サロメ*原田マハ

  • 2017/04/19(水) 16:28:56

サロメ
サロメ
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原田 マハ
文藝春秋
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現代のロンドン。日本からビクトリア・アルバート美術館に派遣されている客員学芸員の甲斐祐也は、ロンドン大学のジェーン・マクノイアから、未発表版「サロメ」についての相談を受ける。
このオスカー・ワイルドの戯曲は、そのセンセーショナルな内容もさることながら、ある一人の画家を世に送り出したことでも有名だ。
彼の名は、オーブリー・ビアズリー。
保険会社の職員だったオーブリー・ビアズリーは、1890年、18歳のときに本格的に絵を描き始め、オスカー・ワイルドに見出されて「サロメ」の挿絵で一躍有名になった後、肺結核のため25歳で早逝した。
当初はフランス語で出版された「サロメ」の、英語訳出版の裏には、彼の姉で女優のメイベル、男色家としても知られたワイルドとその恋人のアルフレッド・ダグラスの、四つどもえの愛憎関係があった……。
退廃とデカダンスに彩られた、時代の寵児と夭折の天才画家、美術史の驚くべき謎に迫る傑作長篇。


現代の研究者と学芸員のやりとりから、ぐぐっと時代を遡ってオスカー・ワイルドとオーブリー・ビアズリーの時代の生々しい出来事に惹きこまれるように入っていく手法からして見事である。主に語るのは、オーブリーの姉のメイベルであり、自らも渦中に巻き込まれながら、オスカーとオーブリーののっぴきならない関係と、そうならずにはいられなかった魂の出会いが語られていて、まるで自分もそこにいるかのように高揚した心持ちにさせられる。読後もしばらくはこちらの世界に帰って来られないような印象の一冊である。

ロスト・ケア*葉真中顕

  • 2017/01/13(金) 09:25:55

ロスト・ケア
ロスト・ケア
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葉真中 顕(はまなか・ あき)
光文社
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社会の中でもがき苦しむ人々の絶望を抉り出す、魂を揺さぶるミステリー小説の傑作に、驚きと感嘆の声。人間の尊厳、真の善と悪を、今をいきるあなたに問う。第16回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。


X県八賀市が舞台。羽田洋子、斯波宗典、佐久間功一郎、大友秀樹、そして、裁判で死刑が確定した<彼>の立場で、交互に物語が進められる。八賀市で親の介護に苦悩する人たちと、介護施設職員の仕事の過酷さの現状が、かなり具体的に描かれていて、胸が潰れる心地であるが、他人事とは到底思えず、ページを閉じたくなるのに目が離せないという矛盾が起こる。介護の現状と社会制度の脆弱さのギャップを考えずにはいられないが、それが厳然としてある現状で、なにがいちばんの大作なのだろうかと考えると、答えが見つからない。<彼>の行為は罪なのだろうか、それとも救いなのだろうか。重く深く考えさせられる一冊である。

まことの華姫*畠中恵

  • 2016/12/19(月) 07:11:04

まことの華姫
まことの華姫
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畠中 恵
KADOKAWA (2016-09-28)
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人形遣い月草と姫様人形お華の迷コンビが江戸の事件を快刀乱麻!

江戸は両国。暮れても提灯の明かりが灯る川沿いの茶屋は、夜も大賑わい。通りの向こうの見世物小屋では、人形遣いの芸人、月草の名が最近売れてきている。なんでも、木偶の姫様人形、お華を相方に、一人二役の話芸を繰り広げるのだという。それも、話芸が目当てというより、お華に会いに来るお客が多いというのだ。何故なら。“まことの華姫”は真実を語る――

姉を殺したのは、実の父かもしれないと疑う、小屋一帯の地回り山越の娘・お夏。
六年前の大火事で幼な子を失い、諦めきれずに子ども捜しを続ける夫婦。
二年前に出奔したまま行方知れずの親友かつ義兄を探しにはるばる西国からやってきた若旦那。
そして明らかになる語り部・月草の意外な過去……

心のなかに、やむにやまれぬ思いを抱えた人々は、今日も真実を求めてお華の語りに耳を澄ます。
しかし、それは必ずしも耳に心地よいものばかりとは限らなくて……
快刀乱麻のたくみな謎解きで、江戸市井の人々の喜怒哀楽を描き出す、新たな畠中ワールド!


