けむたい後輩*柚木麻子

  • 2017/07/08(土) 16:55:07

けむたい後輩
けむたい後輩
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柚木 麻子
幻冬舎
売り上げランキング: 458,965

女は、みんな“自分”が大好き。
気は強いが、傷つきやすい彼女たちが欲しいのは、“自信”だった。

良家の子女が集まる女子大を舞台に
元・有名人の自意識過剰な先輩と世間知らずのダサい後輩が
繰り広げるエゴのぶつけ合い。

金持ちで、才能をもてあまし、男にのめりこむ「栞子」は、ダサくて真面目な後輩・「真実子」の憧れのひと。優越感で満たされていたはずの栞子が抱く苛立ちと哀しみ、そして次第に明かされる真実子の稀有な才能。自分の魅力に気付けない女子大生の繊細な心模様をコミカルに描いた共感度100%の成長物語。著者にしか書けない視点で、プライドや劣等感を痛切に描き、女性なら誰でも胸に突き刺さる小説です。


またまた女子の物語である。男性も登場はするが、どの男も魅力のかけらもない。女子たちは一見個性的ではあるが、それぞれが違った意味で自己認証欲求が強すぎて、痛々しくさえ思われる。若い女というものは、ここを通りすぎずには大人になれないものだろうか。だが、女の園の在りようは見事に描かれていると思う。ああ女って面倒くさい、という感じの一冊である。

BUTTER*柚木麻子

  • 2017/07/07(金) 07:11:36

BUTTER
BUTTER
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柚木 麻子
新潮社
売り上げランキング: 1,923

木嶋佳苗事件から8年。獄中から溶け出す女の欲望が、すべてを搦め捕っていく――。男たちから次々に金を奪った末、三件の殺害容疑で逮捕された女、梶井真奈子。世間を賑わせたのは、彼女の決して若くも美しくもない容姿だった。週刊誌で働く30代の女性記者・里佳は、梶井への取材を重ねるうち、欲望に忠実な彼女の言動に振り回されるようになっていく。濃厚なコクと鮮烈な舌触りで著者の新境地を開く、圧倒的長編小説。


木嶋佳苗の事件にヒントを得てはいるが、木嶋佳苗の物語と思って読むと期待外れになるかもしれない。これは、木嶋に触発されて生まれた梶井真奈子に触れることで、押し込めていたものが濃厚なバターのように溶け、溢れ出して、自分というものの形を見失いそうになりながら、何とか立て直していく女性たちの物語なのだと思う。読みながら、時に苦しくなり、また時にはイライラし、そしてまた、鮮やかに想像できる部分もあって、人間の、ことに女の複雑さ底知れなさを思い知らされるような一冊だった。

早稲女、女、男*柚木麻子

  • 2017/07/03(月) 07:09:58

早稲女、女、男
早稲女、女、男
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柚木 麻子
祥伝社
売り上げランキング: 418,502

面倒臭くて痛々しいけど、憎めない
ワセジョと5人の女子の等身大の物語

男勝りでプライドが高くて酒豪。だけど本当は誰よりも純粋で不器用。
そんな早稲女の中の早稲女、早乙女香夏子は就職活動を終えたばかりの早稲田大学教育学部の四年生。
演劇サークルの幹事長で七年生の長津田との腐れ縁はなんだかんだでもう4年目だが、このところ口げんかが絶えない。
そんなとき、香夏子は内定先の先輩・吉沢から告白される。
女の子扱いされることに慣れていない香夏子は吉沢の丁重な態度に戸惑ってしまう。
過剰な自意識ゆえに素直に甘えることができず、些細な事にいちいち傷つき、悩み、つまづく……。
そんな彼女を、周囲で取り巻く他大学の女子たちはさまざまな思いを抱えながら見つめていた――
それぞれが抱える葛藤、迷い、恋の行方は?


まったくもって面倒くさい人種である。早稲女が、というよりも、大学生から社会人として序盤の女が、といったほうがいいかもしれないが。とにかく、傾向の違うさまざまな自意識が渦巻いていて、ときおり本を投げ捨てたくなるほど面倒くさい。こんな面倒くささを通り抜けなければ大人の女になれないのだろうか、と思ってしまう。個人的には、穏やかにやり過ごしたい時期である。でもまあ、だから何だという一冊でもある。

合理的にあり得ない 上水流涼子の解明*柚月裕子

  • 2017/04/14(金) 16:32:06

合理的にあり得ない 上水流涼子の解明
柚月 裕子
講談社
売り上げランキング: 31,451

「殺し」と「傷害」以外、引き受けます。
美貌の元弁護士が、あり得ない依頼に知略をめぐらす鮮烈ミステリー!

