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祝祭と予感*恩田陸

  • 2020/02/18(火) 16:17:22


大ベストセラー『蜜蜂と遠雷』、待望のスピンオフ短編小説集!大好きな仲間たちの、知らなかった秘密。入賞者ツアーのはざま亜夜とマサルとなぜか塵が二人のピアノの恩師・綿貫先生の墓参りをする「祝祭と掃苔」。芳ヶ江国際ピアノコンクールの審査員ナサニエルと三枝子の若き日の衝撃的な出会いとその後を描いた「獅子と芍薬」。作曲家・菱沼忠明が課題曲「春と修羅」を作るきっかけになった忘れ得ぬ教え子の追憶「袈裟と鞦韆」。ジュリアード音楽院プレ・カレッジ時代のマサルの意外な一面「竪琴と葦笛」。楽器選びに悩むヴィオラ奏者・奏へ天啓を伝える「鈴蘭と階段」。巨匠ホフマンが幼い塵と初めて出会った永遠のような瞬間「伝説と予感」。全6編。


短編集なのに、一遍一遍があまりにも濃密で、くらっとする。音楽の世界のただなかに放り出されたような、この圧倒的な臨場感はなんだろう。読み進めながらどんどん鼓動が速くなり、何度も呑み込まれてしまいそうになる。この素晴らしい世界を作る彼らの息遣いまで聞こえてきそうな一冊だった。

歩道橋シネマ*恩田陸

  • 2020/01/27(月) 16:39:45


とある強盗殺人事件の不可解な証言を集めるうちに、戦慄の真相に辿り着いて……(「ありふれた事件」)。幼なじみのバレエダンサーとの再会を通じて才能の美しさ、酷薄さを流麗な筆致で描く「春の祭典」。
密かに都市伝説となった歩道橋を訪れた「私」が記憶と、現実と、世界の裂け目を目撃する表題作ほか、まさにセンスオブワンダーな、小説の粋を全て詰め込んだ珠玉の一冊。



とても短い物語集である。さっと読めるのだが、どれも不思議な余韻があって、しばらく引っ張られるような心地になる。平穏な日常の中に潜む恐怖に似たなにかが、ふと振り向いた隙間から覗いているような、一瞬背筋が凍るようなものもあれば、目を閉じた途端に異次元へ運ばれ、目を開けるとほんの一瞬だったというような印象のものもある。短すぎて消化不良なものもなくはなかったが、概ね楽しい読書タイムをくれる一冊だった。

錆びた太陽*恩田陸

  • 2017/08/04(金) 18:41:02

錆びた太陽
錆びた太陽
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恩田 陸
朝日新聞出版
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「最後の事故」で、人間が立ち入れなくなった立入制限区域のパトロールを担当するロボット「ウルトラ・エイト」たちの居住区に、国税庁から派遣されたという謎の女・財護徳子がやってきた。三日間の予定で、制限区域の実態調査を行うという。だが、彼らには、人間の訪問が事前に知らされていなかった!戸惑いながらも、人間である徳子の司令に従うことにするのだが…。彼女の目的は一体何なのか?直木賞受賞後長編第一作。


当然、原発事故にまず思いがいく。立入制限区域にいるのは、一度死んで甦った「マルピー」と呼ばれる存在、巨大な青い九尾の猫、巨大化して帯電した、「青玉」と呼ばれるタンブルウィードなどがいて、見回りをするだけでも一苦労なのである。そんな場所に若い女が派遣されてくることなど、本来考えられることではないのだが、国税庁からやって来たのは、財護徳子という20代後半の女性だった。ウルトラ・エイトたちのキャンプには、人間はいないのだが、ただ一人の人間・財護徳子は、超のつく自然体で、ロボットたちとも何の垣根もなく接している。ロボットたちにも新鮮な体験であり、心のないはずの彼らと徳子との間に心の通い合いがあるように見えるのが印象的である。財護徳子の本当の目的は何なのか、立入制限区域で何が起こっているのか、昔起こった一家殺人事件の真相は……。、近未来の冒険物語のようでもあり、人とロボットとの交流の物語でもあり、政府の隠ぺい体質の恐ろしさを暴く物語でもあり、さまざまな要素が絡み合って、面白さを増している。読み始め手間もなくは、もっと苦手な分野かと思ったが、予想に反して愉しめる一冊だった。

