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神様には負けられない*山本幸久

  • 2021/03/14(日) 06:44:54


内装会社でバリアフリー店舗を手がけたのをきっかけに、25歳で義肢装具士の専門学校に飛び込んだ二階堂さえ子。苦手の製作実習を助けてくれたクラスのはぐれ者2人の熱にあてられ、芸者やカメラマン、人力車夫など多彩な義肢ユーザーと出会い、少しずつ見え始める「ほんとのバリアフリー」。そして、未来の自分。


義肢装具士のお仕事小説で、知らなかったことをさまざま知ることができて、とても興味深かったが、決してそれだけではない。主人公のさえ子と仲間たちの奮闘と成長の物語でもあって、三人の関係性の変化や、それぞれが補い合って高め合っていく過程を応援したくもなる。さえ子のキャラは、初めはもっと消極的でいじいじしているように見えたが、次第に芯が固まっていくような印象だった。ただ、前職ではかなり手腕を発揮していたようなので、単に、装具士としての自信が持てなかったからだったのだろう。読み進めるほどに先を知りたい欲求が増していく一冊だった。

ぼくたちの答え*椰月美智子

  • 2021/03/09(火) 16:20:57


UFOに興味のある陽羽吾。寺の子で幽霊が見える臣。量子科学に関心のある眞琴。それぞれ理由があって不登校になった三人は、フリースクール「みかん」で出会い、仲良くなる。やがてお互いの興味が実は繋がっているように感じ、それぞれの興味の対象を調べるチームを結成した。その名も「コスモボーイズ」。やがて彼らは活動の中で、自分たちが世の中に感じる生きづらさの理由を悟ってゆき―、迷い戸惑うあなたに贈る、勇気の出る一冊!


読み進めるほどに、目が開かれるような心持ちになる。フリースクール「みかん」で出会った三人が、お互いの違いを認めつつ、それぞれの興味を持ち寄って、そこにシンクロニシティを見出し、互いに尊敬しあいながらさらに高め合っている。新しいことをみつけ、何かに気づくことによって、いままでの知識や体験とそれらを結びつけ、さらに新しい世界をひらいていく三人が、自由で頼もしくて、とても輝いている。親や周りの大人たちも、彼らを矯めることなく、丸ごと受け容れて愛してくれているのがわかって、好ましい。彼らが出会ったのが、一般的な教育現場に馴染めずに通い始めたフリースクールだったのが、とても皮肉に思われる。そしてそのスクールの名前「みかん」はもしかすると「未完」とも通じるのかもしれないと、秘かに思ってしまったりもするのである。彼らの成長も、開眼も、まだまだこれからなのだから。般若心経を読んでみたくなる一冊でもある。

自転しながら公転する*山本文緒

  • 2021/01/28(木) 16:35:18


結婚、仕事、親の介護、全部やらなきゃダメですか
共感と絶賛の声続々! あたたかなエールが届く共感度100%小説!

東京で働いていた32歳の都は実家に戻り、地元のモールで店員として働き始めるが…。
恋愛、家族の世話、そのうえ仕事もがんばるなんて、そんなの無理!
答えのない問いを生きる私たちをやさしく包む物語。
7年ぶり、待望の長篇小説


自分とは違うけれど、みんなそれぞれ自分が立つ場所で、それなりに懸命に日々を生きているよ。がんばっているよ。それでいいよと、認めて応援したくなる。ひとつひとつのエピソードが、とても丁寧に描かれていて、その時々の心の揺れや、周りの人たちの反応が、手に取るように伝わってきて、時には一緒に苦しくなる。でも、ずばりと言ってくれる親しい友人の存在が、引いてみると、大きな救いになっている気がする。ひとりだけで抱えていたら、こういう結果にはならなかったかもしれない。プロローグから本編に入ったときには、どういう展開になるのか皆目見当がつかなかったが、エピローグですっきり回収され、あぁ、こんなに幸せで満ち足りた物語だったのだ、と改めて胸が熱くなった。迷いも遠回りも、直観も、何もかもがとても大切なのだと思わされる一冊でもあった。

