盤上の向日葵*柚月裕子

  • 2018/01/30(火) 16:47:39

盤上の向日葵
盤上の向日葵
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中央公論新社 (2017-11-07)
売り上げランキング: 878

実業界の寵児で天才棋士。
本当にお前が殺人犯なのか!?

埼玉県天木山山中で発見された白骨死体。遺留品である初代菊水月作の名駒を頼りに、叩き上げの刑事・石破と、かつてプロ棋士を志していた新米刑事・佐野のコンビが調査を開始した。それから四ヶ月、二人は厳冬の山形県天童市に降り立つ。向かう先は、将棋界のみならず、日本中から注目を浴びる竜昇戦会場だ。世紀の対局の先に待っていた、壮絶な結末とは――!?

日本推理作家協会賞作家が描く、渾身の将棋ミステリー!


天木山の中で見つかった将棋の駒を胸に抱いた白骨死体の犯人の捜査に当たる、佐野と石破の章と、奨励会を経ずに、東大を卒業して実業家として名を馳せた後にプロ棋士となり、世間の注目を集めている上条圭介の生い立ちから現在までを追う章とが交互に描かれている。ひと癖もふた癖もある石破と、新米刑事の佐野との関係の推移も興味深く、圭介の恵まれない生い立ちとその後の立身出世の様子、将棋との関わり合い方なども、とても興味深いものである。それ故に、なぜ?と思ってしまうのである。最後の最後でやっと現在の捜査と過去からいままでの恵介の軌跡が合流するのだが、刑事たちは真相にはたどり着いたわけではないのである。この先どうなるのか、気になって仕方がないところで物語は幕を下ろす。読み応え充分で、しかも、先が気になる一冊である。

さらさら流る*柚木麻子

  • 2017/12/09(土) 16:11:36

さらさら流る
さらさら流る
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柚木 麻子
双葉社
売り上げランキング: 154,763

あの人の中には、淀んだ流れがあった――。28歳の井出菫は、かつて恋人に撮影を許した裸の写真が、
ネットにアップされていることを偶然発見する。恋人の名は光晴といった。
光晴はおどけたりして仲間内では明るく振る舞うものの、どこかそれに無理を感じさせる、ミステリアスな危うさを持っていた。しかし、なぜ6年も経って、この写真が出回るのか。
菫は友人の協力も借りて調べながら、光晴との付き合いを思い起こす。
飲み会の帰りに渋谷から暗渠をたどって帰った夜が初めて意識した時だったな……。
菫の懊悩と不安を追いかけながら、魂の再生を問う感動長編。


読み始めてしばらくは、なんだかとらえどころのない物語だという印象だった。だが、暗渠をたどって家まで歩く道筋で、菫と光晴の不安定な安定とでもいうようなものが、すでにちらちらと顔をのぞかせていて、その後の展開に興味が湧いた。客観的にみれば言いたいことはいくらでもあるような二人の関係なのだが、菫の心の動きも光晴の屈託も、すんなりと胸に落ち、どうにもならない心の動きの、まったくどうにもならなさにやり切れなくもなりながら、ある意味共感を覚えたりもする。リベンジポルノ――と言っていいのかどうかはよく判らないが――が題材の一部になってはいるが、決してそれだけではなく、包まれるように守られてきた菫が、自分の脚で立つ物語とも言える。さまざまなことが象徴されているような一冊だと思う。

検事の死命*柚月裕子

  • 2017/11/01(水) 18:19:28

検事の死命 (「このミス」大賞シリーズ)
柚月 裕子
宝島社
売り上げランキング: 34,978

郵便物紛失事件の謎に迫る佐方が、手紙に託された老夫婦の心を救う「心を掬う」。感涙必至! 佐方の父の謎の核心が明かされる「本懐を知る」完結編「業をおろす」。大物国会議員、地検トップまで敵に回して、検事の矜持を貫き通す「死命を賭ける」(『死命』刑事部編)。検察側・弁護側——双方が絶対に負けられない裁判の、火蓋が切られる「死命を決する」(『死命』公判部編)。骨太の人間ドラマと巧緻なミステリーが融合した佐方貞人シリーズ第三作。刑事部から公判部へ、検事・佐方の新たなる助走が、いま始まる!


