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国道食堂 2nd season*小路幸也

  • 2021/03/28(日) 18:33:00


小田原を抜けてしばらく経った頃、国道沿いに元プロレスラーが営む「ルート517」という店が見えてくる。
ドライブインというより、大衆食堂というのにピッタリなため、「国道食堂」という名もある。
この店の食事は、どれも美味しいが、ちょっと変わっているのは、プロレスのリングがあること。
さまざまな人々が集うこの店には、偶然か運命のいたずらか、とんでもないことが起きることがあって……。
好調シリーズの続篇刊行!


読み始めてしばらくは、前作の人間関係があやふやだったりもしたが、読み進めるうちに思い出してきて、そうだったそうだった、と懐かしい人たちに会えたような気分になった。山の中の田舎の学校の校舎を小さくしたような食堂で、こんなにも多彩な出会いと繋がりが生まれて、どんどん広がっているなんて、誰が思うだろうか。広いようで世間は狭い(都合よく狭すぎる気がしなくもないが、そこは敢えておいておく)。きっとそれは、十一さんを初めとして、国道食堂に集まってくる人たちが、お互いのことが好きで、それぞれに思いやっているからこそのことなのだろう。基本的に悪人が出てこない著者の物語だが、たまに心根の曲がった人が出てきたとしても、単純に排斥しないところが著者らしい。世界がこうだったら、どんなにか生きやすいだろうと思う。まだまだこの先を知りたくなるシリーズである。

かわうそ堀怪談見習い*柴崎友香

  • 2020/12/20(日) 16:44:18

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百年と一日*柴崎友香

  • 2020/10/27(火) 18:40:06

学校、島、家、映画館、喫茶店、地下街の噴水広場、空港…… さまざまな場所で、人と人は人生のひとコマを共有し、別れ、別々の時間を生きる。 大根のない町で大根を育て大根の物語を考える人、屋上にある部屋ばかり探して住む男、 周囲の開発がつづいても残り続ける「未来軒」というラーメン屋、 大型フェリーの発着がなくなり打ち捨てられた後リゾートホテルが建った埠頭で宇宙へ行く新型航空機を眺める人々…… この星にあった、だれも知らない、だれかの物語33篇。作家生活20周年の新境地物語集。


まず注目するのは目次である。ここだけで、すでに物語感満載で、ほとんどどんな物語なのか見当がつく。そして本編。見当をつけたとおりだったり、ちょっと予想を裏切られたりしながらも、そこでは人々が暮らし、出会い、別れ、再開したり、噂を耳にしたりしながら、時間が経過していく。ひとつずつは短い物語なのだが、その場所の歴史が濃密に詰まっているような充実感を味わえる。厳密にいえば違うのだが、ある意味定点観測のような、変わらなさと、変化の激しさのどちらもが、見事に両立している印象でもある。ただの記録のようでもあり、風景の写生のようでもあり、奥深い告白のようでもある。とても興味深い一冊である。

三兄弟の僕らは*小路幸也

  • 2020/08/18(火) 18:29:43


平凡で幸せな家庭に育ちながらも、突然の交通事故で両親を一度に失ってしまった、稲野朗・昭・幸の三兄弟。そんな彼らを助けるべく、ほとんど面識がなかった母方の祖母が家にやってくる。その暮らしの中で兄弟たちは、祖母と母の不仲の理由や父の出生の秘密など、これまで知らなかった家族の裏側を少しずつ知っていくのだが…。中・高・大学生の三兄弟の成長と、家族の絆を描いた、感涙必至のハートフルストーリー。


一般的に見えれば、ものすごく不幸でありながら、まったくそうは見えない三兄弟ではある。著者の作品には、基本的には善人しか出てこないが、本作もまた然り。三兄弟(小学生の末の弟までも)も、周りの人たちも、あまりにも人間ができすぎていて、ともすると白けてしまいそうなのだが、著者の物語はなぜかそうはならず、応援したくなってしまうのが不思議である。これ以上不運に見舞われないように、というよりも、どんな状況に置かれても、いいことを探しているような彼らなので、末永くそのまま穏やかに、と願わずにはいられない一冊である。

イエロー・サブマリン 東京バンドワゴン*小路幸也

  • 2020/08/06(木) 08:04:35


四世代が同居する堀田家には、今日も不思議な事件が舞い込む。伝説の作家のアトリエに潜む秘密、紺に届いた盗作を訴える手紙、古本を定期的に買っては店に置いていくミステリアスな少女、藤島とパートナーになった美登里につきまとう過去の亡霊―。バンドワゴンの面々は「LOVE」という強い絆を持って立ち向かう。人気シリーズ待望の第15弾!


