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わかれ縁*西條奈加

  • 2020/06/08(月) 16:29:40


結婚して五年、定職にもつかず浮気と借金を繰り返す夫に絶望した絵乃は、身ひとつで家を飛び出し、離縁の調停を得意とする公事宿「狸穴屋」に流れ着く。夫との離縁を望むも依頼できるだけの金を持たない彼女は、女将の機転で狸穴屋の手代として働くことに。果たして絵乃は一筋縄ではいかない依頼を解決しながら、念願の離縁を果たすことができるのか!?


理不尽な江戸のしきたりの中で、健気に生きていく女性と、その縁の物語である。幼いころに母に出ていかれ、父娘二人で生きてきた絵乃だが、その父も病で逝き、好きで嫁いだ夫はろくでなし過ぎて、なんの望みも持てなくなっている折、狸穴屋の手代・椋郎とひょんな縁で繋がったのが物語のはじまりである。離縁の調停を得意とする公事宿である狸穴屋で、人々のさまざまな揉め事を見聞きしながら、絵乃が少しずつ自分の考えをしっかり持つようになり、明日を生きる光をみつけていくのが心強く、応援したくなる。この先も好い縁に恵まれることを祈らずにはいられない一冊である。

せき越えぬ*西條奈加

  • 2020/01/12(日) 07:15:59


思わぬなりゆきから箱根の関守となった若き小田原藩士・武一。彼の前には、切実な事情を抱える旅人が日々やってくる。西国へ帰る訳ありげな兄妹、江戸から夜逃げした臨月の女…やがて命を懸けて一人の男にこの国の未来を託さんとする者たちを知ったことで、武一の身にも人生最大の岐路が訪れる―!


前半は、箱根の関所越えの苦労話や、関所を守る人々の内情などで、なかなか興味深く読め、このまま進むのかと思いきや、後半は、国の行く末を憂う思想がらみの熱いストーリーが加わり、一気に熱気を帯びてくる。身分違いの友情や、お家事情も絡み、ぐいぐい惹きこまれる一冊である。

亥子コロコロ*西條奈加

  • 2019/09/20(金) 19:05:52

亥子ころころ
亥子ころころ
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講談社 (2019-06-25)
売り上げランキング: 22,571

味見してみちゃ、くれねえかい? 読んで美味しい“人情”という銘菓。“思い”のこもった諸国の菓子が、強張った心を解きほぐす――。親子三代で営む菓子舗を舞台に、人の温もりを紡いだ傑作時代小説!武家出身の職人・治兵衛を主に、出戻り娘のお永、孫娘のお君と三人で営む「南星屋」。全国各地の銘菓を作り、味は絶品、値は手ごろと大繁盛だったが、治兵衛が手を痛め、粉を捏ねるのもままならぬ事態に。不安と苛立ちが募る中、店の前に雲平という男が行き倒れていた。聞けば京より来たらしいが、何か問題を抱えているようで――。吉川英治文学新人賞受賞作『まるまるの毬』待望の続編!


表題作のほか、「夏ひすい」 「吹き寄せる雲」 「つやぶくさ」 「みめより」 「関の戸」 「竹の春」 

今作でも、治兵衛が諸国を旅して見覚えたご当地菓子がおいしそうである。しかも今作では、店前で行き倒れていたところを助けた、雲平という菓子職人と案を出し合いながら拵えた趣向を凝らした菓子が、目新しくもあり前作に増しておいしそうで、列を作る客の評判も上々である。雲平が行き倒れていた事情を解決するという大きな目的が、物語全体を通してまずあり、それに絡んだあれこれや、人と人との情の通い合い、親子の心情、などなど、いろいろな興味をかきたてられる。登場人物は善人ばかりだが、だからと言って問題が起こらないということはないのだなぁと思い知らされる。ラストは思わず頬が緩む展開で、あたたかい気持ちになれる一冊でもある。