終わりなき夜に生まれつく*恩田陸

  • 2017/05/28(日) 16:31:51

終りなき夜に生れつく
恩田 陸
文藝春秋
売り上げランキング: 79,255

強力な特殊能力を持って生まれ、少年期を共に過ごした三人の“在色者”。彼らは別々の道を歩み、やがて途鎖の山中で再会する。ひとりは傭兵、ひとりは入国管理官、そしてもう一人は稀代の犯罪者となって。『夜の底は柔らかな幻』で凄絶な殺し合いを演じた男たちの過去が今、明らかになる。


スピンオフ作品とは知らずに読んだのだが、この系統がいささか得意ではないので、元作品の方はたぶん未読である。特殊能力を持つ在色者と呼ばれる人々と、一般の人々との軋轢は、現代社会にもある様々な差別意識の権化のようでもあり、痛ましくもやり切れない思いに駆られもする。さらに、在色者同士の心の読み合いや軋轢も存在し、そこには当然力と力のぶつかり合いもあって、何とも言い難い気持ちにさせられる。それぞれがそれぞれに穏やかに生きていくことはできない相談なのだろうか。興味深く読みはしたが、やはり苦手意識はなくならず、元作品はいいかな、といまのところは思っている一冊である。

失われた地図*恩田陸

  • 2017/05/07(日) 16:23:34

失われた地図
失われた地図
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恩田 陸
KADOKAWA (2017-02-10)
売り上げランキング: 20,751

川崎、上野、大阪、呉、六本木…日本各地の旧軍都に発生する「裂け目」。かつてそこに生きた人々の記憶が形を成し、現代に蘇える。記憶の化身たちと戦う、“力”を携えた美しき男女、遼平と鮎観。運命の歯車は、同族の彼らが息子を授かったことから狂い始め―。新時代の到来は、闇か、光か。


実を言うと、個人的には恩田作品のこちらの流れはいささか苦手である。読み始めて間もなくは、ページを閉じようかとも思ったが、もうしばらく、と読み進めていくうちに、次第に惹きこまれてしまった。普通に暮らしている人々には、そのすぐ脇で鮎観(あゆみ)や遼平のような力を持った一族のものたちが過去の禍々しい記憶の産物と苛烈な闘いを繰り広げ、しかも一族ならではの悩みに苦しんでいるなどとは思いもよらず、対比して考えると切なくもなる。ラストの遼平と鮎観のひとり息子・俊平の姿を見ると、続編がありそうな気がするが、それが凶と出るのか吉と出るのかは予測がつかない。彼らに心休まる日々を、とつい願ってしまう一冊でもある。

八月は冷たい城*恩田陸

  • 2017/03/14(火) 18:30:20

八月は冷たい城 (ミステリーランド)
恩田 陸 酒井 駒子
講談社
売り上げランキング: 72,533

夏流城(かなしろ)での林間学校に初めて参加する光彦(てるひこ)。毎年子どもたちが城に行かされる理由を知ってはいたが、「大人は真実を隠しているのではないか」という疑惑を拭えずにいた。ともに城を訪れたのは、二年ぶりに再会した幼馴染みの卓也(たくや)、大柄でおっとりと話す耕介(こうすけ)、唯一、かつて城を訪れたことがある勝ち気な幸正(ゆきまさ)だ。到着した彼らを迎えたのは、カウンターに並んだ、首から折られた四つのひまわりの花だった。少年たちの人数と同じ数――不穏な空気が漂うなか、三回鐘が鳴るのを聞きお地蔵様のもとへ向かった光彦は、茂みの奥に鎌を持って立つ誰かの影を目撃する。閉ざされた城で、互いに疑心暗鬼をつのらせる卑劣な事件が続き……? 彼らは夏の城から無事に帰還できるのか。短くせつない「夏」が終わる。


「七月」は女子編、「八月」は男子編、といったところである。男子たちは夏の林間学校の意味をすでに知っていて、ひとりは一度経験もしている。だが、無条件に聞かされている理由を信じているわけではなく、裏に何かあるのでは、という疑問も抱いているのである。加えて、もちろん親の死に向き合うという一大事でもあるので、身構えてしまうのも無理はない。彼らは、この林間学校で、かけがえのないものを失いながらも、何かを悟り、ひとつ大人になったように思われる。それにしても酷な制度だと思わずにはいられない一冊である。

