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道具箱はささやく*長岡弘樹

  • 2018/08/05(日) 20:03:30

道具箱はささやく
道具箱はささやく
posted with amazlet at 18.08.05
長岡 弘樹
祥伝社
売り上げランキング: 228,761

資産家の娘・早百合に意中の相手がいるのか。調査を依頼された探偵の木暮と菜々は、最後の候補者と早百合がスクランブル交差点ですれ違うよう仕向ける。だが、その寸前に、なぜか木暮は早百合に電話を入れた…(「意中の交差点」)。借金苦から、休暇を利用して質屋に押し入った刑事の角垣。逃走中に電柱に衝突するも目撃者はなく、無事逃げおおせた。だが、なぜか上司の南谷は、角垣が犯人だと見抜くのだった…(「ある冬のジョーク」)。とっておきのアイデアを注ぎ込み、ストイックに紡がれた贅沢な作品集。


ひとつひとつの物語はほんの短いものなのだが、その中に、必ず一度は、「ほほぅ」と思わされる要素が埋め込まれている。それはときに、はっとするようなことだったり、なるほどと合点するようなことだったり、ちょっぴり笑ってしまうようなことだったりとさまざまなのだが、それらのスパイスによって、物語が格段に魅力的になっているのは間違いない。ちょっぴり洒脱な印象もある一冊である。

すずらん通り ベルサイユ書房 リターンズ!*七尾与史

  • 2018/07/06(金) 10:56:25

すずらん通り ベルサイユ書房 リターンズ! (光文社文庫)
七尾 与史
光文社 (2018-05-09)
売り上げランキング: 115,035

日本一の本の街・神田神保町にあるベルサイユ書房。テレビで有名なイケメン写真家・ジョージ久保田のサイン会が脅迫された。彼の新作写真集の中に、脅迫犯に都合の悪い何かが写っているらしい。剣崎店長の指令で、作家志望の書店員・研介らは写真の謎を追うことに。卑劣な脅迫犯を捕まえ、写真集を刊行中止から救えるか?タダモノじゃない七尾ワールドが大展開!


今回もベルサイユ書房は物騒な厄介事のオンパレードである。ここで働く面々が、嫌気がささずに働き続けているのが不思議なくらい、次々に起こる物騒な事々。もはや、誰かが引き寄せているとしか思えなくなってくる。キャラクタも、一作目より安定し、素直にそれぞれの人物を受け入れられるようになった気がする。そして、一作目の「ノブエ」事件もまだ引きずっているのが、得したようでもあり、おぞましすぎるようでもある。今回は、美月のポップに焦点が当たらなかったが、次回はまたそこから始まる事件も見てみたい。次も早く読みたいシリーズである。

すずらん通りベルサイユ書房*七尾与史

  • 2018/06/30(土) 12:24:43

すずらん通り ベルサイユ書房 (光文社文庫)
七尾 与史
光文社 (2015-04-09)
売り上げランキング: 262,664

ミステリ作家を目指す日比谷研介は神保町すずらん通りの「ベルサイユ書房」でアルバイトを始めた。そこは男装の麗人・剣崎瑠璃子店長、“カリスマポップ職人”の美月美玲など、濃いキャラの書店員ばかりが働いていた。しかも穏やかなバイト生活と思っていた研介の前で、次々と不可思議な事件が発生し…。気鋭のミステリ作家が贈る破天荒にして新たなる書店ミステリー!


ベルサイユ書房シリーズの一作目。キャラの濃すぎる店長のいるベルサイユ書房が舞台である。ベルサイユ書房は、店長のキャラだけではなく、美月美玲というポップ書きの天才がいて、そのポップを見ると、思わず手に取ってしまうと評判である。そして、本のセレクトにも独自性があり、書店の間でも注目されている店なのである。アルバイトしていた古書店が閉店したために、ここでアルバイトすることになった日比谷研介の目線で物語は進む。事件を呼ぶのか、事件に呼ばれるのか、ベルサイユ書房の周りではちょこちょこ事件が起きている。しかも、結構深刻な事件である。美月の目の付け所の鋭さは興味深いし、周りを固める登場人物たちも気になるところである。シリーズのこれからさらにキャラが定着していくと、ますます面白くなりそうな一冊である。

