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マスカレード・ゲーム*東野圭吾
- 2022/07/30(土) 18:12:15
解決の糸口すらつかめない3つの殺人事件。
共通点はその殺害方法と、被害者はみな過去に人を死なせた者であることだった。
捜査を進めると、その被害者たちを憎む過去の事件における遺族らが、ホテル・コルテシア東京に宿泊することが判明。
警部となった新田浩介は、複雑な思いを抱えながら再び潜入捜査を開始する――。
累計495万部突破シリーズ、総決算!
新田刑事、またもやホテル・コルテシア東京に潜入、しかも、あの山岸も赴任先のロサンゼルスから呼び戻されて――。ということになれば、いやがうえにも期待値が上がる。今回は、被害者が誰かわからず、加害者もはっきりはしていないなか、渾身の警備体制が敷かれるのである。だが今回は、警察側も一枚岩とはいかず、正義感の塊のような女性警部の捜査方針と、新田の考えとは相いれない部分もある。警察内部のいわば身内と、ホテルサイドとの板ばさみ的な葛藤の面白さも加わり、さらに興味を掻き立てられる。そして、罪と罰の重さや、本当の償いとは何か、理不尽に身内を奪われた遺族の心の持ち方等々、注目すべき点がたくさんある。疑う警察と信じるホテルという、人に向き合う姿勢の違いも、いままで以上に際立っているのも興味深い。総決算と謳われているので、続編はないものと思われるが、この先もちょっぴり見てみたい気がしなくはないシリーズである。
透明な螺旋*東野圭吾
- 2022/07/11(月) 06:49:27
シリーズ第十弾。最新長編。
今、明かされる「ガリレオの真実」。
房総沖で男性の銃殺遺体が見つかった。
失踪した恋人の行方をたどると、関係者として天才物理学者の名が浮上した。
警視庁の刑事・草薙は、横須賀の両親のもとで過ごす湯川学を訪ねる。
「愛する人を守ることは罪なのか」
ガリレオシリーズ最大の秘密が明かされる。
何組もの母と子の在りようが描かれる中、何度か見える景色が変わる場面があり、しかもそこに、湯川先生自身も絡んできて、そもそものところからそうつながっていたのか、と思わされる。さまざまな形での「愛する人の守り方」を見せられたようにも思う。読み応えのある一冊だった。
探偵少女アリサの事件簿 さらば南武線*東川篤哉
- 2022/01/24(月) 16:30:42
勤め先のスーパーをクビになり、地元・武蔵新庄で「なんでもタチバナ」をはじめた橘良太。最近は名探偵一家の主である綾羅木孝三郎の娘・有紗のお守役を仰せつかっている。しかしこの有紗が曲者で、幼いながら名探偵気取り。
実際、推理力は父親をしのぎ、数々の難事件を解決してきた。
そんなある日、依頼先に出かけた良太が密室殺人に遭遇してしまい……。
溝ノ口&南武線を舞台に凸凹コンビが大活躍!
王道のユーモアミステリー、堂々の完結
完結編ということである。だが、最後のやり取りからすると、イギリスで世界的名探偵の母と共に謎を解き、さらにパワーアップして帰ってきたアリサと良太は、きっとまた溝口で出会うと信じたい。しばらく間をおいても、ぜひまたその後を見守りたいものである。今回は、アリサの父・孝三郎も、少しだけ名探偵としての片鱗を見せてくれて、ちょっとほっとしたり。愉しませてもらったシリーズである。
探偵少女アリサの事件簿 今回は泣かずにやってます*東川篤哉
- 2021/09/20(月) 18:29:48
勤め先のスーパーをクビになり、地元・武蔵新城で
『なんでも屋タチバナ』を始めた俺、橘良太。
三十一歳。独身。長所、特になし。特技は寝ること。
最近は、隣駅の溝ノ口に住む名探偵一家の主・綾羅木孝三郎がお得意様。
娘の綾羅木有紗の子守役を仰せつかっている。
しかしこの有紗、10歳にして名探偵を気取っており、
俺が依頼された事件にことごとく首を突っ込みたがる。
そんなある日、孝三郎の代わりに有紗と高橋さん一家の奥多摩バーベキューに
付き添っていたら、なんと溺死体に遭遇してしまい……! ?
