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えびかに合戦 浮世奉行と三悪人*田中啓文

  • 2019/06/10(月) 13:09:03

えびかに合戦 浮世奉行と三悪人 (集英社文庫)
田中 啓文
集英社 (2018-12-18)
売り上げランキング: 100,415

横町奉行の仕事に追いまくられ、貧乏暮らしがつづく竹光屋雀丸に、とてつもない儲け話が転がり込んだ!? 一方、市中では蟹そっくりの老婆を探す怪しげな一団が現れ……(表題作)。駿河国で売り出し中の博徒、清水次郎長の刀が盗まれた。禍を招くという曰くつきの刀なのだが、流れ流れて大坂の町に辿り着き……(「犬雲・にゃん竜の巻」)。謎と笑いがてんこもりの全3話収録の痛快時代小説第4弾!


三悪人も、もはや悪人とは思えず、雀丸もすっかり横町奉行が板についたこの頃である。とはいえ、相も変わらず、竹光作りの注文よりも面倒ごとの方がよっぽど多いのも事実である。今回も、エビとカニとの取り違えにはじまり、曰く付きの名刀と清水の次郎長などの面々との複雑極まる一連の出来事で、頭も身体も休まる暇がない。しかも、何が何だかドタバタするうちに、しっかりとあっちにもこっちにもけりをつけてしまうところが雀丸の力量というものである。本人たちは至極まじめにやっているようだが、傍から見ているとどたばたコメディにしか見えないのが本作の醍醐味。次も大いに期待したいシリーズである。

漫才刑事(デカ)*田中啓文

  • 2019/04/23(火) 16:46:14

漫才刑事 (実業之日本社文庫)
田中 啓文
実業之日本社 (2016-10-06)
売り上げランキング: 500,107

昼は刑事、夜は漫才師。
事件はお笑いの現場で起きている! かつてない警察小説、誕生!

腰元(こしもと)興行所属の若手漫才コンビ「くるぶよ」のボケ担当・“くるくるのケン“。
彼が大阪府警難波署の刑事・高山一郎であることは相方の“ぶよぶよのブン“にも言えない秘密だ。
お笑い劇場で起こる数々の事件にも、刑事であることは伏せ事件解決に協力する。
しかしある日、同僚の交通課巡査・城崎ゆう子に正体がばれ…爆笑間違いなしの警察&芸人小説!


爆笑、というよりも、ついニヤニヤしてしまう、と言った方がいいかもしれない。昼は刑事、夜は漫才師というあり得ない二足の草鞋を履いた高山一郎が、芸人界の厄介事に巻き込まれつつ、現場で起きた事件の謎を解いて、芸人としてヒントを与えたり、お笑い界にも警察にもばれないように綱渡り的に奮闘する姿が、それだけで文句なく笑える。だが、それだけでなく、それぞれの仕事に、どちらも手を抜かずにきっちりと情熱をもって向かう高山の姿勢に感動すら覚えるのである。ニヤニヤ笑ってじんわり泣ける一冊でもある。

力士探偵 シャーロック山*田中啓文

  • 2019/03/31(日) 16:30:44

力士探偵シャーロック山 (実業之日本社文庫)
田中 啓文
実業之日本社 (2018-10-04)
売り上げランキング: 297,776

力士には向かない職業!?
角界に迷探偵現る!

銅煎部屋で唯一の三役力士・斜麓山(しゃろくやま)は
大のミステリー好きで稽古よりも本の続きが大事。
自分は相撲取りではなく探偵なのだと言いはり、
付け人の輪斗山(わとさん)は悩まされ通しだ。
しかし、彼らの周辺でなぜかシャーロック・ホームズの名作ばりの事件が続発。
はじめて本物の事件を解決しようと乗り出す斜麓山だが、思わず勇み足を!?
爆笑の本格ミステリー。

また相撲界激震!?
まわしを締めた名探偵ホームズ土俵入り?
得意技は猫だましとアリバイ崩し!?

