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姑の遺品整理は、迷惑です*垣谷美雨

  • 2019/04/29(月) 18:19:58

姑の遺品整理は、迷惑です
垣谷 美雨
双葉社
売り上げランキング: 8,538

姑が亡くなり、住んでいたマンションを処分することになった。
業者に頼むと高くつくからと、嫁である望登子はなんとか
自分で遺品整理をしようとするが、あまりの物の多さに立ちすくむばかり。
「安物買いの銭失い」だった姑を恨めしく思いながら、
仕方なく片づけを始める。夫も手伝うようになったが、
さすが親子、彼も捨てられないタイプで、望登子の負担は増えるばかりである。
誰もが経験するであろう、遺品整理をユーモアーとペーソス溢れる筆致で描く長編小説。


姑の遺品を整理する嫁・望登子の立場で、物を溜め込んだまま亡くなった姑と、指輪ひとつしか残さずに亡くなった実母を比較してしまうのである。あまりの物の多さに呆然とし、と気に悪態をつきつつ片付けに通ううち、少しずつ姑の生きざまが明らかにされてきて、望登子の心情にも変化が表れ始める。遺品整理という厄介事を通して、人ひとりの生き様や生きがい、幸せなどをあれこれ考えさせられる。なにより、さっそく自らの断捨離を始めたくなる。可笑しみと哀しみと愛と実益にあふれた一冊だった。

オーディションから逃げられない*桂望実

  • 2019/04/01(月) 20:17:09

オーディションから逃げられない
桂 望実
幻冬舎 (2019-02-07)
売り上げランキング: 91,407

渡辺展子はいつも「ついてない」と思っていた。中学でできた親友は同じ苗字なのに学校一の美女・久美。同じ「渡辺」でも、注目されない方の「渡辺」になった。絵が好きで美術部に入るが、そこでは「一風変わった絵」を描くだけの同級生がなぜか注目を集め評価されてしまう。就職活動をしてみれば、仲良し四人組の中で自分だけ内定が取れない。幸せな結婚生活を夢見ていたのに、旦那の会社が倒産する…。“選ばれなかった”女性の、それでも幸せな一生を描く。


人の一生は、選択の繰り返し。何かを選んで、誰かに選んでもらう。それはあたかもオーディションのよう。自分はついていない星の元に生まれたと思い込み、次は選んでもらえるだろうか、と思い続けて生きていた。だが、歳を重ねるにつれ、周囲にも不運な人がいることに気づき、もしかしたら自分は幸運だったのではないだろうかと思うようにもなってくる。夫の太一にはわたしも個人的にイライラさせられ通しで、長い目で見ればなくてはならない存在だとしても、その境地に辿り着くのは並大抵ではない気がしてしまう。そして、折々に挿みこまれる独白形式の描写が気になっていたのだが、ラストになってそういうことだったのかと納得させられる。思い描く希望を叶えられたり叶えられなかったり、上手くいったりいかなかったり。人生いろいろなのである。なんだかんだ言って、展子は幸せなのだ。自分の尺度で人を量ってはいけないと思わされもした一冊である。

定年オヤジ改造計画*垣谷美雨

  • 2019/03/20(水) 16:26:24

定年オヤジ改造計画
定年オヤジ改造計画
posted with amazlet at 19.03.20
垣谷美雨
祥伝社
売り上げランキング: 30,553

女たちのリアルな叫びに共感必至、旦那にも読ませたい本No.1!?

女は生まれつき母性を持っている? 家事育児は女の仕事? 女は家を守るべき……?
“都合のいい常識"に毒された男たちに、最後通告!

大手石油会社を定年退職した庄司常雄。
夢にまで見た定年生活のはずが、良妻賢母だった妻は「夫源病」を患い、娘からは「アンタ」呼ばわり。
気が付けば、暇と孤独だけが友達に。
そんなある日、息子夫婦から孫二人の保育園のお迎えを頼まれて……。
定年化石男、離婚回避&家族再生を目指して人生最後のリベンジマッチに挑む!


