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夢見る帝国図書館*中島京子

  • 2019/07/27(土) 16:49:41

夢見る帝国図書館
夢見る帝国図書館
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中島 京子
文藝春秋
売り上げランキング: 2,415

「図書館が主人公の小説を書いてみるっていうのはどう?」
作家の〈わたし〉は年上の友人・喜和子さんにそう提案され、帝国図書館の歴史をひもとく小説を書き始める。もし、図書館に心があったなら――資金難に悩まされながら必至に蔵書を増やし守ろうとする司書たち(のちに永井荷風の父となる久一郎もその一人)の悪戦苦闘を、読書に通ってくる樋口一葉の可憐な佇まいを、友との決別の場に図書館を選んだ宮沢賢治の哀しみを、関東大震災を、避けがたく迫ってくる戦争の気配を、どう見守ってきたのか。
日本で最初の図書館をめぐるエピソードを綴るいっぽう、わたしは、敗戦直後に上野で子供時代を過ごし「図書館に住んでるみたいなもんだったんだから」と言う喜和子さんの人生に隠された秘密をたどってゆくことになる。
喜和子さんの「元愛人」だという怒りっぽくて涙もろい大学教授や、下宿人だった元藝大生、行きつけだった古本屋などと共に思い出を語り合い、喜和子さんが少女の頃に一度だけ読んで探していたという幻の絵本「としょかんのこじ」を探すうち、帝国図書館と喜和子さんの物語はわたしの中で分かち難く結びついていく……。
知的好奇心とユーモアと、何より本への愛情にあふれる、すべての本好きに贈る物語!


混乱と混沌の時代背景、上野という場所、図書館や動物園というなくても生死にかかわらない施設にスポットが当てられ、さらに、混迷の時代に翻弄されるように、幼い時代を過ごし、いままた上野で人生の終盤を過ごしている喜和子さんという一人の女性とその思いを知ろうとすることで見えてくる、さまざまな誤解や真実が切なくもありやり切れなくもある。それでも、みんなが喜和子さんのことを考え、心を過去にさまよわせたり、遠い地に思いを馳せたりすることで、新たに生まれた人間関係もあり、最後には、喜和子さんの望む形に少しは近づけたのかもしれない、とも思わされるのである。図書館というものを通して、ひとりの人の一生の複雑さをも考えさせられる一冊だったような気がする。

笑え、シャイロック*中山七里

  • 2019/07/12(金) 16:42:13

笑え、シャイロック (角川書店単行本)
KADOKAWA (2019-05-31)
売り上げランキング: 84,881

帝都第一銀行に入行し、都内の大型店舗に配属が決まった結城。そこはリーマン・ショック後に焦げついた債権の取り立て部署、上司となるのは伝説の債権回収マンとして悪名高い山賀だった。百戦錬磨の山賀の背中を見ながら、地上げ屋、新興宗教、ベンチャー企業など、回収不可能とされた案件に次々と着手せざるを得ない結城。そんなある日、山賀が刺殺体で見つかる。どうやら帝都第一銀行の闇を山賀が握っていたようなのだ―。“どんでん返しの帝王”が放つ、ノンストップ・金融ミステリー!


はらはらどきどきしながら最後はすっと胸がすくストーリーである。債権回収マンの結城がどんな手を打ち出してくるかに、とても興味を惹かれ、毎回それがとんでもないものなので、債務者の度肝を抜きつつ共感も呼んでうまくいってしまうという、お定まりのような展開ではあるものの、それがかえって心地よくもある。ただ、残念なのは、元祖シャイロックの山賀が、早い段階で消えてしまったことである。彼の元祖たるゆえんをもっとじっくり味わいたかった。とはいえ、過酷で非情ながら、万事うまくいってしまう展開を愉しめる一冊である。

椿宿の辺りに*梨木香歩

  • 2019/06/29(土) 16:48:39

椿宿の辺りに
椿宿の辺りに
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梨木 香歩
朝日新聞出版
売り上げランキング: 1,090