こんぱるいろ、彼方*椰月美智子

  • 2020/10/14(水) 18:33:31


サラリーマンの夫と二人の子どもと暮らす真依子は、近所のスーパーの総菜売り場で働く主婦だ。職場でのいじめに腹を立てたり、思春期の息子・賢人に手を焼いたりしながらも、日々は慌ただしく過ぎていく。
大学生の娘・奈月が、夏休みに友人と海外旅行へ行くと言い出した。真依子は戸惑った。子どもたちに伝えていないことがあった。真依子は幼いころ、両親や兄姉とともにボートピープルとして日本に来た、ファン・レ・マイという名前のベトナム人だった。
真依子の母・春恵(スアン)は、ベトナム南部ニャチャンの比較的豊かな家庭に育ち、結婚をした。夫・義雄(フン)が南ベトナム側の将校だったため、戦後に体制の変わった国で生活することが難しくなったのだ。
奈月は、偶然にも一族の故郷ベトナムへ向かう。戦争の残酷さや人々の哀しみ、いまだに残る戦争の跡に触れ、その国で暮らす遠い親戚に出会う。自分のルーツである国に深く関心を持つようになった奈月の変化が、真依子たち家族に与えたものとは――?


思ってもみなかった題材を扱った物語である。冒頭は、ごくごく平凡な日本の家庭の日常が描かれていて、思春期の姉弟と、その家族のあれやこれやの日々がつづられていくのだろうと思って読み進めると、大学生の娘・奈月が友人たちとベトナム旅行をすることになったあたりから、にわかに様相が変わってくる。母の真依子がいままで隠していた、自分がベトナム人だということを奈月に話したことから、奈月は困惑し、混乱し、ベトナムのことを知りたいと思い、知らなかったいろいろを知っていく。ベトナムで母の出生地を訪れ、さらに衝撃と感動を体験し、自分の中で消化していく。友人たちや恋人との関係、弟やいとこたちとの関わり、さまざまなことを、自分の頭で考え、自分のものとして蓄えていく。そんな奈月を見て、真依子自身も少しずつ変わっていくのを自分でも感じている。最後には、本の表紙の金春色(ターコイズブルー)のような開放感ともいうようなさわやかな風を感じられる一冊だった。

純喫茶パオーン*椰月美智子

  • 2020/10/03(土) 18:19:22


創業50年(おおよそ)の喫茶店「純喫茶パオーン」。トレイを持つ手がいつも小刻みに震えているのに、グラスにたっぷり、表面張力ギリギリで運ぶ「おじいちゃんの特製ミルクセーキ」と、どんなにお腹がいっぱいでも食べたくなっちゃう「おばあちゃんの魔法のナポリタン」が看板メニューだ。その店主の孫である「ぼく」が小学5年・中学1年・大学1年の頃にそれぞれ出会う不思議な事件と、人生のちょっとした真実。


純喫茶パオーンの孫・来人が語る、パオーンのオーナーである祖父母と、そこに集まる人たちと、来人とその友人たちの日々の物語である。来人の成長とともに、さまざまな出来事があり、周りの人たちとの関係も少しずつ変わっていったりして、時々に悩ましくもある。それとともに、祖父母も歳を取り、純喫茶パオーンの行く末も気になってきたりもする。そんな日常に、ちょっとした謎が現れたりもして、ミステリ風味でもある。時には胸をチクリと刺されながらも、ほのぼのと愉しめる一冊である。

あたしの拳が吼えるんだ*山本幸久

  • 2020/06/05(金) 09:43:31


橘風花は母親と二人で暮らす、普通の小学四年生の女子。偶然の出会いと、「ムカつく上級生男子を一発殴りたい」と邪な動機でボクシング・ジムに通い始めるが、徐々にのめり込んでゆく。ひたむきにボクシングに打ち込む風花の中で、何かが変わりはじめていた。それは、周囲の人々の心にも変化をもたらしてゆく―。結婚を賭けた世界王座戦に挑む女子プロボクサーや、ジムの人々。複雑な家庭環境のいじめっ子や、幼なじみのクラスメート。風花を理解しようとしない教師。母と折り合いが悪い職場の後輩たち。最強最悪のライバル。そして母・陽菜子にも…。明日への元気を満タンにしてくれる、ハートウォーミング・ストーリー!


