明日の食卓*椰月美智子

  • 2017/03/08(水) 17:05:13

明日の食卓
明日の食卓
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椰月 美智子
KADOKAWA/角川書店 (2016-08-31)
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息子を殺したのは、私ですか?

同じ名前の男の子を育てる3人の母親たち。
愛する我が子に手をあげたのは誰か――。

静岡在住・専業主婦の石橋あすみ36歳、夫・太一は東京に勤務するサラリーマン、息子・優8歳。
神奈川在住・フリーライターの石橋留美子43歳、夫・豊はフリーカメラマン、息子・悠宇8歳。
大阪在住・シングルマザーの石橋加奈30歳、離婚してアルバイトを掛け持ちする毎日、息子・勇8歳。

それぞれが息子のユウを育てながら忙しい日々を送っていた。辛いことも多いけど、幸せな家庭のはずだった。しかし、些細なことがきっかけで徐々にその生活が崩れていく。無意識に子どもに向いてしまう苛立ちと怒り。果たして3つの石橋家の行き着く果ては……。
どこにでもある家庭の光と闇を描いた、衝撃の物語。


「ユウ」という名の子どもを虐待する母親の描写から物語は始まる。それに続いて、「イシバシユウ」という名前を持つ子どもを育てる三組の家族の日常が交互に描かれている。三組の家庭環境はさまざまで、抱える問題もそれぞれ違っているのだが、幼い子どもを育てる日々の大変さや慌ただしさには現実感が溢れていて、どこの家庭でも多かれ少なかれ経験があることと思われる。それが虐待へと繋がってしまうのは、ほんの少しのすれ違いや歯車のずれなのだが、渦中にある時には、とてもではないがそれに気づくことができない。客観的になれれば起こらないはずのことも、そのときにはそれが精いっぱいだということもあるのだ。世の中には、ほんとうに子どもが可愛くなくて虐待に走る親もいるかもしれないが、少なくともこの三組はそうではない。それなのになぜ、と痛ましい思いに駆られる。そして、ラスト近くに挟まれた「イシバシユウ」という子どもが母親の暴力によって死亡したという新聞記事。どの石橋家のことだろうと、胸がどきどきしてくる。このラストには、賛否両論あるところだと思うが、個人的には、ちょっとほっとさせられた。まったくの他人事と放り出せない切実さに満ち溢れた一冊である。

14歳の水平線*椰月美智子

  • 2015/09/12(土) 20:21:12

14歳の水平線
14歳の水平線
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椰月 美智子
双葉社
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好きなサッカー部も辞めてしまった中2の加奈太。最近、息子の気持ちが掴めない征人。
夏休み、そんな父子が征人の故郷の島にやって来た。加奈太はキャンプで出会った子供達と交流を深める。
30年前の夏、中2の征人。父親が漁から戻らない。
息子と父親、そしてかつて少年だった父親の視点で交互に描く、青春&家族小説の感動傑作!


14歳という微妙な年齢の少年の成長を、父と息子の二代を交互に並べることで、鮮やかに描き出し、さらに、父と息子の間の壁をも取り払う巧みな成り立ちになっている。世界は自分中心に回っているように錯覚し、それに外れる事々に怒りを向け、悶々としながらもとげとげしい日々を過ごしている加奈太が、父の実家の島で、中二限定のサマーキャンプに参加した四泊五日は、現在にもこれからの人生にもかけがえのないものや人に出会った貴重な日々だったと、加奈太だけでなく、参加したほかの五人も、心から思ったことだろう。憎まれ口をきいても、突っ張っていても、14歳である。これから限りなく伸びていく可能性を感じさせてくれる一冊だった。

伶也と*椰月美智子

  • 2015/02/18(水) 18:31:25

伶也と伶也と
(2014/11/13)
椰月 美智子

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生まれて初めてのライブで、ロックバンド「ゴライアス」と衝撃的な出会いをした直子。今までこれといった趣味もなかった彼女は、自分の持てる時間と金のすべてを使い、ボーカルの伶也を支えることを決心する。狂おしいほどの愛と献身が行きつく先はどこなのか。二人が迎えた結末は、1ページめで明かされる。恋愛を超えた、究極の感情を描く問題作。


