カラダはすごい! モーツァルトとレクター博士の医学講座*久坂部羊

  • 2017/07/28(金) 19:04:07

カラダはすごい! モーツァルトとレクター博士の医学講座 (扶桑社新書)
久坂部 羊
扶桑社 (2017-04-30)
売り上げランキング: 69,856

ようこそ、ミステリアスな医療の世界へ――。
本講座では、モ-ツァルト、レクター博士、手塚治虫、ドストエフスキー、芥川龍之介、ゴッホ、デビットボウイなど、文学や映画、芸術を切り口に人体の不思議を紐解いてゆきます。
レクター博士に脳ミソを喰われても痛くないってホント? モーツァルトの耳はヘン? 「医療商人」にダマされない方法とは?
面白くて眠れなくなるカラダのトリビアが満載です!


医師であり、作家でもある著者だが、外科や麻酔科の経験もあり、外務省の医務官として海外赴任したこともあり、高齢者の在宅医療にも携わり、大学で講座を持つなど、医学に関する様々なキャリアをお持ちである。そんな実体験を踏まえて、身体のしくみや成り立ちから、医療や健康志向に関する「あるある」といったものまで、多岐にわたって触れられているので、小説ではなくいわば実用書なのだが、飽きることなく愉しめる。ある意味、雑学講座のようでありながら、実際に自分が直面した時の判断に役立ちそうな気もするのである。興味深い一冊だった。

反社会品*久坂部羊

  • 2017/06/10(土) 09:02:36

反社会品
反社会品
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久坂部 羊
KADOKAWA/角川書店 (2016-08-31)
売り上げランキング: 350,535

法に護られた高齢者と、死にものぐるいで働く若年層に分断された社会。若者は圧倒的な劣勢で。(「占領」)「働かないヤツは人間の屑!」と主張する愛国一心の会が躍進した社会で、病人は。(「人間の屑」)七編。
医療の近未来を描く、キケンな短篇小説集!


いま現在、本書に描かれた世界はまだ想像の域を出てはいない。だが、完全に絵空事だと言い切れる自信はない。いずれこんな社会になったとしても不思議はないとどこかで思ってしまうことが恐ろしくもある。何かきっかけがあれば、人々があっけなくある流れに呑み込まれ、流されていくことはよくわかっている。本作はその心理をとらえて見事であると思う。こんな世界にならないことを強く願い、安易に流されないように身を引き締めていかなければ、と思わされる一冊でもあった。

老乱*久坂部羊

  • 2017/05/22(月) 07:17:01

老乱
老乱
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久坂部羊
朝日新聞出版
売り上げランキング: 52,159

在宅医療を知る医師でもある著者が描く迫力満点の認知症小説。
老い衰える不安をかかえる老人、
介護の負担でつぶれそうな家族、
二つの視点から、やっと見えてきた親と子の幸せとは?
現実とリンクした情報満載の新しい認知症介護の物語。

医師、家族、認知症の本人の
それぞれの切実な“不都合な"真実を追いながら、
最後にはひと筋の明るいあたたかさのある感動の長篇小説。

著者は再発したがん患者と万策尽きた医師との深い葛藤をえがいた『悪医』で日本医療小説大賞を受賞している。


介護する立場で書かれたものは多く出回っているように思うが、介護される側の胸の裡の苦悩までリアルに描き出したものは珍しい気がする。歳を重ね、少しずつ自身でも老いを感じ始め、覚束なさや不甲斐なさ、情けなさを実感している舅と、別居してはいるが、ときどき舅の様子を見に通う嫁が、その都度感じる異変と先行きの不安、自分たちの生活が脅かされるかもしれないという漠然とした恐怖心、目の当たりにしていない夫の反応に対するもどかしさなどが、とても丁寧に描かれていて、現場をリアルに想像させられる。医療や福祉の現場の実態にも筆は及び、ほんの一端ではあろうが、その頼りなさが浮き彫りにされている。実態は、本作に描かれている以上に心身ともに苦労の多いことと思うが、老いていく者自身の覚悟と、それを支える者たちの覚悟を思い知らされる一冊でもある。

テロリストの処方*久坂部羊

  • 2017/05/05(金) 16:40:46

テロリストの処方
テロリストの処方
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久坂部 羊
集英社
売り上げランキング: 96,904

