挑戦者たち*法月綸太郎

  • 2016/11/27(日) 06:51:38

挑戦者たち
挑戦者たち
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法月 綸太郎
新潮社
売り上げランキング: 193,954

実験的な作風で知られたフランスの作家、レーモン・クノーに「文体練習」という作品がある。内容の同じ文章を九十九通りに書いてみるという試みである。思いついてもなかなか実行できるものではない。

他方で古来日本には、ものづくしという伝統があり、これは一つの話題をめぐって同類をひたすら列挙していく。

本書が題材とするのはミステリーでときどきみかける「読者への挑戦」である。手がかりはこれまでに全て出そろっているので、真相を推理してごらんなさいというあの部分だけを、九十九通りに展開していく。そこにいたるまでのお話の方はでてこない。

と書いてしまうともう解説することがない。というのは本書には、この種の試みに対する批評や書評も含まれているからである。それぞれの元ネタとなった話も示されている。

本書のために必要な情報は全て本書に書かれており、読者の挑戦を待つばかりである。


なんとも不思議な本である。導入部もなければ、事件も起こらず、解決へと導く探偵の語りもなく、そもそも物語でさえない。さまざまな趣向、形の読者への挑戦ばかりがこれでもかというほど並べられている。ほんのり物語風味がにおう個所もあって、展開を期待するが、それまでであり、解決編が目の前に現れることはない。興味はその都度掻き立てられるが、永遠にカタルシスは得られないので、消化不良気味の読後感もある。物語かと思って読み始めたので、その傾向がなおのこと増したのだろう。まさに挑戦的な一冊とも言える。

最後の花束*乃南アサ

  • 2015/12/13(日) 17:05:03

最後の花束: 乃南アサ短編傑作選 (新潮文庫)
乃南 アサ
新潮社 (2015-09-27)
売り上げランキング: 5,629

色恋をめぐる狂気は、その女たちを少しずつ蝕み、少しずつ壊していった……。ある女は大阪に引っ越してまで愛人を追いかけ、またある女は親友の婚約者を欲しがる。職人の夫の浮気を疑った妻は夫の作る提灯に火を仕込み、OLは見る間に垢抜けた同僚への嫉妬に狂う……。サスペンス・ミステリーの名手の短編を、単行本未収録作品を加えて精選したベスト・オブ・ベスト第一弾!


恋に落ちると多かれ少なかれ狂気に陥るのが女というものかもしれない、とは思う。だが、ここに集められた女たちの狂気は、常識の範疇に納まらない、少々度を越した狂気ではある。深く深く潜航し、静かに力を蓄えて長い時を過ごし、ふとした些細なきっかけで表面に吹き出すような狂気である。それまでが静かであればあるほど、その怖さは男を奮いあがらせる。ある意味胸がすくこともあり、女の側を応援したくなることもあるが、それはわたしが女だからかもしれない。男性と女性で違う怖さを感じる一冊かもしれないとも思う。

それは秘密の*乃南アサ

  • 2014/10/02(木) 16:41:33

それは秘密のそれは秘密の
(2014/08/29)
乃南 アサ

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心理描写の名人上手が、小説技法と男女観察の粋を尽くした、きらめく宝石のような小説たち! 罠と浮気。カネとライバル。煩悶と純心。明けない夜と、白茶けた朝。いつまでも瑞々しい老婆、フェティシズムに目覚めた小学生男子、結婚できないカップル、闇の中で胸をときめかせる政治家――。〈恋ごころ〉という厄介きわまるものを抱えた男たち女たちのミステリアスな心情と希望を描く、作者会心の珠玉短篇集。


表題作のほか、「「ハズバン」 「ピンポン」 「僕が受験に成功したわけ」 「内緒」 「アンバランス」 「早朝の散歩」 「キープ」 「三年目」

掌編を含む恋愛短編集である。恋愛とひと口に言っても、実にさまざまである。だましたりだまされたり、ときめいたり諦めたり、疑心暗鬼に陥ったり。年代もさまざまな恋愛模様が気負いなく描かれていて好感が持てる。何か特別なことではなく、自分の身にも起こりそうな、隣の部屋でまさに進んでいそうなリアルさがとてもいい一冊である。

