まひるまの星--紅雲町珈琲屋こよみ*吉永南央

  • 2017/04/01(土) 16:58:49

まひるまの星 紅雲町珈琲屋こよみ
吉永 南央
文藝春秋
売り上げランキング: 181,796

コーヒーと和食器の店「小蔵屋」の敷地に、山車蔵を移転する話が持ち上がった。祭りの音が響く真夏の紅雲町で、草は町全体に関わるある重大な事実に気づく―日常の奥に覗く闇にドキリとする、シリーズ第5弾。


今回は、お草さんにとって、苦い思いも多い物語になった。母と鰻屋の清子との確執が自分の代にも影響を及ぼし、断絶したままなのをどうにかしたいと思いながら、断絶の理由も聞けぬままできょうまで来てしまっていた。そんなところに、小蔵屋の敷地に山車蔵を移転する話が持ち上がり、自らの引退時期など諸々の事々を鑑みて、小蔵や以外の移転先と目星をつけたのが、清子の鰻屋の前の工場跡地であり、そこから話がややこしくなっていく。鰻屋の息子の滋と嫁の丁子や娘の瞳との関係や、草の亡き母への思いなども絡めて、心にかかることの多いこのごろになっている。小蔵屋に流れるゆったりとした時間の心地好さと、お草さんの優等生過ぎないキャラクタが好ましい。身体を大切にして、いつまでも小蔵屋を続けてほしいと願うシリーズである。

いまさら翼といわれても*米澤穂信

  • 2017/01/25(水) 17:05:38

いまさら翼といわれても
米澤 穂信
KADOKAWA (2016-11-30)
売り上げランキング: 530

累計205万部突破の〈古典部〉シリーズ最新作!
誰もが「大人」になるため、挑まなければいけない謎がある――『満願』『王とサーカス』の著者による、不動のベスト青春ミステリ!

神山市が主催する合唱祭の本番前、ソロパートを任されている千反田えるが行方不明になってしまった。
夏休み前のえるの様子、伊原摩耶花と福部里志の調査と証言、課題曲、ある人物がついた嘘――折木奉太郎が導き出し、ひとりで向かったえるの居場所は。そして、彼女の真意とは?(表題作)

時間は進む、わかっているはずなのに。
奉太郎、える、里志、摩耶花――〈古典部〉4人の過去と未来が明らかになる、瑞々しくもビターな全6篇。


表題作のほか、「箱の中の欠落」 「鏡には映らない」「連峰は晴れているか」 「わたしたちの伝説の一冊」 「長い休日」

相変わらず、やらなくていいことはやらないというモットー通りに生きている折木奉太郎ではあるが、今作では、そうなった理由も明かされ、熱を帯びた彼の姿も時折見ることができて、大人になっていることを思わされもする。それぞれの章で謎の中心にいる人物は、それぞれにその世代なりの大変な思いを抱えていることは確かなのだが、人が死なないというのはこんなにも安らかに読み進められるのかと、改めてほっとさせられる。生きているといろんな壁にぶつかり、これほど高い壁はほかにはないと思い込んでしまいがちだが、大抵のことは振り返れば乗り越えられているのだと思う。彼らもひとつずつ壁を乗り越えて大人になっていくのだろうと、感慨深く読んだ。彼らの関係が変わらずに在ってほしいと思う反面、少しずつ変わっていくのだろうなと思わずにはいられない一冊である。

ヒワマン日和*吉永南央

  • 2016/11/07(月) 07:19:14

ヒワマン日和
ヒワマン日和
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吉永 南央
光文社
売り上げランキング: 193,410

「事件」の裏にある別の顔が、ヒワマンによって暴かれる。

離婚、出世、殺人……。人生の綻びに戸惑い、苦悩する人々が、ふとしたきっかけで出会った黒ずくめの女性・日和満。自らをヒワマンと呼ぶ彼女と、時を重ねて行く中、新たな希望を見いだす人々の様を描く、新次元のミステリ!


