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ワンさぶ子の怠惰な冒険*宮下奈都
- 2021/03/27(土) 07:46:52
北海道トムラウシの山村留学から福井に帰ってきた宮下家。当時、子供たちの妄想犬だった白い柴犬ワンさぶ子が家族の一員に。三人の子供たちは、大学生高校生中学生となり、思春期真っ只中。それぞれが自分の道を歩き始めていく。しなやかに自由を楽しむ、宮下家五人と一匹の三年間の記録。
「いいなぁ、宮下家」と随所で思わされる、ほのぼのと心温まるエッセイである。個人的に作家さんのエッセイはちょっと苦手なのだが、川上弘美さんと宮下奈都さんは別である。エッセイを読むとさらに小説作品が好きになる。ちょっとしたエピソードが素敵すぎて、折々に胸が熱くなり、目の前がぼやけるので、ちょっと困るほどである。読み終えるのがもったいなく、今後も折に触れ手続きをお願いしたいと切に願う一冊である。
とりあえずウミガメのスープを仕込もう。*宮下奈都
- 2018/11/12(月) 16:36:21
扶桑社 (2018-05-25)
売り上げランキング: 44,975
「毎月一回食べもののことを書く。食べることと書くことが、拠りどころだった気がする。」(「まえがき」より)
月刊誌『ESSE』の人気連載が、待望の書籍化!
北海道のトムラウシに1年間移住したり、本屋大賞を受賞したり……。さまざまな変化があった6年半の月日を、「食」をとおして温かく描き出す。
ふっと笑えて、ちょっと泣けて、最後にはおなかが空く。やさしく背中を押してくれるエッセイ78編に、書き下ろし短編1編を収録。全編イラストつき
基本的に作家の書くエッセイがあまり得意ではないのだが、宮下さんのエッセイは何度でも読みたくなる。気負わず、高ぶらず、ポジティブ過ぎず、かといってネガティブとは程遠く、あしたも大切に生きようと思わせてくれる。家族を大切に思い、自分もないがしろにせず、着かず離れずの距離感で、日々を慈しむさまが、食を大切にする姿勢からもよくわかって、胸の奥がぽっとあたたかくなる心地である。お腹のなかが温もれば、あしたもきっと大丈夫、と思える一冊である。
緑の庭で寝ころんで*宮下奈都
- 2018/04/03(火) 16:27:18
ふるさと福井で、北海道の大自然の中で、のびやかに成長する三人の子どもたち。その姿を作家として、母親として見つめ、あたたかく瑞々しい筆致で紡いだ「緑の庭の子どもたち」(月刊情報誌「fu」連載)4年分を完全収録。ほかに、読書日記、自作解説ほか、宮下ワールドの原風景を味わえるエッセイ61編、掌編小説や音楽劇原作など、単行本初収録の創作5編も収載。本屋大賞『羊と鋼の森』誕生前夜から受賞へ。そしてその後も変りなくつづく、愛する家族とのかけがえのない日々。著者充実の4年間のあゆみを堪能できる、宝箱のようなエッセイ集!
地元の新聞社が月に一度発行する情報誌『fu』に、二〇一三年からエッセイを連載してきた。「緑の庭の子どもたち」という、子どもたちがテーマの文章だ。本になるとは思っていなかったので、ずいぶんリラックスして書いている。寝ころんで読んでもらえるくらいでちょうどいいなと思う。読んでくれた方の夢も、きっといつのまにか叶っているに違いない。これはしあわせのエッセイ集なのだ。 (「まえがき」より)
どのページを開いても、宮下さんのお人柄の魅力がほとばしり出てくる。彼女の目が見つめるもの、彼女の心が受けとめる事々、なにからなにまでに著者の慈しみがあふれていて、心が洗われるようである。愛と信頼がぎゅっと詰まった一冊である。
つぼみ*宮下奈都
- 2017/11/20(月) 16:48:31
話題作『スコーレ№4』の主人公麻子の妹・紗英、叔母・和歌子、父の元恋人・美奈子。それぞれがひたむきに花と向き合い葛藤するスピンオフ三編。(「手を挙げて」「まだまだ、」「あのひとの娘」)弟の晴彦は、高校を中退し勤めた会社もすぐに辞めて、アルバイトを転々とした後大検を受け、やっぱり働くと宣言して、いつもふらふらひらひらしている。不器用な弟と振り回される姉。そんな二人には、離婚した両親がまったく違って見えていた。(「晴れた日に生まれたこども」)どこかへ向かおうともがいている若き主人公たちの、みずみずしい世界のはじまり。凜としてたおやかに、6つのこれからの物語。