不祥事で弁護士資格を剥奪された上水流涼子は、
IQ140 の貴山をアシスタントに、探偵エージェンシーを運営。
「未来が見える」という人物に経営判断を委ねる二代目社長、
賭け将棋で必勝を期すヤクザ……。
明晰な頭脳と美貌を武器に、怪人物がらみの
「あり得ない」依頼を解決に導くのだが――。


表題作のほか、「確率的にあり得ない」 「戦術的にあり得ない」 「心情的にあり得ない」 「心理的にあり得ない」

未来を予知するという人物に頼り切る社長、怪しげな新興宗教の教祖のような人物に大金を貢ぐ女、将棋の勝負にこだわるやくざ、孫娘を探している上水流涼子の宿敵の男、野球賭博で人生を棒に振る男。さまざまな怪しい人物がらみの事案が持ち込まれる、探偵事務所「上水流(かみづる)エージェンシー」を運営するのは、元弁護士の上水流涼子、そしてIQ140のアシスタント兼雑用係の貴山である。貴山の多岐にわたる知識の引き出しのあちこちを開けて、厄介な事案を解決する過程ももちろん愉しめるのだが、その合間の涼子と貴山の掛け合いが、コントのようでちょうどいい間になっている。このコンビ、もっと見たいと思わされる一冊である。

慈雨*柚木裕子

  • 2017/02/26(日) 06:59:51

慈雨
慈雨
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柚月 裕子
集英社
売り上げランキング: 15,721

警察官を定年退職した神場智則は、妻の香代子とお遍路の旅に出た。42年の警察官人生を振り返る旅の途中で、神場は幼女殺害事件の発生を知り、動揺する。16年前、自らも捜査に加わり、犯人逮捕に至った事件と酷似していたのだ。神場の心に深い傷と悔恨を残した、あの事件に――。
かつての部下を通して捜査に関わり始めた神場は、消せない過去と向き合い始める。組織への忠誠、正義への信念……様々な思いの狭間で葛藤する元警察官が真実を追う、日本推理作家協会賞受賞作家渾身の長編ミステリー!


定年退職したばかりの元刑事・神場智則が、遍路の旅で、これまで関わってきた事件と、それにまつわる様々な思いを見つめ直す物語なのだが、そればかりではなく、同行している妻や家族との来し方行く末を見つめる物語でもあり、趣き深い。一方、現実には過去に悔いを残す幼女殺害事件と酷似した事件が起きており、部下の刑事と連絡を取りつつ、捜査に協力してもいる。そしてそれは、とりもなおさず、過去の悔恨を暴き出すことでもあり、葛藤もあるのである。登場人物それぞれがそれぞれに誰かを思い、苦悩し、それでも深く信頼する姿に胸を打たれる。ただ、冤罪を疑われている服役囚に神場の思いが通じるとは思えず、それがいささかやり切れなくもある。静かな中にも心をざわめかせる一冊である。

あしたの君へ*柚月裕子

  • 2016/11/05(土) 16:44:00

あしたの君へ
あしたの君へ
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柚月 裕子
文藝春秋
売り上げランキング: 116,500

家庭裁判所調査官の仕事は、少年事件や離婚問題の背景を調査し、解決に導くこと。見習いの家裁調査官補は、先輩から、親しみを込めて「カンポちゃん」と呼ばれる。「カンポちゃん」の望月大地は、少年少女との面接、事件の調査、離婚調停の立ち会いと、実際に案件を担当するが、思い通りにいかずに自信を失うことばかり。それでも日々、葛藤を繰り返しながら、一人前の家裁調査官を目指す―


家裁調査官の見習い「カンポちゃん」にスポットを当てたお仕事物語である。表面に現れないところに深く潜航する申立人の思いを、なかなか理解できず、自分の資質に疑問を抱き悩む望月大地の姿は、新人らしくて好感が持てる。先輩調査官のアドバイスは、時に厳しく、また時にはあたたかく胸に沁み、なんとかあしたにつなげることができている。関係先に自ら足を運んで調査を進める内に、面接では見えなかったさまざまな事情が見えてきて、事案を解決に導くことができても、ほんとうにこれでよかったのかと葛藤を抱えることになることもある。一歩ずつプロの家裁調査官への道を進む大地の日々から目が離せなくなる一冊である。

あまからカルテット*柚木麻子

  • 2016/08/23(火) 16:48:02

あまからカルテット
あまからカルテット
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柚木 麻子
文藝春秋
売り上げランキング: 558,641

女子校時代からの仲良し四人組、ピアノ講師の咲子、編集者の薫子、美容部員の満里子、料理上手な由香子も、いよいよ三十歳目前。恋に仕事に押し寄せる悩みを、美味しい料理をヒントに無事解決へ導けるか!?