冒頭に配された新聞記事。本作は、この記事に至るまでの長い長い物語である。結末を知ってしまっているので、なにを読んでも切なく、胸に迫る。にもかかわらず、その場その場では、直子に少しでも幸せになってほしいと願わずにはいられなくもなるのである。伶也が果たして、大学院を出て、恵まれた職場でやりがいのある仕事をしていた直子が入れあげるほどの男かといえば、客観的に見ると、否としか言いようがない。それでも、どうしようもなく抑えられない気持ちはよくわかる。どこかで歯車がひとつでも違っていたら、まったく違う現在があるのだろうとも思うが、そうはならない運命だったのだろう。傍から見れば哀れむべき状況でも、直子にとっては至福の最期だったのだろう。切なくやるせなく愛にあふれた一冊である。

消えてなくなっても*椰月美智子

  • 2014/05/10(土) 16:50:54

消えてなくなっても (幽ブックス)消えてなくなっても (幽ブックス)
(2014/03/07)
椰月 美智子

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タウン誌の編集をする青年・あおのは、ストレス性の病を抱え、神話の伝説の残る緑深い山中にある鍼灸専門のキシダ治療院を取材で訪れる。どこへ行っても治らないという難病がそこでは治ると評判で、全国から患者が後を立たず訪問する治療院だった。先生に会ってみると明るくさばけており、先生の手伝いとして、同じ年頃の小説家志望のつきのという女性が居候していた。あおのは、自分の治療をかねて、三人暮らしをすることになる。規則正しい暮らし、治療の手伝い、つきのとくだけた本音の付き合いをすることで、あおのの病気は少しずつ回復に向かっていく。そしてついに、あおのは庭先で河童に遭遇する! それが意味するものは……。つきのもあおのも同じように、両親を幼いころ亡くしている。つきのは孤児院に、あおのは親戚に預けられていた。あおのの心を開いたものは何だったのか、二人を結びつけた運命とは……。ラストに用意された大どんでん返しは号泣を誘います。生を願い、死をも恐れない、愛されて人は生まれてきたのだということを思い出させてくれる、生への賛歌。、椰月美智子の最高傑作。本年度、泣ける小説ナンバー1確実。


著者には珍しく、よしもとばななさん的な雰囲気の漂う物語である。精神世界とか、この世ならぬ者との触れ合いなどによって、傷ついた心が少しずつ修復されていく過程は、読んでいる自分も解き放たれていくような解放感と安心感に包まれて――主人公のあおのやつきのの心のなかは不安定であるにもかかわらず――心地好い。これですべてがうまくいく方へ進んでいくのだと思いかけたラスト近くに仕掛けられたどんでん返しは、驚くばかりで、思わず涙を誘われるが、だからこそのこの物語なのだと、次第に納得させられた。心が浄化されるような一冊である。

市立第二中学校2年C組--10月19日 月曜日*椰月美智子

  • 2013/10/23(水) 10:08:10

市立第二中学校2年C組市立第二中学校2年C組
(2010/08/04)
椰月 美智子

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中2の一日は、こんなにも厄介で輝いている8時24分、七海は保健室に登校し、10時24分、貴大は初恋に落ちる。クラス38名それぞれの顔と心の内がくっきりと見える、等身大の学級日誌のような物語。


まさにタイトル通り、そのまんまの一冊である。巻頭に、2年C組の座席表と時間割が載っているのも、リアル感を増している。インターネットなど影も形もなく、いじめ問題もさほど深刻ではなかったわたしの中学生時代と、――周りの環境やツールが変わっても――中身はあまり変わっていないのだなぁ、というのが実感である。人間って進歩しているようでいて、実は律儀に同じ道筋をたどっているものなのかもしれない。これはたまたまこの一日を抜き出しているが、例えば学園祭の準備期間とか、別の一日にスポットを当てたら、もっと熱くなっていたりするのだろうか。その辺りも読んでみたいものである。中学生日記の一冊。

その青の、その先の、*椰月美智子

  • 2013/09/06(金) 16:51:00

その青の、その先の、その青の、その先の、
(2013/08/22)
椰月 美智子

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ばかみたいに幸福な時間。それは、ほんの少しさみしい。
恋、友情、初体験……。人生のきらめきすべてが詰まっている、最高の仲間と過ごした最高の三年間。