ストーリーはもちろんだが、登場人物のキャラクタが魅力的である。主人公の佐方は言うに及ばず、事務官の増田、上司の筒井など、周りを固める人物が好きになれると、物語の世界により入り込める気がする。冷静で無表情にも見える佐方の芯の熱さに惹きつけられる一冊である。

朽ちないサクラ*柚月裕子

  • 2017/09/13(水) 16:29:59

朽ちないサクラ
朽ちないサクラ
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柚月 裕子
徳間書店
売り上げランキング: 54,812

米崎県警平井中央署生活安全課が被害届の受理を引き延ばし、慰安旅行に出かけた末に、ストーカー殺人を未然に防げなかったと、新聞にスクープされた。県警広報広聴課で働いて4年、森口泉は、嫌な予感が頭から離れない。親友の新聞記者、千佳が漏らしたのか? 「お願い、信じて」そして、千佳は殺された――。県警広報課事務の私に、何ができる? 大藪春彦賞作家、異色の警察小説。


主人公の泉が、警察の広報課に務める事務員であるというのが珍しい設定である。新聞社の記者である親友を疑ってしまい、その後彼女が殺されたことから、その裏にあることを探り始めるのである。同期の刑事・磯川の協力があるとはいえ、なかなかできることではないだろう。調べていくうちに、カルト教団の存在が浮かび上がり、それで幕引きになるのかと思いきや、事件には更なる裏の存在があったのである。まあ想像には難くない展開ではあるが、一広報課員にここまでされて、報復が心配になってしまうのはわたしだけだろうか。思わず泉の身が心配になってしまう一冊である。

けむたい後輩*柚木麻子

  • 2017/07/08(土) 16:55:07

けむたい後輩
けむたい後輩
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柚木 麻子
幻冬舎
売り上げランキング: 458,965

女は、みんな“自分”が大好き。
気は強いが、傷つきやすい彼女たちが欲しいのは、“自信”だった。

良家の子女が集まる女子大を舞台に
元・有名人の自意識過剰な先輩と世間知らずのダサい後輩が
繰り広げるエゴのぶつけ合い。

金持ちで、才能をもてあまし、男にのめりこむ「栞子」は、ダサくて真面目な後輩・「真実子」の憧れのひと。優越感で満たされていたはずの栞子が抱く苛立ちと哀しみ、そして次第に明かされる真実子の稀有な才能。自分の魅力に気付けない女子大生の繊細な心模様をコミカルに描いた共感度100%の成長物語。著者にしか書けない視点で、プライドや劣等感を痛切に描き、女性なら誰でも胸に突き刺さる小説です。


またまた女子の物語である。男性も登場はするが、どの男も魅力のかけらもない。女子たちは一見個性的ではあるが、それぞれが違った意味で自己認証欲求が強すぎて、痛々しくさえ思われる。若い女というものは、ここを通りすぎずには大人になれないものだろうか。だが、女の園の在りようは見事に描かれていると思う。ああ女って面倒くさい、という感じの一冊である。

BUTTER*柚木麻子

  • 2017/07/07(金) 07:11:36

BUTTER
BUTTER
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柚木 麻子
新潮社
売り上げランキング: 1,923

木嶋佳苗事件から8年。獄中から溶け出す女の欲望が、すべてを搦め捕っていく――。男たちから次々に金を奪った末、三件の殺害容疑で逮捕された女、梶井真奈子。世間を賑わせたのは、彼女の決して若くも美しくもない容姿だった。週刊誌で働く30代の女性記者・里佳は、梶井への取材を重ねるうち、欲望に忠実な彼女の言動に振り回されるようになっていく。濃厚なコクと鮮烈な舌触りで著者の新境地を開く、圧倒的長編小説。


木嶋佳苗の事件にヒントを得てはいるが、木嶋佳苗の物語と思って読むと期待外れになるかもしれない。これは、木嶋に触発されて生まれた梶井真奈子に触れることで、押し込めていたものが濃厚なバターのように溶け、溢れ出して、自分というものの形を見失いそうになりながら、何とか立て直していく女性たちの物語なのだと思う。読みながら、時に苦しくなり、また時にはイライラし、そしてまた、鮮やかに想像できる部分もあって、人間の、ことに女の複雑さ底知れなさを思い知らされるような一冊だった。

早稲女、女、男*柚木麻子

  • 2017/07/03(月) 07:09:58

早稲女、女、男
早稲女、女、男
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柚木 麻子
祥伝社
売り上げランキング: 418,502