まったくタイプの違う女子四人組が、時に反発し合い、文句を言いながらも、お互いを無条件に信頼し、その信頼に応えようとする様は、見ていて微笑ましい。それぞれに持ちあがる日常の謎的出来事を、解決に導く道筋も、それぞれらしくて好感が持てる。ラストの場面での「四人で一人だと思っていたけれど、一人でもやれるから四人でもやれるんだ」という咲子のつぶやきが、すべてを物語っているようである。この世人をもっともっと見たいと思わされる一冊である。

幹事のアッコちゃん*柚木麻子

  • 2016/06/01(水) 09:55:51

幹事のアッコちゃん
幹事のアッコちゃん
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柚木 麻子
双葉社
売り上げランキング: 20,505

背中をバシッと叩いて導いてくれる、アッコさん節、次々とサク裂!妙に冷めている男性新入社員に、忘年会プロデュースの極意を…(「幹事のアッコちゃん」)。敵意をもってやって来た取材記者に、前向きに仕事に取り組む姿を見せ…(「アンチ・アッコちゃん」)。時間の使い方が下手な“永遠の部下”澤田三智子を、平日の習い事に強制参加させて…(「ケイコのアッコちゃん」)。スパイス絶妙のアドバイスで3人は変わるのか?そして「祭りとアッコちゃん」ではアッコ女史にも一大転機が!?突破の大人気シリーズ第3弾。


今度は幹事である。水戸黄門的お約束な流れも含めて、アッコさん流のおもてなし術を愉しんだ。アッコさんと美智子の掛け合いをまた眺められたのも嬉しかった。まだまだアッコさんに教わる部分が多い美智子も、すっかり中堅社員になり、自分でしっかり考えて仕事ができるようになっていて頼もしさも感じたが、アッコさんと二人の関係は、もうずっと続くのだろうと、その関わりの濃密さが羨ましくなるほどである。ラストではちょっぴりほろりとさせられるアッコさんのひと言もあって、美智子のやる気もますます盛り上がることだろう。次はアッコさん、どこに出没するのか、何を始めるのか、ずっとずっと続いてほしいシリーズである。

私にふさわしいホテル*柚木麻子

  • 2016/04/20(水) 07:43:48

私にふさわしいホテル (扶桑社BOOKS)
扶桑社 (2012-12-31)
売り上げランキング: 6,006

「元アイドルと同時受賞」という、史上最悪のデビューを飾った新人作家・中島加代子。さらに「単行本出版を阻止される」「有名作家と大喧嘩する」「編集者に裏切られる」etc.絶体絶命のトラブルに次々と襲われる羽目に。しかし、あふれんばかりの野心と、奇想天外なアイデアで加代子は自分の道を切り拓いていく―。何があってもあきらめない不屈の主人公・加代子。これぞ、今こそ読みたい新世代の女子下剋上物語。


長いスパンの物語である。小説家として成り上がろうともがく主人公・中島加代子(筆名=相田大樹、あるいは有森樹李)の浮いたり沈んだり突進したり突っかかったりの人生模様の顛末なのである。大学の先輩で担当編集者でもある遠藤や、勝手に宿敵と決めた大御所作家・東十条宗典が、反発し合い罵り合いながらも、なんだかんだでいつもそばにいて、互いにお尻を叩き、あるいはもたれ合いながらも、いつの間にか前に進んでいるのも皮肉っぽくて面白い。コミカルな中に、ほろ苦さやほのかな甘み、温か味も感じられる一冊である。

孤狼の血*柚月裕子

  • 2015/10/21(水) 16:42:55

孤狼の血
孤狼の血
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柚月裕子
KADOKAWA/角川書店 (2015-08-29)
売り上げランキング: 3,099