深遠でコミカル、重くて軽快。
著者五年ぶりの傑作長編小説。

自然、人間の体、こころの入り組んだ痛みは
家の治水、三十肩、鬱と絡み合い、主人公を彷徨えるツボ・椿宿へと導く。

皮膚科学研究員の佐田山幸彦は三十肩と鬱で、従妹の海子は階段から落ち、ともに痛みで難儀している。なぜ自分たちだけこんな目に遭うのか。
外祖母・早百合の夢枕に立った祖父から、「稲荷に油揚げを……」の伝言を託され、山幸彦は、鍼灸師のふたごの片われを伴い、祖先の地である椿宿へと向かう。
屋敷の中庭には稲荷の祠、屋根裏には曽祖父の書きつけ「f植物園の巣穴に入りて」、
明治以来四世代にわたって佐田家が住まいした屋敷には、かつて藩主の兄弟葛藤による惨劇もあった。
『古事記』の海幸山幸物語に3人目の宙幸彦が加わり、事態は神話の深層へと展開していく。
歯痛から始まった『f植物園の巣穴』の姉妹編。


土地に、家に、一族の一員に、連綿と流れ続ける気脈のようなものがあり、それは古の神代のころに始まったもので、言ってみれば、源流から流れ出した川のように、代々受け継がれていくものなのかもしれない。宿命と呼んでも間違いではないだろう。いまここにある自分の身体の痛みさえ、昔々の何事かが差し障っているものかもしれず、大元を解きほぐさないことには、如何ともしがたい。山幸彦という曰くありそうな名前を授けられた佐田山幸彦のルーツを探る物語でもあるが、読者は丸ごとその世界観に呑み込まれ、視えないものまで見えてきそうな心持ちになってくる。痛みの治療の旅であり、一族の果たすべき何かを探す旅でもあり、いまある自分の存在を知る旅でもあり、時間を超えた旅でもあるように思われる。不思議な世界にどっぷり浸かるような一冊だった。

魔女は甦る*中山七里

  • 2019/05/20(月) 16:41:55

魔女は甦る
魔女は甦る
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中山 七里
幻冬舎
売り上げランキング: 872,696

埼玉県の長閑な田園地帯で、肉片と骨の屑のようなバラバラ死体が発見された。被害者は現場近くにある製薬会社・スタンバーグ製薬に勤めていた桐生隆。仕事ぶりも勤勉で質素な暮らしを送っていた青年は、なぜ殺されなければならなかったのか?埼玉県警捜査一課・槙畑啓介は捜査を続ける過程で、桐生が開発研究に携わっていた“ヒート”と呼ばれる薬物の存在を知る。それは数ヶ月前、少年達が次々に凶悪事件を起こす原因となった麻薬だった。事件の真相に迫るほど、押し隠してきた槙畑の心の傷がえぐり出されていく。過去の忌まわしい記憶を克服し、槙畑は桐生を葬った犯人に辿り着けるのか。


『ヒートアップ』を先に読んでしまったが、それでも充分に恐ろしさに戦慄させられた。国は、都合の悪いことはすべて隠そうとするが、現実にも知らされていないだけで、本当は恐ろしいことがすぐそこに迫っているように思えてきて、心底震える。極近い関係者しか知らない恐怖が、ほかにも多数ありそうで疑心暗鬼に駆られる。本作の事案の場合は、良心とかつての悔恨を原動力に、戦ってくれる警察官の存在で、爆発的に恐怖が広がる危険はいったんは回避されたが続く物語のことを思えば、決して穏やかではいられない。現実社会では、科学者の良心を切に願うのみである。息ができなくなる心地の一冊だった。

ヒートアップ*中山七里

  • 2019/05/15(水) 16:53:05

ヒートアップ
ヒートアップ
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中山 七里
幻冬舎
売り上げランキング: 889,004

七尾究一郎は、厚生労働省医薬食品局の麻薬対策課に所属する麻薬取締官。警視庁のみならず関東一円の捜査員の中で有名な存在だ。その理由は、おとり捜査を許された存在であることの他に、彼の特異体質が一役買っている。現在は、渋谷など繁華街の若者の間で人気の違法薬物"ヒート"の捜査に身を投じている。"ヒート"は、ドイツの製薬会社スタンバーグ社が局地戦用に開発した兵士のために向精神薬で、人間の破壊衝動と攻撃本能を呼び起こし、兵器に変えてしまう悪魔のクスリ。それによって、繁華街の若者チームの抗争が激化しており、数ヶ月前敬愛する同志・宮條が殉職した。絶望と怒りを胸に捜査を進める七尾に、ある日、広域指定暴力団の山崎から接触があった。目的は、ヒート売人・仙道の捜索について、手を組まないかというものだった。山崎の裏の狙いに気を付けながら、仙道確保のため情報を交換し共闘することを約束した七尾だったが、ある日仙道が殺される。そして、死体の側に転がっていた鉄パイプからは、七尾の指紋が検出された……。犯行時刻のアリバイがなく、特異体質のせいでヒート横領の動機があると見なされ拘留された七尾。これは山崎の仕掛けた罠なのか! ?


