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東京日記6 さよなら、ながいくん。*川上弘美

  • 2021/04/25(日) 16:25:03


たんたんと、時にシュールに、そして深くリアルに。あなたの日常でも、不思議なこと、愉快なこと、実はいっぱい起きていませんか? 20年目を迎えたライフワーク日記、最新刊!


今回も、川上ワールド全開である。愉しく微笑ましく、勝手に身近に感じてしまう。そしてタイトルの意味に、ふふふ、と笑う。そういうことか。ずっとずっと続いてほしいシリーズである。

代理母、はじめました*垣谷美雨

  • 2021/04/18(日) 07:29:20


義父の策略で、違法な代理母出産をさせられた17才のユキ。命がけで出産したにもかかわらず、報酬はすべて義父の手に。再び代理母をさせ稼ごうとする義父の手から逃げだし、ユキは自らの経験を逆手に取り、自分のような貧しい女性を救う大胆な〈代理母ビジネス〉を思いつく。ユキを支えるのは医師の静子&芽衣子のタッグと、ゲイのミチオ&一路。さまざまな事情を抱えた「子どもを持ちたい」人々が、最後の砦としてユキたちを頼ってやってくるが……日本の生殖医療の闇、貧困層の増大、妊娠・出産をめぐる負担など、現代日本が放置した社会問題を明るみにしながら、「代理母」ビジネスのタブーに切り込んだ問題作。


表紙からは、もっと軽くコミカルな感じの物語を想像したのだが、いきなり悲惨な現状が目の前に展開していて驚いた。主人公のユキの年齢に比しての無知さも気になる。義父に都合のいいように言いくるめられて代理母を引き受けてしまうなんて、16歳としてはあまりにも自分のことも世間のことも知らなすぎるのではないか。題材はとても興味深く、知らないことも多かったが、いささか都合よく進み過ぎの感が否めず、しかも結局、代理母たちは実情を偽っていたりするのが腑に落ちないところもある。社会においての女性の立場を少しでも良くしたいという思いはとても伝わってくるので、疑問符も浮かびながら共感する点もたくさんあった一冊である。

わたしの好きな季語*川上弘美

  • 2021/01/09(土) 16:42:10


96の季語から広がる、懐かしくて不思議で、ときに切ない俳句的日常。
俳人でもある著者による初めての「季語」にまつわるエッセー集。
散歩道で出会った椿事、庭木に集う鳥や虫の生態、旬の食材でやる晩酌の楽しみ、ほろ苦い人づきあいの思い出、ちょっとホラーな幻想的体験など、色彩豊かな川上弘美ワールドを満喫しながら、季語の奥深さを体感できる96篇。名句の紹介も。


季語の選択、それにまつわる思いや、懐かしい昔の出来事などのエピソード。どれをとっても著者らしさが満ち満ちていてうれしくなる。書かれていないあれこれまで想像してしまって、ついつい頬が緩んだり。紹介されている句も、季語の使われ方がわかりやすく、情景が思い浮かぶものばかりで愉しい。大切に読みたい一冊である。

二百十番館にようこそ*加納朋子

  • 2020/10/24(土) 07:59:42


ネトゲ廃人で自宅警備員の俺は、親に追放されるように離島での暮らしを始める。金銭面の不安解消のためにニート仲間を集めてシェアハウスを営むうちに、ゲームの中だけにあった俺の人生は、少しずつ広がってゆき…。青い海と空のもと始まる、人生の夏休み!