白バイガール 最高速アタックの罠*佐藤青南

  • 2019/07/03(水) 16:41:32

白バイガール 最高速アタックの罠 (実業之日本社文庫)
佐藤 青南
実業之日本社 (2019-04-05)
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公道でマシンの限界まで飛ばす「最高速アタック」動画の投稿者を捜査するなか、不審なひき逃げ事件が発生!
神奈川県警の白バイ隊員・本田木乃美は、後輩白バイ隊員・鈴木に手を焼きつつも彼が容疑者の娘に肩入れしていることに気づく。
疾走感満点の展開と、心打たれる家族の絆に、最高速で一気読み間違いなし!笑って泣ける青春ミステリー。


女性白バイ隊員のお仕事小説、とも言えるが、それよりは、青春小説とでも言った方がいいような物語である。扱う事件は、さわやかさとは程遠いものではあるが、隊員同士の信頼関係や、任務に臨む個々の姿勢や考え方が伝わってきて、読者の胸をもたぎらせる。今回は、木乃美の全国白バイ安全運転競技大会への出場権をかけた競技会の結果にも興味を惹かれる。後輩隊員の鈴木の今後も愉しみなシリーズである。

おやつが好き*坂木司

  • 2019/06/07(金) 13:30:16

おやつが好き
おやつが好き
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坂木 司
文藝春秋
売り上げランキング: 47,163

ああ、もう全部食べたい。
ベストセラー「和菓子のアン」の著者の人生の娯楽はおやつの時間。美味しいものがひそんでる銀座の名店から量販店のスナック菓子まで、ふわふわ、サクサクのホロホロ、こってりあっさりの奇跡の融合に、パリパリカリポリ、つるんとなめらかにさらさらと語り尽くします。
お菓子にまつわる小説も併録。
小腹が空いている時に読めばおやつテロ。ダイエットしようと思っている時に読めば挫折しちゃうかも。ページをめくるたびに、広がる楽しいおやつの世界。
著者の描写力に舌と胃袋が負けること間違いありません。
自分にご褒美、今日のおやつは何食べる?


おいしそうなものがあとからあとから現れて、すっかり食べた気分になってしまう。あるときは、濃いブラックのコーヒー、またある時はにほろ苦い緑茶、あるいは香ばしいほうじ茶。そんなものを傍らに置いて愉しみたい一冊である。

セブンス・サイン 行動心理捜査官・楯岡絵麻*佐藤青南

  • 2019/05/08(水) 16:56:52


行動心理学で相手のしぐさから嘘を見破る美人刑事“エンマ様”こと楯岡絵麻。真っ白な着物を着た男性の餓死死体が河川敷で発見された。胃の中に漆が見つかったことで即身仏を試みたと思われたが、遺体には監禁された跡があった。宗教団体の関与を疑って赴くも、信者らに嘘をついている様子はない。しかし聴取の途中で驚愕の事件が起こり―?鮮やかな手腕で嘘を暴く痛快心理ミステリー!


エンマ様・楯岡絵麻の捜査手法にもすっかり慣れた。だが、取り調べられている被疑者にとっては、一刻も油断できない相手であり、いくら気をつけていたとしても、微細行動によってその犯行が暴かれてしまう。今回のターゲットは宗教団体ということで、嘘をついている自覚がないまま、事実と異なる主張を繰り返すなど、厄介である。だが、粘りに粘った末に、やはり勝利の女神はエンマ様に微笑むのである。このお決まりの設定が気持ち好い。まだまだ続いてほしいシリーズである。

隠居すごろく*西條奈加

  • 2019/04/21(日) 20:55:31

隠居すごろく
隠居すごろく
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西條 奈加
KADOKAWA (2019-03-29)
売り上げランキング: 17,991

巣鴨で六代続く糸問屋の嶋屋。店主の徳兵衛は、三十三年の働きに終止符を打ち、還暦を機に隠居生活に入った。人生を双六にたとえれば、隠居は「上がり」のようなもの。だがそのはずが、孫の千代太が隠居家を訪れたことで、予想外に忙しい日々が始まった!千代太が連れてくる数々の「厄介事」に、徳兵衛はてんてこまいの日々を送るが、思いのほか充実している自分を発見する…。果たして「第二の双六」の上がりとは?


