FC2ブログ

TAS特別師弟捜査員*中山七里

  • 2018/11/06(火) 13:43:47

TAS 特別師弟捜査員 (単行本)
中山 七里
集英社
売り上げランキング: 205,470

「ねえ。慎也くん、放課後ヒマだったりする?」楓から突然声をかけられた慎也は驚いた。楓は学園のアイドルで、自分とは何の接点もないからだ。用件を言わず立ち去る楓を不審に思いながらも、声をかけられたことで慎也の胸は高鳴っていた。彼女が校舎の3階から転落死するまでは―。学校は騒然となり、さらに楓が麻薬常習者だったという噂が流れる。警察の聞き取り調査が始まった。そこに現れたのは、慎也の従兄弟で刑事の公彦。公彦は、転落死の真相を探るため、教育実習生として学園に潜入することを決める。一方の慎也も、楓が所属していた演劇部に入部し、楓の周辺人物に接触を図る。なぜ楓は、慎也を呼び出したのか―。慎也と公彦は、真相解明に挑む。“どんでん返しの帝王”が新たに仕掛けるバディ×学園ミステリ!


設定には、小説ならではの部分もあるが、興味をそそられるストーリーである。舞台は学園、同級生たちには内緒の潜入捜査、従兄弟の刑事も教育実習生として潜入。そして、演劇部に情熱をかける仲間たち。きゅんとくる要素が盛りだくさんである。だが、生徒の、しかも演劇部員の不審な死が二件も続いているのである。誰が、どんな理由で。いやでも展開が気になって先を急ぎたくなる。しかも、捜査の進捗状況だけではなく、合間には、演劇部の存続をかけた熱いやり取りがぎっしり詰め込まれているのだからなおさらである。明らかになった真実は、いかにもありそうと言えばそうなのだが、溜まりたまったものが、瞬時に爆発するような凶暴な衝動によって、人はあっけなく一線を越えてしまうのかもしれないという驚愕に、身が凍る心地にもなる。慎也・公彦コンビの活躍をまた見てみたいとは思うが、この先の生徒たちことが思わず心配になってしまう一冊でもある。

能面検事*中山七里

  • 2018/10/28(日) 07:24:20

能面検事
能面検事
posted with amazlet at 18.10.27
中山七里
光文社
売り上げランキング: 187,695

巷を騒がす西成ストーカー殺人事件を担当している、大阪地検一級検事の不破俊太郎と新米検察事務官の惣領美晴。どんな圧力にも流されず、一ミリも表情筋を動かすことのない不破は、陰で能面と呼ばれている。自らの流儀に則って調べを進めるなかで、容疑者のアリバイは証明され、さらには捜査資料の一部が紛失していることが発覚。やがて事態は大阪府警全体を揺るがす一大スキャンダルへと発展し―警察内から裏切りと揶揄される不破の運命は、そしてストーカー事件の思いもよらぬ真相とは―大阪地検一級検事・不破俊太郎。孤立上等、抜き身の刀、完全無欠の司法マシンが、大阪府警の暗部を暴く!


表情筋を1㎜も動かさず、感情の動きが全く読めない検事・不破と、彼につく検察事務官・美晴の物語である。被疑者に対するときだけではなく、誰に対してもいつでも感情表出がないので、周りにもよく思われず敵も多い不破であるが、これはあくまでも自分流の手法であり、変える気は毛頭ないようなので、一日中一緒に過ごす美晴にとってもやりにくいことこの上ない。だが、その捜査をつぶさに見ているうちに、美晴にも少しずつ彼の行動様式が理解できるようになってくる。権威にも与しない不破には、所内に隠れファンもいるようなので、ちょっぴり安心する。いささか極端に過ぎるとは思うが、個人的には不破を応援したくなる。もっと不破の捜査を見てみたいとも思わされる一冊である。シリーズ化されると嬉しいのだが。

