犬の報酬*堂場瞬一

  • 2017/07/17(月) 13:27:09

犬の報酬
犬の報酬
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堂場 瞬一
中央公論新社
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「企業の〈失敗〉に対し、男たちは如何に動いたか」
大手メーカーのタチ自動車は、自動運転技術の開発に取り組んでいた。政府の自動運転特区に指定されている千葉・幕張での実証実験中、実験車両が衝突事故を起こす。軽微な事故ということもあり、警察は発表しなかった。ところが数日後、この事故に関するニュースが東日新聞に掲載される。東日新聞社会部遊軍キャップの畠中孝介に情報を流したのは、いったい誰なのか? トラブル対応時の手際の見事さから社内で「スーパー総務」と揶揄されるタチ自動車総務課係長・伊佐美祐志を中心に、「犯人探し」のプロジェクトチームが発足するが……。 「事故隠し」を巡る人間ドラマ――話題の「自動運転」のリアルに迫る、最新で渾身の経済エンタメ長篇。


自動運転の開発中の事故、事故隠し、警察と企業との癒着、内部告発、社内の対策の方向性、取材する新聞記者の立場、などなど、要素が盛りだくさんである。自動車会社の総務課の伊佐美には、情報提供者がおり、新聞社の畠中にも当然ネタ元がいる。内部告発者を探し出すことを第一義としたタチ自動車と、同社の方針を良しとしない東日新聞の対決の様子が描かれる。畠中のネタ元が誰かは、割と早い段階で薄々想像がつくが、それが最後にこう言う展開になるとは想像ができなかった。ただ、そこの掘り下げ方がもう一段階深かったら、もっと興味をそそられたかもしれないとも思ってしまう。なんとなく尻切れトンボで終わってしまった感が無きにしも非ずなのである。個人の持つ価値観について、改めて考えさせられた一冊でもあった。

錯迷*堂場瞬一

  • 2017/05/27(土) 16:50:06

錯迷
錯迷
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堂場 瞬一
小学館
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順調にキャリアを重ねてきた神奈川県警捜査一課課長補佐の萩原哲郎に突然の異動命令が下された。行き先は鎌倉南署。それも署長としての赴任。異例の昇格人事の裏には事情があった。それは女性前署長の不審死の謎を解くこと。署内の結束は固く、協力者を得られないまま、孤独の秘密捜査を始める萩原。そして忘れ去られた過去の未解決殺人事件との関連が浮上して……。著者渾身の本格警察小説。


出世頭と言ってもいい萩原に、鎌倉南署の所長としての移動命令が下された。前署長・桜庭の突然の死の真相を究明するという秘密の特命を帯びた移動であることもあり、署員との関係の築き方に悩む萩原の姿に、ついつい同情してしまう。思わせぶりな態度を見せる署員たち、常に監視されているような居心地の悪さ、言いたいことがあるのに踏ん切りをつけられずにいる女性警察官。そこに新たな殺人事件が発生し、五年前の未解決事件につながっている疑いが浮上する。後半は、パズルのピースがパタパタとはまっていく快感もあるが、起こった事実に対する驚きと、その後の出来事のやるせなさに胸がふさがれる。警察内部の複雑な事情と、署員たちの気持ちのせめぎ合いが興味深い一冊でもある。

独走*堂場瞬一

  • 2017/04/10(月) 18:58:09

独走
独走
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堂場 瞬一
実業之日本社
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五輪柔道金メダリストの沢居弘人は、スポーツ省から、国の特別強化指定選手「SA」の陸上選手・仲島雄平のサポートを命じられる。仲島は実力はあるもののメンタルが弱いという致命的な弱点があった。「金メダル倍増計画」を掲げ莫大な予算でアスリートを管理育成する国で、選手は何を目的に戦うのか。オリンピック、ドーピング問題、引退後の人生設計…現代スポーツ界が抱える様々なテーマを内包して物語は疾走する!!


