風神の手*道尾秀介

  • 2018/04/17(火) 16:55:31

風神の手
風神の手
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道尾秀介
朝日新聞出版 (2018-01-04)
売り上げランキング: 32,495

彼/彼女らの人生は重なり、つながる。
隠された“因果律(めぐりあわせ)"の鍵を握るのは、一体誰なのかーー

遺影専門の写真館「鏡影館」がある街を舞台にした、
朝日新聞連載の「口笛鳥」を含む長編小説。
読み進めるごとに出来事の〈意味〉が反転しながらつながっていき、
数十年の歳月が流れていく──。
道尾秀介にしか描けない世界観の傑作ミステリー。

ささいな嘘が、女子高校生と若き漁師の運命を変える――心中花
まめ&でっかち、小学5年生の2人が遭遇した“事件"――口笛鳥
死を前にして、老女は自らの“罪"を打ち明ける ――無常風
各章の登場人物たちが、意外なかたちで集う ――待宵月


登場人物ひとりひとり、エピソードのひとつひとつにまったく無駄がない。力士が塩をまくようにばらまかれた要素が、見事なまでに拾い集められ、知りたかったことがすべて明らかにされる。だからと言って窮屈さはまったくなく、ストーリー展開も興味津々で読む手が止まらない。風が生まれるところを見たような心地にさせてくれる一冊である。

緑の庭で寝ころんで*宮下奈都

  • 2018/04/03(火) 16:27:18

緑の庭で寝ころんで
緑の庭で寝ころんで
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実業之日本社 (2018-01-26)
売り上げランキング: 51,877

ふるさと福井で、北海道の大自然の中で、のびやかに成長する三人の子どもたち。その姿を作家として、母親として見つめ、あたたかく瑞々しい筆致で紡いだ「緑の庭の子どもたち」(月刊情報誌「fu」連載)4年分を完全収録。ほかに、読書日記、自作解説ほか、宮下ワールドの原風景を味わえるエッセイ61編、掌編小説や音楽劇原作など、単行本初収録の創作5編も収載。本屋大賞『羊と鋼の森』誕生前夜から受賞へ。そしてその後も変りなくつづく、愛する家族とのかけがえのない日々。著者充実の4年間のあゆみを堪能できる、宝箱のようなエッセイ集!
地元の新聞社が月に一度発行する情報誌『fu』に、二〇一三年からエッセイを連載してきた。「緑の庭の子どもたち」という、子どもたちがテーマの文章だ。本になるとは思っていなかったので、ずいぶんリラックスして書いている。寝ころんで読んでもらえるくらいでちょうどいいなと思う。読んでくれた方の夢も、きっといつのまにか叶っているに違いない。これはしあわせのエッセイ集なのだ。 (「まえがき」より)


どのページを開いても、宮下さんのお人柄の魅力がほとばしり出てくる。彼女の目が見つめるもの、彼女の心が受けとめる事々、なにからなにまでに著者の慈しみがあふれていて、心が洗われるようである。愛と信頼がぎゅっと詰まった一冊である。

つぼみ*宮下奈都

  • 2017/11/20(月) 16:48:31

つぼみ
つぼみ
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宮下 奈都
光文社
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話題作『スコーレ№4』の主人公麻子の妹・紗英、叔母・和歌子、父の元恋人・美奈子。それぞれがひたむきに花と向き合い葛藤するスピンオフ三編。(「手を挙げて」「まだまだ、」「あのひとの娘」)弟の晴彦は、高校を中退し勤めた会社もすぐに辞めて、アルバイトを転々とした後大検を受け、やっぱり働くと宣言して、いつもふらふらひらひらしている。不器用な弟と振り回される姉。そんな二人には、離婚した両親がまったく違って見えていた。(「晴れた日に生まれたこども」)どこかへ向かおうともがいている若き主人公たちの、みずみずしい世界のはじまり。凜としてたおやかに、6つのこれからの物語。


『スコーレ№4』のスピンオフとは全く気づかずに読み始め、七葉という名前が出てきてやっと思い至ったのだが、独立した物語として読んでもすんなり入りこめる。三姉妹それぞれが、お互いに思いもしない屈託を抱え、葛藤しながら前に進んでいる姿が愛おしくなる。ほかの物語もすべて、自らの内側に抱えるものと、他者からの目線で見えるものとの差異が、擦り傷のように、始終ひりひりして、何をするにも気になってしまうような気分にさせられる。それでいて、著者の目線はいつでもやさしくて、最後には包み込まれるような心地にさせてくれる。充実した読書タイムを過ごせる一冊である。