医療格差が広がる日本で、勝ち組医師を狙った連続テロが発生!
迫りくる日本の医療危機を予見する、戦慄の医療ミステリー。

医療費の高騰で病院に行けなくなる人が急増した日本。医療勝ち組と負け組に患者が二分され、同じく医師も、高額な医療で破格の収入を得る勝ち組と、経営難に陥る負け組とに二極化。そんな中、勝ち組医師を狙ったテロが連続して発生する。現場には「豚ニ死ヲ」の言葉が残されていた。若くして全日本医師機構の総裁となった狩野のもとにも、脅迫状が届く。医事評論家の浜川は、狩野に依頼され、テロへの関与が疑われる医師・塙の行方を探すことに。三人は医大時代の同級生だったのだが――。


遠くない未来の日本の医療現場の実態が生々しく描かれていて興味深い。医師の勝ち組負け組だけでなく、一般国民も贅沢で高度な医療を受けられる勝ち組と、最低限の処置さえ拒否されることもある負け組に分かれ、命をめぐる現場は混沌としている。癌や認知症の治療や健診の是非にも触れ、考えさせられることがありすぎて恐ろしくもなる。医療に携わる人たちにとっても一般の患者にとっても、もちろん制度を作る政治家にとっても問題を多く孕む一冊である。

片桐大三郎とXYZの悲劇*倉知淳

  • 2016/01/25(月) 17:05:20

片桐大三郎とXYZの悲劇
倉知 淳
文藝春秋
売り上げランキング: 106,116

この一冊で、エラリー・クイーンの〝X・Y・Zの悲劇〟に挑戦!

歌舞伎俳優の家に生まれたものの、若くして映画俳優に転身、
世界的な人気を博す名監督の映画や、時代劇テレビシリーズなどに主演し、
日本に知らぬものはないほどの大スターとなった片桐大三郎。
しかし古希を過ぎたころ、突然その聴力を失ってしまった――。
役者業は引退したものの、体力、気力ともに未だ充実している大三郎は、
その特殊な才能と抜群の知名度を活かし、探偵趣味に邁進する。
あとに続くのは彼の「耳」を務める新卒芸能プロ社員・野々瀬乃枝(通称、のの子)。
スターオーラをまき散らしながら捜査する大三郎の後を追う!

「ドルリー・レーン四部作」を向こうに回した、本格ミステリー四部作をこの一冊で。
殺人、誘拐、盗難、そして……。最高に楽しくてボリューム満点のシリーズ連作。


 冬の章 ぎゅうぎゅう詰めの殺意
 春の章 極めて陽気で呑気な凶器
 夏の章 途切れ途切れの誘拐
 秋の章 片桐大三郎最後の季節

時代劇界の大御所、片桐大三郎が探偵役の物語である。聴力を失って役者は引退しているとは言え、存在感は少しも衰えず、社内でも、厳然と威容を誇っている。のの子(野々瀬乃枝)は、彼の耳代わりとして雇われたので、どこへ行くにもついていくことになるのだが、この二人のやり取りもなかなか味があって面白い。片桐は、庶民のことを知らないので、空気を読めないことは時にあるが、決して押しつけがましいわけではなく、観察眼は鋭く、推理力も見事なのである。警察が頼りたくなるのもうなずける。最後の章では、まさかそんな!?とどきどきさせられるが、まんまとしてやられてしまった。嬉しい限りである。もっと続きが読みたくなる一冊である。

虚栄*久坂部羊

  • 2015/12/05(土) 17:15:58

虚栄
虚栄
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久坂部 羊
KADOKAWA/角川書店 (2015-10-02)
売り上げランキング: 13,799

凶悪化がん治療国家プロジェクト「G4」の発足に、外科医・雪野は期待を抱いた。手術、抗がん剤、放射線治療、免疫療法。四グループの邂逅は陰謀に満ちた覇権争いに発展。がん医療の最先端をサスペンスフルに描く!


