みやこさわぎ*西條奈加

  • 2017/02/21(火) 13:18:52

みやこさわぎ (お蔦さんの神楽坂日記)
西條 奈加
東京創元社
売り上げランキング: 107,686

高校生になった滝本望は、いまも祖母と神楽坂でふたり暮らしをしている。芸者時代の名前からお蔦さんと呼ばれる祖母は、料理は孫に任せきりだしとても気が強いけれど、ご近所衆から頼られる人気者だ。そのお蔦さんが踊りの稽古をみている、若手芸妓・都姐さんが寿退職することになった。幸せな時期のはずなのに、「これ以上迷惑はかけられない」と都姐さんの表情は冴えなくて…(「みやこさわぎ」)。神楽坂で起こる事件をお蔦さんが痛快に解決する!粋と人情と、望が作る美味しい料理がたっぷり味わえるシリーズ第三弾。


神楽坂という独特の趣のある街の人たちの日々の暮らしが見えてくるのが愉しいシリーズである。そんな街の人たちの日常に何気なく紛れ込む謎に経験と想像力で、思いやりのある答えを導き出すのがお蔦さんなのである。高校生になった孫の望(のぞむ)の料理の腕もますます上がっているようで、登場する料理の数々も魅力的である。神楽坂の裏路地に迷い込んでみたくなるシリーズである。

女子的生活*坂木司

  • 2017/01/08(日) 13:47:36

女子的生活
女子的生活
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坂木 司
新潮社
売り上げランキング: 68,055

都会に巣食う、理不尽なモヤモヤをぶっとばせ! 読めば胸がスッとする、痛快ガールズストーリー。ガールズライフを楽しむため、東京に出てきたみきは、アパレルで働きながらお洒落生活を満喫中。マウンティング、セクハラ、モラハラ、毒親……おバカさんもたまにはいるけど、傷ついてなんかいられない。そっちがその気なら、応戦させてもらいます! 大人気『和菓子のアン』シリーズの著者が贈る、最強デトックス小説。


主人公のみきは、躰は男性、心は女性、しかも恋愛対象は女性という性的マイノリティとして、東京のアパレル関係のブラック企業で働いている。ブラックではあるのだが、自身にとってはある意味快適な職場環境ではある。職場の同僚たちにはカミングアウト済み。そんな同僚たちとの付き合いや、合コンにおける立ち位置、それぞれの女子たちの日々の闘いをそっと応援したくなる。もちろんみきもである。突然転がり込んできてなし崩し的にルームシェアすることになった中学の同級生の後藤の男のステレオタイプの見本のような行動様式にイライラさせられたり、合コン相手の反応に怒りまくったりするものの、案外いまがしあわせなんじゃないかとも思わせてくれる。考えさせられる面もあり、爽快な面もあり、これからのみきの人生をもっと見ていたいと思わされる一冊である。

蛇行する月*桜木柴乃

  • 2016/12/24(土) 07:06:00

蛇行する月
蛇行する月
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桜木 紫乃
双葉社
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人生の岐路に立つ六人の女の運命を変えたのは、ひとりの女の“幸せ”だった。―道立湿原高校を卒業したその年の冬、図書部の仲間だった順子から電話がかかってきた。二十も年上の職人と駆け落ちすると聞き、清美は言葉を失う。故郷を捨て、極貧の生活を“幸せ”と言う順子に、悩みや孤独を抱え、北の大地でもがきながら生きる元部員たちは、引き寄せられていく―。彼女たちの“幸せ”はどこにあるのか?


