東京カウガール*小路幸也

  • 2017/08/15(火) 12:32:28

東京カウガール
東京カウガール
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小路 幸也
PHP研究所
売り上げランキング: 296,734

きみは知らない/きみを知りたい
僕は動けなかった。恐怖心からではなく、男たちを叩きのめすその女性に見惚(みと)れてしまったんだ――。
その夜、カメラマン志望の大学生・木下英志は夜景を撮っていた。人気(ひとけ)のない公園で鈍い音を聞きつけカメラを向けると、そこには一人の女性がいた。彼女は屈強な男たちを叩きのめすと、車椅子の老人を伴い車へと消えた……。後日、改めて画像を見た英志は気づく。「似ている。横顔が、あの子に」
〈カウガール〉と名付けた彼女の画像を頼りに、その正体に近づいていく英志だったが、やがて彼女自身にも心を寄せていく。そして辿り着いた真相と、彼女の家族が背負った哀しい過去とは? 累計150万部突破の「東京バンドワゴン」シリーズの著者が描く、もう一つの「東京」の物語。


東京郊外の牧場が舞台ののんびりほのぼのした物語、ではない。実際には、都心のど真ん中で、物騒な出来事が繰り広げられる物語である。何人ものどうしようもない男たちが、再起不能なほど叩きのめされている。そして、そのことに偶然気づいてしまった大学生の英志(えいじ)が、バーを営むゲイの叔父や店の常連客たちと、秘密裏に策を練る、ものすごく不穏な物語なのである。それでも、なんとなく漂う雰囲気は穏やかでやさしくあたたかい。登場人物たちがみな、誰かのことをまっすぐに思いやり、その人のためにできる限りのことをしようと決意しているからなのかもしれない。裏事情はさまざまあって、きれいごとだけでは済まされないこともままあるが、人の思いがまっすぐで確かなものなら、良い結果がついてくるのだと思わせてくれる。哀しく切なく、じんわり心温まる一冊である。

ラブ・ミー・テンダー 東京バンドワゴン*小路幸也

  • 2017/08/07(月) 16:16:39

ラブ・ミー・テンダー 東京バンドワゴン
小路 幸也
集英社
売り上げランキング: 15,459

若き日の堀田我南人はコンサート帰りに、ある女子高校生と出会った。名は秋実。彼女はアイドルとして活躍する親友・桐子の窮地を救うため、ひそかに東京に来たという。話を聞いた我南人と、古書店“東京バンドワゴン”の一同は、彼女のために一肌脱ぐが、思いもよらぬ大騒動に発展し…?下町の大家族が店に舞い込む謎を解決する人気シリーズ、番外長編


サチさんがちゃんと生きて動いていて、秋実ちゃんもいて、我南人はまだ二十歳そこそこの堀田家である。こんな景色を見られる日がくるなんて。このシリーズを読み続けていてよかった、と思わず嬉しくなってしまう。そして、周りの人たちをあっと驚かせる、一度であっちもこっちも片づけてしまう我南人の仕切りが、この頃からのものだったことがわかって、やはり天性のものなのだと腑に落ちる。いつもちゃらんぽらんな感じでしゃべっているのに、ときどき普通の話し方に戻ってしまう辺りも、可愛らしささえ感じてしまう。堀田家とその周りの人たちに、さらなるLOVEを感じる一冊である。

風とにわか雨と花*小路幸也

  • 2017/07/11(火) 10:49:17

風とにわか雨と花
風とにわか雨と花
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小路 幸也
キノブックス
売り上げランキング: 53,236

僕が九歳、風花(ふうか)ちゃんが十二歳になった四月にお父さんとお母さんは、リコンした。どうしてかって訊いたら「今は説明してもわからないと思うので、言わない」ってお母さんは言った――

専業作家を目指す父、仕事に復帰した母、小学生の姉と弟。
父が暮らす海辺の町を舞台にした、心温まる家族物語。
親子四人の心情の変化を、それぞれの視点から鮮やかに描く!


