青年のための読書クラブ*桜庭一樹

  • 2017/06/18(日) 14:12:52

青年のための読書クラブ
桜庭 一樹
新潮社
売り上げランキング: 129,253

東京・山の手の伝統あるお嬢様学校、聖マリアナ学園。校内の異端者だけが集う「読書クラブ」には、長きにわたって語り継がれる秘密の〈クラブ誌〉があった。そこには学園史上抹消された数々の珍事件が、名もない女生徒たちによって脈々と記録され続けていた――。今もっとも注目の奇才が放つ、史上最強にアヴァンギャルドな“桜の園”の100年間。


お嬢様学校の誉れ高い聖マリアナ学園が舞台の物語なのだが、学園物語という言葉から連想されるのとはいささか趣を異にする世界が繰り広げられている。そもそも、聖マリアナ学園の成り立ち方からして尋常とは言えず、すでにそこには異端の匂いが色濃く漂っているのである。だが、女の園の常としての偶像崇拝的な恋愛ごっこや、二大勢力の学内戦争などは、これでもかというほど盛り込まれており、その二大潮流から外れたところに存在する「読書クラブ」こそがこの物語の本流であるというところが、もっとも聖マリアナ学園らしいとも言えるのである。詰まるところ、本作は、読書クラブ員たちが代々秘密裏に書き綴ってきた「読書クラブ誌」そのものなのである。赤レンガの部室棟の倒壊とともに姿を消した読書クラブだが、中野の某所で密かに生き続けているラストシーンで思わずにんまりしてしまう。著者らしい一冊だった。

このたびはとんだことで*桜庭一樹

  • 2016/04/09(土) 17:06:53

このたびはとんだことで 桜庭一樹奇譚集 (文春文庫)
桜庭 一樹
文藝春秋 (2016-03-10)
売り上げランキング: 104,912

死んだ男を囲む、二人の女の情念。ミッションスクールの女子たちの儚く優雅な昼休み。鉄砲薔薇散る中でホテルマンが見た幻。古い猫の毛皮みたいな臭いを放つ男の口笛。ダンボールに隠れていたぼくのひと夏の経験。日常に口を開く異界、奇怪を覗かせる深淵を鮮やかに切り取った桜庭一樹の新世界、6つの短編小説。


表題作のほか、「モコ&猫」 「青年のための推理クラブ」 「冬の牡丹」 「五月雨」 「赤い犬花」

まさに奇譚集である。ほんのわずか軸がずれた世界に紛れ込んでしまったような居心地の悪さと、ああそうだったのか、と不思議に納得させられるような奇妙な心地が重ねて折り畳まれているような印象である。不思議な世界を愉しめる一冊である。

無花果とムーン*桜庭一樹

  • 2012/11/23(金) 17:17:32

無花果とムーン無花果とムーン
(2012/10/20)
桜庭 一樹

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「あの日、あの瞬間がすべて。時間よ、止まれ」あたし、月夜は18歳。紫の瞳、狼の歯を持つ「もらわれっ子」。ある日、大好きなお兄ちゃんが目の前で、突然死んでしまった。泣くことも、諦めることもできない。すべてがなんだか、遠い―そんな中、年に一度の「UFOフェスティバル」が。そこにやってきた流れ者の男子・密と約。あたしにはどうしても、密がお兄ちゃんに見えて―。少女のかなしみと妄想が世界を塗り替える。そのとき町に起こった奇跡とは。


どこか夢の中の異国のような町で起こる、夢の中の出来事のようにみえる――でも本人たちにとっては、圧倒的な現実感を持つ――この世とあの世とのあわいでもがく少女のひと夏の物語である。ひとりの大切な人を喪ったとき、残された人はどうやって受け止め乗り越えていったらいいのか、そしてそのときの想いがどれほど自分以外の人に伝わらないのか、ということを考えさせられもする。現実に起こったことが夢のようであり、妄想、あるいは幻想の世界の出来事が現実感を帯びている。何とも不思議な心地にさせられる一冊である。

傷痕*桜庭一樹

  • 2012/02/07(火) 17:07:07

傷痕傷痕
(2012/01/12)
桜庭 一樹

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この国が20世紀に産み落とした偉大なるポップスターがとつぜん死んだ夜、報道が世界中を黒い光のように飛びまわった。彼は51歳で、娘らしき、11歳の子どもが一人残された。彼女がどうやって、誰から生を受けたのか、誰も知らなかった。凄腕のイエロー・ジャーナリズムさえも、決定的な真実を捕まえることができないままだった。娘の名前は、傷痕。多くの人が彼について語り、その真相に迫ろうとする。偉大すぎるスターの真の姿とは?そして彼が世界に遺したものとは?―。


