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天国旅行*三浦しをん

  • 2020/07/01(水) 16:32:54


現実に絶望し、道閉ざされたとき、人はどこを目指すのだろうか。すべてを捨てて行き着く果てに、救いはあるのだろうか。富士の樹海で出会った男の導き、命懸けで結ばれた相手へしたためた遺言、前世の縁を信じる女が囚われた黒い夢、一家心中で生き残った男の決意―。出口のない日々に閉じ込められた想いが、生と死の狭間で溶け出していく。すべての心に希望が灯る傑作短編集。


タイトルの軽快さとは裏腹に、「心中」が題材の物語である。ひと口に心中と言っても、そこに辿り着くまでの道筋は、千差万別。心中の数だけわけがあり、心中の数だけ憂いがあり、心中の数だけ葛藤がある。そんな一筋縄ではいかない心中に至る心の闇と、決意してからのあれこれが淡々と描かれている。ただどの物語も、人生に見放されました、ここで終わりにします。などという簡単なものではなく、心中その後があるのがミソなのかもしれない。生きていくとは何かを考えてみたくなる一冊である。

僕はいつも巻きこまれる*水生大海

  • 2020/03/08(日) 13:10:06


大手損保会社に入社した僕―椎名逸斗は立ち寄ったコンビニで暴走車の激突事故に遭遇!一人が死亡、一人が心不全の大惨事。救命処置を行なった僕は、命を救った英雄…のはずが、死亡した被害者が強盗犯だという事実に事態は一変!なぜか共犯者だと疑われネットは炎上、会社は冷遇。窮地の僕は、6年ぶりに再会した元カノの清夏と、無実を証明するため事件の謎に迫る!


偶然が偶然を呼び、さまざまな不運が重なり、椎名はとんでもない事態に巻き込まれることになる。だがそれはほんとうに偶然なのだろうか、あるいは単なる不運なのだろうか。次々に椎名の周りに現れるアクの強すぎる人物たちにも翻弄され、会社の信用問題まで取りざたされるようになり、一体椎名は巻きこまれた厄介事から抜け出すことができるのだろうか、というハラハラドキドキの物語である。何を言っても信じてもらえない焦燥感と、誰を信じていいのか判らなくなる猜疑心にも駆られ、果てには命まで狙われる事態になるとは、物語の冒頭では想像もできなかった。翼が回復しなかったらどうなったのだろうという疑問もなくはないが、まあ納得できる結果にはなったのではないだろうか。椎名の日常をもっと見たいと思わされる一冊ではある。

ランチ探偵 容疑者のレシピ*水生大海

  • 2020/02/19(水) 16:26:55


社宅の闖入者、密室の盗難……オフィス街の事件の犯人は?
大仏ホームのOL・麗子は「トラブルが起こっている」の一言で、ランチの外食を渋る同僚・ゆいかを誘い出すことに成功。
訪れた洋食店には、呪われた社宅に住んでいると悩む男性が……。(「その部屋ではなにも起こらない」)。
閉ざされた美容室での盗難、命を狙われるペットなど、合コ社宅の闖入者、密室の盗難……オフィス街の事件の犯人は?
大仏ホームのOL・麗子は「トラブルがン相手が持ち込む謎にOLコンビが挑む全5話。好評シリーズ第2弾。


ドラマとリンクしている部分があることもあり、ストーリーがわかっているものもあるが、ゆいかと麗子のキャラクタ設定など、ドラマに流されずに楽しめる部分もあって、さらに興味深かった。ゆいかがその場にいないという新展開もあり、それが嬉しいラストにもつながっていくので、ほっとした。次もあってほしいシリーズである。

カエルの小指*道尾秀介

  • 2019/12/31(火) 20:09:38


詐欺師から足を洗い、口の上手さを武器に実演販売士として真っ当に生きる道を選んだ武沢竹夫。しかし謎めいた中学生・キョウが「とんでもない依頼」とともに現れたことで彼の生活は一変する。シビアな現実に生きるキョウを目の当たりにした武沢は、ふたたびペテンの世界に戻ることを決意。そしてかつての仲間―まひろ、やひろ、貫太郎らと再集結し、キョウを救うために「超人気テレビ番組」を巻き込んだド派手な大仕掛けを計画するが…。