昭和六十三年、広島。所轄署の捜査二課に配属された新人の日岡は、ヤクザとの癒着を噂される刑事・大上のもとで、暴力団系列の金融会社社員が失踪した事件の捜査を担当することになった。飢えた狼のごとく強引に違法行為を繰り返す大上のやり方に戸惑いながらも、日岡は仁義なき極道の男たちに挑んでいく。やがて失踪事件をきっかけに暴力団同士の抗争が勃発。衝突を食い止めるため、大上が思いも寄らない大胆な秘策を打ち出すが…。正義とは何か、信じられるのは誰か。日岡は本当の試練に立ち向かっていく―。


孤狼の血というタイトル通りの独断専行型で地元暴力団と持ちつ持たれつの関係を築いている暴力団係の刑事・大上の物語である。それは確かなのだが、それだけでは終わらない。配属されたばかりの若手刑事・日岡を可愛がり、暴力団捜査のイロハを伝授する大上の姿を、亡くなった息子と同じ名前に親近感を覚え、育てようとしたのだと思っていたが、ラストの種明かしのあとは、すべて納得ずくだったのだと思えてきて、大上の懐の深さにやられてしまった。決していいこととは思わないが、ある程度の必要悪ということもあるのではないかと思わされる一冊でもある。

幸せになりやがれ*雪舟えま

  • 2015/09/24(木) 06:49:48

幸せになりやがれ
幸せになりやがれ
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雪舟 えま
講談社
売り上げランキング: 221,022

時の流れを越えた”ミドリ”と”タテ”の物語。
ふたりはいつの時代でも、姿や性別がかわっても、いつも愛しあう。
そんな二人の時を超えた”愛”の物語。

緑と楯は恋人同士。ようやく思いを遂げられた! という気持ちのつよい緑は、どうしても楯を束縛しがちだ。いけないと思いつつもやめられない緑。そんなある日、楯が家に帰ってこず、緑は楯を探す旅に出る。最悪のことばかり考えてしまう緑。そして楯を発見するのだが、その姿は変わり果てていた――(「幸せになりやがれ」)

水灯利と縦は性格も家庭環境も全く違う二人の少女。そんな二人がひょんなことから心を通わせ、穏やかだが激しい愛をわかちあっていく。(「水灯利と縦」)


どちらの物語も主人公は(表記こそ違うが)「ミドリ」と「タテ」であり、ほかにも同じ音を持つ人が登場する。それはおそらく、場所や時代や形が違ったとしても、愛の本質は変わらないということなのだろうと勝手に想像するのである。本作では片や少女同士、片や男性同士の愛である。たしかにそれが二本の大きな軸ではあるが、それを描くことで、彼ら彼女らを取り巻く人たちの愛の形も見えてくる。なにしろ愛に包まれた一冊なのである。

蟻の菜園-アントガーデン-*柚木裕子

  • 2015/09/23(水) 07:14:08

蟻の菜園 ―アントガーデン― (『このミス』大賞シリーズ)
柚月 裕子
宝島社
売り上げランキング: 48,500

婚活サイトを利用した連続不審死事件に関与したとして、殺人容疑がかかる円藤冬香。しかし冬香には完璧なアリバイがあり、共犯者の影も見当たらなかった。並外れた美貌をもつ冬香の人生と犯行動機に興味を抱いた週刊誌ライターの由美は、大手メディアを向こうに回して事件を追いはじめる。数奇な運命を辿る美女の過去を追って、由美は千葉・房総から福井・東尋坊へ。大藪賞作家が満を持して放つ、驚愕と慟哭の傑作サスペンス!


マスコミによる報道のされ方や世間の受け止め方とは別の視点で、連続不審死事件に至る真実に迫ろうとするフリーライターの由美が主人公ではあるのだが、実質的には、東尋坊で父親に虐待され続けて育った姉妹の物語である。連続殺人の容疑者である美貌の円藤冬香には完璧なアリバイがあり、殺人を証明するのは難しいのだが、つながらなかったたった一本の電話から、由美が、知り合いに紹介された事件記者・片芝の協力を仰ぎつつ、取材と想像力によって導き出した答えに驚愕する。だが、それは事件の残忍さにというよりも、姉妹の逃れられない苦悩にと言った方がいいかもしれない。ただ、幼いころのことがあるとはいえ、妹の転落ぶりがいささか安易な気がしなくもないのが多少残念でもある。彼女たちにとっては最後まで救いのない物語であり、気持ちのやり場に困る一冊でもある。

