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某*川上弘美

  • 2019/12/04(水) 16:47:22


変遷し続ける〈誰でもない者〉はついに仲間に出会う――。
愛と未来をめぐる、破格の最新長編。

ある日突然この世に現れた某(ぼう)。
人間そっくりの形をしており、男女どちらにでも擬態できる。
お金もなく身分証明もないため、生きていくすべがなく途方にくれるが、病院に入院し治療の一環として人間になりすまし生活することを決める。
絵を描くのが好きな高校一年生の女の子、性欲旺盛な男子高校生、生真面目な教職員と次々と姿を変えていき、「人間」として生きることに少し自信がついた某は、病院を脱走、自立して生きることにする。
大切な人を喪い、愛を知り、そして出会った仲間たち――。
ヘンテコな生き物「某」を通して見えてくるのは、滑稽な人間たちの哀しみと愛おしさ。
人生に幸せを運ぶ破格の長編小説。


川上弘美さんでなければ思いつかないような設定で、興味深い。何者でもないものとは、一体何者なのだろう。本人(?)たちでさえ、確固とした答えを持っていない者たちの、それでもそれぞれに個性を持った者としての生きざまをのぞき見しているような気分である。何者でもないからと言って、何にも縛られないわけでもなく、人間関係もそれなりに築き、多少変わった個性として人間社会に存在し、変異すれば忘れられていく。現在いる場所につなぎとめられる理由はなく、さりとてつなぎとめられない理由もまたない。だが、ほかの何者でもない者のために自分を犠牲にし、あるいは、その者を大切に思ったとき、なにかが変わるのだ。「某」が幸福なのかどうかはよくわからないが、某ではないわたしは、しがらみがあっても、逃げられなくても、生まれてから死ぬまで「わたし」という者として生きて行くのが幸福だと思わされる一冊でもあった。

いつかの岸辺に跳ねていく*加納朋子

  • 2019/10/24(木) 07:21:14

いつかの岸辺に跳ねていく
加納 朋子
幻冬舎 (2019-06-26)
売り上げランキング: 137,594

あの頃のわたしに伝えたい。明日を、未来をあきらめないでくれて、ありがとう。生きることに不器用な徹子と、彼女の幼なじみ・護。二人の物語が重なったとき、温かな真実が明らかになる。


前半の「フラット」では護の目線で、後半の「」レリーフ」では徹子の目線で語られている。護目線の物語は、ちょっと変わった幼馴染の徹子を、つかず離れず見守り続ける護が見たものが描かれていて、ごく普通の青春物語といった趣である。だが、徹子の語りに入ると間もなく、それまで見てきたものごとの本質がみるみる立ち現われ、腑に落ちるとともに、徹子の健気さに切なくもなる。徹子の人生に思いをいたす時、徹子の健気さに切なくなり、知らずに涙があふれてくる。だが、ラストでその涙は、あたたかいものに変わるのである。徹子がまいた種は、さまざまな場所で実をつけていると確信できる。切ないが、愛情深い一冊だった。

窓の外を見てください*片岡義男

  • 2019/10/16(水) 18:45:29

窓の外を見てください
片岡 義男
講談社
売り上げランキング: 213,662

デビューしたばかりの青年作家・日高は、勝負の2冊目執筆のため、かつて親しかった3人の美女を訪ねようと思い立つ。その間にも、創作の素材となる出会いが次々に舞い込んできて…。小説はどのように発生し、形になるのか。めぐり逢いから生まれる創造の過程を愉しく描く。瑞々しい感性を持つ80歳の“永遠の青年”片岡義男、4年ぶりの最新長篇。


いま自分は、小説を読んでいるのか、それとも作中の小説を読んでいるのか、はたまた、作中作の中の小説を読んでいるのか……。ふと判らなくなって、元来た道を引き返して、角から来し方をのぞいてみたくなるような物語である。どこまでが現実であり事実であるのか、どこからが物語であり虚構であるのか。裏の裏は表ではなく、めくればめくるほど別の地平に立っていることに気づくような。きわめて日常的であるにもかかわらず重層的で、なんとも不可思議な一冊である。