オリンピックで金メダルを増産するために、スポーツ省があらゆる手を尽くす時代の物語である。有望な選手を早くから囲い込み、税金をつぎ込んで贅沢な環境を提供し、高度なトレーニングを受けさせる代わりに、始終監視下に置かれ、決められたレールから外れるとSA指定を外され、さらにそれまでの経費を返済しなければならないという契約に縛られている。金メダルの最有力候補としてSAに選ばれた陸上選手・仲島は、実力には目を瞠るものがあるが、メンタルが弱すぎるため、手厚いサポートがつけられる。仲島の速く走りたいという本能的な欲求と、オリンピックの金メダルというお仕着せの目標のための走ること以外のわずらわしさ、などなど、さまざまな問題を絡めながら、オリンピックの在り方から、選手自身の人生の選択まで、考えさせられることの多い一冊である。

スイーツレシピで謎解きを*友井羊

  • 2017/03/29(水) 17:06:01


高校生の菓奈は人前で喋るのが苦手。だって、言葉がうまく言えない「吃音」があるから。そんな菓奈が密かに好意を寄せる真雪は、お菓子作りが得意な究極のスイーツ男子。ある日、真雪が保健室登校を続ける「保健室の眠り姫」こと悠姫子のために作ったチョコが紛失して…。鋭い推理をつまりながらも懸命に伝える菓奈。次第に彼女は、大切なものを手に入れていく。スイートな連作ミステリー。


タイトルから、イケメンのスイーツ男子、真雪(まさゆき)くんが探偵役なのかと思いきやさにあらず。吃音のために人とコミュニケーションをとるのが苦手で、なるべく他人と関わらないようにしている女子の菓奈なのである。なぜか保健室登校の一つ年上の美少女・悠姫子さんと、真雪くんと、ある事件に関わったことからなんとなく保健室で話すようになり、それ以後、菓奈に謎解きの依頼が舞い込むようになるのだった。謎解きを別にしても、よだれが溢れるくらいおいしそうなお菓子がたくさん出てきて、それだけでも愉しめる。さらに菓奈のお菓子作りの上達や、お菓子に関わることからの閃き、そして真雪くんへの思いや、人間関係の変化など、見どころ満載の一冊でもある。最後に配された「おまけ」が微笑ましい。

解*堂場瞬一

  • 2016/05/10(火) 17:04:01

解
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堂場 瞬一
集英社
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「俺たちは同志だ。俺たちは、日本を変えていく」平成元年、夢を誓った二人は社会に飛び出す。大蔵官僚、IT会社社長を経て政治家に転身した大江。新聞記者から紆余曲折を経て、人気作家になった鷹西。だが、二人の間には、ある忌まわしい殺人事件が横たわっていた―。1994年、封印された殺人の記憶。2011年、宿命の対決が幕を開ける。バブル崩壊、阪神・淡路大震災、IT革命、そして3.11。「平成」を徹底照射する、衝撃の“問題作”。


1994年から2011年の間の日本という国の時代の流れと空気感がとてもよく伝わってくる物語だった。大江と鷹西という大学の同期生がそれぞれ社会の別の分野で活躍するようになる様子にも興味を掻き立てられ、その友情と信頼が、いつまでも続くようにと願うのである。だが、混迷を深める国を立て直すためとかなんとか、もっともらしい理屈をつけたとしても、その一点をうやむやにしてしまうことが、どうしても腑に落ちず、消化不良な後味の悪さが残ってしまう。むしろここから先を読みたいと思ってしまう一冊でもある。

Killers 下*堂場瞬一

  • 2016/01/13(水) 21:06:53

Killers(下)
Killers(下)
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堂場 瞬一
講談社
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渋谷が生まれ変わる時、「Killers」も新たな「使者」を送る。正義を描いてきた著者が、書かずにはいられなかった集大成長篇!


下巻で描かれるのは主に現在である。捜査陣は代替わりし、当時の担当で犯人に殺された生沢の孫娘・薫が刑事になって、未解決のまま、なお続いていると思われる十字殺人の犯人を追っている。長野保が犯人だろうということは判っていながら、どうしても本人にたどり着けず、いたずらに被害者が増えていくのは、警察としてはどれほど歯がゆいことだろう。しかも、過去の捜査の穴がいまごろになって見つかっ足りもするのでなおさらである。だが、どれだけ読んでも、長野保の心理状態がさっぱり理解できない。しかも事件はまったく終わらないのである。面白かったが、後味の悪い一冊である。

Killers 上*堂場瞬一

  • 2016/01/09(土) 18:20:56

Killers(上)
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堂場 瞬一
講談社
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殺人者は、いつの時代にも存在する。

2020年東京五輪に向けて再開発が進む渋谷区のアパートで、老人の他殺体が発見され、かつての名家の人間だったことが判明する。いったい、この男は何者なのか――。
五十年、三世代にわたる「Killers」=殺人者の系譜と、追う者たち、そして重なり合う渋谷という街の歴史。

警察小説の旗手・堂場瞬一のデビューから100冊目を飾る、記念碑的文芸巨編1500枚!


