- | こんな一冊 トップへ |
- 次ページへ»
あきない世傳金と銀 十二 出帆篇*高田郁
- 2022/06/12(日) 17:51:31
浅草田原町に「五鈴屋江戸本店」を開いて十年。
藍染め浴衣地でその名を江戸中に知られる五鈴屋ではあるが、
再び呉服も扱えるようになりたい、というのが主従の願いであった。
仲間の協力を得て道筋が見えてきたものの、決して容易くはない。
因縁の相手、幕府、そして思いがけない現象。
しかし、帆を上げて大海を目指す、という固い決心のもと、
幸と奉公人、そして仲間たちは、知恵を絞って様々な困難を乗り越えて行く。
源流から始まった商いの流れに乗り、いよいよ出帆の刻を迎えるシリーズ第十二弾! !
今回も懲りずに日本橋音羽屋の嫌がらせとも見えるあれこれはあるが、もはや動じる幸ではない。「買うての幸い、売っての幸せ」の心を守って、誠実に商いをしていれば、きっとまごころは人に届くということを知っているからである。念願であった呉服商いにも復帰でき、商いは順風満帆にも見えるが、そんな時だからこそ、幸には心にかかることもある。とことんお客さまに寄り添う店主である。そして、ラスト近く、また新しい展開が見えてきて、次作がますます愉しみになる。気がかりがあるときに解決につながるのは、いつも誰かのほんの些細なひとことやつぶやきである。そんな些事をも聞き逃さず胸に留め、打開策のヒントにできる幸は、やはり店主の器ということだろう。愉しみが尽きないシリーズである。
あきない世傳金と銀 十一 風待ち篇*高田郁
- 2022/02/04(金) 16:34:34
湯上りの身拭いにすぎなかった「湯帷子」を、夕涼みや寛ぎ着としての「浴衣」に
──そんな思いから売り出した五鈴屋の藍染め浴衣地は、江戸中の支持を集めた。
店主の幸は「一時の流行りで終らせないためにはどうすべきか」を考え続ける。
折しも宝暦十年、辰の年。かねてよりの予言通り、江戸の街を災禍が襲う。
困難を極める状況の中で、「買うての幸い、売っての幸せ」を貫くため、幸のくだす決断とは何か。
大海に出るために、風を信じて帆を上げる五鈴屋の主従と仲間たちの奮闘を描く、シリーズ第十一弾! !
今回も、章の終わりごとに泣かされる。浴衣にまつわる物語で、太物仲間の店々との信頼関係もしっかり築け、五鈴屋が再び呉服を商う道も開けそうである。地道に、心を込めて、利他の心で物事に当たっていれば、きっと道は拓けるのだと、改めて教えられる思いである。ただひとつ、気になり続けるのは、妹の結のことである。いつの日か、かたくなな心が解ける日が来ることを祈りたい。次も愉しみなシリーズである。
グランドシャトー*高殿円
- 2021/10/24(日) 18:44:18
昭和38年、大阪京橋のキャバレー「グランドシャトー」に流れ着いた家出少女ルーは、ナンバーワンの真珠の家に転がり込む。下町の長屋に住み、ささやかな日常を大切にして暮らす真珠を家族のように慕いながらも、彼女に秘密の多いことが気になるルー。そんな中、人を楽しませる才によって店の人気者となったルーのアイデアが苦境のグランドシャトーに人を呼ぶが―。導かれるように出会ったルーと真珠。昭和から平成へ、30年の物語。
モデルになった店があるようだが、そんなことを知らずに読んでも充分惹きつけられる物語である。個人的には、読後に知って切なさが増した。キャバレーという偽りのまばゆさの中で、懸命に自分をしゃんとさせて生き抜いてきた女たちの気概を感じる。寂しい者たちが集まってくる誘蛾灯のような場所とも言えるキャバレーという舞台があればこそ、日々を暮らせる女たちがいて、また過酷な明日に向かっていける男たちがいる。ひとりひとりが何かしらの事情を抱え、さまざまな思いを秘めて、きらびやかに着飾り、にぎやかに過ごすひとときは、空しく儚いが、凝縮した人生でもある。そんな中で、終始一貫自らの姿勢を貫いているように見える真珠のすっと伸びた背筋が、尊く見えると同時に哀しくもある。矜持という言葉を思い起こさせる人である。時代は移ろい、昭和のキャバレーは成り立たなくなっても、受け継がれていく魂は確かにあるのだろう。涙にぬれて目覚めるが、内容を覚えていない夢のような切ないやるせなさと、確かな充実感で満たされる一冊である。
もどかしいほど静かなオルゴール店*瀧羽麻子
- 2021/09/18(土) 06:58:14
「耳利きの職人が、お客様にぴったりの音楽をおすすめします」
ここは、お客様の心に流れる曲を、世界でたったひとつのオルゴールに仕立ててくれる、不思議なお店。
"小さな箱"に入っているのは、大好きな曲と、大切な記憶……。
北の小さな町にあった『ありえないほどうるさいオルゴール店』が、最果ての南の島で、リニューアルオープンしました!