うちの子が結婚しないので*垣谷美雨

  • 2019/08/09(金) 18:22:02

うちの子が結婚しないので (新潮文庫)
垣谷 美雨
新潮社 (2019-03-28)
売り上げランキング: 7,055

老後の準備を考え始めた千賀子は、ふと一人娘の将来が心配になる。 28歳独身、彼氏の気配なし。自分たち親の死後、娘こそ孤独な老後を送るんじゃ……? 不安を抱えた千賀子は、親同士が子供の代わりに見合いをする「親婚活」を知り参加することに。しかし嫁を家政婦扱いする年配の親、家の格の差で見下すセレブ親など、現実は厳しい。果たして娘の良縁は見つかるか。親婚活サバイバル小説!


婚活を通り越して、親婚活の物語である。結婚相手探しは、もはや本人だけには任せておけないという親の切実な思いはどこから来るのか。年金制度の頼りなさや、給与の低さ、待遇の不安定さなどもろもろの理由で、子世代の(娘だとなおさらである)将来設計が成り立たないことを憂うとともに、自分たち亡き後の我が子の人生まで考えた末の親婚活なのである。自分たち世代の結婚観や、取り巻く社会状況と、子世代のそれとの違いも、考えるほどに顕著に思われ、結婚という制度そのもののことから考え直すきっかけにもなる。いざ親婚活に参加してみれば、古い世代の親たちの結婚観と嫁の立場に打ちのめされることもあり、社会的立場の差による無言の圧力も感じたりして、問題点はさらに増えていくのである。コミカルでありながら、これ以上ないほどシリアスで、愉しんで読みながらも、やり切れなくなってくる。ラストは、いささかうまくまとめ過ぎな感もあるが、このくらいの希望はあってほしいものである。これからの結婚がどうなっていくのか、気になって仕方なくなる一冊でもある。

姑の遺品整理は、迷惑です*垣谷美雨

  • 2019/04/29(月) 18:19:58

姑の遺品整理は、迷惑です
垣谷 美雨
双葉社
売り上げランキング: 8,538

姑が亡くなり、住んでいたマンションを処分することになった。
業者に頼むと高くつくからと、嫁である望登子はなんとか
自分で遺品整理をしようとするが、あまりの物の多さに立ちすくむばかり。
「安物買いの銭失い」だった姑を恨めしく思いながら、
仕方なく片づけを始める。夫も手伝うようになったが、
さすが親子、彼も捨てられないタイプで、望登子の負担は増えるばかりである。
誰もが経験するであろう、遺品整理をユーモアーとペーソス溢れる筆致で描く長編小説。


姑の遺品を整理する嫁・望登子の立場で、物を溜め込んだまま亡くなった姑と、指輪ひとつしか残さずに亡くなった実母を比較してしまうのである。あまりの物の多さに呆然とし、と気に悪態をつきつつ片付けに通ううち、少しずつ姑の生きざまが明らかにされてきて、望登子の心情にも変化が表れ始める。遺品整理という厄介事を通して、人ひとりの生き様や生きがい、幸せなどをあれこれ考えさせられる。なにより、さっそく自らの断捨離を始めたくなる。可笑しみと哀しみと愛と実益にあふれた一冊だった。

オーディションから逃げられない*桂望実

  • 2019/04/01(月) 20:17:09

オーディションから逃げられない
桂 望実
幻冬舎 (2019-02-07)
売り上げランキング: 91,407

渡辺展子はいつも「ついてない」と思っていた。中学でできた親友は同じ苗字なのに学校一の美女・久美。同じ「渡辺」でも、注目されない方の「渡辺」になった。絵が好きで美術部に入るが、そこでは「一風変わった絵」を描くだけの同級生がなぜか注目を集め評価されてしまう。就職活動をしてみれば、仲良し四人組の中で自分だけ内定が取れない。幸せな結婚生活を夢見ていたのに、旦那の会社が倒産する…。“選ばれなかった”女性の、それでも幸せな一生を描く。


