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熱帯*森見登美彦

  • 2019/01/11(金) 21:28:54

熱帯
熱帯
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森見 登美彦
文藝春秋
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汝にかかわりなきことを語るなかれ――。そんな謎めいた警句から始まる一冊の本『熱帯』。
この本に惹かれ、探し求める作家の森見登美彦氏はある日、奇妙な催し「沈黙読書会」でこの本の秘密を知る女性と出会う。そこで彼女が口にしたセリフ「この本を最後まで読んだ人間はいないんです」、この言葉の真意とは?
秘密を解き明かすべく集結した「学団」メンバーに神出鬼没の古本屋台「暴夜書房」、鍵を握る飴色のカードボックスと「部屋の中の部屋」……。


なんと頭がぐるぐるする物語であろうか。佐山尚一著の『熱帯』という一冊の本を巡る物語であることは確かなのだが、この本の実態が全くと言っていいほどつかめない。しかも、『千一夜物語』という果てない夢の中にまで迷い込み、これらの二冊が互いに入れ子のようになっているようでもある。現実世界にいたかと思うと、あっという間に物語世界に取り込まれ、自分がいまどこにいて何を見ているのかを度々見失いそうになる。物語は結末を迎えるが、『熱帯』という謎は解かれることがあるのだろうか。何もかも終わったようでいて、その実、ここが始まりなのかもしれないとさえ思わされる。壮大なようでもあり、極めて狭いようでもある不思議な一冊である。

夜行*森見登美彦

  • 2017/04/26(水) 16:16:55

夜行
夜行
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森見 登美彦
小学館
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僕らは誰も彼女のことを忘れられなかった。

私たち六人は、京都で学生時代を過ごした仲間だった。
十年前、鞍馬の火祭りを訪れた私たちの前から、長谷川さんは突然姿を消した。
十年ぶりに鞍馬に集まったのは、おそらく皆、もう一度彼女に会いたかったからだ。
夜が更けるなか、それぞれが旅先で出会った不思議な体験を語り出す。
私たちは全員、岸田道生という画家が描いた「夜行」という絵と出会っていた。
旅の夜の怪談に、青春小説、ファンタジーの要素を織り込んだ最高傑作!
「夜はどこにでも通じているの。世界はつねに夜なのよ」


実際には、ほんの限られた場所で起こった出来事であるにもかかわらず、とてもとても遠い所へ行って帰ってきた――実際に帰ってきたのかどうかも定かではないが――ような、長旅を終えた心地になる物語である。岸田道生という銅版画家の連作「夜行」――あるいは「曙光」――をめぐる物語は、現実にあったことなのか、作品の中で起こったことなのかも定かではなく、ひとつのストーリーのページを剥がすとそこにまったく別のストーリーが同時進行しているかのようなのである。いま自分はどこにいるのか。読者は立ち位置を見失い、登場人物さえもが自分のいる場所に確信を持てずにいるようである。遠く近くなじみ深いようでいて見知らぬ顔を見せる不思議な一冊である。

四畳半王国見聞録*森見登美彦

  • 2011/02/16(水) 18:53:23

四畳半王国見聞録四畳半王国見聞録
(2011/01/28)
森見 登美彦

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数式による恋人の存在証明に挑む阿呆。桃色映像のモザイクを自由自在に操る阿呆。心が凹むと空間まで凹ませる阿呆。否!彼らを阿呆と呼ぶなかれ!狭小な正方形に立て篭もる彼らの妄想は壮大な王国を築き上げ、やがて世界に通じる扉となり…。徹底して純粋な阿呆たち。7つの宇宙規模的妄想が、京の都を跋扈する。


ひとつ前の読書とのこのかけ離れ具合はどうだろう。あまりの落差で思考もきっちり切り替えることができたが。著者の四畳半世界の妄想が凝縮されたような一冊である。いままですでにこの世界のあちこちで見かけた人物たちの姿やアイテム(?)も見られ、彼らがやっていることはといえば平凡であるようで非凡なことごとである。京都という街に抱く印象は男臭く変えられること必至でもある。だが、以前にも書いたような気がするが、物語の中身に比してこの挿画はさわやか過ぎやしないだろうか。挿画のさわやかさで騙して物語に引っ張り込もうという魂胆であろうか。森見ワールド全開の一冊である。

