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カザアナ*森絵都

  • 2019/09/26(木) 06:46:32

カザアナ
カザアナ
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森 絵都
朝日新聞出版
売り上げランキング: 12,207

平安の昔、石や虫など自然と通じ合う力を持った風穴たちが、女院八条院様と長閑に暮らしておりました。以来850年余。国の規制が強まり監視ドローン飛び交う空のもと、カザアナの女性に出会ったあの日から、中学生・里宇とその家族のささやかな冒険がはじまったのです。異能の庭師たちとタフに生きる家族が監視社会化の進む閉塞した時代に風穴を空ける!心弾むエンターテインメント。


各章の冒頭に、平安の世の八条院と風穴たちの様子が描かれ、その後一足飛びに近未来の物語が始まる。現在の世の中と、人々の営みは同じようではあるものの、規制のされ方や、通信手段など、細かいところがはっきりと異なり、画一的な国の方針から外れる者が暮らしにくい世になっている。そんな世の中で、カザアナたちが、コツコツと日々の暮らしを積み重ねているのが、頼もしくも見える。そして、この世の中ではいわゆる異端と呼ばれてしまいそうな入谷一家と助け合って、そんな世の中に風穴を開けようとするのは、ものすごく無謀だが、人間の正しい欲求であろうと思われる。背筋が寒くなる心地がするとともに、日々を丁寧に生きてさえいれば、たいていのことは何とかなるのではないかと励まされる心地にもなる一冊だった。

毒よりもなお*森晶麿

  • 2019/04/16(火) 18:14:04

毒よりもなお
毒よりもなお
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森 晶麿
KADOKAWA (2019-03-01)
売り上げランキング: 150,393

連続殺人犯「首絞めヒロ」は、本当に私の知っている「ヒロアキ」なの?―― カウンセラーの美谷千尋は、自殺願望のある高校生、今道奈央から〈首絞めヒロの芝居小屋〉という自殺サイトの存在を知らされる。犯罪の匂いを感じた千尋は、そのサイトの管理人が8年前に故郷の山口で知り合った「ヒロアキ」ではないかと疑いを抱く。千尋によって徐々に明らかにされていくヒロアキの恐ろしくも哀しい過去。ヒロアキはなぜ連続殺人犯になってしまったのか? 千尋は奈央の命を救うことはできるのか? 千尋とヒロアキの間に流れる8年間物語とは? 衝撃の結末が待ち受ける、祈りと狂気のミステリ!


生い立ちや生育環境は、人格形成にどれほど影響を与えるものなのなのだろうか。本作は、虐待や親の性的趣向によって、真っ直ぐに成長することを妨げられたひとりの人間が周囲に与えた影響と、起こした犯罪に迫っている。と思って大部分を読み進み、それは間違いではないのだが、ラスト近くで様相はがらりと変わってくる。テーマそのものは変わらないが、現実と小説、さらには精神世界までもが入り交じり、境目があいまいになって、いま自分がいる場所を見失いそうになる。足元が突然不安定になったような覚束なさに見舞われて眩暈がする気分である。閉じた眼を再び開けたら、自分が物語のなかにいるかもしれないという漠然とした恐ろしさが足元から這いあがってくる気分にもなる。まったくの他人事と読み飛ばすことのできない一冊である。

黒猫のいない夜のディストピア*森晶麿

  • 2019/01/29(火) 16:57:54

黒猫のいない夜のディストピア
森晶麿
早川書房
売り上げランキング: 30,904

大学院修了後に博士研究員となった私は、所無駅付近で自分そっくりの女性と遭遇する。 白い髪、白い瞳、白いワンピースの彼女はあきらかにこちらを見つめていた。 学部長の唐草教授の紹介で出会った反美学研究者、灰島浩平にその話をすると、様々な推理を展開する。 本来なら黒猫に相談したいところだったが、黒猫の言葉――とにかく、まだ結婚は無理――がひっかかり、連絡できずにいた。 白を基調にした都市開発計画が持ち上がる所無。 自宅に届いた暗号が書かれた葉書。 私そっくりの女性となぜか会っていた母の雪絵。 いったい私の周りで何が起きているの――? アガサ・クリスティー賞受賞作から連なる人気シリーズ、待望の再始動。


