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悪声*いしいしんじ

  • 2015/08/04(火) 16:50:53

悪声
悪声
posted with amazlet at 15.08.04
いしい しんじ
文藝春秋
売り上げランキング: 16,239

「ええ声」を持つ少年はいかにして「悪声」となったのか―ほとばしるイメージ、疾走するストーリー。物語の名手が一切のリミッターを外して書き下ろした問題作。


第一章 「ぶっしょうじ」縁起  第二章 アムステルダムの父親  第三章 方舟教会ライブ  第四章 球体

廃寺の緑の苔の上で泣き声を上げ、荒れ果てた堂宇から現れた女の左の乳を呑んでいた赤子・<なにか>は、近所の農夫の養子になって成長するが、中学の時音楽の女教師に歌の素質を見出される。だがそれは単なる歌の巧さということではなく、聴く人の細胞に沁み渡るような声の質、とでもいうようなものなのである。<なにか>は成長とともにさまざまな人と出会い、いろいろな経験をするのだが、最後まで読むと、すべて夢の中のできごとだったのだと言われても決して驚かないのである。ここにいてここにいない。ここにいるのにどこにでもいる。壮大で矮小であり、外であり内である。不思議な旅の物語のような一冊である。

その場小説*いしいしんじ「

  • 2013/03/02(土) 16:46:37

その場小説その場小説
(2012/11/09)
いしい しんじ

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54の「その場」で生まれた即興短編集。

2007年12月、それは六本木ではじまった。六本木のアートカフェイベントで自作の朗読を頼まれたいしいしんじは、"既に自分が知っている話をもう一度読んでも面白くない"と思った。そして、その場でちょっと、小説を書きながら声に出して読んでみた。楽しかった。それから、鉛筆だけを持って、呼ばれたらどこにでも出かけていき、「その場」で小説を書き、読むという独自のスタイルで執筆活動をするように。2012年9月の金沢、そして駒場にいたるまで54の物語を生み出してきた。東京の書店、京都のお寺、大阪の銭湯、神奈川のギャラリー、長野のカフェ、高知の植物園、瀬戸内海の小さな島、茨城の公園、大分のストリップ劇場、沖縄の市場、北海道のカフェ……その場の人々、その場の空気、その場の風景からインスピレーションを得て紡がれた風変わりで心温まる54の物語。


その場その場の「気」を読んで物語を紡ぎだす。そんな臨場感あふれる小さな物語がぎっしり詰まった一冊である。ひとつひとつの物語は、そのときその場で生み出されたものでありながら、同じ場所で生まれた物語同士は繋がっているようであり、まったく別の場所で生まれた物語同士も、どこか深い深いところで繋がっているように思われる。ときにあたたかくすべてを包み込むようであり、ときにチクリと胸を刺す。たくさんのちいさな光の粒が寄り集まって、形を変えながら生き続けているような心地のする一冊でもある。

ある一日*いしいしんじ

  • 2012/04/26(木) 08:23:25

ある一日ある一日
(2012/02/29)
いしい しんじ

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こんどこそ生まれてきてくれる――。赤ん坊の誕生という紛れもない奇跡。京都、鴨川にほどちかい古い町屋に暮らす四十代の夫婦のもとに、待ちに待った赤ん坊が誕生する。産みの苦しみに塗りこめられる妻に寄り添いながら、夫の思いは、産院から西マリアナ海嶺、地球の裏側のチリの坑道まで、遠のいてはまた還ってくる。陣痛から出産まで、人生最大の一日を克明に描きだす、胸をゆすぶられる物語。


ある夫婦のある一日がつぶさに描かれている、それだけの物語である。ただ、その一日というのは、やっと授かり、待ちに待った我が子誕生のその日なのである。ほかのどの一日とも際立って違う一日なのである。産む者と生まれ出る者、そしてつきっきりで立ち会う者それぞれの存在のありようが、くっきり別のことではあるのだが、ひとつのことを成し遂げようとする一体感を持って胸に迫るのである。この物語は、この夫婦と生まれる子どもだけのものなのだが、読む者それぞれが、我が身のそのときのことを胸によみがえらせながら、特別な気持ちを抱きつつページを捲る一冊である。

遠い足の話*いしいしんじ

  • 2011/07/17(日) 06:33:32

遠い足の話遠い足の話
(2010/10)
いしい しんじ

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住んでいた町、住んでいる町、住むかもしれない町。直島、高野山、大阪、天草、東京、NY、松本…そして京都。なにかに導かれるように巡り歩いた、「遠足」の記録。