七月に流れる花*恩田陸

  • 2017/02/22(水) 16:30:45

七月に流れる花 (ミステリーランド)
恩田 陸 酒井 駒子
講談社
売り上げランキング: 18,798

坂道と石段と石垣が多い静かな街、夏流(かなし)に転校してきたミチル。六月という半端な時期の転校生なので、友達もできないまま夏休みを過ごす羽目になりそうだ。終業式の日、彼女は大きな鏡の中に、緑色をした不気味な「みどりおとこ」の影を見つける。思わず逃げ出したミチルだが、手元には、呼ばれた子どもは必ず行かなければならない、夏の城――夏流城(かなしろ)での林間学校への招待状が残されていた。ミチルは五人の少女とともに、濃い緑色のツタで覆われた古城で共同生活を開始する。城には三つの不思議なルールがあった。鐘が一度鳴ったら、食堂に集合すること。三度鳴ったら、お地蔵様にお参りすること。水路に花が流れたら色と数を報告すること。少女はなぜ城に招かれたのか。長く奇妙な「夏」が始まる。


ミチルが六月という半端な時期に転校してきた理由。転校して間もないのに六人という少ない人数の林間学校に招待された理由。なんとなく思わせぶりな参加者の少女たちの様子。そのすべてが明らかになったとき、深い悲しみと慈しみ、そして命の終わりということを前にした無力さが押し寄せてくる。謎めいた設定と、なにが起こるかワクワクドキドキする雰囲気が、とても著者らしい一冊である。

消滅*恩田陸

  • 2015/12/28(月) 17:03:45

消滅 - VANISHING POINT
消滅 - VANISHING POINT
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恩田 陸
中央公論新社
売り上げランキング: 68,412

202X年9月30日の午後。日本の某空港に各国からの便が到着した。超巨大台風の接近のため離着陸は混乱、さらには通信障害が発生。そして入国審査で止められた11人(+1匹)が、「別室」に連行される。この中に、「消滅」というコードネームのテロを起こす人物がいるというのだ。世間から孤絶した空港内で、緊迫の「テロリスト探し」が始まる!読売新聞好評連載小説、ついに単行本化。


523ページという大作である。だが、そんなことはまったく感じさせる暇もなく、ページを捲るのがもどかしいほど面白かった。新聞連載時は、もどかしい思いをした読者も多いのではないだろうか。物語の大半が、空港の、それも窓のない一室の様子であるにもかかわらず、想像はあちこちに飛んで行き、読者も一体となって、登場人物たちの背景に思いを馳せることになる。早い段階から、テロリストはあの人物だろうと想像はでき、あのアイテムが何か重要なカギになっているだろうことも察せられるのだが、このラストには驚かされた。実際に陰惨なテロが起こりはしないだろうと思ってはいたが、想像を見事に裏切られて、しかもなんと日本人らしい、と苦笑してしまうような行動が広まっていて、裏切られ方の見事さに舌を巻く思いである。どきどきの時間を愉しんだ一冊である。

ブラック・ベルベット*恩田陸

  • 2015/08/05(水) 17:12:53

ブラック・ベルベット
恩田 陸
双葉社
売り上げランキング: 61,255

東西文化の交差点・T共和国。この国で見つかった、全身に黒い苔の生えた死体。入国後に消息を絶った、気鋭の女性科学者。ふたつを結びつけるのは、想像の域を遙かに超えたある事実だった―


『MAZE』 『クレオパトラの夢』に続く、神原恵弥シリーズの三作目。今回の舞台はT共和国である(イスタンブールと都市名を出しているのに……)。独特の異国情緒あふれた舞台設定と、謎の死の病、そして友人に依頼された人探しとその当人の死。そして、かつての高校の同級生三人が顔を合わせるという偶然(?)まで。謎の要素が冒頭から矢継ぎ早に並べられ、どこへ連れていかれるのかいささか不安になる。誰が味方で誰が敵か、ほんとうの目的は何なのか。恵弥の夢見と現実が出会ったとき、するすると絡まりが解けて道筋が見えてくるのである。スリリングでありながら、どこか物憂い雰囲気も漂う一冊である。

EPITAPH東京*恩田陸

  • 2015/04/13(月) 16:46:54

EPITAPH東京EPITAPH東京
(2015/03/06)
恩田 陸

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東日本大震災を経て、東京五輪へ。少しずつ変貌していく「東京」―。その東京を舞台にした戯曲「エピタフ東京」を書きあぐねている“筆者”は、ある日、自らを吸血鬼だと名乗る謎の人物・吉屋と出会う。吉屋は、筆者に「東京の秘密を探るためのポイントは、死者です」と囁きかけるのだが…。将門の首塚、天皇陵…東京の死者の痕跡をたどる筆者の日常が描かれる「piece」。徐々に完成に向かう戯曲の内容が明かされる作中作「エピタフ東京」。吉屋の視点から語られる「drawing」。三つの物語がたどり着く、その先にあるものとは―。これは、ファンタジーか?ドキュメンタリーか?「過去」「現在」「未来」…一体、いつの物語なのか。ジャンルを越境していく、恩田ワールドの真骨頂!!