シリーズものとは知らずに読んだが、たぶん何の問題もなかった。キャラクタやいきさつを把握していれば、より深く読めたのかもしれないが……。ポオと竹取物語を関連付けたり、モダニズムとゴシックやグロテスクを論じたりと、学術的な部分はわかったようなつもりになっただけで読み進めたが、完璧に理解できなくてもおそらく問題はなかっただろう。舞台となった所無のモデル都市に、かつてなじみがあったこともあり、道筋や街並みを思い浮かべられるので、より愉しめた。都市開発という公共的な題材を扱っているようであって、実はごくごく個人的な人間と人間との結びつきが語られている。私と黒猫の信頼がより深まったようでなによりである。シリーズのほかの作品も読んでみたくなる一冊だった。

雨上がりの川*森沢明夫

  • 2019/01/18(金) 08:01:19

雨上がりの川
雨上がりの川
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森沢 明夫
幻冬舎 (2018-10-25)
売り上げランキング: 88,064

川合淳、妻の杏子、娘の春香は、平凡だが幸せな暮らしを送ってきたはずだった。しかし、春香がいじめに遭って部屋に引きこもり、一家に暗雲が立ち込める。現状を打破するために、杏子が尋ねた「ある人」とは――。


窓からふたつの空が見えるマンションが、忙しい編集者・川合家の住まいである。ほんとうの空と、川面に映る空は、季節により、天気によって、その表情をときどきに変える。中学二年の娘・春香がいじめに逢って家にこもるようになってから、河合家にはぎこちない空気が流れていた。さらに妻の杏子の様子が少しずつおかしくなってくるのに気づく。そんな折、川辺でいつも釣り糸を垂れている元心理学の教授だった・千太郎と知り合うのである。その後に起こるあれこれは、考えさせられることが盛りだくさんだが、どこの家庭にも起こり得ることで、他人事ではない。千太郎と春香のタッグが見事で、途中から予想できていたとはいえ、すっとした。この家族は、これからもきっと大丈夫だと思える。あたたかい心持ちになれる一冊である。

水曜日の手紙*森沢明夫

  • 2019/01/15(火) 18:53:48

水曜日の手紙
水曜日の手紙
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森沢 明夫
KADOKAWA (2018-12-07)
売り上げランキング: 14,237

会うことのないあなたへ――最小で最高の奇蹟をお届けします。

家族が寝静まった夜更け、日課として心の毒をこっそり手帳に吐き出していた井村直美は、そんな自分を変えたいと夢を叶えた理想の自分になりかわって空想の水曜日をしたため、「水曜日郵便局」に手紙を出す。一方、絵本作家になる夢を諦めた今井洋輝も婚約者のすすめで水曜日の手紙を書いていた。会うことのない2人の手紙は、やがてそれぞれの運命を変えていき――。『夏美のホタル』『虹の岬の喫茶店』の著者が贈る、ほっこり泣ける癒やし系小説!

水曜日郵便局とは……
水曜日の出来事を記した手紙を送ると、かわりに知らない誰かの日常が綴られた手紙が届くという、一週間に一度・水曜日だけ開くちょっと不思議なプロジェクト。


ちょっとしたきっかけで水曜日郵便局を知った人たちが、胸にたまった思いを便せんにしたため、水曜日郵便局に送り、同じような見知らぬ誰かの手紙を受け取ったことがきっかけで、少しだけ気持ちの持ちようが前向きになって、一歩前に踏み出せるようになるまでの物語である。そして、人々の心を受けとめる水曜日郵便局で働く人とその家族の物語も添えられていて、さらに胸があたたかくなる。これまでの作品で見知ったあれこれもちょこちょこと出てきて、思わず頬が緩む。バタフライ効果のように、前向きな気持ちが伝染していくのが目に見えるようで、嬉しくなる一冊である。

