スーツアクター探偵の事件簿*大倉崇裕

  • 2016/08/22(月) 13:16:03

スーツアクター探偵の事件簿
大倉 崇裕
河出書房新社
売り上げランキング: 187,546

怪獣に入って演技する「スーツアクター」の凸凹コンビ、椛島と太田。映画撮影所でおこる事件の謎を、このふたりが解決する!


怪獣役のスーツアクターに憧れて、(食べてはいけないものの)何とか細々と仕事をもらえるようになってきた椛島だったが、着ぐるみを着たままプールに落ち、たまたま現場にいた巨漢だがぼんやりしている太田に助けられた。その時の恐怖からそれ以後着ぐるみに入れなくなった椛島の代役として急遽スーツアクターをさせられることになった太田は、自らの意志に反して、なかなか筋がいいようで、現場で重宝されるようになる。だが、元々やる気のなかった太田は、椛島がいないとやっていけず、椛島は自然に太田のマネージャーのようになる。そして、そんな撮影現場に持ちあがる不審な出来事を、豆田監督の指示によって、探偵よろしく調査し、解決する役目まで背負うようになるのである。撮影スタッフ間のいざこざや、過去の撮影時の出来事など、さまざまな要素が絡み合うが、怪獣映画の撮影現場という特殊な場所の舞台裏も垣間見られて興味深い。なんだかんだ言っても、人間っていいなと思わされる一冊でもある。

天使の棲む部屋 問題物件*大倉崇裕

  • 2016/04/26(火) 18:33:30

天使の棲む部屋 問題物件
大倉 崇裕
光文社
売り上げランキング: 107,164

大島不動産販売・販売特別室の若宮恵美子は、桁外れの「問題物件」のクレーム処理に悪戦苦闘、危機一髪のところを何度も犬頭光太郎という奇天烈な男に助けられている。文字通り人間離れした力を持つ犬頭は、前社長の遺児・大島雅弘が大事にしているぬいぐるみ・犬太の化身なのか…?そんな恵美子に新たに押しつけられたのは、アメリカのアリゾナ州の外れに建つ洋館だった。「天使の棲む部屋」と呼ばれる一室では、犯罪者ばかりが何人も拳銃自殺を遂げており、死者は50人とも100人とも言われているというのだが―。規格外の名探偵(!?)犬頭光太郎ふたたび!!喧嘩上等、ルール無用。ワケアリ物件など恐るるに足らず。なんでもありの破壊的ミステリー!


犬頭光太郎(&若宮恵美子コンビ)ふたたび、である。寝たきりの雅弘の病状も相変わらずであり、前作にも増して、ひど過ぎる物件対応ばかり押しつけられる恵美子である。なんとかなるとは到底思えない問題に立ち向かおうとするとき、どこからともなく現れて、少々手荒なやり方で解決へと導く犬頭光太郎も相変わらず無茶苦茶である。だが、結局は解決できてしまうのだし、雅弘を想う気持ちは人一倍強いので、絶対的に憎めないのである。ここはもうどんなに無茶苦茶でもいいのである。読み終わったばかりで、もう次の問題物件を速く見たいと思わされるシリーズである。

GEEKSTER 秋葉原署捜査一係 九重祐子*大倉崇裕

  • 2016/02/28(日) 09:12:06

GEEKSTER 秋葉原署捜査一係  九重祐子
大倉崇裕
KADOKAWA/角川書店 (2016-01-28)
売り上げランキング: 183,142

2000年7月、秋葉原。九重祐子が捜査一係に着任したとき、事件はすでに始まっていた。食玩フィギュアを巡るトラブルが発生し、相談に来ていた男が、翌日遺体となって発見された。祐子は彼の相談を真剣に聞かなかったことに罪悪感を覚え、独自に捜査を始める。フィギュア店に潜入した祐子は犯人を見つけ出すことに成功するものの逆襲に遭う。ピンチに陥った祐子を救ったのは、謎の男・ギークスターだった。悪党に制裁を下す闇のヒーローとして街で噂になっているギーク(オタク)スター。正体を知った祐子は、反発を覚えながらも次第に惹かれ始める。秋葉原で続発する凶悪事件で、警察の組織捜査に限界を感じた祐子はギークスターの力を借りようとするが、断られてしまう。秋原葉の闇に潜む、悪を見つめるギークスターの目的は―!?