「遠い足」とは「遠足」のことだったか、といまさらながらに思ったことである。「い」があるとないとでは趣がたいそう異なる。これはエッセイなのだが、いしいしんじという作家が語ると連綿とつながり運命づけられてきた生きてきてこれからも生きていく道のりのように感じられる。大いなるなに者かの手によって紡がれる途中のタペストリーを見ているようでもある。自分の来し方を振り返りたくなる一冊である。

四とそれ以上の国*いしいしんじ

  • 2009/05/16(土) 08:40:32

四とそれ以上の国四とそれ以上の国
(2008/11)
いしい しんじ

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四国・阿波、ある夜、「藍」が逃げ出した。人間でいえば十六、七…。心の奥底に秘められた言葉、記憶、すべてを解き放つ、「それ以上」の物語。


「塩」 「峠」 「道」 「渦」 「藍」

地名や風物は現実の四国そのものなのだが、描かれているのは、現実を越えてあふれ流れ出す心象風景さながらである。
自由に形を変え――ときには形さえもなく――四国のさまざまな土地とそこに根づく暮らしの上を奥を漂い突き進むようにも見える。

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みずうみ*いしいしんじ

  • 2007/04/09(月) 17:13:50

☆☆☆☆・

みずうみ みずうみ
いしい しんじ (2007/03/16)
河出書房新社

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ひとつだけ、教えてくれ。今日は、何月、何日だ――伸び縮みする時間の中で、みずうみは渦巻き、そして落ちていく。『ポーの話』から2年、待望にして著者最高の最新長篇小説!


著者が訪れた場所、著者の身に起こったことに触発されて生まれた物語だと どこかで読んだ憶えがある。初めて具体的な場所の名が書かれた作品でもある。しかしやはり、根底に流れるものは「いしいしんじ」の命なのである。
直前に読んだ『千年樹』荻原浩 著と底を流れるもののありようがあまりにも似ていて、まったく別の作品であるにもかかわらず 常に両方の物語の間をゆらゆらと揺れているような心地で読んだ。それぞれの著者にとっては不本意なことかもしれないが、奥深いところで両者が共鳴しているようで、それぞれの不思議体験が増幅されるようなますます不思議な心持ちである。
『みずうみ』のキーワードはもちろん「水」であり「布」であろう。そしてさらに言えば「時間」であり「場所」でもあるのだろう。そして「エントロピー」。繰り返される命、というものを強く思わされる一冊でもあった。

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ポーの話*いしいしんじ

  • 2007/03/08(木) 13:57:04

☆☆☆・・

ポーの話 ポーの話
いしい しんじ (2005/05/28)
新潮社

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あまたの橋が架かる町。眠るように流れる泥の川。太古から岸辺に住みつく「うなぎ女」たちを母として、ポーは生まれた。やがて、稀代の盗人「メリーゴーランド」と知りあい、夜な夜な悪事を働くようになる。だがある夏、500年ぶりの土砂降りが町を襲い―。いしいしんじが到達した、深くはるかな物語世界。2年ぶり、待望の書下ろし長篇。善と悪、知と痴、清と濁のあわいを描く、最高傑作。


うなぎ女たちの息子として生まれたポーの話。
母たちの愛に包まれて育った子どものときを過ぎ、成長とともに世の中のさまざまな物事に触れ、翻弄されながら少しずつ川を下り、とうとう海へとたどりつく。
いつでもどこでもなにをしていても ポーが母たちに愛されたポーであることには変わりがなく、自分の大切なものを大切にし、人が大切にするものも大切に思って生きている。
著者の作品にはいつも哲学的とも言えるなにかを感じるが、この作品にも生きていくうえでの根源的なありようとでもいうものを思わされる。泥にまみれた黒いポーと真っ白な鳩とが、全編に通底する生き方の真髄を象徴していて鮮やかである。

白の鳥と黒の鳥*いしいしんじ

  • 2007/02/01(木) 20:06:37

☆☆☆・・

白の鳥と黒の鳥 白の鳥と黒の鳥
いしい しんじ (2005/02)
角川書店

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なつかしくて斬新で暖かい。極上の短篇小説集を読む喜び。
物語の曲芸師いしいしんじが一篇一篇、魅惑的に語り進める、短篇小説の楽しさがぎゅっと詰まった珠玉の一冊です。


読後感を言葉にするのがむずかしい一冊である。ほのぼのとした物語かと思うと、いつのまにかどこかで分かれ道に迷い込んだかのようにシュールな結末に辿り着いていたりする。安閑としていてはいけないぞ、と警告されているようでもある。
まるで表紙の白黒の絵のような物語たちである。
白い鳥は白い背景では視えず、黒い鳥は黒い背景では視えない。そしてその逆ではくっきりと視え過ぎてしまうのである。ちょっと怖い。

雪屋のロッスさん*いしいしんじ

  • 2006/10/28(土) 13:00:35

☆☆☆☆・

雪屋のロッスさん 雪屋のロッスさん
いしい しんじ (2006/02)
メディアファクトリー

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「さいわいなことに、雪はいずれ溶けます。はかないようですが、そこが雪のいいところです」ロッスさんは、そういって笑いました。物語作家いしいしんじが描く、さまざまな人たち、それぞれの営み。あなたは、何をする人ですか?


