FC2ブログ

みかんとひよどり*近藤史恵

  • 2019/04/15(月) 18:08:51

みかんとひよどり
みかんとひよどり
posted with amazlet at 19.04.15
近藤 史恵
KADOKAWA (2019-02-27)
売り上げランキング: 122,247

はじめたばかりの猟で遭難してしまった潮田亮二、35歳。相棒の猟犬と途方に暮れていたところ、無愛想な猟師・大高に助けられる。かねてからジビエ料理を出したいと考えていた潮田は、大高の仕留めた獲物を店で出せるよう交渉する。しかし、あっさり断られてしまい―。夢を諦め、ひっそりと生きる猟師。自由奔放でジビエへの愛情を持つオーナー。謎の趣味を持つ敏腕サービス係。ふつうと少し違うけど自分に正直な人たちの中で、潮田は一歩ずつ変わっていく。人生のゆるやかな変化を、きめ細やかに描く、大人の成長物語。


ジビエ料理にスポットを当てた物語は珍しいのではないだろうか。獣を狩る者とそれを料理する者、そして犬たち。著者ならではの題材という気がする。獣を狩る者、それを料理して提供する者。店を維持していくことも考えなければならないというジレンマ。さまざまな事々が相まって、日々何かに追われているようでもある。自然を相手にし、自然と共に生きることの過酷さと覚悟や、人間社会で生きていく上で避けて通れない難題が、物語を通して伝わってくるような気がする。立場の違う大高と潮田だが、互いの存在が、より深く考えるきっかけになり、互いの視野を広げたことは確かだろう。それぞれの今後と、犬たちの成長をもっと見たいと思わされる一冊だった。ぜひ続編を読みたいものである。

エムエス 継続捜査ゼミ2*今野敏

  • 2019/02/19(火) 16:50:10

エムエス 継続捜査ゼミ2
今野 敏
講談社
売り上げランキング: 54,561

未解決事件を取り上げるため「継続捜査ゼミ」と呼ばれる小早川ゼミの5人の女子大生は、冤罪をテーマにしようとする。小早川は、授業で学内ミスコン反対のビラを配る女子学生高樹晶に会うが、高樹は小早川と話をした直後、何者かに襲われ救急車で運ばれた。その後、高樹に対する傷害容疑で小早川が任意同行されることに――警察に疑われ続ける教授に代わり、ゼミ生たちが協力して事件の真相を明らかにしていく。


登場人物のキャラクタもしっかり定着して、それぞれが生き生きしている本作である。そして今回は、ゼミでは冤罪事件を取り上げるのだが、小早川自身が冤罪の被害者にされかけるという、なんとも言えないタイミングの良さ(悪さかもしれないが)で、冤罪ということについて様々な角度から考えさせられる。立場が違うと見え方がこうも違うものかと思わされることもあり、ひとつ歯車を掛け違うと、どこまでも修正が効かなくなってエスカレートしていく怖さも味わった。なにより、小早川ゼミの結束力が強まった物語であったと思う。次の活躍が愉しみなシリーズである。

継続捜査ゼミ*今野敏

  • 2019/02/11(月) 18:48:28

継続捜査ゼミ (講談社文庫)
今野 敏
講談社 (2018-10-16)
売り上げランキング: 23,251

長年の刑事生活の後、警察学校校長を最後に退官した小早川の再就職先は女子大だった。彼が『刑事政策演習ゼミ』、別名『継続捜査ゼミ』で5人の女子大生と挑む課題は公訴時効が廃止された未解決の殺人等重要事案。最初に選んだのは逃走経路すら不明の15年前の老夫婦殺人事件だった。彼らは時間の壁を超え事件の真相に到達できるのか。異色のチーム警察小説、シリーズ第1弾!