『カラスの親指』のタケと仲間たちが再集結して、またひと仕事やらかしてくれる。今回も、タケ(武沢竹夫)が助けた人物が物語が始まるきっかけになる。ある日、助けた女性の娘だという少女・キョウが武沢のもとに現れ、責任を取ってくれと迫る。事情を聴いた武沢は、昔の仲間を集めて仕掛けることにするのである。途中、何度も騙されてはまたひっくり返され、誰が誰をだましているのか、誰が味方でだれが敵なのか、どこまでが本当でどこからが嘘なのか、わけが分からなくなってくるが、騙されるたびに喜んでしまうのはなぜだろう。だが、騙しだまされているときにも、隙間に覗く本心に熱いものが感じられるので、ついつい応援したくなってしまうのである。騙されても騙されてもまだその先があるのが、喜びが尽きないようで期待してしまう。物語としては、いちばん納得できるところに落ち着いたのではないだろうか。嘘をつかずに生きていけるのが、誰にとってもいちばんだろう。文句なく愉しめる一冊だった。

きみの正義は 社労士のヒナコ*水生大海

  • 2019/12/19(木) 11:51:20


私はいったい、誰の味方なの?
社労士を主人公にした、究極のお仕事小説!

派遣社員から一念発起し、社労士の資格をとった朝倉雛子(まもなく28歳)。
小さな社労士事務所の一員となるが、舞い込んでくる案件は難しいものばかり。

・雇用の新ルールで有期雇用から無期雇用へ! それでも辞めさせたい経営者。
・年齢を偽って働いていた未成年の従業員が、就業中に怪我をしてしまった!
・人件費を減らすため、残業代を申請しないチェーン書店の店長。そんなのアリ?
・出張中に上司からセクハラを受けたという社員。しかし証言は食い違い……
・介護問題で時短を望むも、経営者からはアルバイトに戻ることを勧められた!

読んでいるうちにいつにまにか労働問題にも詳しくなれる!
ミステリー風味が効いたお仕事小説の傑作です。


ひよっこ社労士の朝倉雛子は、事務所では相変わらずヒヨコちゃんと呼ばれているが、仕事内容は日々難度が増している。今回も、一筋縄ではいかない案件ばかりである。無自覚な経営者や、我が道を行く経営者、労働者側にも問題が多々あり――と、八方塞がりに見える案件が目白押しだが、ひとつずつ根気よく整理整頓していけば、なんとかなるものである。ただ、そこまで行くまでに、経営者側に立つだけではなく、働く現場の人たちの現状に寄り添い、各人の背景にまで思いを致すヒナコの仕事は、一見無駄が多そうでもあるが、出来得る限り最善の解決策に着地させてしまうところが見事でもある。もう立派にひとり立ちと言っていい。次作にも大いに期待したいシリーズである。

落日*湊かなえ

  • 2019/11/23(土) 12:47:45

落日
落日
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湊 かなえ
角川春樹事務所 (2019-09-02)
売り上げランキング: 6,290

新人脚本家の甲斐千尋は、新進気鋭の映画監督長谷部香から、新作の相談を受けた。『笹塚町一家殺害事件』引きこもりの男性が高校生の妹を自宅で刺殺後、放火して両親も死に至らしめた。15年前に起きた、判決も確定しているこの事件を手がけたいという。笹塚町は千尋の生まれ故郷だった。この事件を、香は何故撮りたいのか。千尋はどう向き合うのか。“真実”とは、“救い”とは、そして、“表現する”ということは。絶望の深淵を見た人々の祈りと再生の物語。


笹塚町一家殺人事件を題材にした映画を企画している映画監督・長谷部香と、脚本を打診された甲斐千尋が主人公である。
笹塚町に縁のある二人、それぞれの視点で、事件にスポットが当てられ、それぞれの家庭の事情とも絡めて、当時の仔細が少しずつ明らかにされていく。割と早い段階からおそらく多くの読者が真相に近いところまで予想できるとは思うが、それをさらに超えるラストだったのではないだろうか。中盤、進みがゆっくりで、急かしたい気分にならなくもなかったが、そのもどかしさも含めて物語の雰囲気を盛り上げていたように思われる。近くにいても気づかないこと、近くだからこそ知ることができないこともあるのだと、思い知らされる気がする一冊でもあった。