なんと第15弾!お見事である。堀田家の様子も、年々様変わりし、とうとう研人が高校を卒業する年齢に。なんとも感慨深いものがある。だが、相変わらず、厄介事とは縁が切れないようで、今回もあちこちから様々な厄介事が転がり込んでくる。我南人がふらっといなくなるのはいつものことで、最後にびしっと決めてくれるのも、いつも同様Loveである。改めて人と人とのつながりのありがたさを思うシリーズでもある。

のご挨拶*小路幸也

  • 2020/06/29(月) 16:45:08


港町を見下ろす高台にある高級料亭旅館“銀の鰊亭”。一年前の火事で当主とその妻は焼死。二人を助けようと燃え盛る炎の中に飛び込んだ娘の文は怪我を負い、記憶を失った。ところが、その火事の現場には身元不明の焼死体もあった―。あの火事は“事故”なのか“事件”なのか?文の甥・光は刑事の磯貝とその真相を追うことになるのだが…。


歴史ある高級料亭旅館<銀の鰊亭>の知る人ぞ知る謎と、それにまつわる人たちの物語。もしもそれが事実だったとしたら、ものすごく大変なことなのだが、表向きのことしか知らされていない世間の人々にとっては、穏やかな日常が流れているのだろう。だが、コアなところでは、疑惑や思惑や駆け引きが繰り広げられ、まるで、川に浮かぶ水鳥の足掻きのようである。本当のところはどうだったのかは、永遠の謎だが、誰も不幸にしないところに落ち着いたのだろうと思う。仁さんのことは、残念だったが。文さんの記憶が戻ったらどうなるのか、ちょっぴり気になる一冊でもある。

国道食堂 1st season*小路幸也

  • 2020/06/14(日) 16:36:26


お店の中にプロレスのリング?ちょっと田舎にあるけれど何を食べても美味しい食堂“ルート517”。そんな、ちょっと変わった店に通う人々の様々なドラマ。


ちょっと変わった人が営む、ちょっと変わった食堂が舞台。やたらとメニューが多いが、何を食べてもおいしい「ルート517」(人呼んで国道食堂)にやってくる人たちの人生と人生が出会い、元プロボクサーの店主の人生も絡み合って、好い具合に何かが生まれていく。生まれついての資質を持っている人は、それだけでなにごともうまくいく、というようなうらやましすぎるような設定もあるが、それが鼻につかず、素直に肯けてしまうところも著者ならではなのかもしれない。人はひとりでは生きられない、意識してもしなくても、必ずどこかで誰かと何らかの形で繋がり、影響を与え合っているのだということを再認識させられる一冊でもある。1st season ということは、次があるということだろうか。愉しみである。

僕の探偵*新野剛志

  • 2020/04/08(水) 16:24:06


僕と宗介は半年前、街で偶然再会した。学生時代からの友人は、仕事を辞めて行くあてもないらしい。仕方なく一晩だけ泊めてやるつもりだったのが、今ではすっかり居着いてしまっている。そんな彼は、僕の周辺で起きた事件を素人探偵となって次々と解決していくのだが…。それぞれ暗い過去を持つ青年、勇吾と宗介。彼らに訪れる出会いと別れを描き、爽やかな余韻を残す連作短編集。


主人公の家に居候する友人が、話を聞いて事件を解決する、ある意味安楽椅子探偵物語なのだが、そう単純なものでもない。この探偵、普段はヨガの修行とやらでとんでもない恰好をしていたりするのだが、ときにものすごくアクティブだったりするので驚かされる。主人公の僕・勇吾は素人の女の子が売りのデリヘルの雇われ店長で、女の子たちやお客たちがらみで、あれこれ問題が起きると、居候の宗介に話をし、何となくアドバイスをもらったり、言うとおりにしてみると解決してしまったりするのである。宗介自身も、抱えきれない屈託を隠し持っていて、それがとんでもない展開になったりもする。それでもなんだかんだ言って、後味は爽やかで、青春物語のような読み心地でもあるのが不思議である。ドロドロしたものを爽やかに解決してくれる一冊かもしれない。