この年代の男性にこれを読ませて、自らを省みる人であるなら、見どころがあると言えるのかもしれない。多くの男たちは、それのどこが悪い、と開き直るのではないだろうか。だとしたらもう、やってられないわ、と女たちに見限られても何も言えないだろう。常雄の元同僚の荒木がまさにそんな男の代表として描かれていて、哀れにすら思えてくる。長い年月の刷り込みというのはほんとうに恐ろしいものだと痛感させられる。そして、共働きが当然のこととされるにもかかわらず、女性の置かれる状況が何ら改善されていない現代において、男性が家事や育児を「手伝う」というのがそもそもの間違いなのだろう。自ら率先して関わってもらわなくては、一家は立ち行かなくなるのである。多分に啓蒙的ではあるが、お説教めいていなくて愉しく読める一冊だった。

思い出が消えないうちに*川口俊和

  • 2018/11/29(木) 07:39:35

思い出が消えないうちに
川口俊和
サンマーク出版
売り上げランキング: 2,374

伝えなきゃいけない想いと、
どうしても聞きたい言葉がある。

心に閉じ込めた思い出を
もう一度輝かせるために、
不思議な喫茶店で過去に戻る4人の物語――。


不思議な力を持った時田ファミリーの営む、不思議な席のある喫茶店が舞台。これまでよりもさらに、ユカリさんの力が時間を超えて影響力を及ぼしている印象が強い。成り行きに任せるのではなく、操作できてしまうところに、いささかの違和感を抱かなくもない。それでうまくいっているので、物語的にはそうでなければならないのだろうが。たとえ過去に戻れたとしても、事実を変えることはできないが、心の持ちようはずいぶんと変わってくるものだと、改めて感じる。その時その時を後悔のないように暮らすのがいちばんなのだろうが、人間、なかなかそういうわけにはいかない。そんな風に抱え込んでしまった屈託が、過去に戻ることで晴らされ、あしたにつながることもあるのである。希望が持てるようになるシリーズである。

僕は金(きん)になる*桂望実

  • 2018/11/21(水) 18:47:13

僕は金(きん)になる
僕は金(きん)になる
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桂望実
祥伝社
売り上げランキング: 236,729

僕が小学六年生の春、両親が離婚した。家を出たギャンブル好きの父ちゃんは、将棋の天才の姉ちゃんに賭け将棋をやらせて暮らしている。父ちゃんが「ご立派」と呼ぶ母ちゃんの元に残された「普通」の僕は、非常識で破天荒で、将棋以外何にもできないくせに、楽しそうに生きる二人を軽蔑しながらも、どこか羨ましい――読む人の心を激しくゆさぶる、おかしな家族の四十年。


傍から見ると、母と僕=守はきちんとした親子、父と姉=りか子はいい加減でだらしない親子、に見えることだろう。実際、現象としてはその通りなのである。だが、家族というのは、それほど簡単に割り切れるものでもないのだ。父と姉のことを他人に紹介するのを恥ずかしいと思っても、だからと言って彼らのことが嫌いなわけではない。そして守は、普通以外の何者でもない自分のことを、なかなか認められない。昭和54年(守:小学六年生)から、平成29年までの38年間の父や姉と守とのかかわり方の移り変わりが、変化しているようであり、何も変わらないようでもあって、切ないやら、ほほえましいやらで、よくわからなくなる。しっかりしなさいと、はっぱをかけるのは簡単だが、そういう風にしか生きられない人もいるのかもしれないと、ちょっと立ち止まって考えたくもなる一冊である。

信長の原理*垣根涼介

  • 2018/11/09(金) 12:58:21

信長の原理
信長の原理
posted with amazlet at 18.11.09
垣根 涼介
KADOKAWA (2018-08-31)
売り上げランキング: 4,500

吉法師は母の愛情に恵まれず、いつも独り外で遊んでいた。長じて信長となった彼は、破竹の勢いで織田家の勢力を広げてゆく。だが、信長には幼少期から不思議に思い、苛立っていることがあった―どんなに兵団を鍛え上げても、能力を落とす者が必ず出てくる。そんな中、蟻の行列を見かけた信長は、ある試みを行う。結果、恐れていたことが実証された。神仏などいるはずもないが、確かに“この世を支配する何事かの原理”は存在する。やがて案の定、家臣で働きが鈍る者、織田家を裏切る者までが続出し始める。天下統一を目前にして、信長は改めて気づいた。いま最も良い働きを見せる羽柴秀吉、明智光秀、丹羽長秀、柴田勝家、滝川一益。あの法則によれば、最後にはこの五人からも一人、おれを裏切る者が出るはずだ―。