有名人が次々と凶悪がんで亡くなる事例がマスコミをにぎわした。そんな折、国は、診療科を跨いだがん撲滅に力を注ごうと、プロジェクト「G4」を起ち上げた。だが、いざ蓋を開けてみれば、それぞれの診療科の覇権争いに終始し、しかも、医者たち自身が、次々にがんに侵されていく。いざ自分ががんになったときの対応や、診療科同士はもちろん、科内での出世競争は、見ていて哀れさえも感じられる。これが医療の現実だとしたら、かなり厭だが、似たり寄ったりのことはあるのだろうと想像できてしまうところがまたなんとも言えない思いである。極端な描き方をされている部分もあるとは思うが、興味深く、486ページというボリュームを感じさせない一冊だった。

勁草*黒川博行

  • 2015/08/11(火) 07:06:18

勁草 (文芸書)
勁草 (文芸書)
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黒川 博行
徳間書店
売り上げランキング: 10,168

橋岡は「名簿屋」の高城に雇われていた。名簿屋とはオレオレ詐欺の標的リストを作る裏稼業だ。橋岡は被害者から金を受け取る「受け子」の手配も任されていた。騙し取った金の大半は高城に入る仕組みで、銀行口座には金がうなっているのだ。賭場で借金をつくった橋岡と矢代は高城に金の融通を迫るが…。一方で大阪府警特殊詐欺班の刑事たちも捜査に動き出していた。最新犯罪の手口を描き尽くす問題作!直木賞作家、迫真の犯罪サスペンス。


オレオレ詐欺を題材にした物語である。人はどうやってオレオレ詐欺の掛け子(ターゲットに電話をする役)や受け子(お金を受け取る役)になり、ずぶずぶと深みにはまっていくのかが、目の前で見ているようによく判って恐ろしい。そして、ターゲットが、どんな風にはまり込んで被害者になっていくのかも手に取るようにわかって空恐ろしくなる。もう誰に何を聞かれても、何も答えたくない。さらには、尻尾を掴まれないようにどんどん巧みになる手口から、大元の逮捕を目指して地道に歩き回り、可能性をつぶしていく警察の捜査の苦労もよく判る。そんなドキュメンタリーのような出来事のなかで、登場人物たちのキャラクタがいい。詐欺を働く側も、それを追いつめる側も、どちらも人間であり、それぞれに人生があるのが見て取れて、興味深い。ラストはそれまでのハラハラ感からすると、えっ?と思うような展開ではあるが、それ故読者が橋岡の行く末を想像する余地もある。興味深い一冊だった。

星読島に星は流れた*久住四季

  • 2015/07/24(金) 18:51:33

星読島に星は流れた (ミステリ・フロンティア)
久住 四季
東京創元社
売り上げランキング: 108,185

天文学者サラ・ディライト・ローウェル博士は、自分の住む孤島で毎年、天体観測の集いを開いていた。ネット上の天文フォーラムで参加者を募り、招待される客は毎年、ほぼ異なる顔ぶれになるという。それほど天文には興味はないものの、家庭訪問医の加藤盤も参加の申し込みをしたところ、凄まじい倍率をくぐり抜け招待客のひとりとなる。この天体観測の集いへの応募が毎回凄まじい倍率になるのには、ある理由があった。孤島に上陸した招待客たちのあいだに静かな緊張が走るなか、滞在三日目、ひとりが死体となって海に浮かぶ。犯人は、この六人のなかにいる―。奇蹟の島で起きた殺人事件を、俊英が満を持して描く快作長編推理!


数年に一度隕石が落ちるという星読島。そしてその島には個人所有の天体観測所「星読館」があり、天文学者・ローウェル博士が天体観測をしながら暮らしている。これだけですでに何か仕掛けがありそうな予感が膨れ上がる。さらに、天文好きが集うインターネット上のフォーラムのメンバーから厳選された数名が島に招待され、運よく隕石が落ちたら、彼らのうちの誰かがそれをもらうことができるというのである。天文にさほど興味があるわけではない医者で、物語の主人公である加藤盤も、ある事情から応募して運よく招待されるのだが、孤島と言ってもいい星読島で殺人事件が起こる。招待者たちには面識がなく、年齢も住まいも境遇もさまざまななか、犯人探しと疑心暗鬼に苛まれるのである。加藤盤が探偵役となって、事件を解明しようとするのだが、そこにまた新たな事件が――。判断材料が少ない中、答えにたどり着くが、それがまた二転三転するのも興味深い。真犯人は誰もが考えるだろう人物ではあるものの、その動機は哀し過ぎてやり切れない。なかなか魅力的な一冊だった。

蜘蛛の糸*黒川博行

  • 2015/07/07(火) 16:34:20

蜘蛛の糸
蜘蛛の糸
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黒川博行
光文社
売り上げランキング: 130,851