中山七転八倒*中山七里

  • 2018/10/16(火) 18:14:24

中山七転八倒 (幻冬舎文庫)
中山 七里
幻冬舎 (2018-08-03)
売り上げランキング: 70,610

雑誌連載が10本に減り大いに危機感を抱き、プロットが浮かばずブランデーをがぶ飲み。原稿の締め切り直前、設定していたトリックが使えないことが判明。栄養ドリンクの三種混合を一気飲みし、徹夜で考え抜く――。どんでん返しの帝王がプロットの立て方や原稿の進め方、編集者とのやりとりを赤裸々に告白。本音炸裂、非難囂々の爆笑エッセイ!


エッセイというか、2016年と2017年の日記そのものの体裁である。それだけで605ページも読ませるのだから、さすがと言ってもいいだろう。ずいぶん希釈されていたり、伏字になていたりするものの、作家と編集者の内幕がかなりシビアに暴露されていて、読者ののぞき見趣味も満足させてくれる。とはいえ、個人的には、作家の各エッセイに好みに合わないものが多いので、途中からは、いささかお腹いっぱいの感は否めなかった。しかも、図書館ユーザーで、愚にもつかない感想をアップしている身。針の筵感も半端ないのである。事情はとてもよく理解できるが、こちらにも事情があるのよ、とちょっと言ってみたくなる一冊でもあった。

院内カフェ*中島たい子

  • 2018/10/13(土) 18:21:01

院内カフェ (朝日文庫)
中島たい子
朝日新聞出版
売り上げランキング: 57,998

「ここのコーヒーはカラダにいい」と繰り返す男や、態度の大きい白衣の男が常連客。その店で働く亮子は売れない作家でもある。夫との子どもは望むけれど、治療する気にはなれない。病院内カフェを舞台にふた組の中年夫婦のこころと身体と病を描く長編小説。


病院のなかにあって、病院ではない。院内カフェは独特の存在である。入院患者も外来患者も、その家族も見舞客も、誰でも分け隔てなく迎え入れ、ここではみな等しく客という存在になる。そんな、中立国のようなこの場所にも、毎日、さまざまな人生模様が描かれ続ける。主婦であり、作家であり、カフェのバイト店員でもある亮子の目が捉える人間模様を、彼女自身の家庭の事情も織り込みながら、紡ぎだしているのが本作である。自分というものの在りようや、夫婦や親子のかかわりあい方のことを、いままでにない角度から考えさせられる一冊でもある。

連続殺人鬼 カエル男ふたたび*中山七里

  • 2018/09/11(火) 16:54:58

連続殺人鬼カエル男ふたたび
中山 七里
宝島社
売り上げランキング: 23,440

口にフックをかけられてマンションの13階から吊るされた全裸死体と、
子どもが書いたような稚拙な文章での犯行声明――。
埼玉県飯能市を震撼させた“カエル男連続猟奇殺人事件"から10ヵ月、
事件を担当した精神科医、御前崎教授の自宅が爆破され、家からは粉砕・
炭化した死体が出てきた。そしてあの稚拙な犯行声明が見つかる。
カエル男・当真勝雄の報復に、協力要請がかかった渡瀬&古手川コンビは現場に向かう。
さらに医療刑務所から勝雄の保護司だった有働さゆりもアクションを起こし……。
破裂・溶解・粉砕。ふたたび起こる悪夢に、二転三転する怒濤の展開と激震のラストが待ち受ける!


