので、今なら到底許されないだろう差別的な言葉も多用されるが、その時代の混沌をよく表しているとも思える。やりきれないことだらけの事件だが、通い合った情も確かにあったのだと、ほんの少し救われた気もする。とても重いが興味深い一冊だった。

小箱*小川洋子

  • 2019/11/26(火) 16:44:08

小箱
小箱
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小川 洋子
朝日新聞出版
売り上げランキング: 4,153

死んだ子どもたちの魂は、小箱の中で成長している。死者が運んでくれる幸せ。
世の淵で、冥福を祈る「おくりびと」を静謐に愛おしく描く傑作。


元幼稚園の園舎に住む主人公は、死んだ子供たちの未来を入れたガラスの小箱の管理人でもある。産院は爆破され、新しい子どもはもう生まれては来ない。子どもを失った親は、その未来を小箱の中に思い描いて祈るのである。元歯科医が削り出す竪琴に、元美容師によって遺髪の弦が張られ、耳飾りとして音楽を奏でる。誰もが思いを込めたやり方で、それぞれの祈りを祈っている。とても静かで濃やかで、この上なく穏やかな心持にさせられはするのだが、その実、奥底では胸をかきむしりたくなるような何かに掻き立てられ、居ても立ってもいられなくなりそうでもある。心を鎮めながら、狂おしく苛んでいる、そんな印象の一冊である。

彼方のゴールド*大崎梢

  • 2019/11/24(日) 16:26:54

彼方のゴールド
彼方のゴールド
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大崎 梢
文藝春秋
売り上げランキング: 16,745

野球もサッカーも知らずスポーツ雑誌に配属された明日香には、ある競技に纏わる苦い思い出が……。人気の出版社お仕事小説第三弾。


自分自身、スポーツには全くと言っていいほど疎いので、読み始めてすぐはどうなることかと思ったが、明日香がGold編集部やスポーツ選手への取材に慣れていくにつれて、一緒に歩むように集中できるようになっていくのが愉しかった。子どもの頃の体験や記憶も絡めて物語は進み、さまざまなスポーツ、さまざまな状況の選手に取材し、次第にスポーツに熱意を抱いていく明日香が輝いて見える。少しずつ自分の中に引き出しが増え、人脈も増えて、通り一遍ではない取材ができる帰社になれそうな兆しが見えて頼もしくもある。個人個人のスポーツとの関わり方もそれぞれで、その背景に思いを致すのもまた興味深い。何かに燃えてみたいと思わされる一冊でもあった。

楽園の真下*荻原浩

  • 2019/11/08(金) 18:43:06

楽園の真下
楽園の真下
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荻原 浩
文藝春秋
売り上げランキング: 30,412

日本でいちばん天国に近い島といわれる「志手島」は、本土からは船で19時間、イルカやクジラの泳ぐコーラルブルーの海に囲まれ、亜熱帯の緑深い森に包まれている。
そんな楽園で、ギネス級かもしれない17センチの巨大カマキリが発見された。『びっくりな動物図鑑』を執筆中だったフリーライターの藤間達海は、取材のため現地を訪れるが、 志手島には楽園とは別の姿があった。
2年間で12人が、自殺と思しき水死体で発見されており、ネットでは「自殺の新名所」と話題になって「死出島」と呼ばれていたのだ。
かつて妻を自殺で失った藤間は、なぜ人間は自ら命を絶とうとするのかを考え続けており、志手島にはその取材も兼ねて赴いていた。
やがて島で取材を続ける藤間の身の回りでも不審死が……。