表題作のほか、「十人いた」 「西国からの客」 「夢買い」 「昔から来た死」

両国の見世物小屋で腹話術の話芸を見せる月草と木偶人形のお華、そして、小屋を仕切る地回りの山越親分の娘のお夏が繰り広げる物語である。真実を語ると噂される木偶人形の華姫は、月草に操られていることを思わず忘れるほど生きているように見える。客たちは、まことの華姫と呼び、華のまことの言葉を聞きたがる。噂を聞きつけて遠国からやってくる者もいて、月草がいくら否定しても噂は広まるばかりである。月草の事情、華姫の由来、夏の屈託など、さまざまな要因が絡み合い、そこに持ち込まれる謎と相まって、なにやら独特の雰囲気が醸し出される。月草と華姫はこれからどうなるのか。たのしみなシリーズになりそうな一冊である。

おおあたり*畠中恵

  • 2016/10/19(水) 16:52:11

おおあたり
おおあたり
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畠中 恵
新潮社
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そろそろ跡取りとしての仕事を始めたいんだ!そのためには、この妙薬を飲むしかー。病弱若だんなの切実な願いは叶うの?兄や達の心配っぷりも絶好調なシリーズ最新刊。


一太郎、相変わらず寝付いております。でも、早く店の仕事をきちんとこなして父の助けになりたいという思いは日に日に募っているようである。仁吉とと佐助が長崎屋に来ることになった、一太郎・5歳の頃の物語も差し挟まれ、いつもとはいささか趣が違う印象でもある。親友の栄吉のお菓子も相変わらず上手にならず、それが思わぬ展開になったりもする。栄吉には辛いこともあり、一日も早く一人前の菓子職人にしてやりたいものだと願ってしまう。そしてなにより、一太郎に少しでも自信を点けさせてあげたいものである。なんとかならないものかとやきもきする一冊でもある。

三人屋*原田ひ香

  • 2016/10/12(水) 16:47:50

三人屋
三人屋
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原田 ひ香
実業之日本社
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朝は三女の喫茶店、昼は次女の讃岐うどん屋、夜は長女のスナック―時間帯によって出すものが変わるその店は、街の人に「三人屋」と呼ばれていた。三女にひと目ぼれするサラリーマン、出戻りの幼なじみに恋する鶏肉店の店主、女にもてると自負するスーパーの店長など、ひとくせある常連客たちが、今日も飽かずにやって来る…。さくさくのトースト、すだちの香るぶっかけうどん、炊きたての白飯!心も胃袋もつかむ、おいしい人情エンターテインメント!


両親が亡くなった後、営んでいた喫茶店を、朝は三女の朝日がモーニングを出し、昼は次女のまひるがうどん屋をやり、夜は長女の夜月がスナックを営んでいることから、近所では「三人屋」と呼ばれている。姉妹は、両親の生前からのさまざまな確執によって仲が悪く、ことに長女と次女はほとんど口をきくことさえない。ただ、生前、小さなオーケストラのピッコロ奏者だったという父が、たった一度録音したレコードを探し、父のピッコロを聴くという夢だけを共有している。盛り込まれた要素はどれも興味深く、先を知りたくなるようなものなのだが、それぞれの掘り下げ方がいささか散漫になっている印象である。ラストは、姉妹間の感情の問題だからだろうか、あまりにもあっけなく、肩透かしされたような不消化感が残る。おもしろかったが、もう少し突き詰めてほしかった気もする一冊である。

絶叫*葉真中顕

  • 2016/10/11(火) 19:08:29

絶叫
絶叫
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葉真中 顕
光文社
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平凡な女、鈴木陽子が死んだ。誰にも知られずに何カ月も経って……。
猫に喰われた死体となって見つかった女は、どんな人生を辿ってきたのだろうか?
社会から棄てられた女が、凶悪な犯罪に手を染め堕ちていく生き地獄、魂の叫びを描く!


