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あやかし草子 三島屋変調百物語 伍之続*宮部みゆき

  • 2019/03/07(木) 07:53:48

あやかし草紙 三島屋変調百物語伍之続
宮部 みゆき
KADOKAWA (2018-04-27)
売り上げランキング: 24,452

人間の愚かさ、残酷さ、哀しみ、業――これぞ江戸怪談の最高峰!

江戸は神田の筋違御門先にある袋物屋の三島屋で、風変わりな百物語を続けるおちか。 塩断ちが元凶で行き逢い神を呼び込んでしまい、家族が次々と不幸に見舞われる「開けずの間」。 亡者を起こすという“もんも声”を持った女中が、大名家のもの言わぬ姫の付き人になってその理由を突き止める「だんまり姫」。屋敷の奥に封じられた面の監視役として雇われた女中の告白「面の家」。百両という破格で写本を請け負った男の数奇な運命が語られる表題作に、三島屋の長男・伊一郎が幼い頃に遭遇した椿事「金目の猫」を加えた選りぬき珠玉の全五篇。人の弱さ苦しさに寄り添い、心の澱を浄め流す極上の物語、シリーズ第一期完結篇!


565ページというボリュームだが、読み始めてしまえば、あっという間にのめり込んでしまう。ただ、重い。連作でありながら、全体としてひとつの物語になっているので、黒白の間での語りが聴き手のおちかたちに及ぼす影響が、後の一歩につながっていくのが目に見えて興味深い。本作では、三島屋関連のさまざまなことがほどけ、明日につながる礎になったように思う。惹きこまれる読書タイムを味わえる一冊である。

作りかけの明日*三崎亜記

  • 2019/02/14(木) 16:45:12

作りかけの明日
作りかけの明日
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三崎亜記
祥伝社
売り上げランキング: 117,149

ともに生きよう。
たとえ世界が終わるとしても。
十年前の実験失敗の影響で、終末思想が蔓延する街。
運命の日へのカウントダウンが続く中、 大切な人との愛しい日々を守ろうとする人々を描く。

十年前、地下プラントで、ある実験が失敗、世界を滅ぼしうる物質を生み出してしまう。
漏出は食い止めたものの、そのとき壁に謎の数字が浮上、日々、数を減じるそれは、世界が終わるまでのカウントダウンと噂されるようになった。
やがて数字がゼロに近づき、街に終末思想が蔓延しながらも、住民は家族や愛する人との平穏な日々を送っていた。
一方、実験に関わった二つの組織、「供給公社」と「管理局」は再び漏出の危機が高まった物質を鎮静化させるため、鍵となる人物・ハルカを奪い合い、対立を深めていた。
その争いに、愛しい日々を守りたいと願う人々も加わって……。


本作も、三崎ワールド全開である。今回は、人の思念を操るということが題材になっている。現実にあったら恐ろしいことだが、物語中でもその恐ろしさは、十二分に伝わってくる。無意識に操られる世界には、なんの希望もなさそうに思えるが、著者の物語には必ず誰かに希望の鍵が託されている。託された者たちがそれに気づき、破滅を免れるために心を合わせればこそ、世界は平穏と安定を取り戻し、未来への希望をつなぐことができるのかもしれない。世界観に浸り込めさえすれば、ぐいぐいと惹きこまれていく一冊だと思う。

ブロードキャスト*湊かなえ

  • 2018/12/28(金) 16:54:05

ブロードキャスト
ブロードキャスト
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湊 かなえ
KADOKAWA (2018-08-23)
売り上げランキング: 5,965

町田圭祐は中学時代、陸上部に所属し、駅伝で全国大会を目指していたが、3年生の最後の県大会、わずかの差で出場を逃してしまう。その後、陸上の強豪校、青海学院高校に入学した圭祐だったが、ある理由から陸上部に入ることを諦め、同じ中学出身の正也から誘われてなんとなく放送部に入部することに。陸上への未練を感じつつも、正也や同級生の咲楽、先輩女子たちの熱意に触れながら、その面白さに目覚めていく。目標はラジオドラマ部門で全国高校放送コンテストに参加することだったが、制作の方向性を巡って部内で対立が勃発してしまう。果たして圭祐は、新たな「夢」を見つけられるか―。