【目次】
第一話 薄毛連盟
第二話 まだらのまわし
第三話 バスターミナル池の犬


あまりにもあり得ない設定過ぎて、かえって入り込みやすい。主人公の斜麓山は、相撲にまったく興味がないのになぜか力士になり、しかも稽古もあまりせずにミステリ小説ばかり読んでいるくせに、結構強いところがなんとも言えずうらやましい。とはいえ、これからはこれほど極端ではなくても、似たような力士が出てくるかもしれないなどと、思ってしまったりもする。親方と斜麓山の間でいちばん苦労させられる付け人の輪斗山には同情するが、この二人のコンビだからこそ面白くもあるのである。このコンビ、もっと見たいものである。文句なく愉しめる一冊だった。

警視庁陰陽寮オニマル 鬼刑事VS吸血鬼*田中啓文

  • 2019/02/01(金) 13:25:34

警視庁陰陽寮オニマル 鬼刑事VS吸血鬼 (角川ホラー文庫)
田中 啓文
KADOKAWA (2018-12-22)
売り上げランキング: 54,696

「この庁舎内に鬼がいる」真剣な顔で告げる陰陽師ベニーに、鬼丸は正体を隠し続けることに限界を感じ始めていた。そんな中、万博工事関係者の連続失踪に、吸血鬼が関与していることを突き止めた小麦早希が音信不通に。鬼丸は、謎の少女ヒョウリから小麦発見の通報を受け、邪気が漂う新宿御苑に向かうが、そこでは、“真怪・家康の首”による悍ましい“吸血の儀式”が始まろうとしていた。ついに最終決戦!陰陽寮チームの運命は?


これで完結と思うとちょっと惜しい気がする。ベニーとオニマルがやっと互いに真実に向き合えて、これからもっとスムーズに事に当たれそうなのに……。ともかく本作も、禍々しい人ならぬものとの戦いであり、ベニーの身体もダメージを受ける。オニマルの、陰陽師を忌みながらもベニーを助けずにはいられない気持ちが、はっきりと形に現れた物語でもあった。だからこそ正体がわかってしまったのだが。本来分かり合えないはずの者たちも信頼しあえるという見本のようでもある。ホラーは苦手だが、コミカルな面も多く、愉しめるシリーズだった。

猫と忍者と太閤さん 鍋奉行犯科帳*田中啓文

  • 2018/09/21(金) 16:51:36

猫と忍者と太閤さん (集英社文庫)
田中 啓文
集英社 (2016-05-20)
売り上げランキング: 87,684

大坂市中を見廻っていた同心村越勇太郎が謎の集団に襲われた。肩には手裏剣による傷が―天下泰平の世に忍者が暗躍している!?同じ頃、町奉行所の料理方募集に応募してきたのは怪しげな男たちばかり。そのうちのひとりが作った料理は、美食家の町奉行大邉久右衛門ですら初めて味わうものだった(「忍び飯」)。他に公家一家から猫を盗もうとする一味との戦いなど、全3編収録のシリーズ第7弾。


第一話「忍び飯」  第二話「太閤さんと鍋奉行」  第三話「猫をかぶった久右衛門」

またまたよく飲みよく食べる久右衛門殿である。そして、同心・村越勇太郎のもとには、厄介事が集まってくる。それだけ人物も腕も認められるようになってきたということだろうが、かなりの無理難題に頭を悩ませることになる。ただ、忍びの手裏剣を受けて、痛手も負ったが、今回も、依頼者や周りの人たち、そして子どもたちをも巻き込んで、ちゃんと解決してしまうのだから大したものである。それにはもちろん、飲み食いしているばかりに見えるお奉行の、鋭いのか行き当たりばったりなのかわからない推理と、人のためを思ってなのか単なるわがままなのか判断できかねる対応の的確さがなければこうはならないわけなのである。トラをかわいがる姿は、掛値なくかわいく見えてしまうので、無茶も許せてしまうのである。次は何をやらかしてくれるのか愉しみなシリーズである。

鴻池の猫合わせ 浮世奉行と三悪人*田中啓文

  • 2018/07/09(月) 16:25:49

鴻池の猫合わせ 浮世奉行と三悪人 (集英社文庫)
田中 啓文
集英社 (2018-05-18)
売り上げランキング: 69,690

豪商・鴻池家の肝煎りで大々的な猫の品評会が開催されることに。猫好きの庶民やお近づきを狙う商人たちが色めき立つ中、市内では不思議な生き物の目撃談が続出して―(「鴻池の猫の巻」)。江戸の秘仏ご開帳を控えてんてこ舞いする雀丸の前に、長崎で医術を学んだという朋輩が姿を見せた。とある件で力を借りたいというのだが―(「ご開帳は大乱調の巻」)。活気あふれる江戸期の大坂を描く第3弾。