いろんな要素が詰め込まれているのだが、散漫になることなく、どのエピソードもが物語が進むのに欠かせない要素になっているのが見事である。なにより、(もともと素質があったにせよ)風花の成長と、それを認めて支え、自らも変化していく周りの人たちの前向きさが、閉塞感の中にいるいま、ベストタイミングで胸を打つ。風花やその周りの人たちのこれからを見守り続けたくなる一冊だった。

ひと喰い介護*安田依央

  • 2019/11/27(水) 19:03:56

ひと喰い介護

判断力が、体力が、財産が、奪われていく――。大手企業をリタイアし、妻を亡くして独り暮らしの72歳、武田清が嵌まった、介護業界の落とし穴とは!? 巧妙に仕組まれた罠に孤独な老人たちはどう立ち向かえばよいというのだろう。それは合法か、犯罪か。現代に潜む倫理観の闇に迫るサスペンス。


読み進めるほどに暗澹とした気分に支配される。人の欲望の果てしなさ、寂しさを抱えた人間の弱さ、などなど。年を取ることが恐ろしくなる。性善説では生きられないのだろうか、と希望を失いそうな物語である。だが、自らの欲望しか見えていない人間だけではないのが、ほんのわずかな救いでもある。微力ではあるが、何とかしようとする小さな力が確実にあるのである。いまのところはあまりにも微力すぎるが、この先なんとかなるのではないかという、かすかな希望は抱かせてくれる。自分の頭で考えることをやめてはいけない、と改めて自らを戒めずにはいられない一冊でもある。

緑のなかで*椰月美智子

  • 2018/11/20(火) 18:40:40

緑のなかで
緑のなかで
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椰月美智子
光文社
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青木啓太は、しまなみ海道の壮大な「橋」に心惹かれ、土木工学を学ぶため、家から遠く離れた北の大地にあるH大に入学する。自治寮に入り、大学紹介の活動、フィールドワークのサークルなど、友人たちと青春を謳歌している彼のもとに、母が失踪したと双子の弟、絢太から連絡が入る。あの、どこか抜けていて感受性豊かな母が、なぜ突然消えてしまったのか…。自然豊かな美しいキャンパスで大学三年生となった青年の成長と苦悩を描く。


奔放な中にもある種の規律がある寮生活の描写が、いかにも青春でほほえましい。いかにも溶け込めそうにない印象の啓太だったが、何事にも慣れるもので、大学三年のいまではすっかり緑旺寮の寮生である。そんな寮生活と、サークル活動を軸に、啓太と友人たちが互いに影響しあい刺激しあって若い時代を過ごしている様子が興味深い。そして、兄弟間で差のある母からの愛情の注がれ方に悩むのは、一卵性双生児であればなおさらで、それを口に出せないばかりになおさら、自分の思っているのとは違う方向に向かってしまうのは皮肉なものである。そんな母に好きな人ができて家を出た。そしてさらに、無念さに叫びだしたくなる出来事が……。読者も泣かずにはいられない。なぜ?どうして?自分を責めることしかできない気持ちが、手に取るように伝わってきて、胸が痛くなる。後半の「おれたちの架け橋」には、自死した寿を含めた、啓太の高校時代の日々が描かれている。いまの啓太を作った光あふれる高校生活である。同じ屈託を抱えてはいるが、これから自分で自分の道を切り開こうとする時代である。何より寿が生きている。先のことを知っているだけに、切なさやりきれなさが募る。一見非の打ちどころがなく、うらやましいばかりに見える人にも、その人なりの悩みがあり、押しつぶされそうになることもあるのだと、わかるだけでも人生はずいぶん生きやすくなるのではないだろうか。啓太には、悩みつつも受け容れて、いつの日か立派な橋を作ってもらいたいものである。両手でひさしを作ってまぶしすぎる光を和らげたくなるような一冊である。

