卵を買いに*小川糸

  • 2018/06/06(水) 16:35:48

卵を買いに (幻冬舎文庫)
小川 糸
幻冬舎 (2018-02-07)
売り上げランキング: 99,957

取材で訪れたラトビアに、恋してしまいました。手作りの黒パンや採れたての苺が並ぶ素朴だけれど洗練された食卓、代々受け継がれる色鮮やかなミトン、森と湖に囲まれて暮らす人々の底抜けに明るい笑顔。キラキラ輝くラトビアという小さな国が教えてくれた、生きるために本当に大切なもの。新たな出会いと気づきの日々を綴った人気日記エッセイ。


著者のエッセイを読むのはやめようと思っていたのに、うっかり読み始めてしまった。前回ほどではないが、やはり個人的には好きになれない。自分が知らないとき、体験したことがないときには、それに関係する他人を批判したりもするのに、いざ自分が体験して、その物事のことを知ったりすると、がらりと評価を変え――それ自体は悪いことではないのだが――、あっさりと前言を翻すあたりが、なんとも腑に落ちないのである。それなら、自分が知らないことにのめりこむ人を批判しなければいいのに、と思ってしまう。今回も、著者の身勝手さばかりが鼻についてしまった感じの一冊である。

極小農園日記*荻原浩

  • 2018/05/30(水) 16:30:20

極小農園日記
極小農園日記
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荻原 浩
毎日新聞出版 (2018-03-09)
売り上げランキング: 37,159

小さな庭での野菜づくりに一喜一憂。 創作や旅の名エッセーを収録したファン待望の初エッセイ集。
家族に白い目で見られながらも庭の片隅で細々と続ける長年の趣味、家庭菜園。
小さな戦場で季節ごとの一喜一憂を綴った爆笑奮闘記。

書き下ろし、直筆イラストも多数収録。
直木賞受賞時も絶賛された軽快な文章とユーモアで、
著者の素顔(時々毒づきオヤジ)が垣間見える、愉快痛快エッセー集。

もくじ
第1章 極小農園日記」PART1(秋冬編)
第2章 極狭旅ノート
第3章 極私的日常スケッチ(厳選25篇)
第4章 極小農園日記PART2(初夏編)......書き下ろし


著者にこんなご趣味があったのを初めて知って、なんだかうれしくなる。菜園での奮闘ぶりや、一喜一憂ぶりが目に浮かぶようである。まさに好きではくてはこだわれないあれこれが満載で、思わずにんまりしてしまう。農園日記以外も、思わず漏れ出てくる心の声がどれもこれも好ましい。小説家の書かれるエッセイは、個人的に苦手なものが多いのだが、本作は好みの一冊である。

春待ち雑貨店 ぷらんたん*岡崎琢磨

  • 2018/04/28(土) 18:21:16

春待ち雑貨店 ぷらんたん
岡崎 琢磨
新潮社
売り上げランキング: 288,705

京都にあるハンドメイド雑貨店『ぷらんたん』。店主の北川巴瑠のもとには今日も不思議な出来事が舞い込む。イヤリングの片方だけを注文する客、遠距離恋愛中の彼氏から貰ったアルファベットの欠けたネックレス、頑なに体の関係を拒む恋人、そして、お店への嫌がらせ。ひとつひとつに寄り添い、優しく解きほぐしていく巴瑠。でも、そんな彼女にも人には言えない、ある秘密があった。とあるアクセサリーショップと4人の来訪者をめぐる物語。


一歩店内に入れば、たちどころにその場所が好きになる。そんな店がぷらんたん。巴瑠の手作りアクセサリーを主に、数人の作家の作品も置いている小さな店だ。手作りアクセサリーには、作り手の内面がにじみ出るのか、リピーターもついてくれ、細々とではあるが続けることができている。そんな巴瑠にも、そのことによって、人生の道筋さえもちがってくるかもしれない屈託があるのだが、進んで人に言いたいことではない。店に舞い込む困りごとに、親身に向き合うのも、人の痛みがわかるから、ということもあるだろう。恋人や友人、お客さんとの関係を通して、困りごとに解決の糸口を見つけたりしながら、巴瑠自身も少しずつ強くなり、前向きになっていくのがわかって、応援したくなる。いつでも真っ直ぐでいようと思わせてくれる一冊でもある。

モモコとうさぎ*大島真寿美

  • 2018/04/21(土) 08:45:59

モモコとうさぎ
モモコとうさぎ
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大島 真寿美
KADOKAWA (2018-02-01)
売り上げランキング: 277,571

働くって、生きるってどういうことだろう―。モモコ、22歳。就活に失敗して、バイトもクビになって、そのまま大学卒業。もしかして私、世界じゅうで誰からも必要とされてない―!?何をやってもうまくいかなかったり、はみだしてしまったり。寄るべない気持ちでたゆたうように生きる若者の、云うに云われぬ憂鬱と活路。はりつめた心とこわばった躰を解きほぐす、アンチ・お仕事小説!


