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アンドロメダの猫*朱川湊人

  • 2018/11/04(日) 16:24:27

アンドロメダの猫
アンドロメダの猫
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朱川 湊人
双葉社
売り上げランキング: 359,039

コールセンターで派遣社員として働く瑠璃はある日、少女・ジュラと出会う。不思議な雰囲気を持つジュラがなんとなく気になる瑠璃。やがて“事件”が起き、追われる身となった二人は、住む街を出る。そして、行きついた先で平穏なひと時を迎えるが…。


パッとはしなくて平凡だが、それなりにやりがいを感じることもなくはない、そんな日々を送っていた瑠璃だが、ある日コンビニで少女が万引きするところを見かけ、なにか惹きつけられるものを感じてつい助け舟を出してしまう。それが物語の発端である。その少女・ジュラは不思議な魅力を持っており、どうしても気になってしまうのだった。偶然に再びであったことで、物語は動き、瑠璃は自ら厄介で危険な流れに飛び込むことになるである。瑠璃とジュラの逃避行は、鬼気迫るものではあるのだが、一方でいままでにない安らぎと幸福感に包まれたものでもあり、この先のことを考えると切なくもやるせない。ラストは、あまりにも哀しく、胸が締めつけられる。何をどうすればよかったのだろうと考えさせられる一冊である。

公園へ行かないか?火曜日に*柴崎友香

  • 2018/10/19(金) 07:34:33

公園へ行かないか? 火曜日に
柴崎 友香
新潮社
売り上げランキング: 83,124

アメリカにいるから、考えること。そこにいないから、考えられること。2016年11月8日、わたしはアメリカで歴史的瞬間に居合わせた、はずだった――。世界各国から作家や詩人たちが集まる、アイオワ大学のインターナショナル・ライティング・プログラムに参加した著者が、英語で議論をし、街を歩き、大統領選挙を経験した3ヶ月。現地での様々な体験から感じたことを描く11の連作小説集。


限りなくエッセイに近い小説集である。英語が自由に操れず、コミュニケーションが自在に取れないもどかしさの中、アメリカという国にいて、アメリカ以外から集まった作家たちそれぞれの背景や抱える問題、意識の違いなどがリアルにつづられていて興味深い。同じものごとを目にしても、それに対する反応や表現の仕方はさまざまで、それは個性であるとともに国民性でもあり、英語が不自由なゆえに、それらを静かに観察できている様子がよくわかる。日本を離れているから見えること、余計にわからなくなること、その揺らぎが伝わってきて、改めて考えさせられる。等身大の日々が伝わる一冊である。

つかのまのこと*柴崎友香 東出昌大

  • 2018/10/08(月) 16:40:55

つかのまのこと
つかのまのこと
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柴崎 友香 東出 昌大
KADOKAWA (2018-08-31)
売り上げランキング: 18,174

かつての住み家であったのであろう、“この家”を彷徨い続ける“わたし”。その理由がわからないままに時は移り、家には次々と新しい住人たちがやってくる。彼らを見守り続ける“わたし”は、ここで、いったい何を、誰を待っているのか―。俳優・東出昌大をイメージして作品を執筆、さらに写真家・市橋織江がその文学世界を撮影した、“新しい純文学”。



東出昌大さんを想定して書かれた物語ということである。どうやら幽霊として、ある古い日本家屋に住み着いている男の目を通してみた日常の風景。当て書きというだけあって、折々に挿みこまれる写真が、物語と一体になって、胸のなかがたいそう穏やかになる気がする。窓も開けていないのに、ふと空気の流れを感じるとき、もしかすると人ならぬものが通って行ったのかもしれない、などと想像してしまいそうになる。変わっていくものと変わらずに在るもののことを考えてみたくなる一冊である。

妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ*小路幸也

  • 2018/07/25(水) 19:22:53

妻よ薔薇のように 家族はつらいよ3 (講談社文庫)
小路 幸也 平松 恵美子
講談社 (2018-03-15)
売り上げランキング: 354,610

無神経な夫・平田幸之助の言動に、それまで一家を支えてきた嫁・史枝がついにキレた。妻として母として嫁として、いなくなって初めてわかる史枝の有難み。後悔しつつも素直になれない幸之助に、周囲の心配は募るばかり……。山田洋次監督の傑作映画を、「東京バンドワゴン」の小路幸也がノベライズ。笑いと涙で家族の愛情を描く、喜劇シリーズの総決算!