ノックス・マシン*法月綸太郎

  • 2014/07/06(日) 14:29:04

ノックス・マシンノックス・マシン
(2013/03/27)
法月 綸太郎

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上海大学のユアンは国家科学技術局からの呼び出しを受ける。彼の論文の内容について確認したいというのだ。その論文のテーマとは、イギリスの作家ロナルド・ノックスが発表した探偵小説のルール、「ノックスの十戒」だった。科学技術局に出頭したユアンは、想像を絶する任務を投げかけられる…。発表直後からSF&ミステリ界で絶賛された表題作「ノックス・マシン」、空前絶後の脱獄小説「バベルの牢獄」を含む、珠玉の中篇集。


<ノックスの十戒>を題材にした近未来の物語である。紙の本はほぼ滅び、電子書籍に取って代わられ、さらにオートポエティクスという、自動物語生成システムなどというものが構築されている時代である。ロシアではタイムマシンの研究に失敗し続けていた。過去に向かった段階でパラドックスが生まれ、別の時空に行き着くので、始発点である現在に戻ってくることはできないという。そんな折、ノックスの十戒の五番目、「探偵小説には、中国人を登場させてはならない。」という一文に着目し、<NO CHINAMAN>がキーパーソンとなるのではないかと思いついた人物がいた。物理学的な法則の描写などは理解しがたく、読み飛ばしたくもなったが、不思議なタイムトラベルには興味津々である。ミステリマニアが描くSFと言った印象の一冊である。

一の悲劇*法月綸太郎

  • 2014/01/28(火) 19:12:47

一の悲劇 (ノン・ポシェット)一の悲劇 (ノン・ポシェット)
(1996/07)
法月 綸太郎

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「あなたが私の息子を殺したのよ!」山倉史郎は狂乱する冨沢路子の前に絶句した。それは悲劇的な誤認誘拐だった。犯人は山倉の子と誤って、同級生の路子の子を拉致したらしい。しかも身代金授受に山倉は失敗、少年は骸となって発見されたのだった。鬼畜の仕業は誰が、なぜ?やがて浮かんだ男には鉄壁のアリバイがあった。名探偵法月綸太郎と共にいたというのだ…。


取り違え誘拐事件である。初めは、真犯人はこの人物か、と思い、読み進むにつれ、いやあの人物かもしれない、と思い直し、新しい事実が浮かび上がるたびに、確信を抱いたり裏切られたりし、最後の最後に畳みかけるように何度も展開が変わる。初めからそんな盲点を突かれていたのかと、油断できない一冊である。

新釈にっぽん昔話*乃南アサ

  • 2013/12/03(火) 21:13:46

新釈 にっぽん昔話新釈 にっぽん昔話
(2013/11/14)
乃南 アサ

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大人も子供も楽しめるユニークな昔話集が誕生しました。
ドラマ化で話題となった『いつか陽のあたる場所で』など、次々話題作を生み出す乃南アサさん。「さるかに合戦」「花咲かじじい」「一寸法師」「笠地蔵」など誰もが知っている昔話が、手練れの作家の手にかかると、大人も楽しめるユニークなエンタテインメントに大変身。太宰治の『お伽草子』を彷彿とさせる意欲作です。東日本大震災を、取材に訪れた仙台で経験した乃南さん、復興に取り組む人たちに、物語で勇気と希望を届けたい、という思いも込められた作品集です。「さるかに合戦」「花咲じいさん」「一寸法師」「笠地蔵」……誰もが知っている昔話が、誰も読んだことのない新解釈でよみがえる!


