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ほかに誰がいる*朝倉かすみ

  • 2011/02/02(水) 14:27:47

ほかに誰がいるほかに誰がいる
(2006/09)
朝倉 かすみ

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あのひと=天鵞絨からのメールを読み返した。耳をすませた。細く、高めで、わずかに鼻にかかり、語尾に余韻を残す声。それが、あの人の声。ほかに誰がいる? 私の心をこんなに強くしめつける存在が…。書き下ろし長編小説。


読みはじめは普通の恋愛小説だと思った。だが、すぐにそうではないとわかる。えりがこれほどまでに強く想い執着するのは同級生の少女・れいこ(=天鵞絨)なのだった。純粋すぎる想いはときとして人から理性を奪い常識をないものにする。えりの日々はすべて天鵞絨のためにあり、天鵞絨のほかに価値を見出すことができないほどなのだった。冷静に見れば家族や周囲の人々をどれほど哀しませていることか、とも思うが、この物語はそんなことさえ超越しているようである。一歩間違えれば、いやもう完全にストーカーと言ってしまっていいようなえりの執着ぶりであるが、眉を顰める代わりにそっと応援している自分に気づくのもまた怖いものである。一途で不穏な一冊である。

夏目家順路*朝倉かすみ

  • 2010/11/06(土) 17:01:45

夏目家順路夏目家順路
(2010/10)
朝倉 かすみ

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夏目清茂七十四歳、本日脳梗塞のためめでたく昇天いたしました。「どこにでもいるただひとり」の男の一生を、一代記とは異なる形で描いた傑作長編小説。


前半はこの物語の主人公・夏目清茂の取り立てて特別ではないが波も立ち人並みに苦労もしたが、まあまあそれなりに幸福でもある人生が描かれているが、突然脳梗塞で亡くなってからは、家族や親族や友人の目線で清茂がらみのあれこれが語られていく。とは言っても、みな清茂のことを考えると思い出すのは自分のことで、清茂と同じ時を生きていた自分のあれこれが思い出されてくるのである。そして、人がひとり亡くなったばかりの妙にぽっかりとした意識のありようがとてもリアルに描かれていて、自分が近しい人を亡くしたような空白が一瞬胸に広がるのだった。それらすべてが淡々と書かれているのがかえって夏目清茂がもういないのだということをしみじみと思わせる一冊である。

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感応連鎖*朝倉かすみ

  • 2010/10/30(土) 21:25:31

感応連鎖感応連鎖
(2010/02/20)
朝倉 かすみ

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女たちの内側で、何かが蠢く。

肥満を異形とする節子か、他人の心が読める絵理香か、自意識に悩む由希子か。
交錯する視点、ぶつかり合う思惑。
真実を語っているのは誰?──魅惑の長編小説


夢の少女という母の理想を吸収するように対極を成す巨漢に育ち、それを異形と思わせようと腐心する墨川節子。幼いころに受けたセクハラ紛いの行為によって強迫観念的に負のシミュレーションを重ねていく数学教師の妻・秋澤初美。少しばかり綺麗な元モデル似で、幼いころから人の負の感情を言葉にしてしまうという特性を持つ佐藤絵里香。節子と絵里香のクラスメイトで節子の母の理想とする夢の少女を具現化したような新村由季子(旧姓島田)。出会った瞬間から外側からではわからない部分で感応し合う三人の少女は、それぞれのやり方で自分の感情をコントロールし、そ知らぬ顔で影響を与え合っているように見える。容姿に特徴があるこの三人なので、ものすごく特別なことのようにも見えてしまうが、この年頃の少女が集まれば多かれ少なかれ起こることだとも思われる。からっぽならからっぽなりに、不安定なら不安定なりに、自意識過剰なら自意識過剰なりに自分自身の輪郭を侵されないように防御態勢を固めつつも、少しずつ互いの毒に染まり合って自己というものを作り上げていくのだろう。三人の少女を冷静にみつめる温度のない目が常に意識されるような一冊でもある。