身代を息子に譲って隠居した徳兵衛は、商売一筋にやってきたので、隠居して間もないというのに、その隠居家で無聊をかこつ有様であった。そんな折やってきた孫の千代太が、やさしい気性ゆえに、さまざまな厄介事を運び込んでくるようになり、最初こそは疎んじていたが、次第に抜き差しならぬ状況になり、さらには、千代太が連れてきた子どもたちに触発されるように、新しいことを考えついては愉しむようになっていくのだった。徳兵衛の変化や、千代太や子どもたちの成長、妻のお登勢との関係など、興味深い要素は満載である。なにより、人生というものの神髄が語られているようで、得心がゆくことも多々ある。文句なく面白い一冊である。 

たとえば、君という裏切り*佐藤青南

  • 2019/04/14(日) 20:43:02

たとえば、君という裏切り (祥伝社文庫)
佐藤青南
祥伝社 (2018-12-12)
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病に冒されたベストセラー作家に最期のインタビューをするライター、アルバイト先に現れる女子大生に恋をした大学生、公園で出会ったお姉さんから遠い国のお話を聞くのを楽しみにしている少女―彼らが好きになってしまった“あの人”はいつも自分ではない“誰か”を想っていた。三つの物語は時を越え、“ある人”の深い愛に結実する。あまりに切なく、震える純愛ミステリー!


読み始めは、ごく普通の短編集の印象である。だが、いくつかの物語を読んでいくうちに、隠されたからくりに気づかされる。それからは、いま読んでいるのは「いつの」「だれの」物語で、「どこに」「だれに」つながるのだろうと考えながら読むことになる。そして、どれもが予想をはるかに超えた展開で、思いの深さに驚愕する。初めから時系列に並んでいれば、なんということもない流れなのかもしれないが、人間の思い込みというのは不思議なもので、真実を目の前にしても、なかなか脳内で切り替えがなかなかできずにうろたえる。それも含めて、いやそれだからこそ右往左往を愉しませてもらった一冊である。

永田町小町バトル*西條奈加

  • 2019/03/11(月) 19:34:29

永田町 小町バトル
永田町 小町バトル
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西條 奈加
実業之日本社
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「法律を変えて、予算を勝ち取る―それができるのは、国会議員だけなのよ」。野党・民衛党から出馬し、初当選した芹沢小町は、「現役キャバクラ嬢」にしてシングルマザー。夜の銀座で働く親専門の託児施設を立ち上げた行動力と、物怖じしないキャラクターがメディアで話題となり、働く母親たちから熱い支持を集めたのだ。待機児童、保活、賃金格差、貧困…課題山積みの“子育て後進国”ニッポンに、男社会・永田町に、小町のパワーは風穴を開けられるのか!?吉川英治文学新人賞作家が挑む、新たな地平!


働く母親と子どもたちにまつわる問題が、具体的に描かれていて、問題点がよくわかる。さらに、国会議員としての駆け引きや、議員として生き抜いて初心を貫く難しさなど、国会議員としてのサバイバルのすさまじさもよくわかる。そんななか、現役キャバ嬢という色物としてのキャラクタを逆手にとって、荒波を渡っていく小町のしたたかさと、良い意味での計算高さがカッコいい。無責任なマスコミや、敵対する与党の女性議員との関わり方も、格好良すぎる。こんな志の高い議員が増えてくれれば、暮らしやすい国になるのになぁ、と思わされる一冊だった。

雨上がり月霞む夜*西條奈加

  • 2019/01/08(火) 08:54:44

雨上がり月霞む夜 (単行本)
西 條奈加
中央公論新社
売り上げランキング: 37,799

大坂・堂島で紙油問屋を営んでいた上田秋成は、一帯を襲った火事ですべてを失い、幼なじみの雨月が結ぶ庵のもとに寄寓して、衣食を共にするようになった。ところがこの雨月、人間の言葉で憎まれ口を叩く「遊戯」と呼ばれる兎を筆頭に、「妖し」を惹きつける不思議な力を持っており、二人と一匹の前に、つぎつぎと不可解な事象が振りかかるが――。
江戸時代中期の読本『雨月物語』に材を取った、不穏で幻想的な連作短編集。