パレードの誤算*柚月裕子

  • 2015/06/24(水) 06:56:59

パレートの誤算
パレートの誤算
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柚月 裕子
祥伝社
売り上げランキング: 116,991

念願の市役所に就職がかなった牧野聡美は、生活保護受給者のケアを担当する事になった。 敬遠されがちなケースワーカーのという職務に不安を抱く聡美。先輩の山川は「やりがいのある仕事だ」と励ましてくれた。その山川が受給者たちが住むアパートで撲殺された。受給者からの信頼も篤く、仕事熱心な先輩を誰が、なぜ? 聡美は山川の後を引き継いだが、次々に疑惑が浮上する。山川の知られざる一面が見えてきたとき、新たな惨劇が……。


生活保護受給者とケースワーカーに焦点を当てた物語である。生活保護受給者のさまざまな事情と、それを悪用する貧困ビジネス。そして、受給者に親身に向き合い、あるいは自らの在りように葛藤し、職務の意味に疑問を抱きつつ、あまりにも多い案件を抱えながらも日々奮闘するケースワーカーたち。どうにもならないやりきれなさと、憤り、行き止まりまで追い詰められた時に一条の光となってくれる存在のことなど、さまざまなことを考えさせられる一冊だった。

ナイルパーチの女子会*柚木麻子

  • 2015/06/02(火) 07:21:39

ナイルパーチの女子会
柚木 麻子
文藝春秋
売り上げランキング: 5,634

丸の内の大手商社に勤めるやり手のキャリアウーマン・志村栄利子(30歳)。実家から早朝出勤をし、日々ハードな仕事に勤しむ
彼女の密やかな楽しみは、同い年の人気主婦ブログ『おひょうのダメ奥さん日記』を読むこと。決して焦らない「おひょう」独特の価
値観と切り口で記される文章に、栄利子は癒されるのだ。その「おひょう」こと丸尾翔子は、スーパーの店長の夫と二人で気ままに
暮らしているが、実は家族を捨て出て行った母親と、実家で傲慢なほど「自分からは何もしない」でいる父親について深い屈託を
抱えていた。
偶然にも近所に住んでいた栄利子と翔子はある日カフェで出会う。同性の友達がいないという共通のコンプレックスもあって、二
人は急速に親しくなってゆく。ブロガーと愛読者……そこから理想の友人関係が始まるように互いに思えたが、翔子が数日間ブロ
グの更新をしなかったことが原因で、二人の関係は思わぬ方向へ進んでゆく……。
女同士の関係の極北を描く、傑作長編小説。


他人、ことに同性との関係の築き方、距離の取り方が判らない栄利子は、社内でも浮いた存在になっている。ランチにも誘われず、当然女子会にも声がかからない。そのことに達観できてしまえば楽なのだろうが、そうもいかず、女友達を求めるあまり、偶然出会ったお気に入りブログの書き手の翔子に自分の理想を投影しすぎてしまう。女ってなんて難しいのだろうという思いとともに、自分を正当化する理屈に絡め取られがんじがらめにされていく過程は、とてもよく判る部分もあって、一歩間違えば自分も、と背筋が寒くなる心地にもなる。何事においても「自分」「自分」で「相手」が不在なのだろうなぁ。哀しくやりきれなくもあるが、最後には遠くにちいさな光が見えるようでもあるので、少しほっとする。他人あっての自分なのだということを改めて胸に刻もうと思った一冊である。

夜の木の下で*湯本香樹実

  • 2015/02/08(日) 17:04:14

夜の木の下で夜の木の下で
(2014/11/27)
湯本 香樹実

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話したかったことと、話せなかったこと。はじめての秘密。ゆれ惑う仄かなエロス。つないだ手の先の安堵と信頼。生と死のあわい。読み進めるにつれ、あざやかに呼び覚まされる記憶。静かに語られる物語に深く心を揺さぶられる、極上の傑作小説集。


表題作のほか、「緑の洞窟」 「焼却炉」 「私のサドル」 「リターン・マッチ」 「マジック・フルート」

記憶の中では、世界はいつまでもそのままであり、それでいて気づかないほどわずかずつ姿を変える。そんな確かであって不確かな世界を漂うような印象の物語たちである。決してしあわせいっぱいではない主人公たちの秘められた思いがゆらゆらと揺蕩っているような一冊である。