『スコーレ№4』のスピンオフとは全く気づかずに読み始め、七葉という名前が出てきてやっと思い至ったのだが、独立した物語として読んでもすんなり入りこめる。三姉妹それぞれが、お互いに思いもしない屈託を抱え、葛藤しながら前に進んでいる姿が愛おしくなる。ほかの物語もすべて、自らの内側に抱えるものと、他者からの目線で見えるものとの差異が、擦り傷のように、始終ひりひりして、何をするにも気になってしまうような気分にさせられる。それでいて、著者の目線はいつでもやさしくて、最後には包み込まれるような心地にさせてくれる。充実した読書タイムを過ごせる一冊である。
静かな雨*宮下奈都
- 2017/04/07(金) 11:43:12
「忘れても忘れても、ふたりの世界は失われない」
新しい記憶を留めておけないこよみと、彼女の存在が全てだった行助の物語。
『羊と鋼の森』と対をなす、著者の原点にして本屋大賞受賞第一作。
不運な事故で、ひと晩寝ると前の日の記憶を失くしてしまうという脳の障害を負ったたいやき屋の女性・このみさんと、生まれつき足に麻痺があり、松葉杖が手放せない行助(ユキスケ)の物語。互いのことをほとんど知らない二人だが、行助は好みさんを支えたいと強く思い、このみさんもそれを受け容れ、二人三脚の日々が始まるのである。支えるということの意味や、生きる上で人を形作るものたちのことや、その人そのものの本質というようなことについて、あれこれ考えるようになる行助と一緒に、読者もあれこれ考える。生きていくことについて、しあわせについて、人と人とのかかわりについてなど、静かなトーンの中でいろいろなことを考えさせられる一冊だった。
羊と鋼の森*宮下奈都
- 2015/11/07(土) 20:58:05
ゆるされている。世界と調和している。それがどんなに素晴らしいことか。言葉で伝えきれないなら、音で表せるようになればいい。ピアノの調律に魅せられた一人の青年。彼が調律師として、人として成長する姿を温かく静謐な筆致で綴った、祝福に満ちた長編小説。
とても優しい物語である。そして、青い炎のような静か情熱が伝わってくるようである。弟と比べて劣っているのではないかと、自分に自信を持てずにいた外村少年は、高校の体育館のピアノの調律をする板鳥と出会ったことで、進むべき道を見つけたのである。ピアノも弾けないし、それまでクラシックに興味もなかった外村だったが、板鳥に紹介された専門学校で努力し、調律師になる。先輩調律師たちがピアノに向かう姿勢や、思うようにできない外村の歯がゆさ、お客さんそれぞれの事情など、さまざまあるなかで、外村の独特の感性がどんどんピアノと彼とを近づけているように思えてきて、あたたかいものが胸にこみ上げてくるような心地になる。心が洗われるような一冊だった。
神さまたちの遊ぶ庭*宮下奈都
- 2015/04/07(火) 12:38:08
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北海道を愛する夫の希望で、福井からトムラウシに移り住んだ宮下家五人。TSUTAYAまで60キロ、最寄りのスーパーまで37キロ。「誰が晩のおかずの買い物をするのかしら」。小中学生あわせて15名の学校には、元気満々曲者ぞろいの先生たち。ジャージで通学、テストも宿題もないけれど、毎日が冒険、行事は盛り沢山。大人も子供も本気の本気、思いきり楽しむ山での暮らし。大自然に抱かれた宮下家一年間の記録。
夫の熱望に負けて――というよりも著者自身もわくわくしながら――、十勝の山の中、アイヌ語で「カムイミンタラ(神々の遊ぶ庭)」と呼ばれるほど素晴らしい景色に恵まれた土地である富村牛(トムラウシ)に一年の期間限定で家族で移り住んだ宮下家の春夏秋冬である。村の人たちのあたたかい歓迎、子どもたちの順応力、先生たちの熱心さ、四季の移ろい、村を上げての行事の数々、そして何より著者のわくわく感がリアルに伝わってくるようで、こちらまで興奮してくる。後ろ髪引かれる別れの辛さと、福井に戻ってからのふわふわした感じ、そして反れたまたいつしか日常になっていきそうな予感まで含め、とても愛おしい一冊である。
たった、それだけ*宮下奈都
- 2014/12/13(土) 17:10:52
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贈賄の罪が明るみに出る前に失踪した男と、その妻、姉、娘、浮気相手。考え抜いたそれぞれの胸の内からこぼれでた“たった、それだけ”のこと。本屋大賞ノミネート作『誰かが足りない』の感動ふたたび。人の弱さを見つめ、強さを信じる、著者の新たなる傑作!