連続殺人鬼 カエル男*中山七里

  • 2018/06/09(土) 07:44:08

連続殺人鬼 カエル男 (宝島社文庫)
中山 七里
宝島社 (2011-02-04)
売り上げランキング: 2,240

口にフックをかけられ、マンションの13階からぶら下げられた女性の全裸死体。傍らには子供が書いたような稚拙な犯行声明文。街を恐怖と混乱の渦に陥れる殺人鬼「カエル男」による最初の犯行だった。警察の捜査が進展しないなか、第二、第三と殺人事件が発生し、街中はパニックに…。無秩序に猟奇的な殺人を続けるカエル男の目的とは?正体とは?警察は犯人をとめることができるのか。


あまりにも凄惨な場面が多そうなので、ずっと敬遠していたのだが、続編が出たのをきっかけに、やはり手に取らずにはいられなくなってしまった。危惧した通りの凄惨さで、読み進めるのがつらくなることもあったが、真犯人に対する興味がそれを上回り、途中からはページを繰る手が止まらなくなった。遅々として進まない操作の果てに、やっと一筋の光が見えたと思えば、あっさりと裏切られ、さらにそれも裏切られ、とんでもないところまで行きついたころには、残りページはわずかで、このまま終わってしまうのかと不安にさせられた挙句のあのラストである。これは続編を楽しみにせざるを得ない。絶対にあってほしくない犯罪ではあるが、興味深い一冊だった。

にらみ*長岡弘樹

  • 2018/05/01(火) 13:50:27

にらみ
にらみ
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長岡 弘樹
光文社
売り上げランキング: 255,057

“にらみ”とは、刑事が公判を傍聴し、被告人が供述を翻したりしないよう、無言で圧力をかけること―。事務所荒らしで捕まり、懲役五年の判決を受けた窃盗の常習犯・保原尚道は、仮釈放中に保護司を殺害しようとした容疑で逮捕された。取り調べを担当する片平成之は、四年前の保原の裁判で“にらみ”をしていて面識があった。保原は自首しており、目撃者による面通しも終えているのだが、片平は納得していない。保原は人を殺めようとするほどの悪人なのか―。(「にらみ」)驚きと情感あふれるミステリー傑作集!


表題作のほか、「餞別」 「遺品の迷い」 「実況中継」 「白秋の道標」 「百万に一つの崖」

いささか無理やりな感がある個所もないわけではなかったが、展開が愉しみになるストーリーである。ラストは読者それぞれが納得するように、ということなのか、明確に文字にされていない場合が多いので、物語によっては多少悩む点もあったが、ほぼ納得できるものだった。事実の裏側を垣間見るような一冊でもある。

悪徳の輪舞曲*中山七里

  • 2018/04/27(金) 09:36:10

悪徳の輪舞曲
悪徳の輪舞曲
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中山 七里
講談社
売り上げランキング: 23,018

14歳で殺人を犯した悪辣弁護士・御子柴礼司を妹・梓が30年ぶりに訪れ、母・郁美の弁護を依頼する。郁美は、再婚した夫を自殺に見せかけて殺害した容疑で逮捕されたという。接見した御子柴に対し、郁美は容疑を否認。名を変え、過去を捨てた御子柴は、肉親とどう向き合うのか、そして母も殺人者なのか?


御子柴礼二シリーズ四作目である。依頼に訪れたのは、なんと三十年ぶりに会う実の妹・梓だった。再婚した夫殺しの容疑で拘留されている母の弁護の依頼だった。かつて「死体配達人」と呼ばれた御子柴が、実の家族の弁護を通して、人間らしい心を取り戻すかどうかが大きな見どころである。すっかり家族とは決別し、一片の迷いもないと考えていた御子柴自身が、時に受ける衝撃と動揺、それに続く葛藤と戸惑い、さらには自制と抑圧の感情に読者も飲み込まれていく。家族に対する愛情を取り戻したかと問われれば、即座に否と言えるが、全くの他人の場合と寸分の違いもなかったかと言われれば、それもまた否であろう。揺れる部分が残っていることに、ほっとするところもあり、ここまで来たら悪辣を貫いてほしいという勝手な希望もあり、こちらの心も揺れるのである。これからの御子柴礼二がますます愉しみになる一冊である。

樽とタタン*中島京子

  • 2018/04/23(月) 16:44:40

樽とタタン
樽とタタン
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中島 京子
新潮社
売り上げランキング: 55,917

