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あの日に帰りたい 駐在日記*小路幸也

  • 2019/11/18(月) 18:19:08

あの日に帰りたい-駐在日記 (単行本)
小路 幸也
中央公論新社
売り上げランキング: 80,475

1971年。元刑事・蓑島周平と元医者・花の夫婦の駐在生活も板についてきた頃。新たな仲間、柴犬のミルも加わりのんびりした生活……と思いきや、相変わらず事件の種はつきないようで――。平和(なはず)の田舎町を、駐在夫婦が駆け回る!


語り口が東京バンドワゴンと似てきているように感じるのはわたしだけだろうか。特に食事の支度をする場面で、色濃く出ているような気がする。それはともかく、雉子宮駐在所の日々は、大方はのんびりしているものの、いざ何か起こると、結構大事になったりするので気が抜けない。だが、どんな事件であれ、住人のことを第一に考え、この先もよりよく生きて行けるように配慮する簑島巡査や花さんの対応が素晴らしい。真相は、当事者と花さんの日記でしかわからないので、読者はお得である。雉子宮に観光客がたくさん来て、町が潤ってほしいと思いはするが、こののどかさは変わらずにいてほしいと願ってしまうシリーズである。

絶声*下村敦史

  • 2019/10/08(火) 16:23:08

絶声
絶声
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下村 敦史
集英社
売り上げランキング: 131,608

親父が死んでくれるまであと一時間半――。
もう少しで巨額の遺産が手に入る。大崎正好はその瞬間を待ち望んでいた。
突如、本人名義のブログが更新されるまでは……。
『私はまだ生きている』
父しか知り得ない事実、悔恨、罪などが次々と明かされていく。
その声が導くのは、真実か、破滅か。
驚愕のラスト&圧倒的リーダビリティの極上ミステリー!


すい臓がんを患い、余命いくばくもない時期に突然疾走し、生死不明のまま時が経ち、遺産目当ての子どもたちの動きが慌ただしくなった折も折、父のブログが更新される。失踪宣告は一旦棚上げされ、一日も早く遺産を手に入れるためだけに、子どもたちはあれこれ調べ始めるのだが……。先妻の子どもと後妻の子ども、後妻が離縁された経緯、遺産のために仕組まれたあれこれ、父本人の後悔、などなど、複雑な要因が絡み合い、さらには、父本人によって仕組まれた仕掛けによって、思ってもみない結末を迎えることになる。面白く読んだのだが、登場人物の誰もが、私利私欲のためにしか動いておらず、個人的には誰にも肩入れすることができなかったことが、もうひとつのめり込めなかった一因かもしれない。自らの生き方が招いたこととはいえ、父親の哀れが思われてならない一冊ではあった。

アンド・アイ・ラブ・ハー*小路幸也

  • 2019/08/23(金) 18:38:21

アンド・アイ・ラブ・ハー 東京バンドワゴン
小路 幸也
集英社
売り上げランキング: 103,927

一進一退を続けるボンの容態に、落ち着かない日々を過ごす堀田家。しかしトラブルが起これば、すかさず助太刀参上!進路に悩む研人に、「老人ホーム入居を決めてきた」と宣言するかずみ。そして長年独身を貫いてきた藤島がついに―。それぞれが人生の分かれ道に立った家族、でもつながっているのはやっぱり「LOVE」があるから!人気シリーズ待望の第14弾!


もう14作目か、という感慨ひとしおである。小さかった人たちは大人になり、もっと小さかった人たちも小学生になり、大人たちはさらに歳を重ね、充分に歳を重ねていた人たちは、さらに老いていく(サチさんを除いて)。おめでたく明るい反面、どうしても一抹の寂しさも感じるのは、致し方のないことなのだろう。そんなすべてを受け止め見守る覚悟が、人生には必要なのだということを、本作が教えてくれる気がする。シリーズが続くほどに人間関係が広がっていくのは当然のことで、堀田家にもずいぶん新しい関係が築かれている。若い人たちが増えて、これからさらに広がっていくだろうと予想もされ、頼もしくも思われるが、読者としては、どこまで着いていけるかという不安も多少あるのが本音である。今回も厄介事が持ち込まれはしたが、それよりなにより、「ゆく人くる人」感の強い一冊だった。

