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古本食堂*原田ひ香
- 2022/08/01(月) 07:00:54
かけがえのない人生と愛しい物語が出会う!
神保町の小さな古書店が舞台の
絶品グルメ×優しい人間ドラマ
大ベストセラー『三千円の使いかた』『ランチ酒』の著者による熱望の長篇小説
美希喜(みきき)は、国文科の学生。本が好きだという想いだけは強いものの、進路に悩んでいた。そんな時、神保町で小さな古書店を営んでいた大叔父の滋郎さんが、独身のまま急逝した。大叔父の妹・珊瑚(さんご)さんが上京して、そのお店を継ぐことに。滋郎さんの元に通っていた美希喜は、いつのまにか珊瑚さんのお手伝いをするようになり……。カレーや中華やお鮨など、神保町の美味しい食と心温まる人情と本の魅力が一杯つまった幸せな物語。
神保町の古書店が舞台。それだけでわくわくするが、そこに神保町グルメが加わって、お腹もぐうぐう反応する。国文科の院生の美希喜(みきき)と大叔母の珊瑚さんの視点が入れ替わりながら物語は進んでいくが、圧倒的な存在感なのは、もちろん、ここ鷹島古書店の元店主で故人の滋郎大叔父である。お店の先行きがまだ曖昧なのもあって、滋郎さんの尺度がまだまだ生きていて、ご近所さんたちも含めて、その人となりを慈しんでいたりする。踏み込み過ぎず、突き放し過ぎない絶妙な人間関係が心地好い。それぞれに、悩みや不安を抱えながら、何かによりどころを求めて日々生きる人たちの、やさしさにあふれた一冊だった。
またあおう しゃばけ外伝*畠中恵
- 2022/04/06(水) 18:01:12
祝、しゃばけ20周年! 累計940万部突破!
文庫でしか読めない、7年ぶりのしゃばけ外伝!
お江戸は日本橋。長崎屋の跡取り息子、若だんなこと一太郎の周りには、愉快な妖たちが沢山。そんな仲間を紹介しようとして楽しい騒動が起きる「長崎屋あれこれ」や、屏風のぞきや金次らが『桃太郎』の世界に迷い込む「またあおう」、若だんなが長崎屋を継いだ後のお話で、妖退治の高僧・寛朝の形見をめぐる波乱を描く「かたみわけ」など豪華5編を収録した、文庫でしか読めない待望のシリーズ外伝。
今回、若だんな・一太郎は、具合が悪くないのに病扱いされて布団に押しつぶされていたり、相変わらず寝付いていたり、時が経って店を継ぎ、商いに出かけていたりと、事件の解決に直接力を貸すことはない。解決に奔走するのはもっぱら妖たちである。だが、みんな、若だんなならこんなときどうするだろうかと考え、若だんなにほんの少しでも害が及ばないようにと慮り、解決の暁には若だんなと一緒に祝うことを楽しみにしたりと、片時も若だんなのことを忘れることはない。そして、いつもに増して厄介なあれこれを、苦労の果てに、若だんなに頼ることなくで解決してしまうのである。お見事。一太郎の活躍が視られないのは、ちょっぴり寂しくもあるが、妖たちが頼もしく見えてくるシリーズ外伝である。
御坊日々*畠中恵
- 2022/01/21(金) 18:35:24
明治20年。僧冬伯のもとへは困り事の相談に日々客人が訪れる。本日は店の経営不振に悩む料理屋の女将で……。僧侶兼相場師の型破りな僧侶と弟子の名コンビが、檀家たちの悩みを解決しながら、師僧の死の真相を追う。連作短編エンターテイメント!
僧侶が主人公の物語なのだが、説教臭さは全くなく、かえって人間臭い印象である。江戸から明治に移り変わり、時代の流れに遅れないように生きる人々の懸命さや、乗り切れなかった人たちの苦悩もわかりやすく、寺の師弟の信頼関係も微笑ましい。悟りすましていない師僧・冬伯と、生真面目な弟子・玄泉のやり取りも心温まるものである。檀家がどんどん増えて、寺の運営が楽になってほしいと思う反面、このまま貧乏寺で、自由に動き回り謎を解く状態が続いてほしいとも思ってしまう。もっと東春寺界隈のことを知りたくなる一冊である。
ラストツアー 佳代のキッチン*原宏一
- 2022/01/16(日) 06:35:34
会いにいこう。
味の思い出でつながっている、なつかしいあの人に。
コロナ禍で、みんな苦しい。
でも、おいしい料理は人をきっと笑顔にさせる。
キッチンカーで北へ南へ、調理屋佳代のおもてなしの旅!