満月の泥枕*道尾秀介

  • 2017/08/23(水) 13:11:13

満月の泥枕
満月の泥枕
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道尾 秀介
毎日新聞出版 (2017-06-08)
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生の悲哀、人の優しさが沁みわたる、人情ミステリーの傑作。

娘を失った二美男と母親に捨てられた汐子は、貧乏アパートでその日暮らしの生活を送る。このアパートの住人は、訳アリ人間ばかりだ。
二美男はある人物から、公園の池に沈む死体を探してほしいと頼まれる。大金に目がくらみ無謀な企てを実行するが、実際、池からとんでもないものが見つかった!
その結果、二美男たちは、不可解な事件に巻き込まれていくことになる……。


自分の不注意から最愛の娘を死なせてしまった凸貝二美男は、さまざまな事情を抱えた住人たちの棲むアパートで自堕落な暮らしをしていたが、行く場所を失くした姪の汐子を引き取ることになり、いまは二人で暮らしている。ある日、泥酔して公園で伸びていた二美男は、二人の男が池の端で何かを言い合い、何かが落ちたような大きな水音を聞いた。それがそもそもの物語のはじまりだったのである。そのことにかかわりがありそうな出来事が、あちこちから二美男のもとにやって来て、彼は否応なくその流れに巻き込まれていく。汐子に関わる問題や、剣道場の人間関係にまつわるあれこれや、大切な人を失った哀しみや虚しさなどなど、さまざまな問題要素を織り込みながら、流れはどんどん速くなり、巻き込まれ方も激しくなっていく。だらしないだけだと思っていた二美男にも、複雑な思いが胸の底にあることも判り、周りの人たちとの関係に和まされることもある。生きるって大変だけどいいこともあるんだと思わされる一冊でもある。

チェーン・ピープル*三崎亜記

  • 2017/08/08(火) 13:00:36

チェーン・ピープル
チェーン・ピープル
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三崎 亜記
幻冬舎 (2017-04-20)
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名前も年齢も住所もまったく違うのに、言動や身ごなし、癖に奇妙な共通点がある。彼らは「チェーン・ピープル」と呼ばれ、定められた人格「平田昌三マニュアル」に則り、日々、平田昌三的であることを目指し、自らを律しながら暮らしているのだ。『となり町戦争』の著者が描く、いまこの世界にある6つの危機の物語。


「正義の味方」―― 塗り替えられた「像」 ――
「似叙伝」―― 人の願いの境界線 ――
「チェーン・ピープル」―― 画一化された「個性」 ――
「ナナツコク」―― 記憶の地図の行方 ――
「ぬまっチ」―― 裸の道化師 ――
「応援」―― 「頑張れ!」の呪縛 ――

普段から当たり前に思い込み、漠然と受け容れて疑いもしていなかった事々、あるいは、些細な違和感を覚えながらも、深く追求することなく流してきたあれこれが、著者の目を通すと、これほどまでに理不尽で不可思議な物事としてクローズアップされるのか、という驚きに満たされる。だがそれは、どういうわけか快感でもあり、よくぞさらけ出してくれた、と拍手を送りたくさえなるのである。三崎流健在といった一冊である。

ビブリア古書堂の事件手帖 7~栞子さんと果てない舞台~*三上延

  • 2017/05/17(水) 16:29:45


ビブリア古書堂に迫る影。太宰治自家用の『晩年』をめぐり、取り引きに訪れた老獪な道具商の男。彼はある一冊の古書を残していく―。奇妙な縁に導かれ、対峙することになった劇作家ウィリアム・シェイクスピアの古書と謎多き仕掛け。青年店員と美しき女店主は、彼女の祖父によって張り巡らされていた巧妙な罠へと嵌っていくのだった…。人から人へと受け継がれる古書と、脈々と続く家族の縁。その物語に幕引きのときがおとずれる。


完結してしまったんだなぁというのが読後の素直な気持ちである。一応八方丸く収まったので、めでたしめでたしということなのだろうが、長年の積もり積もった思いを消化して仕事をともにする母・智恵子さんと栞子さんの姿や、それをすぐそばで見守る大輔君の姿も見てみたかった気はする。今作では、いままでになかった大金が動く難しい取引が行われ、手に汗握る緊張感もあったが、行ってみれば門外漢である大輔君の存在が助けになっていることも確かで、栞子さんには公私ともになくてはならないパートナーになっている様子が、読者にとってはとてもうれしい。いつか気まぐれに続きを書いてくれないだろうか、とつい思ってしまうシリーズである。

