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夜が明ける*西加奈子
- 2022/02/18(金) 16:49:42
15歳の時、 高校で「俺」は身長191センチのアキと出会った。
普通の家 庭で育った「俺」と、 母親にネグレクトされていた吃音のアキは、 共有できる ことなんて何一つないのに、 互いにかけがえのない存在になっていった。 大学卒業後、 「俺」はテレビ制作会社に就職し、 アキは劇団に所属する。 しかし、 焦がれて飛び込んだ世界は理不尽に満ちていて、 俺たちは少しずつ、 心も身体 も、 壊していった......。
思春期から33歳になるまでの二人の友情と成長を描 きながら、 人間の哀しさや弱さ、 そして生きていくことの奇跡を描く。
本書は著者が初めて、 日本の若者の生きていく上でのしんどさに真正面から取り組んだ作品。
現代社会が目を背けるさまざまな問題に真っ直ぐに向き合って描かれた物語である。問題はひとつではなく、その原因も、対処法も、結果として現れる事々も、当事者の数だけあって、一概にどうすればいいと言えるものではない。ただ、そういう問題があるということを、共通認識としてそれぞれが心に持っているかどうかで、ほんのわずかでも光を当てられる可能性があるのかもしれないと思わされる。無関心でいることがいちばんの罪なのかもしれない。言葉通り身を削るようにもがきながら生きている人たちに、朝の光が差し込むことを、心の底から祈らずにはいられない一冊である。
妻の罪状*新津きよみ
- 2022/01/11(火) 18:30:09
バナナの皮で、あの人殺せますか……?
家族関係はどんでん返しの連続!
夫と義母を殺した罪で、懲役10年の判決を受けた茅野春子。
「多重介護殺人事件」として知られるこの悲劇に意外すぎる真相が?(「妻の罪状」)
介護、遺産相続、8050問題、終活、夫婦別姓など、
今日的な7つの問題をテーマに名手があざやかに描く、心揺さぶるミステリ短編集。
変転する家族それぞれの心の機微が行きつく先にあるものとは……。
第1話 半身半疑
第2話 ガラスの絆
第3話 殻の同居人
第4話 君の名は?
第5話 あなたが遺したもの
第6話 罪の比重
第7話 妻の罪状
どの物語も、そこはかとなく恐ろしい。狂気めいたところもありながら、実際に起こらないとは言い切れない。どこかで一歩踏み出す方向を間違ったら、もしかすると自分も……、と思わされる怖さを秘めている。それでも、先を読まずにはいられない興味をそそられてしまうのである。怖いもの見たさだろうか。そしてさらには、人間の弱さと誘導されやすさも思い知らされる一冊である。
あおい*西加奈子
- 2021/05/22(土) 13:26:50
二七才、スナック勤務のあたしは、おなかに「俺の国」と称した変な地図を彫っている三才年下のダメ学生・カザマ君と四か月前から同棲している。ある日、あたしは妊娠していることに気付き、なぜか長野のペンションで泊り込みバイトを始めることに。しかし、バイト初日、早くも脱走を図り、深夜、山の中で途方に暮れて道の真ん中で寝転んでしまう。その時、あたしの目に途方もなく美しい、あるものが飛び込んでくる―。表題作を含む三編を収録した、二五万部突破「さくら」著者の清冽なデビュー作。
デビュー作と知ると、うなずけるところがある。技巧を凝らさず、素のままを描いているように見せる腕は、すでに確かである。読み手の性質によって、好き嫌いがわかれるかもしれないとも思う。だらだらと日々を垂れ流しているように見えなくもないが、裡にはある種のいら立ちと背筋を伸ばしてすっくと立ちたい思いが凝っているような気がする。なんとも言えず愛情深い一冊である。
セカンドライフ*新津きよみ
- 2021/02/13(土) 16:49:49
二十三年前に殺された父。母が殺人依頼したのかも…(「見知らぬ乗客」)。熟年離婚で手に入れたこの自由は手放したくない(「セカンドライフ」)。老後と呼ぶには若すぎる、寿命が延びた現代社会において第二の人生をどう生きるかは男も女も切実だ。そんなとき邪魔になるのは長年連れ添ったあの人―。定年世代の来し方行く末を七つの人生の情景で綴る、毒あり華あり上質のミステリー短篇集。
表題作のほか、「見知らぬ乗客」 「演じる人」 「誤算」 「三十一文字(みそひともじ)」 「雲の上の人」 「定年つながり」
人生百年時代、定年後のまだまだ長い人生をどのように過ごすか、それはひと昔前よりも切実な問題なのかもしれない。その時に、どんな行動を起こすのか。違う場所、違う立場の人たちの第二の人生をのぞき見するような物語と言えるのかもしれない。ブラックなテイストのものが多い気がするのは、夫と妻の思いの差、とも言えるのかもしれない。粒よりの一冊である。
掟上今日子の退職願*西尾維新
- 2020/09/13(日) 16:52:19
退職願を胸ポケットに忍ばせ、波止場警部は揺れていた。彼女の最後の事件は、池に浮かび上がった水死体。しかしその不可解さゆえ、名高い忘却探偵・掟上今日子と協力捜査することになり…。辞めたがりの刑事と仕事中毒の名探偵。奇妙なタッグが謎に挑む!