まず冒頭に、ひとりの男性が殺害された新聞記事が置かれている。それに続くプロローグで、物語の主人公である鈴木陽子は、多数の猫に食い荒らされて死因すらわからない孤独死状態で発見されるのである。物語は、陽子が幼いころから順を追って、彼女を「あなた」と呼ぶ誰かによって語られる章と、捜査する刑事・奥貫綾乃の視点で語られる章とが交互に繰り返される形で進んでいく。無残な死体となるまでの陽子の生き様は、ほんの少し踏み出す角度がずれていたら、誰もが陥ってしまったかもしれない道筋のように思われ、そのときどきには抗うことができなかっただろうと、絶望的な気分にさせられる。それでも、なんとかならなかったのは、やはり彼女の育った環境と、それを跳ね返せなかった彼女自身の弱さゆえなのだろうか。さまざまな汚れ仕事を経験し、犯罪の片棒を担ぐまでになってしまった彼女だが、彼女を「あなた」と呼ぶ人物に光が当たったとき、驚きに目を瞠るとともに、なぜか少しだけほっとしてしまったのも事実である。読み始めたら目を離せなくなる一冊である。

ビューティーキャンプ*林真理子

  • 2016/08/12(金) 07:11:54

ビューティーキャンプ
林 真理子
幻冬舎 (2016-02-25)
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苛酷で熾烈。嫉妬に悶え、男に騙され、女に裏切られ。ここは、美を磨くだけじゃない、人生を変える場所よ。並河由希の転職先はミス・ユニバース日本事務局。ボスは、NYの本部から送り込まれたエルザ・コーエン。ブロンドに10センチヒール、愛車ジャガーで都内を飛び回り、美の伝道師としてメディアでひっぱりだこの美のカリスマだ。彼女の元に選りすぐりの美女12名が集結し、いよいよキャンプ開始。たった一人が選ばれるまで、運命の2週間。小説ミス・ユニバース。


読む前に抱いていた期待の方向が間違っていたのかもしれないが、肩透かし感があったことは否めない。もっとドロドロした精神的心理的な闘いが描かれているのかと思ったのだが、ファイナリストたちの内面にはさほど踏み込んでいるとは言えず、由希の目を通したさらっとしたレポートといった印象である。もっと個性と個性のぶつかり合いが見たかった気がする一冊である。

若様とロマン*畠中恵

  • 2016/07/08(金) 20:12:27

若様とロマン
若様とロマン
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畠中 恵
講談社
売り上げランキング: 80,290

一見平和そうに見える明治の世の中に、不穏な空気が漂いはじめていた。
数年以内に”戦争”が始まるかもしれない――。成金のひとり、小泉琢磨は、戦へと突き進む一派の意向をおさえるべく、動いていた。が、このままでは開戦派のやりたいようになってしまう、そう懸念した琢磨は、今いる仲間以上に人を集めようと考える。そしてその秘策がなんと、「若様たちのお見合い」だったのだ!
お見合いをさせ、縁組みをし、開戦派に対抗する同士を増やそうというその魂胆、果たして?!
若様組シリーズ最新作、ついに登場!


