血縁*長岡弘樹

  • 2017/07/23(日) 19:05:54

血縁
血縁
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長岡 弘樹
集英社
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誰かに思われることで起きてしまう犯罪。誰かを思うことで救える罪。

コンビニの店長が男にナイフを突きつけられる中、電話の音が響いた。【でていいか】店長の差し出したメモを見ても、男は何も答えなかった――「文字盤」
父親の介護に疲れた姉は七年ぶりに妹と再会し、昔交わしたある約束を思いだす。親を思う姉妹の気持ちの行方は――「苦いカクテル」
自首という言葉を聞くと、芹沢の頭をあの出来事がよぎる。刑務官が押さなければならない、死刑執行の三つのボタン――「ラストストロー」
ほか、七つの短編を通して、人生の機微を穿つ。
バラエティに富んだ、長岡ミステリの新機軸。


誰かの思惑が、別の誰かの思惑と一致し、あるいはすれ違い、それがある物事の結果を変えてしまうことがある。人生はなかなか思い通りにはいかないものである。だが読者にとっては、それこそが面白いところである。さまざまな関係の人たちの人生の道筋が、誰のどんな思惑、どんなきっかけで変わっていくのかが興味深い一冊である。

秋山善吉工務店

  • 2017/05/31(水) 18:14:50

秋山善吉工務店
秋山善吉工務店
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中山 七里
光文社
売り上げランキング: 25,694

ゲーム会社を辞め、引き籠っていた史親の部屋からの出火で家と主を失った秋山家。残された妻の景子、中学生の雅彦、小学生の太一の三人は、史親の実家「秋山善吉工務店」に世話になることに。慣れない祖父母との新生活は、それぞれの身に降りかかるトラブルで災難続きの日々。一方、警視庁捜査一課の宮藤は、秋山家の火災は放火だったのではないか、と調べ始める―。大工の善吉爺ちゃん、大立ち回り!!昭和の香り漂うホームドラマミステリー。


善吉爺ちゃん、惚れる!曲がったことが大嫌い、汗を流さずに楽をしようとする態度には我慢がならない。口数は少なく、たまに口を開けば怒鳴っている。たまには物も飛んでくる。だが、顔が広く、近所の評判も上々で、人一倍情が濃い。世の中の酸いも甘いも知り尽くしている。ともかく格好いいのである。実の息子(バカ息子と呼ぶ)の火事での死のあと、残された嫁と孫たちを引き取り、彼らのためにその本領を発揮する善吉の姿は、惚れ惚れする以外の言葉が浮かばない。最後の最後まで善吉らしい生き方だが、ほかの結末ではダメだったのだろうか、と思わずにはいられない。八年後の太一の告白が意外過ぎて驚くが、いろんなことが腑に落ちる。善吉を生き返らせて続編を読みたい一冊である。

東京二十三区女*長江俊和

  • 2017/05/03(水) 12:44:47

東京二十三区女
東京二十三区女
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長江 俊和
幻冬舎 (2016-09-09)
売り上げランキング: 28,423

フリーライターの原田璃々子は、民俗学の講師だった先輩・島野仁と東京二十三区を巡り取材をしている。板橋区を訪れた二人は、自殺の名所、高島平団地に向かった。だがーー「私が探している場所は、ここではありません」。彼女は“何を"探しているのか。板橋の縁切神社、渋谷の暗渠、港区の外苑西通りを走るタクシー、江東区の埋め立て地「夢の島」、品川区の大森貝塚。誰もが知っている"あの場所"の誰も知らない過去を知るとき、璃々子は、「本当の秘密」を知ることになる。


読む前に想像していた内容とは違うテイストの物語だったが、面白かった。東京二十三区のあちこちを霊感の強いフリーライター・原田璃々子が何かを探して訪れ、先輩・島野仁が行動をともにして、その場所の薀蓄を滔々と語るというのがストーリーの主な流れである。その合間に、その場所にまつわるホラーテイストの出来事が差し挟まれ、璃々子が探すものとどう関連してくるのかに興味を惹かれる。時間も過去と現在を行きつ戻りつしていて、過去からその地に積み重ねられてきた歴史さえも感じられるようである。自分が暮らす場所の過去に想いを馳せてみたくなる。そして最後の品川区では、予想外の結末が待っていて驚かされるが腑にも落ちるのである。大都会東京にも歴史や人の思いが積み重なっているのだと改めて思わされる一冊でもある。