秋葉原を舞台にした物語だが、オタクが集う表の顔ではなく、その裏に潜む執着と復讐の渦に巻き込まれたような印象である。警察の無力さや、正義の味方ではない利己的なヒーローもどきが暗躍し、それが治安を守ることにもなっているのも皮肉である。種類は違えど、歌舞伎町の中国マフィアと警察のイタチごっこと似たものも感じる。暴行シーンは読んでいて気持ちのいいものではないが、警察官として揺れる胸の内は解らなくもない気がする。どちらにしても、どうにもならない街の事情にやるせなささえ感じてしまう。誰にも寄り添えない一冊でもある。

ペンギンを愛した容疑者*大倉崇裕

  • 2016/01/30(土) 17:09:00

ペンギンを愛した容疑者 警視庁総務部動植物管理係
大倉 崇裕
講談社
売り上げランキング: 250,020

「人間の視点では、この謎は解けません」
ペンギン屋敷の溺死体! 秘められた”殺意の証拠”をアニマル推理で解き明かせ! 警視庁「いきものがかり」の名(迷)コンビが大活躍!!
強面の窓際警部補・須藤友三(すどう・ともぞう)と動物オタクの女性巡査・薄圭子(うすき・けいこ)の名コンビが、動物にまつわるさまざまな難事件を解決する、大人気「コミカル・アニマル・ミステリー」シリーズです。
登場する動物はペンギン、ヤギ、サル、そして最も賢い鳥と言われるヨウム(オウムではないことに注目!)です。
警視庁の「いきものがかり」というべき、総務部動植物管理係のコンビの活躍を楽しめる4つの短編を収録した傑作集です。


表題作のほか、「ヤギを愛した容疑者」 「サルを愛した容疑者」 「最も賢い鳥」 

何作目になっても、薄圭子巡査のおとぼけ(本人はそう思っていないだろうが)ぶりは相変わらずである。そして、ひとたび動物が関わってくると、繊細な観察力と見事な推理で、その場で起こった犯罪を暴いてしまうのも、相変わらずスカッとする。いやいやこの仕事に就いた須藤警部補も、次第にやりがいを感じてきているようだし、薄巡査にも親心のような愛情を持ってきているのも微笑ましく感じられる。どんどん息の合ったコンビになってきている気がする。いつまで動物ネタが続けられるか判らないが、もっとずっと見ていたいシリーズである。

BLOOD ARM*大倉崇裕

  • 2015/07/18(土) 07:34:43

BLOOD ARM
BLOOD ARM
posted with amazlet at 15.07.17
大倉崇裕
KADOKAWA/角川書店 (2015-05-30)
売り上げランキング: 562,375

ある山々に囲まれた地方の街で不可解な地震が頻発していた。ガソリンスタンドでアルバイトをしている沓沢の周りでは、奇妙な出来事が次々と起きていた。そして山へ向かった沓沢は、恐るべき現象に遭遇する。


なんというか、怪獣である。しかも壮大なスケール(?)の物語である。表面だけをみると特撮怪獣物語なのだが、その奥で行われている、世界的な規模での地球を守るという名目での隠ぺい工作に背筋が凍る思いである。怪獣はともかくとしても、現代にもありそうで疑心暗鬼に駆られる一冊である。

福家警部補の追及*大倉崇裕

  • 2015/06/11(木) 18:40:02

福家警部補の追及 (創元クライム・クラブ)
大倉 崇裕
東京創元社
売り上げランキング: 25,086

狩秋人は未踏峰チャムガランガへの挑戦を控え、準備に余念がない。勇名を馳せた登山家の父・義之がついに制覇できなかった山である。義之は息子に夢を託して引退、この期に及んで登山隊の後援をやめると言った会社重役を殺害する(「未完の頂上」)。動物をこよなく愛する佐々千尋はペットショップの経営者。血の繋がらない弟は悪徳ブリーダーで、千尋の店が建っている敷地を売ろうとする。そもそも動物虐待の悪行に怒り心頭だった千尋は、弟を亡き者に……(「幸福の代償」)。『福家警部補の挨拶』に始まる、倒叙形式の本格ミステリ第四集。


刑事コロンボを思い出させる福家警部補である。とても刑事には見えない小柄で若い女性というキャラクタを生かし――と福家警部補地震は思っていないだろうが――これと目をつけたホシに近づき、しぶとく食らいついてじわじわと追いつめる。キャラクタとのギャップが相変わらずなんとも小気味よい。ここはドラマの配役に引きずられずに愉しみたい(とは言えときどきちらついてしまうのが鬱陶しい)。強面の男性刑事が現れると身構えている犯人も、きっと調子が狂うのだろうなぁ。最後の最後には自白に追い込む手腕は見事である。福家警部補の次の活躍も早く見たいシリーズである。