「こういうの、大人が見たらばかみたいだって言うのだろうか。高校生のおままごとだって言うのだろうか」
まひる……落語家を目指す大好きな彼氏が出来て、ファーストキスをしたばかり。
クロノ……ミュージシャンを目指してバンド活動をしている。誰もが振り返る美少女。
睦実……四人の中で唯一“初体験"を済ませていて、生徒会長に片思い中。よく泣く。
夏海……弓道部で活動していて、友だち想い。高校時代は化粧をしないと決めている。
悩みも夢も違うけれど、時に応援し合い、なぐさめ合い、確かに繋がっている四人のクラスメイト。
だがある日、まひるを思いがけない試練が襲い……。
光り輝く宝物のような時間は大切にしないと、シャボン玉のように消えてしまう。
『るり姉』が話題の著者が、最高の仲間と過ごした高校生活を鮮やかに描写した、感動の書き下し青春小説!


タイトルからは高校生の物語を想像しなかったし、こんな展開になるとは、読み始めてからも全く思いもしなかった。そのことは悲劇としか言いようがないのだが、それでもこの物語の中では悲劇で終わらないのである。強さと愛しさと友情にぎゅうっと囲まれて、いまどきの高校生もなかなかやるもんだと思わされる一冊である。

シロシロクビハダ*椰月美智子

  • 2013/01/23(水) 14:05:24

シロシロクビハダシロシロクビハダ
(2012/11/27)
椰月 美智子

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化粧品メーカーの研究部に勤める秋山箱理の肩には、目に見えないゆでだこの「タコリ」が乗っている。子供のころ世の中とうまく折り合えなかった箱理をいつも助けてくれたタコリが、17年ぶりに再来したのだ。それとともに、平和だった箱理の家族と仕事に波乱が生じはじめて・・・。なぜか完璧な白塗り化粧で素顔を隠しつづける祖母・ヨシエ、奔放なライターの姉・今理、熱血漢の弟・万理とその恋人、化粧品開発に賭ける同僚ら個性豊かな登場人物の織り成すドラマを温かく、ときに切なく描く魅力作。


箱理は空想の産物(?)のゆでだこのタコリを肩にのせているちょっと変わった子どもだった。大人になったいまは、化粧品メーカーの研究部に勤めている。相変わらず浮世離れしてはいるが、仕事はやりがいがあり、まあなんとなく職場の人間関係もうまくいっている風である。そんな折、しばらく現れなかったタコリが姿を現した。姉の今理、弟の万理とのあれこれ、祖母ヨシエさんの白塗り化粧の秘密、職場の同僚とのやり取りや仕事の達成感、そして工場での仄かな恋心など、箱理の日常は平穏なんだか波乱万丈なんだかよくわからない。でも、何があっても箱理は箱理でいてほしいと思わされる一冊である。

かっこうの親もずの子ども*椰月美智子

  • 2012/09/17(月) 13:24:33

かっこうの親 もずの子どもかっこうの親 もずの子ども
(2012/08/18)
椰月 美智子

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すべてのお母さん、お父さんと、大人になった子どもたちへ――
命とは、愛とは、絆とは……子育ての今、子育てのすべてを描く感動の家族小説。

幼児向け雑誌の編集部で働く、シングルマザーの統子。
子どもを保育園に預け、シッターの協力を得ながら、仕事と育児を両立させている。
4歳の息子・智康は、夫・阿川の希望もあり、不妊治療の末に授かった子どもだ。
産後、すべてが順調かにみえたが、ささいな喧嘩をきっかけに、阿川と統子は離婚に至った。
予定通りには進まない仕事、智康の突然の病気、実母との気持ちのすれ違い、
園でのママ友との人間関係など、統子に悩みは尽きないが、日々を全力で過ごしている。
そんなある日、統子は旅雑誌のグラビアページに智康とそっくりの、双子の少年が載っているのを見つけた。
それをきっかけに、統子と智康は、五島列島・中通島へ向かう……。
生殖医療、保育園問題など、出産と育児にまつわるテーマに切り込みながら、子どもへの愛と命の尊さを描ききる。