舞台は日本であり、登場人物ももちろん日本人であるが、どこをどう見てもマイケル・ジャクソンである。だが、そうとわかって読んでもなお、これはまぎれもなく著者の世界なのである。我国が誇るキング・オブ・ポップの弾け輝く一生と、併せ持つ寂しさ哀しさが胸に迫る。突然どこからか現れた彼の娘・傷痕も、彼と二人だけのときの委ね切った子どもらしさと、表に晒されるときの痛々しさが裏腹で切ない。彼亡きあとの傷痕のしあわせを祈らずにはいられない。強すぎる光の一歩外がいちばん深い闇であるような寂しい印象が強く胸に残る一冊である。

ばらばら死体の夜*桜庭一樹

  • 2011/07/29(金) 17:03:18

ばらばら死体の夜ばらばら死体の夜
(2011/05/02)
桜庭 一樹

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2009年、秋。翌年6月から施行の改正貸金業法がもたらすのは、借金からの救済か、破滅か―四十過ぎの翻訳家、吉野解は貧乏学生の頃に下宿していた神保町の古書店「泪亭」の二階で謎の美女、白井沙漠と出会う。裕福な家庭に育った妻とは正反対の魅力に強く惹かれ、粗末な部屋で何度も体を重ねる。しかし、沙漠が解に借金を申し込んだことから「悲劇」の幕があがる―。


さみしく孤独な物語である。沙漠こと美奈代も解(さとる)も古書店主の佐藤さんも、重すぎる人生を送っているはずなのだがどういうわけか実体が感じられない。気怠く流されて人生を漂っているようにしか見えないのである。自分自身を生きていないとでも言うのだろうか。借金苦が根底にあるようでもあるが、そうなるまでの人間としての本質の問題であるようにも思える。胸に大きく真っ暗な穴がぽっかり開いたような空虚さに囚われそうになる一冊である。

伏*桜庭一樹

  • 2010/12/14(火) 14:30:06

伏 贋作・里見八犬伝伏 贋作・里見八犬伝
(2010/11/26)
桜庭 一樹

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娘で猟師の浜路は江戸に跋扈する人と犬の子孫「伏」を狩りに兄の元へやってきた。里見の家に端を発した長きに亘る因果の輪が今開く。


山で猟師として暮らしていた少女・浜路は、ふたり暮らしの祖父亡きあと江戸に暮らす兄・道節を頼って上京した。物語は、兄妹の伏狩者としての顛末に、滝沢冥土作の「贋作・里見八犬伝」と伏である信乃の語り「伏の森」が挟みこまれている。
伏とは、その昔伏姫と犬の八房との間に生まれた八匹を祖とする犬人間たちのことである。浜路の猟師魂が獣の臭いを嗅ぎ当て、本能のように伏を狩ることになるのであるが、そこに滝沢馬琴の息子の冥土の読売のための取材(いまで言えばレポーターか)がからみ、どんどんややこしいことになっていくのである。はるか昔、辻村ジュサブロー氏のからくり人形で作られたテレビドラマで観た「新八犬伝」が頭の中に蘇えってきて不思議な心地で読み進んだ。ページを捲る手を止めさせず、のめりこむように読み終えた一冊である。

荒野*桜庭一樹

  • 2010/07/30(金) 21:48:29

荒野荒野
(2008/05/28)
桜庭 一樹

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山野内荒野、十二歳。恋愛小説家の父と暮らす少女に、新しい家族がやってきた。“恋”とは、“好き”とは? 感動の直木賞受賞第一作。