筆舌に尽くしがたい凄惨な事件現場の描写が多々あって、気分が沈むが、だからといってページを閉じようとは思わせないのが著者である。刑法第39条の存在ゆえにその罪を逃れる者がいる一方、医療刑務所の手薄さなどの理由もあって、早々と外に出されることにより、新たな被害者を生むこともあり得る。前作で決着がついたと思われたカエル男事件だったが、ここにきて新たな被害者が現れ、今度の標的は「サ」から始まる。しかも、範囲が首都圏全域に及び、一般市民たちを恐怖に陥れるのである。誰の筋書きなのか、どこまで続くのか。渡瀬・古手川コンビが今回も捜査にどっぷりつかることになる。まったくもって救いのない物語である。そしてさらに背筋を凍らせるのは、医療刑務所から脱走したあの人物がまた新たな事件を起こし、野に放たれたままだということである。この後どんな展開が待っているのか、想像するのもおぞましいが、物語はここで本当に終わりなのだろうか。うまく呼吸ができなくなるような一冊である。

道具箱はささやく*長岡弘樹

  • 2018/08/05(日) 20:03:30

道具箱はささやく
道具箱はささやく
posted with amazlet at 18.08.05
長岡 弘樹
祥伝社
売り上げランキング: 228,761

資産家の娘・早百合に意中の相手がいるのか。調査を依頼された探偵の木暮と菜々は、最後の候補者と早百合がスクランブル交差点ですれ違うよう仕向ける。だが、その寸前に、なぜか木暮は早百合に電話を入れた…(「意中の交差点」)。借金苦から、休暇を利用して質屋に押し入った刑事の角垣。逃走中に電柱に衝突するも目撃者はなく、無事逃げおおせた。だが、なぜか上司の南谷は、角垣が犯人だと見抜くのだった…(「ある冬のジョーク」)。とっておきのアイデアを注ぎ込み、ストイックに紡がれた贅沢な作品集。


ひとつひとつの物語はほんの短いものなのだが、その中に、必ず一度は、「ほほぅ」と思わされる要素が埋め込まれている。それはときに、はっとするようなことだったり、なるほどと合点するようなことだったり、ちょっぴり笑ってしまうようなことだったりとさまざまなのだが、それらのスパイスによって、物語が格段に魅力的になっているのは間違いない。ちょっぴり洒脱な印象もある一冊である。

すずらん通り ベルサイユ書房 リターンズ!*七尾与史

  • 2018/07/06(金) 10:56:25

すずらん通り ベルサイユ書房 リターンズ! (光文社文庫)
七尾 与史
光文社 (2018-05-09)
売り上げランキング: 115,035

日本一の本の街・神田神保町にあるベルサイユ書房。テレビで有名なイケメン写真家・ジョージ久保田のサイン会が脅迫された。彼の新作写真集の中に、脅迫犯に都合の悪い何かが写っているらしい。剣崎店長の指令で、作家志望の書店員・研介らは写真の謎を追うことに。卑劣な脅迫犯を捕まえ、写真集を刊行中止から救えるか?タダモノじゃない七尾ワールドが大展開!


今回もベルサイユ書房は物騒な厄介事のオンパレードである。ここで働く面々が、嫌気がささずに働き続けているのが不思議なくらい、次々に起こる物騒な事々。もはや、誰かが引き寄せているとしか思えなくなってくる。キャラクタも、一作目より安定し、素直にそれぞれの人物を受け入れられるようになった気がする。そして、一作目の「ノブエ」事件もまだ引きずっているのが、得したようでもあり、おぞましすぎるようでもある。今回は、美月のポップに焦点が当たらなかったが、次回はまたそこから始まる事件も見てみたい。次も早く読みたいシリーズである。

すずらん通りベルサイユ書房*七尾与史

  • 2018/06/30(土) 12:24:43

すずらん通り ベルサイユ書房 (光文社文庫)
七尾 与史
光文社 (2015-04-09)
売り上げランキング: 262,664

ミステリ作家を目指す日比谷研介は神保町すずらん通りの「ベルサイユ書房」でアルバイトを始めた。そこは男装の麗人・剣崎瑠璃子店長、“カリスマポップ職人”の美月美玲など、濃いキャラの書店員ばかりが働いていた。しかも穏やかなバイト生活と思っていた研介の前で、次々と不可思議な事件が発生し…。気鋭のミステリ作家が贈る破天荒にして新たなる書店ミステリー!