面倒臭くて痛々しいけど、憎めない
ワセジョと5人の女子の等身大の物語

男勝りでプライドが高くて酒豪。だけど本当は誰よりも純粋で不器用。
そんな早稲女の中の早稲女、早乙女香夏子は就職活動を終えたばかりの早稲田大学教育学部の四年生。
演劇サークルの幹事長で七年生の長津田との腐れ縁はなんだかんだでもう4年目だが、このところ口げんかが絶えない。
そんなとき、香夏子は内定先の先輩・吉沢から告白される。
女の子扱いされることに慣れていない香夏子は吉沢の丁重な態度に戸惑ってしまう。
過剰な自意識ゆえに素直に甘えることができず、些細な事にいちいち傷つき、悩み、つまづく……。
そんな彼女を、周囲で取り巻く他大学の女子たちはさまざまな思いを抱えながら見つめていた――
それぞれが抱える葛藤、迷い、恋の行方は?


まったくもって面倒くさい人種である。早稲女が、というよりも、大学生から社会人として序盤の女が、といったほうがいいかもしれないが。とにかく、傾向の違うさまざまな自意識が渦巻いていて、ときおり本を投げ捨てたくなるほど面倒くさい。こんな面倒くささを通り抜けなければ大人の女になれないのだろうか、と思ってしまう。個人的には、穏やかにやり過ごしたい時期である。でもまあ、だから何だという一冊でもある。

合理的にあり得ない 上水流涼子の解明*柚月裕子

  • 2017/04/14(金) 16:32:06

合理的にあり得ない 上水流涼子の解明
柚月 裕子
講談社
売り上げランキング: 31,451

「殺し」と「傷害」以外、引き受けます。
美貌の元弁護士が、あり得ない依頼に知略をめぐらす鮮烈ミステリー!

不祥事で弁護士資格を剥奪された上水流涼子は、
IQ140 の貴山をアシスタントに、探偵エージェンシーを運営。
「未来が見える」という人物に経営判断を委ねる二代目社長、
賭け将棋で必勝を期すヤクザ……。
明晰な頭脳と美貌を武器に、怪人物がらみの
「あり得ない」依頼を解決に導くのだが――。


表題作のほか、「確率的にあり得ない」 「戦術的にあり得ない」 「心情的にあり得ない」 「心理的にあり得ない」

未来を予知するという人物に頼り切る社長、怪しげな新興宗教の教祖のような人物に大金を貢ぐ女、将棋の勝負にこだわるやくざ、孫娘を探している上水流涼子の宿敵の男、野球賭博で人生を棒に振る男。さまざまな怪しい人物がらみの事案が持ち込まれる、探偵事務所「上水流(かみづる)エージェンシー」を運営するのは、元弁護士の上水流涼子、そしてIQ140のアシスタント兼雑用係の貴山である。貴山の多岐にわたる知識の引き出しのあちこちを開けて、厄介な事案を解決する過程ももちろん愉しめるのだが、その合間の涼子と貴山の掛け合いが、コントのようでちょうどいい間になっている。このコンビ、もっと見たいと思わされる一冊である。

慈雨*柚木裕子

  • 2017/02/26(日) 06:59:51

慈雨
慈雨
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柚月 裕子
集英社
売り上げランキング: 15,721

警察官を定年退職した神場智則は、妻の香代子とお遍路の旅に出た。42年の警察官人生を振り返る旅の途中で、神場は幼女殺害事件の発生を知り、動揺する。16年前、自らも捜査に加わり、犯人逮捕に至った事件と酷似していたのだ。神場の心に深い傷と悔恨を残した、あの事件に――。
かつての部下を通して捜査に関わり始めた神場は、消せない過去と向き合い始める。組織への忠誠、正義への信念……様々な思いの狭間で葛藤する元警察官が真実を追う、日本推理作家協会賞受賞作家渾身の長編ミステリー!


