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十字架のカルテ*知念実希人

  • 2020/10/17(土) 16:38:55


正確な鑑定のためにはあらゆる手を尽くす――日本有数の精神鑑定医・影山司の助手に志願した新人医師・弓削凛は、犯罪者の心の闇に対峙していく。究極の頭脳戦の果てに、影山が見据える未来とは。そして凛が精神鑑定を学ばねばならない理由とは……。


 第一話 闇を覗く
 第二話 母の罪
 第三話 傷の証言
 第四話 時の浸食
 第五話 闇の貌

五人の被疑者の精神鑑定の顛末の物語である。個々に事情も状況も異なり、出現している症状も違うが、それぞれに、真摯に真剣に向かい合う影山医師の姿勢が素晴らしい。志願して助手に着いた新人医師・弓削凛は、影山の後姿を見て研鑽を積むが、彼女の胸の裡には実は隠された強い意志があるのだった。影山のアプローチの仕方や、凛の、未熟だからこその視点が相まって、被疑者のほんとうの症状を見定めていく過程は、とても興味深いものである。人間対人間として、心の闇にどこまで踏み込めるのか、それを明らかにできるのかは、まだまだ分からないことが多いが、常に最善を目指して患者と向き合う姿勢のすばらしさは伝わってくる。それとともに、人の心の闇の深さの並々ならなさをも感じさせられる一冊だった。

西洋菓子店プティ・フール*千早茜

  • 2020/09/16(水) 12:32:28


女を昂奮させない菓子は菓子じゃない。
スイーツは誰かの心を不意につかんで新しい場所へと羽ばたかせるスイッチ。下町の洋菓子店を舞台に繰り広げられる鮮烈な六つの物語。


おいしそうなお菓子の描写満載で、ついつい食べたくなってしまう。だが、物語は甘いだけではない。甘さの裏に潜むほろ苦さが、甘いお菓子との対比でなおさら苦く感じられたりもする。人生なかなか一筋縄ではいかない。誤解もすれ違いも、意地も甘えも、さまざまな気持ちがまじり合い、絡まり合って、容易にほどけなくなることもある。人間関係のほろ苦さとあたたかさを存分に味わえる一冊である。

屋上のテロリスト*知念実希人

  • 2020/05/16(土) 16:34:08


一九四五年八月十五日、ポツダム宣言を受諾しなかった日本はその後、東西に分断された。そして七十数年後の今。「バイトする気ない?」学校の屋上で出会った不思議な少女・沙希の誘いに応え契約を結んだ彰人は、少女の仕組んだ壮大なテロ計画に巻き込まれていく!鮮やかな展開、待ち受ける衝撃と感動のラスト。世界をひっくり返す、超傑作エンターテインメント!


日本が東と西に分断され、社会主義国家と自由主義国家に分かれて敵対している、という状況で、近未来のことかと思えば、なんと出版されたのと同時代(2017年)の物語なのだった。荒唐無稽な設定ではある者の、細菌テロとか、地域の分断とか、現在の状況を思い起こさせる要素もあり、なんとなく重ね合わせて読んでしまったりもしたので、著者の意図とは外れた読み方になったかもしれないが、鬱陶しい気分を吹き飛ばしてくれる一冊になった気がする。

崩れる脳を抱きしめて*知念実希人

  • 2019/09/28(土) 16:42:33

崩れる脳を抱きしめて
知念 実希人
実業之日本社
売り上げランキング: 60,334

広島から神奈川の病院に実習に来た研修医の碓氷は、脳腫瘍を患う女性・ユカリと出会う。外の世界に怯えるユカリと、過去に苛まれる碓氷。心に傷をもつふたりは次第に心を通わせていく。実習を終え広島に帰った碓氷に、ユカリの死の知らせが届く。彼女はなぜ死んだのか?幻だったのか?ユカリの足跡を追い、碓氷は横浜山手を彷徨う。そして、明かされる衝撃の真実!?希代のトリックメーカーが描く、今世紀最高の恋愛ミステリー。


