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パリ警察1768*真梨幸子

  • 2021/04/10(土) 18:38:52


人に潜む闇を、どぎついまでに見せつけ さらに待ち受ける衝撃の結末。 あなたの知らない真実。 革命直前のパリを舞台にした 繊細で大胆なミステリー。


1768年のパリで起きた騒動は、18年前に起きた事件を思い起こさせ、どちらの渦中にも登場するサド侯爵と彼の周りの人々のことが改めて思い起こされる。それらをめぐるあれこれを探る、マレー警部やほかの警察官の出自や育ちにまで物語は及ぶ。現在からは全く想像ができない18世紀のパリの風物も興味深く、眉を顰めたくなるようではあるが、犯罪も、その環境に影響される部分も多くあったのかもしれないと思ったりもする。現代のミステリとは全く別の読み解き方を示された一冊でもあるかもしれない。

スタッキング可能*松田青子

  • 2021/03/26(金) 07:29:10


“あなた”と“私”は入れ替え可能?小さかろうがなんだろうが希望は、希望。


いままで慣れ親しんできた小説とはひと味違うテイストである。表題作では、主人公がすべてアルファベットの匿名で、同じビルの別々の階で働く人々、という設定である。読み始めは、それぞれのつながりを探そうとしていたが、間もなくそれがまったく無駄なことであることに気づかされる。頭の中で映像化してはいけない物語である。読み続けると、なんだかそこにいるのが自分でなくても一向に構わない心地にさせられて、虚しささえ感じ、辛く投げやりな気持ちになる反面、ちょっぴり気が楽になったりもする。表題作以外も、なんというか、とても実験的な印象がある。不思議な読後感の一冊だった。

フシギ*真梨幸子

  • 2021/02/21(日) 18:31:48


作家の私のもとに、死んだはずの担当編集者から不思議なメールが届いた。
意識不明の時に三人の女が“お迎え”に来たというもので、一人目と二人目は亡くなった親族、三人目は誰だか分からないという。
その後、「とんでもない正体が分かった」「三人目の女が、先生のところに現れませんように」という言葉を残して連絡は途切れ……。
三人目の女とは誰なのか? 連続する不審死は、その女が関わっているのか?
とてつもない絶望と衝撃に襲われるラストまでページを捲る手が止まらない、精緻にして大胆な長編ミステリ!


タイトル通り不思議な物語である。時間も空間も何重にも入れ子になっていて、いまここに立っていたと思ったら、いつの間にかまったく別の人物になって、まったく別の時空にいることに気づくような、狐に化かされたような心地に何度もさせられる。不思議極まりない出来事が、この入れ子構造に閉じ込められることによって、さらに不思議さが倍加され、眩暈がしてきそうになる。怖さと不思議さに惑わされながら一気に読み終えた一冊である。

聖女か悪女*真梨幸子

  • 2021/01/22(金) 18:29:14


結婚パーティーの最中、カリスマブロガーの月村珠里亜が倒れ、昏睡状態に。カウンセラーの麻乃紀和は、死んだ息子を陥れた珠里亜に復讐を果たすべく、彼女の身辺を調べ始める。そんな折、四谷の超高級マンションで発見された8体の惨殺死体。紀和が辿り着いたのは、六本木のマンションで8人の子供たちが監禁された“モンキャット事件”だった―


相変わらず厭な話だが、これまでよりも生々しい厭らしさが前面に出ている印象である。直接的な悪意、とでもいうのだろうか。とはいえ、最後の最後で、いままで見ていたものが覆されるのはいつものことで、その後味の悪さも期待通り(?)である。現実にもありそうな話で、思わず眉間にしわが寄ってしまう一冊だった。

あの日、君は何をした*まさきとしか

  • 2020/11/24(火) 07:54:37


北関東の前林市で暮らす主婦の水野いづみ。平凡ながら幸せな彼女の生活は、息子の大樹が連続殺人事件の容疑者に間違われて事故死したことによって、一変する。大樹が深夜に家を抜け出し、自転車に乗っていたのはなぜなのか。十五年後、新宿区で若い女性が殺害され、重要参考人である不倫相手の百井辰彦が行方不明に。無関心な妻の野々子に苛立ちながら、母親の智恵は必死で辰彦を捜し出そうとする。捜査に当たる刑事の三ツ矢は、無関係に見える二つの事件をつなぐ鍵を掴み、衝撃の真実が明らかになる。家族が抱える闇と愛の極致を描く、傑作長編ミステリ。