ベルサイユ書房シリーズの一作目。キャラの濃すぎる店長のいるベルサイユ書房が舞台である。ベルサイユ書房は、店長のキャラだけではなく、美月美玲というポップ書きの天才がいて、そのポップを見ると、思わず手に取ってしまうと評判である。そして、本のセレクトにも独自性があり、書店の間でも注目されている店なのである。アルバイトしていた古書店が閉店したために、ここでアルバイトすることになった日比谷研介の目線で物語は進む。事件を呼ぶのか、事件に呼ばれるのか、ベルサイユ書房の周りではちょこちょこ事件が起きている。しかも、結構深刻な事件である。美月の目の付け所の鋭さは興味深いし、周りを固める登場人物たちも気になるところである。シリーズのこれからさらにキャラが定着していくと、ますます面白くなりそうな一冊である。

連続殺人鬼 カエル男*中山七里

  • 2018/06/09(土) 07:44:08

連続殺人鬼 カエル男 (宝島社文庫)
中山 七里
宝島社 (2011-02-04)
売り上げランキング: 2,240

口にフックをかけられ、マンションの13階からぶら下げられた女性の全裸死体。傍らには子供が書いたような稚拙な犯行声明文。街を恐怖と混乱の渦に陥れる殺人鬼「カエル男」による最初の犯行だった。警察の捜査が進展しないなか、第二、第三と殺人事件が発生し、街中はパニックに…。無秩序に猟奇的な殺人を続けるカエル男の目的とは?正体とは?警察は犯人をとめることができるのか。


あまりにも凄惨な場面が多そうなので、ずっと敬遠していたのだが、続編が出たのをきっかけに、やはり手に取らずにはいられなくなってしまった。危惧した通りの凄惨さで、読み進めるのがつらくなることもあったが、真犯人に対する興味がそれを上回り、途中からはページを繰る手が止まらなくなった。遅々として進まない操作の果てに、やっと一筋の光が見えたと思えば、あっさりと裏切られ、さらにそれも裏切られ、とんでもないところまで行きついたころには、残りページはわずかで、このまま終わってしまうのかと不安にさせられた挙句のあのラストである。これは続編を楽しみにせざるを得ない。絶対にあってほしくない犯罪ではあるが、興味深い一冊だった。

にらみ*長岡弘樹

  • 2018/05/01(火) 13:50:27

にらみ
にらみ
posted with amazlet at 18.05.01
長岡 弘樹
光文社
売り上げランキング: 255,057

“にらみ”とは、刑事が公判を傍聴し、被告人が供述を翻したりしないよう、無言で圧力をかけること―。事務所荒らしで捕まり、懲役五年の判決を受けた窃盗の常習犯・保原尚道は、仮釈放中に保護司を殺害しようとした容疑で逮捕された。取り調べを担当する片平成之は、四年前の保原の裁判で“にらみ”をしていて面識があった。保原は自首しており、目撃者による面通しも終えているのだが、片平は納得していない。保原は人を殺めようとするほどの悪人なのか―。(「にらみ」)驚きと情感あふれるミステリー傑作集!


表題作のほか、「餞別」 「遺品の迷い」 「実況中継」 「白秋の道標」 「百万に一つの崖」

いささか無理やりな感がある個所もないわけではなかったが、展開が愉しみになるストーリーである。ラストは読者それぞれが納得するように、ということなのか、明確に文字にされていない場合が多いので、物語によっては多少悩む点もあったが、ほぼ納得できるものだった。事実の裏側を垣間見るような一冊でもある。

悪徳の輪舞曲*中山七里

  • 2018/04/27(金) 09:36:10

悪徳の輪舞曲
悪徳の輪舞曲
posted with amazlet at 18.04.27
中山 七里
講談社
売り上げランキング: 23,018

14歳で殺人を犯した悪辣弁護士・御子柴礼司を妹・梓が30年ぶりに訪れ、母・郁美の弁護を依頼する。郁美は、再婚した夫を自殺に見せかけて殺害した容疑で逮捕されたという。接見した御子柴に対し、郁美は容疑を否認。名を変え、過去を捨てた御子柴は、肉親とどう向き合うのか、そして母も殺人者なのか?