史枝さん、よくやった!という感じである。それにつけても、幸之助のなんと無神経で身勝手なことか。史枝さんがも、よくいままで耐えてきたものである。救いは、義理の関係も含め、周りがおおむね史枝さんの存在意義を大いに認めてくれているということだろう。それがなければ、個人的には、金輪際戻りたくはない。幸之助がすっかり心を入れ替えたとは、まだ信じられないが、少しずつ変わってくれることを祈るばかりである。家庭の、主婦のありがたさがよくわかる一冊である。

ヘイ・ジュード 東京バンドワゴン*小路幸也

  • 2018/07/22(日) 08:47:50

ヘイ・ジュード 東京バンドワゴン
小路 幸也
集英社
売り上げランキング: 59,801

花陽の医大受験を目前に控え、春を待つ堀田家。古書店“東京バンドワゴン”の常連・藤島さんの父親が亡くなって、書家だった父親のために記念館を設立するという。すると古書をきっかけに思いがけないご縁がつながって…。笑って泣ける、下町ラブ&ピース小説の決定版!下町の大家族が店に舞い込む謎を解決する人気シリーズ第13弾!


もう13作目なのか、とまずは感慨深い思いに浸る。いい加減新しいネタもないのではないだろうか、という懸念をよそに、きょうも堀田家の面々は、誰かのためにあわただしく動いているのである。そして、あの花陽が医大受験の年を迎えたのだという感慨も深い。子どもたちの成長とともに、堀田家内の役割も少しずつ変わってきて、それもまた興味深い。人生の旅を終える人がいると思えば、また新たに堀田家や東京バンドワゴンの流れに乗る人もいて、時の移ろいは途切れることがないのだと思わせても暮れる。人間の営みのことなのだから、ネタ切れなどということは有り得ないのかもしれない。研人のふるまいが、我南人のそれに似てきたのもうれしいところである。これからもどんどん動いていく堀田家が愉しみなシリーズである。

引き抜き屋2 鹿子小穂の帰還*雫井脩介

  • 2018/06/11(月) 18:11:45

引き抜き屋(2)鹿子小穂の帰還
雫井 脩介
PHP研究所
売り上げランキング: 98,169

「いい加減で質の悪いヘッドハンターも跋扈(ばつこ)しておりましてね」
父がヘッドハンターの紹介で会社に招き入れた大槻(おおつき)の手によって、会社を追われた鹿子小穂(かのこ・さほ)は、再就職先でヘッドハンターとして働き始めた。各業界の経営者との交流を深め、ヘッドハンターとしての実績を積んでいく小穂の下に、父の会社が経営危機に陥っているとの報せが届く。父との確執を乗り越え、ヘッドハンターとして小穂が打った、父の会社を救う起死回生の一手とは?
ビジネスという戦場で最後に立っているのは――。
予測不能、そして感涙の人間ドラマ。ヘッドハンターは会社を救えるのか!?
仕事と人生に真正面から取り組むすべての人に勇気を与える、一気読み必至のエンターテインメント。


前作のラストで井納が言った通り、今作では小穂の挫折が描かれるかと思いきや、そんなこともなく、相変わらず手強いがやりがいのある仕事に励む小穂である。花織里に連れていかれた夜のアルバイトのおかげもあって、人脈も随分と広がり、条件を並べられても、即座に候補が頭に浮かぶようにもなってきた。この上なくやりがいのある案件に取り組んでいるさなか、実家であるアウトドアメーカー・フォーンの不穏な噂を耳にする。本作の半分は、フォーンがらみの物語である。とはいえ、単純に小穂が古巣に戻って会社を再建するということではなく、ここでもヘッドハンターとして腕を振るうことにあるのである。点と点だった人とのつながりが、少しずつ重なって線になり、まわりまわって自分を助けることになる、ということを思わされる一冊でもある。面白かった。

引き抜き屋1 鹿子小穂の冒険*雫井脩介

  • 2018/06/10(日) 18:18:34

引き抜き屋(1)鹿子小穂の冒険
雫井 脩介
PHP研究所
売り上げランキング: 101,250

会社を潰すのはヘッドハンターか!?
父が創業したアウトドア用品メーカーに勤める鹿子小穂(かのこ・さほ)は、創業者一族ということもあり、若くして本部長、取締役となった。しかし父がヘッドハンターを介して招聘した大槻(おおつき)と意見が合わず、取締役会での評決を機に、会社を追い出されてしまう。そんな小穂を拾ったのが、奇しくもヘッドハンティング会社の経営者の並木(なみき)で……。新米ヘッドハンターとして新たな一歩を踏み出した小穂は、プロ経営者らに接触し、彼らに次の就職先を斡旋する仕事のなかで、経営とは、仕事とは何か、そして人情の機微を学んでいく――。
かけひき、裏切り、騙し合い――。
『犯人に告ぐ』『検察側の罪人』の著者、渾身の新境地。