定年退職したばかりの元刑事・神場智則が、遍路の旅で、これまで関わってきた事件と、それにまつわる様々な思いを見つめ直す物語なのだが、そればかりではなく、同行している妻や家族との来し方行く末を見つめる物語でもあり、趣き深い。一方、現実には過去に悔いを残す幼女殺害事件と酷似した事件が起きており、部下の刑事と連絡を取りつつ、捜査に協力してもいる。そしてそれは、とりもなおさず、過去の悔恨を暴き出すことでもあり、葛藤もあるのである。登場人物それぞれがそれぞれに誰かを思い、苦悩し、それでも深く信頼する姿に胸を打たれる。ただ、冤罪を疑われている服役囚に神場の思いが通じるとは思えず、それがいささかやり切れなくもある。静かな中にも心をざわめかせる一冊である。

あしたの君へ*柚月裕子

  • 2016/11/05(土) 16:44:00

あしたの君へ
あしたの君へ
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柚月 裕子
文藝春秋
売り上げランキング: 116,500

家庭裁判所調査官の仕事は、少年事件や離婚問題の背景を調査し、解決に導くこと。見習いの家裁調査官補は、先輩から、親しみを込めて「カンポちゃん」と呼ばれる。「カンポちゃん」の望月大地は、少年少女との面接、事件の調査、離婚調停の立ち会いと、実際に案件を担当するが、思い通りにいかずに自信を失うことばかり。それでも日々、葛藤を繰り返しながら、一人前の家裁調査官を目指す―


家裁調査官の見習い「カンポちゃん」にスポットを当てたお仕事物語である。表面に現れないところに深く潜航する申立人の思いを、なかなか理解できず、自分の資質に疑問を抱き悩む望月大地の姿は、新人らしくて好感が持てる。先輩調査官のアドバイスは、時に厳しく、また時にはあたたかく胸に沁み、なんとかあしたにつなげることができている。関係先に自ら足を運んで調査を進める内に、面接では見えなかったさまざまな事情が見えてきて、事案を解決に導くことができても、ほんとうにこれでよかったのかと葛藤を抱えることになることもある。一歩ずつプロの家裁調査官への道を進む大地の日々から目が離せなくなる一冊である。

あまからカルテット*柚木麻子

  • 2016/08/23(火) 16:48:02

あまからカルテット
あまからカルテット
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柚木 麻子
文藝春秋
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女子校時代からの仲良し四人組、ピアノ講師の咲子、編集者の薫子、美容部員の満里子、料理上手な由香子も、いよいよ三十歳目前。恋に仕事に押し寄せる悩みを、美味しい料理をヒントに無事解決へ導けるか!?


まったくタイプの違う女子四人組が、時に反発し合い、文句を言いながらも、お互いを無条件に信頼し、その信頼に応えようとする様は、見ていて微笑ましい。それぞれに持ちあがる日常の謎的出来事を、解決に導く道筋も、それぞれらしくて好感が持てる。ラストの場面での「四人で一人だと思っていたけれど、一人でもやれるから四人でもやれるんだ」という咲子のつぶやきが、すべてを物語っているようである。この世人をもっともっと見たいと思わされる一冊である。

幹事のアッコちゃん*柚木麻子

  • 2016/06/01(水) 09:55:51

幹事のアッコちゃん
幹事のアッコちゃん
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柚木 麻子
双葉社
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背中をバシッと叩いて導いてくれる、アッコさん節、次々とサク裂!妙に冷めている男性新入社員に、忘年会プロデュースの極意を…(「幹事のアッコちゃん」)。敵意をもってやって来た取材記者に、前向きに仕事に取り組む姿を見せ…(「アンチ・アッコちゃん」)。時間の使い方が下手な“永遠の部下”澤田三智子を、平日の習い事に強制参加させて…(「ケイコのアッコちゃん」)。スパイス絶妙のアドバイスで3人は変わるのか?そして「祭りとアッコちゃん」ではアッコ女史にも一大転機が!?突破の大人気シリーズ第3弾。


今度は幹事である。水戸黄門的お約束な流れも含めて、アッコさん流のおもてなし術を愉しんだ。アッコさんと美智子の掛け合いをまた眺められたのも嬉しかった。まだまだアッコさんに教わる部分が多い美智子も、すっかり中堅社員になり、自分でしっかり考えて仕事ができるようになっていて頼もしさも感じたが、アッコさんと二人の関係は、もうずっと続くのだろうと、その関わりの濃密さが羨ましくなるほどである。ラストではちょっぴりほろりとさせられるアッコさんのひと言もあって、美智子のやる気もますます盛り上がることだろう。次はアッコさん、どこに出没するのか、何を始めるのか、ずっとずっと続いてほしいシリーズである。