第一話 掟上今日子のバラバラ死体
第二話 掟上今日子の飛び降り死体
第三話 掟上今日子の絞殺死体
第四話 掟上今日子の水死体
今回の相棒は、すべて同年代の女性である。忘却探偵に対する思いもそれぞれだが、探偵の方は、当然のことながら誰に対しても初対面の対応であり、網羅的と言える捜査法も、不躾とも言えるふてぶてしさも、行動のためらいのない大胆さもいつも通りの安定感である。これも当然のことながら、探偵自身は身に覚えがないことばかりであるが。そして、相棒刑事の何気ない一言が、ひらめきのきっかけとなり、あっという間に事件の真相に辿り着いてしまうのだが、そこまで来てしまえば、あとはあっさりとしたものなのである。そして、次に会うことがあったとしても、また初めましてなのである。本作では、忘却探偵が探偵でいる理由も今日子の口から語られ、なんとも言えない気持ちにさせられる。すっかり脳内では新垣結衣さんで読んだ一冊だった。
星の見える家*新津きよみ
- 2020/04/13(月) 18:36:54
安曇野で一人暮らしをする佳代子。病気がちの弟のため、家族で引っ越し、ペンションを始めたのだが、体調が回復した弟が東京の高校に進学したことを機に、家族はゆるやかに崩壊していく。一人になった佳代子は、ペンションをやめベーカリーを始めるのだが、そこにはある秘密が…(表題作)。再び生きることを目指す女性の恐怖と感動を描く、オリジナル短編集。
表題作のほか「危険なペア」 「二度とふたたび」 「五年日記」 「約束」 「再来」 「セカンドオピニオン」
どの物語も、読み始めて間もなく、次の展開が早く知りたくてページを繰る手が止まらなくなる。題材も、ストーリーの流れも、魅力的で、著者お得意の落とし方も見事で、毎回ときめく。粗挽き胡椒のように、ピリッとした後味も愉しめる一冊である。
夫が邪魔*新津きよみ
- 2019/08/25(日) 19:19:34
仕事がしたい。
なのに、あの男は“私の家"に帰ってきて偉そうに「夕飯」だの「掃除」だの命令する。
苛立ちが募る女性作家のもとに、
家事を手伝いたいと熱望する
奇妙なファンレターが届く(表題作)。
嫌いな女友達より、恋人を奪った女より、
誰よりも憎いのは……夫かも。
あなたが許せないのは誰ですか。
第五十一回日本推理作家協会賞
短編部門候補作を含む極上ミステリー七篇。
(解説:杉江松恋)
目を惹くタイトルであり、多くの妻たちの共感を得られそうな印象だったのだが、実際は、設定が一般的とは言えないこともあり、いささか期待外れではあった。それでも、それぞれの物語の女性の気持ちが、実際の行動にどう結びついていくのかを想像しながら読むのは興味深くもあった。視点の移動による小さなどんでん返しもあり、著者らしい一冊と言えると思う。
そこにいるのに*似鳥鶏
- 2019/03/18(月) 16:29:06
曲がってはいけないY字路、見てはいけないURL、剥がしてはいけないシール……読み進めるほど後悔する、13の恐怖と怪異の物語。
ホラーテイストの短編集である。どれもじわりじわりと恐怖が這い上がってくる感じ。いるのに認識されない、いるのにいないものとされる、いるのに自分だけにしか見えない、いるのに他人に認識されない、などなど、存在するのかしないのかという怖さのあれこれが描かれていて面白い。決定的なところまで描き切らない寸止め感も、恐怖を増す効果になっていると思う。ホラー苦手な私でも愉しめるレベルのホラー度の一冊だった。
叙述トリック短編集*似鳥敬
- 2019/01/25(金) 19:13:18
*注意! この短編集はすべての短編に叙述トリックが含まれています。騙されないよう、気をつけてお読みください。
本格ミステリ界の旗手が仕掛ける前代未聞の読者への挑戦状!