三分の一ほどを占める第一部では、2004年の連続殺人事件の容疑者脱走に関わる事件が描かれ、第二部では、15年後の2019年に起きた、女性殺害事件の捜査から浮かび上がってくるあれこれが描かれている。担当の三ツ矢刑事は、変わり者と評判だが、15年前の事件にも関りがあり、捜査するうちに、否応なく15年前の事件にかかわるあれこれが立ち上がってきて、わからないことを知りたいという思いに突き動かされる。三ツ矢と組まされた田所岳斗は、自分が頼りにならないふがいなさと、三ツ矢の考えを知りたいという思いとで、三ツ矢に惹きつけられていく印象である。どの出来事も一筋縄ではいかない何かを内包しているように思われ、真実がわからないことにもどかしさが募る。殺人犯に間違われてパトカーに追われたあげくに事故死した水野大樹の真実が見えた、と思ったのも束の間、それもまた幻でしかなく、もどかしさとやり切れなさが消え去ることはなかった。それでなおさら現実のままならなさを思い知らされる。胸の奥をひっかかれたような気分が最後まで残る一冊である。

向こう側の、ヨーコ*真梨幸子

  • 2020/10/30(金) 16:47:29


独身を謳歌する陽子には幼い頃からよく見る夢があった。それは、もう一人の私、かわいそうなヨーコが出てくる夢。一方、夫と子供の世話に追われる陽子は愚痴ばかりこぼす毎日を送っていた。境遇の異なる二人の陽子の人生が絡み合う、イヤミスの傑作!


CHAPTERごとにA面とB面があって、その度に場面が転換する。A面は、独身を謳歌している小説家の陽子。B面は、結婚して子供もいる陽子。こちらは、A面の陽子の夢の中の世界らしいのだが、読み進めるうちに、存在感がものすごくリアルになってきて、どちらが現実なのか夢なのか、頭の中がぐるぐるしてくる。その理由のひとつは、関係性こそ違っているが、登場人物がほぼ同じだということだろう。さらには、関係性が違っても、その人物に対する陽子の感情が似通っているので、さらに境界が曖昧になっているのかもしれない。夢の中のはずの世界で起こったことが現実にも起こったり、どちらがどちらかめまいがしそうでもある。どちらの世界でも、陽子の周りで次々に起こる殺人事件。真犯人は、途中で予測できたが、最後の最後に現実に立ち戻らせてくれたのも、その犯人だったと言える。結局は、すべては自分の身から出たことなのではなかったのか。もどかしく、苛立たしく、厭な気分にさせられる一冊だった(誉め言葉であるのはもちろんだ)。

縄紋*真梨幸子

  • 2020/10/13(火) 16:07:47


フリーの校正者・興梠に届いた自費出版小説『縄紋黙示録』の校正紙。それは“縄「紋」時代”に関する記述から始まる不可思議なものだった。読み進めていくうち、貝塚で発見された人骨など、現在にも繋がる共通点が幾つも現れて…。この著者の正体は誰?『縄紋黙示録』に隠されているメッセージとは。やがて興梠たちの身辺でも異変が起こり始め―。多くの文豪たちが暮らし、今も有名学校が犇めく東京・文京区を舞台に、過去と現代、そして未来が絡み合う驚天動地の大長編。


夫を殺してゴミ置き場に埋め、娘の頭を鍋で煮込んだ殺人犯・五十部靖子(筆名:黒澤セイ)が書いた小説の校正を、興梠が引き受けたところからこの物語は始まる。だが、実は、そのはるか昔に、物語はとっくに始まっていて、あらゆるものが巻きこまれながら、どこまでも延々と繋がっていく印象である。夢か現かも判然とせず、正気なのか狂気なのか、実際に目で見たものなのか幻影なのかも曖昧で、読み進めるごとに頭の中がぐるぐる回るような心地にさせられる。いますぐ先を知りたいような、ある一線から先へ進んではいけないような、恐ろしさも内包している。いま自分が目にしているのが、縄文時代なのか、現在なのか、はたまた遠い未来なのか、読めば読むほど謎が深まり、絡めとられるような一冊だった。

