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アクトレス*誉田哲也

  • 2022/05/31(火) 07:07:17


人気女優が発表した小説をなぞるように「事件」が起こる。偶然とは思えないが、誰が何のために模倣したのかは見当もつかない。真相に近づこうとしたとき、ふたたび逃れられない悲劇が彼女たちに忍び寄る……。ドラマ化も話題となった『ボーダレス』に続く最新書下ろし長編!


「ボーダレス」その後、と言った物語だが、本作単独でも何の問題もなく読める。核になる事件そのものは、そこへ行きつくまでの当事者の心理は別として、さほど複雑なものではなく、筋は読めてしまうのだが、事件の核心に至るまでの外堀固めがいささか迂遠で、読者をどこへ連れて行きたいのかがなかなか見えてこなかった。ラストは、なんだかみんなすっかり仲良くなって、ハッピーな感じなので、よかったのだろう。彼女たちが前向きに生きていくことを願ってしまう一冊だった。

フェイクフィクション*誉田哲也

  • 2022/03/26(土) 18:34:19


首なし死体がすべての始まりだった。
警察組織vs悪魔と呼ばれる男vsカルト教団vs元キックボクサー。
囚われた“彼女”の奪還。愛する人を失った者たちの復讐劇――。
疑いなき信仰心に警鐘を鳴らすセンセーショナルな最新長編。

東京・五日市署管内の路上で、男性の首なし死体が発見された。刑事の鵜飼は現場へ急行し、地取り捜査を開始する。死体を司法解剖した結果、死因は頸椎断裂。「斬首」によって殺害されていたことが判明した。一方、プロのキックボクサーだった河野潤平は引退後、都内にある製餡所で従業員として働いていた。ある日、同じ職場に入ってきた有川美祈に一目惚れするが、美祈が新興宗教「サダイの家」に関係していることを知ってしまい……。


著者流のグロテスクな殺人現場はあまり見たくないが、基本的な人間関係は愛にあふれていて――だからこそのストーリー展開でもあるのだが――あたたかい心もちにさせてくれる。とはいえ、一般人にはあまりにも無謀な試みであり、思わず目を閉じたくなる。さらには、刑事と昔の事件とのつながりが明らかになり、警察内部の愚かすぎる腐敗の図式も暴き出され、なんともやりきれない思いにさせられる。ラストに希望の光が見えたのが救いになった。何を信じればいいのか判らなくなりそうな一冊でもあった。

オムニバス*誉田哲也

  • 2021/07/25(日) 07:09:46


警視庁刑事部捜査一課殺人班捜査第十一係姫川班の刑事たち、総登場! 捜査は続く。人の悪意はなくらない。激務の中、事件に挑む玲子の集中力と行動が、被疑者を特定し、読む者の感動を呼ぶ。刑事たちの個性豊かな横顔も楽しい、超人気シリーズ最第10弾!


「それが嫌なら無人島」 「六法全書」 「正しいストーカー殺人」 「赤い靴」 「青い腕」 「根腐れ」 「それって読唇術?」

姫川シリーズ、もう10作目になるのかと感慨深い。他者の目から見た姫川玲子、という視点でも興味深い。ただ、期せずして今回も竹内結子さんのイメージに引きずられて読むことになり、作品とは関係ない別の感慨もある。短編なので、ストーリーひとつひとつは軽めの仕上がりだが、今後につながりそうな要素もあり、期待が膨らむ。今回、姫川との心の距離を縮めた登場人物もいたが、なんにせよ、そこに至るまでに時間がかかりすぎるのである。姫川の壁恐るべし。本人にあまり自覚がないのも一因かもしれないが、それで不自由を感じないのも姫川玲子であろう。次回作が愉しみなシリーズである。

もう、聞こえない*誉田哲也

  • 2021/03/12(金) 07:20:27


「女の人の声が聞こえるんです」。
殺人の罪を認め、素直に聴取に応じていた被疑者が呟いた。
これは要精神鑑定案件か、それともーー。

身元不明の男性が殺害された。
加害者が自ら一一〇番通報し、自首に近い形で逮捕される。
これで、一件落着。
自分の出る幕はない、と警部補・武脇元は思っていたが……。

事件の真相に、あなたは辿り着くことができるか。
伏線に次ぐ伏線が織りなす衝撃のミステリー。


純粋なミステリとは言えないのではないかと思うが、新鮮な切り口で面白かった。初盤は、殺されたみんみと友人のゆったんのエピソードと、編集者の雪美との関係が判らず、どうつながるのかと思っていたら、そうきたか、という感じでつながっていく。警察ものとしては、到底成り立ちそうにない展開なのだが、その捜査が容認された理由にも、そうだったのか、と思わされて、ちょっと嬉しくもなってしまった。雪美と真由、最強コンビではないか。シリーズ化を期待してしまう一冊だった。