さしすせその女たち*椰月美智子

  • 2018/07/31(火) 10:47:29

さしすせその女たち
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椰月 美智子
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39歳の多香実は、5歳の娘と4歳の息子を育てながら、デジタルマーケティング会社の室長として慌ただしい毎日を過ごしていた。仕事と子育ての両立がこんなに大変だとは思っていなかった。ひとつ上の夫・秀介は「仕事が忙しい」と何もしてくれない。不満と怒りが募るなか、息子が夜中に突然けいれんを起こしてしまう。そのときの秀介の言動に多香実は驚愕し、思いも寄らない考えが浮かんでいく―。書き下ろし短編「あいうえおかの夫」収録。


働く女性の子育て奮闘記と夫との確執、夫への不満・憤りの数々、という物語である。著者の書く家事育児のドタバタは、実にリアルで、おそらく体験した人にしかわからないだろうという些細なことまで、みっちりと描かれているので、通り過ぎた後で読むと、思わず苦笑いしてしまうこと多々である。そして夫の子の無神経ぶりも、これはもう人間としての作りの差、とでもいうほかないのかもしれない、と思わされる。ラストに、『あいうえおかの夫』という、夫側から描かれた短いものがのせられているのだが、ほんの少し救いにはなるものの、家事育児に対する、圧倒的な認識の違いは如何ともしがたく、火に油を注ぎかねない気もしてしまう。現在奮闘中のお母さんには、ぜひめげずに潜り抜けてほしいと応援するばかりである。イライラむかむかカリカリしながら、ちょっぴり笑ってしまう一冊でもある。

つながりの蔵*椰月美智子

  • 2018/06/15(金) 09:54:29

つながりの蔵
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椰月 美智子
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祖母から母、そして娘へ。悩める少女たちに伝えたい感動の命の物語。
41歳の夏、同窓会に誘われた遼子。その同窓会には、蔵のあるお屋敷に住むの憧れの少女・四葉が来るという。30年ぶりに会える四葉ちゃん。このタイミングで再会できるのは自分にとって大きな一歩になるはず――。
小学校5年生のある夏。放課後、遼子と美音は四葉の家でよく遊ぶようになった。広大な敷地に庭園、隠居部屋や縁側、裏には祠、そして古い蔵。実は四葉の家は幽霊屋敷と噂されていた。最初は怖かったものの、徐々に三人は仲良くなり、ある日、四葉が好きだというおばあちゃんの歌を聞きに美音と遼子は遊びに行くと、御詠歌というどこまでも悲しげな音調だった。その調べは美音の封印していた亡くなった弟との過去を蘇らせた。四葉は、取り乱した美音の腕を取り蔵に導いて――。
少女たちは、それぞれが人に言えない闇を秘めていた。果たしてその心の傷は癒えるのか―。輝く少女たちの物語。


41歳の遼子の現在から物語は始まり、同窓会に誘われたことで、小学校5年生の頃の遼子と美音、四葉の日々へとつながっていく。彼女たちにとって、その先の人生の見え方が変わるような、かけがえのない時だったことが伝わってくる。三人それぞれが抱える苦悩や試練も、あの日があったからこそ乗り越えてこられたのかもしれない。そして、同窓会当日、三人が再開したところで物語は幕を閉じる。その先の彼女たちのおしゃべりを聞いてみたい気がするが、そこは読者それぞれが、物語を想像するための余白なのだろう。ちょっぴり怖くて、清らかで、じんわりあたたかい一冊だった。

ウチのセンセーは今日も失踪中*山本幸久

  • 2018/06/01(金) 18:13:18

ウチのセンセーは、今日も失踪中 (幻冬舎文庫)
山本 幸久
幻冬舎 (2018-03-15)
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富山から東京の出版社に漫画の持ち込みに行った宏彦は、失踪癖のある大御所漫画家のアシスタントになるハメに。クセのある仲間や編集者とセンセーの連載を落とさないよう必死に頑張る宏彦。実は、陸上の有望選手だったが、高三の秋のある事件で進学を諦め、病弱な妹の言葉で漫画家を目指すことになったのだ。カッコ悪くも沁みる、痛快エンタメ。