それぞれの章で主役を替えて語られる物語。だがそれは、一貫して贈賄の汚名を着て、ある日突然失踪した望月正幸というひとりの男にまつわるものだったのである。望月自身はその姿を現すことはほとんどなく、取り残された周りの人たちのその後が描かれているのだが、いつもそこには色濃く望月の気配が漂っている。そしてラスト。これほど近づいたのにここで終わってしまうのか、ともどかしい気持ちにもなるが、それからのことをあれこれ想ってみるのもまた興味深い。たった、それだけのことが作りだした波紋は意外に遠くまで及ぶものだと思わされる一冊でもある。
ふたつのしるし*宮下奈都
- 2014/12/11(木) 18:35:15
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この人は何も知らない。遥名も何も知らない。それが決めてだった。
傷んだ心にやさしい雨のように降り注ぐ、傑作恋愛小説。
欠けていたものが、ぴたりとはまる。そんな風にしてふたりは出会った。
勉強のことを一秒も考えない小一のハルと、生きるための型がほしいと考える中一の遥名。
別々の場所で生まれ、まったく違う人生を歩んできたふたりの成長と出会いを描く、生きることが愛おしくなる傑作恋愛小説。
ハルと遥名、二人の「ハル」の人生は初めは別々に進んでいく。だがどちらもがいまいる場所にしっくり納まらない居心地の悪さを感じ、ほかの同級生たちのようにすんなりと事を運べずに成長していく。大人になり、それなりに必要とされる場所を見つけ、自分なりに充実して暮らしていた。そんなときに運命は二人を引き合わせたのである。そして震災。ハルは遥名を自転車で職場から自宅まで送るのである。二人にとっては、極端に言えば言葉さえ要らないくらいの必然的な出会いだったのだ。1991年、1997年、2003年、2009年、2011年と二人の人生を追いかけてきて、最後の章までたどり着いたとき、そこにはほんもののしあわせのしるしがあったのだった。愛おしいという言葉はこのためにあるのだと思える一冊である。
はじめからその話をすればよかった*宮下奈都
- 2013/11/02(土) 20:27:12
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単独の著書として10冊目にあたり、『終わらない歌』以来1年ぶりとなる本書は、著者初のエッセイ集。
小説を書く理由、自著の創作秘話、三人の子供たちを愛おしむ日々、大好きな本や音楽と共にある暮らし……。
2004年の作家デビュー以来9年間で紡がれたエッセイ81編と、
単行本初収録となる掌編小説4編を収める、宮下ファン必携、極上の一冊の誕生だ!
何度も書いている通り、小説家の書くエッセイにはあまり好きなものがない。だがこれは、確かにエッセイなのだが、エッセイにありがちなわざとらしさや気負いのような気配が少しも感じられないのである。素の宮下奈都を隣で見ているような親しささえ感じられ、著者のことがますます好きになり、その作品にますます愛着を感じるようになるのである。宮下奈都さん素敵、と言って歩きたくなる一冊である。
終わらない歌*宮下奈都
- 2012/12/20(木) 19:55:43
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「覚えてる? 今、あのときの未来だよ」
高校二年の春、卒業生を送る会の合唱で、未来への願いを託した調べに心を通わせあったクラスメイト。
御木元玲、原千夏、中溝早希、佐々木ひかり、里中佳子、東条あや。三年の月日が流れ、少女たちは二十歳になった。
玲は音大の声楽科に進んだが、自分の歌に価値を見いだせなくて、もがいている。
劇団でミュージカル女優をめざす千夏が舞台の真ん中に立てる日は、もう少し先みたいだ……。
ぐるぐる、ぐるぐる。道に迷っている彼女たちを待つのは、どんな明日なんだろう――。
小説誌「紡」で発表された四編(「シオンの娘」「スライダーズ・ミックス」「バームクーヘン、ふたたび」
「Joy to the world」)に、福井のタウン誌連載「コスモス」、そして、書き下ろし「終わらない歌」の全六編を収録。
傑作『よろこびの歌』待望の続編!