美少女探偵×ヘタレ三十路男による
爆笑必至のユーモア・ミステリー
今回はほんとうに泣かなかったな、アリサちゃん。そして、良太との上下関係もしっかりと定着し、もはやすっかり名探偵と役に立たない助手、という感じである。でも、いくら名探偵とは言え、10歳の女の子、公の場では大人がいないと発言の信憑性も危ういということで、かろうじて良太も役に立つ、というものである。とは言え、助手・良太、謎解きに自ら役立てられるかどうかは別として、結構な確率で、いいヒントに行きあたっているのも確かで、それがアリサの役に立っているとも言えるのである。なんともまどろっこしい。まだまだ溝口界隈、熱そうなので、次も愉しみなシリーズである。
探偵少女アリサの事件簿*東川篤哉
- 2021/09/03(金) 07:38:43
名探偵は小学生! ?
天才探偵少女とヘタレ三十男の迷コンビが難事件に挑む!
東川篤哉、最新ユーモア・ミステリ!
就職先のスーパーを誤発注した大量のオイルサーディーンとともにクビになり、
地元で「なんでも屋タチバナ」を始めた、俺、橘良太。 三十一歳、独身、趣味は
ナシ、特技は寝ること。そんな平凡な三十男の俺にある日、子守り依頼が舞い込んだ。
報酬につられて出かけた豪邸で待ちかまえていたのは、ロリータ服の美少女。
わずか十歳にして自らを探偵と信じる無垢で無謀な少女、綾羅木有紗だった――。
「ねぇ、おじさん、あたしのこと、ナメてんじゃないの?」
なんでも屋の良太の前に現れた、探偵を名乗る十歳の美少女•有紗。
有紗に殺人鬼の濡れ衣を着せられた良太は、事件を一緒に調べることになって……。
天才探偵少女とヘタレ三十男の迷コンビが難事件に挑む、
東川篤哉、最新ユーモア・ミステリ!
両親ともに名(?)探偵の10歳の少女・綾羅木有紗と、冴えない三十男の橘良太という凸凹コンビの探偵物語である。「4」と「千」を見間違えたせいで、スーパーをクビになり、成り行きでナンデモ屋になった良太のもとに舞い込む依頼がきっかけで、事件に巻き込まれ、依頼者の娘として知り合ったアリサに引きずりまわされる格好で、いつの間にか探偵助手のようになっているのである。舞台は南武線・武蔵新城、溝の口辺り。絶妙なローカル加減で、舞台設定も人物設定も面白い。事件も、子どもが首を突っ込むにしては結構シビアで、日常の謎でありながら、殺人事件もじゃんじゃん起こる。すでにコンビで活動している体になっているので、次が愉しみなシリーズである。
白鳥とコウモリ*東野圭吾
- 2021/06/19(土) 19:44:40
遺体で発見された善良な弁護士。
一人の男が殺害を自供し事件は解決――のはずだった。
「すべて、私がやりました。すべての事件の犯人は私です」
2017年東京、1984年愛知を繋ぐ、ある男の"告白"、その絶望――そして希望。
「罪と罰の問題はとても難しくて、簡単に答えを出せるものじゃない」
私たちは未知なる迷宮に引き込まれる――。
522ページという分量を感じさせられずに一気に読んだ。第一段階は、あっという間に事件が片付いてしまい、はて、連作短編だったか、と一瞬思ってしまったが、本当の事件の始まりはそこからだった。警察も、検察も弁護士も、被疑者の自白があるので、殺人事件の事実を争うつもりは初めからなく、そのままならば、すんなりと判決が出てしまうような流れである。自白というものがどれほど重要視されているかを思い知らされるようである。だが、被害者、加害者双方の身内が違和感を抱き、行動を起こした。それによってあぶりだされた真実とは。想像もしなかった事実を目の当たりにして、何をどう考えていいか戸惑うが、真犯人の真の動機が明らかになった時には、さらにどう反応していいか判らなくなった。現代的(という言葉が即しているかは自信がないが)な精神性の象徴なのかもしれないが、こうしなくてもよかったような気がしなくもない。正直ショックであり、悩ましい。ただひとつ言えるのは、最悪なのは、一連の事件の大本である灰谷社長なのは間違いないということである。そして、真実が明らかになった後の、物語の終わらせ方は、いささか散漫な印象がなくもない。とはいえ、一気に読ませる面白さであることは間違いない一冊である。
ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人*東野圭吾
- 2021/04/29(木) 16:20:47
謎を解くためなら、手段を選ばない。コロナの時代に、とんでもないヒーローがあらわれた!
