古書カフェすみれ屋と悩める書店員*里見蘭

  • 2017/09/14(木) 16:24:02

古書カフェすみれ屋と悩める書店員 (だいわ文庫)
里見 蘭
大和書房
売り上げランキング: 320,659

「この本、買っていただけませんか?」「それってつまり―いまわたしが話した不可解さの答えがこのなかにあると?」すみれ屋の古書スペースを担当する紙野君がお客様に本を薦めるとき、きっと何かが起こる―。初デートの相手のつれない行動の理由も、見つからない問い合わせ本のタイトルも、恋人が別れを匂わせた原因も、…すべてのヒントと答えは本のなかにある!?日常ミステリー第2弾!大切な一歩を踏み出す誰かを応援する、スウィート&ビターな4つのミステリー!


「ほろ酔い姉さんの初恋」 「書店員の本懐」 「サンドイッチ・ラプソディ」 「彼女の流儀で」

おいしそうな料理と、読みたくなる本が魅力のシリーズである。すみれ屋も順調に人気店になってきているようで、今回は新人のほまりさんも加わって、ちょっぴりにぎやかになったすみれ屋である。お料理はどれもおいしそうで、紙野くんが薦める本にもいずれも興味をそそられる。お客さんの悩みを聞いて、たちどころに推理を巡らせ、的確な本を薦めて謎を解き明かしてしまう紙野くんは、相変わらず素敵である。お客さんたちも、みんながおいしい料理を愛し、じっくり味わいながら愉しんでいる様子で、好感が持てる。謎を解きほぐすのは、やはり人のことを想うまごころなのだろうと思わされる一冊である。

僕と先生*坂木司

  • 2017/08/09(水) 07:08:25

僕と先生
僕と先生
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坂木 司
双葉社
売り上げランキング: 475,288

大学の推理小説研究会に入ったけれどこわがりな僕と、ミステリ大好きでしっかりした中学生の先生が、日常に潜む謎を解いていく〈先生と僕〉シリーズの最新刊。
社会問題にも目を向け、ちょっぴり大人になった二人の活躍をどうぞお楽しみに!


一話 レディバード  二話 優しい人  三話 差別と区別  四話 ないだけじゃない  五話 秋の肖像  指先の理由

一作目のタイトルが『先生と僕』だったので、同じ作品と勘違いしてずっとスルーしてしまっていて、やっと二作目であることに気づいて読んだのだが、気づいてよかった。大学生の二葉は、相変わらずお人好しで怖いものが大の苦手。中学生の隼人は、二葉をワトソン代わりにして、アームチェアディテクティブ――時に現場にも赴くが――ぶりに磨きをかけている。今作では、薬指だけにテントウムシのネイルアートがある女性が、ところどころに登場し、キーになっている。ある意味、問題提起的な役割とも言えようか。なにが善でなにが悪か、ある行動の奥にどんな気持ちが隠れているのか、ということを、考えるきっかけにもなるのである。日常の謎を解きながら、さまざまな人間模様も愉しめるシリーズである。

校長、お電話です!*佐川光晴

  • 2017/07/10(月) 07:22:34

校長、お電話です!
校長、お電話です!
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佐川 光晴
双葉社
売り上げランキング: 322,551

シバロクこと柴山緑郎は、問題が頻発していた中学の校長として赴任。
母校でもある学校を建て直すべく奮起した矢先、休職中の教師が自殺未遂を起こす。
校内からはタバコの吸い殻…。これらの問題を引き起こしたのは、元官僚の教育評論家である前校長の振舞いだった。
学校現場を、一人の校長の目を通してリアルに描きだした物語。