タイトルからは想像できない凄まじさである。ゆるりゆるりとした島時間で過ごす島の人たちだが、ここ二年で12人もの自殺者が出るというのは尋常ではない。しかも、涙人湖(るにんこ)という沼のような湖が、決まってその現場なのである。フリーライターの藤間は、17㎝の大カマキリの情報を追って、志手島にやってきたのだが、志手島野生生物研究センターの秋村准教授とともに調査するうちに、とんでもないことが起こっている気配に、調査にも本腰が入る。次々に明らかになる知られざる事実に愕然とし、そんな暇もないほど緊迫した状況になる。島民のゆるりゆるり体質が恨めしくも感じられる。後半は、アクションホラーと言ってもいいような様相を呈し、頭がなかなか起こっていることを受け入れてくれないが、死と隣り合わせであることだけは確信できる。ラストは、一件落着でめでたしめでたし、かと思いきや、またまた不安の種が蒔かれてしまった。実写化されたとしても見たくない一冊である。

ひと*小野寺史宜

  • 2019/10/28(月) 16:42:41

ひと
ひと
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小野寺 史宜
祥伝社
売り上げランキング: 5,148

母の故郷の鳥取で店を開くも失敗、交通事故死した調理師の父。女手ひとつ、学食で働きながら一人っ子の
僕を東京の大学に進ませてくれた母。――その母が急死した。柏木聖輔は二十歳の秋、たった一人になった。
全財産は百五十万円、奨学金を返せる自信はなく、大学は中退。仕事を探さなければと思いつつ、動き出せ
ない日々が続いた。そんなある日の午後、空腹に負けて吸い寄せられた商店街の総菜屋で、買おうとしていた
最後に残った五十円コロッケを見知らぬお婆さんに譲った。それが運命を変えるとも知らずに……。

そんな君を見ている人が、きっといる――。


主人公・聖輔の境遇は、劇的だが、それを除いて、物語は淡々と描かれている。人の縁に恵まれ、自らの判断にも助けられながら、さまざまなものを捨てながらも、それ以上のものを得て生きている聖輔の日々が愛おしくなる。誰かに見せるためでなくても、自分を律し、他人のことを慮って生きている姿に、とても好感が持てる。日々は淡々と過ぎていくように見えるが、確実に何かが積み重ねられているのだと感じられる。もっと他人に頼ればいいのに、と思ってしまうが、それができないところが聖輔であり、それだからこそ今、そしてこれからがあるのかもしれない。頼り合え、支えあえる存在がずっと一緒にいてくれることを願いたくなる一冊である。

道然寺さんの双子探偵 揺れる少年*岡崎琢磨

  • 2019/08/27(火) 09:50:47

道然寺さんの双子探偵 揺れる少年 (朝日文庫)
岡崎 琢磨
朝日新聞出版 (2019-05-13)
売り上げランキング: 420,665

福岡の夕筑市にある寺院・道然寺で暮らす中学3年生のランとレン。
人の善意を信じるランと悪意を敏感にかぎ取るレン、正反対の視点を持つ双子が活躍するシリーズ第2弾。
熊本地震から逃れ、転校してきた少年の秘めた思いが引き起こした事件の謎を解き明かす。


複雑な境遇にある双子のレンとランが、身近な問題を解きほぐす物語の二作目である。置き去りにされていた赤ん坊のリンが加わったことで、誰かに守られること、そして誰かを守ることをより意識するようになったように見える。そんな折に、熊本地震で家を失って転校してきた志垣雄哉に関して心配事が出現し、レンがこの頃仲良くしている蓬莱司が深くかかわっていることがわかる。何とかしようともくろむ二人(特にラン)だったが、事態はそれほど単純なものではなかったのである。人の心のなかというのは、表からはうかがい知れないほど複雑で、良かれと思ってしたことが裏目に出ることも少なくない。人と人との関わりの難しさを、中学生のランとレンのみならず、保護者的な立場の僧侶である一海も、改めて認識させられたことだろう。そして、難しくはあるが、誠意をもってあたれば、思いは通じる、というのもまた真理であるような気がする。少しずつ成長していく双子と、一海さんのこれからも、見守り続けたいシリーズである。

アロワナを愛した容疑者*大倉崇裕

  • 2019/07/29(月) 16:45:35

アロワナを愛した容疑者 警視庁いきもの係
大倉 崇裕
講談社
売り上げランキング: 64,927

連ドラ化もされた大人気「警視庁いきもの係」シリーズ、待望の第5弾!
「タカを愛した容疑者」「アロワナを愛した容疑者」「ランを愛した容疑者」の3作品を収録。

さらに「アロワナを愛した容疑者」では、大好評「福家警部補」シリーズの主役・福家警部補と警視庁いきもの係の薄、須藤が夢の共演! このコラボは見逃せない!!