名もなき町。ほとんどの人が訪れたこともなく、訪れようともしない町。けれど、この町は寂れてはいても観光地で、再び客を呼ぶための華々しい計画が進行中だった。多くの住民の期待を集めていた計画はしかし、世界中を襲ったコロナウイルスの蔓延により頓挫。町は望みを絶たれてしまう。そんなタイミングで殺人事件が発生。犯人はもちろん、犯行の流れも謎だらけ。当然だが、警察は、被害者遺族にも関係者にも捜査過程を教えてくれない。いったい、何が起こったのか。「俺は自分の手で、警察より先に真相を突き止めたいと思っている」──。颯爽とあらわれた〝黒い魔術師〟が人を喰ったような知恵と仕掛けを駆使して、犯人と警察に挑む!
最新で普遍的。この男の小説は、ここまで凄くなる。東野圭吾、圧巻の離れ業。
なんというか、あれこれ盛り込み過ぎな印象が無きにしも非ずである。東野氏故に読者のハードルが高くなるのは仕方のないことだろうが、率直に言って、深みが足りない気がしてしまう。面白くないわけではない。次の展開が気になって、ページを繰る手が止まらなくなり、知りたい欲求はどんどん高まり、探偵役の叔父のマジシャン故の仕込みや洞察力や推理力の見事さには、目を瞠るものがあるのだが、何となくいろいろ並べ立てただけ感が拭えないのだ。小気味のいい「してやられた感覚」をもっと味わいたかったというのが本音である。マジックを見ているように楽しめる一冊ではある。
クスノキの番人*東野圭吾
- 2021/03/02(火) 18:40:47
その木に祈れば、願いが叶うと言われているクスノキ。 その番人を任された青年と、クスノキのもとへ祈念に訪れる人々の織りなす物語。
謎解き要素は、佐治親子の辺りにほんの少しあるだけで、ミステリというのは当たらないような気はするが、不思議な力を持つクスノキを巡る人間ドラマという感じだろうか。職場のものを盗んで捕まった、ほぼ交流のなかった義妹の息子を、大切なクスノキの番人にしようとするのも無謀だし、何の説明もなく大役につけるのもリスクが大きいように思うが、まあ何かの力が働いたのだと思うことにしよう。その後の千舟と玲斗の関係性の変化や、玲斗の行動の変化(こんなにうまくいくものだろうかという思いはあるが)には、興味を惹かれる。クスノキの祈念のことを知るにつれ、玲斗の心構えも次第に変わってきて、自覚が出てくるのが目に見えて、応援したくもなる。自分で念を預けようとは思わないが、それを受けて救われる人もいるのだと、あたたかい気持ちにもなる。重くはあるが、未来のある一冊だと思った。
谷根千ミステリ散歩 中途半端な逆さま問題*東川篤哉
- 2020/12/28(月) 07:41:02
謎解きと下町散歩はよく似合う―下町情緒に満ちた東京の谷根千(谷中・根津・千駄木)で、ミステリアスな雑貨屋店主・竹田津と天然女子大生・つみれが怪事件を解く!