さよならの儀式*宮部みゆき

  • 2019/11/15(金) 19:07:56

さよならの儀式
さよならの儀式
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宮部みゆき
河出書房新社
売り上げランキング: 3,963

「母の法律」
虐待を受ける子供とその親を救済する奇蹟の法律「マザー法」。でも、救いきれないものはある。
「戦闘員」
孤独な老人の日常に迫る侵略者の影。覚醒の時が来た。
「わたしとワタシ」
45歳のわたしの前に、中学生のワタシが現れた。「やっぱり、タイムスリップしちゃってる! 」
「さよならの儀式」
長年一緒に暮らしてきたロボットと若い娘の、最後の挨拶。
「星に願いを」
妹が体調を崩したのも、駅の無差別殺傷事件も、みんな「おともだち」のせい?
「聖痕」
調査事務所を訪れた依頼人の話によれば----ネット上で元〈少年A〉は、人間を超えた存在になっていた。
「海神の裔」
明治日本の小さな漁村に、海の向こうから「屍者」のトムさんがやってきた。
「保安官の明日」
パトロール中、保安官の無線が鳴った。「誘拐事件発生です」なぜいつも道を間違ってしまうのか……


いつものようにボリュームのある一冊ではあるが、短編集なので、気軽に読み始められるのは確かである。物語のテイストは、完全にとは言わないが、かなりSFに傾いている。しかも、後半になるほどその度合いが増していくので、SFがあまり得意でないわたしは、個人的には前半の方が面白く読めた。ただ、設定が現実世界と違ってはいるものの、考えさせられる要素が盛り込まれているので、惹きこまれる部分もあるし、一歩間違えば身近にあってもおかしくない話でもあり、複雑な思いにもさせられる。読みやすい一冊ではある。

ひよっこ社労士のヒナコ*水生大海

  • 2019/10/26(土) 12:32:57

ひよっこ社労士のヒナコ
水生 大海
文藝春秋
売り上げランキング: 117,510

パワハラ、産休育休、残業代、裁量労働制、労災、解雇、ブラックバイト…。新米社労士の朝倉雛子(26歳、恋人なし)が、6つの事件を解決。


ひよっこ社労士の朝倉雛子が、さまざまなクライアントのもとへ駆けつけ、各社の問題点を提起し、改善策をアドバイスしながら、人間関係を観察したり、しがらみに絡めとられそうになったりしながらも奮闘し、成長していく物語である。ヒナコの葛藤を、読者も無理なく共有できるので、同じ目線で共感したり憤ったりする愉しみもある。今後の成長も愉しみな一冊である。

いけない*道尾秀介

  • 2019/10/21(月) 07:34:03

いけない
いけない
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道尾 秀介
文藝春秋
売り上げランキング: 2,206

騙されては、いけない。けれど絶対、あなたも騙される。
『向日葵の咲かない夏』の原点に回帰しつつ、驚愕度・完成度を大幅更新する衝撃のミステリー!

第1章「弓投げの崖を見てはいけない」
自殺の名所付近のトンネルで起きた交通事故が、殺人の連鎖を招く。
第2章その話を聞かせてはいけない」
友達のいない少年が目撃した殺人現場は本物か? 偽物か?
第3章「絵の謎に気づいてはいけない」
宗教団体の幹部女性が死体で発見された。先輩刑事は後輩を導き捜査を進めるが。

どの章にも、最後の1ページを捲ると物語ががらりと変貌するトリックが……!
ラストページの後に再読すると物語に隠された〝本当の真相〟が浮かび上がる超絶技巧。
さらに終章「街の平和を信じてはいけない」を読み終えると、これまでの物語すべてがが絡み合い、さらなる〝真実〟に辿り着く大仕掛けが待ち受ける。感戦したくなること必至の、体験型ミステリー小説。


連作短編として読んでも、それぞれに想像を裏切られる展開が盛り込まれているが、長編として読むと、さらに驚きの結末が待っている。ラストを踏まえて思い返せば、あちこちに穴があることに気づくことができるが、初読では全く想像もしていなかった。だが、すんなりすべての仕掛けに気づけたかと言えば、いまだに気づけていないひっかけが潜んでいるのかもしれないという危惧も抱く。どこまで深読みすればいいのか悩ましくもある一冊である。