漫画家の仕事場やアシスタントの仕事ぶり、という点では、現在放映中の朝ドラと重なる部分もあり、興味深くはある。急遽アシスタントとして重用されることになる豊泉宏彦の奮闘ぶりや、デビューに向かっての奮戦ぶりも応援したくなる。――のだが、著者のお仕事ものがたりにしては、いささかピントが散漫になっている印象である。シリーズ化されるのだとすれば、次作以降でぎゅっと詰まっていくのかもしれないとは思いつつ、本作のみに限れば、何となく物足りない感は否めない。面白くないわけではないのだが、これまでの山本幸久ワールドとはちょっぴり違うかもしれない。シリーズ化されて、凝縮されることを願いたい一冊である。

ふたりみち*山本幸久

  • 2018/05/02(水) 16:32:53

ふたりみち
ふたりみち
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山本 幸久
KADOKAWA (2018-03-29)
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函館から津軽海峡をフェリーで渡る67歳の野原ゆかりは、元ムード歌謡の歌手。借金返済のため、営業の旅に復帰したのだ。その船内で知り合った12歳の家出少女森川縁が、なぜかゆかりの後をついて来る。旅先で起きるトラブルや55歳の歳の差を乗り越えて、いつしかふたりは固い絆で結ばれていく。そしてたどり着いた最後の会場、東京。そこにはゆかりの悲しい過去が刻まれていた…。


67歳と12歳、ゆかりと縁(ゆかり)の「ふたりみち」の物語である。それぞれに事情を抱えた利の差55歳の二人は、津軽海峡を渡るフェリーで出会い、なぜか一緒に旅をすることになる。歌を、音楽を通して、二人のなかにある何かが響きあったのかもしれない。行く先々でトラブルに見舞われ、ろくに歌うこともできずにいるミラクル・ローズ(=ゆかり)だったが、縁がいつも支えになってくれている。12歳らしい幼さと、12歳とは思えない逞しさを持ち合わせた縁がいたからこその、ゆかりの旅なのである。ゆかりにとっては、人生の来し方を振り返る旅にもなっており、縁にとっては、人生の行方を探す旅でもあるのだろう。切なさ、ほほえましさ、人情のあたたかさ、一筋縄ではいかないやりきれなさなど、さまざまな感情を呼び起こされる一冊でもある。

見た目レシピいかがですか?*椰月美智子

  • 2017/12/20(水) 16:24:17

見た目レシピいかがですか?
椰月 美智子
PHP研究所
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「イメージコンサルタント」に関わる4人の女たち、それぞれの事情とは?

純代の場合――娘から「参観日にお母さんが一番ダサかった」と言われ……
あかねの場合――不倫相手の「私服がかっこ悪い」のが許せない……
美波の場合――自分がこんなかわいらしい服を着てもいいのだろうか……
繭子の事情――的確なアドバイスを下す彼女の抱える問題とは……

あなたの第一印象、そのままでいいですか? 本当に似合う色、服、髪型などを提案し、「見た目」を変えるイメージコンサルタント・御手洗繭子。ほんのちょっとの気づきと心構えで、人生は変わっていくもの。彼女のアドバイスを受けた人々の外見と内面の変化とは? そして繭子自身が抱える秘密と事情が……。「きれいになりたい」「自分らしくありたい」と思う女性たちの心理を、鋭くかつ細やかに描く、連作小説集。


見た目よりも中身が大事とか、元々の素材がよくないから何をしても無駄などとついつい諦めてしまいがちな、もう若くはない女性たちにスポットが当てられている。自分にも当てはまることが多々あるので、身につまされるところも多いが、愉しく読んだ。なにより、繭子さんにさまざまなアドバイスをされていくうちに、自分の中に眠らせていた明るい気分が目覚めさせられて、彼女たちがどんどん前向きになっていく様が、見ていてとても気持ちが好い。読後、イメージコンサルティングを受けてみたくなる一冊である。

