ワルツを踊ろう*中山七里

  • 2017/11/17(金) 19:20:44

ワルツを踊ろう
ワルツを踊ろう
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中山 七里
幻冬舎 (2017-09-07)
売り上げランキング: 125,105

金も仕事も住処も失った“元エリート"溝端了衛が帰った故郷は、7世帯9人の限界集落に成り果てていた。
携帯の電波は圏外。住民は曲者ぞろい。地域に溶け込もうと奮闘する了衛の身辺で、不審な出来事が起こりはじめ……。


都会で何もかも失い、父が残した古家があったとはいえ、七世帯九人の限界集落に、よくぞ帰って住みつく気になったものだと、まずそこに感心する。曲者揃いの上に、排他的な村民たちになんとか溶け込もうと奮闘する了衛だが、することなすこと裏目に出るのだが、それでも、ただ一人解ってくれる能見(事情があって村八分にされている)のアドバイスも参考にしながら、次の策を考えるのである。竜川野菜の通販を始めたときには、これで村がひとつにまとまってめでたしめでたしという流れか、と思ったのだが、池井戸潤や荻原浩ならそうかもしれないが、中山七里はそう簡単には上手くいかせてくれないのである。一瞬でもハッピーエンドを想像してしまったので、その後の展開は、ショックが大きかった。それなのに、最後にそれ以上の裏切りがあり(ここは多少想像できたが)、さらにその先にも、しっかり伏線を回収する形でしっぺ返しが配されているのはお見事である。何度も期待を裏切られ、ストーリーの流れも裏切られて、とんでもない結末なのに思わずにんまりしてしまう一冊である。

ネメシスの使者*中山七里

  • 2017/10/27(金) 18:38:07

ネメシスの使者
ネメシスの使者
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中山 七里
文藝春秋
売り上げランキング: 94,404

ギリシア神話に登場する、義憤の女神「ネメシス」。重大事件を起こした懲役囚の家族が相次いで殺され、犯行現場には「ネメシス」の血文字が残されていた。その正体は、被害者遺族の代弁者か、享楽殺人者か、あるいは…。『テミスの剣』や『贖罪の奏鳴曲』などの渡瀬警部が、犯人を追う。


温情判事と呼ばれる渋沢が死刑判決を出さなかったばかりに、凶悪犯が刑務所の中でのうのうと生きながらえる現状に、怒りや悲しみのやり場をなくす被害者遺族。刑務所の中の犯人に手出しができない分、加害者家族をうっぷん晴らしの対象にする匿名の悪意の数々。死刑制度の存廃の問題や、正義を振りかざして八つ当たり的な行動をとる者たちの問題まで、考えさせられることが山積みである。ネメシスを名乗る犯人は、思ってもいないところにいたが、意外にもあっさりと罪を認めて刑務所行きとなる。だが、そこからの企みががさらに恐ろしい。人の恨みの深さと、思い込みの激しさの恐ろしさをまざまざと見せつけられるようである。やりきれなさに身悶えする一冊でもある。

銀河の通信所*長野まゆみ

  • 2017/10/21(土) 16:38:30

銀河の通信所
銀河の通信所
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長野 まゆみ
河出書房新社
売り上げランキング: 184,000

銀河通信につないでごらん、賢治の声が聞こえてくる……足穂や百閒とおぼしき人々から登場人物までが賢治を語る、未知なる小説体験!