雪深い町の高校時代の図書部の仲間、という繋がりの女性たちと、その周囲の人々の物語である。彼女たちそれぞれの人生の中で、悩み迷い立ち止まる瞬間に、いつも思いが及ぶのは須賀順子というひとりの仲間なのである。勤め先の和菓子店の主である父親ほども歳の離れた男の子を身ごもり、逃げるように東京へ行き、いまはラーメン屋をやって貧しいながらもしあわせにやっているという。1984年から2009年まで、時代をたどりながら、それぞれ別の人物の視点で描かれるそれぞれの人生。だがその中にはいつも順子が出てくるのだった。それが、誰からもうらやまれるような暮らしをしているわけではない順子だというところが、しあわせの形ということについて考えさせられる。切なくてあたたかい一冊である。

明るい夜に出かけて*佐藤多佳子

  • 2016/12/21(水) 07:38:39

明るい夜に出かけて
明るい夜に出かけて
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佐藤 多佳子
新潮社
売り上げランキング: 27,647

今は学生でいたくなかった。コンビニでバイトし、青くない海の街でひとり暮らしを始めた。唯一のアイデンティティは深夜ラジオのリスナーってこと。期間限定のこのエセ自立で考え直すつもりが、ヘンな奴らに出会っちまった。つまずき、人づきあい、好きだって気持ち、夢……若さと生きることのすべてが詰まった長篇小説。


心に傷を抱え、これまでの人生から逃げ出したくなって大学を休学してひとり暮らしを始めた若者が主人公の物語である。親の立場からすると、不甲斐なく、心配でたまらず、無意味な遠回りをしているように思えてしまい、つい余計なひと言を言ってしまいそうな若者たちがたくさん出てくる。序盤では、親の気持ちで、なにをぐうたらしているのだとイライラすることもあったのだが、読み進むうちに、彼らには彼らなりの譲れない矜持のようなものがあり、周りと足並みをそろえられなくても、各自なりのペースで確実に前に向かっているのだということが実感されて、応援したい気持ちに変わってくる。いくら人付き合いが苦手でも、やはり人間関係は大切だということも、身に沁みる。ラジオのリスナーではないので、そちらの熱狂ぶりは実感としては判らないが、ラジオの番組を通じた繋がりにも、見えないながら深いものがありそうである。タイトルの切実感が迫ってくる一冊でもある。

上野池之端 鱗や繁盛記*西條奈加

  • 2016/11/20(日) 17:09:28

上野池之端 鱗や繁盛記 (新潮文庫)
西條 奈加
新潮社 (2016-09-28)
売り上げランキング: 7,546

騙されて江戸に来た13歳の少女・お末の奉公先「鱗や」は、料理茶屋とは名ばかりの三流店だった。無気力な周囲をよそに、客を喜ばせたい一心で働くお末。名店と呼ばれた昔を取り戻すため、志を同じくする若旦那と奮闘が始まる。粋なもてなしが通人の噂になる頃、店の秘事が明るみに。混乱の中、八年に一度だけ咲く桜が、すべての想いを受け止め花開く――。美味絶佳の人情時代小説。


出会い茶屋のような店だった鱗やに、不忠義をした従姉妹のお軽の代わりとして奉公することになった13歳のお末が主人公である。一年前に主の娘お鶴の元に婿入りした若旦那・八十八朗が、お客においしい料理を出す店として立て直そうとするのを助け、店の行く末を親身に考えながら奉公するお末の成長する姿が微笑ましい。しかしそれとは別に、若旦那には別の顔があるように思われ、時として身がすくむ心持ちにさせられることもあるのだった。鱗やの抱える問題と、若旦那の思惑、使用人たちの身の振り方、主一家の抱える闇。さまざまな要素が絡まり合って、鱗やの行く末を不安にさせる。時が一気に進んだラストは、ほっとさせられたとともに、鱗やの明るい未来を見届けたくもなる一冊である。

刑罰0号*西條奈加

  • 2016/10/28(金) 17:09:06

刑罰0号 (文芸書)
刑罰0号 (文芸書)
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西條 奈加
徳間書店
売り上げランキング: 467,378