「食事って、生きる糧だけじゃなく、心の糧でもあるものね」
厨房車に手書きの木札一枚下げて、日本全国ふらりふらりと、移動調理屋“佳代のキッチン"を営む佳代。
ところが新型コロナウイルスの蔓延で、営業休止を余儀なくされた。
そんな折、佳代は函館の食堂『自由海亭』閉店の報を耳にする。調理屋名物“魚介めし"に深いゆかりがある食堂だ。
佳代が探し続けている両親との懸け橋になってくれた恩もある。居ても立ってもいられなくなった佳代は、厨房車に飛び乗って函館へ。こうして、コロナに喘ぐ人々を訪ねる、佳代の長い旅が始まった――。
フットワークも軽く、関わった人たちを放っておけない佳代は、ともすればただのお節介になりそうなことも、それぞれに寄り添って考えるので、結果的にはうまく収まる。今回改めて思ったのは、佳代の奮闘が実る陰には、弟和馬夫婦の支えがどれだけ大きいかということである。放浪しているように見える佳代だが、帰れる場所があるということがどれだけ心を強くしていることだろう。そして今回は、自分のことを考えるという新しい思いも生まれ、この先に大きな展望が開けてきた。これからの佳代を応援したいと思わされる一冊だった。
リボルバー*原田マハ
- 2021/12/14(火) 16:24:07
誰が引き金を引いたのか?
「ゴッホの死」。アート史上最大の謎に迫る、著者渾身の傑作ミステリ。
パリ大学で美術史の修士号を取得した高遠冴(たかとおさえ)は、小さなオークション会社CDC(キャビネ・ド・キュリオジテ)に勤務している。週一回のオークションで扱うのは、どこかのクローゼットに眠っていた誰かにとっての「お宝」ばかり。
高額の絵画取引に携わりたいと願っていた冴の元にある日、錆びついた一丁のリボルバーが持ち込まれる。
それはフィンセント・ファン・ゴッホの自殺に使われたものだという。
「ファン・ゴッホは、ほんとうにピストル自殺をしたのか? 」 「――殺されたんじゃないのか? ……あのリボルバーで、撃ち抜かれて。」
ゴッホとゴーギャン。
生前顧みられることのなかった孤高の画家たちの、真実の物語。
ゴッホとゴーギャンの物語というだけで、興味をそそられる。彼らの真の関係性とはどんなものだったのだろうか、そして、ゴッホの最期は、本当に巷で語られるとおりだったのか。ある日、パリの小さなオークション会社に持ち込まれた、錆びだらけのリボルバーから物語が始まった。物語が進むにつれ、自分自身が、ゴッホやゴーギャンとともに生き、黄金に光る麦畑や、太陽を追いかけるヒマワリの花を見、同じ空気を吸っている心地にさせられる。時に胸を焦がし、時に胸をかきむしり、焦り、恍惚とし、幸福感に包まれ、そして絶望する。心の動きの激しさに振り回されるように読み進むと、そこには驚愕の独白が待っている。人の胸の裡をはかり知ることはできないが、二人の画家が幸福だったことを祈りたくなる一冊だった。
もういちど*畠中恵
- 2021/09/30(木) 13:00:09
わ、若だんなの御身に、かつてない事件が!?不思議な十ヶ月間の幕開けだ!
酔っ払った龍神たちが、隅田川の水をかき回して、長崎屋の舟をひっくり返したってぇ! 水に落ちた若だんなは200年ぶりの天の星の代替わりに巻き込まれて……。「しゃばけ」シリーズ第20弾!