  第一部
   一章  ハングリー・アートの子供
   二章  ぼくの小さな黒猫ちゃん
   終章  青年は荒野をめざす

  第二部
   一章  恋は女をこどもに、男を地下組織にする
   二章  勝ち猫、負け猫
   終章  青年の特権

  第三部
   一章  恋しらぬ猫のふり
   二章  つぎの花、ポン!
   終章  終わりなき出発


恋愛作家・山野内正慶の娘 荒野(こうや)、十二歳から十六歳の物語。中学生になったばかりの針金のような子どもが大人の女への道を歩みだす、怒涛のような四年間のあれこれである。自分のこと、作家であり蜻蛉のように漂う父と暮らす鎌倉の古い家。母亡きあとずっと面倒を見てくれている家政婦、離れの仕事場に出入りする女たち。入学式の朝、電車で出会った少年・神無月悠也。そしてクラスメイトの江里華と麻美。さまざまな人たちとの関係のなかで、自分をみつめ、見失い、追い越し追いつき、内と外のバランスを上手く取れずにゆらゆらしている荒野の目が見ているままが描かれていて、惹きこまれる。鎌倉という町の古くて新しく、地元でありながら観光地であるという少しだけふわふわとした雰囲気と相まって、独特の揺れと不安定さを含んだ一冊である。荒野をとおして、たくさんのものごとを見ることができたような気がする。

道徳という名の少年*桜庭一樹

  • 2010/06/13(日) 06:39:33

道徳という名の少年道徳という名の少年
(2010/05/11)
桜庭 一樹

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「愛してるわ!ずっと昔から…。子供の頃から、愛していたわ!」町でいちばん美しい、娼婦の四姉妹が遺したものは?(1、2、3,悠久!)、黄色い目の父子と、彼らを愛した少女の背徳の夜(ジャングリン・パパの愛撫の手)、死にかけた伝説のロック・スターに会うため、少女たちは旅立つ(地球で最後の日)、 ―桜庭一樹のゴージャスな毒気とかなしい甘さにアーティスト野田仁美が共振してうまれた、極上のヴィジュアルストーリー集。


「1,2,3、悠久!」 「ジャングリン・パパの愛撫の手」 「プラスチックの恋人」 「ぼくの代わりに歌ってくれ」 「地球で最後の日」

野田仁美さんの装画と一体になった大人びた童話のような一冊である。本の作りもそうだし、物語の内容もまた然りである。どこか遠い異国で起きているどこか遠い感覚の物語。夢と知りながら、覚めないでと願いつつ見つづける夢のような心地でもある。かなりショッキングな出来事ながら現実感がないような。幸福の裏側は間違いなく不幸なのだと思わせられる一冊でもある。

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製鉄天使*桜庭一樹

  • 2010/02/07(日) 16:34:50

製鉄天使製鉄天使
(2009/10/29)
桜庭 一樹

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辺境の地、東海道を西へ西へ、山を分け入った先の寂しい土地、鳥取県赤珠村。その地に根を下ろす製鉄会社の長女として生まれた赤緑豆小豆は、鉄を支配し自在に操るという不思議な能力を持っていた。荒ぶる魂に突き動かされるように、彼女はやがてレディース“製鉄天使”の初代総長として、中国地方全土の制圧に乗り出す―あたしら暴走女愚連隊は、走ることでしか命の花、燃やせねぇ!中国地方にその名を轟かせた伝説の少女の、唖然呆然の一代記。里程標的傑作『赤朽葉家の伝説』から三年、遂に全貌を現した仰天の快作。一九八×年、灼熱の魂が駆け抜ける。


『赤朽葉家の伝説』と同じテイストの物語かと思ったら、共通するのは山陰と製鉄所のみであった。製鉄を生業とする町での、製鉄所のオーナーの娘と町の人々との係わり合いの物語、を想像するとことごとく裏切られる。
主人公・赤緑豆小豆は、15歳にして女暴走族――レディースと呼ぶのか――「製鉄天使」の総長となり、猛り狂う青春の炎と責任感に突き動かされ、次々と山陰を、そして中国地方を制覇して、その名を轟かす。あまりに破天荒な青春小説、というのか、やはり赤緑豆小豆の一代記と呼ぶのが適当なのだろう。だがしかし、何故、どうして、赤城山へ――?