妖の華*誉田哲也

  • 2021/01/19(火) 09:12:14


ヒモのヨシキは、ヤクザの恋人に手を出して半殺しにあうところを、妖艶な女性に助られる。同じころ、池袋では獣牙の跡が残る、完全に失血した惨殺体が発見された。その手口は、3年前の暴力団組長連続殺人と酷似していた。事件に関わったとされる女の正体とは?「姫川」シリーズの原点ともなる伝奇小説が復刊。第2回ムー伝奇ノベルス大賞優秀賞受賞作。


知らずに二作目の『妖の掟』を先に読んでしまっていたが、それよりもさらに凄惨な場面が多いような気がした。映像化されても絶対に見たくない種類の物語だが、単なるスプラッタとは全く違う、長きにわたる切なく並々ならない生命の物語が織り込まれているので、紅鈴に心を寄せて読むことができる。究極の選択を繰り返しながら生きながらえている闇神の苦悩を、束の間触れ合う人間たちとの、ほんの些細な幸福な時間が、さらに切なくやるせないものにしている印象である。紅鈴にはしあわせになってほしかったと思わされる一冊だった。

妖の掟*誉田哲也

  • 2020/07/25(土) 07:36:00


人の世の日陰で数百年を共に生きてきた紅鈴と欣治の運命が、ヤクザの抗争によって動きだす。『妖の華』に続く最強ヒロイン登場!


シリーズものと知らず、前作『妖の華』を読まずに本作を読んでしまったが、別に問題なく愉しめた。いろいろと改修されないままの要素もあるにはあるが、それを超える大きな出来事が古来から脈々と続いていて、少しずつ形を変えながら、この後も続いていくのだろうという、何やら背筋がぞくっとするような心地に包まれる。ただ、本作は、紅鈴のほんのひとときの幸福な時間が描かれてもいて、読み終えると、、その寂しさが際立ったように思われる。前作を読めば、さらに前提が理解できそうなので、ぜひ読んでみようと思う。壮絶で幸福で哀しい一冊である。

背中の蜘蛛*誉田哲也

  • 2020/01/24(金) 19:01:56


東京・池袋で男の刺殺体が発見された。捜査にあたる警視庁池袋署刑事課長の本宮はある日、捜査一課長から「あること」に端を発した捜査を頼まれる。それから約半年後―。東京・新木場で爆殺傷事件が発生。再び「あること」により容疑者が浮かぶが、捜査に携わる警視庁組織犯罪対策部の植木は、その唐突な容疑者の浮上に違和感を抱く。そしてもう一人、植木と同じように腑に落ちない思いを抱える警察官がいた。捜査一課の管理官になった本宮だった…。「あること」とは何なのか?池袋と新木場。二つの事件の真相を解き明かすとともに、今、この時代の警察捜査を濃密に描いた驚愕の警察小説。


一般市民には――もっと言えば一般の警察官も――知るよしのない警察の裏側を覗いているようで、わくわくさせられはするが、一方で背筋が寒くなる恐ろしさも持ち合わせている。正義という名の必要悪とどう向き合うか。それと同時に、警察の裏事情に絡めとられた人たちの人生模様にも興味が向かう。なにはともあれ、相手は様々だが、ぎりぎりのところで戦う人びとがひしめく一冊である。

ボーダレス*誉田哲也

  • 2018/12/19(水) 07:30:11

ボーダレス
ボーダレス
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誉田 哲也
光文社
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なんてことのない夏の一日。でもこの日、人生の意味が、確かに変わる。教室の片隅で、密かに小説を書き続けているクラスメイト。事故で失明した妹と、彼女を気遣う姉。音大入試に失敗して目的を見失い、実家の喫茶店を手伝う姉と、彼女との会話を拒む妹。年上の彼女。暴力の気配をまとい、執拗に何者かを追う男。繋がるはずのない縁が繋がったとき、最悪の事態は避けられないところまで来ていた―。


著者の作品で、このタイトルなので、もっと凄惨な場面が多く出てくる物語なのかと思ったが、思ったほどではなかった。とはいえ、登場人物たちが恐ろしい思いをしたことは確かである。初めは、なんの関係もなさそうな四組の物語が交互に語られ、それぞれに興味深いのだが、どうつながっていくのかと思い始めたころ、ドミナンという喫茶店に登場人物たちが偶然に引きき寄せられるように集まってきて、わくわくどきどきする。その後の展開は、ややこじつけ感がなくもないが、それぞれにお互いの大切さを再認識し、きずなを深める結果になったのはよかったと言える。お嬢さまはどうなったのだろう。何気ない日常の一歩先にも、何が待ち構えているかわからない、と思わされる一冊でもあった。