人の一生は、選択の繰り返し。何かを選んで、誰かに選んでもらう。それはあたかもオーディションのよう。自分はついていない星の元に生まれたと思い込み、次は選んでもらえるだろうか、と思い続けて生きていた。だが、歳を重ねるにつれ、周囲にも不運な人がいることに気づき、もしかしたら自分は幸運だったのではないだろうかと思うようにもなってくる。夫の太一にはわたしも個人的にイライラさせられ通しで、長い目で見ればなくてはならない存在だとしても、その境地に辿り着くのは並大抵ではない気がしてしまう。そして、折々に挿みこまれる独白形式の描写が気になっていたのだが、ラストになってそういうことだったのかと納得させられる。思い描く希望を叶えられたり叶えられなかったり、上手くいったりいかなかったり。人生いろいろなのである。なんだかんだ言って、展子は幸せなのだ。自分の尺度で人を量ってはいけないと思わされもした一冊である。

定年オヤジ改造計画*垣谷美雨

  • 2019/03/20(水) 16:26:24

定年オヤジ改造計画
定年オヤジ改造計画
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垣谷美雨
祥伝社
売り上げランキング: 30,553

女たちのリアルな叫びに共感必至、旦那にも読ませたい本No.1!?

女は生まれつき母性を持っている? 家事育児は女の仕事? 女は家を守るべき……?
“都合のいい常識"に毒された男たちに、最後通告!

大手石油会社を定年退職した庄司常雄。
夢にまで見た定年生活のはずが、良妻賢母だった妻は「夫源病」を患い、娘からは「アンタ」呼ばわり。
気が付けば、暇と孤独だけが友達に。
そんなある日、息子夫婦から孫二人の保育園のお迎えを頼まれて……。
定年化石男、離婚回避&家族再生を目指して人生最後のリベンジマッチに挑む!


この年代の男性にこれを読ませて、自らを省みる人であるなら、見どころがあると言えるのかもしれない。多くの男たちは、それのどこが悪い、と開き直るのではないだろうか。だとしたらもう、やってられないわ、と女たちに見限られても何も言えないだろう。常雄の元同僚の荒木がまさにそんな男の代表として描かれていて、哀れにすら思えてくる。長い年月の刷り込みというのはほんとうに恐ろしいものだと痛感させられる。そして、共働きが当然のこととされるにもかかわらず、女性の置かれる状況が何ら改善されていない現代において、男性が家事や育児を「手伝う」というのがそもそもの間違いなのだろう。自ら率先して関わってもらわなくては、一家は立ち行かなくなるのである。多分に啓蒙的ではあるが、お説教めいていなくて愉しく読める一冊だった。

思い出が消えないうちに*川口俊和

  • 2018/11/29(木) 07:39:35

思い出が消えないうちに
川口俊和
サンマーク出版
売り上げランキング: 2,374

伝えなきゃいけない想いと、
どうしても聞きたい言葉がある。

心に閉じ込めた思い出を
もう一度輝かせるために、
不思議な喫茶店で過去に戻る4人の物語――。


不思議な力を持った時田ファミリーの営む、不思議な席のある喫茶店が舞台。これまでよりもさらに、ユカリさんの力が時間を超えて影響力を及ぼしている印象が強い。成り行きに任せるのではなく、操作できてしまうところに、いささかの違和感を抱かなくもない。それでうまくいっているので、物語的にはそうでなければならないのだろうが。たとえ過去に戻れたとしても、事実を変えることはできないが、心の持ちようはずいぶんと変わってくるものだと、改めて感じる。その時その時を後悔のないように暮らすのがいちばんなのだろうが、人間、なかなかそういうわけにはいかない。そんな風に抱え込んでしまった屈託が、過去に戻ることで晴らされ、あしたにつながることもあるのである。希望が持てるようになるシリーズである。

僕は金(きん)になる*桂望実

  • 2018/11/21(水) 18:47:13

僕は金(きん)になる
僕は金(きん)になる
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桂望実
祥伝社
売り上げランキング: 236,729