どうやら『魔女は甦る』の続編のようである。うっかりこちらを先に読んでしまった。何やら現実に起こりそうな事案であり、戦々恐々としながら読み進んだ。特異体質を持つ麻薬取締官・七尾と、反社会的団体のNo3・山崎が大同の元小異を捨てて、今回限りの共闘を組んだ。二人のキャラクタや駆け引きが興味深い。ヒートを撲滅し、売人を逮捕するという単純なストーリーではなく、事はもっと大きな枠組みの中で起こっているのだった。後半は、これでもかというほど凄惨なアクションシーンが続き、さらに、日本が舞台だとはにわかに信じられないような展開になる。この辺りはもう想像の域をかなり超えてくる。だが、現在の世の中を見ると、絶対にありえないとは言えないところが空恐ろしいところでもある。読むのに覚悟がいる一冊である。

もういちどベートーヴェン*中山七里

  • 2019/05/06(月) 16:45:21

もういちどベートーヴェン
中山 七里
宝島社
売り上げランキング: 46,412

ピアニストの道を挫折した高校生の岬は、司法試験をトップの成績で合格して司法修習生となった。
彼は、ベートーヴェンを深く愛する検事志望の同期生・天生高春と出会う。
天生は岬の才能に羨望を抱き嫉妬しつつも、その魅力に引き込まれていき……。
いっぽう、世間では絵本画家の妻が絵本作家の夫を殺害したとして、
妻を殺害容疑で逮捕したというニュースをはじめ、3件の殺人事件を取り上げる――。
それぞれの物語の全貌が明らかになったとき、「どんでん返しの帝王」中山七里のトリックに感嘆する!


司法修習生の岬洋介も、その容姿と頭脳とで周囲を圧倒している。だが、褒められても喜ぶどころか嫌がっているようにすら見える。普通なら嫌味なことこの上ないのだが、どういうわけか、彼は嫌われることもなく、誰からも認められ、ついつい目をやってしまう存在になるのである。狙っているわけではなく、いわゆる天然とでも言おうか、興味の対象が人とは全く異なるゆえの反応のずれのようなものかもしれない。司法修習生の身でありながら、事件の証拠に関して目のつけ所が他とはまるで違い、他人が見落としている些細な一点に、ひたすらこだわり、結果として、解決へと導くきっかけを作ったりするのである。しかも、同じグループの天生(あもう)によって覚醒させられた音楽の才能にも恵まれすぎ、他人から見れば、これ以上何を望むのだ、と思うような人物なのだが、本人はいたって飄々としていて、本心が見えてこないので、周りを戸惑わせるばかりである。なんとも不思議で魅力的な人物である。謎解き要素よりは、岬洋介の魅力を伝える部分が色濃いが、謎解きでは、思わぬどんでん返しもあり、いろんな意味で愉しませてくれる一冊である。

新章 神様のカルテ*夏川草介

  • 2019/04/26(金) 21:12:48

新章 神様のカルテ
新章 神様のカルテ
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夏川 草介
小学館
売り上げランキング: 3,365

信州にある「24時間365日対応」の本庄病院に勤務していた内科医の栗原一止は、より良い医師となるため信濃大学医学部に入局する。消化器内科医として勤務する傍ら、大学院生としての研究も進めなければならない日々も、早二年が過ぎた。矛盾だらけの大学病院という組織にもそれなりに順応しているつもりであったが、29歳の膵癌患者の治療方法をめぐり、局内の実権を掌握している准教授と激しく衝突してしまう。
舞台は、地域医療支援病院から大学病院へ。
シリーズ320万部のベストセラー4年ぶりの最新作にして、10周年を飾る最高傑作! 内科医・栗原一止を待ち受ける新たな試練!