登場人物像が、すっかりドラマに引きずられている。映像のパワーはものすごい。もうたぶん、著者ご自身も、その設定で書いていらっしゃるのではないかという気もしてしまう。薄巡査は、相変わらず天然の頓珍漢ぶりを発揮し、須藤はずいぶん彼女の扱いに慣れ、ほとんどのことには動じなくなっているのがおかしくて、つい苦笑してしまうが、信頼関係も築けていてなかなかいい凸凹コンビである。薄巡査にそのつもりがあるのかないのかはよくわからないが、結果として事件を解決に導いているので、「いきもの係」の知名度も信頼度も少しずつ増してきているのが読者としてもうれしいところである。次はどんな生き物が登場するか、愉しみでもあるシリーズである。

宝の地図をみつけたら*大崎梢

  • 2019/07/07(日) 16:46:23

宝の地図をみつけたら (幻冬舎文庫)
大崎 梢
幻冬舎 (2019-04-10)
売り上げランキング: 207,387

小学生の頃、祖母からこっそり手に入れた 「金塊が眠る幻の村」の地図。それは晶良と 伯斗の友情の証、そして秘密の冒険の始まり だった。「探しに行かないか、昔みたいにふ たりで」。渋々と宝探しを再開する晶良だっ たが、直後、伯斗の消息が途絶えてしまう。 代わりに"お宝"を狙うヤバイ連中が次々に現 れて……! ? 手に汗握る"埋蔵金"ミステリー!


著者の作品なので、もっとほのぼのとした宝探しの物語かと思って読み始めた。途中までは、そんな感じでなくはなかったものの、その後の急展開には目を瞠るものがある。夢を追っていたのに、突然現実に引き戻されたようであり、スリルとサスペンスとハードボイルドが入り交じった展開に驚くばかりである。山の中での道なき道の追跡や逃走。ほんの些細な気配で敵か味方かを判断し、一瞬で足の向く先を決めなければならない緊迫感。命の危険さえはらむ展開にハラハラドキドキが止まらない。宝の山を目前にした人間の本性と、それでも信頼できる人間関係の貴重さを教えてくれる一冊でもあった。

魔法がとけたあとも*奥田亜希子

  • 2019/06/23(日) 20:16:09

魔法がとけたあとも
魔法がとけたあとも
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奥田 亜希子
双葉社
売り上げランキング: 102,226

妊娠した。周りは正しい妊婦であるよう求めてくる(「理想のいれもの」)。
鼻のつけ根にある大きなホクロ。コンプレックスから解放される日が来た(「君の線、僕の点」)。
中学生の息子に髭、自分の頭には白いものが(「彼方のアイドル」)。
誰もが経験しうる、身体にまつわるあれこれ。
そこから見えてくる新たな景色を、やわらかな眼差しで掬いとった短編集。


人は、一時として同じところに留まってはいない。きのうの自分ときょうの自分は、すっかり同じではないし、だれかとの関係も、きのうときょうでは違っているのだろう。だが、そのことを嘆くのではなく、ほんのわずか視点を変えて見てみれば、新たな何かをみつけることもできるかもしれない。人という生きものの、心細さとたくましさが描かれているような気がした。自分を肯定してやりたくなる一冊と言えるかもしれない。