待ち遠しい*柴崎友香

  • 2019/07/04(木) 18:46:27

待ち遠しい
待ち遠しい
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柴崎 友香
毎日新聞出版 (2019-06-08)
売り上げランキング: 7,791

住み心地のいい離れの一軒家で一人暮らしを続ける北川春子39歳。
母屋に越してきた、夫を亡くしたばかりの63歳、青木ゆかり。
裏手の家に暮らす現実的な今どきの新婚25歳、遠藤沙希。
年代も性格もまったく異なる3人の出会いから始まった、温かく、どこか嚙み合わない“ご近所付き合い"、その行方は――。
女も男も、人からは見えない、そしてジャッジすることのできない問題を抱えている。年齢や、生きる環境、価値観など、さまざまな違いを乗り越えて、人と人はほんとうに分かり合えるのか? 現代を生きる大人たちに贈る必読の一冊。芥川賞作家が描く新たな代表作!


日常生活を目に映るままに描き出すいつもの著者らしい書き方ではあるものの、登場人物各人がそれぞれに抱え、わざわざ言葉にして誰かに訴えかけるほどでもなく胸にもやもやと抱え続けている事々を、主人公の春子がそれぞれの立場に立って考えてみることで、浮き彫りにしていき、ひいては自らのもやもやにも形を与えることになっている。旧来の常識に当てはまらない生き方をしている人たちも、その常識を息をするように当たり前に思っている人たちも、それぞれが相手を思いやっているのだが、自分の価値観によるものなので、そこにうっすらとした違和感が生まれてしまうというのが、切なくもあるが、そのことを汲んでお互いを認め合えればいちばんいいのだろうな、ということが少しだけわかったような気がする。なんということのない日常のなかにもさまざまな感情の動きがあるのだと改めて思わせてくれる一冊だった。

府中三億円事件を計画・実行したのは私です。*白田

  • 2019/04/19(金) 16:24:46

府中三億円事件を計画・実行したのは私です。
白田
ポプラ社
売り上げランキング: 15,247

1968年12月10日に東京都府中市で起きた『三億円事件』。
「その犯人は、私です。」
今年8月、突如インターネットサイトに投稿された小説によって、日本中が話題騒然となった。
あの日、何があったのか――。

昭和を代表する迷宮入り事件。
奇しくもちょうど50年目を迎える節目の今年、「小説家になろう」に投稿され、ネット騒然!
ランキング1位! 800万PV突破の話題作、緊急発売!!


惹句があまりにも興味深いのでつい手に取ったが、ちらっと危惧した通りのないようで、正直がっかり感が強い。長年連れ添い、先日亡くした妻はあの彼女だったのか、事件を起こした後きょうまで、どんな思いで生きてきたのか、そして、奪った現金を実際はどこに隠し、どう使ったのか、などなど、著者が真犯人だと言う設定で小説にするなら、真犯人以外には想像できないその後の現実をこそ、深く掘り下げてほしかったと思う。お薦めしようとは思わない一冊である。

テレビ探偵*小路幸也

  • 2019/02/09(土) 16:33:29

テレビ探偵
テレビ探偵
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小路 幸也
KADOKAWA (2018-12-25)
売り上げランキング: 224,188

1969年、イケイケで無類に楽しく、でもちょっといかがわしい、そんなテレビに誰もが夢中だったあの頃―コミックバンド「ザ・トレインズ」のボーヤとなって芸能界入りした19歳の葛西靖之(チャコ)は、個性的なメンバーや業界人たちに振り回されていつも忙しい。ある日、トレインズに土曜夜8時の新番組を持つ話が持ち上がった。スターへの道が拓けたことを喜ぶ者、音楽に専念できないことを危ぶむ者…間で右往左往するばかりのチャコだが、そんな中、生放送中の舞台で殺人未遂(?)事件が発生し―。停滞の時代にガツンと元気を届ける、昭和青春ミステリの開幕!