宵山万華鏡*森見登美彦

  • 2010/03/04(木) 18:39:20

宵山万華鏡宵山万華鏡
(2009/07/03)
森見 登美彦

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祇園祭前夜。妖しの世界と現実とが入り乱れる京の町で、次々に不思議な出来事が起こる。
登場人物たちが交錯し、全てが繋がっていく連作中篇集。森見流ファンタジーの新境地!
●祭りの雑踏で、幼い妹が姿を消した。妹は神隠しに遭ったのか、それとも…?「宵山姉妹」「宵山万華鏡」
●乙川は≪超金魚≫を育てた男。大学最後の夏、彼と宵山に出かけた俺は、宵山法度違反で屈強な男たちに囚われてしまう。襲いくる異形の者たち。彼らの崇める≪宵山様≫とは一体…?「宵山金魚」
●期間限定でサークル≪祇園祭司令部≫を結成したヘタレ学生たち。彼らは、学生生活最後の大舞台を祭の最中に演じようとしていた。「宵山劇場」
●宵山の日にだけ、叔父さんは姿を消した娘に会える…。「宵山回廊」
●目が覚めると、また同じ宵山の朝。男は、この恐ろしい繰り返しから抜け出すことができるのか…?「宵山迷宮」


装画のとおりの物語である。にぎやかで、とりとめがなく、きらびやかで、得体が知れない。愉しそうでもあり、恐ろしそうでもある。祇園祭前夜、宵山の日の出来事である。大きな三本柱とでも言うべき出来事が同じ日に、別々に起こり、すれ違ったり交錯したり、混沌としている。現実なのか夢のなかなのかも判然としないような、不思議な一冊である。

恋文の技術*森見登美彦

  • 2009/09/05(土) 13:55:17

恋文の技術恋文の技術
(2009/03)
森見 登美彦

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京都の大学から、遠く離れた実験所に飛ばされた男子大学院生が一人。無聊を慰めるべく、文通武者修行と称して京都に住むかつての仲間たちに手紙を書きまくる。手紙のうえで、友人の恋の相談に乗り、妹に説教を垂れ―。


はじめからおしまいまで、すべて手紙である。そのほとんどが、京都の大学院から、遠く能登島研究所に追いやられた守田一郎の手になるものである。相手からの手紙は載せられていないのだが、これが見事にやり取りの内容が判るのである。あちこちになにやら見覚えのある記述もあり、初めて読んだような気がしないのは、著者の作品の特徴だろうか。
初めのころは到底馴染めないと思っていた著者の文体にも、いつのまにやら慣れていて、痛快ですらあるのは驚きでもある。伊吹さんからの返信はあったのだろうか。守田一郎の恋の行方は如何に?

四畳半神話大系*森見登美彦

  • 2009/04/15(水) 19:19:33

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(2004/12)
森見 登美彦

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大学三回生の春までの二年間を思い返してみて、実益のあることなど何一つしていないことを断言しておこう。―『太陽の塔』(第十五回日本ファンタジーノベル大賞受賞作)から一年。無意味で楽しい毎日じゃないですか。何が不満なんです?再びトンチキな大学生の妄想が京都の街を駆け巡る。


「四畳半恋ノ邪魔者」 「四畳半自虐的代理代理戦争」 「四畳半の甘い生活」 「八十日間四畳半一周」

大学三回生の主人公が、入学当時、別の選択をしていたら・・・・・、という夢のような物語である。
その選択肢とは、映画サークル「みそぎ」、「弟子求ム」という奇想天外のビラ、ソフトボールサークル「ほんわか」、秘密機関<福猫飯店>である。
どの選択をしても、細かいところが微妙に変わるだけで、大筋に大した変化はないのだが、大真面目にやり直している感じがして、可笑しく切ない。