御子柴礼二シリーズ四作目である。依頼に訪れたのは、なんと三十年ぶりに会う実の妹・梓だった。再婚した夫殺しの容疑で拘留されている母の弁護の依頼だった。かつて「死体配達人」と呼ばれた御子柴が、実の家族の弁護を通して、人間らしい心を取り戻すかどうかが大きな見どころである。すっかり家族とは決別し、一片の迷いもないと考えていた御子柴自身が、時に受ける衝撃と動揺、それに続く葛藤と戸惑い、さらには自制と抑圧の感情に読者も飲み込まれていく。家族に対する愛情を取り戻したかと問われれば、即座に否と言えるが、全くの他人の場合と寸分の違いもなかったかと言われれば、それもまた否であろう。揺れる部分が残っていることに、ほっとするところもあり、ここまで来たら悪辣を貫いてほしいという勝手な希望もあり、こちらの心も揺れるのである。これからの御子柴礼二がますます愉しみになる一冊である。

樽とタタン*中島京子

  • 2018/04/23(月) 16:44:40

樽とタタン
樽とタタン
posted with amazlet at 18.04.23
中島 京子
新潮社
売り上げランキング: 55,917

忘れかけていた子どもの頃の思い出を、あざやかに甦らせる傑作短篇集。小学校の帰りに毎日行っていた赤い樽のある喫茶店。わたしはそこでお客の老小説家から「タタン」と名付けられた。「それはほんとう? それとも噓?」常連客の大人たちとの、おかしくてあたたかな会話によってタタンが学んだのは……。心にじんわりと染みる読み心地。甘酸っぱくほろ苦いお菓子のように幸せの詰まった物語。


病的なまでに家から出ることに恐怖を感じていた幼いころ、母や祖母となら家の外に出かけることができた。勤めに出ていた母よりは、祖母と暮らす日々がトモコを作ったのかもしれない。そんなある日、偶然母と入った喫茶店は、かつて祖母が生きていたころ入ったことのある店で、どういうわけかそこなら怖くなかったので、以来、放課後には、仕事終わりの母を待ってその喫茶店=レッド・バレルで過ごすようになったのだった。そして、その店の赤い樽が指定席のようになり、常連の老小説家にタタンと名付けられるのである。こどもは、大人が思うよりも、大人の話をよく聞いていて、結構よく覚えてもいる。そして大人は、そのつもりはなくても、こどもにさまざまなことを日々教えているものだ。それぞれの孤独を抱えた常連客たちの言葉の端々からたくさんのことを吸収し、タタンは少しずつ大きくなっていった。大人になって思い出すあれこれは、あの頃に培われたものなのかもしれない。あの喫茶店は、すべての大人とこどもたちの心の世界なのかもしれない。ひとりぼっちの寂しさと、守られている安心感に包まれる一冊でもある。

逃亡刑事*中山七里

  • 2017/12/28(木) 07:48:27

逃亡刑事
逃亡刑事
posted with amazlet at 17.12.27
中山 七里
PHP研究所
売り上げランキング: 40,112

千葉県警の警察官が殺された。捜査にあたるのは、県警捜査一課で検挙率トップの班を率いる警部・高頭冴子。陰で〈アマゾネス〉と呼ばれる彼女は、事件の目撃者である八歳の少年・御堂猛から話を聞くことに。そこで猛が犯人だと示したのは、意外な人物だった……。
思わぬことから殺人事件の濡れ衣を着せられた冴子。自分の無実を証明できる猛を連れて逃げ続ける彼女に、逆転の目はあるのか!? 冴子は真犯人にどう立ち向かうのか? どんでん返しの帝王と呼ばれる著者が贈る、息をもつかせぬノンストップ・ミステリー


