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私の家では何も起こらない*恩田陸

  • 2010/02/25(木) 07:09:25

私の家では何も起こらない (幽BOOKS)私の家では何も起こらない (幽BOOKS)
(2010/01/06)
恩田 陸

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この家、あたししかいないのに、人がいっぱいいるような気がする・・・・・・
ようこそ、丘の上の幽霊屋敷へ。恩田陸が描く、美しく不穏なゴーストストーリー。
小さな丘の上に建つ二階建ての古い家。この家は、時がゆっくり流れている。幽霊屋敷と噂されるその家にすむ女流作家は居心地のよいこの家を愛している。
血の海となった台所、床下の収納庫のマリネにされた子どもたち・・・・・・いったいこの家にはどんな記憶が潜んでいるのだろう。幽霊屋敷に魅了された人々の美しくて優雅なゴーストストーリー。恩田陸が描く幽霊屋敷の物語。ラストには驚愕の書き下ろし短編が!


表題作のほか、「私は風の音に耳を澄ます」 「我々は失敗しつつある」 「あたしたちは互いの影を踏む」 「僕の可愛いお気に入り」 「奴らは夜に這ってくる」 「素敵なあなた」 「俺と彼らと彼女たち」 「私の家へようこそ」という連作物語。そして 「付記・われらの時代」

「私」――それが誰であるにしろ――しかいない家のはずなのに、蓮作それぞれにつけられたタイトルの人の多さはどうしたことだろう。そこからしてまず不穏である。物語はとても静かに穏やかに流れていく。語り口調も、激することなどこれっぽっちもなく、極めて落ち着いて淡々としている。それなのにこの身震いするような気配。時間を遡り、進み、気配のわけが解き明かされるが、それは何の解決でもない。積もり積もった人々の気配。その内語られているのがいつなのか、語るのが誰なのかさえあやふやになってくる。これからも必ず同じことがここで繰り返され続けるだろうという、ぞくりとするような予感だけが残る。不穏で不安で、しかしどこかうつくしい一冊である。

訪問者*恩田陸

  • 2009/10/15(木) 17:18:55

訪問者訪問者
(2009/05/14)
恩田 陸

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山中にひっそりとたたずむ古い洋館――。三年前、近くの湖で不審死を遂げた実業家朝霞千沙子が建てたその館に、朝霞家の一族が集まっていた。千沙子に育てられた映画監督峠昌彦が急死したためであった。晩餐の席で昌彦の遺言が公開される。「父親が名乗り出たら、著作権継承者とする」孤児だったはずの昌彦の実父がこの中にいる? 一同に疑惑が芽生える中、闇を切り裂く悲鳴が! 冬雷の鳴る屋外で見知らぬ男の死体が発見される。数日前、館には「訪問者に気を付けろ」という不気味な警告文が届いていた……。果たして「訪問者」とは誰か? 千沙子と昌彦の死の謎とは? そして、長く不安な一夜が始まるが、その時、来客を告げるベルが鳴った――。嵐に閉ざされた山荘を舞台に、至高のストーリー・テラーが贈る傑作ミステリー!


ホラーの要素もファンタジーの要素もまったくない、ミステリ作品である。舞台は、山奥の閉ざされた山荘、不審な死を遂げた関係者、その死の真実をつまびらかにしようとする探偵役。これだけで本格の匂いがぷんぷんである。だが、著者はそれだけでは終わらせなかった。
物語はほとんど予想通りに進んでいくのだが、要所要所で僅かずつひねられていき、どんどん捻れてくるのである。そしてラスト近くで、捻れが元に戻ったと思わせて、また一気にひねりを加えられるような心地である。
次へ次へと興味が尽きず、ページをめくる手が止められなかった。

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ブラザー・サン シスター・ムーン*恩田陸

  • 2009/03/20(金) 17:03:09

ブラザー・サン シスター・ムーンブラザー・サン シスター・ムーン
(2009/01/23)
恩田 陸

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ねえ、覚えてる? 空から蛇が落ちてきたあの夏の日のことを――
本と映画と音楽……それさえあれば幸せだった奇蹟のような時間。
『夜のピクニック』から4年、恩田陸が贈る、青春小説の新たなスタンダードナンバー誕生!