昭和の真ん中を生きてきたわたしにとっては、懐かしすぎる物語である。いくらフィクションだとは言え、実際の彼らの顔で頭の中に物語が展開されてしまうのは仕方がないだろう。テレビでは見られない裏側の世界が、垣間見られた気分になれて、お得感満載の物語でもある。なんだかいろいろといい時代だったなぁ、と思い出に浸りたくなってしまう一冊でもあった。

春は始まりのうた マイ・ディア・ポリスマン*小路幸也

  • 2019/01/14(月) 16:26:05

春は始まりのうた マイ・ディア・ポリスマン
小路幸也
祥伝社
売り上げランキング: 153,076

夜空に浮かぶのは、満開の桜と……白いお化け!? 〈東楽観寺前交番〉に赴任して三年目の巡査・宇田巡(うためぐる)。彼のもとに幼馴染みで音楽事務所社長の市川公太がやってきて、白い化け物にでくわし荷物をとられたと言う。じつは似た訴えはこれで三件目、巡は捜査を開始する。一方、巡 の彼女で、伝説の掏摸(すり)の孫にしてマンガ家デビューをしたばかりの楢島あおいは、高校の卒業式の帰りに巡を見張っている男がいることに気づく。身許を確かめようとしたところ、その男の懐にあったのは何と警察手帳だった……。 犯罪者が〝判る〟お巡りさん、伝説の掏摸の血を受け継ぐ美少女マンガ家、 超絶記憶を誇る兄弟……そして、新たな凄ワザメンバーが登場!? 面白さ倍増で贈る、キュートでハード(?)なミステリー!


今回も、ほのぼのとしているようで、国家を揺るがす一大事がバックにあったりして侮れない。どうしてこの町のこの地域にだけ、これほど特殊な技能の持ち主が集まってしまったのかという疑問は於くとして、みんな根っこがいい人たちなのである。かなり物騒なことに関わりあってはいるものの、日々はいたってのどかに繰り広げられており、巡とあおい、行成と杏菜も順調に前に向かっているようでほほえましい。この町にいる限り、何が起きても大丈夫な気がするシリーズである。

花咲小路三丁目北角のすばるちゃん*小路幸也

  • 2018/12/31(月) 20:27:08

花咲小路三丁目北角のすばるちゃん
小路 幸也
ポプラ社
売り上げランキング: 61,261

たくさんのユニークな人々が暮らし、日々さまざまな事件が起きる花咲小路商店街。
にぎやか商店街の裏には、真っ赤なシトロエンが看板代わりの駐車場<カーポート・ウィート>があるのです。
若社長・すばるちゃんが営むカーポートを訪れるのはいろんな車。ときには厄介ごとも乗せてきて――


花咲小路シリーズ、今回は、三丁目北角の赤いシトロエンが目印の駐車場の若き経営者・すばるちゃんが主人公。母は、すばるちゃんが生まれてすぐに出ていき、父は病気で亡くなり、その後育ててくれた祖父も亡くなって、ひとりになってしまったが、花咲小路商店街の人たちに見守られて、恙なく暮らしている。赤いシトロエンは、すばるちゃんの住まいであるとともに、亡くなった父の魂が宿り、カーラジオを通じて話ができる、という秘密も載せているのだった。花咲小路のエピソードはこれまでにもさまざまな人たちを主役に繰り広げられてきたが、その度に、花咲小路商店街の絵地図に色をつけていくような気持になった。今回もまた違う一角に新しい色を塗れて、絵地図がどんどん生き生きしてくるようでうれしくなる。人は、ひとりで生きているようでも、周りの人たちに見守られているのだと実感する一冊でもある。

夫婦で行く東南アジアの国々*清水義範

  • 2018/12/27(木) 16:56:26

夫婦で行く東南アジアの国々 (集英社文庫)
清水 義範
集英社 (2018-01-19)
売り上げランキング: 219,400

熟年夫婦の旅行の楽しみ方を知り尽くしている清水夫妻。舞台は、大人気の東南アジア! 歴史あり、夫婦のほんわかエピソードなど、根強い人気を誇る旅エッセイシリーズ最新作。


これはもう純然たる旅行記である。著者流の捻った視点からの感想などを期待したのだが、それはなく、真っ直ぐな旅行記である。東南アジアの国々のさまざまな場所でさまざまな文化に触れ、それが紹介されているのだが、なんと最も印象に残ったのは、食べるものが口に合わなかったということである。自分もアジア系の料理が得意ではないので、苦笑しつつ読んだ。期待とはいささか違った一冊だった。

