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プリンセス・トヨトミ*万城目学
- 2020/05/19(火) 16:47:13
このことは誰も知らない―四百年の長きにわたる歴史の封印を解いたのは、東京から来た会計検査院の調査官三人と大阪下町育ちの少年少女だった。秘密の扉が開くとき、大阪が全停止する!?万城目ワールド真骨頂、驚天動地のエンターテインメント、ついに始動。特別エッセイ「なんだ坂、こんな坂、ときどき大阪」も巻末収録。
前半は、会計検査院の仕事が描かれていて、お仕事小説か、と思わされる。いつ万城目ワールドに連れて行ってくれるのか、と訝しみ始めるころ、やっとのことで雲行きが怪しく(正しく?)なってきて、そこからはぐんぐん思いもしない方向に物語が進んでいく。だが、荒唐無稽で想像もできない展開か、と聞かれれば、全面的に首肯することができるわけではなく、なんとはなしに、大阪でならあり得るかもしれない、とも思わされてしまう。大阪国民カッコイイ、とエールを送りたくもなってしまう。そしてさらには、会計検査院の面々、松平、鳥居、旭・ゲーンズブールの三人のキャラがそれぞれ立っていて魅力的なのである。それぞれに自分の役割を果たしている感じが、三人らしくていい。登場人物みんなに好感が持てて、愉しい読書タイムをくれる一冊だった。
バベル九朔*万城目学
- 2019/03/16(土) 09:14:39
万城目 学
KADOKAWA/角川書店 (2016-03-19)
売り上げランキング: 223,034
KADOKAWA/角川書店 (2016-03-19)
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万城目ワールド10周年。新たな幕開けを告げる、最強の「奇書」が誕生! !
俺を追ってくるのは、夢か? カラスか?
作家志望の雑居ビル管理人が巻き込まれた、世界の一大事とは――。
作家志望の「夢」を抱き、 雑居ビル「バベル九朔」の管理人を務めている俺の前に、ある日、全身黒ずくめの「カラス女」が現われ問うてきた……「扉は、どこ? バベルは壊れかけている」。巨大ネズミの徘徊、空き巣事件発生、店子の家賃滞納、小説新人賞への挑戦――心が安まる暇もない俺がうっかり触れた一枚の絵。その瞬間、俺はなぜか湖で溺れていた。そこで出会った見知らぬ少女から、「鍵」を受け取った俺の前に出現したのは――雲をも貫く、巨大な塔だった。
万城目学、初の「自伝的?」青春エンタメ!
夢なのか現なのか、いつもながらに曖昧過ぎてめまいがしそうである。ここにいる自分が現実だと思っている世界とは軸がずれたパラレルワールドが存在し、そこには現実世界の影が溜め込まれ、バベルと呼ばれる塔がどんどん成長していく。その大本は、現実世界のバベル九朔という雑居ビルの管理人である俺の祖父であり、バベル九朔を建てた「大九朔」が造ったものらしい。カラス女に襲われたり、異世界に迷い込んだりと、存在の危機に脅かされながら、何とか生き延びたらしい九朔だったが、そのすべてが夢か、あるいは自身の小説の中の出来事なのかもしれないとも思わされて、読者はなおさら迷路に迷い込まされたような気分になる。自分がいる場所を見失いそうになる一冊だった。
偉大なる、しゅららぼん*万城目学
- 2011/08/25(木) 16:42:28
![]() | 偉大なる、しゅららぼん (2011/04/26) 万城目 学 商品詳細を見る |
琵琶湖畔の街・石走に住み続ける日出家と棗家には、代々受け継がれてきた「力」があった。高校に入学した日出涼介、日出淡十郎、棗広海が偶然同じクラスになった時、力で力を洗う戦いの幕が上がった!
「しゅららぼん」とは一体何か。気になるのはまずそこである。ただ万城目作品なので、理論的な説明はないだろうと思いつつ読みはじめる。前提として日出家と棗家が代々受け継いできた力があるという設定があり、冒頭から完全に万城目ワールドである。それ以外は――ほとんどそれなのだが――、恋心あり、部活あり、中間試験あり、友情ありの普通の学園青春物語であるとも言える。あり得ない凄まじさでありながら、なんとなく爽やかで懐かしい心地になるのはわたしだけだろうか。ともかくほかにない一冊である。
かのこちゃんとマドレーヌ夫人*万城目学
- 2011/01/11(火) 13:46:57
![]() | かのこちゃんとマドレーヌ夫人 (ちくまプリマー新書) (2010/01/27) 万城目 学 商品詳細を見る |
かのこちゃんは小学一年生の元気な女の子。マドレーヌ夫人は外国語を話す優雅な猫。その毎日は、思いがけない出来事の連続で、不思議や驚きに充ち満ちている。
アカトラ猫のマドレーヌ夫人は外国語――猫にとっての外国語は犬語――を理解する。そして、小学校一年生のかのこちゃんの家の老犬・玄三郎の妻でもある。マドレーヌ夫人の目線で、近所の猫たちとのやり取りなどが描かれ、かのこちゃんの目線で家族や友人のことなどが描かれる。それが互いに補完し合いながらかのこちゃんが家族や玄三郎やマドレーヌ夫人たちと暮らす日々を活き活きと伝えているのである。人には人の世界、猫には猫の世界、犬には犬の世界、だがその世界は大きなひとつの世界でもあるのだという当たり前のことを改めて思わせてくれる一冊でもある。やさしくて切なくてじんとあたたかい一冊である。
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