子育てで煮詰まっているお母さんにまずいちばんに読んでほしい一冊である。だが、そんな時期には落ち着いて本を読むことすらできなかったなぁ、と我が身を振り返ってそう思うので、親になる前の若い人たちにぜひ読んでもらいたい。ちっとも実感は持てないと思うが、やがて親になったときに、「ああこのことか」と膝を打つに違いない。我が子たちはすっかり育ちあがってしまったが、生まれてきてくれたことのありがたさを伝えるのに遅いということはないと思うので、死ぬまで何らかの形で伝え続けたいと改めて思わされた。この子らがいるからこその我が人生である。母とは強くて弱い生き物だといまさらながらに思わされる一冊でもある。

純愛モラトリアム*椰月美智子

  • 2011/08/19(金) 18:13:36

純愛モラトリアム純愛モラトリアム
(2011/03/15)
椰月美智子

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恋人の娘を誘拐する男、ストーカーに恋する女、 いつも禁断の恋を妄想する教師…… ちょっと度が過ぎているけれど、本人たちは大真面目。 “恋”することはできるけれど、“愛”にはまだ早すぎる!? 不器用な人たちの可笑しくも切ないラブストーリー


「西小原さんの誘拐計画」 「やさしい太陽」 「オケタニくんの不覚」 「スーパーマリオ」 「妄想ソラニン」 「1Fヒナドル」 「アマリリス洋子」 「菊ちゃんの涙」

登場人物でつながる連作短篇集である。そしてもうひとつ共通しているのは、どの物語の主人公も恋愛においては不器用だということである。ときにいきすぎや理解不能な行動やひとりよがりがあるのも、ひとえに不器用ながら真剣に恋する故なのである。愛すべき人物たちである(ちょっと怖くもあるが)。満たされたいのに満たされず、思わぬ方向へ進んでしまうもどかしさに悶々とする恋する者たちがとてもリアルに描かれていて感心する一冊である。

恋愛小説*椰月美智子

  • 2010/12/12(日) 08:20:15

恋愛小説恋愛小説
(2010/11/16)
椰月 美智子

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好意、愛情、執着、秘密、嫉妬…恋愛の全て美緒とサスケは、憎いほどに、殺したいほどに、愛し合っている。人を好きになる気持ち、好きでいる気持ち、恋愛の感覚全てが書きとめられた、恋愛小説の真骨頂。


「恋愛小説」と聞いて思い浮かべるものとはずいぶん違うように思う。それはきっと描かれ方のせいだろう。プロローグとエピローグの遠い目をした穏やかさに挟まれた本編の恋愛における大波小波が、甘く切なく切実でありながらも客観的で冷静な目によって一種のレポートのように綴られているので、読者は内容の混沌に呑み込まれずに一歩退いて眺めることができるのである。美緒とサスケにとってはハッピーエンドとは言えないのかもしれないが、大きな目で見たらきっと最良の結果なのだろうと思う。激しく狂おしく身勝手で切ない一冊である。

しずかな日々*椰月美智子

  • 2010/11/24(水) 17:30:34

しずかな日々しずかな日々
(2006/10/03)
椰月 美智子

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講談社児童文学新人賞受賞作家の感動作
人生は劇的ではない。でも、どんな人にもその人生を生きる誇りを得る瞬間がある。少年の姿をていねいにトレースした、やさしい目線あふれる健やかな小説。


枝田光樹はいるのかいないのかわからないような少年だった。五年生になるときのクラス替えで同じクラスになった押野のだれにでも人懐こい性格のおかげでいままで知らなかった喜びを知り、それに加え、ある事情で、長く離れて暮らしていた祖父の家でふたりで暮らすことになったこともプラスに働き、生きていることを実感するようになる素晴らしい一年間の物語である。おじいさんの庭、ということで湯本香樹実さんの『夏の庭』を思い出すが、同じように静かで懐かしく、大きな包容力のようなものを感じる。
大人になった光樹が懐かしく思い出しているという形で書かれているが、この一年が彼にとって一生の宝物になっていることがわかって、じんわりとしあわせな心地になる一冊である。

フリン*椰月美智子

  • 2010/08/29(日) 17:28:32

フリンフリン
(2010/06/01)
椰月 美智子

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火遊び、裏切り、そして道ならぬ恋――。結婚後の恋はいけないことなの?『しずかな日々』『るり姉』の著者が、現代のさまざまな不倫の情景を描く、新境地の反道徳小説!