彫刻家・遠野公彦。独身、四十二歳。頭髪と体型に少々の難あれど、相続資産あり。そんな遠野に巡ってきた、千載一遇のモテモテチャンス。だが、ひょんなミスをしたことが運の尽き。艱難辛苦、抱腹絶倒、めくるめく夜の迷走劇がはじまった―(表題作「蜘蛛の糸」)。他、しょうもなさ天井知らずの男たちを濃厚に描いた全七編。


こういうテイストだと判っていれば手に取らなかった一冊である。男の哀れな性が哀れさそのままに描かれている。大して女はみなしたたかで、男の下心など初めからお見通しなのが、辛うじて痛快とも言える。

芥川症*久坂部羊

  • 2014/07/19(土) 16:45:26

芥川症芥川症
(2014/06/20)
久坂部 羊

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あの名作が、現代の病院によみがえる――文豪驚愕の医療小説! 医師と芸術家の不気味な交流を描き出す「極楽変」。入院患者の心に宿るエゴを看護師の視点で風刺する「クモの意図」。高額な手術を受けた患者と支援者が引き起す悲劇「他生門」。介護現場における親子の妄執を写し出す「バナナ粥」……芥川龍之介の代表作に想を得て、毒とユーモアに満ちた文体で生老病死の歪みを抉る超異色の七篇。


「病院の中」 「他生門」 「耳」 「クモの意図」 「極楽変」 「バナナ粥」 「或利口の一生」

タイトルから想像に難くないが、各章のタイトルも見事に芥川作品をもじっていて、しかも内容もそれぞれの作品を思い起こさせる仕掛けに富んでいる。神の領域に限りなく近く思われる医学の世界も、人間の営みの一部であると、可笑し味や悲哀とともに再認識させられる一冊でもある。

嗤う名医*久坂部羊

  • 2014/04/29(火) 16:48:36

嗤う名医嗤う名医
(2014/02/26)
久坂部 羊

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“嫁”の介護に不満を持つ老人(「寝たきりの殺意」)。豊胸手術に失敗した、不運続きの女(「シリコン」)。患者の甘えを一切許さない天才的外科医(「至高の名医」)。頭蓋骨の形で、人の美醜を判断する男(「愛ドクロ」)。ストレスを全て抱え込む、循環器内科医(「名医の微笑」)。相手の嘘やごまかしを見抜く内科医(「嘘はキライ」)。本当のことなんて、言えるわけない。真の病名、患者への不満、手術の失敗。現役医師による、可笑しくて怖いミステリー。


小説だと思えば笑ってしまうような内容だったりもするのだが、これが現役の医師が書いたものとなると、また別な感情も湧いてくる。つい笑ってしまうようなことや、まさかそんなこと、と思われるような事例も、実は現場では頻繁に起こっているのかもしれないと、背筋がうすら寒くなりもするのである。うっかり病気にもなれないと健康を大事に思わせてくれる一冊でもある。

卵町*栗田有起

  • 2014/03/21(金) 17:04:16

卵町 (ポプラ文庫)卵町 (ポプラ文庫)
(2014/02/05)
栗田有起

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サナは、亡くなった母の願いを叶えるため、かつて彼女が過ごしたという卵町を訪れる。卵町は、とても静かで、とてもやさしい、特別な場所だった。サナは、そこで彫刻家のエイキ、妻を亡くしたクウさん、元看護師のタマキさん、そして母にとって特別な存在であったシイナと出会う。そして、想像もしなかった、母の秘密を知ることになり――。心温まる感動作が、いきなり文庫で登場です!


母が亡くなったが泣けなかったサナ。母が寄ってくると、その分自分から距離を取るような、そんな関係だった母の最期の願いが、自分がかつて暮らした卵町に行ってシイナに自分の死を伝えてほしいということだった。卵町は、死にゆく人と彼らを見守る人たちの町で、曇り空の下に静かに穏やかに息をしているような町だった。サナは、そこで借りた部屋の大家のスミや、森の彫刻家エイキらと触れ合いながらシイナを探し当て、彼女から母の思い出話を聞くことになる。そこに走らなかった母の若いころがあり、生き生きとした母の姿があって、サナは当惑しながらものめりこんでいく。いつしか卵町を去りがたくなってくるほどだった。いまここに自分があるのは、誰かとつながっていたからなのだと、静かに自然に受け入れられるような穏やかな気持ちにさせてくれる一冊である。