歴史小説であって歴史小説ではない、壮大な人間観察と分析の書である。信長という不世出の人間が、愛されたいという思いを深奥に抱えながらも、いたって合理的に癖の強い者たちを束ねてのし上がってきたかが、手に取るようにわかって興味深い。奇行の奥に隠れた冷徹な観察眼と、洞察力、そして物事の心理を見極め、そのことについて考え続ける集中力こそが、信長を天下統一の一歩手前までに至らしめた原動力ではないだろうか。そばにいる者はたまったものではないが、ある意味魅力的な人物であることも間違いない。普遍的な命題が語られている一冊のようにも思われる

夫の彼女*垣谷美雨

  • 2018/08/18(土) 07:42:19

夫の彼女
夫の彼女
posted with amazlet at 18.08.17
垣谷 美雨
双葉社
売り上げランキング: 420,278

夫の浮気を疑った妻が、彼の部下である相手の女性に会いに行く。言い争っていると、突然現れた老婆が「物事は相手の立場になって考えることが大切。つまらない喧嘩ばかりしていると、本当の敵を見失う」と言い、ふたりにとんでもないことをする。そのおかげで、確かに相手の立場はわかったけど、これから先、どうやって生きていけばいいの!? 想像もつかない展開と、ラストは思わず納得!の書き下ろし長編小説。


ドラマになったのを知らずに読んだので、予想外の展開にびっくりである。小説ならではの愉しみとも言える。導入部は、夫の浮気を疑う妻の、なんとも言えない心情と行動が描かれているので、この先泥沼の展開になるのかと思いきや、謎の老婆が現れてからの展開は、思わず目が点になってしまう。だが、その後のストーリーは、身につまされる部分もあり、考えさせられる要素もたくさんあって興味深かった。ラストは、無理やり無難にまとめた印象がなくもないが、それはそれで、心の安定を得られる気もして、嫌いではない。やきもきしながらも愉しく読める一冊だった。

私はあなたの記憶の中に*角田光代

  • 2018/06/24(日) 16:18:15

私はあなたの記憶のなかに
角田 光代
小学館
売り上げランキング: 32,798

角田ワールド全開!心震える待望の小説集
《「さがさないで。私はあなたの記憶のなかに消えます。夜行列車の窓の向こうに、墓地の桜の木の彼方に、夏の海のきらめく波間に、レストランの格子窓の向こうに。おはよう、そしてさようなら。」――姿を消した妻をさがして僕は記憶をさかのぼる旅に出た。》(表題作)のほか、《初子さんは扉のような人だった。小学生だった私に、扉の向こうの世界を教えてくれた。》(「父とガムと彼女」)、《K和田くんは消しゴムのような男の子だった。他人の弱さに共振して自分をすり減らす。》(「猫男」)、《イワナさんは母の恋人だった。私は、母にふられた彼と遊んであげることにした。》(「水曜日の恋人」)、《大学生・人妻・夫・元恋人。さまざまな男女の過去と現在が織りなす携帯メールの物語。》(「地上発、宇宙経由」)など八つの名短篇を初集成。
少女、大学生、青年、夫婦の目を通して、愛と記憶、過去と現在が交錯する多彩で技巧をこらした物語が始まる。角田光代の魅力があふれる魅惑の短篇小説集。


身近にありそうで、でも実際にはなさそうで、それでいて何とはなしに身に覚えのある感情を揺さぶられるような印象の物語たちである。実際に体験したわけではないのに、その場にいたことがあるような親しさを感じることがある。それは、人物にだったり、場所にだったり、あるいはその情景にだったりするのだが、振り返ってみても自分の人生の中にそんな場面はなかったはずなのである。そんな風にいつの間にか惹き込まれている一冊だった。