ジャンル分けが難しい作品である。エッセイかと思えばドキュメンタリーでもあり、ファンタジーでもありながら戯曲でもある。「筆者」を主語にしたエッセイ風の部分は、実際に著者の日常ではないかと思ってしまうほどエッセイのようである。だがその中に、知らず知らずのうちに何百年にもわたって別の躰にやどり続けているという吸血鬼・吉屋の語りにのめり込み、かと思うといつのまにか、とあるマンションの一室に集まって宅配弁当を作りながら仕事を請け負う女たちの物語に惹きこまれている。それはあたかも夢の中で、次々と場面が切り替わるのになぜか辻褄が合ってしまう不思議さのような感覚である。そしてまた、東日本が大きく揺れたあの日に、別のなにかも人知れずほんのわずかずれ、その世界をさまよっているのかもしれないという心地にさせられる一冊でもある。

私と踊って*恩田陸

  • 2013/01/15(火) 07:44:29

私と踊って私と踊って
(2012/12/21)
恩田 陸

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この世の終わりに踊る時も、きっと私を見ていてね。ダンサーの幸福は、踊れること。ダンサーの不幸は、いつか踊れなくなること――稀代の舞踏家ピナ・バウシュをモチーフに、舞台を見る者と見られる者の抜き差しならない関係をロマンティックに描いた表題作をはじめ、ミステリからSF、ショートショート、ホラーまで、物語に愛された作家の脳内を映しだす全十九編の万華鏡。


表題作のほか、「心変わり」 「骰子の七の目」 「忠告」 「弁明」 「少女界曼荼羅」 「協力」 「思い違い」 「台北小夜曲」 「理由」 「死者の季節」 「火星の運河」 「劇場を出て」 「二人でお茶を」 「聖なる氾濫」 「海の泡より生まれて」 「茜さす」 あとがき 「東京の日記」 「交信--表紙」

ホラーは苦手だけれど、こうしてさまざまなテイストの恩田さんのなかにあると、自然に受け入れられるから不思議である。上に記した目次からも察せられると思うが、構成にも遊び心があって、ちょっと愉しい。私事ではあるが、ちょうど体調を崩していたので、短くぎゅっと詰まったこの本は、手軽に著者を愉しめる一冊なのもベストタイミングだった。

夢違*恩田陸

  • 2012/01/11(水) 18:33:48

夢違夢違
(2011/11/11)
恩田 陸

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夢を映像として記録し、デジタル化した「夢札」。夢を解析する「夢判断」を職業とする浩章は、亡くなったはずの女の影に悩まされていた。予知夢を見る女、結衣子。俺は幽霊を視ているのだろうか?そんな折、浩章のもとに奇妙な依頼が舞い込む。各地の小学校で頻発する集団白昼夢。狂乱に陥った子供たちの「夢札」を視た浩章は、そこにある符合を見出す。悪夢を変えることはできるのか。夢の源を追い、奈良・吉野に向かった浩章を待っていたものは―。人は何処まで“視る”ことができるのか?物語の地平を変える、恩田陸の新境地。


正夢、悪夢、予知夢、などなど、夢にもさまざまあり、いい夢を見た日はいいことがあるような気がするし、悪夢にうなされて目覚めた朝は不吉な思いに囚われることもある。とらえどころがないからこその夢、という気もするが、本作の世界では夢は可視化でき、医療現場で利用されているのである。そんな世界で起こった子どもたちの集団パニックや神隠し。予知夢を見る女・結衣子が見ていた夢やその死と関係があるのか、いまになってあちこちで目撃情報があるのは彼女になにか伝えたいことがあるのか。夢のようになかなか全貌を現さない真相に興味をそそられ、結衣子や子どもたちの夢と自分の夢が交錯しているような浩章の身に寄り添いながら読み進めるうちに、自分も夢と現の狭間でゆらゆらしているような心地にさせられる。曖昧なものを鮮明にすることについて考えずにはいられない一冊である。

隅の風景*恩田陸

  • 2011/09/03(土) 16:52:25

隅の風景隅の風景
(2011/05)
恩田 陸

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プラハで飲む黄金のビール、高所恐怖症の韓国登山、スモッグの向こうに霞む北京の太陽。出会えるかもしれない物語のかけらを求めて、今日も作家は旅に出る。身体の隅に今も残る旅のイメージをくっきりと映し出す紀行集。