両親が離婚した一家四人の物語である。大人の都合――この場合主に専業作家を目指す父の我儘――で離ればなれで暮らさなければならなくなった父と姉弟、母と姉弟、そして喧嘩別れしたわけではない夫と妻、それぞれの関係や思いが、それぞれの視点で描かれている。家族以外の周りの大人たちにも示唆を得て、子どもたちはその年齢なりに自分の置かれている状況や父と母の生き方を理解しようとし、父と母も、お互いを、そして子どもたちを大切に思いながらも、それぞれの道を前を向いて歩こうとしている。こんなに互いを思いやってしあわせそうなのに、なぜ?とどうしても思ってしまうが、それはこの家族の問題なのだろう。離婚という悲しい題材を扱いながらも、胸のなかがあたたかさで満ちてくる一冊である。

家族はつらいよ 2*小路幸也

  • 2017/05/14(日) 18:34:52

家族はつらいよ2 (講談社文庫)
小路 幸也 平松 恵美子
講談社 (2017-03-15)
売り上げランキング: 170,066

熟年離婚の危機を乗り越えた平田周造は、運転好きの頑固な高齢者。しかし自損事故をきっかけに、家族に「免許返納」を求められ憤慨する。そんな折、彼は高校時代の同級生と再会し、互いの境遇の違いを実感させられるのだった。「男はつらいよ」の山田洋次監督が描く新作喜劇映画シリーズ、小説化第2弾!


平田家の家族それぞれが語る平田家の日常のあれこれ。その人なりの日々語りをつなぎ合わせると、平田家の全体像が見えてくる。高齢になった平田周造に運転をやめさせようという目論見が大きな流れだが、そこにさまざまな事情が絡んできて、流れがあちこちに派生していくのも愉しい。結局周造の運転はどうなるのか気になる一冊でもある。

さまよえる古道具屋の物語*柴田よしき

  • 2017/04/12(水) 09:47:34

さまよえる古道具屋の物語
柴田 よしき
新潮社
売り上げランキング: 136,239

やがて買い主は、店主が選んだ品物に、人生を支配されていく――。その店は、人生の岐路に立った時に現れる。さかさまの絵本、底のないポケットがついたエプロン、持てないバケツ……。古道具屋は、役に立たない物ばかりを、時間も空間も超えて客に売りつけ、翻弄する。不可思議な店主の望みとは何なのか。未来は拓かれるのか? 買い主達がその店に集結する時、裁きは下され、約束が産まれる。


その人が必要とするときにだけ忽然と現れ、自分の意志とは無関係にある品物を買うように仕向けられる、年齢性別不詳の店主がいる不思議な古道具屋が物語の核である。品物を買った人たちは、腑に落ちないながらも手放すことはせず、何らかの形で自分の人生の一要素にしていく。ある時はしあわせのお守りであり、またある時は不幸に陥れる呪いが宿るものともなる。それらの品物に宿る思いと、買い手たちの抱える懊悩が互いに引き寄せあって、それぞれの人生を翻弄する。言霊があるように、人のあまりにもつよすぎる思念は、思いもよらない作用を及ぼすことがあるのかもしれないと、ふと考えてしまう一冊である。

かわうそ掘り怪談見習い*柴崎友香

  • 2017/04/02(日) 18:28:52

かわうそ堀怪談見習い (角川書店単行本)
KADOKAWA / 角川書店 (2017-02-25)
売り上げランキング: 54,003

わたしは「恋愛小説家」と肩書きにあるのを見て、今のような小説を書くのをやめようと思った。恋愛というものにそんなに興味がなかったことに気づいたのだ。そして、怪談を書くことにした。郷里の街のかわうそ堀に引っ越したが、わたしは幽霊は見えないし、怪奇現象に遭遇したこともない。取材が必要だ、と思い立ち、中学時代の同級生たまみに連絡をとった。たまみに再会してから、わたしの日常が少しずつ、歪みはじめる。行方不明になった読みかけの本、暗闇から見つめる蜘蛛、留守番電話に残された声……。そして、わたしはある記憶を徐々に思い出し……。芥川賞作家・柴崎友香が「誰かが不在の場所」を見つめつつ、怖いものを詰め込んだ怪談集。


