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落日*湊かなえ

  • 2019/11/23(土) 12:47:45

落日
落日
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湊 かなえ
角川春樹事務所 (2019-09-02)
売り上げランキング: 6,290

新人脚本家の甲斐千尋は、新進気鋭の映画監督長谷部香から、新作の相談を受けた。『笹塚町一家殺害事件』引きこもりの男性が高校生の妹を自宅で刺殺後、放火して両親も死に至らしめた。15年前に起きた、判決も確定しているこの事件を手がけたいという。笹塚町は千尋の生まれ故郷だった。この事件を、香は何故撮りたいのか。千尋はどう向き合うのか。“真実”とは、“救い”とは、そして、“表現する”ということは。絶望の深淵を見た人々の祈りと再生の物語。


笹塚町一家殺人事件を題材にした映画を企画している映画監督・長谷部香と、脚本を打診された甲斐千尋が主人公である。
笹塚町に縁のある二人、それぞれの視点で、事件にスポットが当てられ、それぞれの家庭の事情とも絡めて、当時の仔細が少しずつ明らかにされていく。割と早い段階からおそらく多くの読者が真相に近いところまで予想できるとは思うが、それをさらに超えるラストだったのではないだろうか。中盤、進みがゆっくりで、急かしたい気分にならなくもなかったが、そのもどかしさも含めて物語の雰囲気を盛り上げていたように思われる。近くにいても気づかないこと、近くだからこそ知ることができないこともあるのだと、思い知らされる気がする一冊でもあった。

さよならの儀式*宮部みゆき

  • 2019/11/15(金) 19:07:56

さよならの儀式
さよならの儀式
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宮部みゆき
河出書房新社
売り上げランキング: 3,963

「母の法律」
虐待を受ける子供とその親を救済する奇蹟の法律「マザー法」。でも、救いきれないものはある。
「戦闘員」
孤独な老人の日常に迫る侵略者の影。覚醒の時が来た。
「わたしとワタシ」
45歳のわたしの前に、中学生のワタシが現れた。「やっぱり、タイムスリップしちゃってる! 」
「さよならの儀式」
長年一緒に暮らしてきたロボットと若い娘の、最後の挨拶。
「星に願いを」
妹が体調を崩したのも、駅の無差別殺傷事件も、みんな「おともだち」のせい?
「聖痕」
調査事務所を訪れた依頼人の話によれば----ネット上で元〈少年A〉は、人間を超えた存在になっていた。
「海神の裔」
明治日本の小さな漁村に、海の向こうから「屍者」のトムさんがやってきた。
「保安官の明日」
パトロール中、保安官の無線が鳴った。「誘拐事件発生です」なぜいつも道を間違ってしまうのか……


いつものようにボリュームのある一冊ではあるが、短編集なので、気軽に読み始められるのは確かである。物語のテイストは、完全にとは言わないが、かなりSFに傾いている。しかも、後半になるほどその度合いが増していくので、SFがあまり得意でないわたしは、個人的には前半の方が面白く読めた。ただ、設定が現実世界と違ってはいるものの、考えさせられる要素が盛り込まれているので、惹きこまれる部分もあるし、一歩間違えば身近にあってもおかしくない話でもあり、複雑な思いにもさせられる。読みやすい一冊ではある。

ひよっこ社労士のヒナコ*水生大海

  • 2019/10/26(土) 12:32:57

ひよっこ社労士のヒナコ
水生 大海
文藝春秋
売り上げランキング: 117,510

パワハラ、産休育休、残業代、裁量労働制、労災、解雇、ブラックバイト…。新米社労士の朝倉雛子(26歳、恋人なし)が、6つの事件を解決。


ひよっこ社労士の朝倉雛子が、さまざまなクライアントのもとへ駆けつけ、各社の問題点を提起し、改善策をアドバイスしながら、人間関係を観察したり、しがらみに絡めとられそうになったりしながらも奮闘し、成長していく物語である。ヒナコの葛藤を、読者も無理なく共有できるので、同じ目線で共感したり憤ったりする愉しみもある。今後の成長も愉しみな一冊である。

いけない*道尾秀介

  • 2019/10/21(月) 07:34:03

いけない
いけない
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道尾 秀介
文藝春秋
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騙されては、いけない。けれど絶対、あなたも騙される。
『向日葵の咲かない夏』の原点に回帰しつつ、驚愕度・完成度を大幅更新する衝撃のミステリー!