東京オリンピックとは言っても、前回のオリンピックの時代が上巻の大方を占めている。老人ばかりが被害に遭った連続殺人事件が起こり、被害者の額には決まって十字のしるしがつけられていた。犯人は政治家の次男で、彼の目線で語られる部分と、警察の側から語られる部分とで物語は進む。舞台は渋谷だが、時間経過はものすごく長く、ときおり時代が一気に進み、過去を振り返る描写が差し挟まれているのが、もどかしさと空恐ろしさを増幅させる。使命感さえ帯びて殺人を続け、あるいは唆す様子は見るだけで虫唾が走るが、事態は少しずつ変化している印象でもある。上巻では、今後の展開が読めないが、どのように決着がつけられるのか、早く下巻も読みたくなる一冊である。

十字の記憶*堂場瞬一

  • 2015/10/06(火) 16:57:59

十字の記憶
十字の記憶
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堂場 瞬一
KADOKAWA/角川書店 (2015-08-29)
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新聞社の支局長として20年ぶりに地元に戻ってきた記者の福良孝嗣は、着任早々、殺人事件を取材することになる。被害者は前市長の息子・野本で、後頭部を2発、銃で撃たれるという残酷な手口で殺されていた。一方、高校の陸上部で福良とリレーのメンバーを組んでいた県警捜査一課の芹沢拓も同じ事件を追っていた。捜査が難航するなか、今度は市職員OBの諸岡が同じ手口で殺される。やがて福良と芹沢の同級生だった小関早紀の父親が、20年前に市長の特命で地元大学の移転引き止め役を務め、その後自殺していたことがわかる。早紀は地元を逃げるように去り、行方不明になっていた…。


新聞記者と刑事が、かつて見過ごしてしまった同級生の心を救おうと、互いの立場を超えて奔走する物語であり、大元に横たわる市長一族の利権と市の私物化を暴く物語でもある。しかしながら、なんとなくそれぞれの要素に対する動機づけが弱いと感じてしまうのはわたしだけだろうか。いまひとつのめり込めなかった印象である。なんとなくもやもやが残る一冊だった。

夏の雷音*堂場瞬一

  • 2015/08/30(日) 16:35:58

夏の雷音
夏の雷音
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堂場 瞬一
小学館
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神保町の楽器店から消えた1億2000万円のヴィンテージギター。それはアメリカの伝説のミュージシャンが所有していたものだった。オークションで落札した楽器店主は謎の死を遂げるが…。生まれも育ちも神保町の大学准教授・吾妻幹は事件を追い始めるが、愛する街で起きた殺人事件は思いも寄らぬ展開を見せ始めていく。実在する食の名店も多数登場。一気読み必至の神保町ミステリー。


ギターのことはまったく判らないが、オークションで1億2000万円で競り落としたのが、後輩の楽器店店主・安田で、しかもそれが盗まれたと知って、明央大学准教授の吾妻幹(あずま かん)は、ギター探しに協力することになる。そんな矢先に安田が殺され、吾妻はヴィンテージギターにまつわる裏の動きを調べる羽目になるのである。神保町とギターに馴染みのある人にとっては、はらはらどきどきにわくわくも加わって何倍も愉しめそうだが、どちらにも親しんでいないわたしとしては、個人的にはさほどのめり込めはしなかったというのが正直なところである。吾妻先生と父親との今後の関係には興味があるので、吾妻先生のこれからは少し見てみたいと思わされる一冊だった。

さえこ照ラス*友井羊

  • 2015/06/16(火) 16:48:09

さえこ照ラス
さえこ照ラス
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友井 羊
光文社
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口と態度は悪いが遣り手の美人弁護士、沖縄の空の下で大奮闘!
沖縄本島北部の法テラスに派遣されてきた弁護士・阿礼沙英子。
オジィオバァの方言通訳を命じられた事務員の大城を従え、縁もゆかりもない琉球の地で、厄介な民事事件を率直すぎる発言で一刀両断にします!
異色の法律相談ミステリー。


「オバァの後遺障害認定事案」 「軍用地相続の調停事案」 「モアイの相談」 「誘拐事件の国選弁護」 「ユタの証明」 「親権問題の調停事案」 「オジィとオバァの窃盗事件」