声出していこう*朝倉かすみ

  • 2010/09/06(月) 10:40:23

声出していこう声出していこう
(2010/08/19)
朝倉 かすみ

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平凡な街の地下鉄駅構内で通り魔事件が発生。怪我人、十数名。犯人はそのまま逃走、まだ捕まっていない。

 その事件の余波で部活が休みになった男子中学生・マサノリは、母親に頼まれて大型スーパーに買い物に行き、小学校の同級生・西田とばったり会う。西田には「うざキャラ」のためかつて軽くいじめられた過去があった。
 
 その西田に「一緒に事件現場見に行かない?」とマサノリが誘われたことから、この物語は始まるのだが......。

 作家に恋する女子高生。自称「モテ男」の家業手伝い(ラーメン屋)兼自宅浪人生。4歳のとき世界の国旗と国名、首都が言えたことが唯一の心のよりどころの 46歳独身男などなど、この街に住むうだつの上がらぬ6人の老若男女が、走って、恋して、自惚れて、戸惑って、言い訳して、嘆く。

 真犯人は、誰だ?  私は、何者だ?

 爆笑と感嘆の会心作。


  第一章  声出していこう
  第二章  シクシク
  第三章  みんな嘘なんじゃないのか
  第四章  お先にどうぞ、アルフォンス
  第五章  大きくなったら
  第六章  就中――なかんずく――


同じ町に住むまったく無関係だが、ほんのちょっぴりすれ違ったり交わったりしている人たちの日常の屈託を描いた連作。前章の最後の一文が次の章の冒頭の一文になり、しりとりのように繋がってもいる。
さまざまな年代、さまざまな境遇、男、女、ゲイ。だが彼らには一様にこんなはずではないという思いが胸に淀んでいる。いわゆる「うだつが上がらない」のである。吐露される彼らの胸のうちの思いにうなずき膝を打つ読者は多いことと思う。というか自分の中に思い当らないという方が少ないことだろう。読みながら、「そうそう、わかる。でももっと頑張ってよ」とついはっぱをかけたくなるのである。たぶん自分のお尻を叩いている、ということなのだろう。情けなくもどかしいが、ちょっぴりスカッとしなくもない、愛おしい一冊である。

そんなはずない*朝倉かすみ

  • 2010/06/15(火) 16:57:54

そんなはずないそんなはずない
(2007/07)
朝倉 かすみ

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松村鳩子は、30歳の誕生日を挟んで、ふたつの大災難に見舞われる。婚約者に逃げられ、勤め先が破綻。自分を高く売ることを考え、抜け目なく生きてきたのに。失業保険が切れる頃、変りものの妹・塔子を介し年下の男、午来と知り合う。そして、心ならずも自分の過去の男たちとつぎつぎに合う羽目に。さらに、新しい職場である図書館の同僚たちに探偵がつきまとい、鳩子の男関係を嗅ぎまわっている、らしい。果して依頼人は?目的は―。


  第一章  大丈夫
  第二章  午後に来た青年
  第三章  滑坂
  第四章  運針
  第五章  嘘つきは誰だ
  第六章  裏切ったのは誰だ
  第七章  三つ合わせろ
  第八章  時にこの青年は


恋愛小説でもあり、姉妹の物語でもあり、鳩子の胸の裡の物語でもある。如才なく生きてきたつもりの鳩子は、相手の両親に挨拶に行く予定のその日に恋人に逃げられ、さらに勤めていた信用組合が倒産し、まるでそれがきっかけのようになにもかもが上手くいかなくなっていく。恋愛関係においても、家族との関わりにおいても、妹との距離感においても、職場でもアルバイト先でも、鳩子の胸には常に「そんなはずない」というもやもやとした思いが渦巻いている。全編、そんなはずない感にひたひたと侵されて、鳩子に未来はないのだろうか、と思いはじめたラストでやっと吹っ切れかけたようで、ほっと胸をなでおろす。そんな一冊。