今回の若様たちは、降って湧いたようなお見合い話に翻弄される。そして翻弄されつつも、その折々に現れる謎をなんとかかんとか解き明かしてしまう。戦争の足音がひたひたと近づいているという背景もあり、軍がらみの事件もあったり、沙羅の決断が早まったりとあちこちに影響も出てくる。若様組の道もさまざまだが、みんなにしあわせになってほしいと思わされるシリーズである。

暗幕のゲルニカ*原田マハ

  • 2016/06/21(火) 17:08:14

暗幕のゲルニカ
暗幕のゲルニカ
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原田 マハ
新潮社
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一枚の絵が、戦争を止める。私は信じる、絵画の力を。手に汗握るアートサスペンス! 反戦のシンボルにして2 0世紀を代表する絵画、ピカソの〈ゲルニカ〉。国連本部のロビーに飾られていたこの名画のタペストリーが、2003年のある日、突然姿を消した―― 誰が〈ゲルニカ〉を隠したのか? ベストセラー『楽園のカンヴァス』から4年。現代のニューヨーク、スペインと大戦前のパリが交錯する、知的スリルにあふれた長編小説。


過去と現代を行きつ戻りつしながら、ただ「ゲルニカ」をめぐって語られる物語である。ピカソのアトリエの様子、パリの朝の空気、忍び寄る戦争の足音、ピカソとその作品のために身をなげうって尽くす人たちの熱。そして、それらの想いを、はるか時を隔てた現代で、10歳のときに胸に刻み、それを期にピカソの研究家になり、MoMAのキュレーターとなった瑶子。たったひとつの作品に関わる熱く切実な想いが、物語中に満ち満ちている。ドキュメンタリーを見ているように、そのときどきの空気感まで伝わってくるようで、わくわくどきどきはらはらさせられ通しである。いまにも飛び立とうとしている鳩のドローイングがいいアクセントになっている。想像を掻き立てられる壮大な一冊だった。

翔ぶ少女*原田マハ

  • 2016/06/15(水) 18:49:06

翔ぶ少女 (一般書)
翔ぶ少女 (一般書)
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原田マハ
ポプラ社
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「生きて、生きて、生きぬくんや!」1995年、神戸市長田区。震災で両親を失った小学一年生の丹華(ニケ)は、兄の逸騎(イッキ)、妹の燦空(サンク)とともに、医師のゼロ先生こと佐元良是朗に助けられた。復興へと歩む町で、少しずつ絆を育んでいく四人を待ち受けていたのは、思いがけない出来事だった―。


震災で両親を一度に亡くしたニケたち三兄妹は、近所に住む心療内科の医師で、同じく震災で妻を亡くした佐元良(さもとら)先生(ゼロ先生)に助け出され、佐元良家の養子になる(ニケは、サモトラケのニケになったのである)。復興住宅の人たちや、おっちゃん(ゼロ先生)や由衣ねえに支えられながら、成長していく姿を見守りながら、ときおり胸が熱くなる。震災で怪我して自由にならない右足のせいで、ニケは同級生たちとは距離を置くようになり、勉強はできるが物静かな少女になっていく。兄妹が互いを思いやって助け合う姿にも胸がじんとする。思春期を迎えたニケに起こったことは、一見突拍子もないことに見えるが、物語を象徴する出来事でもある。誰かをまごころで想うことの尊さは、自分の身を削っても相手をしあわせにしたいと願うことなのかもしれない。震災という理不尽な哀しみは二度と起きてほしくはないが、ニケたちには、乗り越えてさらにしあわせになってほしいと願うばかりである。あたたかさと力強さを感じた一冊である。

うずら大名*畠中恵

  • 2016/01/17(日) 17:08:12

うずら大名
うずら大名
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畠中 恵
集英社
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正体不明の“大名"と泣き虫の村名主が江戸を揺るがす難事件に挑む!

若き日に同じ道場に通った貧乏武家の部屋住み・有月と百姓の三男・吉也。
金もなく、家にも町にも居場所がなく、この先どうやって生きていけばいいのかと
悩む日々を共に過ごしてきた。
時は流れ、吉也は東豊島村の村名主となり吉之助と改名。
ある日、大名家へ向かう途中に辻斬りに襲われるが、
「御吉兆ーっ」という鳴き声とともに飛び込んできた白い鶉とその飼い主であるお武家によって命を救われる。
お武家の正体は、十数年ぶりに再会した有月だった。
涼やかな面で切れ者、剣の腕も確かな有月は大名を自称するが、どう見ても怪しく謎めいている。
そんな有月と勇猛果敢な鶉の佐久夜に振り回されながら、吉之助は江戸近隣で相次ぐ豪農不審死事件に巻きこまれていく。
一つ一つの事件を解決するうちに、その背景に蠢く、江戸城を揺るがす恐ろしい陰謀が明らかになり――。
新しい畠中ワールドの幕開けとなる、痛快時代小説の誕生です!