内容紹介の通り、まさにページを繰る手が止まらなかった。現実的とは言えないかもしれないが、アマゾネスの異名をとる女性刑事を主役に据え、たったひとりの直属の部下を除いて、県警内部の誰が敵かも判らない状況で、真実を暴こうと奮闘する高頭冴子の体当たり刑事生活が爽快である。正攻法とは言えない捜査方法ではあるが、だからこそ得られた協力の手が頼もしく、胸がすく思いがする。最後の猛のひと言で、すべてが報われた気がする。爽快な読書タイムをくれた一冊である。

さくら、うるわし 左近の桜*長野まゆみ

  • 2017/11/30(木) 19:50:33

さくら、うるわし 左近の桜
長野 まゆみ
KADOKAWA (2017-11-02)
売り上げランキング: 86,561

甘美で幻想的な異界への誘い――匂いたつかぐわしさにほろ酔う連作奇譚集。

男同士が忍び逢う宿屋「左近」の長男、桜蔵(さくら)は高校を卒業し、大学に進学。それを機に実家をはなれ、父の柾とその正妻と同居することになる。しかし、やっかいなものを拾う”体質”は、そのままで……
大雨の朝、自転車通学の途中で事故にあい、迷いこんだ先は古着を仕立て直すという〈江間衣服縫製所〉。その主の婆さんは着ていた服で浮き世の罪の重さをはかり、つぎに渡る川や行き先を決めるという――この世ならざる古着屋や巡査との出逢い、境界をまたいで往き来する桜蔵の命運やいかに――!?(この川、渡るべからず)
匂いたつかぐわしさにほろ酔う、大人のための連作奇譚集。


左近の桜シリーズ第三弾。
今回も桜蔵(さくら)は、妖しいものを引き寄せている――というか、引き寄せられていると言った方がいいのかもしれない。この世とあの世の境をあっさり越えて、見えないはずのものに翻弄されているような桜蔵を見ていると、読み手のこちらが消耗してくる気がする。やはりこういうのはあまり得意ではない。自分の輪郭が曖昧になっていくような錯覚に陥るので、あちらの世界に取り込まれそうになる。桜蔵は慣れていてどうということもないのだろうか。そんなこともないだろう。ともかく、現実世界のひずみに迷い込んだような一冊である。

ワルツを踊ろう*中山七里

  • 2017/11/17(金) 19:20:44

ワルツを踊ろう
ワルツを踊ろう
posted with amazlet at 17.11.17
中山 七里
幻冬舎 (2017-09-07)
売り上げランキング: 125,105

金も仕事も住処も失った“元エリート"溝端了衛が帰った故郷は、7世帯9人の限界集落に成り果てていた。
携帯の電波は圏外。住民は曲者ぞろい。地域に溶け込もうと奮闘する了衛の身辺で、不審な出来事が起こりはじめ……。


都会で何もかも失い、父が残した古家があったとはいえ、七世帯九人の限界集落に、よくぞ帰って住みつく気になったものだと、まずそこに感心する。曲者揃いの上に、排他的な村民たちになんとか溶け込もうと奮闘する了衛だが、することなすこと裏目に出るのだが、それでも、ただ一人解ってくれる能見(事情があって村八分にされている)のアドバイスも参考にしながら、次の策を考えるのである。竜川野菜の通販を始めたときには、これで村がひとつにまとまってめでたしめでたしという流れか、と思ったのだが、池井戸潤や荻原浩ならそうかもしれないが、中山七里はそう簡単には上手くいかせてくれないのである。一瞬でもハッピーエンドを想像してしまったので、その後の展開は、ショックが大きかった。それなのに、最後にそれ以上の裏切りがあり(ここは多少想像できたが)、さらにその先にも、しっかり伏線を回収する形でしっぺ返しが配されているのはお見事である。何度も期待を裏切られ、ストーリーの流れも裏切られて、とんでもない結末なのに思わずにんまりしてしまう一冊である。