大きな意味での“仕事”とそれに携わる人の30の掌編。
どの仕事人も自分の仕事に誇りを持ち、日々淡々と仕事をこなす。そんな彼らの身に降りかかるのは、幸福なことばかりではなく ときには理不尽で哀しい。それでも最後まで自分の仕事をしながら生きている彼らの生き様が、ひとつひとつ心に灯ってあたたかい。
世界は、大それていない小さな事々で成り立っているのだと 胸にほんの小さな棘を残しながらも安心させられる。

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ぶらんこ乗り*いしいしんじ

  • 2006/07/26(水) 18:08:34

☆☆☆・・

ぶらんこ乗り ぶらんこ乗り
いしい しんじ (2004/07)
新潮社

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ぶらんこが上手で、指を鳴らすのが得意な男の子。 声を失い、でも動物と話ができる、つくり話の天才。 もういない、わたしの弟。 ――天使みたいだった少年が、この世につかまろうと必死でのばしていた小さな手。 残された古いノートには、痛いほどの真実が記されていた。 ある雪の日、わたしの耳に、懐かしい音が響いて・・・・・。 物語作家いしいしんじの誕生を告げる奇跡的に愛おしい第一長篇。  ――文庫裏表紙より


弟がやさしければやさしいほど、いい子であればいい子であるほど 痛く切ない想いに胸が締めつけられる。 弟の孤独は彼ひとりのものではなく、誰でもがこの世の中でひとりぽっちなのだということを思い出させ、それでもみんな誰かとつながろうと手を伸ばしているのだということを改めて思わせてくれる。 
弟の作ったたくさんのおはなしは、つくり話だったのかもしれないが、誰もほんとうのことではないと言い切れないのだ。 あの弟はもしかするといしいしんじさんなのかもしれない。

麦ふみクーツェ*いしいしんじ

  • 2005/02/22(火) 13:28:46

☆☆☆・・



とある港町で、数学者の父とティンパニストの祖父と暮らす≪ぼく――ニックネームは、ねこ≫をとりまく物語。

 とん、たたん

 たたん、とん


と聞こえるのは、クーツェが黄色い土煙を上げて麦を踏む音。
ぼくの夢の中でとか、耳の奥から、胸の深いところから ことあるごとにその音は聞こえるのだ。
何か大切なことを伝えるかのように、いまさら伝えることなど何もないかのように。

物語の中に出てくる村や町は、目の前にあるかのように想像できるのだが、一方でとてもとても遠い気がする。
いしい作品の醸し出す懐かしい不思議さは、手が届きそうで永遠に触れられなさそうなところかもしれない。

この物語のキーワードは≪音≫
ないがしろにされていい音は きっとひとつもないのだろう。

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トリツカレ男*いしいしんじ

  • 2004/11/13(土) 22:09:20

☆☆☆・・




町の人々に<トリツカレ男>と呼ばれている ジュゼッペのお話。

ともかく 次から次へといろいろなものにトリツカレてゆくのだ。
オペラだったり、サングラス集めだったり、昆虫採集だったり、三段跳びだったり、それにトリツカレている間は それを極めるのだが、一旦トリツカレるものが替わるとさっぱりと憑物が落ちたように興味を無くすのだ。

ペチカ という少女に出会うまでは。

ハツカネズミにトリツカレていたときに出会った 人間の言葉のわかるハツカネズミがある時ジュゼッペに向かって言った

 「そりゃもちろん、だいたいが時間のむだ、物笑いのたね、
 役立たずのごみでおわっちまうだろうけれど、でも、
 きみが本気をつづけるなら、いずれなにかちょっとしたことで、
 むくわれることはあるんだと思う」


というひと言が、心に残る。本気をつづけることなのだ。なにごとも。
むだに見えても まったくのむだ なんてものはきっと何ひとつないのだ。
ジュゼッペとペチカがどうかしあわせにトリツカレますように。

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プラネタリウムのふたご*いしいしんじ

  • 2003/11/15(土) 07:41:42

☆☆☆・・   プラネタリウムのふたご

どこか遠いある村の プラネタリウムで生まれた 双子の男の子の物語。
ひとりはプラネタリウムの解説員になり もうひとりは ふとしたはずみから手品師になる。

遠く離れた場所で さまざまな出来事に出会う二人。
ちょっと不思議で ちょっぴり怖く わくわくどきどきして ほゎんとあったかくなる。
そんなお話し。

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