銀河通信に毎月第一日曜日に掲載された<賢治さんの百話>を一冊にまとめたもの、という趣向である。宮沢賢治にゆかりのさまざまな人々に取材して集めた知られざる賢治さんの魅力が満載である。なんと、通信回線を何とか同調させ、賢治さんご本人のインタヴューまで載せている。賢治さんのものを見る目の正確さや、それを表現することの巧みさが、ときどきのエピソードとともに綴られていて興味深い。ゴッホとの比較にも興味を惹かれる。宮沢賢治その人を、新しい目を持って見つめ直せる一冊かもしれない。

サイコパス*中野信子

  • 2017/10/10(火) 16:48:42

サイコパス (文春新書)
中野 信子
文藝春秋
売り上げランキング: 451

とんでもない犯罪を平然と遂行する。ウソがバレても、むしろ自分の方が被害者であるかのようにふるまう…。脳科学の急速な進歩により、そんなサイコパスの脳の謎が徐々に明らかになってきた。私たちの脳と人類の進化に隠されたミステリーに最新科学の目で迫る!


いままで、身の周りにサイコパスと思われる人がいたことが(たぶん)ないので、想像するしかないのだが、本書を読んでわかったのは、ひとつの型に当てはめ切れるものではないということである。病的に顕著なサイコパスは、犯罪者としてマスコミに取り上げられることも多く、その行動には、単純に理解できない恐ろしさを感じる。反面、その傾向はあるが、さほど違和感なく社会生活を営むことができているように見える人たちは、自らの情動の赴きに悩まされることもあるのだろう。まだまだ解き明かされていないことが多い分野であるが、100人に一人というかなりな確率で存在するサイコパスを解き明かし、犯罪に向かわせないようにすることは、これからの重要な課題なのだろう。興味深い一冊だった。

ドクター・デスの遺産*中山七里

  • 2017/08/02(水) 18:31:45

ドクター・デスの遺産
中山 七里
KADOKAWA (2017-05-31)
売り上げランキング: 62,367

警視庁にひとりの少年から「悪いお医者さんがうちに来てお父さんを殺した」との通報が入る。当初はいたずら電話かと思われたが、捜査一課の高千穂明日香は少年の声からその真剣さを感じ取り、犬養隼人刑事とともに少年の自宅を訪ねる。すると、少年の父親の通夜が行われていた。少年に事情を聞くと、見知らぬ医者と思われる男がやってきて父親に注射を打ったという。日本では認められていない安楽死を請け負う医師の存在が浮上するが、少年の母親はそれを断固否定した。次第に少年と母親の発言の食い違いが明らかになる。そんななか、同じような第二の事件が起こる――。


人間の尊厳と安楽死について、最期をどう迎えるかということについて、いくら考えても何が最善なのかわわからない。だが、安楽死という選択について、深く考えるきっかけになる物語である。少年の通報によって動き出した捜査一課は、安楽死を請け負うサイトにたどり着き、かつて、積極的安楽死を推奨した病理学者、ジャック・ケヴォーキアンの意志を受け継ぐそのサイトの管理者を、一連の安楽死事件の真犯人と読み、ケヴォーキアンがそう呼ばれたのにちなんで、ドクター・デスと呼んで捜査を始める。ドクター・デスは、見事なほど印象が薄い男で、頭が薄い小男という証言しか得られず、容易に迫ることができない。そんな折、共に行動していた看護師を見つけ出し、彼女の証言によってドクター・デスの名前が判り、それを糸口にして真犯人を逮捕するところまで行くのである。だが、そのあとの展開は、全く想像の外だったので驚くしかなかった。なるほどそういうことだったのか。安楽死はもちろん、現在の日本では違法であり、実行すれば殺人罪に問われるものである。自分自身も難病に苦しむわけでもなく、身近に病人を抱えるわけでもないので、法を犯してまで安楽死を望もうとは思わないが、実際に当事者になったときにどうなるか、確固として安楽死の誘惑を退けられるかどうか、いささか自信が持てないのも確かである。超高齢化社会目前のわが国において、なにが最善なのか、真剣に考えなければならないと思わされる一冊である。

血縁*長岡弘樹

  • 2017/07/23(日) 19:05:54

血縁
血縁
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長岡 弘樹
集英社
売り上げランキング: 19,014