言ってみれば『雨月物語』誕生秘話なのだが、それだけではない奥深さがある物語である。人の心というものの不可思議さ、異世界の者とこの世の者との関わり方、見えざる者とのふれあい、などなど、現実離れした事々も多いのだが、それらを大きく包み込んで受け容れられてしまうのである。秋成の屈託と雨月の憂いがそれぞれに切なくて、ぐんぐん惹きこまれていくのだが、最後にこんな風にひとつになるとは……。切ないながらも喜ぶべきことなのだろうと自分を納得させる一冊でもある。

ヴィジュアル・クリフ 行動心理捜査官・楯岡絵麻*佐藤青南

  • 2018/09/27(木) 09:26:59


似非健康商品を売りつける「ご長寿研究所」の店長が殺された。別件で指名手配中の男が現場付近で目撃されていたが、絵麻は違和感を覚える。そして新たに捜査線上に上がった人物は、行動心理学のかつての第一人者で絵麻の恩師・占部亮寛だった。店の常連客らしい占部。絵麻が聴取に行くと、占部は心を読み取られないよう抗不安薬を飲み―。相手のしぐさから嘘を見破る“エンマ様”シリーズ第6弾。


今回の捜査は、エンマ様こと楯岡絵麻にとっては、辛いものだったことだろう。というのも、捜査対象が、かつての恩師・占部であり、絵麻に行動心理学を教えてくれたその人だったのだから。とはいえ、胸の裡はともかく、捜査に手を抜くことはないのがエンマ様である。占部と絵麻の駆け引きから目が離せない。相棒の西野も、ずいぶん頼もしくなっている。彼以外ではエンマ様とのコンビは成り立たないのではないかとすら思わされる。今回、西野も贔屓のキャバクラ嬢の真実の姿に目が覚めたようでもあるし、今後の展開も愉しみである。じっくり味わいたいシリーズである。

無暁の鈴(むぎょうのりん)*西條奈加

  • 2018/08/26(日) 18:56:15

無暁の鈴
無暁の鈴
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西條奈加
光文社
売り上げランキング: 110,318

武家の庶子でありながら、家族に疎まれ寒村の寺に預けられた久斎は、兄僧たちからも辛く当たられていた。そんななか、水汲みに出かける沢で出会う村の娘・しのとの時間だけが唯一の救いだったのだが…。手ひどい裏切りにあい、信じるものを見失って、久斎は寺を飛び出した。盗みで食い繋ぐ万吉と出会い、名をたずねられた久斎は“無暁”と名乗り、ともに江戸に向かう―波瀾万丈の人生の始まりだった。


まずは、この題材で物語を書こうと思った著者の目のつけ所に感心する。華やかなところもなく、ひたすら悩み、苦しみ、懺悔し、足りないものを求め続ける一人の男の一生である。初めは、己の置かれた立場を恨み、不遇を嘆くが、人の情けも知り、真心にも触れたが、そこでまた利用され、大切なものを失うことになる。激情に駆られて犯した殺生を悔いはしたが、そのことの真の意味を悟るのはまだ先のことである。己の生きる価値を問い続け、自らを苛め抜いた先に見えたものは何だったのか。最期に聴いた弟子の鈴(りん)の音色は、さぞや胸に沁みたであろうと思われる。心打たれる一冊だった。

白バイガール  駅伝クライシス*佐藤青南

  • 2018/02/25(日) 08:49:54

白バイガール 駅伝クライシス (実業之日本社文庫)
佐藤 青南
実業之日本社
売り上げランキング: 44,013

箱根駅伝1日目の深夜、翌日10区を走る選手の妹が誘拐される。神奈川県警の白バイ隊員・本田木乃美は、年末に起きた七里ガ浜殺人事件の捜査を進めていたが、駅伝先導を務める川崎潤から、選手の妹を探して欲しいと電話が入り―。駅伝×事件が同時進行、白熱の追走劇と胸熱の人間ドラマで一気読み間違いなし!大好評青春お仕事ミステリー!