記憶を抽出して、画像化を行い、他人の脳内で再生するシステム―0号。これを用いて犯罪被害者の記憶―殺された際の恐怖を加害者に経験させる…。もともとは、死刑に代わる新たな刑罰として、法務省から依頼されたプロジェクトであったが、実際は失敗に終わる。0号そのものに瑕疵はなかったが、被験者たちの精神が脆く、その負荷に耐えられなかったのだ…。開発者の佐田洋介教授は、それでも不法に実験を強行し、逮捕されてしまう。助手の江波はるかは、さるグローバルIT企業のバックアップのもと、ひそかに研究を続けるが…。0号を施した者、0号を施された者たちの物語は、今、人類の“贖罪”のために捧げられる―。


罪を犯した者を、心の底から悔い改めさせることのできることができるなら、それは被害者にとっても、もちろん本人にとっても、前を向いて一歩踏み出す大きな助けになるだろうと思う。死刑やその他の刑罰によって、ほんとうにそれが成し得るのかどうか疑問は大きく、ことに被害者感情には納得できない部分が多いだろうと察せられる。刑罰0号は、犯罪者に、被害者の記憶を見せることによって、自分の犯した罪の重さを実感させ、心底から罪を償わせようという狙いで始められたプロジェクトである。しかし、まず被験者とされた犯罪者たちにかかる負荷は予想以上に大きく、プロジェクトは半ばで頓挫することになる。だが、研究者というのは、その程度のことで、はいそうですかと諦められる人種ではないのだろう。水面下で続けられていた研究が、後々想像もしなかった事態を引き起こすことになるのである。辛うじて正気を保ち、成長していく被験者・森田俊と研究者の江波はるかの関わり、俊とそもそもの開発者・佐田行雄の関わり、佐田と息子の洋介との関係。さまざまな人物たちが絡み合い、それぞれの思惑で0号の周囲で動き回っている。ラストは、そもそもの狙いからするとかなり大規模なことになったし、実際にそんなことになったらと思うと身が震えるが、もしかするとこの先、平和が続いてくれるかもしれないという小さな希望もなくはない。良かれと思って考え出したことも、その影響力は留まる事を知らないのだと、改めて考えさせられることが多い一冊でもあった。

古書カフェすみれ屋と本のソムリエ*里見蘭

  • 2016/09/29(木) 07:16:15

古書カフェすみれ屋と本のソムリエ (だいわ文庫)
里見 蘭
大和書房
売り上げランキング: 222,443

すみれ屋で古書スペースを担当する紙野君が差し出す本をきっかけに、謎は解け、トラブルは解決し、恋人たちは忘れていた想いに気付く―。オーナーのすみれが心をこめて作る絶品カフェごはんと共に供されるのは、まるでソムリエが選ぶ極上のワインのように心をとらえて離さない5つの忘れ難いミステリー。きっと読み返したくなる名著と美味しい料理を愉しめる古書カフェすみれ屋へようこそ!


またまたどこかで見たようなテイストだとは思いつつ、この手のタイトルにはついつい惹かれてしまう。すみれがオーナーシェフとして営むカフェには、古書の販売コーナーが設けられ、カフェの客は自由に読むことができる。その古書コーナーを請け負っているのは、紙野くんという本好きの青年。すみれのほっとさせる雰囲気と、紙野くんの観察力や想像力、そして本に関する知識が相まって、客たちの抱える問題を解きほぐしていくのである。すみれの作る料理はどれもとても丁寧で、材料にも過程にもこだわりを持っているが、採算がとれるのかいささか心配になってしまうくらいである。空腹時に読んだら堪らない。二人のこれからも気になる一冊である。

市立ノアの方舟*佐藤青南

  • 2016/06/12(日) 20:47:34

市立ノアの方舟
市立ノアの方舟
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佐藤青南
祥伝社
売り上げランキング: 541,443

野亜市役所職員の磯貝健吾は、突然の人事異動で廃園が噂される市立動物園の園長を命じられた。着任早々、飼育員たちから“腰掛けの素人園長”の烙印を押されて挫けそうになった彼を立ち直らせてくれたのは、一人娘が描いたゾウの絵だった。そこに描かれていたのは、健吾が子供の頃に見たゾウそのものだったのだ。それを見た磯貝は、存続に向けて園を立て直す決意を固め、まず動物園のことを知る努力を始める。やがて見えてきたのは動物たちが抱える様々な問題と、くせ者揃いの飼育員たちの熱く、一途な想いだった…。