誰かに思われることで起きてしまう犯罪。誰かを思うことで救える罪。

コンビニの店長が男にナイフを突きつけられる中、電話の音が響いた。【でていいか】店長の差し出したメモを見ても、男は何も答えなかった――「文字盤」
父親の介護に疲れた姉は七年ぶりに妹と再会し、昔交わしたある約束を思いだす。親を思う姉妹の気持ちの行方は――「苦いカクテル」
自首という言葉を聞くと、芹沢の頭をあの出来事がよぎる。刑務官が押さなければならない、死刑執行の三つのボタン――「ラストストロー」
ほか、七つの短編を通して、人生の機微を穿つ。
バラエティに富んだ、長岡ミステリの新機軸。


誰かの思惑が、別の誰かの思惑と一致し、あるいはすれ違い、それがある物事の結果を変えてしまうことがある。人生はなかなか思い通りにはいかないものである。だが読者にとっては、それこそが面白いところである。さまざまな関係の人たちの人生の道筋が、誰のどんな思惑、どんなきっかけで変わっていくのかが興味深い一冊である。

秋山善吉工務店

  • 2017/05/31(水) 18:14:50

秋山善吉工務店
秋山善吉工務店
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中山 七里
光文社
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ゲーム会社を辞め、引き籠っていた史親の部屋からの出火で家と主を失った秋山家。残された妻の景子、中学生の雅彦、小学生の太一の三人は、史親の実家「秋山善吉工務店」に世話になることに。慣れない祖父母との新生活は、それぞれの身に降りかかるトラブルで災難続きの日々。一方、警視庁捜査一課の宮藤は、秋山家の火災は放火だったのではないか、と調べ始める―。大工の善吉爺ちゃん、大立ち回り!!昭和の香り漂うホームドラマミステリー。


善吉爺ちゃん、惚れる!曲がったことが大嫌い、汗を流さずに楽をしようとする態度には我慢がならない。口数は少なく、たまに口を開けば怒鳴っている。たまには物も飛んでくる。だが、顔が広く、近所の評判も上々で、人一倍情が濃い。世の中の酸いも甘いも知り尽くしている。ともかく格好いいのである。実の息子(バカ息子と呼ぶ)の火事での死のあと、残された嫁と孫たちを引き取り、彼らのためにその本領を発揮する善吉の姿は、惚れ惚れする以外の言葉が浮かばない。最後の最後まで善吉らしい生き方だが、ほかの結末ではダメだったのだろうか、と思わずにはいられない。八年後の太一の告白が意外過ぎて驚くが、いろんなことが腑に落ちる。善吉を生き返らせて続編を読みたい一冊である。

東京二十三区女*長江俊和

  • 2017/05/03(水) 12:44:47

東京二十三区女
東京二十三区女
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長江 俊和
幻冬舎 (2016-09-09)
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フリーライターの原田璃々子は、民俗学の講師だった先輩・島野仁と東京二十三区を巡り取材をしている。板橋区を訪れた二人は、自殺の名所、高島平団地に向かった。だがーー「私が探している場所は、ここではありません」。彼女は“何を"探しているのか。板橋の縁切神社、渋谷の暗渠、港区の外苑西通りを走るタクシー、江東区の埋め立て地「夢の島」、品川区の大森貝塚。誰もが知っている"あの場所"の誰も知らない過去を知るとき、璃々子は、「本当の秘密」を知ることになる。


読む前に想像していた内容とは違うテイストの物語だったが、面白かった。東京二十三区のあちこちを霊感の強いフリーライター・原田璃々子が何かを探して訪れ、先輩・島野仁が行動をともにして、その場所の薀蓄を滔々と語るというのがストーリーの主な流れである。その合間に、その場所にまつわるホラーテイストの出来事が差し挟まれ、璃々子が探すものとどう関連してくるのかに興味を惹かれる。時間も過去と現在を行きつ戻りつしていて、過去からその地に積み重ねられてきた歴史さえも感じられるようである。自分が暮らす場所の過去に想いを馳せてみたくなる。そして最後の品川区では、予想外の結末が待っていて驚かされるが腑にも落ちるのである。大都会東京にも歴史や人の思いが積み重なっているのだと改めて思わされる一冊でもある。