熱帯*森見登美彦

  • 2019/01/11(金) 21:28:54

熱帯
熱帯
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森見 登美彦
文藝春秋
売り上げランキング: 1,547

汝にかかわりなきことを語るなかれ――。そんな謎めいた警句から始まる一冊の本『熱帯』。
この本に惹かれ、探し求める作家の森見登美彦氏はある日、奇妙な催し「沈黙読書会」でこの本の秘密を知る女性と出会う。そこで彼女が口にしたセリフ「この本を最後まで読んだ人間はいないんです」、この言葉の真意とは?
秘密を解き明かすべく集結した「学団」メンバーに神出鬼没の古本屋台「暴夜書房」、鍵を握る飴色のカードボックスと「部屋の中の部屋」……。


なんと頭がぐるぐるする物語であろうか。佐山尚一著の『熱帯』という一冊の本を巡る物語であることは確かなのだが、この本の実態が全くと言っていいほどつかめない。しかも、『千一夜物語』という果てない夢の中にまで迷い込み、これらの二冊が互いに入れ子のようになっているようでもある。現実世界にいたかと思うと、あっという間に物語世界に取り込まれ、自分がいまどこにいて何を見ているのかを度々見失いそうになる。物語は結末を迎えるが、『熱帯』という謎は解かれることがあるのだろうか。何もかも終わったようでいて、その実、ここが始まりなのかもしれないとさえ思わされる。壮大なようでもあり、極めて狭いようでもある不思議な一冊である。

静かに ねぇ、静かに、*本谷有希子

  • 2018/11/13(火) 18:22:42

静かに、ねぇ、静かに
本谷 有希子
講談社
売り上げランキング: 17,457

海外旅行でインスタにアップする写真で“本当”を実感する僕たち、ネットショッピング依存症から抜け出せず夫に携帯を取り上げられた妻、自分たちだけの印を世界に見せるために動画撮影をする夫婦―。SNSに頼り、翻弄され、救われる私たちの空騒ぎ。


読みながら、どういう気持ちになればいいのか戸惑うような物語たちである。登場人物たちは、SNSによって、世界とつながっているような気になっているが、その実、ものすごく閉じた世界にいるように思われる。生身の自分では生きている実感を持てず、外に向けて発信したものを見ることでしか、その実感を得られないとしたら、生きている、とはどういうことなのだろう。何かに違和感を覚えながらも、そのことを深く掘り下げようとはせずに、表層を滑るように日々を過ごしているように見える。なんだかものすごくもどかしい心地にさせられる一冊である。

火刑列島*森晶麿

  • 2018/09/14(金) 18:29:24

火刑列島
火刑列島
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森晶麿
光文社
売り上げランキング: 494,458

現象学者の凪田緒ノ帆は、半年前に自宅の火災で恋人を失った。まる焦げで発見されたその死体が持っていたスマホのロック画面には、下着姿の謎の女性の画像が残されていた。突然、緒ノ帆の前に現れた美青年・露木は“予現者”を自称し、「僕が予現したあなたの恋人以外の直近三件の火災事故では、いずれも被害者の男性のスマホにこの女性の画像がありました」といい、事件と女性の関係を一緒に調べようと誘う。さらに、謎の女性の画像を手がかりに、メグミという名前と、彼女を探す消防士・海老野ホムラが見つかる。三人は、露木の“予現”する火災とメグミの手がかりを追う旅をはじめた―。