横町奉行・竹光屋雀丸のシリーズ三作目である。近頃は、竹光屋の仕事もめっきり少なくなり、どちらが本業かわからなくなりつつあるが、横町奉行の立場はすっかり身に着いた雀丸である。今回も、猫や妖怪、任侠の出入りと厄介事で大賑わいの界隈であるが、同心で園の父・皐月からも少しずつ信頼を得ている風でもあり、さらには、色っぽい話もちらほら見られたりで、園とのこれからも気になるところである。相変わらず周りの人たちの助けを借りながら、厄介事を見事に収めるお手並みはなかなかである。次作も愉しみなシリーズである。

俳諧でぼろ儲け 浮世奉行と三悪人*田中啓文

  • 2018/06/26(火) 16:28:38

俳諧でぼろ儲け 浮世奉行と三悪人 (集英社文庫)
田中 啓文
集英社 (2017-12-14)
売り上げランキング: 158,931

芭蕉の辞世の句が見つかった。記念の発句大会で天に抜ければなんと100両!法外な賞金に欲深い連中はあわよくばと目の色を変えている。そんななか横町奉行の竹光屋雀丸は、大坂市中で子供の誘拐が増えていることを知る―(「俳諧でぼろ儲けの巻」)。ほか、思いもよらぬ嫌疑をかけられた廻船問屋・地雷屋蟇五郎のために奮闘する「抜け雀の巻」など、全3編収録の痛快娯楽時代小説、シリーズ第2弾。


横町奉行・竹光屋雀丸のシリーズ二作目である。成り行きで横町奉行の役目を担うことになってしまった雀丸だが、観念して本業の竹光作りの傍ら、町の人たちが持ち込む厄介事や困りごとを丸く収めるために奔走している。今回も、何やらお騒がせな事態の陰に、物騒な動きが見え隠れしていて、仲間たちの手も大いに借りながら、解決に導く。頼りない若造に見えるが、人の心がよくわかり、親身になって事に当たるところに好感が持てる。それゆえ、周りの人たちが助けてもくれるのだろう。次回作も愉しみなシリーズである。

警視庁陰陽寮 オニマル 魔都の貴公子*田中啓文

  • 2018/06/22(金) 20:36:29

警視庁陰陽寮オニマル 魔都の貴公子 (角川ホラー文庫)
田中 啓文
KADOKAWA (2018-02-24)
売り上げランキング: 343,815

陰陽師と鬼の呉越同舟コンビが、怪異な事件を追う異形警察ミステリー、!

警視庁本部庁舎の廊下を優雅に闊歩する美貌の警部。漆黒の総髪、碧色の瞳、平安貴族を思わせるみやびなオーラをまとう若者の名は、ベニー芳垣。アメリカ帰りのスーパーエリートにして、安倍晴明ゆかりの凄腕の陰陽師でもある。そんな彼は率いる新組織「警視庁陰陽寮」が追う事件には、なぜかいつも怪異がつきまとう。最初の事件は、大相撲巡業中の土俵の中から「溺死した死体」が発見されるという怪事件。ありえない殺人事件の現場へ、急げベニー! 陰陽師の警部・ベニーと、陰陽師の敵である異形という素性を隠し刑事をしている、「鬼刑事」鬼丸三郎太のコンビが、怪奇事件の真相に迫る、新感覚警察エンタテインメント第1弾!


ホラーは基本的に好きではないのだが、本作は、リアルな禍々しさが少なくて、ミステリ要素が多かったせいか、拒否反応は起こらなかった。なにより、コンビのキャラクタが絶妙で、陰陽師と鬼という相容れないものでありながら、互いを尊重しているところが魅力的である。そして、その危うい関係性が物語自体のスリルを増す結果になっているように思う。この関係が壊れる日が来ないことを祈りたくなる。さらに、留守番役にされることが多い小麦早希が、意外に根気強く捜査に関わっているのが好感度を高くしている。ちょっと追いかけてみたくなるシリーズである。

シャーロック・ホームズたちの新冒険*田中啓文

  • 2018/04/30(月) 07:03:55

シャーロック・ホームズたちの新冒険
田中 啓文
東京創元社
売り上げランキング: 46,820

シャーロック・ホームズ&明智小五郎、東西の名探偵たちの知られざる冒険譚。“マンガ家の聖地”トキワ荘内で忽然と消えた、生原稿の謎。ミステリ愛好家の基礎教養「黒後家蜘蛛の会」にまつわる重大な秘密。正岡子規が推理する松尾芭蕉の死の真相…。実在非実在の名探偵たちの活躍を描く短編集。『シャーロック・ホームズたちの冒険』に続く、まさかまさかの第二弾登場!