自分の存在意義を自分自身に問いかけ、ぐるぐると堂々巡りをするのは高校生だけではない。二十歳になったってそれは変わらないのだ。立っている場所があのころよりほんの少しだけ、あのころの未来に近づいたというだけで。それでも、あの高校時代があったから、それを糧とすることができるから、そしてあのころの友人たちがいるから、ぐるぐるしながらでも何とかやっていけそうな気がするのである。思い悩みながらも自分なりの何かを掴みかけた喜びにあふれた一冊でもある。
誰かが足りない*宮下奈都
- 2011/11/12(土) 14:24:45
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足りないことを哀しまないで、足りないことで充たされてみる。注目の「心の掬い手」が、しなやかに紡ぐ渾身作。偶然、同じ時間に人気レストランの客となった人々の、来店に至るまでのエピソードと前向きの決心。
とてもおいしくて感じがよくて、予約を取るのも難しいレストラン「ハライ」(晴れの日という意味だそうである)の場面ではじまり、同じ日の同じ場所で終わる物語。その日その時間に席を予約するに至ったさまざまな事情や気持ちや気づきや決意がひとつずつ丁寧に語られている。切なかったり悲しみにあふれていたり、ほんの少し希望が見えたり、それぞれの事情はまったく違うが、ハライで誰かと一緒に食事をしようと思えたとき、その人はきっとなにかに救われ、明日のことを少しでも信じることができたということなのだろう。もしいま誰かが足りないとしても、その人をしばらく待ってみようと思わせてくれる一冊である。
メロディ・フェア*宮下奈都
- 2011/02/08(火) 17:04:47
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私はこの世界の小さいところから歩いていくよ
大学を卒業した私は、田舎に戻り「ひとをきれいにする仕事」を選んだ。けれども、お客は思うように来ず、家では化粧嫌いの妹との溝がなかなか埋まらない。そんなある日、いつもは世間話しかしない女性が真剣な顔で化粧品カウンターを訪れて――いま注目の著者が、瑞々しさと温かさを兼ね備えた文体で、まっすぐに生きる女の子を描く、ささやかだけど確かな“しあわせ”の物語。
小宮山結乃は家族や田舎の閉塞感を嫌って家を出たが、田舎に戻って美容部員として就職する道を選んだのだった。職場の先輩、マネージャー、前任者、お客さま、幼なじみ、そしていちばん近いはずなのにある事情で隔たりを感じつづけている妹との日々の関係に悩んだり戸惑ったりする結乃の姿に好感が持てる。停滞したり後戻りしたりしていると思う日々も、顔を前に向けて歩こうとしていれば少しずつでも前に向かっているのだと思わせてくれる。変わり映えがしないようでも、きのうと同じきょうはないし、あしたはきょうよりよくなるのだ、としみじみと思える一冊である。
田舎の紳士服店のモデルの妻*宮下奈都
- 2010/12/03(金) 17:22:22
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田舎行きに戸惑い、夫とすれ違い、子育てに迷い、恋に胸騒がせる。じんわりと胸にしみてゆく、愛おしい「普通の私」の物語。
会った瞬間に輝きを感じ、「この人だ!」と思った夫が鬱病を患い、会社を辞めて田舎に帰るという。東京以外で暮らすことなど思ってもいなかった梨々子だが、夫とふたりの幼い子どもと共になにもない北陸の田舎町に移り住むことになったのだった。物語は、十年日記に記されるようにして進んでいく。
夫との、子どもたちとの、田舎の近所の人たちとの、東京時代の知り合いとの、さまざまな関係のなかに、自分の価値を見出せずに入る梨々子の、ただ息を吸って吐いているうちにきょう一日がまた終わった、というような無為な空しさは、だれにでも思い当ることがあるのではないだろうか。だが、彼女を見ていると、なにかを成さねばならぬという大げさに言えば強迫観念のようなものに自分からどんどんがんじがらめにされているようにも見えて痛々しささえ感じてしまう。しかしこれは前半の梨々子である。日記も終わりに近づくころの梨々子は、少しずつではあるが何者でもない自分を認め、しあわせを全身で受け止められるようになっていくのである。潤の手を引いて横断歩道で立ち止まっている思い出の場面で一気に熱いものがあふれた。普通がとても丁寧に描かれた一冊である。
遠くの声に耳を澄ませて*宮下奈都
- 2010/08/19(木) 18:20:32
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くすんでいた毎日が、少し色づいて回りはじめる。錆びついた缶の中に、おじいちゃんの宝物を見つけた。幼馴染の結婚式の日、泥だらけの道を走った。大好きな、ただひとりの人と、別れた。ただ、それだけのことなのに。看護婦、OL、大学生、母親。普通の人たちがひっそりと語りだす、ささやかだけど特別な物語。
「アンデスの声」 「転がる小石」 「どこにでも猫がいる」 「秋の転校生」 「うなぎを追いかけた男」 「部屋から始まった」 「初めての雪」 「足の速いおじさん」 「クックブックの五日間」 「ミルクティー」 「白い足袋」 「夕焼けの犬」
前作に登場した誰かが次作の片隅でその物語のなかの誰かと繋がっているという、ゆるゆるとした連作短編集である。そのさりげなさが一冊全体としての雰囲気をかえってとても濃密なものにしている。それぞれの物語もことさら劇的だったり華々しかったりすることなく、それぞれの主人公の目線で淡々と語られているのに好感が持てる。タイトルのとおり、耳を澄ませてなにかを聞き取ろうとするように文字を追う心地の一冊だった。
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