今回も、7つの物語が奏でる美しいメロディーに載せて、やさしい涙をお届けします。
大きなガジュマルの木の根方にあるので「ガジュマルの店」と呼ばれる店で開業したのは、オルゴール店だった。普通の既製品のオルゴールももちろん売っているが、その人の心のなかに流れる曲を、店主が聴き取ってオルゴールを作ることもできるという。そんな店を訪れる人々が抱えるさまざまな屈託を、オルゴールの音色が穏やかに解きほぐしていく。スポットライトは店主に当てられるわけではなく、店を訪れる人々を照らし、爪先を向ける方向を示唆してくれる。結果が読者にゆだねられることも多いが、そこがまた心地好いところでもある。まだまだ続きがありそうでわくわくするシリーズである。
上流階級 冨久丸百貨店外商部 其の三*高殿円
- 2021/07/21(水) 07:28:58
ドラマ化大ヒット作、待望の書き下ろし続編
神戸の老舗、富久丸百貨店芦屋川店で敏腕外商員として働く鮫島静緒。日本一の高級住宅地のセレブ相手に、きょうも奔走する。
美容整形に興味があり静緒に試させる女性投資家、息子の中学受験に静緒を巻き込む元CAセレブ主婦。「強い」宝石を集めるイラストレーターの訴訟事件……。そして、プライベートも落ち着かない日々の静緒にヘッドハンティングの話が。同居するゲイの同僚・桝家修平の反応は?
ドラマ化もされた話題作の続編を、「トッカン」「シャーリーホームズ」シリーズ、『政略結婚』など大ヒット作連発の著者が書き下ろしたハイクラスエンタメ!
解説は、読書家で書評エッセイの連載や、新聞の書評委員もつとめる、女優の南沢奈央!
相変わらず日々大忙しの静緒である。(どうしても頭のなかは竹内結子さんに変換されるので、複雑な思いにはなるが)物語のなかでは、一日24時間では足りなそうなほどパワフルである。外商部のお得意様に、ここまで深く寄り添う必要があるのか、とも思うが、だからこそ、新しい企画も生まれてくるのだろう。プライベートでも揺れ動く年代であり、親のこと、自身の行く末、立場、などなど、惑うことばかりなのが悩ましい。そして、それを隠さないのも静緒に人間味を感じ、親しみを感じる所以だろう。桝家との関係も、名前がないだけで、極めて良好で、出会ったころとは全く違って、ベストな状態に見える。これからどんな風に走り続けるのか、まだまだ見守りたいシリーズである。
あきない世傳金と銀 十 合流篇*高田郁
- 2021/06/03(木) 18:34:45
呉服太物商でありながら、呉服仲間を追われ、呉服商いを断念することになった五鈴屋江戸本店。
だが、主人公幸や奉公人たちは、新たな盛運の芽生えを信じ、職人たちと知恵を寄せ合って、これまでにない浴衣地の開発に挑む。
男女の違いを越え、身分を越えて、江戸の街に木綿の橋を架けたい──そんな切なる願いを胸に、試行錯誤を続け、懸命に精進を重ねていく。
両国の川開きの日に狙いを定め、勝負に打って出るのだが……。
果たして最大の危機は最高の好機になり得るのか。
五鈴屋の快進撃に胸躍る、シリーズ第十弾! !