渦 妹背山婦女庭訓 魂結び*大島真寿美

  • 2019/04/08(月) 18:51:13

渦 妹背山婦女庭訓 魂結び (文春e-book)
文藝春秋 (2019-03-11)
売り上げランキング: 66,281

筆の先から墨がしたたる。やがて、わしが文字になって溶けていく──
虚実の渦を作り出した、もう一人の近松がいた。

江戸時代、芝居小屋が立ち並ぶ大坂・道頓堀。
大阪の儒学者・穂積以貫の次男として生まれた成章。
末楽しみな賢い子供だったが、浄瑠璃好きの父に手をひかれて、芝居小屋に通い出してから、浄瑠璃の魅力に取り付かれる。
近松門左衛門の硯を父からもらって、物書きの道へ進むことに。
弟弟子に先を越され、人形遣いからは何度も書き直しをさせられ、それでも書かずにはおられなかった半二。

著者の長年のテーマ「物語はどこから生まれてくるのか」が、義太夫の如き「語り」にのって、見事に結晶した長編小説。

「妹背山婦女庭訓」や「本朝廿四孝」などを生んだ
人形浄瑠璃作者、近松半二の生涯を描いた比類なき名作!


読み始めは、関西言葉や時代背景に馴染めず、なかなか物語に入り込めなかったが、次第に興が乗ってきて、次の展開が待ちきれないようになった。ランナーにはランナーズハイがあるというが、ライターにもライターズハイのようなものがあるのだろう。自分が書いているのではなく、なにかが降りてきて、あるいは、なにかに憑かれるように、書かされた、という感じなのだろうか。傑作とは往々にしてそんな風にして生み出されるものなのかもしれない。自らが創り出したものに違いはないのに、いつの間にか主人公がそこにいて、彼(彼女)が勝手に物語を紡ぎだしていく感覚のようである。その境地に行きつくまでが凄まじい。後半、半二が生み出したキャラクタ・三輪の語りが混じるが、それが時空を超えて現代にまで及んでおり、わかりやすい。半二が生きた時代と道頓堀という場所の熱気が伝わってくるような一冊だった。

それでも空は青い*荻原浩

  • 2019/02/08(金) 18:28:14

それでも空は青い
それでも空は青い
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荻原 浩
KADOKAWA (2018-11-29)
売り上げランキング: 73,932

人と人の組み合わせの数だけ、物語がある―― 読めば心が軽くなる傑作集!

バーテンダーの僕は、骨折で入院した先の看護師の彼女に恋をした。退院後、何度かバーを訪ねてくれたものの、バツイチ7歳年上の彼女との距離はなかなか縮まらない。なぜなら彼女は“牛男”と暮らしているようで……(「僕と彼女と牛男のレシピ」)。

人間関係に正解なんてない――
人づきあいに悩む背中をそっと押してくれる7つの物語。


「人と人との組み合わせの数だけ、物語がある」。まったくその通りだと思う。この物語たちも、ほんの偶然出会って関わることになった人と人が織りなす人生の一場面である。もし相手が違ったら、物語は全く別のものになっていただろう。どれもほんの少し切なく、胸の奥の炎が揺らされるような印象である。地上では過酷なことが起こっていたとしても、頭上には青空があると思うと、なぜかそうひどいことにはならないような気もしてくるから不思議である。愉しい時はもちろん、悲しい時も苦しい時も、なぜか明るさに包まれているような気分になれる。青空の下で思い切り生きたくなる一冊である。

九十九書店の地下には秘密のバーがある*岡崎琢磨

  • 2019/01/19(土) 12:53:01

九十九書店の地下には秘密のバーがある (ハルキ文庫)
岡崎琢磨
角川春樹事務所 (2018-11-14)
売り上げランキング: 103,375

訳あって入社二年で会社を辞め、自信をなくしていた長原佑(たすく)。ある日訪れた書店で、謎めいた女性店主から“仕事を探しているなら、今夜この店にもう一度来て”と告げられる。再訪した佑が案内されたのは、書店の地下を改装した秘密のバー。そこで店主のトワコさんから言い渡された、思いがけない“仕事”とは―。夜ごと悩みを抱えた人が訪れる、小さな書店とバーの日々。