夜は短し歩けよ乙女*森見登美彦

  • 2009/03/26(木) 18:30:15

夜は短し歩けよ乙女夜は短し歩けよ乙女
(2006/11/29)
森見 登美彦

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私はなるべく彼女の目にとまるよう心がけてきた。吉田神社で、出町柳駅で、百万遍交差点で、銀閣寺で、哲学の道で、「偶然の」出逢いは頻発した。我ながらあからさまに怪しいのである。そんなにあらゆる街角に、俺が立っているはずがない。「ま、たまたま通りかかったもんだから」という台詞を喉から血が出るほど繰り返す私に、彼女は天真爛漫な笑みをもって応え続けた。「あ!先輩、奇遇ですねえ!」…「黒髪の乙女」に片想いしてしまった「先輩」。二人を待ち受けるのは、奇々怪々なる面々が起こす珍事件の数々、そして運命の大転回だった。天然キャラ女子に萌える男子の純情!キュートで奇抜な恋愛小説in京都。


独特の文体、独特の世界観、独特のキャラクター。なんと独特尽くしな一冊であることか。
だが、そのどれもが成功しているのが素晴らしい。物語の中に熱に浮かされてみる夢がでてくるが、そもそも全体が、熱に浮かされてみている夢のような物語である。かなり危険にさらされたり、ハチャメチャな騒動に巻き込まれていたりするのだが、麗しの黒髪の乙女はあくまでもマイペース。騒動などどこ吹く風という様子で、自分のときを過ごしているのが――実際に身近にいたら疲れるだろうが――潔くもあり、胸がすく思いでもある。
表紙をじっくり見ずに読み始めたので、先輩(私)のイメージはずっと桐谷健太さんだったのだが、読み終えて表紙を見たら、それほど濃いキャラではない普通の青年だったので、ちょっと驚いた。

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太陽の塔*森見登美彦

  • 2007/03/27(火) 13:08:03

☆☆・・・

太陽の塔 太陽の塔
森見 登美彦 (2003/12/19)
新潮社

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京大5回生の森本は「研究」と称して自分を振った女の子の後を日々つけ回していた。男臭い妄想の世界にどっぷりとつかった彼は、カップルを憎悪する女っ気のない友人たちとクリスマス打倒を目指しておかしな計画を立てるのだが…。
2003年のファンタジーノベル大賞を受賞した本書は、読み手をとことん笑わせてくれる抱腹絶倒の物語だ。文体は古風でごつごつした印象を与えるものの、それに慣れるころには一文一文に笑いが止まらなくなり、主人公やその友人たちのとてつもないバカっぷりが愛らしくなるだろう。登場する男は皆個性的で、インパクトの強い変人ばかり。主人公につきまとわれる女子大生も普通ではなく、言葉遣いも行動も完全にズレていて、アニメのキャラクターのようなぶっ飛んだ魅力がある。物語のクライマックスまでたどり着いた読者にはさらなる大混乱が待っている。そのばかばかしさのスケールにとにかく圧倒されるはずだ。

男的な妄想をテーマにしながらも、読み手の性別を選ばないのも魅力のひとつだ。賞の選考委員である小谷真理に「一番強烈で、一番笑いこけた作品」と言わしめた本書。一歩間違えれば単なるストーカーの独白に終わりかねない設定だが、そんないかがわしい行為ですらジョークに変えるほどの力がこの作品にはある。

また、ユーモアに満ち満ちた物語の中に、詩的な美しい描写が織り込まれているのにも注目したい。突然そうした穏やかな文章に出会うことで、読み手は台風の目に入ったかのような静けさに包まれ、著者の文体に独特の温かみを感じることができるのだ。ユーモアばかりが注目されるが、そんな絶妙なバランス感覚こそが著者の本当の才能なのかもしれない。(小尾慶一)


帯に

10ページでヤミツキになる独特のリズム


とあるが、わたしはとうとう最後までこの文体に慣れることができなかった。この文体を受け容れられる人は、おそらく物語りも愉しめるのだろう、と思わないでもない。
男たちの偏り加減は言わずもがな、女子学生である水尾さんの不可思議さにどうにも寄り添うことができない。ファンタジーだからこそのこのキャラなのだろうか。そもそもこれがファンタジーなのかどうかも、わたしにはよく判らないのだった。

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