僕が小学六年生の春、両親が離婚した。家を出たギャンブル好きの父ちゃんは、将棋の天才の姉ちゃんに賭け将棋をやらせて暮らしている。父ちゃんが「ご立派」と呼ぶ母ちゃんの元に残された「普通」の僕は、非常識で破天荒で、将棋以外何にもできないくせに、楽しそうに生きる二人を軽蔑しながらも、どこか羨ましい――読む人の心を激しくゆさぶる、おかしな家族の四十年。


傍から見ると、母と僕=守はきちんとした親子、父と姉=りか子はいい加減でだらしない親子、に見えることだろう。実際、現象としてはその通りなのである。だが、家族というのは、それほど簡単に割り切れるものでもないのだ。父と姉のことを他人に紹介するのを恥ずかしいと思っても、だからと言って彼らのことが嫌いなわけではない。そして守は、普通以外の何者でもない自分のことを、なかなか認められない。昭和54年(守:小学六年生)から、平成29年までの38年間の父や姉と守とのかかわり方の移り変わりが、変化しているようであり、何も変わらないようでもあって、切ないやら、ほほえましいやらで、よくわからなくなる。しっかりしなさいと、はっぱをかけるのは簡単だが、そういう風にしか生きられない人もいるのかもしれないと、ちょっと立ち止まって考えたくもなる一冊である。

信長の原理*垣根涼介

  • 2018/11/09(金) 12:58:21

信長の原理
信長の原理
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垣根 涼介
KADOKAWA (2018-08-31)
売り上げランキング: 4,500

吉法師は母の愛情に恵まれず、いつも独り外で遊んでいた。長じて信長となった彼は、破竹の勢いで織田家の勢力を広げてゆく。だが、信長には幼少期から不思議に思い、苛立っていることがあった―どんなに兵団を鍛え上げても、能力を落とす者が必ず出てくる。そんな中、蟻の行列を見かけた信長は、ある試みを行う。結果、恐れていたことが実証された。神仏などいるはずもないが、確かに“この世を支配する何事かの原理”は存在する。やがて案の定、家臣で働きが鈍る者、織田家を裏切る者までが続出し始める。天下統一を目前にして、信長は改めて気づいた。いま最も良い働きを見せる羽柴秀吉、明智光秀、丹羽長秀、柴田勝家、滝川一益。あの法則によれば、最後にはこの五人からも一人、おれを裏切る者が出るはずだ―。


歴史小説であって歴史小説ではない、壮大な人間観察と分析の書である。信長という不世出の人間が、愛されたいという思いを深奥に抱えながらも、いたって合理的に癖の強い者たちを束ねてのし上がってきたかが、手に取るようにわかって興味深い。奇行の奥に隠れた冷徹な観察眼と、洞察力、そして物事の心理を見極め、そのことについて考え続ける集中力こそが、信長を天下統一の一歩手前までに至らしめた原動力ではないだろうか。そばにいる者はたまったものではないが、ある意味魅力的な人物であることも間違いない。普遍的な命題が語られている一冊のようにも思われる

夫の彼女*垣谷美雨

  • 2018/08/18(土) 07:42:19

夫の彼女
夫の彼女
posted with amazlet at 18.08.17
垣谷 美雨
双葉社
売り上げランキング: 420,278

夫の浮気を疑った妻が、彼の部下である相手の女性に会いに行く。言い争っていると、突然現れた老婆が「物事は相手の立場になって考えることが大切。つまらない喧嘩ばかりしていると、本当の敵を見失う」と言い、ふたりにとんでもないことをする。そのおかげで、確かに相手の立場はわかったけど、これから先、どうやって生きていけばいいの!? 想像もつかない展開と、ラストは思わず納得!の書き下ろし長編小説。


ドラマになったのを知らずに読んだので、予想外の展開にびっくりである。小説ならではの愉しみとも言える。導入部は、夫の浮気を疑う妻の、なんとも言えない心情と行動が描かれているので、この先泥沼の展開になるのかと思いきや、謎の老婆が現れてからの展開は、思わず目が点になってしまう。だが、その後のストーリーは、身につまされる部分もあり、考えさせられる要素もたくさんあって興味深かった。ラストは、無理やり無難にまとめた印象がなくもないが、それはそれで、心の安定を得られる気もして、嫌いではない。やきもきしながらも愉しく読める一冊だった。