緒ノ帆、露木、ホムラという縁のなさそうな三人が、露木の予現に従ってあちこちに出向くのだが、その道中はまるで深刻さはなく、コメディのようでもある。露木もホムラも、その正体は何ともよくわからず、信じていいのやら決めかねながら読み進むが、露木の予現があながち当てずっぽうでもないことが次第にわかり、かなり危険な事態が続出する。それでも最後まで、裏に何かあるような気配はなくならないのだが、それが最後の最後に明らかにされると、腑に落ちる部分もあるが、驚きを隠せない。あの一件からすべてが始まっていたということである。恨み、憎しみ、執念、そして愛情。あまりにも強すぎるさまざまな感情が渦巻く一冊である。

望月のあと 覚書源氏物語『若菜』*森谷明子

  • 2018/09/05(水) 13:48:15

望月のあと (覚書源氏物語『若菜』)
森谷 明子
東京創元社
売り上げランキング: 971,862

紫式部が物語に忍ばせた、栄華を極める道長への企みとは?平安の都は、盗賊やつけ火が横行し、乱れはじめていた。しかし、そんな世情を歯牙にもかけぬかのように「この世をばわが世とぞ思う…」と歌に詠んだ道長。紫式部は、道長と、道長が別邸にひそかに隠す謎の姫君になぞらえて『源氏物語』を書き綴るが、そこには時の大権力者に対する、紫式部の意外な知略が潜んでいた。


役職や人名の読み方を呑み込むのがなかなか大変で、初めのうちは現代もののようにスムーズには読み進められないのだが、次第にそれも気にならなくなり、物語の展開に惹き込まれていく。源氏物語が、刻々と出来上がり、周りに少なくない影響を及ぼすさまを見ていると、物語というものの力を強く感じる。影のフィクサーは実は紫式部、だったりして……、なんて。そして、いつの時代も、女たちの逞しさは変わらない。殿方の陰で、つつましやかにしているように見えて、その実、ほんとうに肝が据わっているのは女たちなのである。なかなかに痛快。副題には若菜とあるが、玉葛の印象が強い一冊でもあった。

キッチン風見鶏*森沢明夫

  • 2018/09/01(土) 12:36:35

キッチン風見鶏 (ハルキ文庫)
森沢明夫
角川春樹事務所
売り上げランキング: 4,902

港町で三代続く老舗洋食屋「キッチン風見鶏」。おすすめは、じっくりと手をかけた熟成肉料理だ。漫画家デビューを夢見るウエイター・坂田翔平は、幽霊が見えてしまうのが悩みのタネ。お客さん一人ひとりに合わせた料理が好評なオーナーシェフ・鳥居絵里は、家族の健康を案じつつ空元気を出して奮闘中!誰しも未来は不安だし、人生は寂しいものだ。でも、だからこそ、自分の心に嘘をつかずに生きていく―。美味しさとやさしさが溢れる傑作長編。


老舗の洋食屋さんを舞台にしたハートウォーミングな物語、なのかと思いきや、舞台のキッチン風見鶏も、登場人物たちも、ある意味一風変わっていて、普通の人が経験できないさまざまなことを経験してきている。プロファイリングが得意だったり、背後霊が見えたり、彼らと会話ができたり……。たぶんこのお店には、そんな人たちを引き寄せるなにかがあるのだろう。興味を惹かれる要素が盛りだくさんなので、あれも知りたいこれも知りたいと、ページを繰る手が止まらなくなる。ひとつずつ解決されていく過程で、どんどん読んでいるこちらの気持ちがやさしくなっていく気がする。ずっと浸っていたいと思わされる一冊だった。

さよなら、わるい夢たち*森晶麿

  • 2018/04/10(火) 16:43:06

さよなら、わるい夢たち
森 晶麿
朝日新聞出版 (2018-02-20)
売り上げランキング: 180,106

〈日本悪夢すぎるだろ。待機児童って何だよ、待機してんのは俺たち家族な〉
〈出てったよ。もう疲れました、だってよ。〉
〈嫁帰ってこない。詰んだな。〉

ジャーナリストの長月菜摘は、
学生時代の友人・薄井麻衣亜の夫のSNSから、彼女が幼い息子を連れて家庭を捨てたことを知る。
夫も、両親も、友人も、同僚も、彼女が消えた理由を知らないというが、
誰もが麻衣亜を失踪に駆り立てるだけの要因を持っていた――。

現代女性が背負わされた、見えない「重荷」の正体を抉りだす、
本格社会派ミステリー。
アガサ・クリスティー賞受賞作家の新境地!


