ランプコントロール*大崎善生

  • 2011/12/08(木) 17:10:02

ランプコントロールランプコントロール
(2010/07)
大崎 善生

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あの日、たしかに二人は別れたはずだった。けれど僕らは同じ灯を見つける。何度でも、何度でも―。恋愛小説の名手による最新長篇。東京とフランクフルトを舞台に綴られる時を超えた純愛と、魂の救済の物語。


東京とフランクフルトに別れ別れになった直人と理沙。理沙の別れの意思を酌み、フランクフルトでの暮らしをなんとか前向きにしようとドイツ語習得に励む直人。部屋をシェアする仲間もでき、恋人もできて愉しく充実した暮らしを満喫した三年間だったが、東京へ戻されることになる。抜け殻のようになりながらもなんとか自分を立て直そうとする直人の前に現れたのは、理沙の母だった。
激しさも生々しさも描かれているのだが、全編を流れる空気は透明感にあふれ、温度のない済んだ水がひたひたと足元に流れ寄るような印象である。フランクフルトでの暮らしのすべてが一瞬にして覆されたような理沙の母の登場だったが、その三年間があったからこその直人の行動だったようにも思われる。なにかを全うするときに別の何かを捨てなければならないのは苦しすぎるが、それでも、ということはあるものなのだろう。ステファニーの気持ちを思うといたたまれないものがあるが、本を閉じたあとの直人と理沙がきっとその答えを出してくれるのだろう。切なく苦しく愛おしい一冊である。

Railway Stories*大崎善生

  • 2010/08/31(火) 16:53:51

Railway StoriesRailway Stories
(2010/03/20)
大崎善生

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終着駅は記憶の中――
車窓の向こうに揺れる
切ない記憶の物語。


切ない青春時代の恋、家族の原風景、父の死、
様々なテーマで描かれた十篇の珠玉短編集。


夏の雫  橋または島々の喪失  失われた鳥たちの夢  不完全な円  もしその歌が、たとえようもなく悲しいのなら  フランスの自由に、どのくらい僕らは、追いつけたのか?  さようなら、僕のスウィニー  虚無の紐  確かな海と不確かな空  キャラメルの箱


いろいろな場所のさまざまな列車をモチーフにした短編集。主人公は物語ごとに違うのだが、どこか著者自身を想わせられるようである。さまざまな年代、さまざまな境遇ではあるが、一貫してある雰囲気がそう感じさせるのかもしれない。どの物語でも登場人物たちはそのときどきを精一杯生きてはいるが、なにか足りないものを求め、いつも旅の途中というような切ない雰囲気を漂わせている。川の流れを見るような一冊でもある。

スワンソング*大崎善生

  • 2008/07/23(水) 17:16:03

スワンソングスワンソング
(2007/09)
大崎 善生

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情報誌編集部で同僚だった由香を捨て、僕はアシスタントの由布子と付き合い出す。しかし、由香から由布子への嫌がらせが始まり、由布子は鬱状態に。由布子にすべてを尽くす日々。そこに由香自殺の知らせが届くーー。


たしかに、物語中の事実だけを並べれば紹介文のとおりなのだが、それだけでは言い尽くせない壮絶さを抱えた物語である。ただ、由香の自殺は、ほかに手立てがなかったのだろうか、と思わなくもない。三角関係の果てに選ぶ死は、そこに至るまでにいくら葛藤があったとしても短絡的に過ぎる気がしてしまう。そして、由香と名づけられた由布子の娘の将来も気がかりである。

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傘の自由化は可能か*大崎善生

  • 2008/05/27(火) 17:02:55

傘の自由化は可能か傘の自由化は可能か
(2006/11)
大崎 善生

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駅やコンビニ、飲み屋などに、使いたい人がいつでも使用できる「自由な傘」を置いておく―一人の青年が夢見た理想的な共有システムは実現することができるのだろうか?ベストセラー『パイロットフィッシュ』『アジアンタムブルー』の世界へと通じる、ナイーヴで静謐な日々の思索をつづった、爽快エッセイ集。


ヨーロッパの空、記憶の湖、言葉の宇宙、世界の端で、という四つの括りのなかに盛りだくさんなあれこれが詰まったエッセイ集。
著者のいまがあるわけが垣間見られて興味深い。作品に流れるやさしさと切なさの理由のほんの一端に触れることができたようでうれしくもある。