アンドロメダの猫*朱川湊人

  • 2018/11/04(日) 16:24:27

アンドロメダの猫
アンドロメダの猫
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朱川 湊人
双葉社
売り上げランキング: 359,039

コールセンターで派遣社員として働く瑠璃はある日、少女・ジュラと出会う。不思議な雰囲気を持つジュラがなんとなく気になる瑠璃。やがて“事件”が起き、追われる身となった二人は、住む街を出る。そして、行きついた先で平穏なひと時を迎えるが…。


パッとはしなくて平凡だが、それなりにやりがいを感じることもなくはない、そんな日々を送っていた瑠璃だが、ある日コンビニで少女が万引きするところを見かけ、なにか惹きつけられるものを感じてつい助け舟を出してしまう。それが物語の発端である。その少女・ジュラは不思議な魅力を持っており、どうしても気になってしまうのだった。偶然に再びであったことで、物語は動き、瑠璃は自ら厄介で危険な流れに飛び込むことになるである。瑠璃とジュラの逃避行は、鬼気迫るものではあるのだが、一方でいままでにない安らぎと幸福感に包まれたものでもあり、この先のことを考えると切なくもやるせない。ラストは、あまりにも哀しく、胸が締めつけられる。何をどうすればよかったのだろうと考えさせられる一冊である。

公園へ行かないか?火曜日に*柴崎友香

  • 2018/10/19(金) 07:34:33

公園へ行かないか? 火曜日に
柴崎 友香
新潮社
売り上げランキング: 83,124

アメリカにいるから、考えること。そこにいないから、考えられること。2016年11月8日、わたしはアメリカで歴史的瞬間に居合わせた、はずだった――。世界各国から作家や詩人たちが集まる、アイオワ大学のインターナショナル・ライティング・プログラムに参加した著者が、英語で議論をし、街を歩き、大統領選挙を経験した3ヶ月。現地での様々な体験から感じたことを描く11の連作小説集。


限りなくエッセイに近い小説集である。英語が自由に操れず、コミュニケーションが自在に取れないもどかしさの中、アメリカという国にいて、アメリカ以外から集まった作家たちそれぞれの背景や抱える問題、意識の違いなどがリアルにつづられていて興味深い。同じものごとを目にしても、それに対する反応や表現の仕方はさまざまで、それは個性であるとともに国民性でもあり、英語が不自由なゆえに、それらを静かに観察できている様子がよくわかる。日本を離れているから見えること、余計にわからなくなること、その揺らぎが伝わってきて、改めて考えさせられる。等身大の日々が伝わる一冊である。

つかのまのこと*柴崎友香 東出昌大

  • 2018/10/08(月) 16:40:55

つかのまのこと
つかのまのこと
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柴崎 友香 東出 昌大
KADOKAWA (2018-08-31)
売り上げランキング: 18,174

かつての住み家であったのであろう、“この家”を彷徨い続ける“わたし”。その理由がわからないままに時は移り、家には次々と新しい住人たちがやってくる。彼らを見守り続ける“わたし”は、ここで、いったい何を、誰を待っているのか―。俳優・東出昌大をイメージして作品を執筆、さらに写真家・市橋織江がその文学世界を撮影した、“新しい純文学”。



東出昌大さんを想定して書かれた物語ということである。どうやら幽霊として、ある古い日本家屋に住み着いている男の目を通してみた日常の風景。当て書きというだけあって、折々に挿みこまれる写真が、物語と一体になって、胸のなかがたいそう穏やかになる気がする。窓も開けていないのに、ふと空気の流れを感じるとき、もしかすると人ならぬものが通って行ったのかもしれない、などと想像してしまいそうになる。変わっていくものと変わらずに在るもののことを考えてみたくなる一冊である。

妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ*小路幸也

  • 2018/07/25(水) 19:22:53

妻よ薔薇のように 家族はつらいよ3 (講談社文庫)
小路 幸也 平松 恵美子
講談社 (2018-03-15)
売り上げランキング: 354,610

無神経な夫・平田幸之助の言動に、それまで一家を支えてきた嫁・史枝がついにキレた。妻として母として嫁として、いなくなって初めてわかる史枝の有難み。後悔しつつも素直になれない幸之助に、周囲の心配は募るばかり……。山田洋次監督の傑作映画を、「東京バンドワゴン」の小路幸也がノベライズ。笑いと涙で家族の愛情を描く、喜劇シリーズの総決算!