毎年こたつに入ってぬくぬくとテレビ観戦している箱根駅伝の裏側で、これほど熾烈な駆け引きが起こっていようとは誰が想像できるだろうか。駅伝を先導する白バイ隊員と、表には出ないが、その裏で事件を未然に防ごうと格闘する警察官たちの、からだを張った鬼気迫る活躍に、興奮させられる。木乃美たちが熾烈な戦いを強いられなければならなかった理由は、身勝手で唾棄すべき犯罪であり、とても許すことはできないのだが、ぎりぎりのところでさらなる最悪な事態を防ぐことができたのは、仲間同士の信頼と連携以外のなにものでもなく、胸を熱くさせられる。白バイガールたち、次は何をしてくれるのか愉しみなシリーズである。

鶏小説集*坂木司

  • 2018/02/18(日) 13:32:51

鶏小説集
鶏小説集
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坂木 司
KADOKAWA (2017-10-20)
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おまえの羽はどこにある? 様々な岐路で迷い、奮闘する全ての人へ―‐

トリドリな物語。旨さあふれる「鶏」小説を召し上がれ。
「トリとチキン」…似てるけど似てない俺たち。思春期のゆらぎと成長を描く/あげチキ
「地鶏のひよこ」…地方出身の父親と、都会生まれの息子/地鶏の炭火焼
「丸ごとコンビニエント」…コンビニバイトの僕が遭遇したクリスマスの惨劇とは/ローストチキン
「羽のある肉」…高校受験を控えた夏。彼女と二人で出かける/鶏手羽の照り煮
「とべ エンド」…死にたがりだった漫画家。そのエピソードゼロとは/鶏ハム


豚肉の次は鶏肉である。おいしそうな鶏肉料理に絡めて、さまざまな(トリドリな?)エピソードが語られる。鬱屈したものを解き放てずに溜め込む若者たちの姿が、飾らずに描かれていて興味深い。ページの向こうにいる人を思わず応援したくなったりもする。鶏肉と同じで、噛めば噛むほど味わい深くなる一冊である。

銀杏手ならい*西條奈加

  • 2018/01/09(火) 16:34:45

銀杏手ならい
銀杏手ならい
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西條奈加
祥伝社
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小日向水道町にある、いちょうの大樹が看板の『銀杏堂』は、嶋村夫婦が二十五年に亘って切り盛りしてきた手習指南所。子を生せず、その家に出戻ることになった一人娘の萌は、隠居を決め込む父・承仙の跡を継ぎ、母・美津の手助けを得ながら筆子たちに読み書き算盤を教えることに。だが、親たちは女師匠と侮り、子供たちは反抗を繰り返す。彼らのことを思って為すことも、願い通りに届かない。そんなある日、手習所の前に捨てられていた赤ん坊をその胸に抱いた時、萌はその子を引き取る決心を固めるが……。子供たちに一対一で向き合い、寄り添う若き手習師匠の格闘の日々を、濃やかな筆致で鮮やかに描き出す珠玉の時代小説!


三年子をなせず、婚家から出された萌は、父の手習指南所を任されたが、心の痛みから、なかなか一心に打ち込むことができずにいた。だが、ひとりひとりの筆子の事情や、懸命に生きている彼らに近しく接するうちに、次第に自らも力を得ることができ、子どもたちと真正面から向き合うようになっていく。それには、我が子として育てることにした、自分と同じ境遇の捨て子・美弥の存在がことのほか大きいようである。初めは胡散臭く思っていた師匠仲間の椎葉たちとの会話の中からヒントを得て、子どもたちの抱える問題を解決に向かわせる様子も、機転と知恵と思いやりの気持ちが伝わってきて好ましい。心温まる一冊である。