高校のとき不思議な授業があった。クラスバラバラの三人組である町に放り出され、その住人にインタビューしてレポートを書くというものだった。韮崎綾音と戸崎衛と箱崎一の三人が行った町には誰もいなかった。それが彼らの出会いだった。
韮崎綾音が語る「第一部 あいつと私」 戸崎衛が語る「第二部 青い花」 箱崎一が語る「第三部 陽のあたる場所」からなる一冊である。
期せずして同じ大学に進んだ彼らは、学生時代、いつも三人でつるんでいたわけではなく、それぞれのときを過ごしていた。そして、卒業しそれぞれに職を得て大人になったいま、そんな学生時代を思い返し、現在の自分の萌芽を見つめなおしているようにも思われる。淡々とした語りながら、学生時代特有の、そして彼らにとっても有意義なきらめきが窺われて好ましい。
物語に行き着く場所はないのだが、それもこれもが心地好い一冊だった。

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きのうの世界*恩田陸

  • 2009/03/06(金) 13:39:46

きのうの世界きのうの世界
(2008/09/04)
恩田 陸

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失踪した男は遠く離れた場所で殺されていた 塔と水路の町にある「水無月橋」。霜の降りるような寒い朝、殺人事件が起こる。バス停に捨てられていた地図に残された赤い矢印は……? 恩田陸待望の新刊。


冒頭から惹きこまれる。「あなた」とは誰なのか?そこはどこなのか?なぜその場所なのか?・・・・・、知りたいことが数珠繋ぎのように現れ、読者に先を急がせる。知りたい、すべてを解き明かしたい、という欲求に追い立てられるように読み進むのだが、物語は行きつ戻りつしながら、ほんの少しずつしか核心に迫らないように思われる。このもどかしさも堪らない。
だが途中から、漠然と想い描いている結末とは別の道筋を進むような違和感に包まれ、次第にそれが確信に変わる。自分の想像力の乏しさゆえなのか、著者の逞しすぎる創作力ゆえなのか。著者らしいといえば、これ以上なく著者らしい結末でもある。謎の死に至る事情、という点に関して言えば、知りたい欲求は満たされた。478ページという大作なのだが、ページを繰るのは速かった。

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不連続の世界*恩田陸

  • 2008/11/24(月) 20:27:39

不連続の世界不連続の世界
(2008/07)
恩田 陸

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音楽ディレクター塚崎多聞のフランス人の妻ジャンヌが突然、里帰りし、そのまま音信不通になって、そろそろ1年になろうとしていた…。「月の裏側」の塚崎多聞、再登場。詩情と旅情あふれる、恩田陸版「怖い話」。


「木守り男」 「悪魔を憐れむ歌」 「幻影キネマ」 「砂丘ピクニック」 「夜明けのガスパール」

私の初読み恩田作品で、ちょっと苦手だった『月の裏側』で魅力的だった多聞さんが主人公の短編集である。やはり魅力的な多聞さんである。誰にでも開かれているのに、深いところでは閉じていて手の内を見せない、いささかとらえどころのないような魅力である。そんな彼が、見聞きする不思議でちょっと怖い話に筋道を与える物語たち。
と思っていたら、最後の話で裏表がひっくり返されたような心地である。いままで見えていたものが、裏返ってまったく違った景色のもとに放り出されたような心許なさである。そうだったのか・・・。

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いのちのパレード*恩田陸

  • 2008/05/12(月) 14:04:32

いのちのパレードいのちのパレード
(2007/12/14)
恩田 陸

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<あの黒い表紙、強烈な帯コピー、シンプルかつ洗練されたデザイン。手に取った時の、嬉しいような怖いようなおののきを今でも覚えている。(中略)かつて「幻想と怪奇」というジャンルのくくりでお馴染みであった、奇妙でイマジネーション豊かな短編群には、今なお影響を受け続けている。あの異色作家短篇集のような無国籍で不思議な短編集を作りたい、という思いつきから連載をさせてもらった>(あとがきより)。