翼がなくても*中山七里

  • 2017/04/24(月) 16:52:11

翼がなくても
翼がなくても
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中山 七里
双葉社
売り上げランキング: 100,256

「何故、選りにも選って自分が。何故、選りにも選って足を」陸上200m走でオリンピックを狙うアスリート・市ノ瀬沙良を悲劇が襲った。交通事故に巻きこまれ、左足を切断したのだ。加害者である相楽泰輔は幼馴染みであり、沙良は憎悪とやりきれなさでもがき苦しむ。ところが、泰輔は何者かに殺害され、5000万円もの保険金が支払われた。動機を持つ沙良には犯行が不可能であり、捜査にあたる警視庁の犬養刑事は頭を抱える。事件の陰には悪名高い御子柴弁護士の姿がちらつくが―。左足を奪われた女性アスリートはふたたび羽ばたけるのか!?どんでん返しの先に涙のラストが待つ切なさあふれる傑作長編ミステリー。


御子柴礼司シリーズの最新作、というにはいささか趣を異にする物語ではあるのだが、御子柴が弄する策略にしてやられた感はある。しかも、御子柴が出てこなくても、パラリンピック、スポーツ義肢、障碍者スポーツの在り方、障碍者のQOLの問題、などなど様々に考えさせられる要素が盛り込まれていて、さらに、努力が報われる達成感や爽やかさも味わえるので、ミステリ要素はさほど強くはないのだが、先へ先へと興味が引っ張られていく一冊である。

時が見下ろす町*長岡弘樹

  • 2017/03/25(土) 18:23:19

時が見下ろす町
時が見下ろす町
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長岡弘樹
祥伝社
売り上げランキング: 336,967

町のシンボル、大きな時計が目印の時世堂(じせいどう)百貨店の隣に立つ一軒の家。その家で、和江は抗癌剤治療に苦しむ四十年連れ添った夫を介護している。ある日、夫の勧めで、気分転換に写生教室に出かけることになり、孫娘のさつきに留守番を頼むことに。その日だけのつもりだったのだが、なぜかさつきはそのまま居座ってしまい……。和江の家が建つ前は時世堂の物置き、その前は製鞄工場、さらにその前は中古タイヤの倉庫……。様々に変わりゆく風景の中で、唯一変わらなかった百貨店。その前で、繰り広げられてきた時に哀しく、時に愛しい事件とは?


第一章 白い修道士  第二章 暗い融合  第三章 歪んだ走姿(フォーム)  第四章 苦い確率  第五章 撫子の予言  第六章 翳った指先  第七章 刃の行方  第八章 交点の香り

一見ミステリとは思えないストーリー展開なのだが、いつの間にかするりとミステリの世界に滑り込んでいる印象である。時世堂百貨店がある町で起こる出来事を集めた短編集なのだが、狭い町のあちこちでこんなことが起こっていることを想像すると、それだけでかなり怖い。それは、殺人事件などの大きなものばかりではなく、時に人の心の中に仕舞いこまれた思いまで抉り出すことにもなるのだが、逆にそれを食い止めようとする愛にあふれた行動につながることもある。怖くもあり、胸がじんわりあたたかくもなる一冊である。

白衣の嘘*長岡弘樹

  • 2017/03/17(金) 18:32:34

白衣の嘘
白衣の嘘
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長岡 弘樹
KADOKAWA (2016-09-29)
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悲哀にみちた人間ドラマ。温かな余韻が残るラスト。
『傍聞き』『教場』を超える、傑作ミステリ集!
バレーボール全日本の女子大生・彩夏と、彼女を溺愛する医者の姉・多佳子。彩夏の運転で実家に向かう途中、ふたりはトンネル崩落事故に遭ってしまう。運転席に閉じ込められた妹に対して姉がとった意外な行動とは……(「涙の成分比」)。
命を懸けた現場で交錯する人間の欲望を鮮やかに描く、珠玉の六編。