昼間は書店、夜はバー、という極端な設定からまず興味が湧く。書店&バーのオーナーは九十九十八子と書いて「つくもとわこ」と読む。佑は、昼間は書店でアルバイトをし、夜は、バーのママとなったトワコさんからの指令を受けて、さまざまな仕事をこなすことで、飲み代をタダにしてもらうことになっている。常連さんたちの協力も得て、バーに持ち込まれる厄介事を解決するような仕事なのだが、なんの経験もない佑は、右往左往しながら奮闘する。その一生懸命な姿に、思わず応援したくなる。思ったように運ばないことも多々あるが、何となく納まるところに収まってしまうのが不思議なものである。登場人物の背景も少しずつ分かってきたところなので、シリーズ化されると嬉しい一冊である。

アリバイ崩し承ります*大山誠一郎

  • 2018/12/30(日) 16:30:52

アリバイ崩し承ります
大山 誠一郎
実業之日本社
売り上げランキング: 8,337

美谷時計店には、「時計修理承ります」だけでなく「アリバイ崩し承ります」という貼り紙がある。「時計にまつわるご依頼は何でも承る」のだという。難事件に頭を悩ませる捜査一課の新米刑事は、アリバイ崩しを依頼する。ストーカーと化した元夫のアリバイ、郵便ポストに投函された拳銃のアリバイ、山荘の時計台で起きた殺人のアリバイ…7つの事件や謎に、店主の美谷時乃が挑む。あなたはこの謎を解き明かせるか?


捜査一課の新米刑事の僕は、腕時計の電池を交換してもらおうと、商店街の時計店に入った。そこには、時計修理や、電池交換のほかに、「アリバイ崩し承ります」という貼り紙が。若い女性店主・時乃が、成功報酬五千円でアリバイを崩してくれるという。ちょうど担当している事件のアリバイ崩しに行き詰っていた僕は、アリバイ崩しを頼んでみることにする。頼りない男性としっかり者の女性という組み合わせには、特に目新しさはない。しかも、キャラクタがいささか弱い印象でもある。シリーズ化されて練れてくると違ってくるのかもしれないとも思う。アリバイはあっけなく崩れるが、その後の謎解きは面白く読んだ。次があることを期待したい一冊ではある。

夏を取り戻す*岡崎琢磨

  • 2018/12/23(日) 10:53:24

夏を取り戻す (ミステリ・フロンティア)
岡崎 琢磨
東京創元社
売り上げランキング: 83,749

これは、もうすぐ二十一世紀がやってくる、というころに起きた、愛すべき子供たちの闘いの物語。―不可能状況下で煙のように消え去ってみせる子供たちと、そのトリックの解明に挑む大人の知恵比べ。単なる家出か悪ふざけと思われた子供たちの連続失踪事件は、やがて意外な展開を辿り始める。地域全体を巻き込んだ大騒ぎの末に、雑誌編集者の猿渡の前に現れた真実とは?いま最も将来を嘱望される俊英が新境地を切り拓く、渾身の力作長編。ミステリ・フロンティア百冊到達記念特別書き下ろし作品、遂に刊行!


小学4年生の子どもたちが考えたこととは思えない出来事の連続だった。初めは単純に、子どもらしい動機からだと思って読み始めたが、ほどなく、なにかもっと深い理由が隠されているのではないかと思い始めた。城野原団地の内と外(傘外)との確執や、雑誌記者の佐々木と城野原との関わり、キャンプで起きた哀しい出来事、などなどが絶妙に絡み合い、事実が単純には見えてこないのも興味をそそられる。当事者の子どもたちが、意外過ぎるほど深刻にいろんなことを考えていることにも驚かされ、また、大人もその気持ちをないがしろにはできないと思い知らされる。ラストは、明るい未来を感じさせられるものになっていて、ほっとした。ほんの短い期間の出来事とは思えないほど濃密な内容の一冊だった。