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砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない*桜庭一樹

  • 2009/11/13(金) 14:10:00

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない―A Lollypop or A Bullet砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない―A Lollypop or A Bullet
(2007/03)
桜庭 一樹

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桜庭一樹の原点、青春暗黒ミステリーが単行本化!
どこにも行く場所がなく、そしてどこかに逃げたいと思っていた。そんな13歳の二人の少女が出会った。リアリストの山田なぎさと不思議系転校生の海野藻屑。すべては生きるために、生き残っていくために。


   

  第一章   砂糖菓子の弾丸とは、なかよくできない
  第二章   砂糖菓子の弾丸と、ふたりぼっち
  終章   砂糖菓子の弾丸とは、もうあえない

 
冒頭に載せられた新聞記事の抜粋で、すでに物語に惹きこまれる。
この記事に至るまでのあれこれが、第一章から綴りはじめられているのである。砂糖菓子という、甘くほろほろと崩れやすそうなタイトルの裏に、これほど救いのない人生が隠されていようとは・・・。
手立てがなかったわけではないだろう。それなのに何故救い出すことができなかったのか。自らを人魚という少女の諦念も、やるせなさすぎる。それでも、最後の数か月は、少女にとってしあわせに似たものだったと思いたい。

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ファミリーポートレイト*桜庭一樹

  • 2009/05/08(金) 17:02:20

ファミリーポートレイトファミリーポートレイト
(2008/11/21)
桜庭 一樹

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あなたとは、この世の果てまでいっしょよ。呪いのように。親子、だもの。

直木賞受賞後初の書き下ろし長編1000枚。
全身全霊感動のエンディングを迎える、恐るべき最高傑作!

ママの名前は、マコ。マコの娘は、コマコ。うつくしく、若く、魂は七色に輝く、そしてどうしようもなく残酷、な母の“ちいさな神”として生まれた娘の5歳から34歳までを描く。
怒涛のごとき展開と濃密な物語に圧倒されながらページを繰る手が止まらない第一部「旅」、紙上の文字がいまにも叫び出しそうな言葉の力に溢れ、この作品を同時代に読めた喜びに震える第二部「セルフポートレイト」――二部構成となる本書は、進化と深化が止まらないモンスター作家・桜庭一樹の新たな金字塔となった!  面白くて、どこまでも凄い!!!


「第一部 旅」と、「第二部 セルフポートレイト」とで語られる、駒子の5歳から34歳までの物語である。
第一部では、ママであるマコとその子であるコマコは、マコの現実の罪から逃げ伸びるために旅を続ける。その行く先々での事々が、自称情緒の発達が遅れており、喋ることができないコマコの心の声として語られる。マコはときに、自分の哀しみをぶつけるようにコマコを虐待するが、コマコにとってはマコが世界のすべてなので、マコを満たすためにされるがままで自分を消すようになる。
第二部では、突然のマコの不在によって世界に放り出されたコマコが、マコを求めながらも物理的にはその呪縛から解き放たれ、その心許なさと我が身の置き所のなさにもがきながらも、少しずつ形のある何者かになっていく様が描かれる。
ページのそこここから立ち上るぴりぴりとした緊張感に刺され、無気力で自堕落な喩えようのないだるさに打ちのめされ、ほんの幽かな光に必死にすがろうとすると、あっけなく闇に引き戻されるような心地の読書だった。
マコとコマコ、がいつのまにかコマコとマコ、に変わっていたように、自分の裡にマコを同化させながら、ラストの場面の後もコマコは生きていくのだろう。それでもマコを愛し続けて。

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少女七竃と七人の可愛そうな大人*桜庭一樹

  • 2008/08/14(木) 16:24:54

少女七竈と七人の可愛そうな大人少女七竈と七人の可愛そうな大人
(2006/07)
桜庭 一樹

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わたし、川村七竈十七歳はたいへん遺憾ながら、美しく生まれてしまった
鉄道を愛し、孤高に生きる七竈。淫乱な母は、すぐに新しい恋におちて旅に出る。親友の雪風との静かで完成された世界。だが可愛そうな大人たちの騒ぎはだんだんと七竈を巻き込んで。


旭川という冬の長い閉ざされた街で、美しすぎるかんばせに生まれてしまった七竃(ななかまど)。しかも彼女は、母・優奈が、「白っぽい丸」である自分から脱却したいと望み、「辻斬りのように」男と交わった結果の子であった。旭川というひんやりと閉じた街で・・・。七竃が唯一心を許せるのは、同じように美しすぎるかんばせを持った少年・雪風(ゆきかぜ)だけだったが、彼との間にもどうすることもできない複雑な事情が横たわっているのだった。
周りから作り上げられた自分という形を壊したくなる年頃の母とその娘の姿に、一見対照的ながら同質なものを感じるのはなぜだろう。生まれたときから否応なく背負わされているハンデを、乗り越えようとしている七竃にとって、これからの時がやさしいことを祈らずにはいられない。