葵さんの恋  シニガミ  最後の恋  年下の男の子  魔法がとけた夜  二人三脚


リバーサイドマンションの住人であるということをキーにした連作フリン物語であり、全編を通してひとつの物語でもあるように思えわれる。
たった二十一戸・七十三人のなかに普通はこれほど濃くは起こらないだろうと思われる気持ちの行き違いが起こり、道ならぬ恋模様が描かれる。陥り方も育ち方も、そして終わり方もさまざまだが、胸を張ってしあわせを宣言できる恋はひとつもない。陰で泣く人がいるかぎり、それはあってはいけないことなのだとも思う。だが、登場人物たちはみな一様に他人のことを思いやれるやさしさをも持っていて、物語全体の雰囲気はやさしいものになっている。フリンに開き直っていないからかな、と思ったりもする。

枝付き干し葡萄とワイングラス*椰月美智子

  • 2010/07/20(火) 10:41:47

超短編を含む短編集 枝付き干し葡萄とワイングラス超短編を含む短編集 枝付き干し葡萄とワイングラス
(2008/10/21)
椰月 美智子

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結婚「してから」の男と女のある場面 「そもそも二人は、なんでもなかったのだ。」結婚後の男女の、すえた空気を巧みに描きだす、今もっとも注目の作家・椰月美智子の短編集。


表題作のほか「城址公園にて」 「風邪」 「夜のドライブ」 「たんぽぽ産科婦人科クリニック」 「プールサイド小景(仮)」 「七夕の夜」 「甘えび」 「おしぼり」「どじょう」

『みきわめ検定』が結婚前、本作は結婚後の男女のあれこれである。『みきわめ検定』が駆け引きだとするならば、こちらは憤りと諦めとでもいうところだろうか。不気味な不穏さこそ結婚前よりは薄れているものの、既婚者ならば我が身に思い当ることが必ずあるだろう胸の底のどす黒い澱を文字にされたようでいたたまれなくなる。だが、そこにしたたかさのようなものも見え隠れしていて、前向きなパワーさえ感じられるのが不思議である。
「甘えび」が夫の好物だと気づきながら鰯を買って帰ったところが著者らしくて好きだ。

みきわめ検定*椰月美智子

  • 2010/07/08(木) 16:57:04

超短編を含む短編集 みきわめ検定超短編を含む短編集 みきわめ検定
(2008/10/21)
椰月 美智子

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結婚「まで」の男と女のある場面 「そろそろ今日あたり、キスのその先をすることになるに違いない。」結婚前の男女の、危うい気配を鋭く切りとる、今もっとも注目の作家・椰月美智子の短編集。


表題作のほか「死」 「沢渡のお兄さん」 「六番ホーム」 「夏」 「と、言った。」 「川」 「彼女をとりまく風景」 「きのこ」 「クーリーズで」 「西瓜」

読みながら、このざわざわする心地はなんなのだろう、と何度も考えた。ちょっとした、けれど永遠に寄り添うことのないズレだろうか。噛み合うはずの歯車のほんのわずかな軋みだろうか。どの物語も、胸の中を不穏にざわめかせるのである。善悪とか、常識とかに当てはめられるようなものではないなにかがどの物語にもたゆたっているのである。そしてその気分が解決したのはあとがきだった。なんとそれは、「やっちまった感」だったのである。

るり姉*椰月美智子

  • 2010/06/14(月) 10:39:50

るり姉るり姉
(2009/04)
椰月 美智子

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今この瞬間が、こうして過ごす毎日が、奇跡なのかもしれない。幸せのそばには、いつも「るり姉」がいた―。傑作『しずかな日々』(野間児童文芸賞&坪田譲治文学賞受賞)の感動が新たな魅力でふたたび!注目の著者が贈る、家族小説最新刊。


  第一章  さつき――夏
  第二章  けい子――その春
  第三章  みやこ――去年の冬
  第四章  開人――去年の秋
  第五章  みのり――四年後春


さつき、みやこ、みのり三姉妹は、母・けい子の妹である るり姉のことをそれぞれの思いでとても慕っている。そんなるり姉に病気が見つかり、日に日に輪郭を曖昧にしてゆく。日常ならざるそんな事態の前後を描くことで、何気ない日常のありがた味やしあわせが浮き彫りにされる一冊である。登場人物の誰もが現実感あふれる描かれ方で、物語の中で生きている。