玉村警部補の巡礼*海堂尊

  • 2018/06/14(木) 16:36:14

玉村警部補の巡礼
玉村警部補の巡礼
posted with amazlet at 18.06.14
海堂 尊
宝島社
売り上げランキング: 53,423

累計1000万部突破『チーム・バチスタの栄光』シリーズに登場する“加納&玉村"コンビが、お遍路道中で難事件を解決!
休暇を利用して八十八箇所を巡拝する四国遍路に出た玉村警部補。
しかし、なぜか同行してきた警察庁の加納警視正と、行く先々で出くわす不可解な事件に振り回され……。
軽やかに跳躍する海堂ワールド、珠玉のミステリー四編。

「阿波 発心のアリバイ」お遍路の道中に遭遇した賽銭泥棒事件。加納警視正は容疑者となった女の無実を証明できるのか。
「土佐 修行のハーフ・ムーン」十年前に起きた政治家秘書不審死事件の容疑者には、鉄壁のアリバイが存在した――。
「伊予 菩提のヘレシー」蚊を信仰する寺で発見された不審死体。事件性はないかに思われたが、加納はAiの実施を主張する。
「讃岐 涅槃のアクアリウム」讃岐のひょうげ祭りに爆破テロ予告が! しかし、その背後には巨大な闇組織の暗躍があった……。


玉村・加納コンビふたたび、である。リフレッシュ休暇でお遍路の旅に出たはずのタマちゃんこと玉村警部補であるが、どういうわけか、もれなく警察庁のハウンド・ドッグの異名を持つ加納警視正と同道することになる。タマちゃんのお遍路計画は台無しであり、加納に無理難題を突き付けられ、反論するたびに、妙に納得してしまう屁理屈でやりこめられるのだった。というのも、加納はただタマちゃんに着いて歩いているわけではなく、しっかり仕事をしているのである。しかも、予定になかった事件まで抱え込んだりする始末。そしてそれらをことごとく解決してしまうのである。恐るべし加納警視正。と書くと、やたらと格好よさそうだが、本人の強引すぎるキャラクタがそう感じさせないところがミソである。ともあれ、でこぼこコンビの珍道中を再び見られて満足な一冊である。

カーテンコール!*加納朋子

  • 2018/03/16(金) 10:56:10

カーテンコール!
カーテンコール!
posted with amazlet at 18.03.16
加納 朋子
新潮社
売り上げランキング: 260,846

幕が下りた。もう詰んだ。と思ったその先に、本当の人生が待っていた。経営難で閉校する萌木女学園。私達はその最後の卒業生、のはずだった――。とにかく全員卒業させようと、限界まで下げられたハードルさえクリアできなかった「ワケあり」の私達。温情で半年の猶予を与えられ、敷地の片隅で補習を受けることに。ただし、外出、ネット、面会、全部禁止! これじゃあ、軟禁生活じゃない!


「砂糖壺は空っぽ」 「萌木の山の眠り姫」 「永遠のピエタ」 「鏡のジェミニ」 「プリマドンナの休日」 「ワンダフル・フラワーズ」

乙女ばかりの寮生活の半年を描いた物語である。と聞くと、さぞや華やかできらびやかな日々が繰り広げられるのだろうと想像したくなるが、舞台は、経営難による平衡が決まった萌木女学園の敷地の一角に建つ合宿棟のような建物。スタッフは、理事長の角田を始め、彼の妻や娘、老教師や校医など、ほぼ身内と言ってもいいような面々。さらには、外部との接触は一切禁止、食事も間食はじめ、生活の一部始終をしっかり管理された、矯正施設のようなものだったのである。生徒たちはと言えば、幾度もの救済措置からも零れ落ちた、折り紙付きの落ちこぼれであり、それぞれが問題を抱えている。覇気のない補講合宿なのだが、理事長の采配によって同室にされた者たちは、少しずつ相手のことを見るようになり、翻って自らにも目を向けるようになっていく。亀の歩みのようなのんびりしたものであっても、確実に進んでいる姿を見ていると、出会いの妙を感じさせられる。誰もが何かしらの屈託を抱えて生きているという、当たり前のようなことを認識するだけで、世界の色が変わって見えてくることもあるのだろう。最後の章では、角田理事長の胸の裡が語られるが、それに耳を傾け、その哀しみを想像できるようになった彼女たちの姿にも感動を覚える。切なくやるせなく、だが、じんわりと胸を温めてくれる一冊だった。