元警察学校の校長だとは言え、昔の未解決事件だとは言え、一般人にここまで情報を開示していいのだろうかという疑問は於くとして、未解決事件を題材にして検証を進めるゼミはおもしろそうである。ゼミ生は五人、それぞれ個性に富んだ面々で、得意分野もさまざまである。それがうまい具合に役割分担になって事件の真相に迫っていくのである。教授である小早川のキャラクタもなかなか魅力的である。それにしても、いくら題材の提供者だとは言え、毎回オブザーバーとしてゼミに参加している安斎刑事の本来の仕事はどうなっているのか不思議である。ともあれ、気軽に読めて愉しいシリーズで、次が愉しみな一冊である。

殺人鬼にまつわる備忘録*小林泰三

  • 2018/12/04(火) 07:46:44

殺人鬼にまつわる備忘録 (幻冬舎文庫)
小林 泰三
幻冬舎 (2018-10-10)
売り上げランキング: 48,943

見覚えのない部屋で目覚めた田村二吉。目の前に置かれたノートには、「記憶が数十分しかもたない」「今、自分は殺人鬼と戦っている」と記されていた。近所の老人や元恋人を名乗る女性が現れるも、信じられるのはノートだけ。過去の自分からの助言を手掛かりに、記憶がもたない男は殺人鬼を捕まえられるのか。衝撃のラストに二度騙されるミステリー。


短期記憶が定着しない田村二吉が主人公なので、チャプターが変わるたびに記憶がまっさらになり、改めて現在の状況を、自らが記したノートで確認するところから始まる。読者はもちろん経緯をすべてわかっているのに、主人公だけが、新たな気持ちで事に当たるのが、新鮮でもありもどかしくもある。経験則が役に立たないというのは、どういうものだろうか、と想像するだけで絶望的になるが、二吉はそんなことすら考える余裕なく、日々を生きている。しかも、触れた人物の記憶を自由に書き換えられる殺人鬼と対峙しているのだから、本人以外の周囲の危機感はさらに増す。ラストは、一見うまくいったように見えるが、いささかもやもやとする気分が残る。本当は何が真実なのだろうか。気になって仕方がない一冊ではある。

わたしの本の空白は*近藤史恵

  • 2018/09/25(火) 16:37:00

わたしの本の空白は
わたしの本の空白は
posted with amazlet at 18.09.25
近藤史恵
角川春樹事務所
売り上げランキング: 163,927

気づいたら病院のベッドに横たわっていたわたし・三笠南。目は覚めたけれど、自分の名前も年齢も、家族のこともわからない。現実の生活環境にも、夫だという人にも違和感が拭えないまま、毎日が過ぎていく。何のために嘘をつかれているの?過去に絶望がないことだけを祈るなか、胸が痛くなるほどに好きだと思える人と出会う…。何も思い出せないのに、自分の心だけは真実だった。


自分が誰なのか、どんな立場で、誰とどんな暮らしをしていたのか、思い出せないのはどれほど心細いだろうと、まず胸が痛くなる。しかも、どんな理由で、記憶をなくして病院のベッドで目覚めたのかも皆目判らないのである。どこに帰ればいいのか、誰を信じればいいのか。極端なことを言えば、自分さえも信じられないだろう。ただ、主人公の南の場合は、覚えてはいなくても、居心地がいいとか、安心できるとかいう気分は何となくわかるようで、当面は、それで判断するしか方法がない。途轍もなくい緊張感の中で過ごさなくてはならないことが容易に想像できる。日々を過ごし、周りの人の話や、折に触れて接するものごとから、少しずつ手掛かりに触れられるようになってくると、そこには、思いもしなかった現実が待ち構えているのだった。すべて忘れたままだったほうが幸せなのか、それともすべてはっきり思い出すのが幸せなのか。どちらにせよ、悩みは尽きそうにない。次の展開が早く知りたくて、ページを繰るのがもどかしい一冊だった。

震える教室*近藤史恵

  • 2018/05/13(日) 08:10:17

震える教室
震える教室
posted with amazlet at 18.05.12
近藤 史恵
KADOKAWA (2018-03-31)
売り上げランキング: 242,884

歴史ある女子校・凰西学園に入学した真矢は、怖がりの花音と友達になる。ひょんなことから、ふたりは「出る」と噂のピアノ練習室で、虚空から伸びる血まみれの白い手を目撃してしまう。その日を境に、ふたりが手をつなぐと、不思議なものが見えるようになった。保健室のベッドに横たわる首がないびしょ濡れの身体、少女の肩に止まる白いなにか、プールの底に沈むもの…。いったいなぜ、ここに出現するのか?少女たちが学園にまつわる謎と怪異を解き明かす、6篇の青春ミステリ・ホラー。


