戦場のコックたち*深緑野分

  • 2016/05/22(日) 09:00:04

戦場のコックたち
戦場のコックたち
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深緑 野分
東京創元社
売り上げランキング: 13,294

1944年6月、ノルマンディー上陸作戦が僕らの初陣だった。特技兵(コック)でも銃は持つが、主な武器はナイフとフライパンだ。新兵ティムは、冷静沈着なリーダーのエド、お調子者のディエゴ、調達の名人ライナスらとともに、度々戦場や基地で奇妙な事件に遭遇する。不思議な謎を見事に解き明かすのは、普段はおとなしいエドだった。忽然と消え失せた600箱の粉末卵の謎、オランダの民家で起きた夫婦怪死事件など、戦場の「日常の謎」を連作形式で描く、青春ミステリ長編。


舞台は戦場。血なまぐさく残酷な場面はもちろんいたるところに出てくる。だがこれは日常の謎の物語なのである。生きるか死ぬかの過酷な日々のなかでも、謎は生まれ、知恵と想像力によってそれを解き明かす青年たちがいる。人種も育ちも住む場所も全く違う若者たちが、互いにけん制しつつも心を合わせて事にあたる様子には、胸が温まるものがある。44年後を描いたエピローグが、ほっとさせもし、もの悲しくもさせる一冊である。

女王はかえらない*降田天

  • 2015/08/13(木) 13:07:57

女王はかえらない (「このミス」大賞シリーズ)
降田 天
宝島社
売り上げランキング: 48,028

片田舎の小学校に、東京から美しい転校生・エリカがやってきた。エリカは、クラスの“女王”として君臨していたマキの座を脅かすようになり、クラスメイトを巻き込んで、教室内で激しい権力闘争を引き起こす。スクール・カーストのバランスは崩れ、物語は背筋も凍る、まさかの展開に―。二度読み必至!伏線の張りめぐらされた学園ミステリー。2015年第13回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。


小学校のひとクラスが舞台の物語。女子のボス・マキとその取り巻き、というわかりやすい構図で、クラスの上下関係が描かれるのかと思いきや、東京からの転校生・エリカの登場で、俄かに混戦模様に。そこここにトリックが仕掛けられ、ちょっと油断するとあっという間に罠にかかってしまい、気づいたときにはすっかりとりこまれているという寸法である。ここまで似通ったネーミングの偶然にはいささか苦笑してしまうものの、わかってみればなるほど、とうなずけることばかりである。しかし描かれていること自体は空恐ろしい。クラスが唯一の世界だった小学生だからこその思考回路の短絡さにめまいがする思いである。映像化にはまるで向かない一冊である。

ランチに行きましょう*深沢潮

  • 2014/08/31(日) 07:00:37

ランチに行きましょう (文芸書)ランチに行きましょう (文芸書)
(2014/08/08)
深沢 潮

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どうして私以外、幸せそうなの?結婚しても、子どもがいても、満たされない私たち―。恵子:生協の配達員に淡い恋心を抱く。いい人ぶりたい。秋穂:女医。シングルマザーであることを周囲に隠す。千鶴:国立大出身。スピリチュアルに傾倒している。綾子:若手俳優のおっかけにのめりこむ。少し図々しい。由美:娘の受験に悩んでいる。夫に隠し事あり。それでも、「ランチに行きましょう!」


わたしの世代は、いまのようにママ友づきあいが面倒ではなかったので、ほんとうのところはよく判らないのだが、本作の登場人物たちは、結構本音をぶつけ合えていて、それ故に行き詰った関係の打開策も見つけやすいような印象である。現実はもっと裡に籠って陰湿な面も多いのではないだろうか。それでも、互いの腹の探り合いはどこにでもあり、わかりやすい形で描かれていて、傍から眺めている分には面白い一冊だった。

たそがれ清兵衛*藤沢周平

  • 2014/03/07(金) 17:18:11

たそがれ清兵衛 (新潮文庫)たそがれ清兵衛 (新潮文庫)
(2006/07/15)
藤沢 周平

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下城の太鼓が鳴ると、いそいそと家路を急ぐ、人呼んで「たそがれ清兵衛」。領内を二分する抗争をよそに、病弱な妻とひっそり暮らしてはきたものの、お家の一大事とあっては、秘めた剣が黙っちゃいない。表題作のほか、「ごますり甚内」「ど忘れ万六」「だんまり弥助」「日和見与次郎」等、その風体性格ゆえに、ふだんは侮られがちな侍たちの意外な活躍を描く、痛快で情味あふれる異色連作全八編。