恩田ワールドの原点<異色作家短編集>への熱きオマージュ。ホラー、SF、ミステリ、ファンタジー……クレイジーで壮大なイマジネーションが跋扈する、幻惑的で摩訶不思議な作品集。


表題作のほか、「観光旅行」 「スペインの苔」 「蝶遣いと春、そして夏」 「橋」 「蛇と虹」 「夕飯は七時」 「隙間」 「当籖者」 「かたつむり注意報」 「あなたの善良なる教え子より」 「エンドマークまでご一緒に」 「走り続けよ、ひとすじの煙となるまで」 「SUGOROKU」 「夜想曲」

風味は違うが、それぞれに一風変わった底知れない不気味さを秘めた著者らしい物語たちである。
自分たちが生きているいまこの世界の常識を当てはめて結論を出すことのできない理不尽さやもどかしさがどの物語にも満ちていて、ときに背筋を冷たいものが這い上がってくるような心地にさせられ、またときにはその世界から帰って来たくないような夢心地――かすかな不安は常につきまとうが――を味わわせてくれる。
癖になりそうな一冊である。

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猫と針*恩田陸

  • 2008/05/07(水) 17:16:21

猫と針猫と針
(2008/02)
恩田 陸

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人はその場にいない人の話をする――。友人の葬式の帰り、久々に学生時代の仲間が集まった。一見なごやかな宴だが、やがて漂う不穏な空気。この集まりの本当の意図とは? 閉鎖空間で展開する心理サスペンス会話劇。戯曲執筆の舞台裏を赤裸々に綴る書き下ろしエッセイ「『猫と針』日記」も収録。遂にベールを脱ぐ、恩田陸〈初戯曲〉。


初戯曲とはいえ、きっちりと恩田色が出ていることにまず感心させられる。もやもやとした不穏さが、それだけで場に興味を惹きつける。舞台は拝見していないが、おそらく終始静かに流れていくのだろう。それでいてずきりと胸に刺さるものを登場人物たちに残し、割り切れない何物かを抱えて幕を下ろすのである。どこからが企みなのか、どこまでが真情なのか。葬式帰りの喪服の集団という設定が効果をいや増している。

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木洩れ日に泳ぐ魚*恩田陸

  • 2007/08/22(水) 17:16:48

☆☆☆☆・

木洩れ日に泳ぐ魚 木洩れ日に泳ぐ魚
恩田 陸 (2007/07)
中央公論新社

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一組の男女が迎えた最後の夜。明らかにされなければならない、ある男の死。それはすべて、あの旅から始まった――。運命と記憶、愛と葛藤が絡み合う、恩田陸の新たな世界


朝になればこの部屋を出て右と左へ別れ別れに歩いていく。そんな二人の最後の一夜の物語である。
時間にすれば短いのだが、二人はなんと遠くまで行って帰ったのだろう。アパートの一室にいながらなんと遠くまで出かけてきたのだろう。物語の冒頭に出てくる写真の持つ意味が短くて長いこの物語を経たラストで、こんな風に見えてくるとは思ってもいないことだった。
脳の襞のすきまに埋もれたまま忘れ去られようとしていた記憶の旅とも言える物語だった。

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朝日のようにさわやかに*恩田陸

  • 2007/05/30(水) 17:08:54

☆☆☆☆・

朝日のようにさわやかに 朝日のようにさわやかに
恩田 陸 (2007/03)
新潮社

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ビールについての冒頭から、天才トランペッターやところてんへ話題は移り、最後は子供の頃に抱いていた謎の解明へ-。ホラー、ミステリ、SF、ショートショート等、恩田陸のあらゆる魅力がたっぷり詰まった物語の万華鏡。


表題作のほか、「水晶の夜、翡翠の朝」「ご案内」「あなたと夜と音楽と」「冷凍みかん」「赤い毬」「深夜の食欲」「一千一秒殺人事件」「おはなしのつづき」「邂逅について」「淋しいお城」「楽園を追われて」「卒業」
そしてあとがきとして、各作品についての簡単な覚書が載せられている。
まず冒頭に置かれている 水野理瀬シリーズの番外編としてのヨハンの物語に心を奪われ、その後に続くさまざまに趣を変えた短編掌編に惹きつけられる。
著者の短編作品は数少なく、長編の方が面白さでも勝るように思うが、この一冊に納められた物語たちはどれもその後が気になるものばかりであり、いずれこれを種として生まれる長編もあるのかもしれないと期待もしてしまう。
まさに恩田作品の万華鏡である。

