鴻池の猫合わせ 浮世奉行と三悪人*田中啓文

  • 2018/07/09(月) 16:25:49

鴻池の猫合わせ 浮世奉行と三悪人 (集英社文庫)
田中 啓文
集英社 (2018-05-18)
売り上げランキング: 69,690

豪商・鴻池家の肝煎りで大々的な猫の品評会が開催されることに。猫好きの庶民やお近づきを狙う商人たちが色めき立つ中、市内では不思議な生き物の目撃談が続出して―(「鴻池の猫の巻」)。江戸の秘仏ご開帳を控えてんてこ舞いする雀丸の前に、長崎で医術を学んだという朋輩が姿を見せた。とある件で力を借りたいというのだが―(「ご開帳は大乱調の巻」)。活気あふれる江戸期の大坂を描く第3弾。


横町奉行・竹光屋雀丸のシリーズ三作目である。近頃は、竹光屋の仕事もめっきり少なくなり、どちらが本業かわからなくなりつつあるが、横町奉行の立場はすっかり身に着いた雀丸である。今回も、猫や妖怪、任侠の出入りと厄介事で大賑わいの界隈であるが、同心で園の父・皐月からも少しずつ信頼を得ている風でもあり、さらには、色っぽい話もちらほら見られたりで、園とのこれからも気になるところである。相変わらず周りの人たちの助けを借りながら、厄介事を見事に収めるお手並みはなかなかである。次作も愉しみなシリーズである。

俳諧でぼろ儲け 浮世奉行と三悪人*田中啓文

  • 2018/06/26(火) 16:28:38

俳諧でぼろ儲け 浮世奉行と三悪人 (集英社文庫)
田中 啓文
集英社 (2017-12-14)
売り上げランキング: 158,931

芭蕉の辞世の句が見つかった。記念の発句大会で天に抜ければなんと100両!法外な賞金に欲深い連中はあわよくばと目の色を変えている。そんななか横町奉行の竹光屋雀丸は、大坂市中で子供の誘拐が増えていることを知る―(「俳諧でぼろ儲けの巻」)。ほか、思いもよらぬ嫌疑をかけられた廻船問屋・地雷屋蟇五郎のために奮闘する「抜け雀の巻」など、全3編収録の痛快娯楽時代小説、シリーズ第2弾。


横町奉行・竹光屋雀丸のシリーズ二作目である。成り行きで横町奉行の役目を担うことになってしまった雀丸だが、観念して本業の竹光作りの傍ら、町の人たちが持ち込む厄介事や困りごとを丸く収めるために奔走している。今回も、何やらお騒がせな事態の陰に、物騒な動きが見え隠れしていて、仲間たちの手も大いに借りながら、解決に導く。頼りない若造に見えるが、人の心がよくわかり、親身になって事に当たるところに好感が持てる。それゆえ、周りの人たちが助けてもくれるのだろう。次回作も愉しみなシリーズである。

警視庁陰陽寮 オニマル 魔都の貴公子*田中啓文

  • 2018/06/22(金) 20:36:29

警視庁陰陽寮オニマル 魔都の貴公子 (角川ホラー文庫)
田中 啓文
KADOKAWA (2018-02-24)
売り上げランキング: 343,815

陰陽師と鬼の呉越同舟コンビが、怪異な事件を追う異形警察ミステリー、!

警視庁本部庁舎の廊下を優雅に闊歩する美貌の警部。漆黒の総髪、碧色の瞳、平安貴族を思わせるみやびなオーラをまとう若者の名は、ベニー芳垣。アメリカ帰りのスーパーエリートにして、安倍晴明ゆかりの凄腕の陰陽師でもある。そんな彼は率いる新組織「警視庁陰陽寮」が追う事件には、なぜかいつも怪異がつきまとう。最初の事件は、大相撲巡業中の土俵の中から「溺死した死体」が発見されるという怪事件。ありえない殺人事件の現場へ、急げベニー! 陰陽師の警部・ベニーと、陰陽師の敵である異形という素性を隠し刑事をしている、「鬼刑事」鬼丸三郎太のコンビが、怪奇事件の真相に迫る、新感覚警察エンタテインメント第1弾!


ホラーは基本的に好きではないのだが、本作は、リアルな禍々しさが少なくて、ミステリ要素が多かったせいか、拒否反応は起こらなかった。なにより、コンビのキャラクタが絶妙で、陰陽師と鬼という相容れないものでありながら、互いを尊重しているところが魅力的である。そして、その危うい関係性が物語自体のスリルを増す結果になっているように思う。この関係が壊れる日が来ないことを祈りたくなる。さらに、留守番役にされることが多い小麦早希が、意外に根気強く捜査に関わっているのが好感度を高くしている。ちょっと追いかけてみたくなるシリーズである。

シャーロック・ホームズたちの新冒険*田中啓文

  • 2018/04/30(月) 07:03:55

シャーロック・ホームズたちの新冒険
田中 啓文
東京創元社
売り上げランキング: 46,820

シャーロック・ホームズ&明智小五郎、東西の名探偵たちの知られざる冒険譚。“マンガ家の聖地”トキワ荘内で忽然と消えた、生原稿の謎。ミステリ愛好家の基礎教養「黒後家蜘蛛の会」にまつわる重大な秘密。正岡子規が推理する松尾芭蕉の死の真相…。実在非実在の名探偵たちの活躍を描く短編集。『シャーロック・ホームズたちの冒険』に続く、まさかまさかの第二弾登場!