ニートや落ちこぼれ、その家族、離れ小島の住民のお年寄りたち。それぞれの胸の裡の思いが、いい具合に作用して、若者たちが少しずつ自分に自信をつけてひとり立ちに向かって歩む物語。初めはどうなることかと思ったが、もともとの性格が真っ直ぐならば、環境と人間関係と、ほんの少しだけの勇気で、人はこんなにも充実した日々を送ることができるのだと、胸が熱くなる。親も子も島民も、みんなを応援したくなる一冊である。

結婚させる家*桂望実

  • 2020/10/05(月) 07:34:45


40歳以上限定の結婚情報サービス会社「ブルーパール」で働く桐生恭子は、婚活界のレジェンドと崇められている。担当する会員のカップリング率一位のカリスマ相談員なのだ。恭子の発案で、大邸宅「M屋敷」に交際中の会員を泊まらせ、一緒に暮らしてみるという「プレ夫婦生活」プランがスタートした。中高年の彼らは、深刻な過去、家族の存在、健康不安と、様々な問題を抱えているが…。人生のパートナーを求める50代男女の滋味あふれる婚活物語。


40歳代以上にターゲットを絞った結婚情報サービス会社が舞台の物語である。もちろん、パーティーや紹介で出会った男女が、どういう過程を経、どんな葛藤をしながら最終的な決断を下すのかという、婚活物語ではあるのだが、カリスマ担当者の50歳代独身の桐生恭子さんの人生の物語でもあるのが、興味を倍増させている。さまざまな婚活カップルに関わるなかで、恭子さんも、悩み、考え、気持ちを切り替えながら成長していく姿を、陰ながら応援したくなってしまう。いろいろ考えさせられながらも、愉しく読める一冊だった。

うちの父が運転をやめません*垣谷美雨

  • 2020/06/09(火) 18:55:53


「また高齢ドライバーの事故かよ」。猪狩雅志はテレビニュースに目を向けた。そして気づく。「78歳っていえば…」。雅志の父親も同じ歳になるのだ。「うちの親父に限って」とは思うものの、妻の歩美と話しているうちに不安になってきた。それもあって夏に息子の息吹と帰省したとき、父親に運転をやめるよう説得を試みるが、あえなく不首尾に。通販の利用や都会暮らしのトライアル、様々な提案をするがいずれも失敗。そのうち、雅志自身も自分の将来が気になり出して…。果たして父は運転をやめるのか、雅志の出した答えとは?心温まる家族小説!


高齢の親の運転に不安を覚え、やめさせたいと思うが、一筋縄ではいかずに試行錯誤する顛末を軸に、親元を離れて東京で家族と暮らす息子一家の実情とこれから、息子自身の生きがいを絡めた物語である。
どんどん過疎化して、買い物や病院通いにも車が必要な田舎で、高齢の親に運転をやめさせる難しさは想像を絶する。運転をやめれば、その日から暮らしが成り立たなくなるのは目に見えている。さらには、外にも出なくなり、人とのかかわりも絶たれて、なんのために生きているかさえわからなくなりそうなのである。何とかしなければ、と思うが、どうすればいいか思案するばかりの息子・雅志は、田舎に暮らす同級生たちの暮らしぶりを見聞きし、移動スーパーひまわり号に出会ったことで、自らの生き方をも見直すことになる。そしてそれとともに、ぎこちなかった高校生の息子・息吹との関わり方にも変化が現れ、両親や地域の人たちとの関わり方も変わってくるのだった。いささかうまく運びすぎな感は否めないが、「いつか」を待ちわびるよりも、「いま」を生きることの大切さを前向きに考えるきっかけになる一冊ではないだろうか。

シンクロニシティ 法医昆虫学捜査官*川瀬七緒

  • 2020/04/05(日) 16:35:02


東京・葛西のトランクルームから女性の腐乱死体が発見された。全裸で遺棄された遺体は損傷が激しく、人相はおろか死亡推定日時の予測すら難しい状態だった。捜査一課の岩楯警部補は、若手刑事の月縞を指名して捜査に乗り出した。検屍を終えてわかったことは、死因が手足を拘束されての撲殺であることと、殺害現場が他の場所であると思われることの2点だった。発見現場に蠅とウジが蝟集していたことから、捜査本部は法医昆虫学者の赤堀涼子の起用を決定する。赤堀はウジの繁殖状況などから即座に死亡推定日時を割り出し、また殺害状況までも推論する。さらに彼女の注意を引いたのは、「サギソウ」という珍しい植物の種が現場から発見されたことだった。「虫の知らせ」を頼りに、法医昆虫学者が事件の解明に動き出した。