「殺人日和」 「転職日和」 「痴漢日和」 「離婚日和」 「逃走日和」

ヒワマンこと日和満(ひわみちる)は黒ずくめで細長く切れ長の目をしている。事件が起きる臭いをかぎ分ける能力があるかのように、何かが起こりそうな現場にさりげなく現れ、するっと当事者のそばに忍び寄って未然に防ぎ、しかもいかにも自然に事の本質を解き明かしてしまう。そしていつの間にか、ヒワマンにまつわる人たちを遠く近く繋げてしまう不思議な存在でもある。大胆なのか繊細なのか、無神経なのか思いやりに満ちているのか、暗いのか明るいのかよくわからないところもまた魅力なのかもしれない。ともかく一度会ったら着いていきたくなってしまいそうなのである。大きなキャリーバッグひとつであちこちへ赴き、しばらく棲みついてはまたどこへともなく去っていくヒワマンである。寂しくはないのかなあと思ってしまうのも、ヒワマンにとっては迷惑なのかもしれない。次はどこへ行って何を解き明かすのか、もっともっと見てみたい一冊である。

台所のラジオ*吉田篤弘

  • 2016/07/22(金) 16:50:22

台所のラジオ
台所のラジオ
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吉田篤弘
角川春樹事務所
売り上げランキング: 83,027

昔なじみのミルク・コーヒー、台所のラジオと夜ふけのお茶漬け、江戸の宵闇でいただくきつねうどん、子供のころの思い出のビフテキ…。滋味深く静かな温もりを胸に灯す12の美味しい物語。『ランティエ』連載を単行本化。


さまざまな場所、さまざまな状況で、台所に置いたラジオを聴く――あるいは聞くともなく聞く――時間。ラジオのなかで話す人の声と、その声を耳にした人たちとが、ひとつになるほんの一瞬があるのかもしれない。いろんな場所にあるそれぞれ別の台所に、ぽつんと置かれたラジオと、そこから動き出す情景が目に見えるようである。実に現実的なようであって、ほんの少しばかりのずれのなかに迷い込んだような、吉田ワールドが堪能できる一冊である。

放課後スプリング・トレイン*吉野泉

  • 2016/05/26(木) 19:47:41

放課後スプリング・トレイン (創元推理文庫)
吉野 泉
東京創元社
売り上げランキング: 102,572

四月のある日、私は親友から年上の彼氏を紹介され、同席していた大学院生の飛木さんと知り合う。彼は、天神に向かう電車で出会った婦人の奇妙な行動や、高校の文化祭でのシンデレラのドレス消失騒動など、私の周りで起こる事件をさらりと解き明かしてみせる不思議な人だった。「飛木さん、どうしたら謎が解けるようになりますか?」福岡を舞台に贈る、透明感溢れる青春ミステリ。


舞台は福岡。しばらく住んでいたことがあるので、馴染み深く、まずそこから興味をそそられた。日常の謎を探偵役が解き明かす物語であり、主人公は高校生女子。だが、探偵役は知り合ったばかりの大学院生で、親友の彼の友人、飛木さんである。なかなか珍しい状況ではないだろうか。しかもこの飛木さん、ずいぶんシャイな印象なのだが、よく食べる。人の三倍は軽くいきそうなのである。その辺のミスマッチも魅力的。そんな彼が解き明かす謎は、いかにも高校生らしく、トラブルではあるものの青春という感じで、これもいい。そしてなにより、解き明かし方に愛があるのがいちばん好ましい。明かされた後のことまでちゃんと考えたうえで発言している飛木さん、素敵である。文章もヘンに凝ることなく、さらりとしているのが読みやすくていい。さらに最後に飛木さんに告白した名前の謎が、さすがである。なるほどーー。二人の今後も気になるし、続きも読みたい一冊である。

真実の10メートル手前*米澤穂信

  • 2016/03/09(水) 17:18:14

真実の10メートル手前
真実の10メートル手前
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米澤 穂信
東京創元社
売り上げランキング: 7,992

高校生の心中事件。二人が死んだ場所の名をとって、それは恋累(こいがさね)心中と呼ばれた。週刊深層編集部の都留は、フリージャーナリストの太刀洗と合流して取材を開始するが、徐々に事件の有り様に違和感を覚え始める…。太刀洗はなにを考えているのか?滑稽な悲劇、あるいはグロテスクな妄執―己の身に痛みを引き受けながら、それらを直視するジャーナリスト、太刀洗万智の活動記録。日本推理作家協会賞受賞後第一作「名を刻む死」、本書のために書き下ろされた「綱渡りの成功例」など。優れた技倆を示す粒揃いの六編。