蜂に魅かれた容疑者--警視庁総務部動植物管理係*大倉崇裕

  • 2014/09/13(土) 07:14:50

蜂に魅かれた容疑者 警視庁総務部動植物管理係蜂に魅かれた容疑者 警視庁総務部動植物管理係
(2014/07/10)
大倉 崇裕

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新興宗教団体にかかわる事件で、捜査を指揮していた警視庁の管理官が銃撃された。庁内が緊張に包まれる中、都内近郊の各地ではスズメバチが人を襲う事故が続けて起こる。その中には高速道路を走行する車中で蜂が暴れるという重大な事例も―。本庁の総務部総務課動植物管理係の須藤友三警部補と部下の薄圭子巡査は、捜査一課からの依頼で蜂の事故の調査を始めるが―!?平穏な日常を脅かす小さな「兵器」に、警視庁の「いきものがかり」コンビが立ち向かう!窓際警部補と動物オタクの女性巡査が駆ける!スリルと抱腹の最新警察小説!!


須藤・薄(うすき)の珍コンビ再び、である。相変わらずの薄の常人外れっぷりに思わず頬が緩むが、須藤もすっかり生き物係――というか薄のお守り役――が板についている。生き物は薄、人間は自分、と悟っている感じに悲哀とたっぷりの愛情がにじみ出ているような気がする。薄の場を読まない質問攻撃と、生き物に関する説明攻撃は、ある意味傍迷惑ではあるのだが、それが事件を解決するカギを見つけるのに一役買っているのだから、闇雲に止められないのが痛し痒しで、それがまた面白い。まだまだ続いてほしいシリーズである。

白戸修の逃亡*大倉崇裕

  • 2013/10/07(月) 16:37:19

白戸修の逃亡白戸修の逃亡
(2013/09/18)
大倉 崇裕

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何故か東京の中野で事件に巻き込まれ続けている白戸修。
今回は、世界的な大規模イベント「メガトンコミックフェスタ」の会場に爆破を仕掛けたという脅迫電話をかけ、イベントを中止に追い込んだ犯人に間違えられた。
不特定多数の人間に追われることになった白戸に、過去に事件で関わった人たちが次々と救いの手をさしのべてくれる。
果たして白戸の運命はいかに!?


シリーズを重ねるごとに、白戸修の不運度はますます増し、どんどん大事になっているのは気のせいだろうか。そして、これまでの顛末で知り合った強者たちの、白戸修ヘルプネットワークもなにやらシステマティックに整えられつつあるように見えるのも気のせいだろうか。当の白戸修だけが、初めから全く変わらず、お人好しでマイペースで、――追われている自覚がないわけではないのだが――いつも自分に迫る危険のことよりも他人の被る不利益ことを考えている。愛すべき運のなさをもつ白戸修のドタバタ大逃亡劇が本作である。だがどうやら、最後まで読むと、白戸修もただ運がないと嘆いてばかりもいられなくなったようでもある。これからはますますさまざまな厄介事が押し寄せてきそうな予感が色濃く漂ってくる一冊である。

問題物件*大倉崇裕

  • 2013/09/23(月) 16:42:02

問題物件問題物件
(2013/08/13)
大倉 崇裕

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大島不動産販売前社長の遺児で、難病に苦しむ大島雅弘の世話係を務めていた若宮恵美子は、派閥争いのあおりを受け、新設部署への異動を命じられた。雅弘をトップに、3名だけでクレーム対応をする部署らしい。現社長の高丸は、反高丸派の旗頭である雅弘に無理難題を押しつけ、責任を取らせて追い出したいのだ―。次から次へと問題物件を押しつけられ途方に暮れる恵美子の前に、「探偵」を名乗る奇妙な男が現れて…。前代未聞の名探偵(?)犬頭光太郎登場!!居座り、自殺、ゴミ屋敷、ポルターガイストに失踪まで。お部屋に関する問題を、人間離れした能力で華麗に無理矢理解決!破天荒極まりないミステリー!