私にふさわしいホテル*柚木麻子

  • 2016/04/20(水) 07:43:48

私にふさわしいホテル (扶桑社BOOKS)
扶桑社 (2012-12-31)
売り上げランキング: 6,006

「元アイドルと同時受賞」という、史上最悪のデビューを飾った新人作家・中島加代子。さらに「単行本出版を阻止される」「有名作家と大喧嘩する」「編集者に裏切られる」etc.絶体絶命のトラブルに次々と襲われる羽目に。しかし、あふれんばかりの野心と、奇想天外なアイデアで加代子は自分の道を切り拓いていく―。何があってもあきらめない不屈の主人公・加代子。これぞ、今こそ読みたい新世代の女子下剋上物語。


長いスパンの物語である。小説家として成り上がろうともがく主人公・中島加代子(筆名=相田大樹、あるいは有森樹李)の浮いたり沈んだり突進したり突っかかったりの人生模様の顛末なのである。大学の先輩で担当編集者でもある遠藤や、勝手に宿敵と決めた大御所作家・東十条宗典が、反発し合い罵り合いながらも、なんだかんだでいつもそばにいて、互いにお尻を叩き、あるいはもたれ合いながらも、いつの間にか前に進んでいるのも皮肉っぽくて面白い。コミカルな中に、ほろ苦さやほのかな甘み、温か味も感じられる一冊である。

孤狼の血*柚月裕子

  • 2015/10/21(水) 16:42:55

孤狼の血
孤狼の血
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柚月裕子
KADOKAWA/角川書店 (2015-08-29)
売り上げランキング: 3,099

昭和六十三年、広島。所轄署の捜査二課に配属された新人の日岡は、ヤクザとの癒着を噂される刑事・大上のもとで、暴力団系列の金融会社社員が失踪した事件の捜査を担当することになった。飢えた狼のごとく強引に違法行為を繰り返す大上のやり方に戸惑いながらも、日岡は仁義なき極道の男たちに挑んでいく。やがて失踪事件をきっかけに暴力団同士の抗争が勃発。衝突を食い止めるため、大上が思いも寄らない大胆な秘策を打ち出すが…。正義とは何か、信じられるのは誰か。日岡は本当の試練に立ち向かっていく―。


孤狼の血というタイトル通りの独断専行型で地元暴力団と持ちつ持たれつの関係を築いている暴力団係の刑事・大上の物語である。それは確かなのだが、それだけでは終わらない。配属されたばかりの若手刑事・日岡を可愛がり、暴力団捜査のイロハを伝授する大上の姿を、亡くなった息子と同じ名前に親近感を覚え、育てようとしたのだと思っていたが、ラストの種明かしのあとは、すべて納得ずくだったのだと思えてきて、大上の懐の深さにやられてしまった。決していいこととは思わないが、ある程度の必要悪ということもあるのではないかと思わされる一冊でもある。

幸せになりやがれ*雪舟えま

  • 2015/09/24(木) 06:49:48

幸せになりやがれ
幸せになりやがれ
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雪舟 えま
講談社
売り上げランキング: 221,022

時の流れを越えた”ミドリ”と”タテ”の物語。
ふたりはいつの時代でも、姿や性別がかわっても、いつも愛しあう。
そんな二人の時を超えた”愛”の物語。

緑と楯は恋人同士。ようやく思いを遂げられた! という気持ちのつよい緑は、どうしても楯を束縛しがちだ。いけないと思いつつもやめられない緑。そんなある日、楯が家に帰ってこず、緑は楯を探す旅に出る。最悪のことばかり考えてしまう緑。そして楯を発見するのだが、その姿は変わり果てていた――(「幸せになりやがれ」)

水灯利と縦は性格も家庭環境も全く違う二人の少女。そんな二人がひょんなことから心を通わせ、穏やかだが激しい愛をわかちあっていく。(「水灯利と縦」)


どちらの物語も主人公は(表記こそ違うが)「ミドリ」と「タテ」であり、ほかにも同じ音を持つ人が登場する。それはおそらく、場所や時代や形が違ったとしても、愛の本質は変わらないということなのだろうと勝手に想像するのである。本作では片や少女同士、片や男性同士の愛である。たしかにそれが二本の大きな軸ではあるが、それを描くことで、彼ら彼女らを取り巻く人たちの愛の形も見えてくる。なにしろ愛に包まれた一冊なのである。