引きの栗原、どこにいても過酷な日々である。大学病院でもそれは変わらず、毎日走り回っている。だが、なんとかなってしまうのだろうな、と思わされるのは、たぶんその語り口やキャラによるものなのだろう。さらには、背後で静かに支える妻の榛名と娘の小春の存在によるところも大きい。そして、登場人物の誰もが至極個性的でありながら、みんなが真摯で真剣で格好いいことが、このシリーズの最大の魅力なのである。じわりじわりと身体中に、清新なものが沁み渡る心地がする。いつまでもこの物語の世界に浸っていたいと思わされるシリーズである。

静かおばあちゃんと要介護探偵*中山七里

  • 2019/03/09(土) 16:35:54

静おばあちゃんと要介護探偵
中山 七里
文藝春秋
売り上げランキング: 213,320

大学でオブジェが爆発し、中から遺体を発見。詐欺師を懲らしめるため2人は立ち上がった。
父が認知症で悩む男性の相談に乗ったら…。同級生が密室で死亡。事故か、他殺か、自殺か。
高層ビルから鉄骨が落下、外国人労働者が被害に。
『さよならドビュッシー』でおなじみ、玄太郎おじいちゃん登場。介護、投資詐欺、外国人労働者…難事件を老老コンビがズバッと解決!日本で20番目の女性裁判官で、80歳となった今も信望が厚い高遠寺静。お上や権威が大嫌いな中部経済界の怪物、香月玄太郎。2人が挑む5つの事件。


一風変わった探偵コンビの誕生である。方や、下半身不随で、車椅子が必須にもかかわらず、アクが強くて上から目線であちこちに口出しするが、自分のなかには確固たる信念を持つ中部経済界のドン・香月玄太郎。方や、優秀な女性判事として名を馳せ、80歳になったいまも、望まれて講演やら大学の非常勤講師やらを務める、正義の人・高遠寺静。なんとも相性の悪そうな二人であり、実際、静はできることなら付き合いたくないと思っているのだが、どうしたわけか、玄太郎に見込まれてしまい、二人で探偵まがいのことをする羽目になったのである。だがこれが面白い。無理難題とわかって吹っ掛ける玄太郎と、それを戒めながらも事件の解明に興味を持って向かう静が、ちょうどいいバランスで成り立っているように見える。これからもこのコンビの活躍を観たいと思わされる一冊である。

ふたたび嗤う淑女*中山七里

  • 2019/02/23(土) 16:36:25

ふたたび嗤う淑女
ふたたび嗤う淑女
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中山 七里
実業之日本社
売り上げランキング: 29,352

金と欲望にまみれた“標的”の運命を残酷に弄ぶダークヒロイン、降臨。

類い稀な話術で唆し、餌食となった者の人生を狂わせる――
「蒲生美智留」が世間を震撼させた凶悪事件から三年。
「野々宮恭子」と名乗る美貌の投資アドバイザーが現れた。
国会議員・柳井耕一郎の資金団体で事務局長を務める藤沢優美は、
恭子の指南を受け、資金の不正運用に手を染めるが……

どんでん返しの帝王が放つ衝撃の連鎖! 史上最恐、完全無欠の悪女ミステリー!


各章の前半は、その章の主人公にとって誠に魅力的な提案によって事が進んでいく。何もかもが、野々宮恭子の言うとおりにしていればうまくいきそうに思えてくる。だが、抜き差しならない状況まで進むと、事態は一変し、そこに至ってやっと自分が陥れられたのだということに気づき、しかも、ほぼ同時に人生さえ強制終了させられてしまうのである。まったくもって恐ろしい女である。さらに最後の最後に、また不敵に嗤われるのだからたまったものではない。「みたび嗤う淑女」もありそうだと思わされる一冊である。

一週間のしごと*永嶋恵美

  • 2019/02/16(土) 12:33:33

一週間のしごと (創元推理文庫)
永嶋 恵美
東京創元社
売り上げランキング: 693,420

優等生だがほかに取り立てて特徴のない男子高校生・開沢恭平は、日曜日に幼なじみの青柳菜加に呼びつけられ、一方的に相談された。渋谷の雑踏で母親から見捨てられた子どもを保護し、家まで送り届けたが、荒れ果てた無人の室内に危機を覚え、自宅に連れてきたという。昔から行動力だけが突出している菜加は、事の重大さをまったく認識していなかった。「誘拐罪。お前がやったことはれっきとした犯罪だ」――大人たちを頼らず事態の収拾を図るため、恭平たちの波瀾の一週間が幕を開ける!