ふたり狂い*真梨幸子

  • 2020/10/07(水) 18:37:29


「自分のことが書かれてる」小説の主人公と同姓同名の男が妄想に囚われ、作家を刺した。それに端を発し起こるデパ地下総菜売場異物混入騒ぎ、企業中傷ネット祭り、郊外マンション連続殺人。事件の陰には意外な“ふたり"の存在が。クレーマー、ストーカー、ヒステリー。私は違うと信じる人を震撼させる、一瞬で狂気に転じた人々の「あるある」ミステリ。


ひとつひとつの物語も、それだけで完結していて、充分不気味で背筋がぞくっとする心地を味わえるのだが、それが、ゆるく繋がり、全体としてひとつの流れの物語としても読めるので、さらに恐ろしさは何倍にも増している。しかも、その恐ろしさは、普通の考え方では御しがたく、一筋縄ではいかない種類のものなので、なんとも言えない不協和音が絶えず響いているような気持の悪さに支配されてしまうのである。なんとも後味の悪い(もちろん誉め言葉である)一冊だった。

デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士*丸山正樹

  • 2020/10/01(木) 16:20:24


今度は私があなたたちの“言葉"をおぼえる 荒井尚人は生活のため手話通訳士に。あるろう者の法廷通訳を引き受け、過去の事件に対峙することに。弱き人々の声なき声が聴こえてくる、感動の社会派ミステリー。 仕事と結婚に失敗した中年男・荒井尚人。今の恋人にも半ば心を閉ざしているが、やがて唯一つの技能を活かして手話通訳士となる。彼は両親がろう者、兄もろう者という家庭で育ち、ただ一人の聴者(ろう者の両親を持つ聴者の子供を"コーダ"という)として家族の「通訳者」であり続けてきたのだ。ろう者の法廷通訳を務めていたら若いボランティア女性が接近してきた。現在と過去、二つの事件の謎が交錯を始め…。マイノリティーの静かな叫びが胸を打つ。衝撃のラスト!


両親と兄がろう者で、家族の中で唯一の聴者である荒井は、ろう者と同じように日本手話を話せる。警察事務官だったころに、そのことを知った刑事に、取り調べの通訳を頼まれたことが、そもそもの始まりだった。その後、警察を敵に回すような行いで退職し、ふとしたきっかけで手話通訳を頼まれることになり、法廷手話通訳士をすることになった。そんな巡りあわせで、警察時代の事件と再び向き合うことになり、段々と深くかかわっていくのである。知らなかったろう者の事情や、手話を含む対話方法のことなどを知ることができるだけでなく、ストーリー自体もミステリ仕立てで、興味深く読める一冊である。

クロク、ヌレ!*真梨幸子

  • 2020/08/15(土) 07:39:45


プールで謎の死を遂げた世界的流行作家“ジョー・コモリ”。かつてやり手だった広告代理店勤務の深田貴代美と、売れっ子プランナーの嶋本ミチルは、プライドを懸けた一世一代の大企画のため、彼の人生を追い始めた―。やがて浮かび上がる無名画家の非業の死!!二人の間に一体何があったのか。


N電気の新製品CMの企画を考えるうちに目を止めた、流行作家ジョー・コモリの死の謎と、彼にまつわる事々に関する調べを進める、貴代美とミチル。一族の厄介者だった自称画家の義兄・岩代章夫の遺作を思いつめたように集め、何事かを成そうとしている岩代久仁枝と、それを手伝う娘の章子。それぞれの目線でそれぞれの物語が語られ、ときどき、もはやこの世の者ではないジョー・コモリの語りが挿みこまれる。それが、ある種の謎解きと言えばそうなのだが、現世の人たちは、それぞれの立場から組み立てたストーリーにしがみつくばかりで、真実になかなか辿り着かないのが、不思議でもどかしい。誰もが何も成し遂げられないままの物語とも言えるのかもしれないと思わされる一冊でもあった。

お引越し*真梨幸子

  • 2020/08/02(日) 16:39:47


引っ越した先は闇の中。マンションの内見、引っ越し前夜の片付け、隣人トラブル…「引っ越し」に潜む“恐怖”を描いた、世にも奇妙な連作短編集。


紹介文にもあるように、「世にも奇妙な物語」で映像化されそうなストーリーばかりである。怖いが、他人事だと思うと覗き見したくなってしまう。そして、普段解説を読まない読者も、騙されずにこの解説は読まなければならない。中古物件に潜む闇と、知ってしまったからこそ、あるいは、知りそうになってしまったからこその恐ろしさが満載の一冊である。