まちまちな街々 ニッポン見聞録*清水義範

  • 2020/04/05(日) 16:44:07


泥江龍彦(職業・作家)は、ある日、いいことを思いついた。それは、K書店を騙くらかして取材旅行にいく―つまり、ひとのお金でタダ旅行をするという企画だったのだ。かくして、泥江とその妻は、二人三脚の旅に出るが、世の中そんなに甘くはない!?抱腹絶倒の珍道中、漫遊記。


相変わらずの清水節である。いい加減な顔をして、至極まじめ。まじめなふりをして、いい加減である。夫婦の会話や、行動に、思わずふふふっと笑ってしまったりしながら、結構きっちりと勘所はおさえられていて、勉強にもなるのである。その辺りに手を抜かないのは、著者のまじめさだろう。同行する妻の役割も大きい気がする。ときにわき道にそれそうな夫を本筋に引き戻し、ときに気ままに次の行動を決める。まさに二人三脚の珍道中なのである。ほほえましい。愉しく読める旅行案内と言った一冊である。

地面師たち*新庄耕

  • 2020/03/12(木) 18:38:42


ある事件で母と妻子を亡くした辻本拓海は、大物地面師・ハリソン山中の下で不動産詐欺を行っていた。ハリソン山中を首謀者とし、拓海を含む五人のメンバーが次に狙ったのは、市場評価額百億円という前代未聞の物件だった。一方、ハリソン山中を追う定年を間近に控えた刑事の辰は、独自の捜査を続けるうち、ハリソンが拓海の過去に深く関わっていたことを知る。一か八かの最大級の詐欺取引、難航する辰の捜査、そして、地面師の世界の深奥に足を踏み入れた拓海が知る事実とは―。


まるでドキュメンタリーのような緊迫感を味わえる物語である。人間の欲望に巧みにつけいっているとは言え、こんなことをされたら騙されない方がおかしい、と思わずうなってしまうような巧妙さである。さまざまな証明書や書類の類の偽造技術の巧妙さも、ここまで来ているのかと、ため息が出るほどである。被害者側の思惑にも同情できない要素があることもあって、つい地面師たちに肩入れしそうになってしまうが、そんなころ合いに定年間近の刑事・辰の捜査状況が挿みこまれるので、一時我に返ることができる。一旦悪の片棒を担いだら、泥沼だということもよく判る。文句なく面白い一冊だった。

花咲小路一丁目の髪結いの亭主*小路幸也

  • 2020/02/14(金) 16:32:34


たくさんのユニークな人々が暮らし、日々大小さまざまな事件が起きる花咲小路商店街。すらりと背の高いせいらちゃんが働く「バーバーひしおか」は、古きよき香りが漂うレトロな“理髪店”。小柄な奥さん・ミミ子さんが切り盛りし、素敵に髪を整えてくれますが、店主の旦那さんはのんきに暮らしてばかり。それもそのはず、旦那さんには思いもよらぬ“裏の顔”があって―


花咲小路商店街、ますますその筋の達人が集まっているようで、ものすごく濃密である。傍から見ればなんということのないごくありふれた商店街なのだが、その実、内情を知れば知るほど侮れない。カテゴリーは様々ではあるが、その道では一流でありながら、誰もが日々を実直に暮らしているのがなおさら格好好い。バーバーひしおかのメンバーに加わったせいらちゃんも、素敵なひらめきで、呑み込みがとても早く、鋼鉄のセーラと言われるほど口が堅い。彼女もまた魅力的である。花咲小路がこれからどうなっていくのか、いつまでも平穏でいられるのか興味深いシリーズである。

カトク 過重労働撲滅特別対策班*新庄耕

  • 2020/02/06(木) 16:30:22


大企業の過重労働を特別捜査する東京労働局「カトク」班の城木忠司は、今日も働く人びとのために奮闘する!ブラック住宅メーカー、巨大広告代理店、IT系企業に蔓延する長時間労働やパワハラ体質。目標達成と“働き方改革”の間で翻弄されるビジネスパーソン達を前に、城木に出来ることは?時代が待望した文庫書下ろし小説。


過重労働を撲滅するという目的のために、ブラック企業を捜査する「カトク」にスポットを当てたお仕事小説である。確かにカトクの仕事内容も描かれているが、それよりも、捜査対象のブラック企業の闇がよく描かれている印象である。どうしてここまでブラックになってしまったのか、その実態を、時には我が身に引き寄せながら真剣に考える城木の、自らもまた苦悩している姿が胸に痛い。なにを、あるいはどこを、そして誰の考えを正せば労働環境が改善されるのか。捜査しながら的確に判断を下す彼らが救いの神にも見えてくる。愉しみながらも考えさせられる一冊だった。