表題作のほか、「アジアゾウの憂鬱」 「気まぐれホッキョクグマ」 「恋するフラミンゴ」

廃園間近と囁かれる野亜動物園の再生物語である。野生動物に無理を強いている動物園という在り方そのものの是非や、職員たちのマンネリの仕事ぶり、動物たちの飼育環境の悪さ、等々、問題を山ほど抱えた動物園に新しく着任した園長は、市役所でテーマパークの誘致を手掛けてきた全くの門外漢だった。園長の磯貝自身も、早く市役所に戻りたいというのが本音だったが、ある日見せられた五才の娘の遠足の絵に描かれていた、耳の切れたゾウが、その考えを改めさせ、動物園に活気を取り戻すためのやる気のスイッチを押したのだった。飼育員はじめ職員たちの動物に対する愛情と、なにをしても無駄だという諦めが、少しずつ前向きに変わっていく様子に胸が熱くなり、応援したくなるのだった。動物園はこの先どうなるか判らないが、僅かずつでも前に進み続けることで変わることもあるのだと改めて思わされる一冊である。

サッド・フィッシュ 行動心理捜査官・楯岡絵麻*佐藤青南

  • 2016/06/10(金) 20:55:01


相手のしぐさから嘘を見破る美人取調官・楯岡絵麻が、相棒の西野とともに様々な事件に挑みます。
人気シンガーソングライターの自殺、ご近所トラブルにより過失致死に問われた老夫婦、集団リンチの果てに殺された女子中学生事件。
さらには、かつての恋人が絵麻に接触してきて……。自供率100%を誇る、エンマ様シリーズ第4弾!


第一話「目の上のあいつ」 第二話「ご近所さんにご用心」 第三話「敵の敵も敵」 第四話「私の愛したサイコパス」

サッド・フィッシュとは、Sadness=悲しみ、Anger=怒り、Disgust=嫌悪、Fear=恐怖、Interest=興味、Surprise=驚き、Happiness=幸福の頭文字を取ったもので、人間が生まれながらにして持つ七つの感情のことだそうである。エンマ様こと楯岡絵麻は、相手の表情やしぐさに表れるこれらの兆候によって、嘘を見抜き、事件解決の糸口を掴むのである。本作では、取調室でのキャバクラ嬢のごとき振舞いの描写はほとんどないが、捜査の過程のあちこちで、被疑者や参考人らの行動を観察し分析する様が興味深い。そしてさらに、絵麻の冷静なばかりではない部分も描かれていて、別の顔も垣間見られる。ひとりの生身の人間なのだと再確認させられる思いでもある。西岡とのコンビもどんどん息が合ってきて、過去を吹っ切った絵麻との今後も気になる。絵麻の分析ぶりをもっともっと見たいシリーズである。

大きくなる日*佐川光晴

  • 2016/05/27(金) 21:22:01

大きくなる日
大きくなる日
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佐川 光晴
集英社
売り上げランキング: 39,446

どこかにありそうな町の、どこかにいそうな家族。そんな一家のありふれた日常の中に、かけがえのない大切な瞬間が詰まっている―。四人家族の横山家の歩みを中心に、人生の小さな転機の日を描く、九つの連作成長物語。そんな素晴らしい一日が、あなたの周りにも、きっとある―。子供に、親に、保育士さんに、先生に…。その日、小さな奇跡が起きる。人それぞれの小さな一歩に温かく寄り添う、感動の連作短編!珠玉の家族小説。


「ぼくのなまえ」 「お兄ちゃんになりたい」 「水筒のなかはコーラ」 「もっと勉強がしたい」 「どっちも勇気」 「保育士のしごと」 「四本のラケット」 「本当のきもち」 「やっぱり笑顔」