「さるとかに」 「花咲かじじい」 「一寸法師」 「三枚のお札」 「笠地蔵」 「犬と猫とうろこ玉」

大人も楽しめる、とあるが、子どもが読んだらいささか戸惑うかもしれない。ちょっぴりブラックで、大人っぽい昔話の数々である。実際には、こちらの解釈の方が現実的で、納得できてしまうが、ファンタジーとは言えないかもしれない。愉しい趣向の一冊だった。

いちばん長い夜に*乃南アサ

  • 2013/03/10(日) 20:10:10

いちばん長い夜にいちばん長い夜に
(2013/01/31)
乃南 アサ

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わたしは、まだやり直せるのだろうか? 幸せになって、いいのだろうか? 刑務所で知合った前科持ちの芭子と綾香は、東京下町で肩を寄せ合うように暮らし始めたが――。健気に生きる彼女たちのサスペンスフルな日常は、やがて大震災によって激しく変化していく。二人は、新しい人生の扉を見つけられるのだろうか?


前半と後半でがらっと様相が変わる。前半は前作『いつか陽のあたる場所で』に引き続き、芭子と綾香が身を寄せ合ってひっそりと生きている日々の出来事が、それぞれの性格や境遇のの違いを織り込みながら描かれている。家族のことをかたくなに語ろうとしなかった綾香が手放さざるを得なかった我が子のことを胸の中でこれ以上ないほど大切にしていると気づいた芭子が、綾香の故郷仙台に子どものその後を調べに出かけたまさにその日、あの大地震に遭い、大変な思いをして東京に戻ってからの後半は、ふたりの――ことに綾香の――心の持ちようや生き方がこれまでとはがらっと変わり、生命の尊さや償うということと真正面から向き合うことになるのである。芭子が思い描いた未来とは違うが、綾香も芭子もそれぞれが、前向きに生きていくだろうということがうかがい知れるラストで救われる思いになった。震災の描写は、偶然にも著者の実体験ということで、より生々しく圧倒的である。どんな暮らしをしようと、芭子と綾香の絆は切れることはないだろう、いつまでも姉妹のようにいてほしい、と思わされる一冊である。

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キングを探せ*法月綸太郎

  • 2012/04/27(金) 17:23:53

キングを探せ (特別書き下ろし)キングを探せ (特別書き下ろし)
(2011/12/08)
法月 綸太郎

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奇妙なニックネームで呼び合う4人の男たち。なんの縁もなかった彼らの共通項は“殺意”。どうしても殺したい相手がいる、それだけで結託した彼らは、交換殺人を目論む。誰が誰のターゲットを殺すのか。それを決めるのはたった4枚のカード。粛々と進められる計画に、法月警視と綸太郎のコンビが挑む。


法月警視&綸太郎親子シリーズ。
交換殺人の謎を解く物語である。やたらと順調な滑り出しで、こんなに早くからくりに気づいてしまっていいのだろうか、と思ってしまうほどである。ターゲットを決める際のカードの組み合わせも綸太郎の読みのとおりだったし、全面解決は時間の問題、と思われたが、それほどすんなりと解決には至らないのだった。犯人たちにとっての番狂わせが起きると、、途端に先行きが読めなくなり、物語は俄然おもしろさを増す。父と子の語らいのなかで、謎を解くヒントがアンテナに引っかかるのも微笑ましく興味深い。ずっと続いて欲しいシリーズである。

地のはてから 下*乃南アサ

  • 2011/02/01(火) 17:16:01

地のはてから(下) (100周年書き下ろし)地のはてから(下) (100周年書き下ろし)
(2010/11/16)
乃南 アサ

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小樽での奉公を終え、知床に帰った少女は、かつて家族を救ってくれたアイヌの青年と再会する。一度きりのかなわぬ恋。そのとき少女ははじめて思う。人は自分の人生を、どこまで選び、決められるのか、と。厳しく美しい知床の自然に翻弄されながら、ひたすら大正から昭和の時代を生き抜く。感動の最終章。