事務職員・福良さんの「校長、お電話です!」というひと言から展開する、新任校長・柴山緑郎(通称シバロク)の奮闘の日々の物語である。
市長の肝煎りで民間から着任した前任校長の元教育評論家・野田欣也の対応に対する不満が爆発して荒れ放題だった百瀬中を立て直すために送り込まれたのがシバロクである。着任早々、たまりにたまった厄介事が押し寄せ、問題が次々に明るみに出るが、名校長の誉れ高かった亡父に言われた言葉が折々によみがえり、偶然の成り行きにも味方されて、ひとつひとつ着実に解決していくのである。私生活も絶妙に織り交ぜ、ついつい手に汗握って応援したくなってしまう。娘や友人の支えもあり、スーパーマンではないシバロクが奮闘する姿は、見ていて気持ちが好い。何事も人間関係と誠意が大切だと改めて感じさせてくれる一冊だった。

青年のための読書クラブ*桜庭一樹

  • 2017/06/18(日) 14:12:52

青年のための読書クラブ
桜庭 一樹
新潮社
売り上げランキング: 129,253

東京・山の手の伝統あるお嬢様学校、聖マリアナ学園。校内の異端者だけが集う「読書クラブ」には、長きにわたって語り継がれる秘密の〈クラブ誌〉があった。そこには学園史上抹消された数々の珍事件が、名もない女生徒たちによって脈々と記録され続けていた――。今もっとも注目の奇才が放つ、史上最強にアヴァンギャルドな“桜の園”の100年間。


お嬢様学校の誉れ高い聖マリアナ学園が舞台の物語なのだが、学園物語という言葉から連想されるのとはいささか趣を異にする世界が繰り広げられている。そもそも、聖マリアナ学園の成り立ち方からして尋常とは言えず、すでにそこには異端の匂いが色濃く漂っているのである。だが、女の園の常としての偶像崇拝的な恋愛ごっこや、二大勢力の学内戦争などは、これでもかというほど盛り込まれており、その二大潮流から外れたところに存在する「読書クラブ」こそがこの物語の本流であるというところが、もっとも聖マリアナ学園らしいとも言えるのである。詰まるところ、本作は、読書クラブ員たちが代々秘密裏に書き綴ってきた「読書クラブ誌」そのものなのである。赤レンガの部室棟の倒壊とともに姿を消した読書クラブだが、中野の某所で密かに生き続けているラストシーンで思わずにんまりしてしまう。著者らしい一冊だった。

猫の傀儡*西條奈加

  • 2017/06/14(水) 18:15:08

猫の傀儡(くぐつ)
猫の傀儡(くぐつ)
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西條 奈加
光文社
売り上げランキング: 105,566

人を遣い、人を操り、猫のために働かせる。それが傀儡師だ。

傀儡師となった野良猫・ミスジは、売れない狂言作者の阿次郎を操って、寄せられる悶着に対処していく。やがて一匹とひとりの前に立ち現れる、先代傀儡師失踪の真相とは――? 当代屈指の実力派が猫愛もたっぷりに描く、傑作時代“猫"ミステリー! !


表題作のほか、「白黒仔猫」 「十市と赤」 「三日月の仇」 「ふたり順松」 「三年宵待ち」 「猫町大捕り物」

ひと言で言えば、猫が人を操って事件を解決に導く物語である。猫界では傀儡師は代々受け継がれ、傀儡としてふさわしい人間を、上手い具合に誘導して事件に関わらせ、それとなく道筋をつけて解決へと導くのである。傀儡にされた人間はそうとは知らず、自らの意志で謎を解きほぐした気になっているのだが、ふと気づくといつも同じ猫がそこにいるという寸法である。なんだか痛快である。天敵でもある烏との人情話もあり、現傀儡師のミスジの賢さと機転も見事である。シリーズになればいいなあと思う一冊である。

月の満ち欠け*佐藤正午

  • 2017/06/07(水) 16:32:20

月の満ち欠け
月の満ち欠け
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佐藤 正午
岩波書店
売り上げランキング: 8,106

新たな代表作の誕生! 20年ぶりの書き下ろし
あたしは、月のように死んで、生まれ変わる──目の前にいる、この七歳の娘が、いまは亡き我が子だというのか? 三人の男と一人の少女の、三十余年におよぶ人生、その過ぎし日々が交錯し、幾重にも織り込まれてゆく。この数奇なる愛の軌跡よ! さまよえる魂の物語は、戦慄と落涙、衝撃のラストへ。