成り行きで恋愛小説家と呼ばれるようになった女性作家・谷崎友希が主人公である。恋愛とは縁があるとは言えないので、怪談作家になろうと、怖い話を集めることにした。中学の同級生のたまみに話を聴いたり、たまみの紹介で酒屋の四代目に古地図を借りたりするのである。不思議で怖いことは案外身近なところに潜んでいて、怪談とは縁が薄いと思っている友希自身、実は普段から現実世界の隙間に入り込んでいるようにも見えるのが、いちばん不思議で怖い。突き詰めてしまえばなんということもないのかもしれないことが、中途半端に見たり聞いたりすることで、いくらでも恐ろしくなるのかもしれないとも思う一冊である。

花咲小路三丁目のナイト*小路幸也

  • 2017/03/10(金) 18:25:40

花咲小路三丁目のナイト
小路 幸也
ポプラ社 (2016-12-05)
売り上げランキング: 319,900

たくさんのユニークな人々が暮らし、日々大小さまざまな事件が起こる花咲小路商店街。今回の舞台は商店街唯一の深夜営業店<喫茶ナイト>。すっかり夜ならではの相談所になっている店を手伝いながら、その相談事を店主の仁太が突拍子もない方法で何とかする様子を、居候の甥っ子・望が語っていく。
前三巻でおなじみの人物も多数登場!
ますます楽しい花咲小路シリーズ第四弾。


ほんとうに読めば読むほどユニークな住人ばかりの商店街である。しかも、なんだかんだといつかどこかで繋がっていたりして、一度こんがらがったら、どうにもほどけなくなりそうである。夜だけ開いている喫茶店ナイト(実はKから始まるナイトなのだが)がよろず相談所のような場所であり、そこの主がひと癖もふた癖もありそうな謎多き人物である仁太さんなのだから、持ち込まれた相談事を、居候の甥・望の手を借りて、表立てず荒立てずに、収まるべきところに収めてしまうのだった。基本的に、みんなが善人で、お互いを思いやっているからこその解決でもあるように思われる。ラストは、そんな解決策があったか、という感じで、パズルが見事にはまったような印象である。これからの花咲小路がどうなるのか、まだまだ目が離せないシリーズである。

青光の街 ブルーライト・タウン*柴田よしき

  • 2017/01/18(水) 18:39:14

青光の街(ブルーライト・タウン) (ハヤカワ・ミステリワールド)
柴田 よしき
早川書房
売り上げランキング: 23,575

撲殺されたOL、刺殺された出版社社員、絞殺された中学生……接点のない被害者たちのそばに置かれていたクリスマスの青い電飾。無差別殺人? 愉快犯? それとも秘められた動機が?――青い電飾が遺体のそばに撒かれる連続殺人事件が東京を震撼させていた。そんな折、作家兼ブルーライト探偵社の所長の草壁ユナに旧友・秋子から助けを求めるメールが届く。秋子の家を訪ねると、彼女を拉致した犯人からメッセージが。一方、探偵社で依頼を受けた有名人の婚約者の身辺調査が連続殺人と奇妙な繋がりを見せ……いくつもの事件が描く複雑な陰影すべての推理が重なり合う時、ユナの前に驚愕の真実が現れる! 作家にしてブルーライト探偵社の所長の草壁ユナ、最初の事件。読み出したら止まらない! 予測不能のノンストップ・サスペンス


ブルーライト探偵社でいちばん役立たずなのは自分だと常々思っている所長の草壁ユナ(本職は作家であり、探偵ではない)が探偵役である。本職の探偵の助けも多分に借りているが、友人から届いた助けを求めるメールをきっかけに、彼女を救うための調査に乗り出すのである。最近連続して起きている青い電飾がばらまかれた殺人事件とも絡み合って、思わぬ真実が暴かれていく。折々に差し挟まれた「青い町」という素人の短編小説が二重構造の中に迷い込んだようでくらくらさせられる。最初の事件と内容紹介にあるので、シリーズ化されるのだろうか。ブルーライト探偵社から目が離せなくなりそうな一冊である。