「いつか“命”をテーマに医療の世界をミステリとして書きたいと思っていました。自分にとって集大成と言える作品です」――長岡弘樹


「最後の良薬」 「涙の成分比」 「小医は病を医(なお)し」 「ステップ・バイ・ステップ」 「彼岸の坂道」 「小さな約束」

白衣の下に隠された医者の嘘、医者の罪、偽の医者。状況はそれぞれであり、心情もさまざまであり、嘘にもいろいろある。誰かを守ろうとする嘘もあれば、保身のための嘘もあり、他人を貶めようとする嘘もある。だが、どの物語の登場人物も、たとえ何かを偽っていたとしても、最後の人間らしさまではなくしていないのが救いでもある。白衣の現場でなくとも当てはまる人間ドラマの一冊でもある。

セイレーンの懺悔*中山七里

  • 2017/02/18(土) 16:44:39

セイレーンの懺悔
セイレーンの懺悔
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中山 七里
小学館
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少女を「本当に殺した」のは誰なのか――?
葛飾区で発生した女子高生誘拐事件。不祥事によりBPOから度重なる勧告を受け、番組存続の危機にさらされた帝都テレビ「アフタヌーンJAPAN」の里谷太一と朝倉多香美は、起死回生のスクープを狙って奔走する。警察を尾行した多香美が廃工場で目撃したのは、暴行を受け、無惨にも顔を焼かれた被害者・東良綾香の遺体だった。
クラスメートへの取材から、綾香がいじめを受けていたという証言を得た多香美。主犯格と思われる少女は、6年前の小学生連続レイプ事件の犠牲者だった。
少女を本当に殺したのは、誰なのか――?
”どんでん返しの帝王”が現代社会に突きつける、慟哭のラスト16ページ!!


誘拐事件、殺人事件、いじめ、非行、家庭崩壊、などなど様々な社会問題が盛り込まれた物語である。そして、事件に対する警察とマスコミの役割の違いによる対応の差にも迫る物語でもある。さらに言えば、真犯人を追う物語でありながら、スクープを追い求める物語でもあり、好悪はともかくとして、それぞれが自分の職責を全うしようとする姿が描かれているとも言えると思う。立場や役割が違えど、詰まるところは想像力と相手を思いやる心が芯になければ、よい仕事はできないのだとも思わされる。罪を犯さなかった人がひとりもいないように見える一冊でもある。

ヒポクラテスの憂鬱*中山七里

  • 2016/12/14(水) 16:45:07

ヒポクラテスの憂鬱
ヒポクラテスの憂鬱
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中山七里
祥伝社
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“コレクター(修正者)”と名乗る人物から、埼玉県警のホームページに犯行声明ともとれる謎の書き込みがあった。直後、アイドルが転落死、事故として処理されかけたとき、再び死因に疑問を呈するコレクターの書き込みが。関係者しか知りえない情報が含まれていたことから、捜査一課の刑事・古手川は浦和医大法医学教室に協力を依頼。偏屈だが世界的権威でもある老教授・光崎藤次郎と新米助教の栂野真琴は、司法解剖の末、驚愕の真実を発見する。その後もコレクターの示唆どおり、病死や自殺の中から犯罪死が発見され、県警と法医学教室は大混乱。やがて司法解剖制度自体が揺さぶられ始めるが…。


「堕ちる」 「熱中せる(のぼせる)」 「焼ける」 「停まる」 「吊るす」 「暴く」 


浦和医大法医学教室シリーズの二作目。主人公の栂野真琴や光崎教授、県警の古手川刑事など、主要な登場人物のキャラクタもすっかりなじんでこなれた印象である。自称コレクター(修正者)の、県警のホームページへの書き込みに注目し、事件で亡くなった遺体を司法解剖した結果、ほんとうの死の原因が究明され、事件解決につながる、という件が発生し、県警も法医学教室も、振り回されることになる。コレクターとは何者なのか、事件の内容をどうやって知り得たのか。謎が謎を呼び、解剖の予算は尽き、事件は次々に起こる。そして、いくつもの事件の裏に、さらに底知れない闇が隠れていることに驚かされる。シリアスなのだが、登場人物たちの掛け合いが面白く、コメディ要素も紛れ込み、愉しめる一冊でもある。