第1章「弓投げの崖を見てはいけない」
自殺の名所付近のトンネルで起きた交通事故が、殺人の連鎖を招く。
第2章その話を聞かせてはいけない」
友達のいない少年が目撃した殺人現場は本物か? 偽物か?
第3章「絵の謎に気づいてはいけない」
宗教団体の幹部女性が死体で発見された。先輩刑事は後輩を導き捜査を進めるが。

どの章にも、最後の1ページを捲ると物語ががらりと変貌するトリックが……!
ラストページの後に再読すると物語に隠された〝本当の真相〟が浮かび上がる超絶技巧。
さらに終章「街の平和を信じてはいけない」を読み終えると、これまでの物語すべてがが絡み合い、さらなる〝真実〟に辿り着く大仕掛けが待ち受ける。感戦したくなること必至の、体験型ミステリー小説。


連作短編として読んでも、それぞれに想像を裏切られる展開が盛り込まれているが、長編として読むと、さらに驚きの結末が待っている。ラストを踏まえて思い返せば、あちこちに穴があることに気づくことができるが、初読では全く想像もしていなかった。だが、すんなりすべての仕掛けに気づけたかと言えば、いまだに気づけていないひっかけが潜んでいるのかもしれないという危惧も抱く。どこまで深読みすればいいのか悩ましくもある一冊である。

教室の灯りは謎の色*水生大海

  • 2019/10/07(月) 16:40:50

教室の灯りは謎の色
教室の灯りは謎の色
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水生 大海
KADOKAWA/角川書店 (2016-08-27)
売り上げランキング: 954,112

塾には通いながらも不登校を続ける、高校生の遥。遥には母親が教師をしている学校へ行けない理由があった。ある日、塾の近くのレンタルショップで事件が起き、遥は犯人だと疑われる。窮地を救ってくれたのは、居合わせた塾講師の黒澤だった。寡黙ながら救いの手を差し伸べてくれる黒澤に、遥の心は少しずつ解きほぐされていく。レンタルショップの事件は、遥が不登校になるきっかけとなった出来事にもつながっていき、やがて、黒澤の言葉が彼女の世界を変える――。


言ってみれば、塾講師とその生徒のコンビ探偵物語と言えるだろうか。塾講師の黒澤は、身体に合わないおじさんぽい背広に、実はきれいな顔を隠すようなメガネをかけた、寡黙で一見冷たい先生なのだが、事に当たった際の着眼点と洞察力には、優れたものがある。一方の塾生・遥は、そんな先生を慕って、探偵の助手よろしく、事件にかかわるさまざまな調査を買って出る。それが解決につながることもなくはない。なので、コンビと言っていいかは微妙なところではあるのだが。黒澤の個人の事情に踏み込み過ぎないスタンスは好ましく、遥の一生懸命さも微笑ましい。もっと二人のコンビを見たい一冊である。

ランチ探偵*水生大海

  • 2019/09/30(月) 16:58:25

ランチ探偵 (実業之日本社文庫)
水生大海
実業之日本社 (2016-10-06)
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大仏ホーム経理部のOL・阿久津麗子は、同僚の天野ゆいかを誘ってランチ合コンへ。
恋人に振られたばかりでいい出会いを求める麗子だが、
なぜか男性陣から持ち込まれる話題は、犯人探しや暗号解読ばかり。
深夜に動くエレベーター、金曜日に大量の弁当を購入する美女、ストーカー事件の真犯人、
失踪した新婦が残したメッセージ、アパートの窓に日替わりで現れる動物、消えた結婚指輪。
ミステリマニアのゆいかは、それらの「謎」に興味を示し……。
オフィス街の怪事件に安楽椅子探偵のニューヒロイン・天野ゆいかが挑む!