保育園児の太二が高校生になるまでなので、かなり長いスパンの物語である。父と母と弓子と太二の四人家族の横山一家を軸に、それぞれが日々関わる周りの人たちをも含めて、よく見かける日常の風景が描かれている。ひとつひとつは些細な出来事でも、それらが積み重なって人は少しずつ成長していくのだということがよく判る。笑っていられることばかりではない毎日が、愛おしく思えるようになる一冊である。

アンと青春*坂木司                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              アンと青春*坂木司                                                                             

  • 2016/04/27(水) 18:51:04

アンと青春
アンと青春
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坂木 司
光文社
売り上げランキング: 9,104

ある日、アンちゃんの手元に謎めいた和菓子が残された。これは、何を意味するんだろう―美人で頼りがいのある椿店長。「乙女」なイケメン立花さん。元ヤン人妻大学生の桜井さん。そして、食べるの大好きアンちゃん。『みつ屋』のみんなに、また会える。ベストセラー『和菓子のアン』の続編。


「空の春告げ鳥」 「女子の節句」 「男子のセック」 「甘いお荷物」 「秋の道行き」

待ちに待った続編である。またアンちゃんやみつ屋の立花さん、椿店長、桜井さんに会えて嬉しくてたまらない。アンちゃんも、相変わらず自分の存在にいまひとつ自信を持てずにいたりはするが、それでも疑問に思い、自分で調べて対処しようとする姿には成長が感じられる。ふと発せられた言葉の端から、起こっていることの問題を拾い上げ、核心に迫って解決策を導き出す。誰かに助けを求め、誰かと話すことからヒントを掴んで、少しでも良く在りたいとしている姿は、きっと誰でも応援したくなる。ただ、今回は、立花さんとの関係が、ちょっとうまくいっていない。どこか歯車がかみ合っていないのである。その原因はおそらく立花さんの側にあって、次回作で進展があるのだろう。早く続きが読みたいシリーズである。そうそう、出てくるお菓子もどれもおいしそうで、口の中によだれが……。

九十九藤(つづらふじ)*西條奈加

  • 2016/04/14(木) 18:34:27

九十九藤
九十九藤
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西條 奈加
集英社
売り上げランキング: 4,277

江戸の人材派遣業、口入屋・冬屋(かずらや)の女主人となったお藤。「商いは人で決まる」が口癖の祖母に口入稼業を仕込まれ育ったが、実家の不幸が重なり天涯孤独の身に。義母から女衒に売られるも必死に逃げ、江戸で生きてきた。
お藤は、払いが悪く悶着の多い武家が相手の商いで傾いた店を救うため、ある勝負に打って出る。取り扱う客を商家に絞り、男の奉公人志願者に徹底した家事指南を行い、大店へ送り込む。前代未聞の大転換は周囲の猛反発を呼んでしまう。
そんな折、お藤は女衒から逃げていた時に助けてくれたお武家によく似た男と出会う。男は黒羽の百蔵と呼ばれ、江戸中の武家奉公人の上に立つ恐ろしい人物だった。
冬屋の挑戦がようやく成果をあげはじめた頃、その好調ぶりを忌々しく思う人宿組合の顔役たちは百蔵を相談役に据え、冬屋潰しを目論む。お藤たちは真っ向勝負を挑むが――。
人は何のために働くのか、仕事の喜びとは何かを問い直す渾身の長編時代小説。


持ち前の粘りとアイディアで、男社会の口入屋で新しい商いを始め、評判をとったお藤の奮闘ぶりと恋心の物語である。昨今テレビドラマも女性が活躍するものが人気を博しているが、その小説版といったところであろうか。お藤の生い立ちから逃げだしてきた顛末、そして増子屋主人の太左衛門に拾われて江戸に出てきてからの苦労と充実ぶりに、胸がすく心地である。黒羽の百蔵との関わり方もいい。ラストにふっと時が飛んだ場面が描かれているのがまたまたいいのである。溜飲が下がる思いの一冊である。