あの夏、二人のルカ*誉田哲也

  • 2018/08/13(月) 16:13:55

あの夏、二人のルカ
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誉田 哲也
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14年前、わたしは親友と歌を失った

名古屋での結婚生活に終止符を打ち、東京・谷中に戻ってきた沢口遥は、【ルーカス・ギタークラフト】という店に興味を持つ。店主の乾滉一はギターの修理だけでなく、日用品の修理もするらしい。滉一との交流の中で、遥は高校時代の夏を思い出していた。
一方、高校生でドラマーの久美子は、クラスメイトの翔子、実悠、瑠香とともにバンドをを始動させる。そこに転校生のヨウが入ってくるのだが、彼女の非凡な才能に久美子は衝撃を受ける。ある日、彼女たちのバンド「RUCAS」にプロデビューの話が持ち上がるが――。


14年前の高校三年生のひと夏と、現在とが交互に語られる。しかも、その視点は同一人物のものではない。初めのうちは、現在と過去がどうつながるのかわからないので、もどかしさ半分、早く知りたい気持ち半分で、あれこれ想像しながら読み進めることになる。途中で、現在を語る人物の謎が解けてからは、あの夏があって、どうしてこの現在があるのかという興味でぐいぐい引っ張られる。最後の最後がこの終わり方でほっとした。未来に光が灯った心地にしてくれた一冊である。

水中翼船炎上中*穂村弘

  • 2018/08/05(日) 20:11:58

水中翼船炎上中
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穂村 弘
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当代きっての人気歌人として短歌の魅力を若い世代に広めるとともに、エッセイ、評論、翻訳、絵本など幅広い分野で活躍する著者が、2001年刊行の第三歌集(『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』)以来、実に17年ぶりに世に送り出す最新歌集。短歌研究賞を受賞した連作「楽しい一日」ほか、昭和から現在へと大きく変容していく世界を独自の言語感覚でとらえた魅力の一冊!


なんと十七年ぶりの歌集なのだそうである。だが、著者の場合、短歌もそのほかの文章も、そこから立ち上ってくる匂いは全くといっていいほど変わらない。ほむほむは、いつでもどこでもなにをしてもほむほむなのである。一首のどこかに、必ず彼自身が潜んでいて、隠し切れない個性を放っているのだ。小学生、中学生時代の穂村少年の後をつけてみたくなる。とても雄弁な一冊だった気がする。

ノーマンズランド*誉田哲也

  • 2018/04/14(土) 07:48:05

ノーマンズランド
ノーマンズランド
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誉田哲也
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またしても同僚の殉職を経験し、心身に疲弊の残る姫川玲子が入ったのは、葛飾署管内で起こった若い女性の殺人事件捜査本部。しかし、事件の背後にはもっと大きな事件が蠢いている気配があった……。あらゆる伝手を辿り、玲子が摑んだ手がかりとは!?


冒頭では、過去の女子高生失踪事件に至るまでの日々と、現在の警察の様子が並行して描かれる。どうつながっていくのか興味を惹かれつつ読み進めると、とんでもない事実が浮かび上がってくる。しかも、別件の捜査に行き詰まり、裏にはなにやら胡乱な動きがあるようなのだ。現在の事件の捜査が、過去の事件とつながり、点が少しずつ線になり、全体像が現れると思いきや、手の届かないところへ行ってしまう。姫川玲子の動向や、元姫川班の面々との関わりにも興味を惹かれる。その暴走ぶりや、男社会では「これだから女は……」と言われかねない不安定さや弱さがそのまま描かれているのも、姫川の魅力のひとつだろう。日下との関係が、これまでにない展開になったのも、今後の愉しみのひとつかもしれない。凄惨な場面は正直言って得意ではないが、このシリーズは読み続けたいと思わせる一冊である。

野良猫を尊敬した日*穂村弘

  • 2017/10/02(月) 16:19:52

野良猫を尊敬した日
野良猫を尊敬した日
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穂村 弘
講談社
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現代を代表する人気歌人であり、評論、エッセイ、絵本、翻訳など幅広い分野で活躍する著者による最新エッセイ集。無邪気になれなかった子供時代、何もなかった青春、そして大人になっても未だ世界とうまく折り合えない日常をユーモアを込めて描く、魅力のエッセイ62篇