なんと学園ドラマである。陸上部の描写という、タイトルから想像したのとは全く違う始まり方をしたが、信じがたい出来事のせいで、タイトルの流れに戻ってきた。圭祐は、正也に放送部に誘われなければ、ひき逃げ事故で足を怪我するという自分の不運を呪い続け、高校三年間ずっと立ち直れなかったかもしれないと思うと、中学時代から圭祐の声の良さに目をつけてくれていた正也には、いくら感謝してもし足りないかもしれない。放送部という、一見地味な文化部の実際の活動を知ることができたのも興味深い。みんな、それぞれの場所で熱意をもって日々を過ごしているのだと、改めてじんとする。熱意を持ち続けて、若者たち、と思わず応援したくなる一冊でもある。

ビブリア古書堂の事件手帖~扉子と不思議な客人たち~*三上延

  • 2018/12/16(日) 19:03:50


ある夫婦が営む古書店がある。鎌倉の片隅にひっそりと佇む「ビブリア古書堂」。その店主は古本屋のイメージに合わない、きれいな女性だ。そしてその傍らには、女店主にそっくりな少女の姿があった―。女店主は少女へ、静かに語り聞かせる。一冊の古書から紐解かれる不思議な客人たちの話を。古い本に詰まっている、絆と秘密の物語を。人から人へと受け継がれる本の記憶。その扉が今再び開かれる。


栞子さんと大輔くんが結婚し、生まれた子ども・扉子が6歳の時のお話である。外見は母親似だが、はきはきしていて、本が大好き。でも、人とかかわるのは少々苦手のようである。そんな扉子が興味を持った過去の出来事を、栞子が話して聞かせるという趣向の本作である。これまで出てきたさまざまな事件を、別の角度から眺めているような感もあり、なるほどそうだったのか、と思わせられることもある。扉子にとっては、面白かったり面白くなかったりそれぞれのようだが、いまのところまだ何を思っているのかはよくわからない。これからどんな風に育っていくのか、栞子の才能を受け継いでいくのか、ますます愉しみなシリーズである。

ののはな通信*三浦しをん

  • 2018/12/12(水) 18:59:01

ののはな通信
ののはな通信
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三浦 しをん
KADOKAWA (2018-05-26)
売り上げランキング: 15,776

最高に甘美で残酷な女子大河小説の最高峰。三浦しをん、小説最新作。

横浜で、ミッション系のお嬢様学校に通う、野々原茜(のの)と牧田はな。
庶民的な家庭で育ち、頭脳明晰、クールで毒舌なののと、
外交官の家に生まれ、天真爛漫で甘え上手のはな。
二人はなぜか気が合い、かけがえのない親友同士となる。
しかし、ののには秘密があった。いつしかはなに抱いた、友情以上の気持ち。
それを強烈に自覚し、ののは玉砕覚悟ではなに告白する。
不器用にはじまった、密やかな恋。
けれどある裏切りによって、少女たちの楽園は、音を立てて崩れはじめ……。

