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剣持麗子のワンナイト推理*新川帆立
- 2022/08/09(火) 07:14:44
亡くなった町弁のクライアントを引き継ぐことになってしまった剣持麗子。
都内の大手法律事務所で忙しく働くかたわら、業務の合間(主に深夜)に一般民事の相談にも乗る羽目になり……。
次々に舞い込む難題を、麗子は朝までに解決できるのか! ?
法律相談に運動会(?)に、剣持麗子は今日も眠れない!
不本意ながら、放っておけない巷の厄介事に毎回首を突っ込むことになる剣持麗子の物語である。事件がらみで知り合ったホスト・武田信玄(源氏名、本名は黒丑)をアルバイトの助手にして、少しは雑用を任せられるようにはなったが、今度は当の黒丑に不信感を抱くことになる。異なるいくつかの事案に、夜中に立ち会うことになるが、どの事案にも黒丑の影がつきまとうのである。麗子の夜は、さらに不穏なものになるのである。黒丑の件が回収されていないので、次があるのは確定と思われるが、先の展開が愉しみなシリーズになってきた。
花咲小路二丁目の寫眞館*小路幸也
- 2022/06/26(日) 16:22:23
たくさんのユニークな人々が暮らし、日々大小さまざまな事件が起きる花咲小路商店街。
新米カメラマンの樹里が働くのは、商店街に昔からある<久坂寫眞館>。
店主の重はカメラマンの腕がいいはずなのに、写真を撮ろうとしない。それもそのはず、重が撮影をすると、<奇妙なもの>が写真に写り込んでしまうというのだ。
写り込んでいるのが「過去」のものだとわかったことがきっかけで、昔の花咲小路商店街にタイムスリップしてしまった二人。
若かりしセイさんの力を借りて、謎に包まれたままの火事の真相を探ろうとするが、そこには大きな秘密が隠されていてーー
累計15万部突破の大人気「花咲小路」シリーズ第7弾!
とうとうタイムスリップしてしまったか、という感じだが、まったく違和感はなく、すんなり入り込めてしまった。そして、セイさんの秘密もしっかり確認することができ(わかっていたことではあるが)、商店街のアーケードにまつわる謎まで解き明かし、しかも現在との祖語もなく、ある意味ハッピーエンドで締めくくるとは。セイさんの綿密な計画のおかげもあるだろうが、重(じゅう)くんの持っている何かが確実に作用していると思われる。そして樹里さんによって補強されているものなのだろう。花咲小路商店街、まだまだ何か出てきそうで愉しみなシリーズである。
千の扉*柴崎友香
- 2022/06/20(月) 18:14:30
夫・一俊と共に都営団地に住み始めた永尾千歳、40歳。一俊からは会って4回目でプロポーズされ、なぜ結婚したいと思ったのか、相手の気持ちも、自分の気持ちも、はっきりとしない。
二人が住むのは、一俊の祖父・日野勝男が借りている部屋だ。勝男は骨折して入院、千歳に人探しを頼む。いるのかいないのか分からない男を探して、巨大な団地の中を千歳はさまよい歩く。はたして尋ね人は見つかるのか、そして千歳と一俊、二人の距離は縮まるのか……。
三千戸もの都営団地を舞台に、四十五年間ここに住む勝男、その娘の圭子、一俊、友人の中村直人・枝里きょうだい、団地内にある喫茶店「カトレア」を営むあゆみ、千歳が団地で知り合った女子中学生・メイ。それぞれの登場人物の記憶と、土地の記憶が交錯する。
柴崎友香テイスト満載の、なんてことのない人たちのなんてことのない日常が淡々と描かれ続ける物語ではあるのだが、いささか違っているのは、その場所に脈々と流れる時間が、さまざまなポイントで切り取られ、その場所に積もった地層のように、重層的に眺められるということだろう。いま見えている景色からは想像もできないような出来事があり、人も建物も道も、ここであってここではないような、異なる時間軸のなかにあるように思えてしまうが、現在は確実にそれらがあったからこそあるものなのだということが、淡々と描かれる故に沁み込んでくる。この物語の先にも、また別の時間が降り積もり、別の誰かが違った思いを抱えて生きていくのだろうと、想像できるようになる。場所と時間について思いを巡らせるきっかけをくれる一冊だった。
倒産続きの彼女*新川帆立
- 2022/04/19(火) 16:44:15
『このミステリーがすごい! 』大賞 大賞受賞作&シリーズ累計48万部突破
『元彼の遺言状』続編!