月が満ちては欠け、欠けてはまた満ちるように、魂も何度でも生まれ変わることができるかもしれないという「一理」を核に物語は進む。強すぎる思いを残して、思いがけず命を落とすことになった瑠璃は、何度でも生まれ変わってアキヒコと出会おうとする。そのたびに、そのときどきの周りの人たちを巻き込み、惑わせ、心の平静を失わせるのだが、そんなことに頓着しないところに、思いの強さが表れているとも言えるのかもしれない。現実問題、巻き込まれた人たちにとってはいい迷惑とも言えるのだが……。起きていること自体は、恐ろしくもあるのだが、ホラーテイストを感じさせない物語の運びになっていて、ラストの場面に向かってひたすら進んでいく印象である。瑠璃とアキヒコにとっては、めでたしめでたしだと言えよう。前世の記憶、というところに興味をひかれる一冊ではある。

ストレンジ・シチュエーション 行動心理捜査官・楯岡絵麻*佐藤青南

  • 2017/05/20(土) 16:49:56


相手のしぐさから真実を読み取る自供率100%の取調官、通称エンマ様のシリーズ最新刊!

本駒込署のトイレで宮出巡査が拳銃自殺をした。
一方、強盗殺人事件の現場に向かった絵麻と西野だったが、被害者夫婦の血痕がついた衣類が宮出の自宅から発見された。
宮出の単独犯として事件は解決したかに見えたが、宮出の同期・綿貫刑事は自殺を断固否定する。
絵麻は宮出の犯行方法のずさんさに違和感を覚え――。
ほか、女子大生失踪事件やアイドル殺害事件、大手企業の長女誘拐事件など、全4話を収録。シリーズ第5弾です。


楯岡絵麻・西野コンビは、もう不動のものになったと言っていいだろう。二人の掛け合いを見ているだけでも微苦笑が浮かんでくる。微笑ましいと言われれば、ご本人たちは心外かもしれないが、なかなかいいコンビネーションである。絵麻の、容疑者の心の動きを見極める目の確かさも相変わらず鋭く、言い当てられた時の容疑者の反応も、なるほどとうなずける。ただ、取調室での尋問の際の行動パターンはそう多くはなさそうなので、そろそろネタが尽きた感は否めない気もしてしまう。まだ続くとしたら、まったく別の状況での行動捜査を見てみたい。自分の無意識の行動について、改めて考えさせられるシリーズでもある。

みやこさわぎ*西條奈加

  • 2017/02/21(火) 13:18:52

みやこさわぎ (お蔦さんの神楽坂日記)
西條 奈加
東京創元社
売り上げランキング: 107,686

高校生になった滝本望は、いまも祖母と神楽坂でふたり暮らしをしている。芸者時代の名前からお蔦さんと呼ばれる祖母は、料理は孫に任せきりだしとても気が強いけれど、ご近所衆から頼られる人気者だ。そのお蔦さんが踊りの稽古をみている、若手芸妓・都姐さんが寿退職することになった。幸せな時期のはずなのに、「これ以上迷惑はかけられない」と都姐さんの表情は冴えなくて…(「みやこさわぎ」)。神楽坂で起こる事件をお蔦さんが痛快に解決する!粋と人情と、望が作る美味しい料理がたっぷり味わえるシリーズ第三弾。


神楽坂という独特の趣のある街の人たちの日々の暮らしが見えてくるのが愉しいシリーズである。そんな街の人たちの日常に何気なく紛れ込む謎に経験と想像力で、思いやりのある答えを導き出すのがお蔦さんなのである。高校生になった孫の望(のぞむ)の料理の腕もますます上がっているようで、登場する料理の数々も魅力的である。神楽坂の裏路地に迷い込んでみたくなるシリーズである。