プリンセス・トヨトミ*万城目学

  • 2020/05/19(火) 16:47:13


このことは誰も知らない―四百年の長きにわたる歴史の封印を解いたのは、東京から来た会計検査院の調査官三人と大阪下町育ちの少年少女だった。秘密の扉が開くとき、大阪が全停止する!?万城目ワールド真骨頂、驚天動地のエンターテインメント、ついに始動。特別エッセイ「なんだ坂、こんな坂、ときどき大阪」も巻末収録。


前半は、会計検査院の仕事が描かれていて、お仕事小説か、と思わされる。いつ万城目ワールドに連れて行ってくれるのか、と訝しみ始めるころ、やっとのことで雲行きが怪しく(正しく?)なってきて、そこからはぐんぐん思いもしない方向に物語が進んでいく。だが、荒唐無稽で想像もできない展開か、と聞かれれば、全面的に首肯することができるわけではなく、なんとはなしに、大阪でならあり得るかもしれない、とも思わされてしまう。大阪国民カッコイイ、とエールを送りたくもなってしまう。そしてさらには、会計検査院の面々、松平、鳥居、旭・ゲーンズブールの三人のキャラがそれぞれ立っていて魅力的なのである。それぞれに自分の役割を果たしている感じが、三人らしくていい。登場人物みんなに好感が持てて、愉しい読書タイムをくれる一冊だった。

証明*松本清張

  • 2020/04/15(水) 18:18:28


小説家を目指す夫と、その夫を支えようとする雑誌記者の妻。原稿を採用されない夫の心は次第に荒み、修羅をさまようようになっていく。やり場のない憤懣は、妻への異常な追及へと変わり、次第に狂気へと―。二人の行く末は?「新開地の事件」「密宗律仙教」「留守宅の事件」、男と女の事件四編を収録。


題材の違う四つの物語である。初出は1969年だが、携帯電話などが登場しないだけで、まったく古びていないのが驚きである。ほぼ手直しせずに現代にも通用しそうである。そして、最後に真犯人を追い詰める際の、理路整然とした要素のくみ上げ方や、積み立て方は、さすがとしか言えない緻密さである。若々しい感覚で読める一冊でもある。

坂の上の赤い屋根*真梨幸子

  • 2020/01/15(水) 09:58:42


人格者と評判も高かった夫婦が、身体中を切り刻まれコンクリート詰めにされ埋められた。血を分けた娘と、その恋人によって…。その残虐性から世間を震撼させた『文京区両親強盗殺人事件』から18年後。事件をモチーフにした小説が週刊誌で連載されることになる。そこで明らかになる衝撃の真実とは!?極上のイヤミス長篇。


のどかなタイトルとは裏腹に、凄惨で残酷で、愛情もや救いのかけらもない物語である。この物語の登場人物たちは、どんな人生を生きたくてこんな人格になってしまったのだろうかと、まるで別の次元の生物を見るような心持ちになってしまいそうでさえある。だが、どの人物にも寄り添えないからこそ余計に、その心の動きを追ってみたくなるのか、ページを繰る手はとまらない。最後の最後まで厭な気分のループで終わり、読後は眉間にしわが寄っていること間違いなしである。これぞイヤミスという一冊である。

人間*又吉直樹

  • 2019/12/12(木) 12:15:03


僕達は人間をやるのが下手だ。38歳の誕生日に届いた、ある騒動の報せ。何者かになろうとあがいた季節の果てで、かつての若者達を待ち受けていたものとは?初の長編小説にして代表作、誕生!!


著者が有名人であるがゆえに、どうしてもご本人に重ねて読んでしまいがちではあるが、どの登場人物も当てはまるようでいて当てはまらず、当てはまらないようでいて当てはまってしまうのだ。著者に限らず、作中の人物には多かれ少なかれ作者自身の成分が投影されているということだろう。人間という、ひとくくりにするには厄介すぎる生きものを語るのは至難だと思う。だが、誰もが少なくとも一度は、潜り抜けたであろうと思われる、自分とは何者かという命題について、そして、それを考えたときに頭をよぎるであろう答えに似たものは描かれているように思う。「凡人Aの罪状は、自分の才能を信じていること」というのが、ひとりの人間の中にある矛盾と葛藤をよく言い表していると思う。他人の悩みを見せつけられてイラっとするところもなくはないが、それもまた人間、と思わされる一冊でもあった。