太刀洗万智の活動記録だが、フリーランスになる前の記者時代のものもある。独特の取材姿勢と鋭い洞察力は、行動を共にする人にとっては、とっつきにくいかもしれないが、その真摯さを知った後では、次の出方に興味津々にもなるのではないだろうか。とはいえ、現場ではそんな暢気なことを言ってはいられない。彼女が取材対象者に向かって繰り出す質問の真意は後になってから判るのである。一見クールな太刀洗万智であるが、渦中の人のことを本気で考えてもいるので、好感度が上がる。彼女のことをもっと知りたくなる一冊である。

電球交換士の憂鬱*吉田篤弘

  • 2016/02/29(月) 17:06:43

電球交換士の憂鬱 (文芸書)
吉田 篤弘
徳間書店
売り上げランキング: 28,339

世界でただひとり、彼にだけ与えられた肩書き「電球交換士」。こと切れたランプを再生するのが彼の仕事だ。人々の未来を明るく灯すはずなのに、なぜか、やっかいごとに巻き込まれる―。謎と愉快が絶妙にブレンドされた魅惑の連作集。


電球交換士の十文字扉の物語。かかりつけのやぶ医者(本人曰く)に、不死身であると宣告されて以来、「どうせ」死なないのだから、という諦めと虚しさのような気分に浸されているような気がしている。電球を交換してほしいという依頼があれば、あちこちに出向いて「十文字電球」に交換するが、その電球にも実は事情があって、いずれこのままではいけないという思いを抱えているのである。行きつけのバーに集う常連客達とのやり取りや、それぞれの事情に考えさせられることもあり、滅びていくものと続いていくもの、そして新しく作られるもののことに思いを馳せたりもする。不死身の我が身の来し方行く末を考えるのも、途方もない心地である。いくつもの軸を持って流れている時間というもののことを考えさせられる一冊でもあるような気がする。

王とサーカス*米澤穂信

  • 2015/10/13(火) 18:59:47

王とサーカス
王とサーカス
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米澤 穂信
東京創元社
売り上げランキング: 3,462

2001年、新聞社を辞めたばかりの太刀洗万智は、知人の雑誌編集者から海外旅行特集の仕事を受け、事前取材のためネパールに向かった。現地で知り合った少年にガイドを頼み、穏やかな時間を過ごそうとしていた矢先、王宮で国王をはじめとする王族殺害事件が勃発する。太刀洗はジャーナリストとして早速取材を開始したが、そんな彼女を嘲笑うかのように、彼女の前にはひとつの死体が転がり……。「この男は、わたしのために殺されたのか? あるいは――」疑問と苦悩の果てに、太刀洗が辿り着いた痛切な真実とは?

『さよなら妖精』の出来事から10年の時を経て、太刀洗万智は異邦でふたたび、自らの人生をも左右するような大事件に遭遇する。2001年に実際に起きた王宮事件を取り込んで描いた壮大なフィクションにして、米澤ミステリの記念碑的傑作!


実際に起こった事件が軸にあるからか、臨場感にあふれており、完全なフィクションとは思えない印象もある。太刀洗万智の置かれた状況と、トーキョーロッジの主や投宿する人々とのやり取りにもある種の含みが感じられて、これから起こることへの興味を掻き立てられる。後半はミステリ要素が少し増え、万智の気づきと思案を我が事のように読み進む。日本が舞台ではあり得ないことごとが異国情緒とともに独特の雰囲気を醸し出し、現実離れした浮遊感のようなものも感じられる。心に響く言葉は善人だけに言えるものではないのだと改めて思わされた一冊でもある。

森は知っている*吉田修一

  • 2015/08/09(日) 13:41:44

森は知っている
森は知っている
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吉田 修一
幻冬舎
売り上げランキング: 37,230

自分以外の人間は誰も信じるな―子供の頃からそう言われ続けて育てられた。しかし、その言葉には、まだ逃げ道がある。たった一人、自分だけは信じていいのだ。ささやかでも確かな“希望”を明日へと繋ぐ傑作長篇!