今回は、一太郎リフレッシュの巻、と言えるだろうか。相変わらずとんでもない事態に巻き込まれてはいるのだが、いつもの離れで元気に寝付く若だんなではなく、赤子からすくすくと元気いっぱい、いたずらや無鉄砲を楽しみながら、ぐんぐんと元の歳まで育っていく。どうかこのまま健康で、と祈るが、すんなりとそういうことにはなりそうもないところが切なくもある。だが、以前通り、ではないのではないかという一縷の望みもまだ捨ててはいない。次作からは、少しずつ変わっていくのではないだろうか。ぜひそうあってほしいものである。不思議な体験を長崎屋の面々と共に楽しんだシリーズである。
三人屋*原田ひ香
- 2021/05/16(日) 18:34:27
朝は三女・朝日の喫茶店、昼は次女。まひるのうどん屋、夜は長女。夜月のスナック――
可笑しくて、ホロリとしみる、商店街の人情ドラマ
お年寄りの多いラプンツェル商店街で、「ル・ジュール」が再開店した。
時間帯によって出すものが変わるその店は、街の人に「三人屋」と
呼ばれているが、店を営む三姉妹は、そのことを知らない。
近所に住むサラリーマンは三女にひと目ぼれ、
常連の鶏肉店店主は出戻りの幼なじみにプロポーズ、
スーパーのイケメン店長の新しい恋人はキャバ嬢で!?
ひとくせも、ふたくせもある常連客たちが、今日も飽かずにやって来る……。
心も胃袋もつかむ、おいしい人情エンターテインメント!
シリーズ二作目を先に読んでしまったので、個人的にはそうは思わないが、初めに本作を手にしたとしたら、仲好し三姉妹がおいしい料理を出すお店をめぐるほのぼのとした物語だと想像したことだろう。だが実際は、三姉妹は仲が悪いというか、関係性が薄く、接点も乏しく、互いに距離を置いているような印象で、決して仲好し三姉妹ではないのだった。おいしいものを出す店をやってはいるが、三人三様、業態も時間帯もばらばらで、唯一の共通点は、両親が残した店という「場」だけなのである。とは言え、三姉妹はそれぞれ持ち味は違うが魅力的なのだが、三人屋に集まってくる男たちは、揃いも揃ってろくでもないのが不思議である。登場人物全員に共通するのは、誰もが何らかの欠落感を抱えており、少しでもそれを埋めることを求めているということかもしれない。そして、家出を繰り返して、ラプンツェル商店街にいることが少ない長女夜月が、いちばんこの町や志野原家での存在感がありそうなのが、不思議なのだが、当然でもあるような気がする。ともかく、夜月が帰ってきてよかったと思うシリーズ一作目である。
サンドの女 三人屋*原田ひ香
- 2021/05/13(木) 07:08:06
朝は三女・朝日の喫茶店、昼は次女・まひるの讃岐うどん屋、夜は長女・夜月のスナック――志野原家の美人三姉妹が営む「三人屋」は、朝日の就職を機に、朝の店を終了、業態を転換することになった。
朝日が出勤前に焼いたパンを使い、まひるが朝からランチ時まで売る自家製の玉子サンドイッチが、見映えも良くおいしいと大評判に。
かたや長女のスナックは、ラプンツェル商店街で働き、暮らす人々のサロンとしてにぎわっている。
ゲイの青年、売れない作家、女泣かせのスーパー店長など、ワケあり常連客たちが夜ごと来店、三姉妹の色恋沙汰を肴に、互いの悩みを打ち明けあったり、くだを巻いたり…
悲喜こもごも、味わい深い人間模様を描く大ヒット小説『三人屋』待望の続編! 心も体もくたくたな日は「三人屋」の新名物「玉子サンド」を召し上がれ!
シリーズものと知らずに二作目から読み始めてしまった。下地がないので、登場人物の関係性や舞台の空気感をつかむまでは、物語に入り込み難かったが、次第に把握できてくると、朝、昼、夜、それぞれのラプンツェル商店街の貌が見えてきて、この町に暮らす人たちの気質のようなものも感じられるようになってくる。いつも端っこにいる脇役のような印象だった人にも、その人だけの人生があり、他人のこと自分のこと、さまざま考えながらそこで役割を果たしているのだと、登場人物すべてに愛おしささえ感じられるようになる。きのうと同じ明日は来ないが、少しずつ貌を変えながら、三人屋が続いていくことを願いたくなる一冊である。
いわいごと*畠中恵
- 2021/04/24(土) 12:16:36
なかなか縁談がまとまらず、周囲をやきもきさせる麻之助。そんな彼の元に新たな縁談が三つも! 果たしてその行方は……!?