作家刑事毒島*中山七里

  • 2016/11/19(土) 13:42:21

作家刑事毒島
作家刑事毒島
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中山 七里
幻冬舎 (2016-08-10)
売り上げランキング: 108,866

この男、
前代未聞のトンデモ作家か。
はたまた推理冴え渡る名刑事か! ?

中山史上最毒・出版業界激震必至の本格ミステリ!

殺人事件解決のアドバイスを仰ごうと神保町の書斎を訪れた刑事・明日香を迎えたのは、流行作家の毒島。虫も殺さぬような温和な笑顔の持ち主は、性格の歪んだ皮肉屋だった。捜査過程で浮かび上がってきたのは、巨匠病にかかった新人作家、手段を選ばずヒット作を連発する編集者、ストーカーまがいの熱狂的な読者。ついには毒島本人が容疑者に! ? 新・爆笑小説!


いつもの著者とはひと味違うテイストである。警察官でありながら、作家を兼業し、比類ないシビアな目線と、徹底的に対象者のコアを抉る物言いで、容疑者を完膚なきまでに追い詰め落とす。登場人物はほとんど出版関係者や作家志望者と、本に関わる人たちなので、興味はいやがうえにも高まる。出版業界の過酷な裏側も覗き見られ、刺激を受けるが、物語が終わった後の著者紹介の下の一文に、さらに苦笑させられる。これ以上なくシビアなのにコミカルで、すっかり毒島ファンになってしまう一冊である。

総理に告ぐ*永瀬隼介

  • 2016/11/11(金) 07:16:04

総理に告ぐ
総理に告ぐ
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永瀬 隼介
KADOKAWA/角川書店 (2016-04-30)
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ノンフィクションライターの小林は、1年前に脳梗塞で倒れて病気療養中の元与党幹事長・佐竹の回顧録のゴーストライターを引き受けた。生活に苦しむ小林は現状からの一発逆転を狙い、佐竹に過去のスキャンダルを告白させようと試みるが、国の行く末を憂う佐竹が語り出したのは、戦争のできる国家へと大きく舵を切る現総理大臣の大スキャンダルだった。しかし、佐竹の告白が終わった刹那、佐竹邸の監視についていた公安警察が現れて乱闘になり、脳梗塞を再発した佐竹は死亡、公安に立ちはだかった書生は射殺される。佐竹の告白と乱闘の一部始終が録音されたレコーダーを手に現場から命からがら逃げ出した小林は、旧知の警察官の助けを得て、マスコミを巻き込んだ大勝負に出るが――。


政界の裏側、腰砕けのマスコミ、フリーライターの矜持、警察の威信、公安の執拗さ。さまざまな要素が交錯し、現政権が覆り、日本の進路が修正されるかもしれないという期待を抱かせる展開である。猛進あり、駆け引きあり、裏取引ありと、命を張っての攻防が繰り広げられるが、主役のフリーライター小林のキャラに情けなさがあることで――それがリアルでもあるのだが――緊迫感にかける部分もあるような気がする。それでもこの結末である、終章のタイトル「光射す闇へ」というのが秀逸である。情報を鵜呑みにせずにアンテナを張り巡らせていないと恐ろしいことになると改めて感じさせられる一冊でもある。