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少女には向かない職業*桜庭一樹

  • 2007/10/31(水) 07:00:31


少女には向かない職業 (ミステリ・フロンティア)少女には向かない職業 (ミステリ・フロンティア)
(2005/09/22)
桜庭 一樹

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中学2年生の1年間で、あたし、大西葵13歳は、人をふたり殺した-。これは、ふたりの少女の、血の噴き出すような闘いの記録。痛切なストーリーが胸を抉る衝撃作。


中学二年生の少女――しかも煩雑な都会ではなく下関に近い島に住む少女――が主人公である。胸に抱えるものがあったとしても、人ごみの中に逃げることはできない。美しく静かな島で一対一で向き合わなければならないのである。他人とも、そして自分とも。
命のはかなさに気づかされ、ときとして激しいバトルモードに捉われたりもするが、表面上は違和感なく周りに溶け込んでいる葵。言わなければならないことをどんどん裡に溜め込み発酵させ続けていた葵。そんなときに静香と出会ってしまったのである。
ふたりの少女の闘いでもあり、自分自身との闘いでもあるが、なによりも救いを求める切実な叫びが痛いほどに満ちている一冊だった。

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赤朽葉家の伝説*桜庭一樹

  • 2007/08/22(水) 17:12:55

☆☆☆☆・

赤朽葉家の伝説 赤朽葉家の伝説
桜庭 一樹 (2006/12/28)
東京創元社

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「山の民」に置き去られた赤ん坊。この子は村の若夫婦に引き取られ、のちには製鉄業で財を成した旧家赤朽葉家に望まれて輿入れし、赤朽葉家の「千里眼奥様」と呼ばれることになる。これが、わたしの祖母である赤朽葉万葉だ。――千里眼の祖母、漫画家の母、そしてニートのわたし。高度経済成長、バブル崩壊を経て平成の世に至る現代史を背景に、鳥取の旧家に生きる3代の女たち、そして彼女たちを取り巻く不思議な一族の血脈を比類ない筆致で鮮やかに描き上げた渾身の雄編。2006年を締め括る著者の新たなる代表作、桜庭一樹はここまで凄かった!

・・・

みなさん、鳥取県紅緑村から、こんにちは。桜庭一樹です。
 この『赤朽葉家の伝説』は2006年の4月から5月にかけて、故郷の鳥取の実家にこもって一気に書き上げました。わたしは山奥の八墓村っぽいところで生まれ育って、十八歳で東京に出て、小説家になりました。昭和初期で時が止まったようにどこか古くて、ユーモラスで、でも土俗的ななにかの怖ろしい気配にも満ちていて。そんな故郷の空気を取り入れて、中国山脈のおくに隠れ住むサンカの娘が輿入れした、タタラで財を成した製鉄一族、赤朽葉家の盛衰を描いたのが本書です。不思議な千里眼を持ち一族の経済を助ける祖母、万葉。町で噂の不良少女となり、そののちレディースを描く少女漫画家となって一世を風靡する母、毛毬。何者にもなれず、偉大な祖母と母の存在に脅えるニートの娘、瞳子。三人の「かつての少女」の生き様から、わたしたちの「いま」を、読んでくれたあなたと一緒に、これから探していけたらいいなぁ、と思っております。
 実家での執筆中、気分転換にと庭に出たら、犬に噛まれました。(甘噛みではありません)屋内では猫に踏まれました。あと、小腹がすいたと台所で冷蔵庫の中を物色していたら、父に「こら、ゴン!」と、犬と呼び間違えられました。執筆のあいだ、いろいろなことがあり、いまではなつかしい思い出です。          桜庭一樹


赤朽葉一族を千里眼奥様であった祖母・万葉の目を通してその孫・瞳子に語らせるという一風変わった手法で描かれたこの物語は、赤朽葉家の物語であると同時に、昭和という時代の物語でもあるように思う。もはや近代史と化した感のある昭和という激動の時代の風物が、万葉がそこに生きることによって目の前に手触りさえ感じられるほど近く息づいているのを感じることができるのである。
そしてさらに、タイトルに伝説と銘打たれており、万葉やその子どもたちの時代は確かにもはや伝説と呼べるのかもしれないが、「いま(現在)」を生きる瞳子はまさに現在進行形であり、脈々と受け継がれてきた赤朽葉家の伝説がまだ終わってはいないのだと思わせてもくれるのである。

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