翼がなくても*中山七里

  • 2017/04/24(月) 16:52:11

翼がなくても
翼がなくても
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中山 七里
双葉社
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「何故、選りにも選って自分が。何故、選りにも選って足を」陸上200m走でオリンピックを狙うアスリート・市ノ瀬沙良を悲劇が襲った。交通事故に巻きこまれ、左足を切断したのだ。加害者である相楽泰輔は幼馴染みであり、沙良は憎悪とやりきれなさでもがき苦しむ。ところが、泰輔は何者かに殺害され、5000万円もの保険金が支払われた。動機を持つ沙良には犯行が不可能であり、捜査にあたる警視庁の犬養刑事は頭を抱える。事件の陰には悪名高い御子柴弁護士の姿がちらつくが―。左足を奪われた女性アスリートはふたたび羽ばたけるのか!?どんでん返しの先に涙のラストが待つ切なさあふれる傑作長編ミステリー。


御子柴礼司シリーズの最新作、というにはいささか趣を異にする物語ではあるのだが、御子柴が弄する策略にしてやられた感はある。しかも、御子柴が出てこなくても、パラリンピック、スポーツ義肢、障碍者スポーツの在り方、障碍者のQOLの問題、などなど様々に考えさせられる要素が盛り込まれていて、さらに、努力が報われる達成感や爽やかさも味わえるので、ミステリ要素はさほど強くはないのだが、先へ先へと興味が引っ張られていく一冊である。

時が見下ろす町*長岡弘樹

  • 2017/03/25(土) 18:23:19

時が見下ろす町
時が見下ろす町
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長岡弘樹
祥伝社
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町のシンボル、大きな時計が目印の時世堂(じせいどう)百貨店の隣に立つ一軒の家。その家で、和江は抗癌剤治療に苦しむ四十年連れ添った夫を介護している。ある日、夫の勧めで、気分転換に写生教室に出かけることになり、孫娘のさつきに留守番を頼むことに。その日だけのつもりだったのだが、なぜかさつきはそのまま居座ってしまい……。和江の家が建つ前は時世堂の物置き、その前は製鞄工場、さらにその前は中古タイヤの倉庫……。様々に変わりゆく風景の中で、唯一変わらなかった百貨店。その前で、繰り広げられてきた時に哀しく、時に愛しい事件とは?


第一章 白い修道士  第二章 暗い融合  第三章 歪んだ走姿(フォーム)  第四章 苦い確率  第五章 撫子の予言  第六章 翳った指先  第七章 刃の行方  第八章 交点の香り

一見ミステリとは思えないストーリー展開なのだが、いつの間にかするりとミステリの世界に滑り込んでいる印象である。時世堂百貨店がある町で起こる出来事を集めた短編集なのだが、狭い町のあちこちでこんなことが起こっていることを想像すると、それだけでかなり怖い。それは、殺人事件などの大きなものばかりではなく、時に人の心の中に仕舞いこまれた思いまで抉り出すことにもなるのだが、逆にそれを食い止めようとする愛にあふれた行動につながることもある。怖くもあり、胸がじんわりあたたかくもなる一冊である。

白衣の嘘*長岡弘樹

  • 2017/03/17(金) 18:32:34

白衣の嘘
白衣の嘘
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長岡 弘樹
KADOKAWA (2016-09-29)
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悲哀にみちた人間ドラマ。温かな余韻が残るラスト。
『傍聞き』『教場』を超える、傑作ミステリ集!
バレーボール全日本の女子大生・彩夏と、彼女を溺愛する医者の姉・多佳子。彩夏の運転で実家に向かう途中、ふたりはトンネル崩落事故に遭ってしまう。運転席に閉じ込められた妹に対して姉がとった意外な行動とは……(「涙の成分比」)。
命を懸けた現場で交錯する人間の欲望を鮮やかに描く、珠玉の六編。