家庭の事情には複雑なものがあったが、それ以外には大学まで躓かずにやってきたモモコだったが、就職活動にことごとく失敗し、自分は世界中から必要とされていないのではないかという強迫観念にさいなまれ、引きこもってちくちくと縫物ばかりしている日々。そして不意に思い立っての家出。初めは友人知人に頼りつつ、暗~く生きていたが、触れ合う人たちから次第に掃除の腕を買われ、仮の居場所を得ていく。だが、そことて終の棲家とは言えず、モモコは自分の居場所を探し続けるのである。彼女にいつも寄り添うのは、かつての母のパートナーの連れ子である姉がくれた不思議なうさぎ。うさぎ同士が同期して不思議な力を持つようになるという。ときおり、あちこちにいるうさぎたちが話し合っていたりはするが、彼らがあまりうまく生かされていないような印象でいささか残念な気はする。結局、モモコの行く末は、いまだに茫漠としてはいるが、家出した当初から比べると、得るものがたくさんあったようには思える。母や家族に翻弄されず、これからはモモコとしての人生を生きていってほしいと思わせる一冊である。

犬とペンギンと私*小川糸

  • 2018/04/12(木) 16:29:23

犬とペンギンと私 (幻冬舎文庫)
小川 糸
幻冬舎 (2017-02-07)
売り上げランキング: 183,591

女子四人組で旅したインドでは、ヨガとカレー三昧。仕事で訪れたパリでは、お目当てのアップルパイを求めて一人お散歩。旅先で出会った忘れられない味と人々。でも、やっぱり我が家が一番!新しく家族の一員になった愛犬と“ペンギン”の待つ家で、パンを焼いたり、いちじくのジャムを煮たり。毎日をご機嫌に暮らすヒントがいっぱいの日記エッセイ。


そもそもが日記なのだから、何が書いてあろうと文句を言う立場にはないのだ。それと知って読んでいるのだからなおさらである。でも、最初から最後まで、何となく置き去りにされた感が否めず、人の暮らしを覗き見て、ふんふんとうなずく愉しみは、残念ながら得られなかった。まったく勝手な感想だということは重々承知である。単に相性があまり良くなかったということなのかもしれないが、時折イラっとさせられる一冊ではあった。

キラキラ共和国*小川糸

  • 2018/03/26(月) 16:46:20

キラキラ共和国
キラキラ共和国
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小川 糸
幻冬舎 (2017-10-25)
売り上げランキング: 4,863

ツバキ文具店は、今日も大繁盛です。夫からの詫び状、憧れの文豪からの葉書、大切な人への最後の手紙…。伝えたい思い、聞きたかった言葉、承ります。『ツバキ文具店』待望の続編。


今回は、代書屋さんの物語よりも、鳩子の私生活によりスポットが当てられていたように思う。代書の仕事ももちろんあるのだが、新しく家族になった、ミツローさんやQPちゃんのこと、お隣のバーバラ婦人やご近所さんたちとのあれこれ、そして、鳩子の産みの母のことなどが描かれていて、さらに次につなげるための物語のようでもある。代書の仕事に関しては、一件一件に心が込められていて、軽い気持ちではできないことがうかがい知れる。ただ、我が身に当てはめて考えてみると、なにからなにまでおまかせで、内容さえも知らずに出す手紙には、いささか抵抗がある。ことに、初めてのときにお任せするのは勇気が要りそうである。ツバキ文具店と守景一家がこれからどうなっていくのか愉しみなシリーズではある。

海馬の尻尾*荻原浩

  • 2018/03/18(日) 19:23:46

海馬の尻尾
海馬の尻尾
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荻原浩
光文社
売り上げランキング: 48,835