OLさんのお仕事ものがたりかと思いきや、主人公は高校生たち。しかもかなりショッキングなストーリーである。高校生が主人公だということをつい忘れてしまいそうになる瞬間が何度もある。前半は、不穏な描写もあって興味を惹かれながらも、高校生の日常的な趣が強いのだが、次第に真相に近づくにしたがって、読み始めるときには想像もしなかった展開になり、なかなか納得できなくて、胸が苦しくなる。真犯人にとっては全編救いがなくて、重たいものを呑み込んだような気分だが、それ以外の登場人物にとっては、あしたに光が見えるのが救いである。養護教諭の存在が素晴らしい。さまざま考えさせられる一冊である。

TAS特別師弟捜査員*中山七里

  • 2018/11/06(火) 13:43:47

TAS 特別師弟捜査員 (単行本)
中山 七里
集英社
売り上げランキング: 205,470

「ねえ。慎也くん、放課後ヒマだったりする?」楓から突然声をかけられた慎也は驚いた。楓は学園のアイドルで、自分とは何の接点もないからだ。用件を言わず立ち去る楓を不審に思いながらも、声をかけられたことで慎也の胸は高鳴っていた。彼女が校舎の3階から転落死するまでは―。学校は騒然となり、さらに楓が麻薬常習者だったという噂が流れる。警察の聞き取り調査が始まった。そこに現れたのは、慎也の従兄弟で刑事の公彦。公彦は、転落死の真相を探るため、教育実習生として学園に潜入することを決める。一方の慎也も、楓が所属していた演劇部に入部し、楓の周辺人物に接触を図る。なぜ楓は、慎也を呼び出したのか―。慎也と公彦は、真相解明に挑む。“どんでん返しの帝王”が新たに仕掛けるバディ×学園ミステリ!


設定には、小説ならではの部分もあるが、興味をそそられるストーリーである。舞台は学園、同級生たちには内緒の潜入捜査、従兄弟の刑事も教育実習生として潜入。そして、演劇部に情熱をかける仲間たち。きゅんとくる要素が盛りだくさんである。だが、生徒の、しかも演劇部員の不審な死が二件も続いているのである。誰が、どんな理由で。いやでも展開が気になって先を急ぎたくなる。しかも、捜査の進捗状況だけではなく、合間には、演劇部の存続をかけた熱いやり取りがぎっしり詰め込まれているのだからなおさらである。明らかになった真実は、いかにもありそうと言えばそうなのだが、溜まりたまったものが、瞬時に爆発するような凶暴な衝動によって、人はあっけなく一線を越えてしまうのかもしれないという驚愕に、身が凍る心地にもなる。慎也・公彦コンビの活躍をまた見てみたいとは思うが、この先の生徒たちことが思わず心配になってしまう一冊でもある。

能面検事*中山七里

  • 2018/10/28(日) 07:24:20

能面検事
能面検事
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中山七里
光文社
売り上げランキング: 187,695

巷を騒がす西成ストーカー殺人事件を担当している、大阪地検一級検事の不破俊太郎と新米検察事務官の惣領美晴。どんな圧力にも流されず、一ミリも表情筋を動かすことのない不破は、陰で能面と呼ばれている。自らの流儀に則って調べを進めるなかで、容疑者のアリバイは証明され、さらには捜査資料の一部が紛失していることが発覚。やがて事態は大阪府警全体を揺るがす一大スキャンダルへと発展し―警察内から裏切りと揶揄される不破の運命は、そしてストーカー事件の思いもよらぬ真相とは―大阪地検一級検事・不破俊太郎。孤立上等、抜き身の刀、完全無欠の司法マシンが、大阪府警の暗部を暴く!


表情筋を1㎜も動かさず、感情の動きが全く読めない検事・不破と、彼につく検察事務官・美晴の物語である。被疑者に対するときだけではなく、誰に対してもいつでも感情表出がないので、周りにもよく思われず敵も多い不破であるが、これはあくまでも自分流の手法であり、変える気は毛頭ないようなので、一日中一緒に過ごす美晴にとってもやりにくいことこの上ない。だが、その捜査をつぶさに見ているうちに、美晴にも少しずつ彼の行動様式が理解できるようになってくる。権威にも与しない不破には、所内に隠れファンもいるようなので、ちょっぴり安心する。いささか極端に過ぎるとは思うが、個人的には不破を応援したくなる。もっと不破の捜査を見てみたいとも思わされる一冊である。シリーズ化されると嬉しいのだが。

中山七転八倒*中山七里

  • 2018/10/16(火) 18:14:24

中山七転八倒 (幻冬舎文庫)
中山 七里
幻冬舎 (2018-08-03)
売り上げランキング: 70,610

雑誌連載が10本に減り大いに危機感を抱き、プロットが浮かばずブランデーをがぶ飲み。原稿の締め切り直前、設定していたトリックが使えないことが判明。栄養ドリンクの三種混合を一気飲みし、徹夜で考え抜く――。どんでん返しの帝王がプロットの立て方や原稿の進め方、編集者とのやりとりを赤裸々に告白。本音炸裂、非難囂々の爆笑エッセイ!