私の幽霊 ニーチェ女史の常識外事件簿*朱川湊人

  • 2016/12/30(金) 06:55:17

私の幽霊 ニーチェ女史の常識外事件簿
朱川湊人
実業之日本社
売り上げランキング: 239,339

人が知ってることなんて、
ほんのちょっとだけなんだよ。

なぜ私の幽霊が目の前に――!?
怪しき博物学者と解き明かす超常現象の謎。
あなたはその真相に涙する。

故郷に住む高校時代の同級生聡美から「あなたの幽霊を見た」と告げられた“ニーチェ女史"こと雑誌編集者・日枝(ひえ)真樹子。
帰郷して幽霊が出たという森の近くまで行くと、そこには驚きの光景が……。
怪しき博物学者・栖(すみか)大智(だいち)と謎すぎる女・曲(まが)地(ち)谷(や)アコとともに、常識を超えた事件の謎に挑む。

切なさ×不思議全開ミステリー!

■第一話 私の幽霊
■第二話 きのう遊んだ子
■第三話 テンビンガミ
■第四話 無明浄
■第五話 コロッケと人間豹
■第六話 紫陽花獣



文化人類学の要素たっぷりで、しかもそれが日常の謎として提起されているというのが興味深い。犯罪でも事件でもない謎の出来事の数々。それを解き明かすと、切なく愛おしい物語がそこにあるのだった。探偵役は編集者のニーチェ女史こと日枝真樹子と、ふとした出会いから彼女が頼りにするようになった博物学者の栖大智。本作は登場人物紹介の要素も多分にあるので、シリーズ化されるのだと思うが、今後どんな不思議な出来事に出会えるのか、そしてどうやって解き明かしていくのかが愉しみになる一冊である。

幸せのプチ 町の名は琥珀*朱川湊人

  • 2016/12/23(金) 09:28:42

幸せのプチ ――町の名は琥珀
朱川 湊人
日本経済新聞出版社
売り上げランキング: 54,051

都電が走る、この下町には、白い野良犬の“妖精"がいる。
「きっとプチは、あの町で今も生きていて、たくさんの人たちを、小さくだけれど幸せにしているはずだ」
その町に生き、通り過ぎた人たちの心あたたまる物語。
銭湯の煙突が目立つ迷路のような路地は生活感が溢れ、地味なくせに騒々しい。口が悪くて、おせっかいな人たちが暮らす町に、ちょっぴり不思議で、ささやかな奇跡が起きる時……

直木賞作家・朱川湊人さんの25万部を超えたベストセラー『かたみ歌』。東京・下町の商店街を舞台にしたノスタルジックでちょっと不思議なことが起こる連作はシリーズとなり、当時は最先端だった団地に舞台を移し(『なごり歌』)、今作もそのラインに連なるといってもいい。

高度成長期の昭和から平成までの都電が走る町を舞台に紡がれる「追憶のカスタネット通り」「幸せのプチ」「タマゴ小町とコロッケ・ジェーン」「オリオン座の怪人」「酔所独来夜話」「夜に旅立つ」の6つの物語。1970&80年代の思い出とともに、あなたを追憶の彼方へ誘います。
恋、友情、大切な人を喪った哀しみ、家族の絆……ラジオの深夜放送、昔ながらの喫茶店、赤い公衆電話、揚げたてのコロッケ……
「きっと生きている限り忘れない。あの町の名は琥珀」


都電の走る、琥珀という名前の町で起こる日常のあれこれと、そこに暮らす人々のなんと言うことのない日々の暮らしの物語である。どこにでもありそうな出来事の向こう側にある人々の気持ちや、後々につながることごとの欠片が、ひとつずつ少しずつ積もり積もって町はできていて、そこに暮らす人々の心までも形作っているのだと、なにやらほっと懐かしい心地になれる一冊である。

あおぞら町春子さんの冒険と推理*柴田よしき

  • 2016/12/10(土) 07:51:35

あおぞら町 春子さんの冒険と推理
柴田 よしき
原書房
売り上げランキング: 209,304

春子は、ゴミ置き場に花を捨てに来た男性に声を掛け、その花を譲り受けた。数日後に再び花を捨てに来たのを見て、春子はあることの重大な意味に気づいたのだが……。
春子と拓郎(プロ野球選手)が織りなす事件と日常と花々の連作集。