今回の雫井氏はヘッドハンターである。半ば偶然のような形でヘッドハンターの道を進むことになった小穂だが、いまのところ何となくうまいこといっている。ボスである並木も、ただ口がうまく要領のいい人物のように見えて、実は根回しが徹底しているという、なかなか興味を惹かれるキャラクタであり、ファーム(ヘッドハント会社)のほかのメンバーも、癖が強い面々がそろっているのが、また魅力的でもある。最後の飲み会で、井納が指摘した通り、小穂にとって、これまでのところはビギナーズラックのようなものかもしれない。続編でどんな展開になるのかが愉しみである。興味深いシリーズである。

花歌は、うたう*小路幸也

  • 2018/01/22(月) 07:29:58

花歌は、うたう
花歌は、うたう
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小路 幸也
河出書房新社
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天才的ミュージシャンだった父の失踪から9年。秘められた音楽の才能が花開くとき、止まっていた時が動き始める―。幼なじみの勧めで歌をうたうことに真剣に向き合い始めた花歌は、父親譲りの天才的な音楽の才能を花開かせていく。そんな中、父・ハルオの目撃情報が届き…。祖母・母・娘、三世代女子家庭の再生の物語―。


ストーリーはかなり劇的ではあるものの、物語自体は割と淡々とよくある日常のひとコマを切り取ったように描かれている。主人公の花歌がいちばんのほほんとして見えるのは、祖母のうたや母の花子を始めとする周りの大人たちや、親友のむっちゃんやリョーチのおかげなのだろう。そして、無自覚な才能を引き出せるということは、それもまた才能なのだろう。伝説のミュージシャンで花歌の父・ハルオの失踪に至る心の闇には、さらりと触れるだけだったので、そこももっと知りたい気はしたが、それはまた別の物語になってしまいそうではある。花歌の歌を実際に聴いてみたくなる一冊である。

駐在日記*小路幸也

  • 2018/01/03(水) 07:29:19

駐在日記 (単行本)
駐在日記 (単行本)
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小路 幸也
中央公論新社
売り上げランキング: 263,554

昭和五十年。横浜で刑事をしていた蓑島周平は、皆柄下郡・雉子宮駐在所に赴任した。ある事件で心身に傷を負った妻の花と穏やかな暮らしをするため、自ら希望した人事だった。しかし、優しくて元気な人ばかりのこの雉子宮にも、事件の種は尽きないようで……。平和な田舎の村を守るため、駐在夫婦が駆け回る! 「東京バンドワゴン」シリーズの著者が贈る、どこか懐かしい警察連作短編。


横浜の捜査一課の刑事から、田舎町の駐在さんになった簑島周平の新婚の妻・花さんの駐在所の日々の覚え書きのような日記がベースになった物語である。花さん目線で描かれているので、警官の物語で、平和な土地柄ながらときおり起こる事件も、殺伐とした印象はなく、関係者の動向や心情が柔らかく描かれているので、どこかほのぼのとした空気感が漂っている。近所の人たちからお裾分けで届く野菜などを使った食卓の様子も、東京バンドワゴンにどこか通じるところがあって、気分が和む。外科医だった花さんの怪我の理由が明らかにされていないので、これはシリーズになるということですよね。これからの雉子宮駐在所が愉しみな一冊である。

猫ヲ捜ス夢  蘆野原偲郷*小路幸也

  • 2017/12/06(水) 16:48:21

猫ヲ捜ス夢: 蘆野原偲郷 (文芸書)
小路 幸也
徳間書店
売り上げランキング: 302,498

古より、蘆野原の郷の者は、人に災いを為す様々な厄を祓うことが出来る力を持っていた。しかし、大きな戦争が起きたとき、郷は入口を閉じてしまう。その戦争の最中、蘆野原の長筋である正也には、亡くなった母と同じように、事が起こると猫になってしまう姉がいたが、行方不明になっていた。彼は、幼馴染みの知水とその母親とともに暮らしながら、姉と郷の入口を捜している。移りゆく時代の波の中で、蘆野原の人々は何を為すのか?為さねばならぬのか?