タイトルから、認知症を扱ったものかと思ったが、さにあらず。どちらかというと、崩れるというよりは、爆発すると言った方が当たっている気はする。だが、人生の最期を過ごすには、とても恵まれた病院だということは間違いないだろう。患者の希望はたいてい叶えてもらえるのだから。ラストのどんでん返しには、途中でうっすら気づいたが、それでも、碓氷が手掛かりを手繰っていく過程は興味深く読めた。閉塞感と開放感、愛しさと切なさが入り交じった一冊である。

仮面病棟*知念実希人

  • 2016/11/08(火) 16:43:41

仮面病棟 (実業之日本社文庫)
知念 実希人
実業之日本社
売り上げランキング: 4,384

療養型病院に強盗犯が籠城し、自らが撃った女の治療を要求した。事件に巻き込まれた外科医・速水秀悟は女を治療し、脱出を試みるうち、病院に隠された秘密を知る―。閉ざされた病院でくり広げられる究極の心理戦。そして迎える衝撃の結末とは。現役医師が描く、一気読み必至の“本格ミステリー×医療サスペンス”。著者初の文庫書き下ろし!


先輩医師の代役で療養型の田所病院の宿直に入った外科医の速水は、とんでもないハードな一夜を過ごすことになる。その顛末の物語である。発端は、近所で起きたコンビニ強盗が、人質に取った女性を銃で撃ち、その治療を要求して病院に押し入ってきたことだった。速水が処置し、女性は大事には至らなかったが、強盗犯は朝まで病院に居座るという。さらに、騒ぎを聞きつけて姿を現した院長の田所の不審な様子から、病院には何らかの秘密が隠されていると予想した速水は、被害者の川崎愛美とともに、秘密を探ろうと動き、ピエロの仮面をかぶった強盗犯との心理戦と相まって、緊張感が高まってくる。ただ、特殊な病院故ということもあり、秘密のエレベーターがあったり、隠し部屋があったりと、完全な密室ではなく、行動に疑問を抱かせる人物もいたりして、なんとなく結末の予測がついてしまうのは、残念でもある。病院の秘密は驚愕に値するもので、こちらの要素をもっと掘り下げたら面白いかもしれないとも思う。速水が肝心なところで意識をなくしているのも、いささか都合がいい印象ではある。実写化したら面白いかもしれない一冊である。

ニュースキャスター*筑紫哲也

  • 2004/11/14(日) 22:11:15

☆☆☆・・


 初めて現場から語る「ニュースキャスター論」。
 かつて新聞、雑誌の記者・編集者であった著者が、
 テレビのニュース報道という未知の世界に飛び込み、
 そこで何を見、何を考え、何に苦悩してきたか。
 「ニュース23」の創設から現在にいたる経緯を、
 自らの体験を軸に書き綴った迫真のノンフィクション。
 数々の事件、自己、災害、政局・・・。
 激動する時代と斬り結びながら、一般の視聴者には
 知ることのできないテレビニュース報道の舞台裏を活写する。
 そして、ニュースキャスターとは一体、何者なのか!?

                       (文庫見返しより)


報道の形、ということを思わずにはいられなかった。
新聞 対 テレビ はもちろんのこと、テレビの中にも 当然ながら さまざまな伝え方があるのだ。同じ素材でも 切り込み方・味付けによって 見る側には全く別のものになってしまう恐れもあるのだ、と 改めて番組作りの難しさをも思わされた。

そんな中にあって、同じ報道番組のキャスターを10年以上の長きに渡って務めるというのは 並大抵のことではないだろうと容易に察せられる。
ご本人は謙遜して書いておられるが、それは筑紫哲也という人が ご自分の立ち位置を常に明確にしておられるゆえだろう。

それにしても、生放送の報道番組の綱渡り感を毎日しのぐというのは どれほど神経をすり減らすことだろうか・・・と想像すると気が遠くなる。