ミックス。*古沢良太:脚本 山本幸久:小説

  • 2017/12/11(月) 16:51:05

([や]2-4)ミックス。 (ポプラ文庫)
古沢 良太 山本 幸久
ポプラ社 (2017-10-03)
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母のスパルタ教育により、かつて“天才卓球少女”として将来を期待された多満子。母の死後、普通に青春を過ごし、普通に就職する平凡な日々を送っていたが、新入社員の美人卓球選手・愛莉に恋人の江島を寝取られてしまう。
人生のどん底に落ち、田舎に戻った多満子だったが、亡き母が経営していたフラワー卓球クラブは赤字状態。クラブの部員も、元ヤンキーのセレブ妻、ダイエット目的の中年夫婦、オタクの引きこもり高校生、さらに妻と娘に見捨てられた元プロボクサーの萩原など、全く期待が持てない面々だった。
しかし、江島と愛莉の幸せそうな姿を見た多満子は、クラブ再建と打倒江島・愛莉ペアを目標に、全日本卓球選手権の男女混合ダブルス(ミックス)部門への出場を決意。部員たちは戸惑いながらも、大会へ向け猛練習を開始する。多満子は萩原とミックスを組むものの、全く反りが合わずケンカばかり。しかし、そんな二人の関係にも、やがて変化が訪れていく――。
大注目の脚本家・古沢良太と人気作家・山本幸久の「ミックス」で贈る、恋と人生の再生の物語。


母のスパルタ指導のせいで、卓球が嫌いだったかつての天才少女・多満子は、母の死後、ガングロになったり普通に就職したりと、卓球からはすっかり離れていた。だが、職場の恋人で卓球選手の江島を、同じ卓球部の新人女子に奪われて傷心し、会社を辞めて実家に帰ってきたのだった。そこから物語はスタートする。いまは寂れている亡き母のフラワー卓球クラブの寄せ集めのようなメンバーが、奮起して全日本卓球選手権の予選に出場するまでの日々が、それぞれのエピソードを織り込みながら、次第に熱を帯びて描かれ、それぞれが、抱えているものを乗り越えてひとつになっていくのが目に見えるので、ついつい読んでいて応援したくなってしまう。多満子が卓球をどんどん好きになる様が、とても気持ち好くてうれしくて、ついつい微笑んでしまうくらいである。熱く愉しい一冊である。

いかさま師*柳原慧

  • 2017/06/08(木) 12:56:04

いかさま師  『このミス』大賞シリーズ
柳原 慧
宝島社
売り上げランキング: 1,507,995

三十年前、顔を切り裂き、謎の自殺を遂げた天才画家・鷲沢絖。その妻の死体が、今ではゴミ屋敷と呼ばれている鷲沢邸から発見された。しかもその顔はどす黒く変色し、どろりと溶けていた。遺産相続人として母を指名された高林紗貴は、屋敷からある絵画がなくなっていることに気づく。作者はジョルジュ・ド・ラ・トゥール、約二百六十年の長きにわたり忘れ去られていた、フランス絵画史における最も謎めいた画家。計り知れない価値を秘めたその絵画の行方を探り始めた紗貴だったが、同時に周辺で不気味な出来事が起こり始める。年若い紗貴の恋人、相続を巡りライバル関係にある青年、姿を消してしまった絵画コレクターの父。いったい誰が味方で誰が敵なのか。ラ・トゥールと、見る者の心を揺さぶる鷲沢絖の断筆「顔を引き裂かれた自画像」。―これらの絵画に隠された真実とは。


タイトルの「いかさま師」はラトゥールの絵のタイトルなのだが、物語そのものを絶妙に表していて見事である。天才画家の遺産相続に関わる一連の流れと、彼の半生にかかわった人々が抱えることになった事々、そして、血のつながりと欲。興味深い要素がたくさんありすぎるが、それらがきっちりと太い流れになっている印象である。誰を信じればいいのか、誰が味方で誰が敵なのか、そもそも味方など誰ひとりいないのか。次々に奥の手やら隠し技やらが出てくるので、常に気を抜けない展開が続くのである。結局は、作品にとっていちばんいいところに落ち着いたとは言えるのかもしれない。先が愉しみで、ページを繰る手が止まらない一冊だった。