教室の灯りは謎の色*水生大海

  • 2019/10/07(月) 16:40:50

教室の灯りは謎の色
教室の灯りは謎の色
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水生 大海
KADOKAWA/角川書店 (2016-08-27)
売り上げランキング: 954,112

塾には通いながらも不登校を続ける、高校生の遥。遥には母親が教師をしている学校へ行けない理由があった。ある日、塾の近くのレンタルショップで事件が起き、遥は犯人だと疑われる。窮地を救ってくれたのは、居合わせた塾講師の黒澤だった。寡黙ながら救いの手を差し伸べてくれる黒澤に、遥の心は少しずつ解きほぐされていく。レンタルショップの事件は、遥が不登校になるきっかけとなった出来事にもつながっていき、やがて、黒澤の言葉が彼女の世界を変える――。


言ってみれば、塾講師とその生徒のコンビ探偵物語と言えるだろうか。塾講師の黒澤は、身体に合わないおじさんぽい背広に、実はきれいな顔を隠すようなメガネをかけた、寡黙で一見冷たい先生なのだが、事に当たった際の着眼点と洞察力には、優れたものがある。一方の塾生・遥は、そんな先生を慕って、探偵の助手よろしく、事件にかかわるさまざまな調査を買って出る。それが解決につながることもなくはない。なので、コンビと言っていいかは微妙なところではあるのだが。黒澤の個人の事情に踏み込み過ぎないスタンスは好ましく、遥の一生懸命さも微笑ましい。もっと二人のコンビを見たい一冊である。

ランチ探偵*水生大海

  • 2019/09/30(月) 16:58:25

ランチ探偵 (実業之日本社文庫)
水生大海
実業之日本社 (2016-10-06)
売り上げランキング: 355,700

大仏ホーム経理部のOL・阿久津麗子は、同僚の天野ゆいかを誘ってランチ合コンへ。
恋人に振られたばかりでいい出会いを求める麗子だが、
なぜか男性陣から持ち込まれる話題は、犯人探しや暗号解読ばかり。
深夜に動くエレベーター、金曜日に大量の弁当を購入する美女、ストーカー事件の真犯人、
失踪した新婦が残したメッセージ、アパートの窓に日替わりで現れる動物、消えた結婚指輪。
ミステリマニアのゆいかは、それらの「謎」に興味を示し……。
オフィス街の怪事件に安楽椅子探偵のニューヒロイン・天野ゆいかが挑む!


ランチタイムにセッティングした合コンの場で、話題に出た謎を解き明かすという安楽椅子探偵物語である。話題に出した本人は、解き明かしてもらおうという気などさらさらないのだが、麗子の同僚のゆいかが、そのたびに食いつくのである。でも、結果としてその謎解きで、合コン相手が救われたり、腑に落ちて次に進めるようになったりするので、後味は悪くない。恋人がいつまでも見つからないのは、そのせいなのかどうなのか。こんなちょっとした謎解きがみられるなら、ランチ合コン、いつまでも続いてほしい気もする。次も愉しみな一冊である。

最後のページをめくるまで*水生大海

  • 2019/09/18(水) 16:23:10

最後のページをめくるまで
水生 大海
双葉社
売り上げランキング: 87,951

小説の、最後の最後でおどろきたい方、ぜひどうぞ。「どんでん返し」をテーマに描いたミステリー5編。
「使い勝手のいい女」「わずかばかりの犠牲」「骨になったら」「監督不行き届き」「復讐は神に任せよ」……
どの短編も、ラストで景色が一変します。


割と軽く読めるが、ラストでガラッと視点が変わると、いままで見えていたのとは別の景色が見えてくる。人間の思い込みと、脳のだまされやすさを思い知らされる一冊である。

昨日がなければ明日もない*宮部みゆき

  • 2019/05/04(土) 18:59:15

昨日がなければ明日もない
宮部みゆき
文藝春秋 (2018-11-29)
売り上げランキング: 6,720

杉村三郎vs.“ちょっと困った”女たち。自殺未遂をし消息を絶った主婦、訳ありの家庭の訳ありの新婦、自己中なシングルマザー。『希望荘』以来2年ぶりの杉村シリーズ第5弾!