上記のほか、「うらなり与右衛門」 「かが泣き半平」 「祝い人助八」

普通から少し外れて我が道を行く生き方をしている男たちの短編集である。蔑まれたり軽んじられたりしながらも、確かな腕を買われて事を成すギャップが堪らない。ある意味理想かもしれない。格好良く爽快な一冊である。

春の駒 鷺澤家の四季*福田栄一

  • 2013/08/17(土) 20:01:36

春の駒 鷺澤家四季 (ミステリ・フロンティア)春の駒 鷺澤家四季 (ミステリ・フロンティア)
(2013/06/28)
福田 栄一

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ささやかな謎を通し、どこにでもいそうな一家の穏やかな日常を描く、鷺澤家のアルバム一冊め。これまでありそうでなかった、福田栄一はじめての〈日常の謎〉連作ミステリ。


「春の駒」 「五月の神隠し」 「ミートローフ・ア・ゴーゴー」 「供養を終えて」

鷺澤家の日常が、穏やかに健やかに綴られている物語である。三人の息子たちもみな表現の仕方の違いはあれ家族思いで、それぞれがそれぞれを尊重している、気持ちの好い一家である。そんな鷺澤家の穏やかな日常に、ほんの少しの謎が持ち込まれる。それを解決するのは、次男・葉太郎の高校の将棋部の顧問・城崎真琴。将棋を指しながら葉太郎の話を聞いて、たちまちのうちに真実にスポットを当ててしまうのである。あまりに淡々とあっさりと見抜いてしまうので、拍子抜けするほどである。だが、思い返してみると、なるほどと腑に落ちることばかりなのである。鷺澤家の日常をもっと見ていたいと思わされる一冊である。そして将棋部のこれからも。

玉響荘のユ~ウツ*福田栄一

  • 2013/08/08(木) 09:25:08

玉響荘のユーウツ (トクマ・ノベルズ Edge)玉響荘のユーウツ (トクマ・ノベルズ Edge)
(2005/10/21)
福田 栄一

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売上金を持ち逃げされたため、メイド喫茶を潰してしまった志郎は、「四日後の正午までに五百万円を返さないと、二十万円の不足につき、指一本を切り落とす」と債権回収屋に脅された。が、捨てる神あれば拾う神ありで、亡くなった祖母のアパートを突然相続することに。「アパートを手放して借金返済!」と、断トツ人気の元メイド・美保と小躍りしたのはいいけれど、売却するには住人全員が退室届にハンコを押さなければならないという…。一風変わった玉響荘の住人たちを相手取り、志郎が奔り回る。


設定は特別めずらしくもなく、展開も予想通りだが、少々の強引さと、次から次へとつながっていく点が、次第に一枚の絵になっていく過程が、適度なリズム感で好感が持てる。気軽に愉しめる一冊である。

暁のひかり*藤沢周平

  • 2013/07/04(木) 12:57:36

暁のひかり (文春文庫)暁のひかり (文春文庫)
(2007/02)
藤沢 周平

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壷振りの市蔵は、賭場の帰り、大川端で竹を杖に歩く稽古をする足の悪い少女に出会う。ひたむきな姿に、ふとかたぎの暮らしをとりもどしたいと思う市蔵だが、所詮、叶わぬ願いだった―。江戸の市井を舞台に、小さな願いに夢を見ながら、現実に破れていく男女の哀切な姿を描く初期の傑作短篇6篇を収録。


表題作のほか、「馬五郎焼身」 「おふく」 「穴熊」 「しぶとい連中」 「冬の潮」

どの物語も、はみ出し者たちが主人公だが、彼らの悪に染まり切ってはいない、やるせなく哀しい心情がさらりと描かれていて、ほだされる。そんな彼らの前に現れる女たちもまた、それぞれの立場なりの屈託を抱えて日々を暮している。全編を通して静かな情が流れているような一冊である。

コップとコッペパンとペン*福永信

  • 2013/06/08(土) 17:05:31

コップとコッペパンとペンコップとコッペパンとペン
(2007/04)
福永 信

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1行先も予測できない! 母から娘へ、娘から息子へ…。赤い糸がつなぐ現代家族の非人情物語を描いた表題作を含む、短篇3本に書き下ろしを加えた小説集。


一行先も予測できない、という帯文は当たっている。だが、その予測できなさにも、裏切られ方にも、展開の唐突さにも、わたしは着いて行けなかった。読んでいる間中気持ちの休まる間がなく、ささくれ立った壁に手を這わせて歩いているような、逃げ出したい感じに囚われるようだった。好きな人は好きなのかもしれないな、という一冊である。