戦争の気配が濃くなるとともに小樽の奉公先にも影が差しはじめ、とわは暇を出されて家族の元へ帰る。小樽の現代的な暮らしに比べ、知床の暮らしはなにひとつ変わらぬ不便さだらけだった。戦争はいよいよこの辺境の地からも男たちを奪いはじめ、とわは知人に勧められるままに見も知らぬ男の元へ嫁いだのだった。だがそれで苦労がなくなったわけではなかった。理不尽なものを感じながらも国の言いなりに戦争の波に呑みこまれ、さまざまな苦労をすることになり、母が昔言った「お国の言うことをそのまま信じると馬鹿を見る」という言葉を実感するのだった。昭和の前半の物語だが、なんだか現代の国政のことを言っているようでもあり、いつの世も国というものは身勝手なものなのか、とため息が出る。とわ一家や開拓移民たちの苦労は報われたといえるのだろうか。個々の苦労やがんばりは胸に沁み、感動的で、とわや周りの人たちにはぜひしあわせになって欲しいと願うのだが、国に騙されたという思いは拭えず、やるせなさでいっぱいになる。国を動かす人たちにもぜひ読んでいただきたい一冊である。

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地のはてから 上*乃南アサ

  • 2011/01/12(水) 18:36:41

地のはてから(上) (100周年書き下ろし)地のはてから(上) (100周年書き下ろし)
(2010/11/16)
乃南 アサ

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物心ついたとき、少女はここで暮らしていた。アイヌ語で、「地のはて」を意味するというこの土地で。おがちゃの背中と、あんにゃの手に、必死にしがみつくようにして。北海道知床で生きた女性の生涯を、丹念に描き、深い感動を呼び起こす。構想十年―書き下ろし長編小説。


大正時代末期、新しいものに飛びつき目先のことしか考えずに行動する父が、東京で株に失敗して大金を失い、夜逃げ同然に北海道開拓団に加わって地のはてにやってきたと一家。そのときわずか二歳だったとわは、物心ついたときにはすでに並々ならぬ苦労の日々であった。まさに文字通りの地のはてで、命の危機と隣り合わせの容易ならざる状況を強いられた開拓移民たちの状況には胸が痛んだ。そして、ほかの暮らしを知らないので惨めとも思わず自分にできることで母を助けて日々を過ごすとわの姿は、健気で愛おしく胸を熱くさせるのだった。
その後境遇が変わり小樽に子守奉公に出されたとわだったが、大正から昭和へと時代が変わり、世間がきな臭くなってきたところで上巻は終わっている。とわにはなんとしてもしあわせになって欲しいと切実に願うが、下巻ではなにが待ち受けているのだろう。早く読みたい。

すれ違う背中を*乃南アサ

  • 2010/10/24(日) 16:39:05

すれ違う背中をすれ違う背中を
(2010/04)
乃南 アサ

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「過去」の背中に怯える芭子。「堀の中」の体験をいまだ不用意に口走る綾香。しかしやっと、第二の人生が、ここ谷中で見えてきた二人だった。コトが起こったのはちょうどそんな頃。二つの心臓は、すれ違った彼らにしばし高鳴り、しばし止まりかけた。ムショ帰りコンビのシリーズ、大好評につき第二弾。


「梅雨の晴れ間に」 「毛糸玉を買って」 「かぜのひと」 「コスモスのゆくえ」

『いつか陽のあたる場所で』の続編である。芭子も綾香もなんとか職を見つけ順調に谷中での居場所を固めつつあるようでひと安心するが、反面この穏やかな暮らしを続けていくために強いられる負い目や緊張感もひしひしと伝わってきて切なくなる。犯した罪を忘れてしまっていいとは思わないが、しっかりと反省し罪を償ったからには、彼女たちにも充実した明日を生きさせてあげたいものだとも思う。個人的には、巡査の高木聖大に頼ったら絶対に力になってくれると思うのだが、彼女たちにとってはただのおまわりさんなのだから仕方がない。切なくじんとする一冊である。

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禁猟区*乃南アサ

  • 2010/10/19(火) 18:19:35

禁猟区禁猟区
(2010/08)
乃南 アサ

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捜査情報が漏れている!?刑事が立場を利用して金を動かしている!?警察内部の犯罪を追う監察官はあくまで陰の存在。隠密行動を貫いて「密猟者」を狩り出してゆく。尾行される刑事は意外にも無防備。獣道に沿って仕掛けられた罠に気づきもしない。プロとしての自負が邪魔するのだろうか。監察チームの頭脳プレーを描く本邦初の警察インテリジェンス小説、ここに誕生。