史枝さん、よくやった!という感じである。それにつけても、幸之助のなんと無神経で身勝手なことか。史枝さんがも、よくいままで耐えてきたものである。救いは、義理の関係も含め、周りがおおむね史枝さんの存在意義を大いに認めてくれているということだろう。それがなければ、個人的には、金輪際戻りたくはない。幸之助がすっかり心を入れ替えたとは、まだ信じられないが、少しずつ変わってくれることを祈るばかりである。家庭の、主婦のありがたさがよくわかる一冊である。

ヘイ・ジュード 東京バンドワゴン*小路幸也

  • 2018/07/22(日) 08:47:50

ヘイ・ジュード 東京バンドワゴン
小路 幸也
集英社
売り上げランキング: 59,801

花陽の医大受験を目前に控え、春を待つ堀田家。古書店“東京バンドワゴン”の常連・藤島さんの父親が亡くなって、書家だった父親のために記念館を設立するという。すると古書をきっかけに思いがけないご縁がつながって…。笑って泣ける、下町ラブ&ピース小説の決定版!下町の大家族が店に舞い込む謎を解決する人気シリーズ第13弾!


もう13作目なのか、とまずは感慨深い思いに浸る。いい加減新しいネタもないのではないだろうか、という懸念をよそに、きょうも堀田家の面々は、誰かのためにあわただしく動いているのである。そして、あの花陽が医大受験の年を迎えたのだという感慨も深い。子どもたちの成長とともに、堀田家内の役割も少しずつ変わってきて、それもまた興味深い。人生の旅を終える人がいると思えば、また新たに堀田家や東京バンドワゴンの流れに乗る人もいて、時の移ろいは途切れることがないのだと思わせても暮れる。人間の営みのことなのだから、ネタ切れなどということは有り得ないのかもしれない。研人のふるまいが、我南人のそれに似てきたのもうれしいところである。これからもどんどん動いていく堀田家が愉しみなシリーズである。

引き抜き屋2 鹿子小穂の帰還*雫井脩介

  • 2018/06/11(月) 18:11:45

引き抜き屋(2)鹿子小穂の帰還
雫井 脩介
PHP研究所
売り上げランキング: 98,169

「いい加減で質の悪いヘッドハンターも跋扈(ばつこ)しておりましてね」
父がヘッドハンターの紹介で会社に招き入れた大槻(おおつき)の手によって、会社を追われた鹿子小穂(かのこ・さほ)は、再就職先でヘッドハンターとして働き始めた。各業界の経営者との交流を深め、ヘッドハンターとしての実績を積んでいく小穂の下に、父の会社が経営危機に陥っているとの報せが届く。父との確執を乗り越え、ヘッドハンターとして小穂が打った、父の会社を救う起死回生の一手とは?
ビジネスという戦場で最後に立っているのは――。
予測不能、そして感涙の人間ドラマ。ヘッドハンターは会社を救えるのか!?
仕事と人生に真正面から取り組むすべての人に勇気を与える、一気読み必至のエンターテインメント。


前作のラストで井納が言った通り、今作では小穂の挫折が描かれるかと思いきや、そんなこともなく、相変わらず手強いがやりがいのある仕事に励む小穂である。花織里に連れていかれた夜のアルバイトのおかげもあって、人脈も随分と広がり、条件を並べられても、即座に候補が頭に浮かぶようにもなってきた。この上なくやりがいのある案件に取り組んでいるさなか、実家であるアウトドアメーカー・フォーンの不穏な噂を耳にする。本作の半分は、フォーンがらみの物語である。とはいえ、単純に小穂が古巣に戻って会社を再建するということではなく、ここでもヘッドハンターとして腕を振るうことにあるのである。点と点だった人とのつながりが、少しずつ重なって線になり、まわりまわって自分を助けることになる、ということを思わされる一冊でもある。面白かった。