女子的生活*坂木司

  • 2017/01/08(日) 13:47:36

女子的生活
女子的生活
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坂木 司
新潮社
売り上げランキング: 68,055

都会に巣食う、理不尽なモヤモヤをぶっとばせ! 読めば胸がスッとする、痛快ガールズストーリー。ガールズライフを楽しむため、東京に出てきたみきは、アパレルで働きながらお洒落生活を満喫中。マウンティング、セクハラ、モラハラ、毒親……おバカさんもたまにはいるけど、傷ついてなんかいられない。そっちがその気なら、応戦させてもらいます! 大人気『和菓子のアン』シリーズの著者が贈る、最強デトックス小説。


主人公のみきは、躰は男性、心は女性、しかも恋愛対象は女性という性的マイノリティとして、東京のアパレル関係のブラック企業で働いている。ブラックではあるのだが、自身にとってはある意味快適な職場環境ではある。職場の同僚たちにはカミングアウト済み。そんな同僚たちとの付き合いや、合コンにおける立ち位置、それぞれの女子たちの日々の闘いをそっと応援したくなる。もちろんみきもである。突然転がり込んできてなし崩し的にルームシェアすることになった中学の同級生の後藤の男のステレオタイプの見本のような行動様式にイライラさせられたり、合コン相手の反応に怒りまくったりするものの、案外いまがしあわせなんじゃないかとも思わせてくれる。考えさせられる面もあり、爽快な面もあり、これからのみきの人生をもっと見ていたいと思わされる一冊である。

蛇行する月*桜木柴乃

  • 2016/12/24(土) 07:06:00

蛇行する月
蛇行する月
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桜木 紫乃
双葉社
売り上げランキング: 275,602

人生の岐路に立つ六人の女の運命を変えたのは、ひとりの女の“幸せ”だった。―道立湿原高校を卒業したその年の冬、図書部の仲間だった順子から電話がかかってきた。二十も年上の職人と駆け落ちすると聞き、清美は言葉を失う。故郷を捨て、極貧の生活を“幸せ”と言う順子に、悩みや孤独を抱え、北の大地でもがきながら生きる元部員たちは、引き寄せられていく―。彼女たちの“幸せ”はどこにあるのか?


雪深い町の高校時代の図書部の仲間、という繋がりの女性たちと、その周囲の人々の物語である。彼女たちそれぞれの人生の中で、悩み迷い立ち止まる瞬間に、いつも思いが及ぶのは須賀順子というひとりの仲間なのである。勤め先の和菓子店の主である父親ほども歳の離れた男の子を身ごもり、逃げるように東京へ行き、いまはラーメン屋をやって貧しいながらもしあわせにやっているという。1984年から2009年まで、時代をたどりながら、それぞれ別の人物の視点で描かれるそれぞれの人生。だがその中にはいつも順子が出てくるのだった。それが、誰からもうらやまれるような暮らしをしているわけではない順子だというところが、しあわせの形ということについて考えさせられる。切なくてあたたかい一冊である。

明るい夜に出かけて*佐藤多佳子

  • 2016/12/21(水) 07:38:39

明るい夜に出かけて
明るい夜に出かけて
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佐藤 多佳子
新潮社
売り上げランキング: 27,647

今は学生でいたくなかった。コンビニでバイトし、青くない海の街でひとり暮らしを始めた。唯一のアイデンティティは深夜ラジオのリスナーってこと。期間限定のこのエセ自立で考え直すつもりが、ヘンな奴らに出会っちまった。つまずき、人づきあい、好きだって気持ち、夢……若さと生きることのすべてが詰まった長篇小説。