彼女が転職するたび、その企業は必ず倒産する――
婚活に励むぶりっ子弁護士・美馬玉子と、高飛車な弁護士・剣持麗子がタッグを組み、謎の連続殺「法人」事件に挑む!
(あらすじ)
山田川村・津々井法律事務所に勤める美馬玉子。事務所の一年先輩である剣持麗子に苦手意識をもちながらも、
ボス弁護士・津々井の差配で麗子とコンビを組むことになってしまう。
二人は、「会社を倒産に導く女」と内部通報されたゴーラム商会経理部・近藤まりあの身辺調査を行なうことになった。
ブランド品に身を包み、身の丈にあわない生活をSNSに投稿している近藤は、会社の金を横領しているのではないか? しかしその手口とは?
ところが調査を進める中、ゴーラム商会のリストラ勧告で使われてきた「首切り部屋」で、本当に死体を発見することになった彼女たちは、予想外の事件に巻き込まれて……。
前作で、剣持麗子の独特のキャラの印象が強いのに、敢えての主人公交代である。とは言え、剣持麗子あっての美馬玉子という印象は拭えない。だが、玉子もなかなか鋭い調査をし、身体を張った仕事をしているところは、この弁護士事務所の女性陣の特徴ということか。弁護士とはなんと危ない仕事であることか。上からのお達しに唯々諾々と従うだけではなく、自分の良心と探求心を抑え込まずに行動を起こすところは、何かあったら弁護を依頼したい、と思わされる頼もしさがある。人助けもしたが、失われた命もあり、その辺りは胸が痛む。長く続くシリーズになるといいな、と思う一冊だった。
あんのまごころ お勝手のあん*柴田よしき
- 2022/01/13(木) 18:36:36
品川宿の宿屋「紅屋」では、おやすが見習いから、台所付きの女中として正式に雇われることとなり、わずかばかりだがお給金ももらえるようになった。
最近は煮物も教えてもらえるようになり、また「十草屋」に嫁いだ仲良しのお小夜さまが、みずから料理して旦那さまに食べてもらえる献立など、毎日料理のことを考えている。
そんななか、おしげさんからおちよの腹にやや子がいることを聞いていたおやすは、日に日に元気がなくなっていくおちよの本音に気づきはじめて──。
大好評「お勝手のあん」シリーズ、待望の第四弾!
二作目・三作目を飛ばして四作目を読んだので、時折事情が呑み込めないこともあったが、おやすの成長と、新しい料理ができる過程は、充分に愉しめる。おやすの周りでは、さまざまな厄介事が起こるが、おやすの人柄や、紅屋の人たちとの気持ちの通い合いが、ひとつずつ解決してくれる。最後はどうなるかと思ったが、命だけは何とか無事だったので、紅屋の再建もきっと何とかなるだろう。一人前の女料理人になる道が、どんどん開けることを祈りたくなるシリーズである。
元彼の遺言状*新川帆立
- 2022/01/03(月) 06:45:34
第19回『このミステリーがすごい! 』大賞 大賞受賞作
「僕の全財産は、僕を殺した犯人に譲る」――奇妙な遺言状をめぐる遺産相続ミステリー!
(あらすじ)
「僕の全財産は、僕を殺した犯人に譲る」。元彼の森川栄治が残した奇妙な遺言状に導かれ、
弁護士の剣持麗子は「犯人選考会」に代理人として参加することになった。
数百億円ともいわれる遺産の分け前を勝ち取るべく、麗子は自らの依頼人を犯人に仕立て上げようと奔走する。
ところが、件の遺書が保管されていた金庫が盗まれ、さらには栄治の顧問弁護士が何者かによって殺害され……。
主人公のキャラが強く、設定はいままでにないもので、登場人物たちも癖が強く、誰もが身勝手な印象ではある。映像化されたら、それなりの娯楽番組になるのではないだろうか、と思わされる。ただ、道具立てが派手な割には、ミステリとしては物足りなさもあって、やはり、活字で読むよりは映像で見た方が楽しめそうな一冊かもしれない。
闇に香る嘘*下村敦史
- 2021/12/21(火) 18:24:43
村上和久は孫に腎臓を移植しようとするが、検査の結果適さないことが分かる。和久は兄の竜彦に移植を頼むが、検査さえも頑なに拒絶する兄の態度に違和感を覚える。中国残留孤児の兄が永住帰国をした際、既に失明していた和久は兄の顔を確認していない。27年間、兄だと信じていた男は偽者なのではないか――。全盲の和久が、兄の正体に迫るべく真相を追う。有栖川有栖氏が「絶対評価でA」と絶賛した第60回江戸川乱歩賞受賞作!