「いつか“命”をテーマに医療の世界をミステリとして書きたいと思っていました。自分にとって集大成と言える作品です」――長岡弘樹


「最後の良薬」 「涙の成分比」 「小医は病を医(なお)し」 「ステップ・バイ・ステップ」 「彼岸の坂道」 「小さな約束」

白衣の下に隠された医者の嘘、医者の罪、偽の医者。状況はそれぞれであり、心情もさまざまであり、嘘にもいろいろある。誰かを守ろうとする嘘もあれば、保身のための嘘もあり、他人を貶めようとする嘘もある。だが、どの物語の登場人物も、たとえ何かを偽っていたとしても、最後の人間らしさまではなくしていないのが救いでもある。白衣の現場でなくとも当てはまる人間ドラマの一冊でもある。

セイレーンの懺悔*中山七里

  • 2017/02/18(土) 16:44:39

セイレーンの懺悔
セイレーンの懺悔
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中山 七里
小学館
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少女を「本当に殺した」のは誰なのか――?
葛飾区で発生した女子高生誘拐事件。不祥事によりBPOから度重なる勧告を受け、番組存続の危機にさらされた帝都テレビ「アフタヌーンJAPAN」の里谷太一と朝倉多香美は、起死回生のスクープを狙って奔走する。警察を尾行した多香美が廃工場で目撃したのは、暴行を受け、無惨にも顔を焼かれた被害者・東良綾香の遺体だった。
クラスメートへの取材から、綾香がいじめを受けていたという証言を得た多香美。主犯格と思われる少女は、6年前の小学生連続レイプ事件の犠牲者だった。
少女を本当に殺したのは、誰なのか――?
”どんでん返しの帝王”が現代社会に突きつける、慟哭のラスト16ページ!!


誘拐事件、殺人事件、いじめ、非行、家庭崩壊、などなど様々な社会問題が盛り込まれた物語である。そして、事件に対する警察とマスコミの役割の違いによる対応の差にも迫る物語でもある。さらに言えば、真犯人を追う物語でありながら、スクープを追い求める物語でもあり、好悪はともかくとして、それぞれが自分の職責を全うしようとする姿が描かれているとも言えると思う。立場や役割が違えど、詰まるところは想像力と相手を思いやる心が芯になければ、よい仕事はできないのだとも思わされる。罪を犯さなかった人がひとりもいないように見える一冊でもある。

ヒポクラテスの憂鬱*中山七里

  • 2016/12/14(水) 16:45:07

ヒポクラテスの憂鬱
ヒポクラテスの憂鬱
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中山七里
祥伝社
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“コレクター(修正者)”と名乗る人物から、埼玉県警のホームページに犯行声明ともとれる謎の書き込みがあった。直後、アイドルが転落死、事故として処理されかけたとき、再び死因に疑問を呈するコレクターの書き込みが。関係者しか知りえない情報が含まれていたことから、捜査一課の刑事・古手川は浦和医大法医学教室に協力を依頼。偏屈だが世界的権威でもある老教授・光崎藤次郎と新米助教の栂野真琴は、司法解剖の末、驚愕の真実を発見する。その後もコレクターの示唆どおり、病死や自殺の中から犯罪死が発見され、県警と法医学教室は大混乱。やがて司法解剖制度自体が揺さぶられ始めるが…。