森へ行きましょう*川上弘美

  • 2017/12/04(月) 16:27:05

森へ行きましょう
森へ行きましょう
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川上 弘美
日本経済新聞出版社
売り上げランキング: 3,517

1966年ひのえうまの同じ日に生まれた留津とルツ。「いつかは通る道」を見失った世代の女性たちのゆくてには無数の岐路があり、選択がなされる。選ぶ。判断する。突き進む。後悔する。また選ぶ。進学、就職、仕事か結婚か、子供を生むか…そのとき、選んだ道のすぐそばを歩いているのは、誰なのか。少女から50歳を迎えるまでの恋愛と結婚が、ふたりの人生にもたらしたものとは、はたして―日経新聞夕刊連載、待望の単行本化。


500ページ超えの超大作であるが、途中一度も飽きることなく――というよりも、次の展開が愉しみで愉しみで、本を置くのが名残惜しくて仕方がなかった。留津とルツ二人の人生が描かれているのだが、登場人物はほぼ同じ。いわゆるパラレルワールドの物語である。後半、さらに分化してべつの「RUTSU」が登場するが、彼女たちが、留津の小説の登場人物なのか、さらなるパラレルの世界の人なのかは判然としない。そしてそれは大した問題でもないのかもしれないとも思われる。それぞれの人生は、良くも悪くもありそうな人生であり、誰もが自身に引き寄せて考えることのできるエピソードが満載であり、何ら突出したことはないのだが、ほんの些細な選択の違いによって、少しずつ様相を異にしていく人生の道筋がたいそう興味深くて、のめり込む。語り口も至って淡々としているのだが、すっかりとりこになってしまう一冊である。

エデンの果ての家*桂望実

  • 2017/09/04(月) 10:04:55

エデンの果ての家
エデンの果ての家
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桂 望実
文藝春秋
売り上げランキング: 211,982

母が殺された――その悲しみの葬儀の席で逮捕連行されたのは、弟だった。

大企業勤務のエリートサラリーマンの父、良妻賢母を絵にかいたような料理上手の母、幼いころから両親の期待を一身に背負い、溺愛されてきた弟、そして彼らのなかで、ひとり除けものであるかのように成長した主人公、葉山和弘。
遺棄死体となって発見された母親の被疑者が弟であったことで、父親は半狂乱になって弟の無実を証明しようとするのだが――。


ミステリでもあるが、名ばかりの家族がほんとうの家族になっていく苦しい道のりの物語でもあるような気がする。親は子どものことを、実は何もわかってはいないし、子もまた親の心底の気持ちを理解しているとは言えず、互いにすれ違い、思い違ったまま、別々の記憶を背負って苦しんでいるのである。葉山家の場合、それを解きほぐすきっかけになったのが、母の死だったのである。その後、犯人として弟が逮捕されてからの証人探しのなかで少しずつ明らかになっていく真実を直視することで、これまでの家族に対する思い込みが崩壊し、初めから組み立て直さなければならなくなる。被害者家族であり、加害者家族でもあるという複雑な立場に置かれた葉山家の葛藤と、だからこそ家族の形が取り戻せるかもしれないという微かな喜びがまじりあった一冊でもある。

嫁をやめる日*垣谷美雨

  • 2017/06/19(月) 18:22:34

嫁をやめる日
嫁をやめる日
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垣谷 美雨
中央公論新社
売り上げランキング: 11,394

ある晩、夫が市内のホテルで急死した。「出張に行く」という言葉は、嘘だった―。ショックを受けながらも、夫の隠された顔を調べはじめた夏葉子。いっぽう、義父母や親戚、近所の住人から寄せられた同情は、やがて“監視”へと変わってゆき…。追い詰められた夏葉子を、一枚の書類が救う!義父母、嫁家からの「卒業」を描く、「嫁」の役割に疲れたあなたに!人生大逆転ストーリー。