全盲の主人公、中国残留孤児、小児の腎臓移植と、深刻な要素が多く盛り込まれているが、そのすべてが、この物語にとってはなくてはならないものだったように思う。戦争による悲惨で過酷な体験、引き上げ後の境遇、闇に閉ざされた絶望と焦燥、そして疑心暗鬼。心の在りようによって、物事の捉え方がこれほど変わるものかということも思い知らされる。種明かしされるまでは、真相にまったく思い至らなかった。それほどに自然なストーリー展開であったということである。読み応えのある一冊だった。
ヴィクトリアン・ホテル*下村敦史
- 2021/12/19(日) 10:37:14
事件、誘惑、秘密の関係……すべてを見ているのは、このホテルだけ。
張り巡らされた伏線、交錯する善意と悪意に一気読み&二度読み必至!
伝統ある超高級ホテル「ヴィクトリアン・ホテル」は明日、その歴史にいったん幕を下ろす。ホテルを訪れた宿泊客それぞれの運命の行方は――?
『闇に香る嘘』『黙過』『同姓同名』など、話題作を次々発表する社会派ミステリの旗手がエンターテインメントを極めた、感動の長編ホテルミステリー! !
【主な登場人物】
佐倉優美――悩める人気女優
三木本貴志――自暴自棄なスリ
高見光彦――新人賞受賞作家
森沢祐一郎――軟派な宣伝マン
林志津子――人生の最期をホテルで…
映像化には向かない趣向である。登場人物それぞれの視点がひとつの章として描かれているので、読者は、同じ場面を複数の角度から見ることもあるのが興味深い。そして、しばらく読み進めると、細かい描写に些細な違和感を覚えることが増えてくる。違和感の正体を探ろうとさらに読み進めると、後半にそれは明きらかになるのだが、もう少し後まで、素直に読ませてほしかった気は少しする。とは言え、全体を通して描かれているのは、人間のやさしさであり、善意が悪意に負けてはいけないというメッセージなのではないかと思えた。ホテルの設えなどは、映像化されたところを見てみたいが、無理な願いだろう。著者のほかの作品も読んでみたいと思わされる一冊だった。
すべて神様の十月 2*小路幸也
- 2021/11/28(日) 13:22:54
シリーズ累計10万部突破!
死神、九十九神、福の神……
現代社会に溶け込むように存在している八百万の神々と、人間達とのちょっと不思議なふれあいを描いた、切なくも心温まる連作短篇シリーズ第二弾。
【内容例】
●ある消防士が出動すると、勝手に火が消えてしまう。その意外な理由とは?(「天狗さまのもとに」)
●銃で撃たれた女子高生が、死の淵で恋をした男の正体は……(「死神に恋」)
●夢遊病に悩む漫画家は、コインランドリーで美しい女性と出会うが(「眠れぬ夜の神様」)。
――など、全10篇を収録。
文庫オリジナル。
戌の日に
お稲荷さんをよろしく
天狗さまのもとに
死神に恋
眠れぬ夜の神様
笑う門には福来る
落とした物を探しています
引きこもりにおじさん
子供は風の子
七回目の神様
ちょっとだけ不思議なものが視える資質を備えもった主人公が、何気ない日々のなかで、ちょっとだけ不思議な出来事と人に出会う。そして、そのことをごく自然に受け入れて、その先も生きていく物語である。これほどあからさまに、存在として目に見える形でなくとも、生きていると、何か見えない力に守られているような気がすることは、存外あるように思う。それを意識するか、無意識のうちに何となくやり過ごしてしまうかというだけで、誰もが何者かにたぶん守られているのだろう。そんな思いを強くしてくれ、ほんの少し心強くさせてくれる一冊である。
隠れの子 東京バンドワゴン零*小路幸也
- 2021/11/17(水) 16:12:17
「東京バンドワゴン」シリーズのルーツは江戸時代にあった!?
この出会いは、愛(LOVE)を生む。
累計165万部突破! シリーズ初の傑作時代小説 いきなり文庫!