鰯専門の居酒屋・鰯の吾郎を営む岩篠なめ郎の妹で、女子大生のつみれの目線で語られる物語。ひょんなことから知り合った、兄の友人らしい開運グッズショップ「怪運堂」店主の三十男・竹田津が、つみれが持ち込んだちょっとした謎を、谷根千をぶらぶら散歩しながら解き明かすという趣向である。傍目には、ぶらぶらしているようにしか見えないかもしれないが、勘所はきっちり押さえて、見事に謎を解きほぐす竹田津のキャラがいい。なぜかすべてつみれのお手柄と評判が立っているようなのに、気にする様子がないのも竹田津らしくてなかなかいい。もっともっと見たくなる探偵コンビの一冊である。
礼儀正しい空き巣の死*樋口有介
- 2020/07/04(土) 16:19:31
東京・国分寺市の閑静な住宅街で、盗みに入ったホームレスが風呂を拝借してそのまま死んだ。靴を揃えて服を畳み、割れたガラスを補修して、やけに礼儀正しい空き巣の最期だった。死因は持病の心疾患で事件性はなく、刑事課の管掌外。だが臨場した金本刑事課長は、そこが三十年前の美少女殺害事件の隣家であることに気づいた。これは単なる偶然か、何かの因縁なのか?金本から相談を受けた卯月枝衣子警部補は、二つの死の繋がりを探るべく、極秘に捜査を継続する。三十年越しの“視線”にゾッとする、新感覚ミステリー!
「礼儀正しい空き巣の死」から、芋づる式に暴かれていく未解決事件の真相が、どれもこれもおぞましくて身震いする。だが、現場を踏んだ刑事の勘や、なんだか嫌な感じ、という違和感のようなものは、存外侮れないというのは、小説の中だけではなく、現実にもあるのではないだろうか。そこに拘るか、通り過ぎてしまうかが、その後の捜査の重要なポイントになったりすることもあるだろう。本作は、拘りぬいた刑事の勝利である。さまざまな要素を盛り込み過ぎた感は否めないが、あっちもこっちも展開が気になって、興味深く読める一冊だった。
もう誘拐なんてしない*東川篤哉
- 2020/06/27(土) 12:57:28
大学の夏休み、先輩の手伝いで福岡県の門司でたこ焼き屋台のバイトをしていた樽井翔太郎は、ひょんなことからセーラー服の美少女、花園絵里香をヤクザ二人組から助け出してしまう。もしかして、これは恋の始まり!?いえいえ彼女は組長の娘。関門海峡を舞台に繰り広げられる青春コメディ&本格ミステリの傑作。
ドラマになったという記述も見かけたが、確かに映像向きかもしれない。ハチャメチャな設定に派手な展開。道具立てもぶっ飛んでいて、笑える要素も、じんとさせる要素もある。しかも、そもそもの誘拐の動機づけになった理由は、冒頭であっけなく解決されているので(本人たちは知らないが)、言ってみれば無駄などたばた騒ぎだったことになるのも愉快である。だが、表向きの愉快さの裏には、本気の企みが隠されていて、しかもこれが結構純愛だったりするところもなかなかである。気軽に読めて惹きこまれる一冊だった。
うしろから歩いてくる微笑*樋口有介
- 2019/10/06(日) 07:24:30
売り上げランキング: 20,498
鎌倉在住の薬膳研究家と知り合った俺・柚木草平。10年前に失踪した同級生の目撃情報が鎌倉周辺で増えているので調べてほしいと、彼女はいう。早速鎌倉の〈探す会〉事務局を訪ねるが、これといった話は聞けなかった。ところがその晩、事務局で会った女性が殺害されてしまう。急遽、失踪事件から殺人事件に調査を切り替えた柚木が見つけた真実とは? 月刊EYESの小高直海らおなじみのキャラクターに加え、神奈川県警の女性刑事など今回の事件も美女づくし。『彼女はたぶん魔法を使う』からおよそ30年、円熟の〈柚木草平〉シリーズ第12弾。
相変わらず、女性にだらしなく、ふらふらちゃらちゃらしているように見える柚木草平ではある。いい加減この性癖は何とかならないものかとは思いながらも、それが時にはうまい具合に潤滑剤になって、調査が進展することもあることから思えば、ある意味柚木の戦法とも言えるのかもしれないので、まあ一応は容認することにする。見かけとは違って、仕事はきっちりこなし、些細な端緒から事実を導き出す能力には相変わらず長けている。そして、元刑事とは言え、必ずしも真実を法に照らし合わせて罰することを第一義とはしないところも、独特である。罪は罪であろうが、今後の関係者の幸福をいちばんに考えているのだろうことが、(警察的には異論があろうが)好ましくもある。それにしても、「B」に対する嫌悪感はどうしたものだろう。物語に詳細は描かれていないが、二度と立ち直れない仕置きをしてほしいものである。いささか進展にまどろっこしさは感じたが、最後はすっと腑に落ちた一冊である。