小説家というのは、物語を創り出す人なのだと、改めて思わされる。物語の主人公や実在の著名人の人生のひと幕を、さも見てきたように上書きしてしまうのだから。しかも、だまされる人たちを見ながら、自分もさらにだまされているという、うれしい仕掛けが満載で、苦笑し、感心しながら愉しめる一冊である。

宇宙探偵ノーグレイ*田中啓文

  • 2017/12/30(土) 16:50:57

宇宙探偵ノーグレイ (河出文庫)
田中 啓文
河出書房新社
売り上げランキング: 52,618

怪獣惑星で発生した人気怪獣の密室殺人。罪を犯すことが不可能な天国惑星で起きた連続殺人。全住民が脚本どおりの生活をおくる演劇惑星で生じた劇中殺人…極秘に事件を解決するために招かれるは、宇宙探偵ノーグレイ!名探偵は五度死ぬ?奇想天外な結末が待つ、宇宙ミステリ作品集。


「怪獣惑星キンゴジ」 「天国惑星パライゾ」 「輪廻惑星テンショウ」 「芝居惑星エンゲッキ」 「猿の惑星チキュウ」

宇宙探偵ノーグレイは、のっぴきならない事情(たいていの場合は多額の借金)によって報酬に目がくらみ、宇宙で起きた事件を操作するために、さまざまな星へと出かけていく。そして、その都度、まあ何とか真相を突き止めはするのだが、生きて帰ることはできずに結末を迎えることになるのである。優秀なんだか間抜けなんだかよくわからない探偵ではある。毎度死んでいるのに、次の話しではまた何事もなかったかのように同じことを繰り返しているのは、最後の章のあれがヒントになっているのだろうか。地球だけでも充分にややこしいのに、宇宙規模でこれ以上ややこしくなるのは御免こうむりたいと思う一冊でもある。

浮世奉行と三悪人*田中啓文

  • 2017/11/28(火) 16:34:24

浮世奉行と三悪人 (集英社文庫)
田中 啓文
集英社 (2017-05-19)
売り上げランキング: 172,407

武士を捨てて竹光作りを生業とする雀丸。ある日、三人の武士にボッコボコにされている老人を救い出す。庶民の揉めごとを裁く横町奉行だというこの老人は、あろうことか雀丸に跡を継いでくれと言い出した。危険な目に遭っても「三すくみ」という助っ人が馳せ参じるから大丈夫とも。ところが現れたのは悪徳商人に女ヤクザ、破戒僧という面々で―江戸期の大坂を舞台に描く、抱腹絶倒の時代小説。


江戸を舞台にした新しいシリーズのはじまりである。なんだかぼんやりしていて頼りなげな竹光職人の雀丸が、横町奉行の甲右衛門に見込まれて、後を継いでほしいと懇願される。まだ年若く、経験も貫禄もない雀丸は、何度も断るが、厄介事が持ち込まれるたびに、何やかんや言って雀丸に裁きを任せ、のっぴきならない状況に追い詰めていくのである。当の雀丸も、押しつけられた裁きをなんとかこなしてしまうものだから、どんどん逃げられなくなっていく。登場人物の個性と、持ち込まれる厄介事をどう解決するかという興味で、あとをひく一冊である。

お奉行様のフカ退治*田中啓文

  • 2016/05/09(月) 17:14:53

お奉行様のフカ退治 (集英社文庫)
田中 啓文
集英社 (2015-12-17)
売り上げランキング: 288,754

大坂の川に巨大なフカが現れた!折しも水練稽古の真っ最中だった西町奉行所の面々は大あわて。頼みの綱は人間離れの体格を誇る奉行の大邉久右衛門だが、実はまったくのカナヅチだったことがわかり―(表題作)。奸計もくろむ乾物問屋が仕組んだ料理対決。久右衛門の肝煎りで指名された料理人が、あっと驚く人物で―(「ニシンを磨け」)他、美味なる全3編を収録した食いだおれ時代小説第6弾。