エッセイというか、2016年と2017年の日記そのものの体裁である。それだけで605ページも読ませるのだから、さすがと言ってもいいだろう。ずいぶん希釈されていたり、伏字になていたりするものの、作家と編集者の内幕がかなりシビアに暴露されていて、読者ののぞき見趣味も満足させてくれる。とはいえ、個人的には、作家の各エッセイに好みに合わないものが多いので、途中からは、いささかお腹いっぱいの感は否めなかった。しかも、図書館ユーザーで、愚にもつかない感想をアップしている身。針の筵感も半端ないのである。事情はとてもよく理解できるが、こちらにも事情があるのよ、とちょっと言ってみたくなる一冊でもあった。

院内カフェ*中島たい子

  • 2018/10/13(土) 18:21:01

院内カフェ (朝日文庫)
中島たい子
朝日新聞出版
売り上げランキング: 57,998

「ここのコーヒーはカラダにいい」と繰り返す男や、態度の大きい白衣の男が常連客。その店で働く亮子は売れない作家でもある。夫との子どもは望むけれど、治療する気にはなれない。病院内カフェを舞台にふた組の中年夫婦のこころと身体と病を描く長編小説。


病院のなかにあって、病院ではない。院内カフェは独特の存在である。入院患者も外来患者も、その家族も見舞客も、誰でも分け隔てなく迎え入れ、ここではみな等しく客という存在になる。そんな、中立国のようなこの場所にも、毎日、さまざまな人生模様が描かれ続ける。主婦であり、作家であり、カフェのバイト店員でもある亮子の目が捉える人間模様を、彼女自身の家庭の事情も織り込みながら、紡ぎだしているのが本作である。自分というものの在りようや、夫婦や親子のかかわりあい方のことを、いままでにない角度から考えさせられる一冊でもある。

連続殺人鬼 カエル男ふたたび*中山七里

  • 2018/09/11(火) 16:54:58

連続殺人鬼カエル男ふたたび
中山 七里
宝島社
売り上げランキング: 23,440

口にフックをかけられてマンションの13階から吊るされた全裸死体と、
子どもが書いたような稚拙な文章での犯行声明――。
埼玉県飯能市を震撼させた“カエル男連続猟奇殺人事件"から10ヵ月、
事件を担当した精神科医、御前崎教授の自宅が爆破され、家からは粉砕・
炭化した死体が出てきた。そしてあの稚拙な犯行声明が見つかる。
カエル男・当真勝雄の報復に、協力要請がかかった渡瀬&古手川コンビは現場に向かう。
さらに医療刑務所から勝雄の保護司だった有働さゆりもアクションを起こし……。
破裂・溶解・粉砕。ふたたび起こる悪夢に、二転三転する怒濤の展開と激震のラストが待ち受ける!


筆舌に尽くしがたい凄惨な事件現場の描写が多々あって、気分が沈むが、だからといってページを閉じようとは思わせないのが著者である。刑法第39条の存在ゆえにその罪を逃れる者がいる一方、医療刑務所の手薄さなどの理由もあって、早々と外に出されることにより、新たな被害者を生むこともあり得る。前作で決着がついたと思われたカエル男事件だったが、ここにきて新たな被害者が現れ、今度の標的は「サ」から始まる。しかも、範囲が首都圏全域に及び、一般市民たちを恐怖に陥れるのである。誰の筋書きなのか、どこまで続くのか。渡瀬・古手川コンビが今回も捜査にどっぷりつかることになる。まったくもって救いのない物語である。そしてさらに背筋を凍らせるのは、医療刑務所から脱走したあの人物がまた新たな事件を起こし、野に放たれたままだということである。この後どんな展開が待っているのか、想像するのもおぞましいが、物語はここで本当に終わりなのだろうか。うまく呼吸ができなくなるような一冊である。