わたしの苦手なホラーである。しかもそれが起こるのは、歴史ある――予てから「何か出る」と噂されている――女子校。中学からあるこの学校に、高校からの外部受験者として入学した真矢と花音はすぐに親しくなり、二人が触れ合うことで、怪異が見えてしまうことに気づくのにも時間はかからなかった。ここで起こる怪異は、この学校に関わる者たちの身に起こったことが元になっていて、それがさらに恐ろしさを増す印象である。見えるものと見えないものとのわずかな差で、世界が変わることも興味深い。苦手なホラーではあるが、真矢と花音のキャラクタや、花音の小説家の母のアドバイスなども含めて、拒否反応を起こさず愉しめる一冊だった。

インフルエンス*近藤史恵

  • 2017/12/31(日) 14:30:41

インフルエンス
インフルエンス
posted with amazlet at 17.12.31
近藤 史恵
文藝春秋
売り上げランキング: 93,985

大阪郊外の巨大団地で育った小学生の友梨(ゆり)はある時、かつての親友・里子(さとこ)が無邪気に語っていた言葉の意味に気付き、衝撃を受ける。胸に重いものを抱えたまま中学生になった友梨。憧れの存在だった真帆(まほ)と友達になれて喜んだのも束の間、暴漢に襲われそうになった真帆を助けようとして男をナイフで刺してしまう。だが、翌日、警察に逮捕されたのは何故か里子だった――
幼い頃のわずかな違和感が、次第に人生を侵食し、かたちを決めていく。深い孤独に陥らざるをえなかった女性が、二十年後に決断したこととは何だったのか?


ある女性から、同年代の女性作家の元に、聞いてもらいたいことがあるという手紙が届いたことがきっかけで、彼女の話を聴くことになった。大きく見れば作家の目線で語られるのだが、大部分は女性が話しているので、彼女の目線で物語は進んでいく。大阪の大きな団地で過ごした幼少期から、小学生中学生と成長する間に、我が身や友人たちの身に起こった重すぎる出来事やそれにまつわるあれこれ、そして高校大学と進み、社会に出て、かつての友人たちとの関係性もどんどん希薄になっていると思っていたある日、またそのつながりが再燃し、呪縛から逃れられてはいなかったことに気づかされる。物語の初めから漂う不穏さは、全編に漂い続け、心が安らぐときがないのだが、最後の最後に作家が自らの卒業アルバムで見つけたものが、彼女たちのつながりののっぴきならなさをさらに強めているようでもある。どこまでもどってどうしていたらなにものにも縛られない明るい道を歩けたのだろうか。ぐるぐると同じ道を迷い続けているような心地の一冊である。

ときどき旅に出るカフェ*近藤史恵

  • 2017/08/31(木) 16:23:18

ときどき旅に出るカフェ
双葉社 (2017-07-28)
売り上げランキング: 9,095

平凡で、この先ドラマティックなことも起こらなさそうな日常。自分で購入した1LDKのリビングとソファで得られる幸福感だって憂鬱のベールがかかっている。そんな瑛子が近所で見つけたのは日当たりが良い一軒家のカフェ。店主はかつての同僚・円だった。旅先で出会ったおいしいものを店で出しているという。苺のスープ、ロシア風チーズケーキ、アルムドゥドラー。メニューにあるのは、どれも初めて見るものばかり。瑛子に降りかかる日常の小さな事件そして円の秘密も世界のスイーツがきっかけに少しずつほぐれていく―。読めば心も満たされる“おいしい”連作短編集。


職場ではお局呼ばわりされる年齢になり、友人たちも結婚したり子どもを産んだりして価値観が少しずつ違ってきて、自分で選んだこととは言え、我が身を持て余し気味だった瑛子が主人公である。家の近くでたまたま見つけて入ったカフェ・ルーズは、偶然にもかつて職場で一緒に働いていた葛井円が営む店だった。毎月一日から八日までは休みで、円はその期間、旅行に出かけたり、メニューの試作をしたりしているらしい。海外で見つけたその土地で親しまれている料理の名前が並ぶメニューは、普通のカフェでは見慣れないものなのだった。円が心を込めて作る料理は、その思いの分もあたたかく美味しくて、瑛子のお気に入りの場所になる。職場やカフェで起こる出来事の、ほんの些細な違和感を、おいしいスイーツと円の人柄や思いやりがするすると解きほぐしていくのである。辛いこともあるし、受け容れがたいこともたくさんあるが、価値観を大らかに持てばなんてこともないのかもしれないと思わせてくれる一冊でもある。