「堕ちる」 「熱中せる(のぼせる)」 「焼ける」 「停まる」 「吊るす」 「暴く」 


浦和医大法医学教室シリーズの二作目。主人公の栂野真琴や光崎教授、県警の古手川刑事など、主要な登場人物のキャラクタもすっかりなじんでこなれた印象である。自称コレクター(修正者)の、県警のホームページへの書き込みに注目し、事件で亡くなった遺体を司法解剖した結果、ほんとうの死の原因が究明され、事件解決につながる、という件が発生し、県警も法医学教室も、振り回されることになる。コレクターとは何者なのか、事件の内容をどうやって知り得たのか。謎が謎を呼び、解剖の予算は尽き、事件は次々に起こる。そして、いくつもの事件の裏に、さらに底知れない闇が隠れていることに驚かされる。シリアスなのだが、登場人物たちの掛け合いが面白く、コメディ要素も紛れ込み、愉しめる一冊でもある。

作家刑事毒島*中山七里

  • 2016/11/19(土) 13:42:21

作家刑事毒島
作家刑事毒島
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中山 七里
幻冬舎 (2016-08-10)
売り上げランキング: 108,866

この男、
前代未聞のトンデモ作家か。
はたまた推理冴え渡る名刑事か! ?

中山史上最毒・出版業界激震必至の本格ミステリ!

殺人事件解決のアドバイスを仰ごうと神保町の書斎を訪れた刑事・明日香を迎えたのは、流行作家の毒島。虫も殺さぬような温和な笑顔の持ち主は、性格の歪んだ皮肉屋だった。捜査過程で浮かび上がってきたのは、巨匠病にかかった新人作家、手段を選ばずヒット作を連発する編集者、ストーカーまがいの熱狂的な読者。ついには毒島本人が容疑者に! ? 新・爆笑小説!


いつもの著者とはひと味違うテイストである。警察官でありながら、作家を兼業し、比類ないシビアな目線と、徹底的に対象者のコアを抉る物言いで、容疑者を完膚なきまでに追い詰め落とす。登場人物はほとんど出版関係者や作家志望者と、本に関わる人たちなので、興味はいやがうえにも高まる。出版業界の過酷な裏側も覗き見られ、刺激を受けるが、物語が終わった後の著者紹介の下の一文に、さらに苦笑させられる。これ以上なくシビアなのにコミカルで、すっかり毒島ファンになってしまう一冊である。

総理に告ぐ*永瀬隼介

  • 2016/11/11(金) 07:16:04

総理に告ぐ
総理に告ぐ
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永瀬 隼介
KADOKAWA/角川書店 (2016-04-30)
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ノンフィクションライターの小林は、1年前に脳梗塞で倒れて病気療養中の元与党幹事長・佐竹の回顧録のゴーストライターを引き受けた。生活に苦しむ小林は現状からの一発逆転を狙い、佐竹に過去のスキャンダルを告白させようと試みるが、国の行く末を憂う佐竹が語り出したのは、戦争のできる国家へと大きく舵を切る現総理大臣の大スキャンダルだった。しかし、佐竹の告白が終わった刹那、佐竹邸の監視についていた公安警察が現れて乱闘になり、脳梗塞を再発した佐竹は死亡、公安に立ちはだかった書生は射殺される。佐竹の告白と乱闘の一部始終が録音されたレコーダーを手に現場から命からがら逃げ出した小林は、旧知の警察官の助けを得て、マスコミを巻き込んだ大勝負に出るが――。


政界の裏側、腰砕けのマスコミ、フリーライターの矜持、警察の威信、公安の執拗さ。さまざまな要素が交錯し、現政権が覆り、日本の進路が修正されるかもしれないという期待を抱かせる展開である。猛進あり、駆け引きあり、裏取引ありと、命を張っての攻防が繰り広げられるが、主役のフリーライター小林のキャラに情けなさがあることで――それがリアルでもあるのだが――緊迫感にかける部分もあるような気がする。それでもこの結末である、終章のタイトル「光射す闇へ」というのが秀逸である。情報を鵜呑みにせずにアンテナを張り巡らせていないと恐ろしいことになると改めて感じさせられる一冊でもある。