運命の恋を経て、少女たちは大人になる。
女子の生き方を描いた傑作小説。


昭和59年、ののとはなのミッション系の女子高時代の手紙やメモのやり取りから始まる往復書簡形式の物語である。文章のやり取りだけで、彼女たちの日々がくっきりと浮かび上がってくるのは不思議な感覚である。女子高独特の人間関係や異性間、そこにはまり切れない彼女たちの甘酸っぱく秘めやかな思いの数々。強いようで傷つきやすい少女時代の心と身体。そんなあれこれが、赤裸々につづられていく。そして別れ。大人になった彼女たちの立場や生き方はそれぞれでも、少女時代に共有した時間と感情は、何物にも代えがたいものだったのである。まさに、お互いにお互いを作りあった印象である。キラキラふわふわとした少女時代はそれとして、大人になるということは、わが身だけでなく、周囲の状況や、もっと広く世界の状況にも思いを致さなければならなくなるということでもあるだろう。心の芯に持った誇りに恥じない生き方ができる人はそう多くはないと思うが、自分で考えることを辞めなかった彼女たちなら、きっと毅然と生きていくことだろう。はなの消息も心配だが、信じるしかない。さまざまな要素がぎゅうっと詰まった一冊だった。

30センチの冒険*三崎亜紀

  • 2018/12/02(日) 07:27:41

30センチの冒険
30センチの冒険
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三崎 亜記
文藝春秋
売り上げランキング: 102,177

僕が迷い込んだのは、「大地の秩序」が乱れた世界――
三崎亜記のすべてが詰まった傑作ファンタジー!

故郷に帰るバスに乗ったユーリが迷い込んだのは、
遠近の概念が狂った世界だった。
ここでは、目の前に見えるものがそばにあるとは限らず、
屋外に出ればたちまち道に迷ってしまう。
街の人々に教えられ、ユーリはこの世界のことを少しずつ知っていく。

私生活のすべてを犠牲にして、この世界の道筋を記憶する女性「ネハリ」。
不死の「渡来人」。砂漠の先にある「分断線」。
人間と決別し、野生に戻った本たちと「本を統べる者」。
そして、通り過ぎる街の人々を連れ去っていく「鼓笛隊」。

全滅の危機に瀕した街のために、ユーリは立ち上がる。
この世界にあるはずのない「30センチのものさし」を持って。


時空を超えた冒険物語である。ここと、どこかとの境は、ものすごく曖昧で、さまざまな要素が重なり合わないと超えることができないようだが、選ばれ、運命づけられ、時間も空間もあっさり超えて、宿命を果たすために行き来することがある。現実に戻ってみれば、すべてが夢物語のようだが、実際のところはどうなのだろう。不思議な夢をみた夜は、もしかすると本当にその世界へ行っているのかもしれない。なんて思ってしまう一冊だった。

愛なき世界*三浦しをん

  • 2018/11/15(木) 07:54:39

愛なき世界 (単行本)
愛なき世界 (単行本)
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三浦 しをん
中央公論新社
売り上げランキング: 1,789

恋のライバルが人間だとは限らない!
洋食屋の青年・藤丸が慕うのは〝植物〟の研究に一途な大学院生・本村さん。殺し屋のごとき風貌の教授やイモを愛する老教授、サボテンを栽培しまくる「緑の手」をもつ同級生など、個性の強い大学の仲間たちがひしめき合い、植物と人間たちが豊かに交差する――
本村さんに恋をして、どんどん植物の世界に分け入る藤丸青年。小さな生きものたちの姿に、人間の心の不思議もあふれ出し……風変りな理系の人々とお料理男子が紡ぐ、美味しくて温かな青春小説。


植物の研究をしている、大学の研究室が主な舞台なので、専門的な用語や描写が多数登場する。苦手分野なのだが、そんなことを忘れさせるほど、物語の世界に吸い込まれていく心地になる。この一冊のなかには、さまざまな愛が詰まっている。もちろん恋愛もあるのだが、それだけではなく、料理や食材に対する愛、師弟間の愛や、同僚たちに対する愛、そして研究対象である植物へのとめどない愛。読むごとに満たされていく感覚に包まれる。タイトルとは裏腹に、温かな愛にあふれた一冊である。

とりあえずウミガメのスープを仕込もう。*宮下奈都

  • 2018/11/12(月) 16:36:21

とりあえずウミガメのスープを仕込もう。
宮下 奈都
扶桑社 (2018-05-25)
売り上げランキング: 44,975

「毎月一回食べもののことを書く。食べることと書くことが、拠りどころだった気がする。」(「まえがき」より)