二度目の務めを終えた及川頼也は、その酒乱を見るに見かねた若頭に、アルコール依存症を治すよう命じられる。検査の結果、「良心がない」とまで言われた男がどのように変わっていくのか。名著『明日の記憶』の著者が、再び「脳」に挑む。


読み始めて間もなく、荻原作品を読んでいるつもりだったのに、これは誉田作品だったか、と表紙を見直してしまうほど、これまでとはがらっと趣の違う物語である。主人公は反社会的勢力の構成員で、良心をもたず、恐怖の概念が抜け落ちている及川頼也。舞台はとある医療機関。アルコール依存症の治療のために8週間入院するという名目で入ってみれば、そこは隔離病棟なのだった。治験と称する人体実験による人格の変化や、想定外の人間関係による症状の改善など、興味深い要素がたくさんある。患者側はもちろんのこと、医師をはじめとする医療機関側の人間たちの人格にも興味を惹かれる。まさにバイオレンスの日々を生きてきた及川だったが、彼にはここの治療が合ったのか、少しずつ人間的な感情を取り戻し始めると、さまざまなことに気づき、わかってくることがある。その様子も注目に値する。どの登場人物も細部まで丁寧に描かれていて、目の前で動いているような気にさえなってくるのも見事である。ここで起こっていることは、大変なことだが、描かれていない部分にもっと深い根っこがあるのが透かし見られて、空恐ろしくなってくる。ハッピーエンドを想像するのは難しいラストではあるが、及川にはなんとしてでも逃げ切って、梨帆たちと再会してほしいと心から願ってしまう一冊である。

口笛の上手な白雪姫*小川洋子

  • 2018/03/07(水) 16:39:22

口笛の上手な白雪姫
口笛の上手な白雪姫
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小川 洋子
幻冬舎 (2018-01-25)
売り上げランキング: 10,567

たとえ世界中が敵にまわっても、僕だけは味方だ。


公衆浴場で赤ん坊を預かるのが仕事の小母さん、
死んだ息子と劇場で再会した母親、
敬愛する作家の本を方々に置いて歩く受付嬢、
ひ孫とスパイ大作戦を立てる曽祖父——。
不器用で愛おしい人々の、ひたむきな歩みが深く胸をうつ。

あなただけの〈友〉が必ず見つかる。静謐で美しい傑作短編集!


表題作のほか、「先回りローバ」 「亡き王女のための刺繍」 「かわいそうなこと」 「一つの歌を分け合う」 「乳歯」 「仮名の作家」 「盲腸線の秘密」

どの物語も、世界の端っこの隅っこに、ともすれば打ち捨てられ、人々から忘れ去られてしまいそうな事々を、興味津々に見つめる目線が見えてくるような印象である。ほんの狭い一画を切り取っていながら、想像の世界は果てしなく広がり、どこへでも行ける気分にさせられる。そして必ず、胸のどこかをチクリと刺され、ハッとするのである。しあわせに暮らしましたとさ、の先の白雪姫のことなど、想ってもみなかったが、胸にすとんと落ちてくる。いままで見えていなかったことが、ほんの少し哀しくなるような一冊でもある。

たそがれビール*小川糸

  • 2018/02/26(月) 13:19:46

たそがれビール (幻冬舎文庫)
小川 糸
幻冬舎 (2015-02-10)
売り上げランキング: 43,866

パリの蚤の市で宝物探しに奔走し、モロッコでは夕日を見ながら屋台で舌鼓。旅先でお気に入りのカフェを見つけては、本を読んだり、手紙を書いたり、あの人のことを思ったり。年末に帰ってきた自宅ではおせちカレンダーを作り、新しい年を迎える準備を整える。ふとすると忘れがちな、当たり前のことを丁寧にする幸せを綴った大人気日記エッセイ。


エッセイとは知らずに手に取った。やはり小説の方が好きだったが、著者が大事に思うことや、なにを嫌っているかがよくわかり、物語が生み出される背景に想いを致すきっかけにはなると思う。価値観は人それぞれなので、うなずけることもそうでないこともあるが、のんびりと愉しめる一冊ではある。

ミ・ト・ン*小川糸 文  平澤まりこ 画

  • 2018/02/02(金) 16:55:10

ミ・ト・ン (MOE BOOKS)
ミ・ト・ン (MOE BOOKS)
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小川 糸 平澤 まりこ
白泉社
売り上げランキング: 23,283

昔ながらの暮らしを守る国ルップマイゼで波乱に満ちながらも慎ましく温かい生涯を送った女性マリカ。彼女のそばにはいつも神様の宿る美しいミトンがあった―。小説・小川糸、版画・平澤まりこのコラボレーションが紡ぎだす、愛しい物語世界。作品のモデルとなった国・ラトビアを旅するイラストエッセイも収録!