なんともう十作目である。毎度毎度、気をもみ、理不尽さに歯噛みし、いわれのない仕打ちに地団太を踏みながら、それでも必ず希望の光がはっきりと見えて、胸をなでおろしてきたのだが、今作では珍しく、余計な横やりは入らず、その日をひたすら心待ちにしながら読み進むことができた。とはいえ、五鈴屋にとって、幸にとっては、一大転機であり、主従の絆やお客との信頼関係もさらに堅固なものになった印象である。今作が穏やかだっただけに、次作での波乱がいまから心配ではあるが、引き続き楽しみに待ちたいシリーズである。
女神のサラダ*瀧羽麻子
- 2021/03/19(金) 12:41:00
土の匂い、太陽の光、作物が繋ぐ人との絆。いいじゃない、農業。全国各地のさまざまな年代の農業に関わる女性を描いた八つの短編集。
お仕事ものがたり農業女子編。そして、それだけではない愛と慈しみにあふれた物語である。勘違いや思いこみ、偏見や無知。そんなあれこれに縛られて不自由だった自分が、人とコミュニケーションをとり、関わっていくことで、相手の思いと自分の思いを互いにやり取りできるようになっていく。ちょっとした誤解は、ほんとうにあちこちに転がっていて、放っておくかおかないかで、人生そのものの見え方までが変わってしまうこともある。殻を破れば道は開けるかもしれないと、勇気づけられる一冊でもある。
あきない世傳金と銀 九 淵泉篇*高田郁
- 2021/02/02(火) 07:11:55
大坂から江戸に出店して四年目、まさにこれから、という矢先、呉服太物商の五鈴屋は、店主幸の妹、結により厳しい事態に追い込まれる。形彫師の機転によりその危機を脱したかと思いきや、今度は商いの存亡にかかわる最大の困難が待ち受けていた。だが、五鈴屋の主従は絶望の淵に突き落とされながらも、こんこんと湧き上がる泉のように知恵を絞り、新たなる夢を育んでいく。商道を究めることを縦糸に、折々の人間模様を緯糸に、織りなされていく江戸時代中期の商家の物語。話題沸騰の大人気シリーズ第九弾!!
どうしてこうも苦難に見舞われなくてはならないのだろう。五鈴屋は、今回もさまざまな苦境に立たされることになる。その最たるものは、幸の妹・結の行いであることは間違いないだろう。これでもかというほど、五鈴屋を追い詰めていくが、どこかで何か胸の内に秘めた企てがあるのではないかと、希望を探してしまうのも確かである。そうであってくれたらどれほどいいだろうか。とはいえ、幸も手をこまねいているだけではない。新しい商いのアイデアが形になりつつあり、明るい光も見えている。どうぞこのままうまくいきますように、と強く祈りたくなる一冊であり、さらに次が愉しみなシリーズである。
政略結婚*高殿円
- 2020/12/03(木) 18:35:24
加賀藩主前田斉広の三女・勇は、加賀大聖寺藩主前田利之の次男・利極と結婚。やがて家を支える存在になる勇だが―(「てんさいの君」)。
加賀藩の分家・小松藩の子孫である万里子。日本で初めてサンフランシスコ万博の華族出身コンパニオン・ガールになった女性は、文明開化後をどう生きるのか―(「プリンセス・クタニ」)。
瀟洒豪壮な洋館に生まれ育った花音子の生活は、昭和恐慌によって激変。新宿のレビュー劇場に立つことになった花音子は一躍スターダムにのし上がるが―(「華族女優」)。
不思議な縁でつながる、三つの時代を生き抜いた女性たち。聡明さとしなやかさを兼ね備え、自然体で激動の時代を生き抜く彼女らをドラマチックに描き出した、壮大な大河ロマン!