表参道・リドルデンタルクリニック*七尾与史

  • 2016/09/26(月) 19:03:52

表参道・リドルデンタルクリニック
七尾 与史
実業之日本社
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表参道ヒルズのすぐ近くにある錦織デンタルオフィスは、
錦織早苗院長以下、スタッフは全員女性という歯科医院。
場所柄、芸能人やセレブ患者も多く、街の雰囲気とともに華やぎに満ちている。
院長以外のもう一人のドクター、月城この葉はもの静かな知的美人。
長い黒髪とFカップの胸、歯科医師としての腕に優れ、彼女目当てに通う男性患者も多いのだ。
だがこの葉は明晰な頭脳をもって、患者をはじめ、様々な人間関係に隠された真実をつかむ、名探偵としての顔も有しているのだ。
錦織デンタルオフィスの歯科衛生士・高橋彩女はそんなこの葉に憧れつつ、期せずして助手的な役割をつとめている。
たとえば、以下のように三つの独立した事件に――。


なんともゴージャスな歯科医院が舞台である。スタッフ全員が美形の女性で、プロ意識が強く、技術も一流なのである。なんだかんだと理由をつけて男性患者が予約を取りたがる気持ちはよくわかる。男性でなくともお世話になりたくなる歯科医院である。そんな歯科医院の個室で交わされる会話や、受付で得られる情報から、患者の抱える謎を解き明かしてしまう名探偵のような存在なのもまた、美人歯科医・この葉と歯科衛生士・彩女のコンビなのである。しかも、この葉は、自らの父の死に疑問を抱き、その謎を何とか解きたいという思いをずっと抱え続けているのだった。ゴージャスな気分と、見事な推理、そして歯科治療の裏側もちょっぴり覗けて、いろいろ愉しめる一冊である。

偶然屋*七尾与史

  • 2016/08/24(水) 20:50:18

偶然屋
偶然屋
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七尾 与史
小学館
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その「偶然」は仕組まれたものかもしれない

出会いと別れ、栄光と挫折、幸福と不幸、そして生と死・・・・・・。
運命だと思っていたことは、実はすべて仕組まれていたのかもしれない!?

弁護士試験に挫折して就職活動中の水氷里美は、ある日、電信柱に貼られた「オフィス油炭」という錦糸町にある会社の求人広告を見つける。藁にもすがる思いで連絡を入れると、面接場所に指定されたのは、なんとパチンコ屋!?
数々のミッションをなんとかクリアした里美に与えられたのは「アクシデントディレクター」という聞き慣れないお仕事だった――。
確率に異常にこだわる社長の油炭、かわいいけれど戦闘能力の超高い女子中学生・クロエとともに、里美はクライアントからの依頼を遂行していくが、あるとき「偶然屋」たちの前に、悪魔のような男の存在が浮かび上がる・・・・・・。

ブラックユーモアミステリーの名手、本領発揮!
『ドS刑事』シリーズなどで人気の著者の新たなる代表作!!


なかなかうまくいかない就活中、偶然見つけた電柱に貼られたアシスタントディレクターの求人広告に飛びついて、指定された場所に行ってみると、そこはパチンコ屋で……。始まりからしてほんとうに偶然?と思わされる出来事で幕を開ける。アシスタントディレクターというのは、里美の早とちりで、実際はアクシデントディレクター=偶然屋だったのだが、とりあえず見習いとして採用された里美は、なんとか与えられた仕事をクリアしていくのである。そうしているうちに、時間を前後してあちこちで起こっていた、まったく無関係と思われる事件にある共通項を見つけ、恐ろしい企てに巻き込まれていくのである。偶然なんてないのかも。ドミノ倒しのように、最初のピースが倒れたときには、既に決められたシナリオに向かって、ひとつの絵を描くだけなのかもしれないとさえ思ってしまう。コミカルなタッチで軽く読めるのだが、かなり深く怖い物語でもある。里美と油炭のこの先も気になるし、もっと続きを読みたい一冊である。

どこかでベートーヴェン*中山七里

  • 2016/08/11(木) 09:10:40

どこかでベートーヴェン (『このミス』大賞シリーズ)
中山 七里
宝島社
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ニュースでかつての級友・岬洋介の名を聞いた鷹村亮は、高校時代に起きた殺人事件のことを思い出す。岐阜県立加茂北高校音楽科の面々は、九月に行われる発表会に向け、夏休みも校内での練習に励んでいた。しかし、豪雨によって土砂崩れが発生し、一同は校内に閉じ込められてしまう。そんななか、校舎を抜け出したクラスの問題児・岩倉が何者かに殺害された。警察に疑いをかけられた岬は、素人探偵さながら、自らの嫌疑を晴らすため独自に調査を開始する。