希望荘*宮部みゆき

  • 2017/04/23(日) 18:30:21

希望荘
希望荘
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宮部 みゆき
小学館
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宮部ファン待望の14か月ぶりの現代ミステリー。特に人気の「杉村三郎シリーズ」の第4弾です。
本作品は、前作『ペテロの葬列』で、妻の不倫が原因で離婚をし、義父が経営する今多コンツェルンの仕事をも失った杉村三郎の「その後」を描きます。
失意の杉村は私立探偵としていく決意をし、探偵事務所を開業。ある日、亡き父・武藤寛二が生前に残した「昔、人を殺した」という告白の真偽を調査してほしいという依頼が舞い込む。依頼人の相沢幸司によれば、父は母の不倫による離婚後、息子と再会するまで30年の空白があった。果たして、武藤は人殺しだったのか。35年前の殺人事件の関係者を調べていくと、昨年に起きた女性殺人事件を解決するカギが……!?(表題作「希望荘」)
表題作の他に、「聖域」「砂男」「二重身(ドッペルゲンガー)」の4編を収録。


事件を引き寄せる体質の杉村三郎のその後の物語である。私立探偵になるまでの経緯よくわかる。それにしても、不運な事件を引き寄せる体質は相変わらずで、これはもう一生治りそうもない感じだが、故郷で周りの人たちに助けられながら、少しずつ地域の暮らしに溶け込み始めた杉村は、それはそれで平穏にやっていけそうでもあったのに、やはりそうはいかない運命なのだろう。杉村の解決の仕方はいつもどの事件でも相手を思いやる気持ちにあふれていて、それを一身に引き受けてしまいそうなのも心配ではある。娘の桃子ちゃんとはいい関係を築けているが、これからもそうであってほしいと願ってしまう。これからはいよいよ本格的に私立探偵杉村三郎の物語が展開されるのだろうか。ますます愉しみなシリーズである。

静かな雨*宮下奈都

  • 2017/04/07(金) 11:43:12

静かな雨
静かな雨
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宮下 奈都
文藝春秋
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「忘れても忘れても、ふたりの世界は失われない」

新しい記憶を留めておけないこよみと、彼女の存在が全てだった行助の物語。
『羊と鋼の森』と対をなす、著者の原点にして本屋大賞受賞第一作。


不運な事故で、ひと晩寝ると前の日の記憶を失くしてしまうという脳の障害を負ったたいやき屋の女性・このみさんと、生まれつき足に麻痺があり、松葉杖が手放せない行助(ユキスケ)の物語。互いのことをほとんど知らない二人だが、行助は好みさんを支えたいと強く思い、このみさんもそれを受け容れ、二人三脚の日々が始まるのである。支えるということの意味や、生きる上で人を形作るものたちのことや、その人そのものの本質というようなことについて、あれこれ考えるようになる行助と一緒に、読者もあれこれ考える。生きていくことについて、しあわせについて、人と人とのかかわりについてなど、静かなトーンの中でいろいろなことを考えさせられる一冊だった。

三鬼--三島屋変調百物語 四之続*宮部みゆき

  • 2017/03/21(火) 12:39:35

三鬼 三島屋変調百物語四之続
宮部 みゆき
日本経済新聞出版社
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江戸の洒落者たちに人気の袋物屋、神田の三島屋は“お嬢さん"のおちかが一度に一人の語り手を招き入れての変わり百物語も評判だ。訪れる客は、村でただ一人お化けを見たという百姓の娘に、夏場はそっくり休業する絶品の弁当屋、山陰の小藩の元江戸家老、心の時を十四歳で止めた老婆。亡者、憑き神、家の守り神、とあの世やあやかしの者を通して、せつない話、こわい話、悲しい話を語りだす。
「もう、胸を塞ぐものはない」それぞれの客の身の処し方に感じ入る、聞き手のおちかの身にもやがて心ゆれる出来事が……

第一話 迷いの旅籠
第二話 食客ひだる神
第三話 三鬼
第四話 おくらさま


今回はまた恐ろしくも面妖な語りばかりである。語る方も聞く方も、体力も気力も要りそうで、それを読むこちらも思わず息を詰めていることに気づかされることが再々ある。だが、語り手が心の重荷をすっと降ろして、楽な気持ちで帰っていくのはいつでもうれしいことである。おちかの聞き手ぶりもすっかり堂に入ってきたこのごろでもある。そして、今作では、おちかのこれからの生き方の標となるような出来事もあり、娘らしい人生を歩むおちかをぜひこの目で見たいものだと思わされる一冊にもなっている。