夏服を着た恋人たち マイ・ディア・ポリスマン*小路幸也

  • 2020/01/18(土) 14:25:16


謎のカギを握るのは一枚のメモと高層マンション!?奈々川駅前の高層マンション“グレースタワー”最上階の部屋が暴力団の事務所になっている―。“東楽観寺前交番”に寄せられた通報を受け、赴任三年目の夏を迎えた宇田巡は捜査に向かう。一方、巡の恋人で新人マンガ家の楢島あおいは、年配の女性が不審な男に封筒を渡す場面を目撃してしまう。オレオレ詐欺事件と判断したあおいは、伝説の掏摸の祖母から受け継いだ技を使って、男の胸元から1枚のメモを掏り取る。そんな折、あおいの父・明彦は、長年行方不明だった大学時代の同級生、脇田広巳を町で見かけて…。町の仲間たちが凄ワザで謎に挑む人気ミステリー!


オレオレ詐欺、ドローン技術、SNSの波及力、などなど、現代を表す要素が満載である。だが、東楽観寺前交番の佇まいは、なんだかひと昔前ののどかさを残していて懐かしい感じである。ここに暮らす人たちの関係性も、現代の忙しなさとは遠く、つながりが濃く、その人脈故に解決されることも多々あるのである。今回も、事象そのものは現代的だが、解決のために根底を流れるものは、そんな密なつながりによるところが大きい。誰もが誰かのことを思い、誰かのためを思って動くことで、信頼関係が築かれ、それが次につながっていくのが見て取れてほっとさせられる。次も愉しみなシリーズである。

あの日に帰りたい 駐在日記*小路幸也

  • 2019/11/18(月) 18:19:08

あの日に帰りたい-駐在日記 (単行本)
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1971年。元刑事・蓑島周平と元医者・花の夫婦の駐在生活も板についてきた頃。新たな仲間、柴犬のミルも加わりのんびりした生活……と思いきや、相変わらず事件の種はつきないようで――。平和(なはず)の田舎町を、駐在夫婦が駆け回る!


語り口が東京バンドワゴンと似てきているように感じるのはわたしだけだろうか。特に食事の支度をする場面で、色濃く出ているような気がする。それはともかく、雉子宮駐在所の日々は、大方はのんびりしているものの、いざ何か起こると、結構大事になったりするので気が抜けない。だが、どんな事件であれ、住人のことを第一に考え、この先もよりよく生きて行けるように配慮する簑島巡査や花さんの対応が素晴らしい。真相は、当事者と花さんの日記でしかわからないので、読者はお得である。雉子宮に観光客がたくさん来て、町が潤ってほしいと思いはするが、こののどかさは変わらずにいてほしいと願ってしまうシリーズである。

絶声*下村敦史

  • 2019/10/08(火) 16:23:08

絶声
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親父が死んでくれるまであと一時間半――。
もう少しで巨額の遺産が手に入る。大崎正好はその瞬間を待ち望んでいた。
突如、本人名義のブログが更新されるまでは……。
『私はまだ生きている』
父しか知り得ない事実、悔恨、罪などが次々と明かされていく。
その声が導くのは、真実か、破滅か。
驚愕のラスト&圧倒的リーダビリティの極上ミステリー!


すい臓がんを患い、余命いくばくもない時期に突然疾走し、生死不明のまま時が経ち、遺産目当ての子どもたちの動きが慌ただしくなった折も折、父のブログが更新される。失踪宣告は一旦棚上げされ、一日も早く遺産を手に入れるためだけに、子どもたちはあれこれ調べ始めるのだが……。先妻の子どもと後妻の子ども、後妻が離縁された経緯、遺産のために仕組まれたあれこれ、父本人の後悔、などなど、複雑な要因が絡み合い、さらには、父本人によって仕組まれた仕掛けによって、思ってもみない結末を迎えることになる。面白く読んだのだが、登場人物の誰もが、私利私欲のためにしか動いておらず、個人的には誰にも肩入れすることができなかったことが、もうひとつのめり込めなかった一因かもしれない。自らの生き方が招いたこととはいえ、父親の哀れが思われてならない一冊ではあった。