タイトルからして、麻之助にやっと春が来るのかと思いきや、なかなかすんなりとは事は運ばない。相変わらず支配町の厄介事は押し寄せてくるし、今回は、支配町以外の厄介事まで飛び込んできて、珍しくまじめに働く日々なのである。さらには、その副産物とでもいう縁談が三つもやってきて、しかもそれがどれも問題がありそうな話で、その調べまで自分でしなければならないことに。踏んだり蹴ったりのようだが、そのおかげで、やっと最後には本当に嫁を取ることができたので、めでたしめでたしではあった。これからの麻之助夫婦の活躍に期待ができるシリーズである。
口福のレシピ*原田ひ香
- 2021/01/20(水) 16:32:45
フリーのSE兼料理研究家として働く留希子の実家は、江戸時代から続く古い家柄で、老舗料理学校「品川料理学園」を経営している。大学こそ親の希望があって栄養学を専攻したが、幼い頃から後継者の道が決まっている雰囲気や、昔からの教則本を使う学園の方針への抵抗が留希子にはあった。卒業後は、製品開発会社にSEとして就職した。しかし、料理をすることは好きだった。SNSでの発信をきっかけに雑誌からも仕事の依頼が来るようになり、料理研究家としての認知度を上げていた。
忙しい女たちを助けたいと、留希子は令和元年になるゴールデンウィークに向けた簡単で美味しい献立レシピの企画を立ち上げた。しかし、あるレシピをめぐり、問題が起きる。留希子にとってはすっかり身についた我が家の味だったが、そこには品川家の大切な歴史が刻まれていた。
一方、昭和二年、品川料理教習所の台所では、女中奉公に来て半年のしずえが西洋野菜のセロリーと格闘していた。
料理学校の歴史をつなぐレシピを巡る、胃も心も温まる家族小説。
二つの時代を行きつ戻りつしながら描かれる、一族の物語である。だが、それだけではなく、それぞれの時代に生きている女性の日々の様子や胸の裡の葛藤が、丁寧に描かれていてとても生き生きしている。時代によって常識も移り変わり、現代の尺度では測れないことごともあるが、その時代に生きた人の手で書かれたものに触れると、まるで隣にいるかのように伝わってきて、現代を生きて抱える悩みにも寄り添ってくれるようにも感じられて胸が熱くなる。おいしいもののことを考えるとき、人はだれしもやさしくなるのだと思わされる一冊でもあった。
一橋桐子(76)の犯罪日記*原田ひ香
- 2021/01/06(水) 16:50:12
万引、偽札、闇金、詐欺、誘拐、殺人。どれが一番長く刑務所に入れるの?老親の面倒を見てきた桐子は、気づけば結婚もせず、76歳になっていた。両親をおくり、わずかな年金と清掃のパートで細々と暮らしているが、貯金はない。同居していた親友のトモは病気で先に逝ってしまった。唯一の家族であり親友だったのに…。このままだと孤独死して人に迷惑をかけてしまう。絶望を抱えながら過ごしていたある日、テレビで驚きの映像が目に入る。収容された高齢受刑者が、刑務所で介護されている姿を。これだ!光明を見出した桐子は、「長く刑務所に入っていられる犯罪」を模索し始める。
タイトルからは、ものすごく悲惨な物語を想像したが、いざ読み始めてみると、歳を重ねて、さまざまなものごとを失ったり、思うようにいかないことが増えて、切なくはあるが、地道に堅実に生きている一人の女性の物語であるとわかってくる。交流範囲も、意外なことにそれなりに広く、自分では何もかもに絶望していると思っていても、実は周りの人たちを助け、助けられていることには、なかなか気づけないものである。桐子さんが格好良く見えてきさえするのである。胸がじんとする一冊だった。
ハグとナガラ*原田マハ
- 2020/12/14(月) 16:35:54
どこでもいい。いつでもいい。 一緒に行こう。旅に出よう。 人生を、もっと足掻こうーー。
恋も仕事も失い、絶望していたハグ。突然「一緒に旅に出よう」と大学時代の親友ナガラからメールが届いた。以来、ふたりは季節ごとに旅に出ることに。
ともに秘湯に入り、名物を堪能し、 花や月を愛でに日本全国駆け巡る、 女ふたりの気ままな旅。 気がつけば、四十路になり、五十代も始まり……。
人生の成功者になれなくても、自分らしく人生の寄り道を楽しむのもいい。心に灯がともる六つの旅物語。 文庫オリジナル短編集です!