畠中さんのシリーズもののキャラクタはどれも好いなぁ。今回も、見目麗しいが、すでに隠居の身で一見ふらふらしているように見える有月さんといい、大名家にお金を貸すほどの豪農であり名主でありながら、相変わらずに泣き虫の吉之助といい、出来過ぎでないところが親近感を持たせてくれて、物語をより近しく感じさせてくれる。そして何よりタイトルにもなっている、有月さまの巾着鶉の佐久夜の賢さと愛らしさが群を抜いている。あちこち手を回し、綿密に調べ、罠を張って犯人をおびき出し、事件を解決する手腕も見事だが、佐久夜の活躍も見逃せない。たのしみなシリーズになること間違いないと思わされる一冊である。

ロマンシエ*原田マハ

  • 2016/01/15(金) 09:13:37

ロマンシエ
ロマンシエ
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原田 マハ
小学館
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乙女な心を持つ美術系男子のラブコメディ!

有名政治家を父に持つ遠明寺(おんみょうじ)美智之(みちの)輔(すけ)は、子どもの頃から絵を描くことが好きな乙女な男の子。恋愛対象が同性の美智之輔は、同級生の高瀬君に憧れていたが、思いを告げることもないまま、日本の美大を卒業後、憧れのパリへ留学していた。
ある日、アルバイト先のカフェで美智之輔は、ぼさぼさのおかっぱ髪でベース形の顔が目を惹く羽生(はぶ)光(み)晴(はる)という女性と出会う。凄まじい勢いでパソコンのキーボードを打つ彼女は、偶然にも美智之輔が愛読している超人気ハードボイルド小説の作者。訳あって歴史あるリトグラフ工房idemに匿われているという。
過去にはピカソなどの有名アーティストが作品を生み出してきたプレス機の並ぶその工房で、リトグラフの奥深さに感動した美智之輔は、光晴をサポートしつつ、リトグラフ制作を行うことになるが……。

【編集担当からのおすすめ情報】
小説『ロマンシエ』に登場するパリのリトグラフ工房“idem”とコラボした展示会がを開催します(2015年12月5日から2016年2月7日まで、東京・丸の内のステーションギャラリーにて)。小説を読んでから展覧会に行くもよし、展覧会でリトグラフを楽しんでから小説を読んでもよし。小説(フィクション)と展覧会(リアル)がリンクした初の試みをお楽しみください。


自分の性に葛藤する美智之輔が、パリで人気小説家の羽生光晴と出会うことで生まれた物語である。生まれて初めて自由を感じられたパリで、大ファンのハルさんと触れ合い、思い描いていた道とは違うが、創作の現場に立ち会い、そこで働く人々と親しむことで、ある意味逃げるように日本を出てきた彼の中の何かが花開いていくのがよく判って涙を誘われる。長年の忍ぶ恋は報われなかったが、美智之輔にとってもハルさんにとっても、新たな道が開けているのがとてもうれしい。気楽に読めるのに、深みのある一冊だった。

明治・金色キタン*畠中恵

  • 2015/12/22(火) 19:35:12

明治・金色キタン
明治・金色キタン
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畠中 恵
朝日新聞出版
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にぎやかなキャラクター達の織りなす楽しさ、軽妙さに加え、恐ろしい妖の要素で背筋がぞくっともさせられる、「明治・妖モダン」シリーズ絶好調の第2弾!
明治21年の東京・銀座。巡査の滝と原田は、日々持ち込まれる事件や相談事の解決に奔走する熱血漢コンビ。だがこの二人と仲間たち、時折何やら人間離れした「妖(あやかし)」の姿をも見せるのです……!?
不忍池の競馬場、女学生と結婚事情、頼母子講+宗教的な集まりなどなど、明治の風俗がたっぷり楽しめる、1話完結の痛快な謎とき短篇集。さらに全編を通して、廃仏毀釈によって消えた寺と仏像の大きな謎もドラマチックに描かれる会心作です。