警察の捜査だけでは絶対に見つけ出せないだろうと思われるような、昆虫やその周辺に関連する微細な要素に引っかかり、深く掘り下げていく昆虫学者・赤堀涼子。犯罪を解明するという使命感はもちろんあるだろうが、それ以上に、虫が知らせるあれこれに耳を傾けて、真実を知りたいという探求心が勝っているように見える。執拗なまでの実地調査や観察が導き出すものは、既成観念に凝り固まった警察官たちを驚愕させるばかりである。だが、そのおかげで、思ってもみないほど根深い恨みと復讐心が暴き出されることになるのである。蛆の描写には、相変わらず馴染めないが、興味深いことこの上ないシリーズである。

147ヘルツの警鐘 法医昆虫学捜査官*川瀬七緒

  • 2020/03/09(月) 16:33:56


全焼したアパートから1体の焼死体が発見され、放火殺人事件として捜査が開始された。遺体は焼け焦げ炭化して、解剖に回されることに。その過程で、意外な事実が判明する。被害者の腹腔から大量の蠅の幼虫が発見されたのだ。しかも一部は生きた状態で。混乱する現場の署員たちの間に、さらに衝撃が走る。手がかりに「虫」が発見されたせいか、法医昆虫学が捜査に導入されることになる。法医昆虫学はアメリカでは導入済みだが、日本では始めての試み。赤堀涼子という学者が早速紹介され、一課の岩楯警部補と鰐川は昆虫学の力を存分に知らされるのだった。蠅の幼虫は赤堀に何を語ったのか!


炭化した焼死体からボール状のウジ虫が出てくる描写など、目をそむけたくなるような場面が数多くあり、蟲が苦手な者としては、読むのがつらい部分もあったが、昆虫学者・赤堀涼子には、愉しくて仕方がないようなので、おつきあいすることにした。その描写以外はとても興味深く、初めて知ることもたくさんあって、刺激的な読書タイムだった。小柄で一見天然な赤堀が、「福家警部補」とダブってしまうのはわたしだけだろうか。とはいえ、警察上層部も引き続き捜査協力を依頼したようだし、次が愉しみなシリーズである。

賞金稼ぎスリーサム!*川瀬七緒

  • 2020/03/04(水) 16:36:46


警察マニアのイケメン、コミュ障な凄腕ハンター、母親想いのくたびれた元刑事、前代未聞の凸凹トリオ!!報奨金の懸かった放火事件、何者かが執拗に攻撃。犯人はとんでもない凶悪犯!?サスペンス&ユーモアミステリー。


新しいトリオの誕生である。ひとりひとりを見ると、なかなかにこじれた人物たちである。だが、そんなアンバランスな三人が、賞金のためにひとつになるとき、見事に狩場の猟師になるのだから面白い。三人がともに行動する理由にはいささか無理がある気もしないではないが、今後何かが飛び出してきそうな気配も感じられるので、是非ともシリーズ化してほしい一冊である。

後悔病棟*垣谷美雨

  • 2020/01/08(水) 18:31:49


神田川病院に勤務する医師の早坂ルミ子は末期のがん患者を診ているが、患者の気持ちがわからないのが悩みの種。ある日、ルミ子は病院の中庭で不思議な聴診器を拾う。その聴診器を胸に当てると、患者の“心の声”が聞こえてくるのだ。「もし高校時代に戻れたら、芸能界デビューしたい」―母に反対されて夢を諦めた小都子が目を閉じて願うと、“もうひとつの人生”へ通じる扉が現れる。念願の女優になった小都子だが…。聴診器の力で“あの日”へ戻った患者達の人生は、どんな結末を迎えるのか。夢、家族、結婚、友情。共感の嵐を呼んだヒューマンドラマ。