暮らしの隅々の細かいことが、普段当たり前に思っている指標とはいささか違う次元にあるので、馴染むまでには戸惑いもあるが、次第にそんなものだと得心して物語にのめり込む。白い猫になり行方知れずになっている姉が帰ってくるのを心待ちにしながら、日々、「事」を成して暮らしている正也と知水の周りに、ぽつりぽつりと不思議なことが起こりはじめる。蘆野原の端境を見つける手掛かりに近づくのだろうか、と興味はいや増す。そんな出来事のひとつをたどった先で出会ったのは、言葉を話さない少女・美波であり、彼女もまた不意に猫になる性質なのだった。彼女が現れたことで、蘆野原への道はひらけはじめる。蘆野原という偲郷を、よく判らないながらも認めている世界にあって、彼らの果たす役割は何なのだろう。そして彼らに安らげるときは来るのだろうか。日本人の心の奥深くに、失くしてはいけない何かの物語なのかもしれないと思わされる一冊でもある。

風味さんのカメラ日和*柴田よしき

  • 2017/12/02(土) 07:53:27

風味さんのカメラ日和 (文春文庫)
柴田 よしき
文藝春秋 (2017-08-04)
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あなたのワケあり写真は、あなたの心の有りようを写している――。

東京を離れ洋菓子店を営む実家に戻った風味は、幼馴染の頼みでカメラ講座に通うことに。
いつも写真がボケてしまう老人、寂しくない写真を撮りたい中年女性などが集うなか、講師の知念大輔は、カメラマンを挫折した天然なイケメン。
だが、彼はレンズを通して受講生の心を癒していく。
カメラ撮影用語解説もついた文庫書き下ろし。


写真好きな著者ならではの物語である。プリントされたり、パソコン画面に映し出されたりした写真から、撮った人の心のうちに凝った思いを解きほぐし、前向きにさせるのは、蛍山市の無料の初心者向けカメラ講座の講師・知念大輔である。心に響く写真を撮るのに、売れっ子にはなれず、甥の伝手でこの講師の職を得たという、なんとも頼りない感じなのだが、カメラや写真撮影に関するアドバイスは的確で、読んでいてそうだったのかと納得させられることもある。お役立ち情報付きの軽いミステリ、といった感じだろうか。いままで大雑把に撮っていた写真を、もっと丁寧に撮ってみたいと思わされる一冊でもある。

千の扉*柴崎友香

  • 2017/11/14(火) 18:37:46

千の扉 (単行本)
千の扉 (単行本)
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柴崎 友香
中央公論新社
売り上げランキング: 46,692

夫・一俊と共に都営団地に住み始めた永尾千歳、40歳。一俊からは会って4回目でプロポーズされ、なぜ結婚したいと思ったのか、相手の気持ちも、自分の気持ちも、はっきりとしない。
二人が住むのは、一俊の祖父・日野勝男が借りている部屋だ。勝男は骨折して入院、千歳に人探しを頼む。いるのかいないのか分からない男を探して、巨大な団地の中を千歳はさまよい歩く。はたして尋ね人は見つかるのか、そして千歳と一俊、二人の距離は縮まるのか……。

三千戸もの都営団地を舞台に、四十五年間ここに住む勝男、その娘の圭子、一俊、友人の中村直人・枝里きょうだい、団地内にある喫茶店「カトレア」を営むあゆみ、千歳が団地で知り合った女子中学生・メイ。それぞれの登場人物の記憶と、土地の記憶が交錯する。


都会のマンモス団地の扉の内側には、扉の数以上の違う人生がある。そんな当たり前のことが、何とも不思議でかけがえのないことに思えてくる。現在進行形の登場人物たちの暮らしの狭間に、それぞれの来し方、ときどきの胸の裡が織り込まれることによって、生身の人間が生きていくことの一筋縄ではいかない様が、くっきりと浮き彫りにされる。著者流の淡々とした描写の中に、抱え込んだ屈託や、切実な願い、自分の内側への問いかけなどが詰まっていて、鼻の奥がつんとしてくる。大切なものを見逃がさないように丁寧に生きようと思わされる一冊でもある。

ルールズ*新藤晴一

  • 2017/10/23(月) 06:57:08

ルールズ
ルールズ
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新藤晴一
マガジンハウス
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人気ロックバンド、ポルノグラフィティの新藤晴一が描く
青春ロック小説の傑作!

ポルノグラフィティのギタリスト・作詞家として活躍する著者が、
2010年の小説家デビュー以来、待望の第2作目を上梓!

舞台は、著者が長きにわたって身を置く音楽業界。
メジャーデビューを目指して奮闘する
ロックバンドのベーシストを主人公にすえ、
ロッカーたちの生き様を追いかけた本書は、
細部にまでリアリティが宿るロック小説の傑作!