明治の銀座の派出所の巡査・滝と原田、そして彼らがたびたび顔を出す百木屋に集う面々が、巻き込まれ、持ち込む事件とその顛末の物語である。ただいささか常と違うのは、どうやらこの面々、銀座で普通に暮らしてはいるのだが、ただならぬ者たちであるようなのである。その辺りの可笑しさ、痛快さも興味深く、舞台が現代ではこうは上手くいかなかっただろうと思われて、江戸から明治に替わりはしたが、まだまだ一歩踏み入れば江戸の色の濃い混沌とした時代ゆえの大らかさも見て取れて、物語に深みを出している印象を受ける。あまりにも世の中が変わり過ぎて、なにが起こっても驚かず受け容れてしまえそうな時代だったのかもしれないと想像したりもしてしまう。事件も廃仏毀釈がらみで、祟りだのなんだのと混沌としているのもこの時代らしい。これも長く続いてほしいシリーズである。

夏のバスプール*畑野智美

  • 2015/12/07(月) 07:20:23

夏のバスプール
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畑野 智美
集英社
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夏休みまであと5日! 青春初恋物語
2012年、世界は12月で滅亡するとの噂だが、高校1年生の涼太は、仙台から来た同級生に恋をする。一風変わった彼女には複雑な事情が…? 小説すばる新人賞受賞第一作、胸キュン青春小説!


夏の、ときて、バスプールと続くので、泳ぐプールを連想してしまったのだが、バスターミナルのことらしい。
夏休み直前の高校一年生の物語である。彼らみな、まだ何者でもなく、それぞれが鬱屈した想いを抱えながら、一般的に見れば広いとは言えない自分の場所で、その時その時にいちばんいいと思ったことをしている。あるときは逃げ出し、籠り、爆発させ、弾け、頭を抱えるが、あしたが少しでも良くなればいいという漠然とした気持ちは伝わってくる。絶対的に良い人も悪い人もいなく、ひとりの中にさまざまなその人がいて揺れている様が、この年代ならではのもどかしさを絶妙に描いている。彼らがよくびしょ濡れになっているからというわけではないが、瑞々しい一冊だった。

海の見える街*畑野智美

  • 2015/11/29(日) 19:24:12

海の見える街
海の見える街
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畑野 智美
講談社
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この街でなら、明日が変わる。
海が見える市立図書館で働く20、30代の4人の男女を、誰も書けない筆致で紡ぐ傑作連作中編集。

一年あれば、奇跡も起きる。

●「マメルリハ」……7月、僕の変わらない日常に異変が起きた。
●「ハナビ」……11月、私のまわりで違う何かが起きている。
●「金魚すくい」……2月、俺はまた理解されずに、彼女を待つ。
●「肉食うさぎ」……5月、わたしの誕生日を祝う人がいる街で。



海が見える街の高台にある図書館と児童館で働く四人の男女の物語である。生い立ちも性格もさまざまだが、四人とも他人との関係の作り方がいささか苦手で、仕事は真面目にやるが、友人や恋人には恵まれない。その不器用さゆえに、友人関係でも恋愛関係でも駆け引きが上手くできず、気になりつつも相手の気持ちに深く入り込んでいけないのである。だが、誰もがやさしく、他人を慮り、押しつけがましくなく目配りができるように思う。それぞれの抱える事情と、上手くいかない姿を見ている読者のもどかしさが、海が見える街を舞台にすることによって、面と向き合わずに同じ方向を見ながら語ることで、少しずつ歩み寄らせることができているようにも思われる。哀しみを抱えながらも穏やかで暖かい印象の一冊である。