題材はシリアスなのだが、設定にファンタジー要素があるためか、深刻になり過ぎずに読める。患者や家族の前で、無意識に不用意な発言をして、不興を買ったり、空気が読めずに気まずい思いをしたりすることが多かったルミ子だが、ある日、患者の心の声が聞こえ、過去に戻って人生をやり直すことができる不思議な聴診器を拾ったことから、患者に寄り添って安心して最期を任せられる医師、という評判を得ることになる。いくら不思議な聴診器を拾ったからと言って、それを生かせなければどうにもならないわけで、患者のために生かすことができたルミ子の医療に取り組む真剣な姿勢が好ましい。実際に過去に戻って人生の悔いを改めた患者たちの第二の人生が、本来の人生と比べてどうだったかはそれぞれだが、読者は、いま生きている人生について考えることになる。人生をやり直したくなるような悔いを残さないように日々を生きようと、改めて思わされる一冊でもある。

某*川上弘美

  • 2019/12/04(水) 16:47:22


変遷し続ける〈誰でもない者〉はついに仲間に出会う――。
愛と未来をめぐる、破格の最新長編。

ある日突然この世に現れた某(ぼう)。
人間そっくりの形をしており、男女どちらにでも擬態できる。
お金もなく身分証明もないため、生きていくすべがなく途方にくれるが、病院に入院し治療の一環として人間になりすまし生活することを決める。
絵を描くのが好きな高校一年生の女の子、性欲旺盛な男子高校生、生真面目な教職員と次々と姿を変えていき、「人間」として生きることに少し自信がついた某は、病院を脱走、自立して生きることにする。
大切な人を喪い、愛を知り、そして出会った仲間たち――。
ヘンテコな生き物「某」を通して見えてくるのは、滑稽な人間たちの哀しみと愛おしさ。
人生に幸せを運ぶ破格の長編小説。


川上弘美さんでなければ思いつかないような設定で、興味深い。何者でもないものとは、一体何者なのだろう。本人(?)たちでさえ、確固とした答えを持っていない者たちの、それでもそれぞれに個性を持った者としての生きざまをのぞき見しているような気分である。何者でもないからと言って、何にも縛られないわけでもなく、人間関係もそれなりに築き、多少変わった個性として人間社会に存在し、変異すれば忘れられていく。現在いる場所につなぎとめられる理由はなく、さりとてつなぎとめられない理由もまたない。だが、ほかの何者でもない者のために自分を犠牲にし、あるいは、その者を大切に思ったとき、なにかが変わるのだ。「某」が幸福なのかどうかはよくわからないが、某ではないわたしは、しがらみがあっても、逃げられなくても、生まれてから死ぬまで「わたし」という者として生きて行くのが幸福だと思わされる一冊でもあった。

いつかの岸辺に跳ねていく*加納朋子

  • 2019/10/24(木) 07:21:14

いつかの岸辺に跳ねていく
加納 朋子
幻冬舎 (2019-06-26)
売り上げランキング: 137,594

あの頃のわたしに伝えたい。明日を、未来をあきらめないでくれて、ありがとう。生きることに不器用な徹子と、彼女の幼なじみ・護。二人の物語が重なったとき、温かな真実が明らかになる。


前半の「フラット」では護の目線で、後半の「」レリーフ」では徹子の目線で語られている。護目線の物語は、ちょっと変わった幼馴染の徹子を、つかず離れず見守り続ける護が見たものが描かれていて、ごく普通の青春物語といった趣である。だが、徹子の語りに入ると間もなく、それまで見てきたものごとの本質がみるみる立ち現われ、腑に落ちるとともに、徹子の健気さに切なくもなる。徹子の人生に思いをいたす時、徹子の健気さに切なくなり、知らずに涙があふれてくる。だが、ラストでその涙は、あたたかいものに変わるのである。徹子がまいた種は、さまざまな場所で実をつけていると確信できる。切ないが、愛情深い一冊だった。

窓の外を見てください*片岡義男

  • 2019/10/16(水) 18:45:29

窓の外を見てください
片岡 義男
講談社
売り上げランキング: 213,662

デビューしたばかりの青年作家・日高は、勝負の2冊目執筆のため、かつて親しかった3人の美女を訪ねようと思い立つ。その間にも、創作の素材となる出会いが次々に舞い込んできて…。小説はどのように発生し、形になるのか。めぐり逢いから生まれる創造の過程を愉しく描く。瑞々しい感性を持つ80歳の“永遠の青年”片岡義男、4年ぶりの最新長篇。