私はあなたの記憶の中に*角田光代

  • 2018/06/24(日) 16:18:15

私はあなたの記憶のなかに
角田 光代
小学館
売り上げランキング: 32,798

角田ワールド全開!心震える待望の小説集
《「さがさないで。私はあなたの記憶のなかに消えます。夜行列車の窓の向こうに、墓地の桜の木の彼方に、夏の海のきらめく波間に、レストランの格子窓の向こうに。おはよう、そしてさようなら。」――姿を消した妻をさがして僕は記憶をさかのぼる旅に出た。》(表題作)のほか、《初子さんは扉のような人だった。小学生だった私に、扉の向こうの世界を教えてくれた。》(「父とガムと彼女」)、《K和田くんは消しゴムのような男の子だった。他人の弱さに共振して自分をすり減らす。》(「猫男」)、《イワナさんは母の恋人だった。私は、母にふられた彼と遊んであげることにした。》(「水曜日の恋人」)、《大学生・人妻・夫・元恋人。さまざまな男女の過去と現在が織りなす携帯メールの物語。》(「地上発、宇宙経由」)など八つの名短篇を初集成。
少女、大学生、青年、夫婦の目を通して、愛と記憶、過去と現在が交錯する多彩で技巧をこらした物語が始まる。角田光代の魅力があふれる魅惑の短篇小説集。


身近にありそうで、でも実際にはなさそうで、それでいて何とはなしに身に覚えのある感情を揺さぶられるような印象の物語たちである。実際に体験したわけではないのに、その場にいたことがあるような親しさを感じることがある。それは、人物にだったり、場所にだったり、あるいはその情景にだったりするのだが、振り返ってみても自分の人生の中にそんな場面はなかったはずなのである。そんな風にいつの間にか惹き込まれている一冊だった。

玉村警部補の巡礼*海堂尊

  • 2018/06/14(木) 16:36:14

玉村警部補の巡礼
玉村警部補の巡礼
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海堂 尊
宝島社
売り上げランキング: 53,423

累計1000万部突破『チーム・バチスタの栄光』シリーズに登場する“加納&玉村"コンビが、お遍路道中で難事件を解決!
休暇を利用して八十八箇所を巡拝する四国遍路に出た玉村警部補。
しかし、なぜか同行してきた警察庁の加納警視正と、行く先々で出くわす不可解な事件に振り回され……。
軽やかに跳躍する海堂ワールド、珠玉のミステリー四編。

「阿波 発心のアリバイ」お遍路の道中に遭遇した賽銭泥棒事件。加納警視正は容疑者となった女の無実を証明できるのか。
「土佐 修行のハーフ・ムーン」十年前に起きた政治家秘書不審死事件の容疑者には、鉄壁のアリバイが存在した――。
「伊予 菩提のヘレシー」蚊を信仰する寺で発見された不審死体。事件性はないかに思われたが、加納はAiの実施を主張する。
「讃岐 涅槃のアクアリウム」讃岐のひょうげ祭りに爆破テロ予告が! しかし、その背後には巨大な闇組織の暗躍があった……。


玉村・加納コンビふたたび、である。リフレッシュ休暇でお遍路の旅に出たはずのタマちゃんこと玉村警部補であるが、どういうわけか、もれなく警察庁のハウンド・ドッグの異名を持つ加納警視正と同道することになる。タマちゃんのお遍路計画は台無しであり、加納に無理難題を突き付けられ、反論するたびに、妙に納得してしまう屁理屈でやりこめられるのだった。というのも、加納はただタマちゃんに着いて歩いているわけではなく、しっかり仕事をしているのである。しかも、予定になかった事件まで抱え込んだりする始末。そしてそれらをことごとく解決してしまうのである。恐るべし加納警視正。と書くと、やたらと格好よさそうだが、本人の強引すぎるキャラクタがそう感じさせないところがミソである。ともあれ、でこぼこコンビの珍道中を再び見られて満足な一冊である。

