- | こんな一冊 トップへ |
- 次ページへ»
放課後レシピで謎解きを うつむきがちな探偵と駆け抜ける少女の秘密*友井羊
- 2022/08/10(水) 18:08:19
凸凹女子高生コンビが事件を解決!
内気で人見知りの結×猪突猛進でトラブル多発の夏希
苦くて甘い、極上の料理×青春ミステリー いきなり文庫!
猪突猛進でトラブルを起こしがちな夏希は、高二になって調理部へ転部する。同じ時期に入部してきたのは、内気なクラスメイトの結。正反対の二人は部活で一緒にパンを焼くことに。でも、なぜか夏希たちの作ったパンだけが膨らまない! 原因を究明しようと奔走するうち、お互いのことを知っていく二人。やがて周囲との関係も変化して……。少女たちの友情がきらめく、極上の料理×青春ミステリー。
高校で起こる出来事の謎を推理し、実際に調理してみることで解き明かす。料理は化学、ということで、化学変化による料理の出来具合から、失敗の原因を突き止めたり、犯人を特定したりするのが興味深い。さらには、人間関係や、個々人の特性までをも織り交ぜ、さまざま考えさせられる内容になっている。結と夏希が周りを巻きこみながら、少しずつ成長していく姿を応援したくなる一冊だった。
病は気から、死は薬から 薬剤師毒島花織の名推理*塔山郁
- 2022/07/15(金) 16:23:19
累計12万部突破の人気シリーズ最新刊!
薬剤師の毒島さんに憧れる爽太の前に、彼女の恩人だという男性・宇月が現れた。薬のプロである毒島(ぶすじま)さんと漢方医学のプロである宇月は、その知識でトラブルを鮮やかに解決していく。記憶喪失の女性が高価な薬を捨てたのはなぜ?悪質なマルチ商法をどう止める?二人の親密さに焦る爽太。そんななか、職場の先輩・馬場さんが、有毒植物ばかりを育てる怪しい女性と婚約すると言い出し......。
毒島さん、今回は、恩人男性宇月さんとコンビで探偵役である。宇月さんも、なかなか厳しい経験をしてきた人物のようで、爽太は脅威を感じはするが、毒島さんはいつも通りの冷静沈着加減である。宇月さんが詳しい漢方医学を絡めた謎解きが、興味深く、西洋医学との根本的な考え方の違いがよく分かった。何事も過ぎたるは及ばざるがごとしである。最後の最後に、ほんの少しだけ、爽太と毒島さんの距離が縮まったか、と思わされるが、この二人のことである、このままスムーズにはいかないだろう、たぶん。次の展開が愉しみなシリーズである。
0 ZERO*堂場瞬一
- 2022/07/06(水) 10:15:42
「すごい原稿がある」――ベストセラー作家が死の間際に残した一言より始まった原稿捜索。しかしそれは、出版業界を揺るがしかねないパンドラの箱だった……「創作」の倫理をも問う問題作!