三姉妹とその友達*福永信

  • 2013/06/07(金) 17:05:54

三姉妹とその友達三姉妹とその友達
(2013/02/22)
福永 信

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高度なコミュニケーション社会の発達の行く末に失望し、失われた人間性を取り戻すため、立ちあがった四兄弟。大舞台の幕が今、上がる…夢想家の長男、実務肌の次男、兄に忠実な三男、ミステリアスな四男―彼らが語るのは、脱力と失笑を誘う、ただの世迷い言か?それとも、人と人とが本当につながる夢のような世界なのか?戯曲を模した小説、その小説のノベライズという、まさかの手法で生み出した、二つのトゥルーストーリー。隠れた名作「この世の、ほとんどすべてのことを」も友情収録。


この世の不条理とか理想の世界とか、著者には思惑があるのかもしれないが、わたしにはよく解らなかった。好き嫌いが分かれる趣向の作品かもしれない。他人によってさまざまに読み解くことができる、とも言えるかもしれないが、わたしはもっとストレートな物語の方が好みである。著者はきっと頭がいいのだろうな、と思わされる一冊である。

花のあと*藤沢周平

  • 2013/06/06(木) 19:38:27

花のあと (文春文庫)花のあと (文春文庫)
(1989/03)
藤沢 周平

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娘ざかりを剣の道に生きたある武家の娘。色白で細面、けして醜女ではないのだが父に似て口がいささか大きすぎる。そんな以登女にもほのかに想いをよせる男がいた。部屋住みながら道場随一の遣い手江口孫四郎である。老女の昔語りとして端正にえがかれる異色の表題武家物語のほか、この作家円熟期の秀作7篇。


表題作のほか、「鬼ごっこ」 「雪間草」 「寒い灯」 「疑惑」 「旅の誘い」 「冬の日」 「悪癖」

実は著者作品初読みである。移動の車中で読むために文庫を借りてみたのである。なんとなく手が出ずにこれまできて、作品数の多さになおさら手をつけられずにいたので、ちょうどよい機会だった。
町人が主人公のものあり、武家が主人公のものあり、それぞれだが、どちらにしても人情の機微と、背景の描写が濃やかで魅力的である。ことに女性の心の動きの細やかさがリアルで驚かされる。時代物でありながら、現代にも通ずるところがたくさんある一冊である。

MUSIC*古川日出男

  • 2010/11/26(金) 17:21:05

MUSICMUSIC
(2010/04)
古川 日出男

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響き、響き。き、キキキ。聞こえてくるよ、猫笛、祝祭、大地の歌声―。青山墓地で生まれた無敵の天才野良猫スタバ。猫笛を操る少年佑多。学校を離れ独り走る俊足の少女美余。恋人を亡くした性同一性障害の北川和身。猫アートの世界的権威JI。孤独な人間たちは一匹の猫によって、東の都東京から西の都京都へと引き寄せられ、ついに出会う。そして究極の戦争が始まった…。溢れる音楽と圧倒的なビートで刻まれる、孤独と奇跡の物語。


前作『LOVE』は未読だが、同じ世界観を踏襲しているらしい。本作には数人の登場人物がおり、それぞれが自分の芯にある大事なものを守りながら少しずつ出会っていくのであるが、いちばんの主役はスタバと名づけられた野猫である。彼を物語の中心に据えて、ほかの人物たちの世界が広がっていく。ただ、わたしにはいささか難しく、この世界観を理解するまでには至らず、残念ながら苦しい一冊でもあった。

TOKYO BLACKOUT*福田和代

  • 2009/04/05(日) 19:29:34

TOKYO BLACKOUTTOKYO BLACKOUT
(2008/10)
福田 和代

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8月24日午後4時、東都電力熊谷支社の鉄塔保守要員一命殺害。午後7時、信濃幹線の鉄塔爆破。午後9時、東北連系線の鉄塔にヘリが衝突、倒壊。さらに鹿島火力発電所・新佐原間の鉄塔倒壊――しかしこれは、真夏の東京が遭遇した悪夢の、まだ序章に過ぎなかった。最後の希望が砕かれたとき、未曾有の大停電が首都を襲う!

目的達成のため暗躍する犯人たち、そして深刻なトラブルに必死に立ち向かう市井の人々の姿を鮮やかに描破した渾身の雄編。大型新人が満を持して放つ超弩級のクライシス・ノヴェル!