忘れかけていた子どもの頃の思い出を、あざやかに甦らせる傑作短篇集。小学校の帰りに毎日行っていた赤い樽のある喫茶店。わたしはそこでお客の老小説家から「タタン」と名付けられた。「それはほんとう? それとも噓?」常連客の大人たちとの、おかしくてあたたかな会話によってタタンが学んだのは……。心にじんわりと染みる読み心地。甘酸っぱくほろ苦いお菓子のように幸せの詰まった物語。


病的なまでに家から出ることに恐怖を感じていた幼いころ、母や祖母となら家の外に出かけることができた。勤めに出ていた母よりは、祖母と暮らす日々がトモコを作ったのかもしれない。そんなある日、偶然母と入った喫茶店は、かつて祖母が生きていたころ入ったことのある店で、どういうわけかそこなら怖くなかったので、以来、放課後には、仕事終わりの母を待ってその喫茶店=レッド・バレルで過ごすようになったのだった。そして、その店の赤い樽が指定席のようになり、常連の老小説家にタタンと名付けられるのである。こどもは、大人が思うよりも、大人の話をよく聞いていて、結構よく覚えてもいる。そして大人は、そのつもりはなくても、こどもにさまざまなことを日々教えているものだ。それぞれの孤独を抱えた常連客たちの言葉の端々からたくさんのことを吸収し、タタンは少しずつ大きくなっていった。大人になって思い出すあれこれは、あの頃に培われたものなのかもしれない。あの喫茶店は、すべての大人とこどもたちの心の世界なのかもしれない。ひとりぼっちの寂しさと、守られている安心感に包まれる一冊でもある。

逃亡刑事*中山七里

  • 2017/12/28(木) 07:48:27

逃亡刑事
逃亡刑事
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中山 七里
PHP研究所
売り上げランキング: 40,112

千葉県警の警察官が殺された。捜査にあたるのは、県警捜査一課で検挙率トップの班を率いる警部・高頭冴子。陰で〈アマゾネス〉と呼ばれる彼女は、事件の目撃者である八歳の少年・御堂猛から話を聞くことに。そこで猛が犯人だと示したのは、意外な人物だった……。
思わぬことから殺人事件の濡れ衣を着せられた冴子。自分の無実を証明できる猛を連れて逃げ続ける彼女に、逆転の目はあるのか!? 冴子は真犯人にどう立ち向かうのか? どんでん返しの帝王と呼ばれる著者が贈る、息をもつかせぬノンストップ・ミステリー


内容紹介の通り、まさにページを繰る手が止まらなかった。現実的とは言えないかもしれないが、アマゾネスの異名をとる女性刑事を主役に据え、たったひとりの直属の部下を除いて、県警内部の誰が敵かも判らない状況で、真実を暴こうと奮闘する高頭冴子の体当たり刑事生活が爽快である。正攻法とは言えない捜査方法ではあるが、だからこそ得られた協力の手が頼もしく、胸がすく思いがする。最後の猛のひと言で、すべてが報われた気がする。爽快な読書タイムをくれた一冊である。

さくら、うるわし 左近の桜*長野まゆみ

  • 2017/11/30(木) 19:50:33

さくら、うるわし 左近の桜
長野 まゆみ
KADOKAWA (2017-11-02)
売り上げランキング: 86,561

甘美で幻想的な異界への誘い――匂いたつかぐわしさにほろ酔う連作奇譚集。

男同士が忍び逢う宿屋「左近」の長男、桜蔵(さくら)は高校を卒業し、大学に進学。それを機に実家をはなれ、父の柾とその正妻と同居することになる。しかし、やっかいなものを拾う”体質”は、そのままで……
大雨の朝、自転車通学の途中で事故にあい、迷いこんだ先は古着を仕立て直すという〈江間衣服縫製所〉。その主の婆さんは着ていた服で浮き世の罪の重さをはかり、つぎに渡る川や行き先を決めるという――この世ならざる古着屋や巡査との出逢い、境界をまたいで往き来する桜蔵の命運やいかに――!?(この川、渡るべからず)
匂いたつかぐわしさにほろ酔う、大人のための連作奇譚集。


左近の桜シリーズ第三弾。
今回も桜蔵(さくら)は、妖しいものを引き寄せている――というか、引き寄せられていると言った方がいいのかもしれない。この世とあの世の境をあっさり越えて、見えないはずのものに翻弄されているような桜蔵を見ていると、読み手のこちらが消耗してくる気がする。やはりこういうのはあまり得意ではない。自分の輪郭が曖昧になっていくような錯覚に陥るので、あちらの世界に取り込まれそうになる。桜蔵は慣れていてどうということもないのだろうか。そんなこともないだろう。ともかく、現実世界のひずみに迷い込んだような一冊である。