病死した作家・岩佐友は人と関わることを避け孤立していた。同郷で高校大学と同窓の作家である主人公の古谷悠が、唯一親しくしていた人物と言っても過言ではない。岩佐が亡くなった後、息子の直斗から、未発表のすごい作品がある、という話を聞き、編集者の未知とともに探すことになる。岩佐の評伝を書こうと、未発表作品を含む岩佐のことを調べて歩くうちに、古谷の純粋な興味もあって、調べは枝葉を広げ、岩佐と彼の後輩に関することへと進んでいく。読者も、古谷とともに未発表作品への興味、岩佐と後輩の関係に対する興味、孤立を選んだ岩佐本人への興味で、次の展開を早く知りたくて仕方なくなる。ラスト近くに配された、作品中の作品とも言える重苦しい章に、結局すべての謎が含まれていて、読後感を一層重くしている。岩佐にとって、人生とはいったい何のためにあったのだろうか。ずしりと胸に重い一冊である。
壊れる心*堂場瞬一
- 2022/04/26(火) 16:41:51
私は今、刑事ではない。被害者の心に寄り添い、傷が癒えるのを助ける。正解も終わりもない仕事。だが、私だからこそしなければならない仕事――。月曜日の朝、通学児童の列に暴走車が突っこんだ。死傷者多数、残された家族たち。犯人確保もつかのま、事件は思いもかけない様相を見せ始める。-文庫書下ろし-
警察官が主人公の物語である。とは言っても、刑事ではなく、犯罪被害者支援課という部署にスポットが当てられている。捜査はせず、被害者の気持ちに寄り添い、心の傷を少しでも癒して立ち直らせるための部署である。主人公の村野は、自らも事件の被害に遭って怪我を負い、捜査一課から志願して転課してきたという経緯があり、他の課員とは心構えからしていささか違っているせいか、マニュアル以上の対応をしがちではある。それがいいことなのかそうでないのかは、案件にもよるが、今回は、被害者家族にとっても、村野にとっても、他の課員たちにとっても、かなりきつい結果になったのは間違いない。被害者家族の身になってみれば、心情的には判らなくもないので、やりきれないことこの上ない。刑事課や交通課とのせめぎあいにももどかしさを感じる。正解がひとつではないだけに、さまざま考えさせられる一冊だった。
スープ屋しずくの謎解き朝ごはん 朝食フェスと決意のグヤーシュ*友井羊
- 2022/04/16(土) 07:07:48
シリーズ累計52万部突破! 謎も心もほっこりほぐす、美味しいスープミステリー、最新刊です。
会社主催の朝食フェスの運営に急遽理恵が加わることに。理恵は麻野に声をかけ、スープ屋しずくも出店することになる。
けれど突如、目玉の朝食店ブーランジェリー・キヌムラが出店を考え直したいと言い出す。
説得に行くと、店主の絹村はとある悩みを抱えていて……。
ほか、朝活トークショーに出演予定の人気ブロガーの謎の体調不良や、
開催予定地が使用禁止になるほどトラブルが続く。
理恵たちは無事に当日を迎えることができるのか!?
相変わらず麻野さんの洞察力がお見事過ぎて、ミステリの謎解き披露としてはあっけなさすぎる気もするが、料理や人とのつながりといった別の要素が充実しているので、愉しめることは請け合いである。ただ一点、麻野と理恵の関係だけがこれと言った進展を見せず、もどかしいままなので、次作では一気に詰めてほしいと願ってしまう。ついお腹が鳴りそうなシリーズである。
線は、僕を描く*砥上裕將
- 2022/02/13(日) 16:28:41
水墨画という「線」の芸術が、深い悲しみの中に生きる「僕」を救う。第59回メフィスト賞受賞作。