電気という、いまやスイッチを入れれば点くのが当たり前というライフラインに照準を当てたのが、まず大成功と言えるだろう。現代人にとって電気はもはやなくてはならないものになっているということを、改めて実感させられる。電気が消えて、ご飯も炊けないと嘆く若い嫁に、ここぞとばかりにはりきって鍋で豆ご飯を炊く姑の姿が印象的である。
犯行声明も要求もなにもないテロである。事件の背景が読めないことが、捜査陣や東都電力の関係者の苛立ちを煽る。しかも、一見無関係の事件が、繋がる様相を見せるに至って、戸惑いは深まるばかりなのである。
犯人の動機をここに明かすわけにはいかないので、詳しくは言えないが、我が身可愛さのための無関心が、回りまわって自分に帰って来た、とも言えるように思う。情けは人のためならず、である。
主犯の思いは理解できなくはないのだが、共犯にされた外国人たちの行動は――その思いはわからなくはないが――あまりにも行き当たりばったりで、捨て駒に使われた感が拭えない。あまりにも哀れな最期である。

Twelve Y.O.福井晴敏

  • 2008/12/09(火) 17:16:34

Twelve Y.O.Twelve Y.O.
(1998/09)
福井 晴敏

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人生の意義を見失い、日々をただ過ごしていただけの自衛官募集員・平貫太郎は、かつての命の恩人・東馬修一に偶然出会ったことから、想像もつかない日本の地下組織の闇に呑み込まれてゆく。最強のコンピュータ・ウィルス「アポトーシスII」と謎の兵器「ウルマ」を使って、米国防総省を相手にたった1人で脅迫劇を仕掛け続ける電子テロリスト・トゥエルブとは何者か。彼の最終的な目的は何なのか?絶望感と閉塞感が渦巻く現代を吹き抜ける一大スペクタクル・サスペンス!第44回江戸川乱歩賞受賞作。


タイトルは、マッカーサーの「現代文明をもって測定するなら、我々が45歳だとすると、日本人は、12歳の少年のようなものである。」という言葉に由来する。

ちょっと苦手な分野の読書だった。途中で何度かやめようかと思いながら、何とか読み終えた。日米双方の思惑のために、いとも簡単に命をやりとりする光景には、どうしても馴染むことができない。
日米と周辺諸国の一触即発の危うい均衡と、国益を護る攻防を描きながら、突き詰めるとひとりの父と息子の物語である。そこに国家の機密やら、重大任務やらが絡んでくるのが腑に落ちなくもあるのである。国を巻き込まず、一対一で突き詰めたらいいではないか、と。

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ベルカ、吠えないのか?*古川日出男

  • 2008/10/30(木) 18:11:40

ベルカ、吠えないのか?ベルカ、吠えないのか?
(2005/04/22)
古川 日出男

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1943年、日本軍が撤収したキスカ島。無人の島には4頭の軍用犬が残された。捨てられた事実を理解するイヌたち。やがて彼らが島を離れる日がきて-。それは大いなる「イヌによる現代史」の始まりだった!
二十世紀をまるごと描いた、古川日出男による超・世界クロニクル。四頭のイヌから始まる、「戦争の世紀」。


神の目とも言える全世界を大局的に眺める視点が物語自体を語り、また、犬に語りかけることで犬に物語を語らせている。
キスカ島に残された四頭の犬の系統樹が世界にどんどん広がり、途絶えそうになりながら枝を伸ばしていくさまが感動的ですらある。
世界中でなくならない戦争も、犬を通してみることで、既存の尺度で測れない別物として捉えられたりもするのが興味深い。尊大な人間の愚かさと、獣である犬の本能の正しさが対比され、歴史と共に生き、ときに歴史の流れを変えさえしたのではないかと思われる場面に立ち会った犬たちの存在感には圧倒されるものがある。

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ハル、ハル、ハル*古川日出男

  • 2007/11/16(金) 17:37:03


ハル、ハル、ハルハル、ハル、ハル
(2007/07)
古川 日出男

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この物語は全ての物語の続編だ。暴走する世界、疾走する少年と少女。3人のハルよ、世界を乗っ取れ! 乱暴で純粋な人間たちの圧倒的な現在を描いた、古川日出男の最高傑作。


表題作のほか、「スローモーション」「8ドッグズ」

二〇〇五年十一月から、著者は「完全に新しい階梯に入った」のだと、物語の最後に付された著者の言葉にある。その歩みに着いていくのはわたしにはなかなか大変なことであるようだ。
感覚的にはなにかが自分の裡に流れ込んでくるように思えるのだが、いざ頭で考えて言葉にしようとするとあっという間に形を失う。かのブルース・リーの言葉のようである。「考えるな。感じろ。」