これがありだったらなんでもありだろう、と思われるような無理やりな設定なのだが、なんとなくほのぼのと愛情にあふれているし、こんなことがあってもいいなと思わせてくれるので、良しとすることにする。助手役でもある若宮恵美子は、実質的にはあまり役に立っているようには見えないが、探偵役の犬頭とは結構いいコンビである。雅弘を思う共通の気持ちがなせる業なのであろう。続きが気になる一冊でもある。

福家警部補の報告*大倉崇裕

  • 2013/04/07(日) 19:28:56

福家警部補の報告 (創元クライム・クラブ)福家警部補の報告 (創元クライム・クラブ)
(2013/02/21)
大倉 崇裕

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実力派漫画家と辣腕営業部長、もと同人が迎えた不幸な結末(「禁断の筋書」)、少女が目撃証言を拒むのはヤクザの一徹に絆されたからか(「少女の沈黙」)、老夫婦が爆弾で吹き飛ばした三人は銀行を襲う直前だった(「女神の微笑」)。『福家警部補の挨拶』『福家警部補の再訪』に続く、倒叙形式の本格ミステリ第三集。「こんな気分久しぶりだわ。ワクワクする」福家警部補の攻勢に犯人も発奮!活殺自在の名刑事、今日も徹夜で捜査する。


待ってました!福家警部補。相変わらず警察手帳はなかなか見つからないし、携帯電話の電源は入れ忘れるし、忙しすぎて家にも帰れず徹夜続きで、お金も下ろせずに部下に借りるし、現場では刑事には見られず追い払われそうになっている福家警部補である。そんな憎めない天然キャラなのだが、やることは半端ではない。一度睨まれたら逃げることなど不可能なのである。小さなシミさえ見逃さず、犯人の盲点に切り込んでくる。しかも淡々と、平然と。カッコイイ!でも、福家警部補の母はさぞや心配だろうと、物語には全く出てこない彼女の個人的なことまで想像してしまうのである。ちゃんと寝てちゃんと食べて、またカッコイイ姿を見せてほしいと思わずにはいられないシリーズである。

オチケン探偵の事件簿*大倉崇裕

  • 2012/12/15(土) 07:44:22

オチケン探偵の事件簿オチケン探偵の事件簿
(2012/11/21)
大倉 崇裕

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究極の巻き込まれ型でお人好し探偵が、キャンパスで起こる奇怪な事件の数々に挑む。事件を解く鍵は落語にアリ?
大学入学早々、落語にまったく興味がないのに、廃部寸前のオチケン(落語研究会)に入部させられた越智健一(おちけんいち)。風変わりな二人の先輩にふりまわされ、キャンパス内で起きる奇妙な事件の捜査に駆り出され、必修科目の出席もままならない中、大学は夏季休暇に突入していた。宿題をきっちり仕上げ、前期のリベンジを誓う越智だが、学生落語選手権で優勝を狙う大学間の抗争に巻き込まれ、次々と予想だにしない事件に直面するはめに……。単位取得が遠のいていく、オチケン探偵の活躍を描く連作ミステリー。オチケンの運命や、いかに!
『オチケン! 』『オチケン、ピンチ!!』で大人気。ユーモアと落語の薀蓄が満載の、大学の落語研究会を舞台にした爽やか青春ミステリー。落語好き、ミステリー好き、青春小説好き必読。


「幻の男」 「高田馬場」

相変わらず間の悪い――というか、断り下手な――越智健一(オチケン)である。だが、まったくもう、と嘆きながらも自ら事件の渦中へと爪先を向けてしまうのだから、これはもう性分としか言いようがないだろう。おそらく本人としても宿題を仕上げて前期のリベンジを果たすよりも、ずっと充実した夏休みであることだろう(嘆息)。なんだかんだと巻き込まれながら、情けなさ全開で振り回されているように見えるオチケンだが、要所ではかなりな洞察力を発揮し、それがわかっていて利用している風変わりな先輩たちもまたある意味魅力的である。新学長の人となりがまだ読み切れないが、今後のシリーズで明かされていくのだろうか。越智くんの宿題が無事夏休み中に完成することを祈らずにはいられない一冊である。

夏雷*大倉崇裕

  • 2012/08/20(月) 07:29:20

夏雷夏雷
(2012/07/24)
大倉崇裕

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ずぶの素人を北アルプスの峻峰に登らせる―。奇妙な依頼を受けた男に仕組まれた危険な罠!山を捨てた男の誇りと再生を賭けた闘いの行方は!?彼はなぜ槍ヶ岳を目指したのか?新たな歴史を刻む山岳ミステリーの傑作誕生。


ガチガチの登山物語ではないので、登山に詳しくなくても違和感なく愉しめる、山での描写よりも、そこに至る経緯が物語の主なところで、しかもそれが面白い。読み進めば読み進むほどに、謎が深くなり、知りたい欲求がどんどん高まる。主人公の便利屋倉持の抱える謎、依頼者山田の謎、突然現れた女の謎、等々…。ミステリとしては完結したが、果たせなかった山田との最後の約束を果たさせてやりたかった、と思わされる一冊である。