江戸時代の加賀藩の姫君から始まり、明治大正、昭和と続く、系譜が、大きな流れとして大元にあり、そこにまつわる女性たちの生きざまが描かれている。時代ごとに常識や価値観も変化し、しあわせの形や、女たちの在りようも変わってくるが、彼女たちの芯にある強さは、時代が流れても変わらないという印象である。降りかかる運命に、打ちひしがれることなく、一歩でも前へ、と進んでいく姿は、置かれた状況が違っても、共通している。ストーリーは、タイトルから想像するのとはいささか異なってはいたが、どの時代の主人公も思わず応援したくなる物語である。それにしても、なんとも波乱万丈な一生を送られた女性たちだこと、と思わされる一冊ではある。
あなたのご希望の条件は*瀧羽麻子
- 2020/11/16(月) 13:09:26
人生の選択肢はひとつじゃない。それぞれが選ぶ道とは―?千葉香澄は、転職エージェントに勤める四十歳のキャリアアドバイザー。「転職した先輩からすすめられて」「営業以外ならなんでも」「勤め先が倒産して」「あこがれの会社に再挑戦したい」…さまざまなきっかけで転職を考えている人々に相応しい求人を、ちょっぴり頭の固いAI「ソフィア」を活用しながら紹介するのが仕事だ。ときには悩みを打ち明けられたり、あらためて再考を促したりもする。十人十色の仕事観や人生模様にふれるうち、自分自身の仕事や人生も見つめ直すことに―。
転職エージェンシーにスポットを当てたお仕事小説。転職の相談に来る人たちの、それぞれの事情や転職を決めるまでのいきさつが興味深いのはもちろん、相談を受ける側の担当者・千葉香澄の抱える事情も興味深い。ただ、個人的には、別れた元夫のことが、禁忌になりすぎている印象は多少あって、本人も周りも、もう少しさっぱりした気分になってもいいのではないかという気はしなくもない。そこを於けば、香澄の自身の仕事に対するモチベーションや、転職希望者とかかわる中での葛藤など、魅力はたくさんあって、愉しい時間を過ごせる一冊だった。
我らが少女A*高村薫
- 2020/03/24(火) 16:41:14
一人の少女がいた――
合田、痛恨の未解決事件
12年前、クリスマスの早朝。
東京郊外の野川公園で写生中の元中学美術教師が殺害された。
犯人はいまだ逮捕されず、当時の捜査責任者合田の胸に、後悔と未練がくすぶり続ける。
「俺は一体どこで、何を見落としたのか」
そこへ、思いも寄らない新証言が――
動き出す時間が世界の姿を変えていく人々の記憶の片々が織りなす物語の結晶
著者の作品はあまり読んだことがなく、合田シリーズも初読みである。だが、初めてにして、あっという間に惹きこまれてしまった。12年前の水彩画教師殺人事件の周りにいた人々の、そのころの在りようと、12年経って、年齢も立場もそれぞれ変わった現在になったからこそ、新たに思い出される当時のあれこれ。捜査中には目も止めなかった人々の動きの中にある真実。などなど何もかもが、本作の魅力のひとつでもある武蔵野の自然の描写の細やかさとともに、凍える冬の朝の川霧の向こうに隠され、もどかしい思いに駆られるしかないのである。どうやら事件の核心にいるようであり、さまざまな意味でだれからも注目されていたにもかかわらず、それから12年後に同棲相手に殺され、話すこともかなわなくなり、いつからか少女Aと呼ばれるようになった上田朱美の胸の裡こそが、最後までいちばんよくわからなくてもどかしい。起こったことそのものよりも、そこに行きつくまでの感情の動きに、どうしようもなく興味をそそられる一冊だった。
あきない世傳金と銀 七 碧流篇*高田郁
- 2020/03/15(日) 16:35:46
大坂天満の呉服商「五鈴屋」の七代目店主となった幸は、亡夫との約束でもあった江戸に念願の店を出した。商いを確かなものにするために必要なのは、身近なものをよく観察し、小さな機会を逃さない「蟻の眼」。そして、大きな時代の流れを読み解き、商いに繋げる「鶚の目」。それを胸に刻み、懸命に知恵を絞る幸と奉公人たちだが―。ものの考え方も、着物に対する好みも大坂とはまるで異なる江戸で、果たして幸たちは「買うての幸い、売っての幸せ」を実現できるのか。待望のシリーズ第七弾!