運命をともにするメンバーたちとの人間関係、
デビューにかけるひたむきな想いや葛藤、
成功を夢みる男たちの欲望……。
彼らの未来のカギを握るのは、いったい誰なのか?
この出来事は、伝説となりうるのか?
夢か現実か?
一気読み必至の青春グラフティ。


ロックは全くの門外漢だが、それでもそのばかばかしいほどの熱さがひしひしと伝わってくる。なにを大切に思い、なにを最優先に生きていくかということは、ロッカーに限らず、その人なりの譲れない理由があるだろう。彼らにとって、それがロックだということだ。損得勘定など微塵も考えずにいられた時代から、人生設計を俯瞰してみなければならない年代になってもなお、譲れないものは譲れないけれど、少しずつ妥協も覚えなければ生き残ってはいけない。そんなジレンマと、それでも熱い仲間たちとの結びつきが、読んでいて心地好い。有名人が物した小説という色眼鏡を外しても充分読み応えのある一冊だと思う。

騙し絵の牙*塩田武士

  • 2017/10/12(木) 16:23:36

騙し絵の牙
騙し絵の牙
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塩田 武士
KADOKAWA (2017-08-31)
売り上げランキング: 741

大手出版社で雑誌編集長を務める速水。誰もが彼の言動に惹かれてしまう魅力的な男だ。ある夜、上司から廃刊を匂わされたことをきっかけに、彼の異常なほどの“執念”が浮かび上がってきて…。斜陽の一途を辿る出版界で牙を剥いた男が、業界全体にメスを入れる!


主人公の編集者・速水には俳優の大泉洋があてがきされているので、初めから明確なイメージを持って読み進められるという、テレビドラマを観た後で原作を読んでいるような不思議な読書体験ができる。ほんとうにこの速水、大泉洋氏以外では考えられないキャラクタである、と思ってしまった時点でまんまとやられているのだろう。エピローグがあるからこその騙し絵ということなのだろうが、流れとしては当然とも言えるのではないかとも思った。カバー写真の仕掛けも秀逸で、物語をよく表している。仕掛けでも内容でも愉しませてくれる一冊だった。

マイ・ディア・ポリスマン*小路幸也

  • 2017/10/05(木) 18:51:13

マイ・ディア・ポリスマン
小路幸也
祥伝社
売り上げランキング: 172,954

交番に赴任してきたお巡りさんは元捜査一課の刑事。
幼なじみの副住職は、説法はうまいけど見た目はヤクザ。
彼らの前に現れたマンガ家志望の女子高生は伝説の○○の孫!?

財布が消えた? 現れた? この町で、一体何が起こっている?
奈々川市坂見町は東京にほど近い古い町並みが残る町。元捜査一課の刑事だった宇田巡は、
わけあって〈東楽観寺前交番〉勤務を命じられて戻ってきたばかり。寺の副住職で、幼なじみの
大村行成と話していると、セーラー服姿のかわいい女子高生・楢島あおいがおずおずと近づい
てきた。マンガ家志望の彼女は警官を主人公にした作品を描くために、巡の写真を撮らせてほ
しいという。快くOKした巡だったが、彼女が去ったあと、交番前のベンチにさっきまでなかった
はずの財布が。誰も近づいていないのに誰が、なぜ、どうやって? 疑問に包まれたまま財布の
持ち主を捜し始めた巡は、やがて意外な事実を知ることに……。


さまざまな、超能力とは言えなくても、凡人にはない能力を持つ人が集まっているこの町が、そもそもちょっと不思議な町である。だが、この町には、なんとなくほのぼのとした空気が流れているような気もする。ただ、そこで起こる出来事もまたちょっぴり謎めいていて、不思議な雰囲気を醸し出している。それぞれが、立場や世代の違いを超えて、互いを思いやっているのが伝わってきて心地いいのだが、人助けのためとはいえ、掏摸の技が正当化されているのがいささか気になるところではある。そして、些細なことかもしれないが、恋する乙女には酷なひと言にはっとさせられもした。シリーズ化されて、後々の伏線にでもなるのだろうか。いまのところ言われた本人が気にする様子もないので、単に副住職の失言なのかもしれないが、個人的には、この人にだけは言われたくないなあと思わされるひと言ではある。昔の友情も再確認でき、家族の和が戻り、過去のつながりも明らかになり、万事うまく解決したのは、思いやりの気持ち故だろう。次の展開が愉しみな一冊でもある。