野球と植物と料理が好きな著者ならではの物語である。二軍の野球選手・拓郎と妻の春子の日常をベースに、暮らしている町の日常に起こる謎を想像力と観察力を駆使して解き明かしていく春子さんの探偵ぶりが、爽やかで可愛らしい。拓郎の今後の活躍も気になるし、家族の形も見守りたい一冊である。

罪の声*塩田武士

  • 2016/12/02(金) 19:19:47

罪の声
罪の声
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塩田 武士
講談社
売り上げランキング: 234

逃げ続けることが、人生だった。

家族に時効はない。今を生きる「子供たち」に昭和最大の未解決事件「グリ森」は影を落とす。

「これは、自分の声だ」
京都でテーラーを営む曽根俊也は、ある日父の遺品の中からカセットテープと黒革のノートを見つける。ノートには英文に混じって製菓メーカーの「ギンガ」と「萬堂」の文字。テープを再生すると、自分の幼いころの声が聞こえてくる。それは、31年前に発生して未解決のままの「ギン萬事件」で恐喝に使われた録音テープの音声とまったく同じものだった――。

未解決事件の闇には、犯人も、その家族も存在する。
圧倒的な取材と着想で描かれた全世代必読!
本年度最高の長編小説。

昭和最大の未解決事件―「ギンガ萬堂事件」の真相を追う新聞記者と「男」がたどり着いた果てとは――。
気鋭作家が挑んだ渾身の長編小説。


グリコ森永事件を題材にした409ページの大作である。青酸ソーダ入りのお菓子が店頭に置かれたということで、当時子どもが生まれたばかりだったわたしも我が身のこととして恐ろしさを感じた事件だったので、興味深く読んだ。大々的に報道された割には、実際犯人は何が目的だったのかよくわからず、尻すぼみに終わった印象があったが、本書を読むと、妙に納得できてしまう。記者が、大きな事件の取材に際して、犯人はどんなにもっともらしい大義名分を持っているのかと思って臨むと、どうしようもない理由で事件を起こしていることが多々あり、がっくりする、というようなことを言っているが、このギンガ萬堂事件の犯人たちも、まさにそうで、それがリアルさをより増している。読後は、あの事件の真相はまさにこうだったのだろうと思えてしまうほどである。テープの声の子どもにスポットを当てたのも見事だと思う。読み応えのある一冊だった。

スローバラード*小路幸也

  • 2016/10/23(日) 08:46:15

スローバラード Slow ballad
小路幸也
実業之日本社
売り上げランキング: 54,027

事件の連鎖が呼び起こしたのは、「あの頃」の記憶と私たちの絆――

2014年4月。東京・北千住で喫茶店〈弓島珈琲〉を営むダイは53歳になっていた。
学生時代、バンド仲間の淳平、ヒトシ、ワリョウ、真吾と暮らした自宅を改装した店舗だったが、
ダイにも、常連客のゲームクリエイター・純也や三栖刑事にも家族ができ、
少しずつ生活も変化している。
かつて三栖が下宿していた純和風の家には、学生時代の友人ワリョウの息子・明と
その友人たちが下宿していた。

ある日、水戸に住むヒトシの息子の智一が「東京に行ってきます」というメモを残して
家出したと連絡が入った。
ダイは三栖や明、純也らと智一の行方を捜し始めると、
智一と同じ高校に通う村藤瑠璃がケガを負った家族を残し、
行方不明になっていることがわかる。
時を同じくして、人気俳優となった淳平の妻・花凜にストーカー騒ぎが起こった。

ダイたちは、智一の高校の先輩にあたる仁科と、新宿二丁目でゲイバーを営むディビアンが
それらの事件に関わることを突き止める。
学生時代をともにした仲間たちが〈弓島珈琲〉に再び集結し、
「あの頃」に封印した事件と対面する――。