江戸北町奉行所定廻り同心の堀田州次郎と、植木屋を営む神楽屋で子守をしながら暮らしている少女・るうは、ともに「隠れ」と呼ばれる力を持つ者だった。州次郎はたぐいまれな嗅覚を、るうは隠れの能力を消す力を……。州次郎の養父を殺した者を探すべく、ふたりは江戸中を駆け巡る。それはまた隠れが平穏に暮らすための闘いだった。「東京バンドワゴン」シリーズのルーツとなる傑作時代長編小説。
著者初の時代小説とは思えないほどしっくりくる。語り口調がなんとはなしに東京バンドワゴンと通じるところがあるからだろうか。堀田家のルーツということなので、サチさんの不思議な力とは関係ないのだろうけれど、堀田の系譜も不思議な力を秘めているからこその、あの一家なのだろうと腑に落ちる。ただ、現在の堀田家にどうつながるか具体的に描かれているわけではなく、これはこれで続編がありそうな気配もなくはない。というか、ぜひ読みたい。おるうちゃんが、まだまだ活躍しそうな気がする一冊である。
霧をはらう*雫井脩介
- 2021/10/28(木) 07:18:52
『火の粉』で裁判官の葛藤を、『検察側の罪人』で検事の正義を描いた
雫井脩介が問う、弁護士の信念とは? 作家デビュー20周年を迎えた著者の渾身作!
病院で起きた点滴死傷事件。
入院中の4人の幼い子どもたちにインスリンが混入され、2人が殺された。
逮捕されたのは、生き残った女児の母親。
人権派の大物弁護士らと共に、若手弁護士の伊豆原は勝算のない裁判に挑む!
500ページ超えのボリュームを感じさせない面白さである。人物描写がまず素晴らしい。どの人物も、実際の姿をたやすく想像できるので、その行動がとてもリアルに感じられる。折々に挿みこまれる違和感も、後半にはすべて解消され、すべて腑に落ちる。考えさせられる要素が盛りだくさんだが、そのどれもが、いつ自分に降りかかってもおかしくないことばかりで、我がこととして深く思いを致すことで、さらに物語の面白さが深まる印象である。ラストの事実には驚かされたが、人間の弱さがもたらす罪を思い知らされる心地である。物語としての着地点のそのあとに、さらに別の深い闇と、それを解きほぐす日々が待っているのかと思うと気が重くなるが、少しでも救いのある方向に進んでくれることを願うばかりである。充実感と共に読み応えのある一冊だった。
明日は結婚式*小路幸也
- 2021/09/09(木) 16:08:24
覚えていますか? あの日のことを――。
家族で過ごす最後の夜、あなたに伝えたい想いがあります。
心に染みる感動の物語。
人生は、たくさんの人との繋がりで彩られていくんだね――。
明日に挙式を控えた、信用金庫勤めの井東春香と、パン屋の息子でデザイナーの細井真平。ごくごく普通に暮らす二人が、偶然の出会いから愛を育み夫婦になる。家族で過ごす最後の夜、春香の両親と弟、そして祖母には、それぞれに伝えたい想いがあった。一方、新しい家族を迎える細井家でも、実の母を早くに亡くした真平に、今だからこそ話しておきたいことがあり……。
結婚前夜を、当人たちとその家族の視点から紡ぐ感動の物語。
結婚式前夜、それぞれが実家で家族水入らずで過ごす最後の夜が、家族それぞれの目線で描かれてた物語。思いもよらないところで繋がっていたり、不思議な縁を感じたり、これまで歩いてきた道のりのしあわせと、これから歩み出す道のあたたかさを感じられる。平坦なばかりではない道程かもしれないが、この家族に育てられ、これからも周りにいると思えば、何があっても何とか先に進めるだろう。感慨深くはあるが、普通の一日でもある結婚式前夜が静かに描かれた一冊である。
グッバイ・イエロー・ブリック・ロード*小路幸也
- 2021/09/07(火) 16:30:58
古書店を営む四世代の大家族が活躍する、人気の「東京バンドワゴンシリーズ」第16弾。
4年ぶりの番外長編の舞台は、藍子とマードックが暮らすイギリス!
失われた絵と、あなたを取り戻すために――。
高校を卒業したばかりの堀田研人が率いるバンド〈TOKYO BANDWAGON〉が、ひょんなことからイギリスのスタジオでフルアルバムのレコーディングを行うことになった。我南人の引率で、藍子とマードックが暮らす家を訪れた一行。しかし、滞在中にマードックの姿が消えて……!? 東京の堀田家と現地の仲間たち総動員で、不可解な「誘拐」と「美術品盗難」の謎に迫る。
堀田家の「LOVE」は国境を越えて。大人気シリーズ第16弾!