よく「叙述トリックはアンフェアだ」と言われてしまいます。これが叙述トリックというものの泣きどころです。
では、アンフェアにならずに叙述トリックを書く方法はないのでしょうか?
答えはノーです。最初に「この短編集はすべての話に叙述トリックが入っています」と断る。そうすれば皆、注意して読みますし、後出しではなくなります。
問題は「それで本当に読者を騙せるのか?」という点です。最初に「叙述トリックが入っています」と断ってしまったら、それ自体がすでに大胆なネタバレであり、読者は簡単に真相を見抜いてしまうのではないでしょうか?
そこに挑戦したのが本書です。果たして、この挑戦は無謀なのでしょうか? そうでもないのでしょうか?その答えは、皆様が本書の事件を解き明かせるかどうか、で決まります。(「読者への挑戦状」より一部抜粋)
叙述トリックだと明言した上での読者への挑戦である。そう思って読むからトリックに気づくものもあれば、知らずに読んでも気づけるものもある。叙述トリックにこだわるあまり、無理やり感が拭えない場面もあるが、まあそれはそれでありだろう。仕掛けは面白いが、物語的にはもう一歩、といった一冊である。
おまじない*西加奈子
- 2018/05/06(日) 07:22:04
大人になって、大丈夫なふりをしていても、
ちゃんと自分の人生のページをめくったら、傷ついてきたことはたくさんある――。
それでも、誰かの何気ないひとことで、世界は救われる。
悩んだり傷ついたり、生きづらさを抱えながらも生きていくすべての人の背中をそっと押す、キラメキの8編。
「あなたを救ってくれる言葉が、この世界にありますように」――西加奈子
「燃やす」 「孫係」 「いちご」 「あねご」 「オーロラ」 「マタニティ」 「ドブロブニク」 「ドラゴン・スープレックス」
さまざまな年代の女性が主人公の物語である。すべて違う人物ではあるのだが、多かれ少なかれ、誰でもに心当たりがあるような悩みを抱えているという点では、普遍的なものであるともいえると思う。人生のさまざまな段階で、女性が感じる生きにくさのようなものが凝縮されて描かれている印象なので、読者もどこかしらに自らを寄せて読めるのではないだろうか。そして、読む人それぞれ、どこかに生きていく上でのヒントが隠されている一冊なのではないかとも思う。
二年半待て*新津きよみ
- 2018/01/27(土) 18:26:59
婚姻届を出すのは待ってほしい──彼が結婚を決断しない理由は、思いもよらぬものだった(「二年半待て」)。このお味噌汁、変な味。忘れ物も多いし……まさか。手遅れになる前に私がなんとかしないと(「ダブルケア」)。死の目前、なぜか旧姓に戻していた祖母。“エンディングノート”からあぶりだされる驚きの真実とは(「お片づけ」)。人生の分かれ道を舞台にした、大人のどんでん返しミステリー。
就活・婚活・恋活・妊活・保活・離活・終活という、昨今よく使われる言葉にまつわるあれこれである。どの物語にも、なにがしかの裏の事情があり、すんなりハッピーな気持ちで読み終えられるものはほとんどない。そしてそれこそが魅力でもあるのである。胸の奥底がぞわりとする一冊だった。
i *西加奈子
- 2017/02/28(火) 18:35:33
「この世界にアイは存在しません。」入学式の翌日、数学教師は言った。ひとりだけ、え、と声を出した。ワイルド曽田アイ。その言葉は、アイに衝撃を与え、彼女の胸に居座り続けることになる。ある「奇跡」が起こるまでは―。「想うこと」で生まれる圧倒的な強さと優しさ―直木賞作家・西加奈子の渾身の「叫び」に心揺さぶられる傑作長編!