飛行機嫌いの著者が勇を鼓して出かけた海外の国々、そしてもちろん日本のあちこちで、求めて触れたもの、あるいは偶然の出会いによって結びつけられたさまざまな場所や物や事々が語られていて興味深い。不思議な物事に触れるたびに「、この題材でだれかミステリを書いてくれないかしら」とおっしゃるが、そのたびに胸の中で「恩田さん書いてください」と思いながら読んだ。これらの旅のなにかしらがいつの日にか新しい物語のどこかに練りこまれることになるのかもしれないと思うと、心なしかわくわくしてくるのである。しかしよく飲むなぁ、とも思う一冊である。

私の家では何も起こらない*恩田陸

  • 2010/02/25(木) 07:09:25

私の家では何も起こらない (幽BOOKS)私の家では何も起こらない (幽BOOKS)
(2010/01/06)
恩田 陸

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この家、あたししかいないのに、人がいっぱいいるような気がする・・・・・・
ようこそ、丘の上の幽霊屋敷へ。恩田陸が描く、美しく不穏なゴーストストーリー。
小さな丘の上に建つ二階建ての古い家。この家は、時がゆっくり流れている。幽霊屋敷と噂されるその家にすむ女流作家は居心地のよいこの家を愛している。
血の海となった台所、床下の収納庫のマリネにされた子どもたち・・・・・・いったいこの家にはどんな記憶が潜んでいるのだろう。幽霊屋敷に魅了された人々の美しくて優雅なゴーストストーリー。恩田陸が描く幽霊屋敷の物語。ラストには驚愕の書き下ろし短編が!


表題作のほか、「私は風の音に耳を澄ます」 「我々は失敗しつつある」 「あたしたちは互いの影を踏む」 「僕の可愛いお気に入り」 「奴らは夜に這ってくる」 「素敵なあなた」 「俺と彼らと彼女たち」 「私の家へようこそ」という連作物語。そして 「付記・われらの時代」

「私」――それが誰であるにしろ――しかいない家のはずなのに、蓮作それぞれにつけられたタイトルの人の多さはどうしたことだろう。そこからしてまず不穏である。物語はとても静かに穏やかに流れていく。語り口調も、激することなどこれっぽっちもなく、極めて落ち着いて淡々としている。それなのにこの身震いするような気配。時間を遡り、進み、気配のわけが解き明かされるが、それは何の解決でもない。積もり積もった人々の気配。その内語られているのがいつなのか、語るのが誰なのかさえあやふやになってくる。これからも必ず同じことがここで繰り返され続けるだろうという、ぞくりとするような予感だけが残る。不穏で不安で、しかしどこかうつくしい一冊である。

訪問者*恩田陸

  • 2009/10/15(木) 17:18:55

訪問者訪問者
(2009/05/14)
恩田 陸

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山中にひっそりとたたずむ古い洋館――。三年前、近くの湖で不審死を遂げた実業家朝霞千沙子が建てたその館に、朝霞家の一族が集まっていた。千沙子に育てられた映画監督峠昌彦が急死したためであった。晩餐の席で昌彦の遺言が公開される。「父親が名乗り出たら、著作権継承者とする」孤児だったはずの昌彦の実父がこの中にいる? 一同に疑惑が芽生える中、闇を切り裂く悲鳴が! 冬雷の鳴る屋外で見知らぬ男の死体が発見される。数日前、館には「訪問者に気を付けろ」という不気味な警告文が届いていた……。果たして「訪問者」とは誰か? 千沙子と昌彦の死の謎とは? そして、長く不安な一夜が始まるが、その時、来客を告げるベルが鳴った――。嵐に閉ざされた山荘を舞台に、至高のストーリー・テラーが贈る傑作ミステリー!


ホラーの要素もファンタジーの要素もまったくない、ミステリ作品である。舞台は、山奥の閉ざされた山荘、不審な死を遂げた関係者、その死の真実をつまびらかにしようとする探偵役。これだけで本格の匂いがぷんぷんである。だが、著者はそれだけでは終わらせなかった。
物語はほとんど予想通りに進んでいくのだが、要所要所で僅かずつひねられていき、どんどん捻れてくるのである。そしてラスト近くで、捻れが元に戻ったと思わせて、また一気にひねりを加えられるような心地である。
次へ次へと興味が尽きず、ページをめくる手が止められなかった。

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