読み進めるにしたがって、少しずつ印象が変わってくる物語である。失踪した友人の行方を捜す高校時代の友人のジャーナリスト菜摘の懸命さがクローズアップされる前半から、失踪した麻衣亜とその家庭の事情の救いのなさに胸を締め付けられる中盤。そして、次第にさまざまな事情が明らかになるにつれて、かすかに苛立ちを覚え始める後半からラストにかけては、だんだんと厭な気分が募ってくる。何かとんでもないものに振り回されたような心地の一冊である。

失恋バスは謎だらけ*森沢明夫

  • 2017/10/31(火) 18:33:26

失恋バスは謎だらけ
失恋バスは謎だらけ
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森沢 明夫
双葉社
売り上げランキング: 28,237

経営危機に瀕している旅行会社の名物企画「失恋バスツアー」。
このツアーの趣旨は、失恋した参加者に、鄙びた旅館、わびしい粗食、
うら寂しい観光地を提供してどん底まで落ち込んでもらい、
あとは上がるだけ、グイグイ元気になってもらいましょうというもの。
しかし、添乗員として乗り込んだ37歳の天草龍太郎は、カウンセラーとして
同じく添乗している小雪に自らがフラれたばかりだった。ツアー中も小雪はツレない態度。
しかも今回の参加者はとことん濃いメンツで、やたら元気な金髪ハーフ美女、
自称パンクロッカー、修験者のような巨漢、謎の中国人、文学少女ふうお嬢様など、
彩りが豊かすぎる9名。ハプニング続きで翻弄される龍太郎だが、
意外な事実が次々と明かされていく。笑いあり、涙ありの感動ツアー、いざ出発進行!


龍太郎が企画した失恋バスツアー。今回は、珍しく人選を買って出たイヤミな課長が選んだ、やたらと個性的で曰くありげなメンバーである。しかも添乗員の龍太郎自身が失恋したばかり。さらにその相手は同乗しているカウンセラーの小雪なのである。初めから何かありそうな雰囲気に満ち満ちている。予想に違わず、それぞれが何かしら厄介事を起こし、対応に追われるが、そんな中でも折に触れて小雪のことが気になる龍太郎なのである。読者もおそらくかなり早い段階から気づいているだろうことを、気づかないのは龍太郎だけなのがもどかしい。なにやら不思議な連帯感を抱くようになった参加者たちが、最後に企てたことは……。ハラハラドキドキ、そしてほっこり温かくなる一冊である。

夜行*森見登美彦

  • 2017/04/26(水) 16:16:55

夜行
夜行
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森見 登美彦
小学館
売り上げランキング: 3,387

僕らは誰も彼女のことを忘れられなかった。

私たち六人は、京都で学生時代を過ごした仲間だった。
十年前、鞍馬の火祭りを訪れた私たちの前から、長谷川さんは突然姿を消した。
十年ぶりに鞍馬に集まったのは、おそらく皆、もう一度彼女に会いたかったからだ。
夜が更けるなか、それぞれが旅先で出会った不思議な体験を語り出す。
私たちは全員、岸田道生という画家が描いた「夜行」という絵と出会っていた。
旅の夜の怪談に、青春小説、ファンタジーの要素を織り込んだ最高傑作!
「夜はどこにでも通じているの。世界はつねに夜なのよ」