『太陽は動かない』で非情な産業スパイとして働いた鷹野が、17歳の頃の物語である。スパイ小説は得意な方ではないが、そこに至る鷹野の事情や、ある意味それに付け入る大人たちの都合、そしてそんな中でも鷹野や同じような境遇の少年たちを気遣い見守るまなざしの物語は、胸に迫るものがある。AN通信に保護されてから、18歳になるまでの鷹野や柳は、深奥に苦しい思いを抱えているとは言うものの、実に少年らしく光り輝く日々を送っていた。それを目にすることができたのは救いと言えると思う。だが、今後のことを思うと地団太を踏みたくなるような一冊でもある。

太陽は動かない*吉田修一

  • 2015/07/03(金) 13:23:23

太陽は動かない
太陽は動かない
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吉田 修一
幻冬舎
売り上げランキング: 158,640

新油田開発利権争いの渦中で起きた射殺事件。AN通信の鷹野一彦は、部下の田岡と共に、その背後関係を探っていた。商売敵のデイビッド・キムと、謎の美女AYAKOが暗躍し、ウイグルの反政府組織による爆破計画の噂もあるなか、田岡が何者かに拉致された…。いったい何が起きているのか。陰で糸引く黒幕の正体は?それぞれの思惑が水面下で絡み合う、目に見えない攻防戦。謀略、誘惑、疑念、野心、裏切り、そして迫るタイムリミット―。


スパイ物と知って読み始めたのだが、苦手な分野でもあり、入り込むまでにはやや時間を要した。だが、物語に動きが出てくると、展開に目が離せなくなり、後半はあっという間に読み切った感がある。鷹野らが諜報員になった経緯や、国会議員の一回生・五十嵐が大きすぎる動きに巻き込まれていく様子、味方なのか敵なのか読み切れないスリル。そして何より登場人物それぞれのキャラクタが、ありがちながら絶妙で惹かれてしまう。映像向きの一冊でもあると思う。

キッズタクシー*吉永南央

  • 2015/04/28(火) 07:31:38

キッズタクシー (文春文庫)キッズタクシー (文春文庫)
(2015/03/10)
吉永 南央

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タクシードライバーの千春には、正当防衛で人を死なせた過去があった。ある日、千春のタクシーを予約していた小学生が失踪する。その後少年の行方は判明したが、千春の過去に関連づけた噂が流れたため後味の悪さを残していた。さらに彼女の周りでは、不穏な出来事が相次ぐ。一体誰の、どんな思惑があるのか。


キッズタクシー。塾や病院、学校などへ、会員の依頼を受けて子どもを送り届けるタクシーである。実際こんなタクシーがあるのかどうかは知らないが、このタクシーのドライバー千春が主人公である。担当する子どもは基本的には決まっているので、子どもの性格もある程度把握しているし、乗車時の様子でいつもと何かが違うとか、言いたいことがありそうだとか、気がつくこともある。ある日、トラックの荷崩れ事故に巻き込まれ、約束の時間に二分遅れて到着すると、そこに待っているはずの壮太はいなかった。それが事の起こりである。千春の過去と現在、そしてこれから。ひとり息子の修との関係。いなくなった壮太と母・公子の関係。職場の人間関係。さまざまなつながりが、それぞれの事情と絡み合い、がんじがらめにされていく。やりきれなさと切なさに胸を締めつけられ、人の想いのあたたかさに熱いものがこみ上げる一冊である。

Fの記憶*吉永南央

  • 2015/03/29(日) 18:50:42

Fの記憶Fの記憶
(2009/10/31)
吉永 南央

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名前も思い出せず、顔もおぼろげなのに、ふと気がつくと思い出す同級生の「F」。かつて同級生だった3人の心には、あの日以来ずっと「F」が棲みついている。そして、40歳を過ぎた今、「F」が彼らの人生を動かす―