カーテンコール!*加納朋子

  • 2018/03/16(金) 10:56:10

カーテンコール!
カーテンコール!
posted with amazlet at 18.03.16
加納 朋子
新潮社
売り上げランキング: 260,846

幕が下りた。もう詰んだ。と思ったその先に、本当の人生が待っていた。経営難で閉校する萌木女学園。私達はその最後の卒業生、のはずだった――。とにかく全員卒業させようと、限界まで下げられたハードルさえクリアできなかった「ワケあり」の私達。温情で半年の猶予を与えられ、敷地の片隅で補習を受けることに。ただし、外出、ネット、面会、全部禁止! これじゃあ、軟禁生活じゃない!


「砂糖壺は空っぽ」 「萌木の山の眠り姫」 「永遠のピエタ」 「鏡のジェミニ」 「プリマドンナの休日」 「ワンダフル・フラワーズ」

乙女ばかりの寮生活の半年を描いた物語である。と聞くと、さぞや華やかできらびやかな日々が繰り広げられるのだろうと想像したくなるが、舞台は、経営難による平衡が決まった萌木女学園の敷地の一角に建つ合宿棟のような建物。スタッフは、理事長の角田を始め、彼の妻や娘、老教師や校医など、ほぼ身内と言ってもいいような面々。さらには、外部との接触は一切禁止、食事も間食はじめ、生活の一部始終をしっかり管理された、矯正施設のようなものだったのである。生徒たちはと言えば、幾度もの救済措置からも零れ落ちた、折り紙付きの落ちこぼれであり、それぞれが問題を抱えている。覇気のない補講合宿なのだが、理事長の采配によって同室にされた者たちは、少しずつ相手のことを見るようになり、翻って自らにも目を向けるようになっていく。亀の歩みのようなのんびりしたものであっても、確実に進んでいる姿を見ていると、出会いの妙を感じさせられる。誰もが何かしらの屈託を抱えて生きているという、当たり前のようなことを認識するだけで、世界の色が変わって見えてくることもあるのだろう。最後の章では、角田理事長の胸の裡が語られるが、それに耳を傾け、その哀しみを想像できるようになった彼女たちの姿にも感動を覚える。切なくやるせなく、だが、じんわりと胸を温めてくれる一冊だった。

森へ行きましょう*川上弘美

  • 2017/12/04(月) 16:27:05

森へ行きましょう
森へ行きましょう
posted with amazlet at 17.12.04
川上 弘美
日本経済新聞出版社
売り上げランキング: 3,517

1966年ひのえうまの同じ日に生まれた留津とルツ。「いつかは通る道」を見失った世代の女性たちのゆくてには無数の岐路があり、選択がなされる。選ぶ。判断する。突き進む。後悔する。また選ぶ。進学、就職、仕事か結婚か、子供を生むか…そのとき、選んだ道のすぐそばを歩いているのは、誰なのか。少女から50歳を迎えるまでの恋愛と結婚が、ふたりの人生にもたらしたものとは、はたして―日経新聞夕刊連載、待望の単行本化。


500ページ超えの超大作であるが、途中一度も飽きることなく――というよりも、次の展開が愉しみで愉しみで、本を置くのが名残惜しくて仕方がなかった。留津とルツ二人の人生が描かれているのだが、登場人物はほぼ同じ。いわゆるパラレルワールドの物語である。後半、さらに分化してべつの「RUTSU」が登場するが、彼女たちが、留津の小説の登場人物なのか、さらなるパラレルの世界の人なのかは判然としない。そしてそれは大した問題でもないのかもしれないとも思われる。それぞれの人生は、良くも悪くもありそうな人生であり、誰もが自身に引き寄せて考えることのできるエピソードが満載であり、何ら突出したことはないのだが、ほんの些細な選択の違いによって、少しずつ様相を異にしていく人生の道筋がたいそう興味深くて、のめり込む。語り口も至って淡々としているのだが、すっかりとりこになってしまう一冊である。