実際には、ほんの限られた場所で起こった出来事であるにもかかわらず、とてもとても遠い所へ行って帰ってきた――実際に帰ってきたのかどうかも定かではないが――ような、長旅を終えた心地になる物語である。岸田道生という銅版画家の連作「夜行」――あるいは「曙光」――をめぐる物語は、現実にあったことなのか、作品の中で起こったことなのかも定かではなく、ひとつのストーリーのページを剥がすとそこにまったく別のストーリーが同時進行しているかのようなのである。いま自分はどこにいるのか。読者は立ち位置を見失い、登場人物さえもが自分のいる場所に確信を持てずにいるようである。遠く近くなじみ深いようでいて見知らぬ顔を見せる不思議な一冊である。

人魚姫の椅子*森晶麿

  • 2017/02/24(金) 18:36:12

人魚姫の椅子
人魚姫の椅子
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森晶麿
早川書房
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瀬戸内海に面した椅子作りの町、宝松市鈴香瀬町。高校生の海野杏(うみのあん)は、毎朝海辺で小説を書きながら、椅子職人を目指す同級生・五十鈴彗斗(いすずすいと)と少しだけ話すことを日課としていた。
ある日の朝、いつものようにやってきた彗斗から、「高校をやめて町を出る」と告げられる。特別仲がよかったわけではないが、傍にいて当然の存在がいなくなることに焦りを覚える杏。
時を同じくして、杏は親友の翠(みどり)からラヴレターの代筆を頼まれる。戸惑う杏だったが、必死に頼む姿にほだされ、誰にでも好かれる、明るくてかわいい翠を思い浮かべながら、一文一文を丁寧に書きだしていく。
そのラヴレターから、小さな町を揺るがす失踪事件が始まるとも知らずに。
〈黒猫シリーズ〉の著者が描く、新たな青春ミステリ。


椅子作りに夢中になる少年と、心の内を物語として紡ぎ出す少女。芽生え始めた恋心と友情の狭間で揺れる心は、そのまま物語に込められていく。勘違い、すれ違い、若い恋にありがちなシチュエーションではあるのだが、特別な椅子作りに魅入られたある人物が現れ、思っても見ない流れに呑み込まれていく。想像するとものすごくグロテスクなのだが、人魚姫の物語とシンクロすることで、グロテスクさはいささか和らいでいる。それにしても残酷この上ないことに変わりはないだろう。ラストに光は見えるものの、その点がなんとなく腑に落ちなくもある。現実と物語とを行ったり来たりしているような心地の一冊である。

みかづき*森絵都

  • 2016/11/26(土) 13:59:18

みかづき
みかづき
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森 絵都
集英社
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昭和36年。小学校用務員の大島吾郎は、勉強を教えていた児童の母親、赤坂千明に誘われ、ともに学習塾を立ち上げる。女手ひとつで娘を育てる千明と結婚し、家族になった吾郎。ベビーブームと経済成長を背景に、塾も順調に成長してゆくが、予期せぬ波瀾がふたりを襲い―。山あり谷あり涙あり。昭和~平成の塾業界を舞台に、三世代にわたって奮闘を続ける家族の感動巨編!


塾業界にスポットを当てた物語。しかも、まだ塾の存在がまるで知られず、認められず、却って敵視されていた昭和の時代から、塾が工夫を凝らし、発展し、塾業界という一大ジャンルを盤石のものにした現代までの、文部省、文科省、詰め込み教育、ゆとり教育、落ちこぼれ、所得格差、教育格差といった、さまざまな要因をくぐり抜けてきた変遷とともに、小学校の用務員から、塾業界の神様のようになった大島吾郎とその一家の闘いとその関係性の変化の歴史を太い軸にして描かれている。我が家は塾のお世話になったことがないので、読み始めたころは、興味が最後までもつかと、正直不安も胸に萌したが、中盤以降は惹きこまれるように読み進んだ。どんな業界にあっても、やはりそこにいるのは人であり、人と人とのつながりなのだと、改めて胸が熱くなる思いである。467ページというボリュームを感じさせない一冊である。