ワルツを踊ろう*中山七里

  • 2017/11/17(金) 19:20:44

ワルツを踊ろう
ワルツを踊ろう
posted with amazlet at 17.11.17
中山 七里
幻冬舎 (2017-09-07)
売り上げランキング: 125,105

金も仕事も住処も失った“元エリート"溝端了衛が帰った故郷は、7世帯9人の限界集落に成り果てていた。
携帯の電波は圏外。住民は曲者ぞろい。地域に溶け込もうと奮闘する了衛の身辺で、不審な出来事が起こりはじめ……。


都会で何もかも失い、父が残した古家があったとはいえ、七世帯九人の限界集落に、よくぞ帰って住みつく気になったものだと、まずそこに感心する。曲者揃いの上に、排他的な村民たちになんとか溶け込もうと奮闘する了衛だが、することなすこと裏目に出るのだが、それでも、ただ一人解ってくれる能見(事情があって村八分にされている)のアドバイスも参考にしながら、次の策を考えるのである。竜川野菜の通販を始めたときには、これで村がひとつにまとまってめでたしめでたしという流れか、と思ったのだが、池井戸潤や荻原浩ならそうかもしれないが、中山七里はそう簡単には上手くいかせてくれないのである。一瞬でもハッピーエンドを想像してしまったので、その後の展開は、ショックが大きかった。それなのに、最後にそれ以上の裏切りがあり(ここは多少想像できたが)、さらにその先にも、しっかり伏線を回収する形でしっぺ返しが配されているのはお見事である。何度も期待を裏切られ、ストーリーの流れも裏切られて、とんでもない結末なのに思わずにんまりしてしまう一冊である。

ネメシスの使者*中山七里

  • 2017/10/27(金) 18:38:07

ネメシスの使者
ネメシスの使者
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中山 七里
文藝春秋
売り上げランキング: 94,404

ギリシア神話に登場する、義憤の女神「ネメシス」。重大事件を起こした懲役囚の家族が相次いで殺され、犯行現場には「ネメシス」の血文字が残されていた。その正体は、被害者遺族の代弁者か、享楽殺人者か、あるいは…。『テミスの剣』や『贖罪の奏鳴曲』などの渡瀬警部が、犯人を追う。


温情判事と呼ばれる渋沢が死刑判決を出さなかったばかりに、凶悪犯が刑務所の中でのうのうと生きながらえる現状に、怒りや悲しみのやり場をなくす被害者遺族。刑務所の中の犯人に手出しができない分、加害者家族をうっぷん晴らしの対象にする匿名の悪意の数々。死刑制度の存廃の問題や、正義を振りかざして八つ当たり的な行動をとる者たちの問題まで、考えさせられることが山積みである。ネメシスを名乗る犯人は、思ってもいないところにいたが、意外にもあっさりと罪を認めて刑務所行きとなる。だが、そこからの企みががさらに恐ろしい。人の恨みの深さと、思い込みの激しさの恐ろしさをまざまざと見せつけられるようである。やりきれなさに身悶えする一冊でもある。

銀河の通信所*長野まゆみ

  • 2017/10/21(土) 16:38:30

銀河の通信所
銀河の通信所
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長野 まゆみ
河出書房新社
売り上げランキング: 184,000

銀河通信につないでごらん、賢治の声が聞こえてくる……足穂や百閒とおぼしき人々から登場人物までが賢治を語る、未知なる小説体験!


銀河通信に毎月第一日曜日に掲載された<賢治さんの百話>を一冊にまとめたもの、という趣向である。宮沢賢治にゆかりのさまざまな人々に取材して集めた知られざる賢治さんの魅力が満載である。なんと、通信回線を何とか同調させ、賢治さんご本人のインタヴューまで載せている。賢治さんのものを見る目の正確さや、それを表現することの巧みさが、ときどきのエピソードとともに綴られていて興味深い。ゴッホとの比較にも興味を惹かれる。宮沢賢治その人を、新しい目を持って見つめ直せる一冊かもしれない。

サイコパス*中野信子

  • 2017/10/10(火) 16:48:42

サイコパス (文春新書)
中野 信子
文藝春秋
売り上げランキング: 451

とんでもない犯罪を平然と遂行する。ウソがバレても、むしろ自分の方が被害者であるかのようにふるまう…。脳科学の急速な進歩により、そんなサイコパスの脳の謎が徐々に明らかになってきた。私たちの脳と人類の進化に隠されたミステリーに最新科学の目で迫る!