今回も、お奉行様である大邉久右衛門は、よく呑みよく食べる。そして、久右衛門が食べるにふさわしい美味なるものがたくさん出てくるのでよだれが溢れそうになる。ことに、今回は、村越の母の作った鰊の昆布巻きが絶品である(食べていないが)。飲んだり食べたりしているだけのように見える久右衛門だが、結局はきちんと事件を解決してしまうのは今回もお見事である。人格者とは言い難いし、上司としては、部下は苦労が多いかもしれないが、人間的には情が深くて魅力的な久右衛門である。いつまでも続いてほしいシリーズである。

イルカは笑う*田中啓文

  • 2015/10/18(日) 16:38:44

イルカは笑う (河出文庫)
田中 啓文
河出書房新社
売り上げランキング: 3,492

最後の地球人と地球の支配者イルカの邂逅「イルカは笑う」、倒産した日本国が遺した大いなる希望「ガラスの地球を救え!」、ゾンビ対料理人「屍者の定食」、失われた奇跡の歌声が響く「歌姫のくちびる」…感動・恐怖・笑い・脱力、ときに壮大、ときに身近な12の名短編。日本人よ、これが田中啓文だ!


表題作のほか、「ガラスの地球を救え」 「本能寺の大変」 「屍者の定食」 「血の汗流せ」 「みんな俺であれ」 「集団自殺と百二十億頭のイノシシ」 「あの言葉」 「悟りの化け物」 「まごころを君に」 「歌姫のくちびる」 「あるいはマンボウでいっぱいの海」

SF&ホラーテイストといういささか苦手なジャンルではあり、グロテスク極まりない描写には一瞬立ち止まらざるを得なかったが、それでも田中啓文ここにあり、という物語であふれている。近未来のものは特に、捻りが効いていて、背筋がぞっとするほどである。元ネタを知っていても知らなくても愉しめ怖がれる一冊である。

お奉行様の土俵入り--鍋奉行犯科帳*田中啓文

  • 2015/08/02(日) 16:40:02

お奉行様の土俵入り (集英社文庫)
田中 啓文
集英社 (2015-05-20)
売り上げランキング: 106,704

町奉行職をほったらかして、稽古後の飲み食い目当てで相撲部屋に入りびたる大邉久右衛門。いつものように力士もあきれるほどの食べっぷりを披露している最中、食うや食わずの弱小部屋の関取が侍に襲われたという報を耳にする。折しも難波新地では花相撲興行を控えており、なにか裏があるようなのだが―(「餅屋問答」)。豪快に食べまくる3編を収録した満腹絶倒の痛快時代小説、シリーズ第5弾!


第一話「餅屋問答」  第二話「なんきん忠臣蔵」  第三話「鯉のゆくえ」  

大邉久右衛門、相変わらずよく食べよく飲み、よく食べたがっている。だが、そのことで無理難題を吹っ掛けるというよりも、それが人助けや町の治安維持に貢献していると言った趣になっている。仕事を怠けて食べてばかりいるように見えて、その実結構いい仕事をしている(こともある)のである。周りの者たちも、なんだかんだ言いながら、役得に預かっているとも言え、苦労も絶えないが楽しそうな職場だなぁ、などと思ってしまう。次回は何を食べどんな粋な計らいをしてくれるのか愉しみなシリーズである。

京に上った鍋奉行*田中啓文

  • 2015/02/06(金) 18:30:34

京へ上った鍋奉行 (集英社文庫)京へ上った鍋奉行 (集英社文庫)
(2014/12/16)
田中 啓文

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大坂の町に、将軍家治のご落胤「天六坊」なる者が現れた。すわ天下を揺るがす一大事!のはずが、こんな時でも大食漢の西町奉行・大邉久右衛門の頭の中は美食の探究一辺倒。貧乏飯屋「業突屋」のトキ婆さんからもらったハゼを天ぷらにしたのだが、どうにも口に合わない。実は大坂と江戸の天ぷらには大きな違いがあって…(「ご落胤波乱盤上」)。他、型破り奉行が大活躍の2編を収録。シリーズ第4弾。


相変わらずの久右衛門である。たらふく食べては次の食事時まで寝ていることもよくあることで、周りも困りながらもそんなものだと心得ている風である。だが今回も、その食通ぶりがものを言って、事を解決してしまうのである。それが久右衛門の思慮深さによるものなのか、はたまた偶然の運によるものなのかは神のみぞ知る、である。とはいえ、ただ食べて寝ているだけではない懐の深さと人を見る目を披露した今作である。勇太郎と小糸の恋物語の進展は、今回も足踏み状態。何とももどかしいことである。次はどんなおいしいものが出てくるか愉しみなシリーズである。