すっかり探偵になった杉村三郎である。探偵というよりは、ご近所の困りごと解決所のような趣がなくもないが、調査はきっちり――ときには嫌味なくらい――念入りにやっている。自らも屈託を抱えている杉村だが、周囲の人に恵まれ、束縛がなくなったフットワークの軽さと人の好さも手伝って、飢え死にしない程度には依頼も来ている。ただ、同じ理由で、頼まれていないことにまで首を突っ込み、厄介事を解きほぐそうとしてしまうのが、良いところとも言えるし、玉に瑕ともいえるかもしれない。依頼人や調査対象者たちの常識はずれな困ったちゃんぶりには開いた口が塞がらないが、現実には往々にして、こんな理不尽が横行しているものかもしれない。厄介事は解決しても、胸のもやもやがすっきりとは晴れないシリーズではある。

あやかし草子 三島屋変調百物語 伍之続*宮部みゆき

  • 2019/03/07(木) 07:53:48

あやかし草紙 三島屋変調百物語伍之続
宮部 みゆき
KADOKAWA (2018-04-27)
売り上げランキング: 24,452

人間の愚かさ、残酷さ、哀しみ、業――これぞ江戸怪談の最高峰!

江戸は神田の筋違御門先にある袋物屋の三島屋で、風変わりな百物語を続けるおちか。 塩断ちが元凶で行き逢い神を呼び込んでしまい、家族が次々と不幸に見舞われる「開けずの間」。 亡者を起こすという“もんも声”を持った女中が、大名家のもの言わぬ姫の付き人になってその理由を突き止める「だんまり姫」。屋敷の奥に封じられた面の監視役として雇われた女中の告白「面の家」。百両という破格で写本を請け負った男の数奇な運命が語られる表題作に、三島屋の長男・伊一郎が幼い頃に遭遇した椿事「金目の猫」を加えた選りぬき珠玉の全五篇。人の弱さ苦しさに寄り添い、心の澱を浄め流す極上の物語、シリーズ第一期完結篇!


565ページというボリュームだが、読み始めてしまえば、あっという間にのめり込んでしまう。ただ、重い。連作でありながら、全体としてひとつの物語になっているので、黒白の間での語りが聴き手のおちかたちに及ぼす影響が、後の一歩につながっていくのが目に見えて興味深い。本作では、三島屋関連のさまざまなことがほどけ、明日につながる礎になったように思う。惹きこまれる読書タイムを味わえる一冊である。

作りかけの明日*三崎亜記

  • 2019/02/14(木) 16:45:12

作りかけの明日
作りかけの明日
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三崎亜記
祥伝社
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ともに生きよう。
たとえ世界が終わるとしても。
十年前の実験失敗の影響で、終末思想が蔓延する街。
運命の日へのカウントダウンが続く中、 大切な人との愛しい日々を守ろうとする人々を描く。

十年前、地下プラントで、ある実験が失敗、世界を滅ぼしうる物質を生み出してしまう。
漏出は食い止めたものの、そのとき壁に謎の数字が浮上、日々、数を減じるそれは、世界が終わるまでのカウントダウンと噂されるようになった。
やがて数字がゼロに近づき、街に終末思想が蔓延しながらも、住民は家族や愛する人との平穏な日々を送っていた。
一方、実験に関わった二つの組織、「供給公社」と「管理局」は再び漏出の危機が高まった物質を鎮静化させるため、鍵となる人物・ハルカを奪い合い、対立を深めていた。
その争いに、愛しい日々を守りたいと願う人々も加わって……。


本作も、三崎ワールド全開である。今回は、人の思念を操るということが題材になっている。現実にあったら恐ろしいことだが、物語中でもその恐ろしさは、十二分に伝わってくる。無意識に操られる世界には、なんの希望もなさそうに思えるが、著者の物語には必ず誰かに希望の鍵が託されている。託された者たちがそれに気づき、破滅を免れるために心を合わせればこそ、世界は平穏と安定を取り戻し、未来への希望をつなぐことができるのかもしれない。世界観に浸り込めさえすれば、ぐいぐいと惹きこまれていく一冊だと思う。