ランチタイムにセッティングした合コンの場で、話題に出た謎を解き明かすという安楽椅子探偵物語である。話題に出した本人は、解き明かしてもらおうという気などさらさらないのだが、麗子の同僚のゆいかが、そのたびに食いつくのである。でも、結果としてその謎解きで、合コン相手が救われたり、腑に落ちて次に進めるようになったりするので、後味は悪くない。恋人がいつまでも見つからないのは、そのせいなのかどうなのか。こんなちょっとした謎解きがみられるなら、ランチ合コン、いつまでも続いてほしい気もする。次も愉しみな一冊である。

最後のページをめくるまで*水生大海

  • 2019/09/18(水) 16:23:10

最後のページをめくるまで
水生 大海
双葉社
売り上げランキング: 87,951

小説の、最後の最後でおどろきたい方、ぜひどうぞ。「どんでん返し」をテーマに描いたミステリー5編。
「使い勝手のいい女」「わずかばかりの犠牲」「骨になったら」「監督不行き届き」「復讐は神に任せよ」……
どの短編も、ラストで景色が一変します。


割と軽く読めるが、ラストでガラッと視点が変わると、いままで見えていたのとは別の景色が見えてくる。人間の思い込みと、脳のだまされやすさを思い知らされる一冊である。

昨日がなければ明日もない*宮部みゆき

  • 2019/05/04(土) 18:59:15

昨日がなければ明日もない
宮部みゆき
文藝春秋 (2018-11-29)
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杉村三郎vs.“ちょっと困った”女たち。自殺未遂をし消息を絶った主婦、訳ありの家庭の訳ありの新婦、自己中なシングルマザー。『希望荘』以来2年ぶりの杉村シリーズ第5弾!


すっかり探偵になった杉村三郎である。探偵というよりは、ご近所の困りごと解決所のような趣がなくもないが、調査はきっちり――ときには嫌味なくらい――念入りにやっている。自らも屈託を抱えている杉村だが、周囲の人に恵まれ、束縛がなくなったフットワークの軽さと人の好さも手伝って、飢え死にしない程度には依頼も来ている。ただ、同じ理由で、頼まれていないことにまで首を突っ込み、厄介事を解きほぐそうとしてしまうのが、良いところとも言えるし、玉に瑕ともいえるかもしれない。依頼人や調査対象者たちの常識はずれな困ったちゃんぶりには開いた口が塞がらないが、現実には往々にして、こんな理不尽が横行しているものかもしれない。厄介事は解決しても、胸のもやもやがすっきりとは晴れないシリーズではある。

あやかし草子 三島屋変調百物語 伍之続*宮部みゆき

  • 2019/03/07(木) 07:53:48

あやかし草紙 三島屋変調百物語伍之続
宮部 みゆき
KADOKAWA (2018-04-27)
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人間の愚かさ、残酷さ、哀しみ、業――これぞ江戸怪談の最高峰!

江戸は神田の筋違御門先にある袋物屋の三島屋で、風変わりな百物語を続けるおちか。 塩断ちが元凶で行き逢い神を呼び込んでしまい、家族が次々と不幸に見舞われる「開けずの間」。 亡者を起こすという“もんも声”を持った女中が、大名家のもの言わぬ姫の付き人になってその理由を突き止める「だんまり姫」。屋敷の奥に封じられた面の監視役として雇われた女中の告白「面の家」。百両という破格で写本を請け負った男の数奇な運命が語られる表題作に、三島屋の長男・伊一郎が幼い頃に遭遇した椿事「金目の猫」を加えた選りぬき珠玉の全五篇。人の弱さ苦しさに寄り添い、心の澱を浄め流す極上の物語、シリーズ第一期完結篇!


565ページというボリュームだが、読み始めてしまえば、あっという間にのめり込んでしまう。ただ、重い。連作でありながら、全体としてひとつの物語になっているので、黒白の間での語りが聴き手のおちかたちに及ぼす影響が、後の一歩につながっていくのが目に見えて興味深い。本作では、三島屋関連のさまざまなことがほどけ、明日につながる礎になったように思う。惹きこまれる読書タイムを味わえる一冊である。

作りかけの明日*三崎亜記

  • 2019/02/14(木) 16:45:12

作りかけの明日
作りかけの明日
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三崎亜記
祥伝社
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ともに生きよう。
たとえ世界が終わるとしても。
十年前の実験失敗の影響で、終末思想が蔓延する街。
運命の日へのカウントダウンが続く中、 大切な人との愛しい日々を守ろうとする人々を描く。

十年前、地下プラントで、ある実験が失敗、世界を滅ぼしうる物質を生み出してしまう。
漏出は食い止めたものの、そのとき壁に謎の数字が浮上、日々、数を減じるそれは、世界が終わるまでのカウントダウンと噂されるようになった。
やがて数字がゼロに近づき、街に終末思想が蔓延しながらも、住民は家族や愛する人との平穏な日々を送っていた。
一方、実験に関わった二つの組織、「供給公社」と「管理局」は再び漏出の危機が高まった物質を鎮静化させるため、鍵となる人物・ハルカを奪い合い、対立を深めていた。
その争いに、愛しい日々を守りたいと願う人々も加わって……。