もう七冊目になるのか、と感慨深い思いでいっぱいになるが、幸は相変わらず前に進み続け、したがって物語も進み続ける。次はどんな難題が降りかかり、どんな風に切り抜けていくのか、毎回胸躍らせて愉しんでいる。今回も、いままでにない企みに奔走し、「買うてのさいわい、売っての幸せ」を守り通して活路を見出す、幸と五鈴屋の面々の姿に胸打たれる。ラストでは、思いがけない人との思いがけないつながりも明らかになり、思わず涙を誘われた。さて次はどんなものを見せてくれるのか、愉しみなシリーズである。
虹にすわる*瀧羽麻子
- 2019/12/14(土) 16:32:15
――職人気質の先輩と、芸術家肌の後輩。
性格も能力も正反対のアラサー男子が、“10年前の夢"を叶えることにした。――
椅子作りの才能があるのに、実家のじいちゃんと修理屋をしている徳井。
椅子への情熱を持て余し、大手工房を飛び出して、徳井のもとへやってきた魚住。
違うタイプのふたりが、学生時代の約束にしたがって、小さな工房を始める。
不器用なふたりは、友情でも恋でも仕事でもギクシャク……。
それでも、お互いの能力を誰よりも認め、お互いの存在を誰よりも求めていた。
正反対のふたりだから、かなえられるものがある! 夢を失いかけたふたりが、つまづきながらも、同じ未来に向かって歩き始める。
ここに辿り着くまでのいきさつに決着はついていないような、未消化な部分がないとは言えないが、この先に続く物語ではある。世間一般の常識に当てはまらない生き方をしてきた二人が、それぞれの夢をかなえようと、いままさに動き出したという感じである。これまでのことや、これからの人間関係も含めて、続編があるのかもしれないと思わせる一冊でもある。ぜひ続きを読んでみたい。
あきない世傳金と銀 六*高田郁
- 2019/09/02(月) 19:11:32
角川春樹事務所 (2019-02-14)
売り上げランキング: 2,254
大坂天満の呉服商「五鈴屋」は、天災や大不況など度重なる危機を乗り越え、
江戸進出に向けて慎重に準備を進めていた。
その最中、六代目店主の智蔵が病に倒れてしまう。
女房の幸は、智蔵との約束を果たすべく立ち上がった。
「女名前禁止」の掟のもと、幸は如何にして五鈴屋の暖簾を守り抜くのか。
果たして、商習慣もひとの気質もまるで違う江戸で「買うての幸い、売っての幸せ」を根付かせたい、
との願いは叶えられるのか。新たな展開とともに商いの本流に迫る、大人気シリーズ待望の第六弾!
今回もまたまた試練の連続である。幸に安寧が訪れることはないのだろうか。とはいえ、壁が高ければ高いほど、五鈴屋や、その関係者たちの結束が固くなり、ひょんなところからアイディアが湧きだすのはいつものこと。このところは、それがより効率的になってきたようにも思われる。店内の誰もが、幸をご寮さんとして認め、敬っている証だろう。本作では、夫で六代目の智蔵が急な病に倒れて儚くなり、幸が女名前で中継ぎとしての七代目を継ぎ、江戸店を開店させるところまでの物語であり、前途洋々、華やかな雰囲気でラストを迎えたが、江戸でもそう順風満帆にはいかないことだろう。どんな試練が待っているのか、次も愉しみなシリーズである。
上流階級 冨久丸百貨店外商部Ⅱ*高殿円
- 2019/08/30(金) 19:15:55
仕事ができて何が悪い! 人気作家が描く、闘う女の人生エンターテインメント!
ひょんなことから芦屋の高級マンションをシェアして暮らす、富久丸百貨店外商員の鮫島静緒と桝家修平。バツイチ独女で仕事に燃える静緒とゲイでセレブな修平は、月のノルマ2000万円!?に奮闘しながら、今日もお客様に究極のサービスを売る!
今回もまたまた面白かった。百貨店の外商部という普段覗くことのない仕事の裏側を多少なりとも知ることができ、外商部員たちが関わる上流階級の暮らしぶりも、ちょっぴり垣間見られて、興味津々である。ただ、どんな階層、どんな職業にあっても、それなりの苦労はつきものなのだということもよく判る。だれもが、自分の置かれた場所で、精いっぱい頑張っているのだ。ある者は劣等感を、またある者は社会的に弱い立場を、そしてまた別のある者は恩義を、活力の源として。静緒と桝家の同居生活がこの先どうなっていくのか、葉鳥さんの影響力がどこまで及ぶのかも興味深いし、静緒が企画した特別催事の成否と、冨久丸百貨店の変化にも注目したい。次も愉しみにしたいシリーズである。
- | こんな一冊 トップへ |
- 次ページへ»