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中庭の出来事*恩田陸

  • 2007/04/02(月) 17:12:09

☆☆☆☆・

中庭の出来事 中庭の出来事
恩田 陸 (2006/11/29)
新潮社

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瀟洒なホテルの中庭。こぢんまりとしたパーティの席上で、気鋭の脚本家が不可解な死を遂げた。周りにいたのは、次の芝居のヒロイン候補たち。自殺? それとも他殺? 芝居とミステリが融合した、謎が謎を呼ぶ物語のロンド。


また恩田さんに惑わされてしまった、というのが素直な感想である。
実際のところ物語はいくつ入れ子になっていたのだろう。劇中劇を観ていると思っていると、ふとこれは現実では?と思わされたり、その逆もあったりで、自分の立ち位置が危うくなる心地を何度も味わわされ、何とかして真実を見抜こうと一枚一枚皮を剥いて核心に近づこうとすると、ぽんと外側に投げ出されるのである。
そして、今度こそ真実が目の前で明かされるのだと、観客のひとりになりきってわくわくしていると、あのラストである。
演ずるものの性とでもいうものをそのままそっくり見せられたような思いでもある。
たまたまエイプリルフールに読み始めたのだが、ぴったりだったとも言えるかもしれない。

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チョコレートコスモス*恩田陸

  • 2006/06/03(土) 17:09:15

☆☆☆☆・

チョコレートコスモス チョコレートコスモス
恩田 陸 (2006/03/15)
毎日新聞社

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「まだそっち側に行ってはいけない。そっち側に行ったら、二度と引き返せない。」
幼い時から舞台に立ち、多大な人気と評価を手にしている若きベテラン・東響子は、
奇妙な焦りと予感に揺れていた。伝説の映画プロデューサー・芹澤泰次郎が芝居を手
がける。近々大々的なオーディションが行われるらしい。そんな噂を耳にしたからだっ
た。同じ頃、旗揚げもしていない無名の学生劇団に、ひとりの少女が入団した。舞台
経験などひとつもない彼女だったが、その天才的な演技は、次第に周囲を圧倒してゆ
く。稀代のストーリーテラー・恩田陸が描く、めくるめく情熱のドラマ。
演じる者だけが見ることのできるおそるべき世界が、いま目前にあらわれる!


ミステリではないのでネタバレとは言わないのかもしれないが、この物語は『チョコレートコスモス』なのに『チョコレートコスモス』がはじまるどころか形にさえなっていないところで終わっているのが衝撃だった。
そして、登場人物を具体的な誰かに当てはめて物語を読むことは滅多にないのだが、飛鳥がわたしの頭の中では駅前広場で神谷に見られているときから最後までずっと宮崎あおいさんだったのもなんだか不思議な気分だった。
泣かせる話というわけでもないのだが、後半、17節あたりから なぜか涙が止まらなかった。
飛鳥にはやはり何か欠けているものがあるのだろう。それが補われたときに飛鳥がもっと伸びるのか、それとも平凡になってしまうのか、その後を見届けたい思いである。ひとつの物語のラストで完結させず、次へ、もっと先へと引っ張っていく著者の技にはいつもながら舌を巻く。

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『恐怖の報酬』日記*恩田陸

  • 2006/03/30(木) 17:29:47

☆☆☆・・



酩酊混乱紀行
イギリス・アイルランド

タイトル――サブタイトルも含め――でも判るとおり、旅日記である。
旅日記であるのは間違いがないのだが、旅先そのもののことだけを書き連ねたものではないのである。そして、直接的な旅先の地のこと以外のことが面白い。
脚注にはいまこのときにはまったく関係なく見える著者の感想や、印象が書かれていたり、大嫌いな≪あの乗り物≫のことがかなりの部分に渡っていたり。
観光案内になるような旅日記とはまったく違うが、著者の次の作品に繋がるだろう、そして この旅のあとですでに繋がっている、イメージを共に見られた心持になれたことだけでもとても嬉しかった。