本作も、三崎ワールド全開である。今回は、人の思念を操るということが題材になっている。現実にあったら恐ろしいことだが、物語中でもその恐ろしさは、十二分に伝わってくる。無意識に操られる世界には、なんの希望もなさそうに思えるが、著者の物語には必ず誰かに希望の鍵が託されている。託された者たちがそれに気づき、破滅を免れるために心を合わせればこそ、世界は平穏と安定を取り戻し、未来への希望をつなぐことができるのかもしれない。世界観に浸り込めさえすれば、ぐいぐいと惹きこまれていく一冊だと思う。

ブロードキャスト*湊かなえ

  • 2018/12/28(金) 16:54:05

ブロードキャスト
ブロードキャスト
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湊 かなえ
KADOKAWA (2018-08-23)
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町田圭祐は中学時代、陸上部に所属し、駅伝で全国大会を目指していたが、3年生の最後の県大会、わずかの差で出場を逃してしまう。その後、陸上の強豪校、青海学院高校に入学した圭祐だったが、ある理由から陸上部に入ることを諦め、同じ中学出身の正也から誘われてなんとなく放送部に入部することに。陸上への未練を感じつつも、正也や同級生の咲楽、先輩女子たちの熱意に触れながら、その面白さに目覚めていく。目標はラジオドラマ部門で全国高校放送コンテストに参加することだったが、制作の方向性を巡って部内で対立が勃発してしまう。果たして圭祐は、新たな「夢」を見つけられるか―。


なんと学園ドラマである。陸上部の描写という、タイトルから想像したのとは全く違う始まり方をしたが、信じがたい出来事のせいで、タイトルの流れに戻ってきた。圭祐は、正也に放送部に誘われなければ、ひき逃げ事故で足を怪我するという自分の不運を呪い続け、高校三年間ずっと立ち直れなかったかもしれないと思うと、中学時代から圭祐の声の良さに目をつけてくれていた正也には、いくら感謝してもし足りないかもしれない。放送部という、一見地味な文化部の実際の活動を知ることができたのも興味深い。みんな、それぞれの場所で熱意をもって日々を過ごしているのだと、改めてじんとする。熱意を持ち続けて、若者たち、と思わず応援したくなる一冊でもある。

ビブリア古書堂の事件手帖~扉子と不思議な客人たち~*三上延

  • 2018/12/16(日) 19:03:50


ある夫婦が営む古書店がある。鎌倉の片隅にひっそりと佇む「ビブリア古書堂」。その店主は古本屋のイメージに合わない、きれいな女性だ。そしてその傍らには、女店主にそっくりな少女の姿があった―。女店主は少女へ、静かに語り聞かせる。一冊の古書から紐解かれる不思議な客人たちの話を。古い本に詰まっている、絆と秘密の物語を。人から人へと受け継がれる本の記憶。その扉が今再び開かれる。


栞子さんと大輔くんが結婚し、生まれた子ども・扉子が6歳の時のお話である。外見は母親似だが、はきはきしていて、本が大好き。でも、人とかかわるのは少々苦手のようである。そんな扉子が興味を持った過去の出来事を、栞子が話して聞かせるという趣向の本作である。これまで出てきたさまざまな事件を、別の角度から眺めているような感もあり、なるほどそうだったのか、と思わせられることもある。扉子にとっては、面白かったり面白くなかったりそれぞれのようだが、いまのところまだ何を思っているのかはよくわからない。これからどんな風に育っていくのか、栞子の才能を受け継いでいくのか、ますます愉しみなシリーズである。

ののはな通信*三浦しをん

  • 2018/12/12(水) 18:59:01

ののはな通信
ののはな通信
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三浦 しをん
KADOKAWA (2018-05-26)
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最高に甘美で残酷な女子大河小説の最高峰。三浦しをん、小説最新作。

横浜で、ミッション系のお嬢様学校に通う、野々原茜(のの)と牧田はな。
庶民的な家庭で育ち、頭脳明晰、クールで毒舌なののと、
外交官の家に生まれ、天真爛漫で甘え上手のはな。
二人はなぜか気が合い、かけがえのない親友同士となる。
しかし、ののには秘密があった。いつしかはなに抱いた、友情以上の気持ち。
それを強烈に自覚し、ののは玉砕覚悟ではなに告白する。
不器用にはじまった、密やかな恋。
けれどある裏切りによって、少女たちの楽園は、音を立てて崩れはじめ……。