深い悲しみから本能的に自分を守るために、ガラスの部屋(と認識する)場所にこもり切っていた主人公の青山が、ある日偶然に出会ったひとりの老人との関りから、水墨画にのめり込み、ほんの少しずつ悲しみと向き合う術を体得し、凍った心を解きほぐせるようになるまでの日々が描かれている。水墨画という紙と墨の世界を通して、自らの内側を深く知ることで、広い世界を見ることができるようになるとは、なんということだろう。ラスト近くの「自分自身の幸福で満たされているわけじゃない。誰かの幸福や思いが、窓から差し込む光のように僕自身の中に映り込んでいるからこそ、僕は幸福なのだと思った。」という言葉が印象的である。圧倒的な肯定感のゆりかごに揺られているような心地よさを、読んでいる間中感じられる一冊だった。
7.5グラムの奇跡*砥上裕將
- 2022/01/29(土) 16:34:43
国家試験に合格し、視能訓練士の資格を手にしたにもかかわらず、野宮恭一の就職先は決まらなかった。
後がない状態で面接を受けたのは、北見眼科医院という街の小さな眼科医院。
人の良い院長に拾われた恭一は、凄腕の視能訓練士・広瀬真織、マッチョな男性看護師・剛田剣、カメラが趣味の女性看護師・丘本真衣らと、視機能を守るために働きはじめる。
精緻な機能を持つ「目」を巡る、心温まる連作短編集。
『線は、僕を描く』で第59回メフィスト賞を受賞しデビュー。
同作でブランチBOOK大賞2019受賞、2020年本屋大賞第3位に選出された作者のデビュー後第1作。
緑内障・白内障・ドライアイと、眼科にはお世話になりっぱなしのわたしとしては、とても興味深い物語である。受診のたびに受ける検査が、ここまで精緻で芸術的とさえ思えるようなものであったことに、いまさらながらに驚き、視能訓練士のみなさんに対する感謝の思いを新たにした。次回の受信の時には、おそらくいままで以上に熱のこもった視線を送ってしまうことだろう。
いささか不器用とも言える新米視能訓練士の野宮が、勤務先の眼科の先生や同僚、そこに通ってくる患者たちとの関りで、一歩ずつ視能訓練士として独り立ちしていく日々の姿を見守っていると、周りのやさしさと、野宮の、ひとつのことを突き詰める熱意に、知らず知らず応援している自分に気づく。胸のなかがあたたかくやさしくなる一冊だった。
スープ屋しずくの謎解き朝ごはん 子ども食堂と家族のおみそ汁*友井羊
- 2021/09/01(水) 16:23:16
累計40万部突破の大人気シリーズ、最新刊!
早朝にひっそり営業しているスープ屋「しずく」では、
シェフ・麻野が美味しい日替わりスープを提供し、お客の悩みを優しく解決してくれる。
ある日、評判を聞きつけ相談にやってきた青年・省吾は、麻野のスープと頭脳に惚れこみ、
自身が協力している子ども食堂に麻野もぜひ来てほしいと言い出した。
子ども食堂「はぐみ」にやってきた麻野と「しずく」常連客のOL・理恵は、
そこに通う女子中学生の家庭の悩みを見抜き、あっという間に解決してみせる。
感嘆する省吾だったが、麻野の推理はそれだけでは終わらず、
省吾が秘密を隠していると指摘した。
観念した省吾は、麻野に近づいた真の目的を打ち明ける。
今回は、心が重たくなるような話が多かった。子ども食堂がらみの、子どもとその家族の問題や、麻野の母親との問題など、他人がどこまで立ち入っていいのか、判断に迷うような出来事ばかりで、今回の謎解きはすべてうまくいったように見えるが、いつもこうはいかないだろうと思わされることも多かった。麻野と母との確執は、まだまだ解決はされないだろうと思われるが、小さいながら一歩進んだとは言えるだろう。露ちゃんの心を曇らせることが、このところ多い印象なので、次はカラッと明るい謎解きを希望したい。とはいえ、スープはいつも心がこもって丁寧で、麻野シェフが、朝も昼も夜もひとりで取り仕切っているのが心配になるほどである。次も愉しみなシリーズである。
スープ屋しずくの謎解き朝ごはん まだ見ぬ場所のブイヤベース*友井羊
- 2021/07/14(水) 18:27:35
累計33万部突破の人気シリーズ第4弾!