いま自分は、小説を読んでいるのか、それとも作中の小説を読んでいるのか、はたまた、作中作の中の小説を読んでいるのか……。ふと判らなくなって、元来た道を引き返して、角から来し方をのぞいてみたくなるような物語である。どこまでが現実であり事実であるのか、どこからが物語であり虚構であるのか。裏の裏は表ではなく、めくればめくるほど別の地平に立っていることに気づくような。きわめて日常的であるにもかかわらず重層的で、なんとも不可思議な一冊である。

うちの子が結婚しないので*垣谷美雨

  • 2019/08/09(金) 18:22:02

うちの子が結婚しないので (新潮文庫)
垣谷 美雨
新潮社 (2019-03-28)
売り上げランキング: 7,055

老後の準備を考え始めた千賀子は、ふと一人娘の将来が心配になる。 28歳独身、彼氏の気配なし。自分たち親の死後、娘こそ孤独な老後を送るんじゃ……? 不安を抱えた千賀子は、親同士が子供の代わりに見合いをする「親婚活」を知り参加することに。しかし嫁を家政婦扱いする年配の親、家の格の差で見下すセレブ親など、現実は厳しい。果たして娘の良縁は見つかるか。親婚活サバイバル小説!


婚活を通り越して、親婚活の物語である。結婚相手探しは、もはや本人だけには任せておけないという親の切実な思いはどこから来るのか。年金制度の頼りなさや、給与の低さ、待遇の不安定さなどもろもろの理由で、子世代の(娘だとなおさらである)将来設計が成り立たないことを憂うとともに、自分たち亡き後の我が子の人生まで考えた末の親婚活なのである。自分たち世代の結婚観や、取り巻く社会状況と、子世代のそれとの違いも、考えるほどに顕著に思われ、結婚という制度そのもののことから考え直すきっかけにもなる。いざ親婚活に参加してみれば、古い世代の親たちの結婚観と嫁の立場に打ちのめされることもあり、社会的立場の差による無言の圧力も感じたりして、問題点はさらに増えていくのである。コミカルでありながら、これ以上ないほどシリアスで、愉しんで読みながらも、やり切れなくなってくる。ラストは、いささかうまくまとめ過ぎな感もあるが、このくらいの希望はあってほしいものである。これからの結婚がどうなっていくのか、気になって仕方なくなる一冊でもある。

姑の遺品整理は、迷惑です*垣谷美雨

  • 2019/04/29(月) 18:19:58

姑の遺品整理は、迷惑です
垣谷 美雨
双葉社
売り上げランキング: 8,538

姑が亡くなり、住んでいたマンションを処分することになった。
業者に頼むと高くつくからと、嫁である望登子はなんとか
自分で遺品整理をしようとするが、あまりの物の多さに立ちすくむばかり。
「安物買いの銭失い」だった姑を恨めしく思いながら、
仕方なく片づけを始める。夫も手伝うようになったが、
さすが親子、彼も捨てられないタイプで、望登子の負担は増えるばかりである。
誰もが経験するであろう、遺品整理をユーモアーとペーソス溢れる筆致で描く長編小説。


姑の遺品を整理する嫁・望登子の立場で、物を溜め込んだまま亡くなった姑と、指輪ひとつしか残さずに亡くなった実母を比較してしまうのである。あまりの物の多さに呆然とし、と気に悪態をつきつつ片付けに通ううち、少しずつ姑の生きざまが明らかにされてきて、望登子の心情にも変化が表れ始める。遺品整理という厄介事を通して、人ひとりの生き様や生きがい、幸せなどをあれこれ考えさせられる。なにより、さっそく自らの断捨離を始めたくなる。可笑しみと哀しみと愛と実益にあふれた一冊だった。