優しい子よ*大崎善生

  • 2006/10/28(土) 17:04:06

☆☆☆☆・

優しい子よ 優しい子よ
大崎 善生 (2006/07/01)
講談社

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少年の強い祈りが“奇跡の三ヵ月”を生んだ。他人の幸せを願いながら逝った少年との交流を描く、感動の私小説。少年との出会いから始まり、ひとつの命の誕生で終わる、実話をもとに描く感涙の作品集。


フィクションともノンフィクションとも違う、「私小説」でしか書けない確かな手触りを感じさせられる一冊だった。
亡くなった人のことを、生きているものがいつまでも憶えていて 懐かしんだり、親しい人とその人のことを語り合ったりすることで、亡くなった人はその時間に生きていられるのだと 胸を打たれる思いだった。
そして、運命の出会いとも言える人たちの死の物語を 悲しいままで終わらせずに 誕生の物語へとつないだ著者の胸には、しっかりと彼らの想いが根を張っているのだろう。

孤独か、それに等しいもの*大崎善生

  • 2005/03/14(月) 14:01:00

☆☆☆・・


表題作の他、八月の傾斜・だらだらとこの坂道を下っていこう・シンパシー・ソウルケージ。

登場する女性たちはみな、失ってきた、あるいはこれから失うかもしれないものと自分との位置関係をぎりぎりのバランスで保っているように見える。
どちらかにほんの少し振れただけでバランスは崩れ雪崩れるように何かが壊れてしまいそうな気配に包まれている。
しかし、かろうじて崩れずにいられる温かみがまたそこにはあるのである。
危ういけれどきれいな空気を感じる一冊である。

別れの後の静かな午後*大崎善生

  • 2004/11/16(火) 22:14:57

☆☆☆・・


  ・サッポロの光
  ・球運、北へ
  ・別れの後の静かな午後
  ・空っぽのバケツ
  ・ディスカスの記憶
  ・悲しまない時計        の6つの短編


どの物語でも、人と人のうえに同じように変わらずに流れつづける時間のやさしさを感じさせられる。
ことに、表題作でもある「別れの後の静かな午後」では、別れ別れになった二人に思いもかけない長い長い静かな午後の時が流れつづけている。

激しく流れる時間も、停滞するかに見える緩やかな時間も、その時その人々にとって必要な時の形なのだと静かに想う。

パイロットフィッシュ*大崎善生

  • 2004/07/05(月) 12:42:57

☆☆☆・・


 人は、一度巡りあった人と二度と別れることはできない――。
                    (文庫裏表紙より)


パイロットフィッシュとは これから飼おうとする高級熱帯魚などのために 水槽内のバクテリアなどの環境を整える役目を担う魚のことなのだそうである。役目を終えたパイロットフィッシュは 水槽から出され始末されてしまうのだそうだ。

19年前に別れたままだった彼女の声が深夜の受話器から突然聞こえた。
その時があったから存在する現在と 19年前の日々とを行き来しながら 出会いの不思議 別れの不思議を揺れ動く。
記憶というものは胸の中の深く澄んだ湖の底に積み重なるように眠っているものだということが深く頷くように信じられる。忘れたように見えるのは 表層しか見ていないからなのだ。 何かの拍子に沈めていた記憶がゆらゆらと浮かび上がってきて我知らず戸惑うことが そういえばある。

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九月の四分の一*大崎善生

  • 2004/05/18(火) 20:26:47

☆☆☆・・


 遥か遠くにいて、いまも君を近くに感じている。
 失われたときの痛みとぬくもり 心のゆらぎを紡ぐ

                         (帯より)

・報われざるエリシオのために
・ケンジントンに捧げる花束
・悲しくて翼もなくて
・九月の四分の一       という4つの短編からなる一冊。

どの物語もしあわせいっぱいではなく 見ようによっては不幸ともいえそうなのだが そこはかとないしあわせ感が胸の底に蕩う。
どこにいてもどんなに遠くても時を隔ててさえ 伝わるものはきっと伝わるのだと、失いながらも永遠に手に入れられるものもあるのではないかと思わせられる。