マカロンはマカロン*近藤史恵

  • 2017/02/07(火) 13:57:37

> more >>>

シャルロットの憂鬱*近藤史恵

  • 2017/01/29(日) 06:59:14

シャルロットの憂鬱
シャルロットの憂鬱
posted with amazlet at 17.01.28
近藤 史恵
光文社
売り上げランキング: 43,978

元警察犬シャルロットとの日常と事件をやわらかく描く、傑作コージーミステリー

シャルロットは雌のジャーマンシェパード。警察犬を早く引退し、四歳で池上家にやってきた。はじめて犬と暮らす夫妻にも、散歩などをきっかけに犬同士、飼い主同士のゆるやかな連帯も生まれてくるが、なかには不穏な事件を持ち込む者もいて──。


主役は、元警察犬のジャーマンシェパードの女の子・シャルロットである。子どもができない池上夫妻の元にやって来て、家族の一員になった。シャルロットと暮らす日々に起こる事件や不思議な出来事を池上夫妻が解き明かしていくのだが、シャルロットの反応が大いに助けになっているのである。ミステリではあるのだが、犬と暮らす日常のあれこれが、温か味を持って描かれていてほんわか気分になれる。さらに、ペットと暮らすことに関して、考えさせられることもあり、著者のペットへの愛も感じられる一冊になっている。

クララ殺し*小林泰三

  • 2016/10/04(火) 18:24:47

クララ殺し (創元クライム・クラブ)
小林 泰三
東京創元社
売り上げランキング: 101,351

大学院生・井森建は、ここ最近妙な夢をよく見ていた。自分がビルという名前の蜥蜴で、アリスという少女や異様な生き物が存在する不思議の国に棲んでいるというものだ。だがある夜、ビルは不思議の国ではない緑豊かな山中で、車椅子の美少女クララと“お爺さん”なる男と出会った。夢の中で「向こうでも会おう」と告げられた通り、翌朝井森は大学の校門前で“くらら”と出会う。彼女は、何者かに命を狙われていると助けを求めてきたのだが…。夢の“クララ”と現実の“くらら”を巡る、冷酷な殺人ゲーム。


『アリス殺し』の姉妹編。前作と同じく、というよりも前作以上に、要素が複雑に絡み合っており、しかもあちらの世界とこちらの世界も複雑に入り組んでいて、謎解きにかかる辺りからはことに、頭の中がグルグルしてくる。誰が誰のアーヴァタールで、誰と誰が通じているのか、さらには誰が改造されて元とは違う存在になっているのかが複雑で、解きほぐせなくなってくる。しかも、罪と罰の観念もあちらとこちらでは違うので、なにを持って解決とするのかも不確かで、いささか消化不良気味でもあり、哲学的と言ってもいいかもしれない。次々に暴かれる本体とアーヴァタールの相関関係が判ってくると、どんどん先を知りたくなる一冊でもある。

スティグマータ*近藤史恵

  • 2016/08/17(水) 18:34:06

スティグマータ
スティグマータ
posted with amazlet at 16.08.17
近藤 史恵
新潮社
売り上げランキング: 11,904

ドーピングの発覚で失墜した世界的英雄が、突然ツール・ド・フランスに復帰した。彼の真意が見えないまま、レースは不穏な展開へ。選手をつけ狙う影、強豪同士の密約、そして甦る過去の忌まわしい記憶…。新たな興奮と感動が待ち受ける3000kmの人間ドラマ、開幕!


相変わらず自転車競技のことはまったくわからないのだが、その過酷さや駆け引きの妙は、このシリーズでずいぶん味わってきた。今回は、レース以前の不穏さに取り込まれそうになるチカ(白井誓)や有力選手たちそれぞれの対応も見ものである。ただでさえ相手の真意を量りきれない世界で、レースの駆け引きとは別次元の陰謀のことにまで神経を使わなければならないとは、なんと過酷なことだろう。ただ、そんななかでも、信頼関係は確かにあって、それが報われるのを見るのはやはりいいものである。チカにベストアシスト賞を進呈したくなる一冊である。

モップの精は旅に出る*近藤史恵

  • 2016/07/01(金) 19:39:18

モップの精は旅に出る
近藤 史恵
実業之日本社
売り上げランキング: 217,701

おそうじ上手は謎解き上手――
読めば元気になれる大人気ミステリ〈清掃人探偵・キリコ〉シリーズ第5弾!