いままで、身の周りにサイコパスと思われる人がいたことが(たぶん)ないので、想像するしかないのだが、本書を読んでわかったのは、ひとつの型に当てはめ切れるものではないということである。病的に顕著なサイコパスは、犯罪者としてマスコミに取り上げられることも多く、その行動には、単純に理解できない恐ろしさを感じる。反面、その傾向はあるが、さほど違和感なく社会生活を営むことができているように見える人たちは、自らの情動の赴きに悩まされることもあるのだろう。まだまだ解き明かされていないことが多い分野であるが、100人に一人というかなりな確率で存在するサイコパスを解き明かし、犯罪に向かわせないようにすることは、これからの重要な課題なのだろう。興味深い一冊だった。

ドクター・デスの遺産*中山七里

  • 2017/08/02(水) 18:31:45

ドクター・デスの遺産
中山 七里
KADOKAWA (2017-05-31)
売り上げランキング: 62,367

警視庁にひとりの少年から「悪いお医者さんがうちに来てお父さんを殺した」との通報が入る。当初はいたずら電話かと思われたが、捜査一課の高千穂明日香は少年の声からその真剣さを感じ取り、犬養隼人刑事とともに少年の自宅を訪ねる。すると、少年の父親の通夜が行われていた。少年に事情を聞くと、見知らぬ医者と思われる男がやってきて父親に注射を打ったという。日本では認められていない安楽死を請け負う医師の存在が浮上するが、少年の母親はそれを断固否定した。次第に少年と母親の発言の食い違いが明らかになる。そんななか、同じような第二の事件が起こる――。


人間の尊厳と安楽死について、最期をどう迎えるかということについて、いくら考えても何が最善なのかわわからない。だが、安楽死という選択について、深く考えるきっかけになる物語である。少年の通報によって動き出した捜査一課は、安楽死を請け負うサイトにたどり着き、かつて、積極的安楽死を推奨した病理学者、ジャック・ケヴォーキアンの意志を受け継ぐそのサイトの管理者を、一連の安楽死事件の真犯人と読み、ケヴォーキアンがそう呼ばれたのにちなんで、ドクター・デスと呼んで捜査を始める。ドクター・デスは、見事なほど印象が薄い男で、頭が薄い小男という証言しか得られず、容易に迫ることができない。そんな折、共に行動していた看護師を見つけ出し、彼女の証言によってドクター・デスの名前が判り、それを糸口にして真犯人を逮捕するところまで行くのである。だが、そのあとの展開は、全く想像の外だったので驚くしかなかった。なるほどそういうことだったのか。安楽死はもちろん、現在の日本では違法であり、実行すれば殺人罪に問われるものである。自分自身も難病に苦しむわけでもなく、身近に病人を抱えるわけでもないので、法を犯してまで安楽死を望もうとは思わないが、実際に当事者になったときにどうなるか、確固として安楽死の誘惑を退けられるかどうか、いささか自信が持てないのも確かである。超高齢化社会目前のわが国において、なにが最善なのか、真剣に考えなければならないと思わされる一冊である。

血縁*長岡弘樹

  • 2017/07/23(日) 19:05:54

血縁
血縁
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長岡 弘樹
集英社
売り上げランキング: 19,014

誰かに思われることで起きてしまう犯罪。誰かを思うことで救える罪。

コンビニの店長が男にナイフを突きつけられる中、電話の音が響いた。【でていいか】店長の差し出したメモを見ても、男は何も答えなかった――「文字盤」
父親の介護に疲れた姉は七年ぶりに妹と再会し、昔交わしたある約束を思いだす。親を思う姉妹の気持ちの行方は――「苦いカクテル」
自首という言葉を聞くと、芹沢の頭をあの出来事がよぎる。刑務官が押さなければならない、死刑執行の三つのボタン――「ラストストロー」
ほか、七つの短編を通して、人生の機微を穿つ。
バラエティに富んだ、長岡ミステリの新機軸。


誰かの思惑が、別の誰かの思惑と一致し、あるいはすれ違い、それがある物事の結果を変えてしまうことがある。人生はなかなか思い通りにはいかないものである。だが読者にとっては、それこそが面白いところである。さまざまな関係の人たちの人生の道筋が、誰のどんな思惑、どんなきっかけで変わっていくのかが興味深い一冊である。