相変わらず自意識過剰で、世間とほんの少しずれていて、変わる気があるんだかないんだか、変えたいんだかそのままでいたいんだかさっぱりわからない穂村さんぶりにおかしみがにじみ出ている。今作は、いままで以上に共感する部分が多くて、うれしいのか情けないのか、思わず苦笑が浮かんでしまう。読者としては、意気込むことなく穂村路線をゆるゆる歩んでいただきたいと願う一冊でもある。

増山超能力師大戦争*誉田哲也

  • 2017/07/30(日) 18:22:14

増山超能力師大戦争
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誉田 哲也
文藝春秋
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ここは、超能力が事業認定された日本。いまや超能力関連の科学技術は国家レベルの重大機密情報となっている。そんななか、最先端の技術開発に携わっている人物が行方不明に。本人の意志なのか、はたまた海外の産業スパイによる拉致なのか。「面倒くさい」が口癖の一級超能力師・増山圭太郎が調査を開始すると、所員や家族に魔の手が迫る…。

超能力にまつわる機械を開発していた技術者が行方不明に。増山が調査を始めると、所員や家族に魔の手が……。大好評シリーズ第二弾。


なんだか見事にドラマにやられたようで、ずっとそのイメージで読んでしまった。ドラマの役がはまっていたということかもしれない。
今回は、いろいろな意味で危ない話が多い。命の危険さえ伴う案件だし、超能力師の存在そのものにもかかわる。そして、増山の妻・文乃、さらには娘のアリスのこれからのことにまで、危惧は広がる。また、「めんどくさいなぁ」が口癖の増山の実力を思い知らされる場面もあり、魅力はいや増すのである。増山超能力師事務所のメンバーの個性もあちこちで発揮され、ことに、唯一無能力者の事務員・朋江さんの察しの良さはかっこよすぎて惚れる。次作の主役はアリスだろうか、と心配とともに愉しみなシリーズである。

穂村弘の、こんなところで。*穂村弘 荒木経惟

  • 2016/11/24(木) 07:10:53

穂村弘の、こんなところで。
穂村 弘
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誰よりも輝いているあの人たちに、いまいちどききたい。

輝いている人は、人に見せない“芯” がある。
歌人・穂村弘が贈る、いま最も活躍している41人との刺激的なトークセッション。
写真・題字:荒木経惟


資生堂の花椿に掲載された対談をまとめたものだそうである。さまざまなジャンルで活躍する人たち――雑誌の性格上か女性が多いが――と著者が向き合い、いま訊きたいことを問いかけていくという趣向。第一線で活躍している人たちは、さすがに切り返しがお見事で、それぞれのプロフェッショナル感に感心させられる。著者は今回はインタビュアーという立ち位置なので、エッセイに見られる不思議ちゃん感はずいぶん薄いが、それでも、反応する場所が独特なこともあったりして、穂村ファンにも愉しめる。荒木経惟のモノクロ写真と、それにぶつけたようなカラフルな絵の具が、各人の個性を一瞬で切り取っているようで目を瞠る。隙間時間にも愉しめる一冊だった。

硝子の太陽 Rouge*誉田哲也

  • 2016/09/19(月) 16:38:36

硝子の太陽R-ルージュ
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誉田哲也
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姫川玲子×〈ジウ〉サーガ、衝撃のコラボレーション、慟哭のルージュサイド!

祖師谷で起きた一家連続殺人の捜査本部に加わった姫川班。
有効な手がかりや証言のない難しい捜査だが、捜査一課に復帰して間もない玲子の日々は充実していた。そのはずだった……。
緻密な構成と驚愕の展開、著者渾身の二大ヒットシリーズ競演!


先に読んだ、Noirの事件と複雑に絡まり合い、日米地位協定に阻まれた過去の惨殺事件まで掘り起こしながら、物語は進み、部下を巻き込むまいとする姫川の相変わらずとも言っていい独走もあり、ガンテツとの駆け引きもあり、見せ場がたくさんあってスリリングである。女性であるということをマイナスにとらえるわけでもなく、かと言ってプラスにしきれるわけでもない姫川玲子という個性が、やはりこのシリーズにはなくてはならないと改めて感じさせられる。決して沈着冷静なわけではなく、時にエキセントリックで扱いづらくもあり、危うげでもあるのだが、それでも一度心を決めたときの強さは、誰にも負けない。菊田を始め、周りを固める男性刑事陣も、それぞれ個性的で魅力的である。悲しい結果も招いてしまったが、道筋に光が見えたのも確かである。姫川にはいつまでも闘ってほしいと思う反面、力を抜いて安らげる場ができればと望む思いも強くなるシリーズである。