早朝にひっそりと営業しているスープ屋「しずく」には、今日もさまざまな悩みや謎が舞い込んでくる。
店主の娘・露の同級生が金縛りに遭い、さらには母親に幽霊が憑いている!?「おばけがきえたあとにおやすみ」。
カルガモのジビエをなぜか食べられない「野鳥の記憶は水の底に」。
亡くなった大叔父が隠したらしいお宝を探す「大叔父の宝探し」。
調理実習中に起きたスープ事件「まじわれば赤くなる」。
理恵に転職の話が舞い込む!? 「私の選ぶ白い道」など、全5話。
今回は、麻野の娘・露ちゃんがらみの物語もあって、露ちゃんの存在感もさらに増していてうれしい。いずれ父と協力して謎を解いたりしたらうれしいな、なんて妄想してみる。そして理恵は、自らのこれからを考える事態に直面し、しずくに足を運ぶ頻度もおのずと増している。周りのやきもきする気持ちをよそに、なかなか進展しない麻野と理恵の関係も、相変わらず亀の歩みではあるものの、確実に進んでいるように思えて、次はきっともう少し進展するだろうと期待させられる。次も愉しみなシリーズである。
スープ屋しずくの謎解き朝ごはん 想いを伝えるシチュー*友井羊
- 2021/07/07(水) 07:31:42
シェフ・麻野の日替わりスープが評判のスープ屋「しずく」は、早朝にひっそり営業している。調理器具の購入のため麻野と出掛けた理恵は、店の常連カップルと遭遇。結婚式を控え、仲睦まじく見えた二人だが、突如彼氏が式を延期したいと願い出る。その原因は、ゴボウ?亡き妻・静句を思う麻野への、理恵の恋も動き出す!?美味しいスープと謎に溢れた全5話収録。心温まる連作ミステリー。
今回は、シチューのように、じんわりとお腹の底からあたたかくなっていくようなテイストの物語が多かった。なかなか縮まらない麻野と理恵の距離も、ほんのちょっぴりではあるが、縮まったかな、という感もあるが、麻野の亡くなった妻・静句の存在感が増したこともあり、焦りすぎなくてもいいのかもしれないと思えるようにもなった。人は、何か自分の手に負えないことに直面し、どうしたらいいか判らなくなった時でも、一杯の心のこもったスープを食べられれば大丈夫なのかもしれないと、あたたかい気持ちにさせられる。スープ屋しずくに何度も足を運びたくなってしまう気持ちがよくわかる。次も愉しみなシリーズである。
スープ屋しずくの謎解き朝ごはん 今日を迎えるためのポタージュ*友井羊
- 2021/06/27(日) 16:39:37
シェフ・麻野が日替わりで作るスープが自慢のスープ屋「しずく」は、早朝にひっそり営業している。常連客のOL・理恵は、新婚の上司・布美子の新居へ遊びに行く。順調そうに見えたふたりだが、夫から布美子の様子がおかしいと相談を受け…(「モーニングタイム」)。ほか、狩猟中に奇妙な体験をする「山奥ガール」、ひきこもりの友人が抱える真相を探る「レンチェの秘密」など、心温まる全4話。
今回も、見るからにおいしそうなスープや料理がたくさん出てきて、垂涎である。そして、最終的には心温まる結果にはなるが、ほろ苦い思いになることも多い。人の心というのは、本当に扱いの難しいものであると、改めて感じさせられる。だが、しずくに集まる客たちは、どんなことがあっても捻じ曲がることがなく、真っ直ぐに考える人たちなので、最後にはうまいこといくのだろう。麻野の名探偵ぶりもさすがだが、露ちゃんの人を見る目の確かさにも舌を巻く。次はどんなスープでどんな謎だろうと愉しみになるシリーズである。
スープやしずくの謎解き朝ごはん 心をつなぐスープカレー*友井羊
- 2021/04/12(月) 13:36:10
「スープ屋しずく」のシェフ・麻野がこしらえるスープにかかれば、お客の心も不思議な謎もあっという間にほぐれます!