誰にでも当てはまるシチュエーションではないかもしれないが、心の通い合った友人との交流が、日々の疲れをしばし忘れさせてくれ、あしたを迎える活力になってくれるという物語である。二人にとってその手段は、メールであり、旅なのだ。歳を重ねるにつれ、自分自身にも親にも、若いころには想像もしなかった事態が現実のこととなり、日々何かに追い立てられるように走り続け、疲れ果ててへたり込みそうになる時、ふと届いた友からの何気ない便りが、ふっと緊張を和らげてくれることもあるだろう。読んでいるこちらまで、強張っていた肩の力が抜けて、ふと涙をこぼしてしまうような、胸に迫る一冊だった。
いちねんかん*畠中恵
- 2020/11/20(金) 07:40:25
ついに、病弱若だんなの後継ぎ修業が本格始動! 試練続きの一年の幕開けだ。江戸の大店長崎屋の主夫妻が旅に出かけ、父から店を託された若だんなは大張り切り。しかし、盗人に狙われたり、奉公人となった妖が騒ぎを起こしたり、相変わらずのてんやわんや。おまけに江戸に疫病が大流行! 長崎屋に疫病神と疫鬼が押しかけてくるし、若だんなは無事に長崎屋と皆を守れるの~? 波乱万丈なシリーズ最新刊。
シリーズ19作目。若だんな・一太郎が健康になる気配は全くないが、両親が一年も留守の間、気を張って店を守る姿が健気で泣けてくる。妖たちも、常に増して気合が入っており、いつも以上に若だんなの役に立っているのも涙ぐましい。若だんなだけでなく、妖たちも、なんだかんだで成長しているのかもしれない。仁吉と佐助の兄やたちの助けなしには、もちろん成り立たないのだが、なんとか店を守って両親の帰宅を迎えた一太郎が、ほっとしすぎて長く寝込まないことを祈るばかりである。いつまでも続いてほしいシリーズである。
あしたの華姫*畠中恵
- 2020/08/09(日) 18:39:40
百万の人々が暮らす江戸でも随一の盛り場、両国。その地回りの親分山越に息子がいたと発覚し、にわかに跡目争いが持ち上がった。娘のお夏も、頭の座を狙う陰謀に巻き込まれ…。お夏を守るよう命じられたヘタレの芸人月草が、“まこと”を見通す姫様人形お華と、西へ東へ駆け回る!
待ちに待った第二弾である。一見頼りなさそうな月草と、追っかけも多く華やかな木偶人形の華姫、そして、両国の地回りの山越親分と娘のお夏との関係も相変わらずだが、月草が山越親分に使われる頻度は増している気もする。そして、華姫なしには何もできない月草なのも相変わらずで、ついつい忘れてしまいがちだが、華姫が話すことは、腹話術師である月草の言葉なのだということもまた真実なのである。今回は、13歳になったお夏の婿取り=山越親分の跡目は誰か、というのが大きなテーマになっていて、それに絡んでさまざまな厄介事が起こるが、お夏に婿取りはまだ早いし、跡目候補に関しても、山越の胸の中では、筋道はできているような気もするのである。続編でたぶんその辺りがもっと明らかにされるのでは、とひそかに思っている。いろいろと愉しみな要素の多いシリーズである。
<あの絵>の前で*原田マハ
- 2020/07/12(日) 19:10:57
どこかの街の美術館で小さな奇跡が今日も、きっと起こっている。人生の脇道に佇む人々が“あの絵”と出会い再び歩き出す姿を描く。アート小説の名手による極上の小説集。
「ハッピー・バースデー」 <ドービニーの庭> ゴッホ ひろしま美術館
「窓辺の小鳥たち」 <鳥籠> ピカソ 大原美術館
「檸檬」 <砂糖壺、梨とテーブルクロス> セザンヌ ポーラ美術館
「豊穣」 <オイゲニア・プリマフェージの肖像> クリムト 豊田市美術館
「聖夜」 <> 東山魁夷 白馬の森 長野県信濃美術館
「さざなみ」 <睡蓮> モネ 地中美術館
もっと絵が前面に出た物語かと思ったが、さにあらず。絵がなければ始まらない物語ではあるのだが、美術に疎い人でも、美術館に行ったことがない人でも、思わず美術館に足を運んで、その絵のまえに立ってみたくなるような、心の奥底にほんのりと明かりがともるような、満ち足りて穏やかでしあわせにしてくれるような、やさしいストーリーなので、いつの間にか惹きこまれている自分に気づくのである。何度も熱いものがこみ上げてくる。心が豊かになるような一冊だった。
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