月刊誌『ESSE』の人気連載が、待望の書籍化!
北海道のトムラウシに1年間移住したり、本屋大賞を受賞したり……。さまざまな変化があった6年半の月日を、「食」をとおして温かく描き出す。
ふっと笑えて、ちょっと泣けて、最後にはおなかが空く。やさしく背中を押してくれるエッセイ78編に、書き下ろし短編1編を収録。全編イラストつき


基本的に作家の書くエッセイがあまり得意ではないのだが、宮下さんのエッセイは何度でも読みたくなる。気負わず、高ぶらず、ポジティブ過ぎず、かといってネガティブとは程遠く、あしたも大切に生きようと思わせてくれる。家族を大切に思い、自分もないがしろにせず、着かず離れずの距離感で、日々を慈しむさまが、食を大切にする姿勢からもよくわかって、胸の奥がぽっとあたたかくなる心地である。お腹のなかが温もれば、あしたもきっと大丈夫、と思える一冊である。

未来*湊かなえ

  • 2018/10/30(火) 17:04:23

未来
未来
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湊 かなえ
双葉社
売り上げランキング: 15,158

「こんにちは、章子。わたしは20年後のあなたです」ある日、突然届いた一通の手紙。
送り主は未来の自分だという……。『告白』から10年、湊ワーールドの集大成!
待望の書き下ろし長編ミステリー!!


445ページというボリュームだが、それを感じさせられずに読み終えた。虐待、DV、虐め、などなど、これでもかというほど胸が締めつけられる描写が続くが、未来の自分からの手紙に返事を書くことで、そのつらさを宥める章子が芯にいる物語である。過去、現在、未来、彼女の周りの人たちに起こる不幸な出来事が、厭になるほど描かれていて、この悲惨な状況がいつまで続くのか、どの時点でだれが救ってくれるのかと、次の展開を早く知りたくてたまらなくなる。だが、読んでも読んでも、不幸は連鎖し、昏くなる気持ちをどうやって立て直したらいいのかわからなくもなる。過去にも現在にも安らぎは見いだせないが、未来にはきっと自分がいていい場所があると、ほんの少しでも信じられるのは、20年後の大人章子からの手紙があるからなのだ。章子と近しい人たちの未来に、小さくても光が灯ることを切に祈る一冊である。

スケルトン・キー*道尾秀介

  • 2018/09/16(日) 19:53:07

スケルトン・キー
スケルトン・キー
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道尾 秀介
KADOKAWA (2018-07-27)
売り上げランキング: 18,457

週刊誌記者のスクープ獲得の手伝いをしている僕、坂木錠也。この仕事を選んだのは、スリルのある環境に身を置いて心拍数を高めることで、“もう一人の僕”にならずにすむからだ。昔、児童養護施設<青光園>でともに育ったひかりさんが教えてくれた。僕のような人間を、サイコパスと言うらしい。
ある日、<青光園>の仲間の“うどん”から電話がかかって来て、平穏な日常が変わり始めた。これまで必死に守ってきた平穏が、壊れてしまう――。


サイコパスとして生まれてしまった人間の、恐ろしさ、哀しみ、報われなさ、などなど、言葉にはできないさまざまな葛藤が描かれている。残虐な描写も多く、思わず目をそむけたくはなるが、彼らにそうさせてしまった背景のことを思うと、胸の中を冷たい風が吹き抜けるような気分にもさせられる。ある場面で、ダウンジャケットの袖口のほつれに違和感を覚えて以来、どうしてなのかずっと考えながら読み進んだが、後になって腑に落ち、それまで以上の恐ろしさを感じもした。母の最期の言葉が錠也に光をもたらしてくれることを切実に祈る。なんとも重くやるせない一冊だった。