シュークリーム・パニック Wクリーム*倉知淳

  • 2014/03/14(金) 18:39:13

シュークリーム・パニック ―Wクリーム― (講談社ノベルス)シュークリーム・パニック ―Wクリーム― (講談社ノベルス)
(2013/11/07)
倉知 淳

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「絶食って、何も食べちゃいけないんですか」―体質改善セミナーに参加したメタボな男性4人組。インストラクターの無慈悲な指導によって、耐え難い空腹感が行き場のない怒りへと変わっていく中、冷蔵庫のシュークリームが盗まれる事件が発生する。ミステリマニアの受講者、四谷は探偵役に名乗りを上げるが―!?爆笑必至の「限定販売特製濃厚プレミアムシュークリーム事件」はじめ、ひと味違う本格ミステリ作品を3編収録!


「限定販売特別濃厚プレミアムシュークリーム事件」 「通い猫ぐるぐる」 「名探偵南郷九条の失策--怪盗ジャスティスからの予告状」

コミカルタッチの本格推理小説である。やり過ぎと思えるほど繰り返される説明文といい、お約束のような会話といい、わざとうんざりさせようとしているとしか思えなかったりもするが、それがまたひとつの味になっていて、堅苦しいだけではないミステリになっているように思う。ふざけているようであって、押さえるところはちゃんと押さえられているのが著者流だろうか。愉しめる一冊である。

星を賣る店*クラフト・エヴィング商會

  • 2014/02/14(金) 13:02:48

星を賣る店星を賣る店
(2014/01/27)
クラフト・エヴィング商會

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この展覧会はうそかまことか――。クラフト・エヴィング商會の棚おろし的展覧会公式図録。文学、デザイン、アートを軽々と渡り歩く同商會の魅力と新たな世界が満喫できる約3年ぶりの新刊。


本書を読むに先駆けて、世田谷文学館で催されている「棚卸展覧会」を拝見してきたので、なおさら愛着深く読ませていただいた。あるようで存在せず、ないようで実在するあれこれが、入り交じりつつ整然と並べられている様は、二次元でも三次元でも圧巻である。展覧会でも、ひとつひとつ手に取って、裏返したり包み紙を剥いたり、蓋を開けて中を覗いたりしたくなる衝動を抑えるのが大変だったが、本書を開いて、またそのときの気分を思い出してしまった。巻末の「お客さまの声」にひと言を寄せられた著名人のみなさんも、クラフト・エヴィング商會の不思議な力に吸い寄せられているのがありありと感じられて、思わず頬が緩んでしまう。この次はどんな旅をさせてくれるのだろうと期待が膨らむ一冊でもある。

悪医*久坂部羊

  • 2013/12/08(日) 21:12:38

悪医悪医
(2013/11/07)
久坂部 羊

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現役の医師でもあり作家でもある著者が、満を持して取り組んだ「悪い医者とは?」を問いかける感動の医療長編小説。
がん治療の拠点病院で、52歳の胃がん患者の小仲辰はがんが再発したあと、外科医の森川良生医師より「これ以上、治療の余地がありません」と告げられた。
「私にすれば、死ねと言われたのも同然」と、小仲は衝撃のあまり診察室を飛び出す。
小仲は大学病院でのセカンドオピニオンを断られ、抗がん剤を専門とする腫瘍内科、免疫細胞療法のクリニック、そしてホスピスへ。
それぞれの場所で小仲はどんな医師と出会うのか。
一方、森川は現在の医療体制のもと、患者同士のいさかい、診療での「えこひいき」問題など忙殺されるなか、診療を中断した小仲のことを忘れることができず、末期がん患者にどのように対したらよいのか思い悩む日々がつづく。
患者と医師の間の溝ははたして埋められるのか。
がん治療に対する医師の本音と患者の希望は軋轢を生み、物語は運命のラストへと向かう。
ひくにひけない命という一線を、患者と医師双方の切迫した事情が迫真のドラマを生み出す問題作。


重く壮絶な物語だった。当事者にならない限り、ほんとうには理解できないであろう患者の想いと、そんな患者を数多く担当する医師の想い。立場の違い、知識の違いなどによって、互いに理解し合えないことも多い。どのように病気と向き合うか、どのように患者に寄り添うかを、それぞれが問われているようにも思われる。さまざま考えさせられ、重苦しい気分になるが、考えることは無駄ではないとも思わされる一冊である。

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