沖縄独特のゆるい時間の流れと、あくまでも凛と自分を崩さない弁護士・沙英子のギャップが面白い。そして、ウチナンチューと沙英子の間で奔走する大城もいい味を出しているし、有能な事務員の西崎さんも素敵である。法テラスに持ち込まれる案件は、沖縄ならではのものもあり、依頼人の名字も沖縄らしくて、沖縄を満喫できる気分である。冷たいようにも見えるが意外に熱血であり、始めたことはきちんと最後までけりをつけないと気が済まない気性もあり、最後はびしっと決めてくれる沙英子にほれぼれする。次もあればいいなと思わせる一冊である。

スープ屋しずくの謎解き朝ごはん*友井羊

  • 2015/03/08(日) 08:35:30

スープ屋しずくの謎解き朝ごはん (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)スープ屋しずくの謎解き朝ごはん (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
(2014/11/07)
友井 羊

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東京のとある一角。どこの店も「close」の看板がかかる早朝に、スープ屋「しずく」は、こっそり営業している。フリーペーパー制作の仕事をする理恵はある朝、しずくでポトフを口にした途端に、しずくの虜になった。
職場で起きた盗難事件と対人関係で悩み、食欲も減退していた理恵。店主の麻野に悩みを抱えていることを見抜かれて話すと、麻野は推理を繰り広げ、鮮やかに解決する!


「嘘つきなボン・ファム」 「ヴィーナスは知っている」 「ふくちゃんのダイエット奮闘記」 「日が暮れるまで待って」 「わたしを見過ごさないで」

スープって、想像するだけで、身も心も温めて解いてくれるような気がする。しかもとびきりおいしい日替わりスープが、早朝ひっそりオープンしている静かなお店で食べられたら、幸福感に包まれること間違いない。しかも店主は穏やかで、自然に客の状態に寄り添ってくれるとしたら、これ以上のしあわせはないだろう。いままでほとんど知られていなかったのが不思議なくらいである。少しずつ増えてくる客たちの日常の困りごとを、話を聞くだけで解きほぐし、真実を明らかにしてしまう彼に、つい誰もが自分をさらけ出してしまうのもうなずける。だが、小学生のひとり娘と暮らす店主には、何か胸に仕舞った悲しみがあるようでずっと気になりながら読み進めることになるのだが、最後の物語でそれがわかると、胸の中に切ないあたたかさがじんわり広がるのである。丁寧に作ったスープを飲みたくなる一冊でもある。

埋もれた牙*堂場瞬一

  • 2015/02/09(月) 19:40:35

埋れた牙埋れた牙
(2014/10/15)
堂場 瞬一

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ベテラン刑事の瀧靖春は、自ら願い出て、警視庁捜査一課から生まれ育った吉祥寺を管轄する武蔵野中央署に移った。ある日、署の交通課の前でうろうろする大学時代の旧友、長崎を見かける。事情を聞くと、群馬から出てきている姪で女子大生の恵の行方がわからなくなっているという。新人女性刑事の野田あかねの“教育”もかねて、まず二人だけの「捜査」を始めると、恵の失踪は、過去の未解決事件へとつながっていった――。

「ここも、特別な街じゃないんだ。どんな街にも、一定の割合で悪い奴はいるんだよ」

都市でもなく、地方でもない――この街には二つの水流がある。「住みたい街」として外部を惹きつける、上品な水流。だがその下には、この地で長年暮らしてきた人たちが作った土着的な水流がある。

「私は、この街の守護者でありたいと思っている」

愛する街とそこに住む人々を守るために――「地元」に潜む牙に、独自の捜査手法で刑事が挑む、異色の警察小説が誕生!


吉祥寺という人気の街を舞台にしながら、物語は古くからの住人の「地方ならではの」と言ってもいいようなしがらみや地元意識に根差しているのがミスマッチでもあって興味深い。吉祥寺という街をひと皮剥いた感じでもある。そしてそこで起こっている事件は、警察が見逃していた古い案件から繋がるものだった。ベテラン刑事の瀧と、新人の野田あかねとの噛み合わない心情も興味深い。事件の真相自体は、ある程度想像がつくものであるが、野田あかねの今後を見てみたい気がする一冊である。