風神の手*道尾秀介

  • 2018/04/17(火) 16:55:31

風神の手
風神の手
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道尾秀介
朝日新聞出版 (2018-01-04)
売り上げランキング: 32,495

彼/彼女らの人生は重なり、つながる。
隠された“因果律(めぐりあわせ)"の鍵を握るのは、一体誰なのかーー

遺影専門の写真館「鏡影館」がある街を舞台にした、
朝日新聞連載の「口笛鳥」を含む長編小説。
読み進めるごとに出来事の〈意味〉が反転しながらつながっていき、
数十年の歳月が流れていく──。
道尾秀介にしか描けない世界観の傑作ミステリー。

ささいな嘘が、女子高校生と若き漁師の運命を変える――心中花
まめ&でっかち、小学5年生の2人が遭遇した“事件"――口笛鳥
死を前にして、老女は自らの“罪"を打ち明ける ――無常風
各章の登場人物たちが、意外なかたちで集う ――待宵月


登場人物ひとりひとり、エピソードのひとつひとつにまったく無駄がない。力士が塩をまくようにばらまかれた要素が、見事なまでに拾い集められ、知りたかったことがすべて明らかにされる。だからと言って窮屈さはまったくなく、ストーリー展開も興味津々で読む手が止まらない。風が生まれるところを見たような心地にさせてくれる一冊である。

緑の庭で寝ころんで*宮下奈都

  • 2018/04/03(火) 16:27:18

緑の庭で寝ころんで
緑の庭で寝ころんで
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実業之日本社 (2018-01-26)
売り上げランキング: 51,877

ふるさと福井で、北海道の大自然の中で、のびやかに成長する三人の子どもたち。その姿を作家として、母親として見つめ、あたたかく瑞々しい筆致で紡いだ「緑の庭の子どもたち」(月刊情報誌「fu」連載)4年分を完全収録。ほかに、読書日記、自作解説ほか、宮下ワールドの原風景を味わえるエッセイ61編、掌編小説や音楽劇原作など、単行本初収録の創作5編も収載。本屋大賞『羊と鋼の森』誕生前夜から受賞へ。そしてその後も変りなくつづく、愛する家族とのかけがえのない日々。著者充実の4年間のあゆみを堪能できる、宝箱のようなエッセイ集!
地元の新聞社が月に一度発行する情報誌『fu』に、二〇一三年からエッセイを連載してきた。「緑の庭の子どもたち」という、子どもたちがテーマの文章だ。本になるとは思っていなかったので、ずいぶんリラックスして書いている。寝ころんで読んでもらえるくらいでちょうどいいなと思う。読んでくれた方の夢も、きっといつのまにか叶っているに違いない。これはしあわせのエッセイ集なのだ。 (「まえがき」より)


どのページを開いても、宮下さんのお人柄の魅力がほとばしり出てくる。彼女の目が見つめるもの、彼女の心が受けとめる事々、なにからなにまでに著者の慈しみがあふれていて、心が洗われるようである。愛と信頼がぎゅっと詰まった一冊である。

つぼみ*宮下奈都

  • 2017/11/20(月) 16:48:31

つぼみ
つぼみ
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宮下 奈都
光文社
売り上げランキング: 65,703

話題作『スコーレ№4』の主人公麻子の妹・紗英、叔母・和歌子、父の元恋人・美奈子。それぞれがひたむきに花と向き合い葛藤するスピンオフ三編。(「手を挙げて」「まだまだ、」「あのひとの娘」)弟の晴彦は、高校を中退し勤めた会社もすぐに辞めて、アルバイトを転々とした後大検を受け、やっぱり働くと宣言して、いつもふらふらひらひらしている。不器用な弟と振り回される姉。そんな二人には、離婚した両親がまったく違って見えていた。(「晴れた日に生まれたこども」)どこかへ向かおうともがいている若き主人公たちの、みずみずしい世界のはじまり。凜としてたおやかに、6つのこれからの物語。