凍雨*大倉崇裕

  • 2012/04/09(月) 07:31:51

凍雨凍雨
(2012/03/16)
大倉崇裕

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凍雨―。降られると、雪より辛い、冷たい雨。地元のタクシー運転手の声が、深江の脳裡にこだまする。標高一九二二メートル。福島県北部に位置する単独峰、嶺雲岳。この山を久しぶりに訪れた深江信二郎は、亡き親友植村の妻真弓と、遺児佳子の姿を垣間見る。一方、無頼の男たちを束ねる遠藤達也も入山。彼らを追う中国人組織も現れ、激烈な銃撃戦が開始された。深江と母娘は、その争いに巻き込まれてしまう。山が血で染まっていく…。奴らの正体は?深江と母娘の過去の因縁とは?気鋭が冒険小説に新境地を拓いた、傑作長篇。


山が丸ごと戦場と化したような凄絶な物語である。植村の命日に事故現場に参るために山を登り始めた妻・真弓と娘・佳子、そして(別行動だが)親友の深江だった。これをひと区切りとし、新しい毎日に踏み出すはずだったのだが、それはそう簡単なことではなくなってしまったのだった。中国マフィアと遠藤たちのグループの死闘に巻き込まれ、結果的には両グループ対深江、という構図になってしまう。深江の群を抜く思慮深さと山を知悉した行動力の的確さとその勇気に舌を巻き、遠藤たちの統一感はないが人を殺すことに躊躇いのない行動にいらいらさせられ、一瞬一瞬の判断にはらはらさせられ続ける。肩に力が入り、気の抜けない一冊だった。

白虹*大倉崇裕

  • 2011/04/19(火) 14:45:41

白虹白虹
(2010/12)
大倉 崇裕

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仕組まれた謎、驚愕の真相。北アルプスの山小屋で働く元警官の五木健司はある遭難者を救助したことがきっかけで殺人事件の真相を追うことに…傑作長篇ミステリー。


なにか過去を背負っているような五木が主人公。その過去の経緯も気になり、はじめから惹きこまれる。そして普通の人なら見過ごしてしまうようなちょっとした違和感をそのままにしない五木の性格ゆえに、ひとりの登山者の命を救うことになるのである。それがまさに物語のはじまりなのだった。五木が自分を責めながらも巻き込まれることになる事件でも、やはり違和感を捨てておけない性格がさまざまな真実を白日の元に晒すことになり興味深い。そしてラスト近く、あとは五木の身の振り方だけが気がかりだな、と思った辺りから様相はガラッと変わるのである。パズルのピースが次々にはまっていくように信じたくない真実が明るみに出てくるのは、やりきれなくもあるが、腑に落ちる感じもあってとても面白かった。読み応えのある一冊である。

生還--・山岳捜査官・釜谷亮二*大倉崇裕

  • 2011/03/12(土) 10:48:39

生還 山岳捜査官・釜谷亮二生還 山岳捜査官・釜谷亮二
(2008/08/29)
大倉 崇裕

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山岳捜査官とは、いわば「山の鑑識係」である。遭難救助隊が不審な点のある遺体を山で発見したときに登場し、残された微細な証拠や聞き込みから、その死の真実を突き止める。四月中旬、北アルプス黒門岳で見つかった女性の遺体。彼女は、右手に握りしめた折りたたみナイフで、黄色のダウンジャケットを雪面に刺し貫いた状態で死んでいた。彼女の死の真相、そしてダウンジャケットのもつ意味とは―。(第一話「生還」)『山と溪谷』連載時から話題を呼んだ山岳短編小説に、書き下ろし一編を加え、全四話を収録した傑作集。


第一話 生還  第二話 誤解  第三話 捜索  第四話 英雄

山岳捜査官という職業を初めて知ったが、大変な仕事である。登山技術はもちろんのこと、ただでさえ悪条件である場合が多い山の事故現場へいち早く入り、過酷な条件下で捜索しなければならないので、体力や精神力も相当鍛えられていることが要求される。ベテラン捜査官・釜谷の捜査の様子を、新人の原田の目線で見つめる連作である。釜谷の捜査にかける真摯さと、いささかの違和感も見逃さない生真面目さが、真実を白日の下にさらす様子が興味深い。最後の物語だけは趣が他とは違い、ざらざらとした嫌な後味が残るが、却って現実感を感じられもする。鬼気迫る一冊である。