冬が長い国の、何気ない日々の暮らしと、そこに暮らす人たちの愛情あふれた人生が丁寧に描かれている。些細な日々の営みのひとつひとつをとても大切に暮らしていることが伝わってきて、胸の中があたたかいもので満たされる。悲しいことがあっても、一日一日を丁寧に暮らすことで、心が洗われていく様に心が動かされる。平澤まりこさんの挿画のやさしさが、さらにあたたかい気持ちにさせてくれる。出てくるものたちすべてが愛おしくなる一冊だった。

さよなら僕らのスツールハウス*岡崎琢磨

  • 2018/01/23(火) 06:49:53

さよなら僕らのスツールハウス
岡崎 琢磨
KADOKAWA (2017-10-26)
売り上げランキング: 348,695

関東某所、切り立った崖に建つシェアハウス、「スツールハウス」。
その名の通り、若者たちが腰をかけるように住み、旅立って行く場所。
同じ屋根の下、笑い、ときめき、時間を共有するものたちは、やがて懐かしく思い出す。
日常の謎に満ちた、何気ない生活を。
そしてそこには確かに、青春があったのだと……。

~何気なくも愛おしい青春の謎たち~
第一話 「メッセージ・イン・ア・フォト」弁護士の直之が、元彼女・あゆみの結婚式の動画用に送った写真の謎とは。
第二話 「シャワールームの亡霊」無人のシャワールームから聞こえるシャワーの水音に隠された、ある事件。
第三話 「陰の花」フラワーショップで働く白石は、かつての同居人で既婚の花織から、ある花の写真を見せられ……。
第四話 「感傷用」16年間住み続け、「スツールハウスの主」と呼ばれた女性、鶴屋素子。彼女がそこを去った訳とは。
第五話 「さよなら私のスツールハウス」人気作家となった素子は、「スツールハウス」を訪れるが……。


偶然同じ時期にシェアハウスで暮らすことになった人たちの間で起こった出来事の中に潜む日常の謎が描かれている。謎と言っても、ほのぼのとするものもあれば、心の闇を描くものもあり、テイストはさまざまである。それぞれの事情に絡む謎もあって、飽きさせない。スツールハウスの主と呼ばれる鶴屋素子の事情が明らかにされたときには、腑に落ちることがいくつもあった。腰掛の暮らしが彼らに与えた影響の大きさをも思わされる一冊である。

樹海警察*大倉崇裕

  • 2018/01/17(水) 18:26:43

樹海警察 (ハルキ文庫)
大倉崇裕
角川春樹事務所
売り上げランキング: 51,963

初任幹部科教育を終え、警部補になった柿崎努は、山梨県警上吉田署という辺鄙な場所、しかも聞いたこともない部署へ配属となった。署長に挨拶も行かず署員からおもむろに渡されたのは、カーキグリーンの軍用ベストやズボン、そして登山靴―。さらに連れて行かれた場所はなんと樹海…!?栗柄巡査、桃園巡査、そして事務方の明日野巡査長と共に、樹海で見つかった遺体専門の部署・地域課特別室に勤務することに…!腐乱死体から事件の匂いをかぎ取る!!書き下ろし樹海警察小説登場。


左遷された自覚がなく、あくまでも正論を貫く警部補・柿崎が着任したのは、樹海専門の特別室。課員は栗柄、桃園、そして事務方の明日野の三人。すべて訳ありでここにいる面々であり、それぞれにキャラが濃いが、各自のやり方で確実に捜査を進めていく様子は、強引で違法ぎりぎりの場合もあるが、頼もしくすらある。樹海で見つかる遺体を見て、事件の匂いを嗅ぎつける嗅覚はもちろん、真相を暴き出す手腕も見事である。いろいろ明らかになっていない点もあるので、シリーズ化されるのだろうか。このメンバーのはちゃめちゃぶりをもっと見てみたいと思わされる一冊である。