このたびはとんだことで*桜庭一樹

  • 2016/04/09(土) 17:06:53

このたびはとんだことで 桜庭一樹奇譚集 (文春文庫)
桜庭 一樹
文藝春秋 (2016-03-10)
売り上げランキング: 104,912

死んだ男を囲む、二人の女の情念。ミッションスクールの女子たちの儚く優雅な昼休み。鉄砲薔薇散る中でホテルマンが見た幻。古い猫の毛皮みたいな臭いを放つ男の口笛。ダンボールに隠れていたぼくのひと夏の経験。日常に口を開く異界、奇怪を覗かせる深淵を鮮やかに切り取った桜庭一樹の新世界、6つの短編小説。


表題作のほか、「モコ&猫」 「青年のための推理クラブ」 「冬の牡丹」 「五月雨」 「赤い犬花」

まさに奇譚集である。ほんのわずか軸がずれた世界に紛れ込んでしまったような居心地の悪さと、ああそうだったのか、と不思議に納得させられるような奇妙な心地が重ねて折り畳まれているような印象である。不思議な世界を愉しめる一冊である。

白バイガール*佐藤青南

  • 2016/03/11(金) 17:17:22

白バイガール (実業之日本社文庫)
佐藤 青南
実業之日本社 (2016-01-30)
売り上げランキング: 28,481

神奈川県警の白バイ隊員になったばかりの本田木乃美は、違反ドライバーからの罵詈雑言に泣かされる日々。同僚の女性隊員・川崎潤ともぎくしゃくしている。そんな中、不可解なバイク暴走死亡事故が発生。木乃美たちが背景を調べ始めると、思いがけない事件との接点が―。隊員同志の友情、迫力満点の追走劇、加速度的に深まる謎、三拍子揃った警察青春小説の誕生!


消防士の次は、白バイ隊員のお仕事小説である。箱根駅伝の先導をしてくて白バイ隊員を目指した本田木乃美が主人公。二人だけの女性隊員の川崎潤とも仲良くなれず、ライドの技術にも取り締まりの話術にも自信が持てない。人より秀でているのは並外れた動体視力だけ。それさえ仲間に指摘されるまでは気づいていなかった。そんな木乃美が警邏中にちらっと目にしたステッカーは、いまは殲滅されたはずの暴走族グループのものだった。自分の分を超えて捜査を始める木乃美に、仲間たちも手を貸してくれ、それが大事件解決のの手掛かりにつながるのである。鬼気迫る追跡劇や、きゅんとさせられるロマンスの欠片も盛り込まれ、愉しく読める青春小説でもある。なにより、気分がスカッとする一冊になっている。

大川契り--善人長屋*西條奈加

  • 2016/01/02(土) 17:02:10

大川契り: 善人長屋
大川契り: 善人長屋
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西條 奈加
新潮社
売り上げランキング: 180,180

長屋の平和を守るため、悪党たちしぶしぶ大奮闘!スリに詐欺師に美人局、実は凄腕ばかりの善人長屋に迷い込んだ本物の善人・加助。人助けに燃え、減らず口の不良娘やケガをした当たり屋、不審な傷だらけの男児など、面倒の種をせっせと連れ帰り、そのたび騒動に巻き込まれる住人たちは戦々恐々。しかも拾った行き倒れが西国の盗賊一味と判明。とばっちりで差配の母娘が囚われて―!?


表題作のほか、「泥つき大根」 「弥生鳶」 「兎にも角にも」 「子供質」 「雁金貸し」 「侘梅」 「鴛鴦の櫛」

善人長屋と呼ばれる千七長屋の住人は、(まったく事情を知らない)加助を除いて、実は、裏稼業を持つ悪人なのである。あまりにも極端な善人ぶりの加助が、親切の果てに見境なく持ち込む厄介ごとに、善人長屋の面々は、否応なく巻き込まれることになる。苦りながらも、それぞれの得意分野を駆使し、手分けして問題を解決に導くのであるが、その様子や手際の良さがすかっとさせてくれる。仄かな恋心の成り行きもからめつつ、江戸の風物と裏事情を堪能できる一冊である。