キリコは、オフィスや学校、病院に派遣される清掃作業員。
ミニのフレアにハイヒールで軽快に掃除をしながら、事件を解決する名探偵だ。
「大丈夫、世の中はお掃除と一緒だよ。汚れたらきれいにすればいい。
また、汚れちゃうかもしれないけど、また、きれいにすればいい」――
そう言ってこれまで鮮やかに謎を解いてきたキリコだが、今回の事件はかなり厄介なようで……
ハートウォーミングな連作短編ミステリ。


キリコシリーズの最新刊にして最終刊だそうである。寂しい。オフィスや学校で起きる事件のあれこれ。人間関係や、個人の秘密など、毎日掃除をするからこそ見えてくるものがある。そんなキリコだからこそ、事件の解決にひと役買えることも多くあるのである。あちこちで事件を見事に解きほぐしていくきりこだが、彼女自身にも悩みがあるのだった。そしてとうとう、夫・大介を残して旅に出てしまう。そんなキリコを信じて待ち、キリコのことを思って声をかける大介のあたたかさに胸が熱くなる。なにがあっても、二人の絆さえしっかりしていれば大丈夫、と思える。シリーズが終わってしまっても、キリコちゃんはきっとどこかでお掃除をしているのだろうと思わせてくれるシリーズだった。

スーツケースの半分は*近藤史恵

  • 2016/02/25(木) 07:17:46

スーツケースの半分は
近藤史恵
祥伝社
売り上げランキング: 174,981

三十歳を目前にした真美は、フリーマーケットで見つけた青いスーツケースに一目惚れ、衝動買いをしてしまう。
そのとき、彼女の中で何かが変わった。心配性な夫の反対を押し切り、憧れのNYへ初めての一人旅を決意する。
出発を直前にして、過去のある記憶が蘇り、不安に駆られる真美。
しかし、鞄のポケットから見つけた「あなたの旅に、幸多かれ」というメッセージに背中を押され、真美はNYへ旅立った。
やがてその鞄は友人たちへとバトンされ、世界中を旅するうちに、“幸運のスーツケース"と呼ばれるようになってゆく――。

大丈夫。一歩踏み出せば、どこへだって行ける。
NY、香港、アブダビ、パリ、シュトゥットガルト……新しい自分に出会う、切なく優しい旅ものがたり。


30歳を目前にした四人の女性、真美、花恵、ゆり香、悠子、そして、スーツケースの持ち主だった加奈子の物語である。フリーマーケットで偶然出会った青い革のスーツケースが、四人の女性たちの旅の友となり、彼女たちのなかの何かを少しずつ解きほぐして変えていくのである。物理的な旅行の様子を描きながら、実は、心の旅の物語なのではないだろうか。彼女たちの間で「幸運のスーツケース」と呼ばれるようになった青いスーツケースのもともとの持ち主の気持ちと、それを受け継いだ娘や孫娘の人生にも影響を与えていて、胸にあたたかいものが満ちてくる。人はみなそれぞれの場所で生き、極個人的な屈託を抱え、何かを乗り越えようとしながら日々を送っているのだろう。そこに現れた鮮やかな青色が、のびのびと広がる世界の象徴のようである。読み終えた後に、何かが吹っ切れる心地になれる一冊でもある。

プロフェッション*今野敏

  • 2015/10/07(水) 18:30:15

プロフェッション
プロフェッション
posted with amazlet at 15.10.07
今野 敏
講談社
売り上げランキング: 19,404

立て続けに発生した連続誘拐事件。解放された被害者たちは、皆「呪い」をかけられていた――。警視庁きっての異能集団、ここに始動!
2014年に連続ドラマ化、2015年に映画化された「ST 警視庁科学特捜班」シリーズ(「ST 赤と白の捜査ファイル」)最新刊!


キャラクタはドラマに引きずられっぱなしだった。プロファイリングがメインな捜査なので、青山翔が前面に出てくる場面が多いのだが、そのたびに頭に浮かぶ映像を修正しなければならなのがいささか鬱陶しかった(著者のせいでは全くないのだが)。事件自体は、STが出てくるだけあって癖があるものだが、サイコパスを登場させるのはどうなんだろう、とちらりと思う。大学の研究室というある意味閉ざされた場所での人間関係のややこしさは充分に堪能させてもらった。設定を愉しめれば面白く読める一冊である。