リモート会議中に同僚がつぶやいた「人参がワープした……」という言葉の謎や、閉店を決めた洋食店「えんとつ軒」店主の真意など、
思わずスープが食べたくなる、美味しくて優しい書き下ろし連作短編全5話収録。
なんとシリーズ六6作目だという。1作目以降読んでいなかったのだが、時間の流れはあるものの、一話完結なので、愉しむのには何の支障もない。見た目にはシンプルだが、丁寧な下ごしらえによって、地味深く奥行きのある味わいのさまざまなスープが文字で味わえるのも変わらない魅力である。麻野の謎の解きほぐし方と相まって、お腹の底が温まる心地になれる一冊でもある。
毒をもって毒を制す 薬剤師・毒島花織の名推理*塔山郁
- 2021/04/01(木) 07:23:13
薬剤師の毒島さんは、薬にまつわる不思議な出来事をまるで名探偵かのように鮮やかに解決する。アルコール依存症の男性が急に「酒がまずくなった」と言い出したのはなぜ? 赤ん坊のための様々な薬を、あまりにも頻繁に薬局に取りに来る若い母親。彼女の真の目的は? いつものように鮮やかな推理を見せる毒島さんだったが、しかし彼女のもとにも新型コロナウイルスの影が忍び寄っていた。毒島さんに憧れるホテルマン・爽太が、仕事中高熱を出した同僚と濃厚接触したとして、ホテルに隔離されたのである。そして、それを機にホテル従業員が相次いで高熱を出し……。
今回も毒島さんの知識と熱意のおかげで、いくつもの事案が解決される。2021年1月に出版されているので、まさに、全世界がコロナ禍に騒然とし始めたころに書きはじめられたものと思われ、まだ未知の恐ろしさに満ちていて、対処法が模索されつつあるころを想起させられる舞台設定でもあるので、ストーリーの本筋とは別の興味もある。とはいえ、毒島さんと爽太の関係は、ほぼ進展せず、毒島さんの気持ちがなかなか読めないのがもどかしくもある。次作では少しは進展してほしい気もするが、どうなることだろう。さらなる毒島さんの活躍が愉しみなシリーズである。
甲の薬は乙の毒*塔山郁
- 2020/09/21(月) 07:49:44
薬剤師の毒島さんはその知識を活かし、これまで数々の薬にまつわる不思議な出来事を解決してきた。きちんと管理しているはずの認知症の薬が一種類だけ消えるのはなぜ?筋トレに目覚めた青年が抱える悩みとは?ホテルマンの爽太はいつものように毒島さんに相談をするが、ある日から彼女は「今までは言わなくていいことを言い過ぎていた」と言って推理を教えてくれなくなり…。ウイルスと薬の関係や糖尿病対策など、生活に役立つ知識も満載の薬剤師ミステリー!
薬剤師の毒島花織が主人公のシリーズである。毒島さんに思いを寄せるホテルマン・水尾爽太の目線で語られる、いわゆる日常の謎ミステリなので、派手な事件が起こるわけではないが、薬がらみなだけに、ときには命にかかわることもある。爽太の周りで起きた出来事の話を聞いて、毒島さんが薬剤師としての知識を総動員して謎を解き明かすのだが、薬剤オタクっぽくもある毒島さん、結構過激な行動に出たりもして、目が離せないところもあって、ハラハラさせられる。文系頭でも、興味深く楽しく読める一冊である。
毒殺魔の教室*塔山郁
- 2019/12/06(金) 13:29:24
那由多小学校児童毒殺事件―男子児童が、クラスメイトの男子児童を教室内で毒殺した事件。加害児童は、三日後に同じ毒により服毒自殺を遂げ、動機がはっきりとしないままに事件は幕を閉じた。そのショッキングな事件から30年後、ある人物が当時の事件関係者たちを訪ね歩き始めた。ところが、それぞれの証言や手紙などが語る事件の詳細は、微妙にズレている…。やがて、隠されていた悪意の存在が露わになり始め、思いもよらない事実と、驚愕の真実が明かされていく。『このミステリーがすごい!』大賞2009年、第7回優秀賞受賞作。
三十年前の6年6組で起こった毒殺事件に関する聴き取りが描かれる前半。立場や役割、当事者との関わり方によって、記憶には少しずつずれがある。それが意図的なものなのかそうではないのか。読者はそれも含めて注意深く読み進めることになる。一歩ずつ真相に近づいているのか、いないのか。それさえも判然としない中、僅かずつではあるが、新しい事実もあぶりだされ、割に早い段階で事件の仕組みの大枠は判ってくる。だが、さらに読み進めると、想像以上の企みが隠されていたことも見えてきて、慄然とさせられる。そしてさらにエピローグとして配された小説の抜粋に、混乱させられるのである。一体どういうことなのだろう。薄皮を剥ぐように真実に近づきながら、どんどん遠ざかっているような心地にもなる一冊だった。
- | こんな一冊 トップへ |
- 次ページへ»