希望の糸*東野圭吾
- 2019/07/23(火) 18:54:39
東野圭吾の最新長編書き下ろしは、「家族」の物語。
「死んだ人のことなんか知らない。
あたしは、誰かの代わりに生まれてきたんじゃない」
ある殺人事件で絡み合う、容疑者そして若き刑事の苦悩。
どうしたら、本当の家族になれるのだろうか。
閑静な住宅街で小さな喫茶店を営む女性が殺された。
捜査線上に浮上した常連客だったひとりの男性。
災害で二人の子供を失った彼は、深い悩みを抱えていた。
容疑者たちの複雑な運命に、若き刑事が挑む。
加賀恭一郎シリーズの一端であるが、今作の主役は加賀ではなく、従兄弟の松宮である。親子とは、家族とは、結婚とは、血縁とは、そして人と人との絆とはなんだろうと、考えさせられる。事件の発端から捜査の過程まで、松宮自身の出生の秘密とも絡み合わせて描かれていて、相互にヒントになったり、考える糸口になったりしているのも興味深いところである。人と人とのかかわりあいの要素は、いささか盛り込みすぎで、ラストに向かってきれいにまとめ過ぎた感もなくはないが、そうでなければ納得できない部分もあるので、仕方ないのかもしれない。個々人にとっては、この上なく重要な問題なので、実際にはおそらくこれほど前向きにはまとまらないのではないかとは思わされる一冊ではあった。
沈黙のパレード*東野圭吾
- 2019/02/02(土) 20:54:38
突然行方不明になった町の人気娘が、数年後に遺体となって発見された。容疑者は、かつて草薙が担当した少女殺害事件で無罪となった男。だが今回も証拠不十分で釈放されてしまう。さらにその男が堂々と遺族たちの前に現れたことで、町全体を憎悪と義憤の空気が覆う。秋祭りのパレード当日、復讐劇はいかにして遂げられたのか。殺害方法は?アリバイトリックは?超難問に突き当たった草薙は、アメリカ帰りの湯川に助けを求める。
アメリカから帰ってきた湯川先生の性格が(陽性に)変わったように見えるのは、ドラマの配役に引きずられたからだろうか。以前の湯川先生が懐かしいような気持になってしまうのは、身勝手なのだろう。今回は、事件の謎解きに協力するのを渋るどころか、むしろ警察よりも積極的に深入りしており、常に先を行ってさえいる。そして、真相がわかったと安堵する間もなく、湯川先生の新たな推理によって、眠っていた真実が掘り起こされ、なるほどと思わされるのである。物語自体は面白かったのだが、殺されるきっかけとなった被害者とその恋人の行いが、なんとも身勝手な気がして、いささかもやもや感が残るのは残念である。ただ、自分が知っていて、真実だと思っていることがすべてではない、というところには、とても納得できた。早く次の展開が知りたくてページを繰る手が止まらなかったことは確かな一冊である。
魔力の胎動*東野圭吾
- 2018/07/29(日) 20:19:23
自然現象を見事に言い当てる、彼女の不思議な“力”はいったい何なのか――。彼女によって、悩める人たちが救われて行く……。東野圭吾が価値観を覆した衝撃のミステリ『ラプラスの魔女』の前日譚。
『ラプラスの魔女』の前日譚ということだが、羽原円華にはまだ謎の部分が多いし、父の羽原博士の研究にも、もっと掘り下げる要素があるように思えるので、続編もあるのだろうという印象である。円華の能力には、生まれつき備わった特殊能力というだけではない何かがあるはずである。彼女にぴったり張り付いている秘書とボディーガードの存在のこともある。ただ、今作では、円華の能力を借りなければ解決できないことがほとんどであり、彼女の年齢やキャラクタも相まって、円華への興味が尽きないのである。さらに、彼女といいコンビになれそうな、工藤那由他(京太)に内在する鬱屈まで解きほぐしてしまうという、人間味も垣間見られ、今後の展開もぜひ見てみたいと思わされる一冊だった。
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