心に傷を抱え、これまでの人生から逃げ出したくなって大学を休学してひとり暮らしを始めた若者が主人公の物語である。親の立場からすると、不甲斐なく、心配でたまらず、無意味な遠回りをしているように思えてしまい、つい余計なひと言を言ってしまいそうな若者たちがたくさん出てくる。序盤では、親の気持ちで、なにをぐうたらしているのだとイライラすることもあったのだが、読み進むうちに、彼らには彼らなりの譲れない矜持のようなものがあり、周りと足並みをそろえられなくても、各自なりのペースで確実に前に向かっているのだということが実感されて、応援したい気持ちに変わってくる。いくら人付き合いが苦手でも、やはり人間関係は大切だということも、身に沁みる。ラジオのリスナーではないので、そちらの熱狂ぶりは実感としては判らないが、ラジオの番組を通じた繋がりにも、見えないながら深いものがありそうである。タイトルの切実感が迫ってくる一冊でもある。

上野池之端 鱗や繁盛記*西條奈加

  • 2016/11/20(日) 17:09:28

上野池之端 鱗や繁盛記 (新潮文庫)
西條 奈加
新潮社 (2016-09-28)
売り上げランキング: 7,546

騙されて江戸に来た13歳の少女・お末の奉公先「鱗や」は、料理茶屋とは名ばかりの三流店だった。無気力な周囲をよそに、客を喜ばせたい一心で働くお末。名店と呼ばれた昔を取り戻すため、志を同じくする若旦那と奮闘が始まる。粋なもてなしが通人の噂になる頃、店の秘事が明るみに。混乱の中、八年に一度だけ咲く桜が、すべての想いを受け止め花開く――。美味絶佳の人情時代小説。


出会い茶屋のような店だった鱗やに、不忠義をした従姉妹のお軽の代わりとして奉公することになった13歳のお末が主人公である。一年前に主の娘お鶴の元に婿入りした若旦那・八十八朗が、お客においしい料理を出す店として立て直そうとするのを助け、店の行く末を親身に考えながら奉公するお末の成長する姿が微笑ましい。しかしそれとは別に、若旦那には別の顔があるように思われ、時として身がすくむ心持ちにさせられることもあるのだった。鱗やの抱える問題と、若旦那の思惑、使用人たちの身の振り方、主一家の抱える闇。さまざまな要素が絡まり合って、鱗やの行く末を不安にさせる。時が一気に進んだラストは、ほっとさせられたとともに、鱗やの明るい未来を見届けたくもなる一冊である。

刑罰0号*西條奈加

  • 2016/10/28(金) 17:09:06

刑罰0号 (文芸書)
刑罰0号 (文芸書)
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西條 奈加
徳間書店
売り上げランキング: 467,378

記憶を抽出して、画像化を行い、他人の脳内で再生するシステム―0号。これを用いて犯罪被害者の記憶―殺された際の恐怖を加害者に経験させる…。もともとは、死刑に代わる新たな刑罰として、法務省から依頼されたプロジェクトであったが、実際は失敗に終わる。0号そのものに瑕疵はなかったが、被験者たちの精神が脆く、その負荷に耐えられなかったのだ…。開発者の佐田洋介教授は、それでも不法に実験を強行し、逮捕されてしまう。助手の江波はるかは、さるグローバルIT企業のバックアップのもと、ひそかに研究を続けるが…。0号を施した者、0号を施された者たちの物語は、今、人類の“贖罪”のために捧げられる―。


罪を犯した者を、心の底から悔い改めさせることのできることができるなら、それは被害者にとっても、もちろん本人にとっても、前を向いて一歩踏み出す大きな助けになるだろうと思う。死刑やその他の刑罰によって、ほんとうにそれが成し得るのかどうか疑問は大きく、ことに被害者感情には納得できない部分が多いだろうと察せられる。刑罰0号は、犯罪者に、被害者の記憶を見せることによって、自分の犯した罪の重さを実感させ、心底から罪を償わせようという狙いで始められたプロジェクトである。しかし、まず被験者とされた犯罪者たちにかかる負荷は予想以上に大きく、プロジェクトは半ばで頓挫することになる。だが、研究者というのは、その程度のことで、はいそうですかと諦められる人種ではないのだろう。水面下で続けられていた研究が、後々想像もしなかった事態を引き起こすことになるのである。辛うじて正気を保ち、成長していく被験者・森田俊と研究者の江波はるかの関わり、俊とそもそもの開発者・佐田行雄の関わり、佐田と息子の洋介との関係。さまざまな人物たちが絡み合い、それぞれの思惑で0号の周囲で動き回っている。ラストは、そもそもの狙いからするとかなり大規模なことになったし、実際にそんなことになったらと思うと身が震えるが、もしかするとこの先、平和が続いてくれるかもしれないという小さな希望もなくはない。良かれと思って考え出したことも、その影響力は留まる事を知らないのだと、改めて考えさせられることが多い一冊でもあった。