Fこと中谷晶は、小学校の学芸会の劇の際、手違いでひとりだけ役がなく、間に合わせで作られた被り物をかぶったFという役を与えられて以来、みんなからFと呼ばれるようになり、次第に本名は忘れ去られていったのだった。40代になり、あのころFをイジメたり関わったりした者たちの人生にトラブルが起きたとき、彼らはどういうわけかFのことを思い出し、彼の影に脅えるようになるのである。結局実際に、Fは彼らに何かを仕掛けることもなく、平穏や親密さとは縁のない人生を送っていたのだが、最後によりどころとも言える存在に出会うことができたのだろう。そして、かつての同級生たちは、Fの影を感じることで勝手に自らのうしろめたさにとらわれ続けることになるのだろう。記憶の底しれなさを思わされる一冊である。

ソラシド*吉田篤弘

  • 2015/03/05(木) 16:52:40

ソラシドソラシド
(2015/01/30)
吉田 篤弘

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拍手もほとんどない中、その二人組は登場した。ひとりはギターを弾きながら歌い、もうひとりは黙々とダブル・ベースを弾きつづけた。二人とも男の子みたいな女の子だった。彼女たちの音楽は1986年のあの冬の中にあった――。消えゆくものと、冬の音楽をめぐる長篇小説。


現代と1968年とをゆるやかに行き来するような物語である。「冬の音楽」を奏でたいと言ったカオルとソラのデュオ「ソラシド」を探す旅の物語でもあり、主人公と異母妹とその親たちをめぐる物語でもある。躰は現在に在るとしても、想いが流れるように遠く近くに旅をするような印象の一冊である。

青い翅*吉永南央

  • 2015/01/27(火) 18:18:31

青い翅青い翅
(2014/12/17)
吉永 南央

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版画家の黒木が消えた。美しい蝶“ユリシス”の木版画を託された親友の善如寺は、黒木の才能を信じ、この「複数性に頼らない、絵画のような版画」を大切に守ってきた。だが18年後、善如寺は4枚もの複製の存在を知る。それらは偽物なのか?あるいは黒木に裏切られていたのか?衝撃を受けた善如寺が探偵に依頼した調査は、思わぬ人物へと波紋を広げてゆく。“信頼”と“希望”をめぐる傑作長編ミステリー。


自らがもつ色ではなく、光を反射して美しい青色を成す蝶・ユリシス。版画家の黒木は友人の善如寺に唯一のユリシスの木版画を託し、後に行方不明になった。18年経ち、唯一無二と信じていたユリシスが、ほかに四枚も存在することを知り、善如寺は不審に思い調査を依頼するのだが……。現在と過去とを行き来しながら物語が進むにつれ、黒木とその周りで起こったことが少しずつ明らかになっていくのだが、真実がひとつ明らかにされるたびに、切ないような複雑な心地にさせられる。そして、すべてを白日の下に晒すのが果たしていいことなのだろうか、という思いにとらわれる。読み応えのある一冊だった。

電氣ホテル*吉田篤弘

  • 2014/10/12(日) 09:35:24

電氣ホテル電氣ホテル
(2014/09/25)
吉田 篤弘

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二人の詩人の冒険に立ちはだかる
謎につぐ謎、奇人また奇人!
停電調査の旅に出た詩人・オルドバと猿のチューヤー。
この世の二階から魔都・東京の夜景を見おろす詩人・シャバダ。
忽如として行方不明になった十数名の「児島」と、その謎を追う探偵・中田と相棒の探偵犬・終列車。
物語の行方は、この世の二階にあるといわれる、幻の〈電氣ホテル〉へ――。
奇怪にして愉快な活劇小説!


そもそも、停電調査人の上田(オルドバ)が停電調査は旅であるという自説故に、尾久へ行くのにやたらと遠回りをし、旅となそうとしたのが事の始まり。尾久へ直行していたら、この物語はなかったのかもしれない。いや、そうではなく、誰が何をしようとどこへ行こうと、変わらなくあったのかもしれない。この世の二階の辺りで、静かに。尾久へ向かうオルドバとチューヤーをどんどん遠く離れて物語は中二階、二階、三階、(四階)辺りをさまようが、まわりまわってまたオルドバたちへと帰って来る。かと言って何かが解決したわけではない。大停電の謎は解けたが……。下町の一画で起こっていることとはついぞ思えない長く遠く草臥れる旅であったことよ、と思わされる一冊である。