ぜんぜんたいへんじゃないです。*朝倉かすみ

  • 2010/06/10(木) 10:42:53

ぜんぜんたいへんじゃないです。ぜんぜんたいへんじゃないです。
(2010/03/19)
朝倉 かすみ

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『田村はまだか』で吉川英治文学新人賞を受賞し、今いちばん注目される若手作家(だが今年50歳)の人生前向き初エッセイ。掃除をずーっとしてなくても締め切り地獄にハマってもオットと喧嘩しても「ぜんぜんたいへんじゃない」日々のあれこれを綴る。


小説家の書くエッセイには、わたしとしては、小説だけ書いていていただきたい、と思わせられるものも少なくないのだが、これはとても好みだった。著者のとても近くまでいけたように感じられるのがその理由だろう。そして、地味に共感することが多々あって、しかもそれがマイナスポイントばかりだったりするのが情けないのかうれしいのかよくわからない。でもやはりうれしい。本作を読んで勝手に親近感を抱いてしまい、いつかどこかでお会いすることがあったら、なれなれしく声をかけてしまいそうである。

田村はまだか*朝倉かすみ

  • 2010/04/15(木) 17:21:52

田村はまだか田村はまだか
(2008/02/21)
朝倉 かすみ

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2009年吉川英治文学新人賞受賞作。
 かつて「孤高の小学六年生」と言われた男を待つ、軽妙で感動の物語。

深夜のバー。小学校のクラス会の三次会。四十歳になる男女五人が友を待つ。
 大雪で列車が遅れ、クラス会同窓会に参加できなかった「田村」を待つ。
「田村」は小学校での「有名人」だった。有名人といっても人気者という意味ではない。その年にしてすでに「孤高」の存在であった。
 貧乏な家庭に育ち、小学生にして、すでに大人のような風格があった。

 そんな「田村」を待つ各人の脳裏に浮かぶのは、過去に触れ合った印象深き人物たち。
 今の自分がこのような人間になったのは、誰の影響なのだろう----。
 四十歳になった彼らは、自問自答する。

 それにつけても田村はまだか? 来いよ、田村。

 酔いつぶれるメンバーが出るなか、彼らはひたすら田村を待ち続ける。

 そして......。

 自分の人生、持て余し気味な世代の冬の一夜を、軽快な文体で描きながらも、ラストには怒濤の感動が待ち受ける傑作の誕生。


  第一話  田村はまだか
  第二話  パンダ全速力
  第三話  グッナイ・ベイビー
  第四話  きみとぼくとかれの
  第五話  ミドリ同盟
  最終話  話は明日にしてくれないか


「田村はまだか」と誰もが待つものの、田村はなかなか現れない。そのうち、「孤高の小学六年生」と言われた田村の思い出話になり、田村を待つ彼らのエピソードが語られ、それぞれが自分の裡に来し方行く末を問いかけることになる。そして話にひと区切りつくたびに、「田村はまだか」と誰かが言うが、それでも田村は現れない。一体田村はこの物語に登場するのだろうか、最後まで登場せずに終わるのではないのか、と読者が危ぶむころ、交通事故に遭い、重症だと連絡が入る。
田村はどんなやつかと問われ、田村は田村でしかない、と言われる田村に会いたい。札幌・ススキノのスナック・バー・「チャオ!」のマスター花輪春彦でなくともそう思う。最終話のタイトルにもなっている田村のつぶやきが泣ける。そう、最終話になってやっと登場するのである。そしてその後も、それぞれの日常を過ごす彼らだが、田村を待った夜を境に、きっとなにかが変わったのだろう。

深夜零時に鐘が鳴る*朝倉かすみ

  • 2010/04/02(金) 16:50:26

深夜零時に鐘が鳴る深夜零時に鐘が鳴る
(2009/11/26)
朝倉 かすみ

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ひとりで過ごす年の瀬もすっかり板についた匂坂展子は29歳彼氏なし。いつもと変わらない新しい年をむかえようとしていた。そんなテンコの前に次々と現れる過去からの来訪者……。
すねっかじりの元ヘビメタ男“根上くん”むっちり足のウェイトレス “そら豆さん”パン屋で働いていたはずの“ミヤコちゃん”
たしかデパートのカリスマ社員?“えぐっちゃん”
……そして?
雪降る札幌の街を舞台に加速していく、この冬いちばんのロマンチックストーリー。