古書カフェすみれ屋と本のソムリエ*里見蘭

  • 2016/09/29(木) 07:16:15

古書カフェすみれ屋と本のソムリエ (だいわ文庫)
里見 蘭
大和書房
売り上げランキング: 222,443

すみれ屋で古書スペースを担当する紙野君が差し出す本をきっかけに、謎は解け、トラブルは解決し、恋人たちは忘れていた想いに気付く―。オーナーのすみれが心をこめて作る絶品カフェごはんと共に供されるのは、まるでソムリエが選ぶ極上のワインのように心をとらえて離さない5つの忘れ難いミステリー。きっと読み返したくなる名著と美味しい料理を愉しめる古書カフェすみれ屋へようこそ!


またまたどこかで見たようなテイストだとは思いつつ、この手のタイトルにはついつい惹かれてしまう。すみれがオーナーシェフとして営むカフェには、古書の販売コーナーが設けられ、カフェの客は自由に読むことができる。その古書コーナーを請け負っているのは、紙野くんという本好きの青年。すみれのほっとさせる雰囲気と、紙野くんの観察力や想像力、そして本に関する知識が相まって、客たちの抱える問題を解きほぐしていくのである。すみれの作る料理はどれもとても丁寧で、材料にも過程にもこだわりを持っているが、採算がとれるのかいささか心配になってしまうくらいである。空腹時に読んだら堪らない。二人のこれからも気になる一冊である。

市立ノアの方舟*佐藤青南

  • 2016/06/12(日) 20:47:34

市立ノアの方舟
市立ノアの方舟
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佐藤青南
祥伝社
売り上げランキング: 541,443

野亜市役所職員の磯貝健吾は、突然の人事異動で廃園が噂される市立動物園の園長を命じられた。着任早々、飼育員たちから“腰掛けの素人園長”の烙印を押されて挫けそうになった彼を立ち直らせてくれたのは、一人娘が描いたゾウの絵だった。そこに描かれていたのは、健吾が子供の頃に見たゾウそのものだったのだ。それを見た磯貝は、存続に向けて園を立て直す決意を固め、まず動物園のことを知る努力を始める。やがて見えてきたのは動物たちが抱える様々な問題と、くせ者揃いの飼育員たちの熱く、一途な想いだった…。


表題作のほか、「アジアゾウの憂鬱」 「気まぐれホッキョクグマ」 「恋するフラミンゴ」

廃園間近と囁かれる野亜動物園の再生物語である。野生動物に無理を強いている動物園という在り方そのものの是非や、職員たちのマンネリの仕事ぶり、動物たちの飼育環境の悪さ、等々、問題を山ほど抱えた動物園に新しく着任した園長は、市役所でテーマパークの誘致を手掛けてきた全くの門外漢だった。園長の磯貝自身も、早く市役所に戻りたいというのが本音だったが、ある日見せられた五才の娘の遠足の絵に描かれていた、耳の切れたゾウが、その考えを改めさせ、動物園に活気を取り戻すためのやる気のスイッチを押したのだった。飼育員はじめ職員たちの動物に対する愛情と、なにをしても無駄だという諦めが、少しずつ前向きに変わっていく様子に胸が熱くなり、応援したくなるのだった。動物園はこの先どうなるか判らないが、僅かずつでも前に進み続けることで変わることもあるのだと改めて思わされる一冊である。