夫の急死をきっかけに、ぎくしゃくしていて遠いと感じていた夫の存在が、ある意味大きくなり、それまで意識したこともなかった「嫁」という立場もくっきりと浮き彫りになってくる。夫がいる間は、他所にないくらいうまくいっていると思っていた、舅・姑との関係も、夫がいなくなってみると、鬱陶しい以外の何物でもなくなる。上品でいい人だと思っていた旧家の奥さまである義母の行動のあれこれが鼻につき、知人の多さが、閉ざされた地方都市では監視の目が多いことにつながる。生前の夫の行いにも不信感が募り、悶々としているときに、がさつで品がないと思っていた実家の父が大いなる力になってくれたりと、ほんとうに頼るべき人が誰なのかを思い知らされたりもするのである。だが、一度はまりこんだ負のスパイラルの渦中では見えなくなっていたことが、ほんの少し距離を置いて冷静に眺めると別の様相が見えてきたりすることもある。結婚とは、個人と個人のものとは言え、その背後にいる家族と関わらずにいられるわけではない。「嫁」という存在についても改めて考えさせられもした。人と人の関係というのは誠に一筋縄ではいかないものであると思い知らされる一冊でもある。

赤いゾンビ、青いゾンビ。 東京日記5*川上弘美

  • 2017/06/02(金) 18:09:19

東京日記5 赤いゾンビ、青いゾンビ。
川上 弘美
平凡社
売り上げランキング: 20,212

たんたんと、時にシュールに、そして深くリアルに……。2013年~現在までを綴ったライフワーク日記シリーズ、第5弾!


「つくりごととほんと」の境目が至極曖昧な著者の思考回路であり、行動パターンである。読者が明らかにつくりごとと思って読んでいる事々も、実はほうとのことかもしれない、と思わず読み返してしまうような雰囲気がある。そして、どちらにしても、そのときどきの著者の姿を容易に想像できてしまうのである。うつぶせで打ちのめされている姿とか、来る日も来る日もドラクエに明け暮れている姿とか、柱や建物の陰に身を潜めて、街で見かけた知り合いと出くわさないようにしている姿とか、である。それをそっと背後から覗き見している心地になれるのが、本作を読む醍醐味でもある。ともかく、愛すべき一冊なのは間違いない。

この嘘がばれないうちに*川口俊和

  • 2017/04/28(金) 16:19:29

この嘘がばれないうちに
川口俊和
サンマーク出版
売り上げランキング: 1,715

とある街の、とある喫茶店の
とある座席には不思議な都市伝説があった
その席に座ると、望んだとおりの時間に戻れるという

ただし、そこにはめんどくさい……
非常にめんどくさいルールがあった

1.過去に戻っても、この喫茶店を訪れた事のない者には会う事はできない
2.過去に戻って、どんな努力をしても、現実は変わらない
3.過去に戻れる席には先客がいるその席に座れるのは、その先客が席を立った時だけ
4.過去に戻っても、席を立って移動する事はできない
5.過去に戻れるのは、コーヒーをカップに注いでから、そのコーヒーが冷めてしまうまでの間だけ

めんどくさいルールはこれだけではない
それにもかかわらず、今日も都市伝説の噂を聞いた客がこの喫茶店を訪れる

喫茶店の名は、フニクリフニクラ

あなたなら、これだけのルールを聞かされて
それでも過去に戻りたいと思いますか?

この物語は、そんな不思議な喫茶店で起こった、心温まる四つの奇跡。

第1話 22年前に亡くなった親友に会いに行く男の話
第2話 母親の葬儀に出られなかった息子の話
第3話 結婚できなかった恋人に会いに行く男の話
第4話 妻にプレゼントを渡しに行く老刑事の話

あの日に戻れたら、あなたは誰に会いに行きますか?


前作は、かなり評価が分かれたようだが、個人的には好きだったので、本作も愉しみに手にした。コーヒーが冷めないうちなら好きな時にタイムトリップできるという設定は前作のままに、今回は、相手を思うやさしい嘘がまぶしてある。そして、元の席に帰ってきてからのひと言や胸の裡に広がるものが、本人自身や周りの人をやわらかな気持ちにさせるものだというのが、さらに好ましく思える。過去に戻っても何も変えることはできないとは言え、それは現象のことであり、人の胸の裡はほんの少しだけでも好ましく変わっているのだろう。誰もがやさしい気持ちになれる一冊である。