今回は番外編ということで、東京下町を飛び出して、舞台はなんとイギリス。とは言え、サチさんは、一瞬でイギリスと堀田家を行ったり来たりできるので、両方の様子がわかる(タブレットやPCで繋がってはいるが)。さらに今回は、サチさんのことが見えて話せる人物が登場し、かなり活躍してしまうので、ちょっとこれはいいのだろうか、と思ってしまったりもする。TOKYO BANDWAGON の高校生三人組も結構大人な対応をしているが、研人のため口は父親の我南人譲りだろうか(それとも英語だから?ちょっぴり気にはなる)。マードックさんが事件に巻き込まれ、そこから発展してかなり大きなことになっていくのだが、「LOVEだねぇ」のパワーで丸く収めてしまうのがこの人たちである。現実にはあり得ない設定ではあるが、善人以外出てこないこのシリーズならではの展開だろう。堀田家の朝食風景が見られなかったのが残念な一冊でもある。
君と歩いた青春 駐在日記*小路幸也
- 2021/09/04(土) 16:30:25
「祈りなんていう非科学的なものが、誰かを救うこともあるんです」
昭和五十二年。元刑事・蓑島周平と元医者・花の夫婦の駐在生活も三年経ち、すっかり村の一員に。だが相変わらず雉子宮には、事件の種はつきないようで――。
冬 水曜日の雪解けは、勘当者
病気で倒れた村長さん。そこに勘当された娘が戻ってきた!
春 月曜日の来訪者は、スキャンダル
世間が芸能スキャンダルに沸く中、村に自称小説家の男が表れて……
夏 日曜日の幽霊は、放浪者
山で度々起きるお化け騒ぎ。その悲しき真相は……
秋 木曜日の謎は、埋蔵金
村に埋蔵金発掘のテレビが! でもそこにはとんでもないものが埋まっていた……。
家族の絆と人の優しさが胸を打つ。「東京バンドワゴン」シリーズ著者による大好評短編シリーズ第三弾。
日々のどかで、事件など何も起こらなさそうに思える雉子宮の駐在所が舞台の物語である。自然豊かでのどかなのは確かなのだが、これが結構事件が起こる。外から持ち込まれたり、お家騒動もどきだったり、昔の因縁がらみだったりと、さまざまではあるが、元刑事の駐在・周平さんの人を見る目と勘の鋭さに、妻の花さんの医師の目も加わり、その人脈の豊かさも助けとなって、八方良しの解決に導いてしまうのは、人徳とも言えるだろう。雉子宮の安寧にかなり貢献しているのは間違いない。村の人もみんないい人たちで、誰もが役に立ちたいと思って行動しているのが伝わってくる。若い人たちが、新しいことを考え始めているようなので、どんな風に変わっていくかも愉しみなシリーズである。
国道食堂 2nd season*小路幸也
- 2021/03/28(日) 18:33:00
小田原を抜けてしばらく経った頃、国道沿いに元プロレスラーが営む「ルート517」という店が見えてくる。
ドライブインというより、大衆食堂というのにピッタリなため、「国道食堂」という名もある。
この店の食事は、どれも美味しいが、ちょっと変わっているのは、プロレスのリングがあること。
さまざまな人々が集うこの店には、偶然か運命のいたずらか、とんでもないことが起きることがあって……。
好調シリーズの続篇刊行!
読み始めてしばらくは、前作の人間関係があやふやだったりもしたが、読み進めるうちに思い出してきて、そうだったそうだった、と懐かしい人たちに会えたような気分になった。山の中の田舎の学校の校舎を小さくしたような食堂で、こんなにも多彩な出会いと繋がりが生まれて、どんどん広がっているなんて、誰が思うだろうか。広いようで世間は狭い(都合よく狭すぎる気がしなくもないが、そこは敢えておいておく)。きっとそれは、十一さんを初めとして、国道食堂に集まってくる人たちが、お互いのことが好きで、それぞれに思いやっているからこそのことなのだろう。基本的に悪人が出てこない著者の物語だが、たまに心根の曲がった人が出てきたとしても、単純に排斥しないところが著者らしい。世界がこうだったら、どんなにか生きやすいだろうと思う。まだまだこの先を知りたくなるシリーズである。
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