シリアで生まれ、アメリカ人の父と日本人の母の養子となったアイ。両親は惜しみなく愛してくれ、何不自由なく育てられてしあわせだったのだが、幼いころから、何かの被害に遭った人を見るたび、「なぜ自分ではなかったのか」と自問自答し、申し訳ないような思いにとらわれていた。誰かを不幸にしてしあわせになっている自分が、こんなにしあわせで申し訳ない、という屈折した思いは、高校の数学教師の「この世界にアイは存在しません」というひと言――教師の言った「アイ」とは、虚数のことだったのだが――で、さらに深く胸に入り込む。人と違う容姿をしていること、人と違う家庭環境にあること、意識的無意識的にかかわらず異分子として見られること、さまざまなことを考えすぎてしまうアイにとって、この世界は生きづらいことこの上ないのだった。だが、高校で出会ったミナと心を通わせるうちに、少しずつ他者を通して自らの内面を客観的に眺められるようにもなり、大学院生時代に知り合ったユウと恋愛すると、自分の異質さなど意識せずに夢中になれることがあることにも気づく。アイの悩みも喜びも、実は周りの親しい人たちが、いつも大きく見守ってくれているのである。ほんとうのところでアイのことを理解することはできないが、少しでも安らかな気持ちで健やかに生きていかれるように祈らずにはいられなくなる一冊である。
なくし物をお探しの方は二番線へ*二宮敦人
- 2016/09/17(土) 07:34:39
幻冬舎 (2016-08-05)
売り上げランキング: 84,982
蛍川鉄道の藤乃沢駅で働く若手駅員・夏目壮太は〝駅の名探偵〟。ある晩、終電を見送った壮太のもとに、ホームレスのヒゲヨシが駆け込んできた。深夜密かに駅で交流していた電車運転士の自殺を止めてくれというのだが、その運転士を知る駅員は一人もいない――。小さな駅を舞台に、知らぬ者同士が出会い、心がつながる。あったか鉄道員ミステリ。
夏目壮太のシリーズ二作目。駅員さんの日常がうかがえ、その仕事の大変さがよく判る。そんな、秒単位で動く忙しさの中でも駅にはさまざまな困りごとが持ち込まれる。柔軟な目のつけどころで謎を解きほぐすのが、藤乃沢駅の駅員・夏目壮太である。乗降客や近隣の人たち、フランスからのお客様まで巻き込んで、今回も日々走り回り考え続ける壮太なのである。シリアスな事件も描かれているのだが、いつもほのぼのとさせられるのは、壮太を始めとする登場人物たちの人柄だろう。次はどんな謎が持ち込まれるのか愉しみなシリーズである。
一番線に謎が到着します*二宮敦人
- 2016/08/30(火) 18:30:11
幻冬舎
売り上げランキング: 30,327
郊外を走る蛍川鉄道の藤乃沢駅。若き鉄道員・夏目壮太の日常は、重大な忘れ物や幽霊の噂などで目まぐるしい。半人前だが冷静沈着な壮太は、個性的な同僚たちと次々にトラブルを解決。そんなある日、大雪で車両が孤立。老人や病人も乗せた車内は冷蔵庫のように冷えていく。駅員たちは、雪の中に飛び出すが――。必ず涙する、感動の鉄道員ミステリ。
蛍川鉄道・藤乃沢駅の駅員、夏目壮太の毎日きちんと電車を走らせお客さまを送り届けるという地味な日々に時々ある事件というかトラブルに、駅員一丸となって向かう物語である。そして合間に、「幕間」として、なぜか、就職活動に悩む俊平という大学生の物語が挟み込まれている。壮太たち駅員は、日常業務の合間に、原稿をなくした編集者からの申し出で、必死になって原稿を探したり、駅に出るという幽霊の謎を解き明かしたり、大雪で立ち往生した列車の乗客を救出したりと大忙しである。何かが起きると、壮太は聞き込みをして情報を集め、それをつなぎ合わせて解決へと導くのだが、淡々としながらも熱い心を持っているのが見て取れて魅力的である。そして最後に、幕間の意味もわかり、さらに胸を熱くさせられる。何事も、こつこつとひとつずつ積み上げていくことが大切だと改めて思わされる一冊である。
掟上今日子の婚姻届*西尾維新
- 2016/07/19(火) 17:06:25
忘却探偵・掟上今日子、「はじめて」の講演会。檀上の今日子さんに投げかけられた危うい恋の質問をきっかけに、冤罪体質の青年・隠館厄介は思わぬプロポーズを受けることとなり……。
美しき忘却探偵は、呪われた結婚を阻止できるのか!?
今日子さんの講演会をきっかけに、厄介くんが巻き込まれた厄介事の顛末である。事件解決に向けた今日子さんと厄介さんの物語に、厄介くんのひとり語りが挟み込まれ、毎度のように飽きもせずに巻き込まれる冤罪事件に関する彼なりの考察も興味深い。さらに今回は、進展があるようでないようでもどかしい二人の距離が、事件解決のための事情があるにしろ、一気に縮まったような展開にも、思わずにんまりしてしまう。厄介くんはそれさえも冷静に分析してしまうので、それが進展しない一因のような気がしなくもないが……。珍しく二日がかりで解かれた事件の謎も、心の闇のなせるわざという感じで、深い業を感じさせられる。次回はどこがどう進展するのか愉しみなシリーズである。
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