警察(サツ)回りの夏*堂城瞬一

  • 2014/11/09(日) 18:42:27

警察回りの夏警察回りの夏
(2014/09/26)
堂場 瞬一

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甲府市内で幼い姉妹二人の殺害事件が発生。盗みの形跡はなく、母親は消息不明。
マスコミは「虐待の末の殺人では」と報道を過熱させていく。日本新報甲府支局のサツ回り担当の南は、
この事件を本社栄転のチャンスにしようと取材を続けていた。
だが、殺害された姉妹の祖父が度重なるマスコミの取材攻勢によって追いつめられていく。
世間のムードは母親叩きからマスコミ叩きへと一変。粘り強く取材を続けていた南は、警察内部からの
リークで犯人につながる重要な情報を掴む。だがそこには、大きな罠が待ち受けていた――。
やがて日本新報本社では、甲府2女児殺害事件の報道に関する調査委員会が立ち上げられる。
元新聞記者でメディア論研究者の高石が調査委員会委員長に抜擢。事件報道の背景を徹底調査しはじめるが……。
果たして真相はどこにあるのか? 報道の使命とは何か? 現代社会に大きな問いを投げかける、渾身の書き下ろし事件小説。


世間の興味を煽る要素のある殺人事件を、警察ではなく新聞社にスポットを当てて描かれた物語である。読み進むと、事件そのものが本筋ではなく、とんでもないはかりごとが背後に隠れているのが見えてくる。読めば読むほど新たな興味が掻き立てられ、真相を知りたい欲求がいやでも高まる。それを高石をはじめとする調査委員会の面々が代わりにやってくれるという感じである。事件の真犯人が判っても、裏で進んでいたはかりごとがすっきりしたわけではないが、一応カタルシスは得られる。警察と報道の関係、ネットの風評など、いろいろ考えさせられる一冊でもある。

ボランティアバスで行こう!*友井羊

  • 2014/07/17(木) 17:02:29

ボランティアバスで行こう!ボランティアバスで行こう!
(2013/04/10)
友井 羊

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『このミステリーがすごい! 』大賞優秀賞受賞作家・友井羊のデビュー第二作目! 著者自身もボランティアとして足を運んだ、震災・被災地をテーマ、舞台にしたミステリー。東北で大地震が発生、日本各地からは自衛隊救助をはじめ募金や物資などの支援や、民間団体がバスをチャーターしてボランティアに参加する“ボランティア・バス"が盛んに行われる。就職活動のアピールポイント作りのため、ボランティア・バスを主催することにした大学生の和磨。父が行方不明になった姉弟と知り合いになった女子高校生の紗月。あることから逃亡するため、無理やり乗り込んだ陣内など、さまざまな人がバスに乗り合わせる。それぞれの目的は果たせるのか。被災地で出会う謎と事件が、バスに奇蹟を起こす。


ボランティアバスに乗り合わせた人たちの物語である。被災地にボランティアに行こうと思い定めるまでの経緯、実際に被災地に行って出会った人や出来事、そしてその事情などなど。ボランティアを通して人が成長する物語だとばかり思って読み進めていた。ある意味それも正解ではあるのだが、さらに時間空間を超えたつながりが仕掛けられていたとは。エピローグで一気にぞくぞくした一冊である。

僕はお父さんを訴えます*友井羊

  • 2014/07/16(水) 16:52:07

僕はお父さんを訴えます (『このミス』大賞シリーズ)僕はお父さんを訴えます (『このミス』大賞シリーズ)
(2012/03/09)
友井 羊

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何者かによる動物虐待で愛犬・リクを失った中学一年生の向井光一は、同級生の原村沙紗と犯人捜しをはじめる。「ある証拠」から決定的な疑惑を入手した光一は、真相を確かめるため司法浪人の久保敦に相談し、犯人を民事裁判で訴えることに。被告はお父さん―母親を喪った光一にとっての、唯一の家族だった。周囲の戸惑いと反対を押して父親を法廷に引き摺り出した光一だったが、やがて裁判は驚くべき真実に突き当たる!2012年第10回『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞受賞作。


タイトルからして印象的だが、中学一年の光一が実際に父親を訴える物語だと判ってさらに衝撃は増す。推理小説好きのクラスメイトの沙紗(さーしゃ)や弁護士を目指す敦、父と離婚調停中の義母・真季の助けを借りて、裁判に漕ぎつけるのだが、そこで起こったことは、思わず目も耳も塞ぎたくなる事実が明らかにされることだった。たった13歳の少年をここまで追い詰めた父親を許せない思いでいっぱいである。光一がまっすぐ成長して行ってくれることを祈らずにはいられない一冊である。