青春時代のほろ苦さが沁みる珈琲店ミステリー。


誰ひとり悪人はいないのに、昏い思いを抱えて生きざるを得ない仲間たちである。彼らも歳を重ね、53歳になった。それに伴い、事件も子どもたちの世代が中心になっている。だが、その根っこはやはり、ダイたちが日々をともにしていた若いころにあったのだった。一度はどこかに置いて、前に進めていると思った屈託も、また手元に戻ってきてしまう。なんと切ないことだろう。それでも、真実を知ればこそ、また次の一歩を踏み出せるのかもしれない。彼らの信頼関係が揺らがない限り。それぞれのしあわせを大切に生きていってほしいと願わずにいられないシリーズである。

望み*雫井脩介

  • 2016/10/15(土) 16:27:05

望み
望み
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雫井 脩介
KADOKAWA/角川書店 (2016-09-05)
売り上げランキング: 2,397

東京のベッドタウンに住み、建築デザインの仕事をしている石川一登と校正者の妻・貴代美。二人は、高一の息子・規士と中三の娘・雅と共に、家族四人平和に暮らしていた。規士が高校生になって初めての夏休み。友人も増え、無断外泊も度々するようになったが、二人は特別な注意を払っていなかった。そんな夏休みが明けた9月のある週末。規士が2日経っても家に帰ってこず、連絡する途絶えてしまった。心配していた矢先、息子の友人が複数人に殺害されたニュースを見て、二人は胸騒ぎを覚える。行方不明は三人。そのうち犯人だと見られる逃走中の少年は二人。息子は犯人なのか、それとも…。息子の無実を望む一登と、犯人であっても生きていて欲しいと望む貴代美。揺れ動く父と母の思い―。


絵に描いたような幸せな家族、の筈だった。思春期の子どもの心の中は、段々と親には読めないものになっていく。それは成長の過程で当然のことであり、親がなにもかも把握している方が却って不自然なくらいだろう。子どもが親と口をきくのを億劫がるのは、親に心配を掛けたくないという思いもあるだろう。そんなとき、親はどこまで踏み込むべきなのか。本作を読んだ親は、おそらく誰でも少なからず揺れるだろう。我が子を信じたい気持ちと、それでももしや、と不安になる気持ちの狭間で一瞬ごとに揺れ、気が狂いそうになるのは容易に想像できる。早く結末が知りたいという思いと、知ってしまったらそのあとどうしようという思いに、多くの読者が胸を揺さぶられたことだろう。どんな結末になっても、不幸でしかないということが、身悶えするほど切なくやるせない一冊である。

ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード*小路幸也

  • 2016/09/08(木) 20:17:52

ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード  東京バンドワゴン
小路 幸也
集英社
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老舗古書店「東京バンドワゴン」に舞い込む謎を、大家族の堀田家が人情あふれる方法で解決する、人気シリーズの最新作。
医者を目指して勉強を続けてきた花陽がいよいよ受験シーズンに突入。研人は高校生活を送りながら音楽の道に邁進中。さらに、お店に遠方から招かれざる客がやってきて、ひょんなことからシリーズ初の「海外旅行」も実現! ?
今回も「LOVEだねえ」の決めゼリフとともに、読み逃せない熱いエピソードが満載。ファン待望の第11弾。


なんともう11作目である。回を重ねるごとに、冒頭でサチさんが紹介する堀田家(とその周囲の)人たちの数も増え、紹介だけでかなりのボリュームを必要とするようになってきた。初めの何作かは、その関係性に頭が混乱することもあったが、もはや「本を開けば堀田家の一員」状態なので、悩むこともなくなっている。今回も、季節ごとに堀田家に難題が持ち上がり、そのたびに人情味或解決に導くのだが、主導権を握る人が少しずつ変わってきている印象である。以前はどういうわけか、普段ふらふらしている我南人が、いいところでバシッと決めるパターンが多かったが、今回は、若い人たちの活躍が目立っている。ことに、かんなちゃんと鈴花ちゃんの画策には目を瞠るものがある。将来が愉しみである。とは言っても、大黒柱の勘一もまだまだ元気で、ロンドンまで行って大立ち回りを披露していて頼もしい。そしていつもながらいちばん好きなのは、朝食のシーンである。昨夜の残り物も含めて、何もかもおいしそうで、みんなが愉しそうなのがなによりである。いつまでもいつまでも続いてほしいシリーズである。