サーモン・キャッチャー the Novel*道尾秀介

  • 2017/01/27(金) 16:53:52

サーモン・キャッチャー the Novel
道尾 秀介
光文社
売り上げランキング: 230,987

君の人生は、たいしたものじゃない。でも、捨てたものでもない。場末の釣り堀「カープ・キャッチャー」には、「神」と称される釣り名人がいた。釣った魚の種類と数によるポイントを景品と交換できるこの釣り堀で、もっとも高ポイントを必要とする品を獲得できるとすれば、彼しかいない、と噂されている。浅くて小さな生け簀を巡るささやかなドラマは、しかし、どういうわけか、冴えない日々を送る六人を巻き込んで、大きな事件に発展していく―


ミーちゃんが着ていた浴衣の柄と似た赤い模様の鯉を探す物語なのに、なぜサーモン・キャッチャー?と言う疑問には、まさに最後の一文が応えてくれるのだが、「それか!?」という種明かしで、思わず笑ってしまった。ヒツギム語とはまったくふざけた言葉である。物語自体は、冴えない日々を送る六人が、なんだかんだと結びついていき、なんだかんだと危ないことに巻き込まれたりしながら、なんだかんだと心を通わせて、ほのぼのとした気分にさせてくれたりもする。見事に全員が繋がってしまうところが、そんなにうまいこといくものかと思いながらも、妙に気分が好い。これはこれで面白かったな、という一冊である。

ポイズンドーター・ホーリーマザー*湊かなえ

  • 2016/10/13(木) 20:23:32

ポイズンドーター・ホーリーマザー
湊 かなえ
光文社
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湊かなえ原点回帰! 人の心の裏の裏まで描き出す極上のイヤミス6編!!
私はあなたの奴隷じゃない! 母と娘。姉と妹。男と女--。ままならない関係、鮮やかな反転、そしてまさかの結末。あなたのまわりにもきっといる、愛しい愚か者たちが織りなすミステリー。さまざまに感情を揺さぶられる圧巻の傑作集!!


「マイディアレスト」 「ベストフレンド」 「罪深き女」 「優しい人」 「ポイズンドーター」 「ホーリーマザー」

人にはさまざまな顔がある。表に見せる顔がすべてではなく、人には見せない部分にこそ本当の顔を隠し持っていると言ってもいいだろう。そんな人間の裏側の顔を覗き見るような物語たちである。ただ、それは一面的なものではなく、悪だと思っていると、ちょっと視点を変えるだけで景色ががらりと変わることもあるので注意が必要なのである。人の裏表が描かれていると同時に、ひとりの人から聞いた話だけで判断することの危うさにも気づかされる。ハッピーエンドはなく、どれも厭な気分にさせられる物語ばかりだが、自分の裏側を見せつけられたような気もして、主人公たちを嫌いにはなりきれない一冊でもある。

メビウス・ファクトリー*三崎亜記

  • 2016/10/09(日) 17:02:20

メビウス・ファクトリー
三崎 亜記
集英社
売り上げランキング: 33,359

「この工場で奉仕するために必要なことは、愛情と使命感を持つことだ」ブラック企業を辞め、妻子を連れて地元へUターン就職したアルト。町は巨大工場を中心にシステム化されており、住民は誇りを持って働いている。しかしそこで何が作られているか、実は誰も知らない―。アルトたちも徐々に工場の「秘密」に気づきはじめ…。


疑わなければこれ以上暮らしやすい町はないかもしれない。この町で幸福に暮らしていける人は、ある意味宗教を盲信するようなタイプだったり、人の言葉に疑いを抱かず、素直に信じやすいタイプの人なのだろう。ほとんどがそんな住民で、町のめぐりに取り込まれて暮らす日々に満足していたところに、幼いころに町を出たアルトが、家族を連れて戻って来たところから、少しずつ何かが変わり始める。なぜ町の中だけですべてが完結しているのか。自分は何のために町のめぐりに取り込まれているのか。ほんのわずかの疑問の目が、ぽつりと芽生え、育つことで破綻が生じる。そこから町のめぐりに破綻は生じるのだろうか。読者の期待は膨らむが……。結局、何ひとつ真実は明かされないままであり、それは消化不良を起こし、もどかしさは募るが、だからこそ更なる想像力を掻き立てられもする。いずれにしても、これまで通りということはないだろう。胸のざわめきが治まらないままの一冊でもある。