運命の恋を経て、少女たちは大人になる。
女子の生き方を描いた傑作小説。


昭和59年、ののとはなのミッション系の女子高時代の手紙やメモのやり取りから始まる往復書簡形式の物語である。文章のやり取りだけで、彼女たちの日々がくっきりと浮かび上がってくるのは不思議な感覚である。女子高独特の人間関係や異性間、そこにはまり切れない彼女たちの甘酸っぱく秘めやかな思いの数々。強いようで傷つきやすい少女時代の心と身体。そんなあれこれが、赤裸々につづられていく。そして別れ。大人になった彼女たちの立場や生き方はそれぞれでも、少女時代に共有した時間と感情は、何物にも代えがたいものだったのである。まさに、お互いにお互いを作りあった印象である。キラキラふわふわとした少女時代はそれとして、大人になるということは、わが身だけでなく、周囲の状況や、もっと広く世界の状況にも思いを致さなければならなくなるということでもあるだろう。心の芯に持った誇りに恥じない生き方ができる人はそう多くはないと思うが、自分で考えることを辞めなかった彼女たちなら、きっと毅然と生きていくことだろう。はなの消息も心配だが、信じるしかない。さまざまな要素がぎゅうっと詰まった一冊だった。

30センチの冒険*三崎亜紀

  • 2018/12/02(日) 07:27:41

30センチの冒険
30センチの冒険
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三崎 亜記
文藝春秋
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僕が迷い込んだのは、「大地の秩序」が乱れた世界――
三崎亜記のすべてが詰まった傑作ファンタジー!

故郷に帰るバスに乗ったユーリが迷い込んだのは、
遠近の概念が狂った世界だった。
ここでは、目の前に見えるものがそばにあるとは限らず、
屋外に出ればたちまち道に迷ってしまう。
街の人々に教えられ、ユーリはこの世界のことを少しずつ知っていく。

私生活のすべてを犠牲にして、この世界の道筋を記憶する女性「ネハリ」。
不死の「渡来人」。砂漠の先にある「分断線」。
人間と決別し、野生に戻った本たちと「本を統べる者」。
そして、通り過ぎる街の人々を連れ去っていく「鼓笛隊」。

全滅の危機に瀕した街のために、ユーリは立ち上がる。
この世界にあるはずのない「30センチのものさし」を持って。


時空を超えた冒険物語である。ここと、どこかとの境は、ものすごく曖昧で、さまざまな要素が重なり合わないと超えることができないようだが、選ばれ、運命づけられ、時間も空間もあっさり超えて、宿命を果たすために行き来することがある。現実に戻ってみれば、すべてが夢物語のようだが、実際のところはどうなのだろう。不思議な夢をみた夜は、もしかすると本当にその世界へ行っているのかもしれない。なんて思ってしまう一冊だった。

愛なき世界*三浦しをん

  • 2018/11/15(木) 07:54:39

愛なき世界 (単行本)
愛なき世界 (単行本)
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三浦 しをん
中央公論新社
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恋のライバルが人間だとは限らない!
洋食屋の青年・藤丸が慕うのは〝植物〟の研究に一途な大学院生・本村さん。殺し屋のごとき風貌の教授やイモを愛する老教授、サボテンを栽培しまくる「緑の手」をもつ同級生など、個性の強い大学の仲間たちがひしめき合い、植物と人間たちが豊かに交差する――
本村さんに恋をして、どんどん植物の世界に分け入る藤丸青年。小さな生きものたちの姿に、人間の心の不思議もあふれ出し……風変りな理系の人々とお料理男子が紡ぐ、美味しくて温かな青春小説。


植物の研究をしている、大学の研究室が主な舞台なので、専門的な用語や描写が多数登場する。苦手分野なのだが、そんなことを忘れさせるほど、物語の世界に吸い込まれていく心地になる。この一冊のなかには、さまざまな愛が詰まっている。もちろん恋愛もあるのだが、それだけではなく、料理や食材に対する愛、師弟間の愛や、同僚たちに対する愛、そして研究対象である植物へのとめどない愛。読むごとに満たされていく感覚に包まれる。タイトルとは裏腹に、温かな愛にあふれた一冊である。