双生児*折原一

  • 2017/12/18(月) 18:25:05

双生児 (ハヤカワ・ミステリワールド)
折原 一
早川書房
売り上げランキング: 132,677

安奈は、自分にそっくりな女性を町で見かけた。それが奇怪な出来事の始まりだった。後日、探し人のチラシが届き、そこには安奈と瓜二つの顔が描かれていた。掲載の電話番号にかけるとつながったのは…さつきは養護施設で育ち、謎の援助者“足長仮面”のおかげで今まで暮らしてきた。突如、施設に不穏なチラシが届く。そこにはさつきと瓜二つの女性の願が描かれていて…“双生児ダーク・サスペンス”。


自分と瓜二つの人物に出会ったら、どんな気分だろう。過去と現在を行きつ戻りつしながら、同じ顔を持つ少女を取り巻く状況を少しずつ理解しようと読み進めた。途中までは、真相に近づいていく手ごたえを感じながらわくわくと先を急ぎたくなる。だが、とうとう事実が明かされようとするとき、なんだか一気に気が抜けるというか、「なぁんだ」という気分になってしまった。なにかもっと複雑で奥が深いからくりが隠されているのかと期待していただけに、肩透かしを食った感じではある。面白くなかったわけではないが、いささか拍子抜け感のある一冊だった。

病弱探偵*岡崎琢磨

  • 2017/10/09(月) 08:57:16

病弱探偵 謎は彼女の特効薬
岡崎 琢磨
講談社
売り上げランキング: 186,270

「患者」と「病(やまい)」を合わせた貫地谷マイという名前の主人公は高校1年生。彼女は病弱でしょっちゅう何かの病気にかかっており学校も休みがち。そして床にふせっている長い時間を使って謎を解く「寝台探偵(ベッド・ディテクティブ)」なのだ。
マイと幼馴染みの同級生、山名井ゲンキは「病まない」の名前通りに病気知らずの健康優良児。ひそかに想いを寄せているマイのために、ゲンキは学校で起こった不思議な事件を、今日もベッドサイドに送り届ける。
6つの謎と2人の恋の行く末は?
『珈琲店タレーランの事件簿』著者が放つ新たなるミステリー。


探偵役がベッドの上、というのもこれまでにない設定ではないだろうか。しかも、臥せっているときには鋭い推理力が、元気なときにはまるで発揮されないというのも独特である。探偵役のマイの手足や目となって活躍するアシスタント役は、その名も元気。こちらは推理力は凡人だが、人間関係は円満で、他人を思いやる気持ちも持ち合わせているので、聞きこみの際も疎ましがられることがないのがメリットでもある。いちいちマイによるそのときどきの病気の解説付きなので、そちらの豆知識も増えていく。高校生活における謎なので、他愛がないとも言えるが、当人たちにとっては一大事を解決してもらったことになり、心の闇をさらけ出されたことにもなる。微笑ましさも切なさも愉しめる一冊である。

横濱エトランゼ*大崎梢

  • 2017/09/21(木) 07:00:00

横濱エトランゼ
横濱エトランゼ
posted with amazlet at 17.09.20
大崎 梢
講談社
売り上げランキング: 29,363

高校3年生の千紗は、横浜のタウン誌「ハマペコ」編集部でアルバイト中。
初恋の相手、善正と働きたかったからだ。用事で元町の洋装店へ行った千紗は、
そこのマダムが以前あった元町百段をよく利用していたと聞く。
けれども善正によると元町百段は、マダムが生まれる前に崩壊したという。
マダムは幻を見ていた? それともわざと嘘をついた?
「元町ロンリネス」「山手ラビリンス」など珠玉の連作短編集。


タイトルの通り舞台は横浜。推薦で進路が決まった高校三年生の千紗が、幼いころ世話になったご近所さんで、ずっと気になっている善正が勤めるタウン誌の編集部でアルバイトをしながら、投書や取材中などに巡り合ったご当地にまつわる謎を解き明かしていく物語である。とは言え、解き明かすのは、千紗が相談を持ち掛ける善正であり、やさしいのかつれないのかわからない態度ながら、豊富な知識と推理力で、謎を解くカギを見つけ出し、やさしく解きほぐしてしまうのである。横浜の魅力も存分に味わえ、ほろ苦いような甘酸っぱいような恋の進展にも興味を惹かれ、それぞれの謎の主人公である人たちの歴史にも胸を熱くする。横浜に行ってみたくなる一冊である。