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エンド・ゲーム*恩田陸

  • 2006/03/22(水) 17:12:02

☆☆☆☆・



常野物語。
いままでの常野一族の物語とは少しばかり趣向が違っている。
一族の者同士 不文律を破って結婚し、子どもまでもうけ、一族と距離を置いて暮らしている一家が描かれている。とはいっても、父親はある日おばあさんに連れて行かれてしまい、長い間失踪中である。妻は、夫が≪裏返された≫かもしれないと思い、またあるときは単なる浮気で娘と自分は捨てられたのだと考えている。自分をどちらの立場に置いておきたいのかが自分でも計りかねているかのようにも見えるのだ。
娘の時子が大学を卒業する歳になり、周囲の≪あれ≫の目に怯えながらも母子ふたりの暮らしに慣れたころ、事態は急展開することになるのだった。

オセロの白と黒をひっくり返すように、裏返したり裏返されたりしながら常野の一族は生きてきた。望んだわけでもないのにどうしようもなく抗えない力を持ってしまったことから逃げもせずこれまでやってきたことが――確かにやってきた事実は消えはしないのだが――空洞を覗くように虚しくなるなんて。
オセロの駒がみな灰色になって裏返しても裏返されても勝負がつかないような空虚な心持ちになる。このラストはしあわせにつづくのだろうか、それともまた思いもしない泥沼へとつづくのだろうか。

ネクロポリス 上下*恩田陸

  • 2005/12/18(日) 13:45:04

☆☆☆☆・



読み終えたいま、長い長い旅をして帰ってきたような心地がしている。
日本とイギリスの文化や古くからの民間伝承が融合したような地・Ⅴ.ファーに住む人々の間で代々受け継がれている行事である≪ヒガン≫を舞台に起こるあれこれの物語である。≪ヒガン≫とは、普段は閉ざされ、≪ヒガン≫のときにだけ人々を受け入れる聖域である≪アナザー・ヒル≫と呼ばれる場所で行われる。そこでは前の年の≪ヒガン≫の後から今年の≪ヒガン≫までに亡くなった人と会えるのだという。
東京大学の大学院生・ジュンイチロウ・イトウもⅤ.ファーの人々の親戚であるということで、今年はじめて≪ヒガン≫に参加することになったのだったが...。

読み初めてしばらくは、アナザー・ヒルという不思議な世界や、そもそも既成事実として在るⅤ.ファーそのものになかなか馴染めず、やっとのことで着いていく感じだったのが、いつしか入り込んで自分自身がアナザー・ヒルに立っているような気分でページを繰っていた。

映像化されたら一大スペクタクル巨編になるだろうとも思われるのだが、逆にほんとうは、生きている人間ひとりひとりの胸の中で いつの時代も変わらず繰り広げられていることなのでは、という気もするのである。
めくるめく荒々しさと静かさを併せ持つ一冊だった。

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蒲公英草紙(常野物語)*恩田陸

  • 2005/06/26(日) 09:56:12

☆☆☆・・



特別な力を持ち、権力を望まず、群れず、人の役に立つ生き方を守りつづける一族・常野の物語。

生きている人を≪しまう≫力を持つ、春田一家と東北の名家・槙村家とのつながりによってもたらされる事々の物語である。

少女のころの峰子が父親からもらい、「蒲公英草紙」と名づけた よもぎ色の帳面に書き綴られたこと、を思い出している という体裁を取っている。

峰子の父は、槙村家のかかりつけの医者であり、そんな関係から牧村家の病弱なお嬢さま・聡子様のお相手として 峰子に声がかかったところから物語ははじまる。

静かで荒々しい物語である。
常野の人たちが裡に抱える力の強さと、外見の静かさとが、この物語の底に常に流れ、雰囲気を作っている。

『光の帝国 常野物語』を読んでいてもいなくても愉しめる一冊である。

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