学生時代よく行ったハンバーガーショップで店員をしていたリコ。親しい友人とは言えないものの、なんとはなしに気になる女の子だったが、ある日不意にいなくなり、その後どうしているのかも判らない。29歳の展子は、ひとりにも慣れ、いつもと同じ年末年始を迎えるはずだったのだが、どうしたことか、次々とリコつながりの人たちと出会い、リコを追うことになる。そしてなんと『タイム屋文庫』ともつながっていくのである。嬉しいサプライズ。リコ、リス、リンコ。時々に呼び名は変わっても、変わらずに周りの人たちをやさしい気持ちにさせる女の子と、周りの人たちが共有する想いが、ゆるゆるとあたたかい一冊だった。

静かにしなさい、でないと*朝倉かすみ

  • 2010/01/17(日) 16:43:29

静かにしなさい、でないと静かにしなさい、でないと
(2009/09)
朝倉 かすみ

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自作自演の子犬救出劇を同級生に目撃され、転落していく美少女。カード破産しながらもロハス生活を実践しつづけるカップル。短命の家系に生まれた夫の「ぽっくり」を恐れる中年初婚夫婦etc…「わたし」という容れ物の限界に翻弄される人たちの、哀しくも可笑しい自意識を描いた傑作。


「内海さんの経験」 「どう考えても火夫」 「静かにしなさい」 「いつぞや、中華飯店で」 「素晴らしいわたしたち」 「やっこさんがいっぱい」 「ちがいますか」

内容紹介の「哀しくも可笑しい自意識」というのが言い得て妙である。どの物語でも目につくのは劣等感。そして、それに気づかない振りをして高みをみつめる、あるいは認めてしまって「でも」と言い訳をする。形はさまざまだが、自分というものをあるがままで認められない人間の哀しさが詰め込まれた一冊である。人間らしいと言えばこれ以上ないほど人間らしいが、その自縛を解いたらもっと楽に生きられるのに、と思わされもする。

   

 ●内海さんは東京に行った。

 ●断っておくが、始めたのは守彦の方だ。

 ●メロンをひと玉ぶらさげて、あの子の家に向かっている。

 ●度会朔子は大きなまちに、昼、着いた。

 ●インテリアは北欧っぽくしたい、ということで私たちの意見が一致した。
 
 ●山崎夫妻が港町に引っ越してきた。

 ●これでも、ひとを見る目はあるほうです。


それぞれの物語の始まりである。なんとなく味わい深い始まり方である。

タイム屋文庫*朝倉かすみ

  • 2008/11/28(金) 18:26:10

タイム屋文庫タイム屋文庫
(2008/05/22)
朝倉 かすみ

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時をまたいで仕掛けた
あの、恋のつづき。

亡くなった祖母の思い出がたっぷり染み込む家で、突然の思いつきで始めた「タイム屋文庫」。タイムトラベル専門の貸本屋というそのアイデアは、実はかつて置き去りにしてしまった恋のつづき。そこで彼女は、たった一人の客を待つつもりだったのだが……。
考えなしで抜け作の三十女が、心機一転をはかって繰り広げるロマンチックストーリー。どこか懐かしくて温かい、何度でも味わえる傑作です。
(すでにあちこちで噂になっている「タイム屋文庫」。その訳は本書にてどうぞお確かめください。きっと訪ねたくなりますよ)


舞台は小樽、それだけですでに情緒的な心持ちになる。しかも、柊子が十六歳の日に失くした恋のその後に出会うためだけに始めた貸し本屋に置かれているのは、タイムトラベルを扱う本や、DVDやCDばかりなのである。そしてお店は、ツボミさんという進取の気風に富んだおばあちゃんが住んでいた家をそのまま活かしていて、はじめて訪れてもなんとはなしに懐かしさを覚える空間なのだった。
主人公が抜け作の柊子であるゆえなのか、タイム屋文庫のレトロ感がそうさせるのか、物語り全体が夢とうつつを曖昧にいったりきたりしているような陶酔感に包まれているのが心地好い一冊である。

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