岬洋介シリーズ最新刊であるが、岬洋介始まりの物語とも言える、高校時代の物語である。岬の唯一の友人と言ってもいい鷹村亮が、ふと見たニュース映像から高校時代を思い出すという趣向である。ここが始まりではあるが、やはり大人になってからの岬洋介を知っておいた方がより納得しながら愉しめると思う。岬自身のキャラクタは、ほぼ変わっていないのもちょっぴり微笑ましく、そのままでいてほしいと思ってしまう。ピアノに関わっている以外の岬の性格には、説明されても理解しがたい部分も多くあるが、解らないところも含めて彼の魅力になっているのだろう。岬洋介にとって、この時期が人生最大の試練の時だったことがよくわかって痛ましくもあるが、その後につながっていくのだと思えば納得するしかない。ラストのちょっとした種明かしにも思わず頬が緩む。岬洋介のことをもっともっと知りたくなる一冊でもある。

彼女に関する十二章*中島京子

  • 2016/06/05(日) 18:36:47

彼女に関する十二章
彼女に関する十二章
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中島 京子
中央公論新社
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「50歳になっても、人生はいちいち驚くことばっかり」

息子は巣立ち、夫と二人の暮らしに戻った主婦の聖子が、ふとしたことで読み始めた60年前の「女性論」。一見古めかしい昭和の文士の随筆と、聖子の日々の出来事は不思議と響き合って……

どうしたって違う、これまでとこれから――
更年期世代の感慨と、思いがけない新たな出会い。
上質のユーモアが心地よい、ミドルエイジ応援小説


「どうやらあがったようだわ」で始まる物語である。更年期を迎えた女性の――大げさに言えば――世界の見え方の描写が新鮮である。さまざまな縛りから解き放たれ、来し方のあれこれに想いを致し、来たるべきあれこれに想いを馳せる。不安になったりうろたえたり、このままでいいのかと自問してみたりと、結構忙しいのである。そんな事々のさなかにありながら、案外冷静に突き放して見ている主人公である50歳の聖子が、なかなか味があって好ましい。女性の更年期は、ちょうど家族の過渡期に同調するようにやってくることが多く、聖子の場合も、息子の自立と重なることになる。晴れがましいような、心もとないような、寂しいような複雑さのなかで、自らの軌跡を振り返るきっかけになったりもする。読み進むにつれて、どんどん惹きこまれるようになる一冊でもある。

恩讐の鎮魂曲(レクイエム)*中山七里

  • 2016/05/24(火) 18:25:15

恩讐の鎮魂曲
恩讐の鎮魂曲
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中山 七里
講談社
売り上げランキング: 14,218

韓国船が沈没し、251名が亡くなった。その事故で、女性から救命胴衣を奪った日本人男性が暴行罪で裁判となったが、刑法の「緊急避難」が適用され無罪となった。一方、医療少年院時代の恩師・稲見が殺人容疑で逮捕されたため、御子柴は弁護人に名乗り出る。稲見は本当に殺人を犯したのか?『贖罪の奏鳴曲』シリーズ最新作!!圧倒的迫力のリーガル・サスペンス!


御子柴礼司シリーズの三作目。冒頭は、韓国船籍の旅客船の沈没事件の描写から始まる。、物語にどんな関係があるのかわからないまま、特別養護老人ホームで起きた殺人事件に流れが移る。被害者は、特養の介護士、被疑者は御子柴の医療少年院時代の教官だった稲見。御子柴は、強引な策を弄して稲見の弁護人になるのである。罪を認めている稲見だが、御子柴の鼻は、何かきな臭いものを嗅ぎ取っている。次々に明らかになる事実はどれも驚くべきもので、一時も目を離せない。御子柴の屈託や、稲見の矜持も見どころである。まだまだ御子柴から目が離せないシリーズである。