表題作のほか、「免疫力」 「秋霖」 「見つめないで」

警察官の非行を暴く監察チームを要とする連作中篇。背信行為に手を染めるきっかけはさまざまである。魔が差して、あるいは確信犯的に、警察官という特殊な身分であるからこそ堕ちていった者たちを身内の冷静な目が追う。泥沼とも言える物語を監査室の紅一点・いくみの明るい若さと未熟さが救っている。そのいくみが巻き込まれる事案には情けなくやるせなくなるが、明るさは失わずにいて欲しいものである。新たな切り口の一冊。

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自白 刑事・土門功太朗*乃南アサ

  • 2010/05/02(日) 16:45:13

自白―刑事・土門功太朗自白―刑事・土門功太朗
(2010/03)
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「落としの達人」といわれた男
事件解決の鍵は刑事の情熱と勘と経験だ。
地道な捜査で容疑者を追いつめる男の迫真の事件簿。
著者渾身の新シリーズ!


「アメリカ淵」 「渋うちわ」 「また逢う日まで」 「どんぶり捜査」

シリーズ一作目ということもあるのだろうが、刑事としての土門はもちろん、夫として、父親としての土門も描かれており、土門という人間に好感が持てる。そして、懐かしい昭和の出来事や風物がそこここに折り込まれており、その時代を生きた者としては、懐かしいことこの上ない。
事件がらみの部分には、いささか物足りなさも感じたが、今後の展開をたのしみに待ちたいと思わせる一冊だった。

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ニサッタ、ニサッタ*乃南アサ

  • 2009/11/23(月) 17:05:32

ニサッタ、ニサッタニサッタ、ニサッタ
(2009/10/21)
乃南 アサ

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最初の会社を勢いで辞め、二番目の会社が突然倒産し、派遣先をたて続けにしくじったときでも、住む場所さえなくすことになるなんて、思ってもみなかった。ネットカフェで夜を過ごすいま、日雇いの賃金では、敷金・礼金の三十万円が、どうしても貯められない。失敗を許さない現代社会でいったん失った「明日」をもう一度取り返すまでの物語。


タイトルの「ニサッタ」は、アイヌ語で「明日」という意味だそうである。
主人公・耕平は、口では地道にやっていきたいなどと言っているが、常に不満を抱え堪え性がなく、不運も重なり職を転々とするような不甲斐ない青年である。半ば過ぎまでは、とてもではないが「ニサッタ」など感じることもできないような状況である。そんな耕平が、ホームレスになる一歩手前までいきながら、なんとか明日の希望を見つけ出すラストは、胸をあたたかくする。エピローグの展開は唐突でもあるが、希望の端っこを掴まえるときというのはこんなものなのかもしれない。東京の新聞販売店時代の後輩であり、耕平を追うように知床にやってきた杏菜とのかかわりも、あたたかい気持ちにさせてくれる。

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ウツボカズラの夢*乃南アサ

  • 2008/07/05(土) 16:51:55

ウツボカズラの夢ウツボカズラの夢
(2008/03/19)
乃南 アサ

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平凡な日常ほど悪意に満ちたものはない。わたしの願いはただひとつ、幸せになること…。鹿島田家の人々の日常をシニカルに描き切ることで見えてくる不気味な世界。エンターテインメントの域を超えた傑作登場。


渋谷から程近い瀟洒な住宅街の一角に鹿島田家はあった。母を亡くし、家に居場所をなくした未芙由は、母の従姉妹の尚子叔母を頼って長野から出てきたのだが、その立派さに面食らっていた。
未芙由を概ね主役にしながら、語り手を替えて進む物語は、一見なんの際立ったところもない一家族と、そこから派生する物語なのだが、登場人物の誰もが、ばらばらで、身勝手で、大切な何かが欠落しているにもかかわらず、それを自覚していないような幼稚さで、虫唾が走る。誰のことも祝福できないし、哀れに思うこともできない。下手なホラーよりも恐ろしい一冊である。タイトルが絶妙。

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