スタフ staph*道尾秀介

  • 2016/08/30(火) 07:24:53

スタフ staph
スタフ staph
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道尾 秀介
文藝春秋
売り上げランキング: 22,917

街をワゴンで駆けながら、料理を売って生計をたてる女性、夏都。彼女はある誘拐事件をきっかけに、中学生アイドルのカグヤに力を貸すことに。カグヤの姉である有名女優のスキャンダルを封じるため、ある女性の携帯電話からメールを消去するという、簡単なミッションのはずだったのだが―。あなたはこの罪を救えますか?想像をはるかに超えたラストで話題騒然となった「週刊文春」連載作。


大部分が、偶然が積み重なってどんどん深みにはまり、二進も三進もいかなくなる物語のように見える。だがほんとうは、そこに偶然はほんのひと欠片しかなかったのである。途中でさまざまな思いはあったにせよ、詰まるところは「寂しさ」なのだ。動機と行動がずいぶんとかけ離れているようで、そこに却って真実味を感じてしまったりもする。あまりにも切なくて可愛くて愛おしくなる一冊である。

ニセモノの妻*三崎亜記

  • 2016/08/15(月) 18:23:16

ニセモノの妻
ニセモノの妻
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三崎 亜記
新潮社
売り上げランキング: 34,311

妻――それはいちばん近くて、いちばん不可解なアナザーワールド。「もしかして、私、ニセモノなんじゃない?」。ある日、六年間連れ添った妻はこう告白し、ホンモノ捜しの奇妙な日々が始まる……。真贋に揺れる夫婦の不確かな愛情を描く表題作ほか、無人の巨大マンションで、坂ブームに揺れる町で、非日常に巻き込まれた四組の夫婦物語。奇想の町を描く実力派作家が到達した、愛おしき新境地。


表題作のほか、「終の筈の住処」 「坂」 「断層」

いつものように、現実世界からほんのわずかずれた隙間に呑み込まれたような物語ではあるのだが、味わいがいつもとは微妙に違う。夫婦を描いたからなのか、それとも別の理由なのかはよく判らない。どの物語も理不尽だが、現実世界とは価値観も違っているせいか、不満の持って行きようがないのでなおさらもやもやする。最後の物語「断層」は普通の設定だったら新婚さんがただいちゃついているだけのようなのだが、この設定で読むと、あまりにも切なすぎて許せてしまうから不思議である。それにしてもいつもながらに、自分では入り込みたくない世界だと思わされる一冊である。

ユートピア*湊かなえ

  • 2016/06/09(木) 18:35:48

ユートピア
ユートピア
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湊 かなえ
集英社
売り上げランキング: 5,800

善意は、悪意より恐ろしい。
足の不自由な小学生・久美香の存在をきっかけに、母親たちがボランティア基金「クララの翼」を設立。
しかし些細な価値観のズレから連帯が軋みはじめ、やがて不穏な事件が姿を表わす――。
湊かなえが放つ、心理サスペンスの決定版。

地方の商店街に古くから続く仏具店の嫁・菜々子と、夫の転勤がきっかけで社宅住まいをしている妻・光稀、移住してきた陶芸家・すみれ。
美しい海辺の町で、立場の違う3人の女性たちが出会う。
「誰かのために役に立ちたい」という思いを抱え、それぞれの理想郷を探すが――。


菜々子、光稀、すみれという育ちも立場も三者三様の女性たちを軸に、彼女らの娘たち、地の人たちと他所から来た人たちの関係性、過去の殺人事件、とさまざまな要素が絡み合い、それぞれの思惑がもつれ合って表面的には穏やかな鼻崎町にどす黒い淀みとなっている様から目が離せない。同じものを見て同じ体験をしても、各自が自分を中心に置いて受け取れば、こうも違った景色になるのかということにも、もどかしさを感じつつ興味深く、その先を知りたくさせる要素のひとつである。終盤、過去の殺人事件を絡めてラストに向かう辺りから、いささか先を急ぎ過ぎたような印象であり、あまりにもあっけなかったようにも思われる。ただ、母親たちのせめぎあいに目を奪われている陰で、子どもたちにも子どもたちなりの真剣な悩みがあったことを思うと、切なくやるせなくもある。結局は真に分かり合えたとは言えず、胸に澱むものを残して終わった一冊である。