『スコーレ№4』のスピンオフとは全く気づかずに読み始め、七葉という名前が出てきてやっと思い至ったのだが、独立した物語として読んでもすんなり入りこめる。三姉妹それぞれが、お互いに思いもしない屈託を抱え、葛藤しながら前に進んでいる姿が愛おしくなる。ほかの物語もすべて、自らの内側に抱えるものと、他者からの目線で見えるものとの差異が、擦り傷のように、始終ひりひりして、何をするにも気になってしまうような気分にさせられる。それでいて、著者の目線はいつでもやさしくて、最後には包み込まれるような心地にさせてくれる。充実した読書タイムを過ごせる一冊である。

満月の泥枕*道尾秀介

  • 2017/08/23(水) 13:11:13

満月の泥枕
満月の泥枕
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道尾 秀介
毎日新聞出版 (2017-06-08)
売り上げランキング: 41,591

生の悲哀、人の優しさが沁みわたる、人情ミステリーの傑作。

娘を失った二美男と母親に捨てられた汐子は、貧乏アパートでその日暮らしの生活を送る。このアパートの住人は、訳アリ人間ばかりだ。
二美男はある人物から、公園の池に沈む死体を探してほしいと頼まれる。大金に目がくらみ無謀な企てを実行するが、実際、池からとんでもないものが見つかった!
その結果、二美男たちは、不可解な事件に巻き込まれていくことになる……。


自分の不注意から最愛の娘を死なせてしまった凸貝二美男は、さまざまな事情を抱えた住人たちの棲むアパートで自堕落な暮らしをしていたが、行く場所を失くした姪の汐子を引き取ることになり、いまは二人で暮らしている。ある日、泥酔して公園で伸びていた二美男は、二人の男が池の端で何かを言い合い、何かが落ちたような大きな水音を聞いた。それがそもそもの物語のはじまりだったのである。そのことにかかわりがありそうな出来事が、あちこちから二美男のもとにやって来て、彼は否応なくその流れに巻き込まれていく。汐子に関わる問題や、剣道場の人間関係にまつわるあれこれや、大切な人を失った哀しみや虚しさなどなど、さまざまな問題要素を織り込みながら、流れはどんどん速くなり、巻き込まれ方も激しくなっていく。だらしないだけだと思っていた二美男にも、複雑な思いが胸の底にあることも判り、周りの人たちとの関係に和まされることもある。生きるって大変だけどいいこともあるんだと思わされる一冊でもある。

チェーン・ピープル*三崎亜記

  • 2017/08/08(火) 13:00:36

チェーン・ピープル
チェーン・ピープル
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三崎 亜記
幻冬舎 (2017-04-20)
売り上げランキング: 170,807

名前も年齢も住所もまったく違うのに、言動や身ごなし、癖に奇妙な共通点がある。彼らは「チェーン・ピープル」と呼ばれ、定められた人格「平田昌三マニュアル」に則り、日々、平田昌三的であることを目指し、自らを律しながら暮らしているのだ。『となり町戦争』の著者が描く、いまこの世界にある6つの危機の物語。


「正義の味方」―― 塗り替えられた「像」 ――
「似叙伝」―― 人の願いの境界線 ――
「チェーン・ピープル」―― 画一化された「個性」 ――
「ナナツコク」―― 記憶の地図の行方 ――
「ぬまっチ」―― 裸の道化師 ――
「応援」―― 「頑張れ!」の呪縛 ――

普段から当たり前に思い込み、漠然と受け容れて疑いもしていなかった事々、あるいは、些細な違和感を覚えながらも、深く追求することなく流してきたあれこれが、著者の目を通すと、これほどまでに理不尽で不可思議な物事としてクローズアップされるのか、という驚きに満たされる。だがそれは、どういうわけか快感でもあり、よくぞさらけ出してくれた、と拍手を送りたくさえなるのである。三崎流健在といった一冊である。