小説家というのは、物語を創り出す人なのだと、改めて思わされる。物語の主人公や実在の著名人の人生のひと幕を、さも見てきたように上書きしてしまうのだから。しかも、だまされる人たちを見ながら、自分もさらにだまされているという、うれしい仕掛けが満載で、苦笑し、感心しながら愉しめる一冊である。

宇宙探偵ノーグレイ*田中啓文

  • 2017/12/30(土) 16:50:57

宇宙探偵ノーグレイ (河出文庫)
田中 啓文
河出書房新社
売り上げランキング: 52,618

怪獣惑星で発生した人気怪獣の密室殺人。罪を犯すことが不可能な天国惑星で起きた連続殺人。全住民が脚本どおりの生活をおくる演劇惑星で生じた劇中殺人…極秘に事件を解決するために招かれるは、宇宙探偵ノーグレイ!名探偵は五度死ぬ?奇想天外な結末が待つ、宇宙ミステリ作品集。


「怪獣惑星キンゴジ」 「天国惑星パライゾ」 「輪廻惑星テンショウ」 「芝居惑星エンゲッキ」 「猿の惑星チキュウ」

宇宙探偵ノーグレイは、のっぴきならない事情(たいていの場合は多額の借金)によって報酬に目がくらみ、宇宙で起きた事件を操作するために、さまざまな星へと出かけていく。そして、その都度、まあ何とか真相を突き止めはするのだが、生きて帰ることはできずに結末を迎えることになるのである。優秀なんだか間抜けなんだかよくわからない探偵ではある。毎度死んでいるのに、次の話しではまた何事もなかったかのように同じことを繰り返しているのは、最後の章のあれがヒントになっているのだろうか。地球だけでも充分にややこしいのに、宇宙規模でこれ以上ややこしくなるのは御免こうむりたいと思う一冊でもある。

浮世奉行と三悪人*田中啓文

  • 2017/11/28(火) 16:34:24

浮世奉行と三悪人 (集英社文庫)
田中 啓文
集英社 (2017-05-19)
売り上げランキング: 172,407

武士を捨てて竹光作りを生業とする雀丸。ある日、三人の武士にボッコボコにされている老人を救い出す。庶民の揉めごとを裁く横町奉行だというこの老人は、あろうことか雀丸に跡を継いでくれと言い出した。危険な目に遭っても「三すくみ」という助っ人が馳せ参じるから大丈夫とも。ところが現れたのは悪徳商人に女ヤクザ、破戒僧という面々で―江戸期の大坂を舞台に描く、抱腹絶倒の時代小説。


江戸を舞台にした新しいシリーズのはじまりである。なんだかぼんやりしていて頼りなげな竹光職人の雀丸が、横町奉行の甲右衛門に見込まれて、後を継いでほしいと懇願される。まだ年若く、経験も貫禄もない雀丸は、何度も断るが、厄介事が持ち込まれるたびに、何やかんや言って雀丸に裁きを任せ、のっぴきならない状況に追い詰めていくのである。当の雀丸も、押しつけられた裁きをなんとかこなしてしまうものだから、どんどん逃げられなくなっていく。登場人物の個性と、持ち込まれる厄介事をどう解決するかという興味で、あとをひく一冊である。

お奉行様のフカ退治*田中啓文

  • 2016/05/09(月) 17:14:53

お奉行様のフカ退治 (集英社文庫)
田中 啓文
集英社 (2015-12-17)
売り上げランキング: 288,754

大坂の川に巨大なフカが現れた!折しも水練稽古の真っ最中だった西町奉行所の面々は大あわて。頼みの綱は人間離れの体格を誇る奉行の大邉久右衛門だが、実はまったくのカナヅチだったことがわかり―(表題作)。奸計もくろむ乾物問屋が仕組んだ料理対決。久右衛門の肝煎りで指名された料理人が、あっと驚く人物で―(「ニシンを磨け」)他、美味なる全3編を収録した食いだおれ時代小説第6弾。


今回も、お奉行様である大邉久右衛門は、よく呑みよく食べる。そして、久右衛門が食べるにふさわしい美味なるものがたくさん出てくるのでよだれが溢れそうになる。ことに、今回は、村越の母の作った鰊の昆布巻きが絶品である(食べていないが)。飲んだり食べたりしているだけのように見える久右衛門だが、結局はきちんと事件を解決してしまうのは今回もお見事である。人格者とは言い難いし、上司としては、部下は苦労が多いかもしれないが、人間的には情が深くて魅力的な久右衛門である。いつまでも続いてほしいシリーズである。

イルカは笑う*田中啓文

  • 2015/10/18(日) 16:38:44

イルカは笑う (河出文庫)
田中 啓文
河出書房新社
売り上げランキング: 3,492

最後の地球人と地球の支配者イルカの邂逅「イルカは笑う」、倒産した日本国が遺した大いなる希望「ガラスの地球を救え!」、ゾンビ対料理人「屍者の定食」、失われた奇跡の歌声が響く「歌姫のくちびる」…感動・恐怖・笑い・脱力、ときに壮大、ときに身近な12の名短編。日本人よ、これが田中啓文だ!


表題作のほか、「ガラスの地球を救え」 「本能寺の大変」 「屍者の定食」 「血の汗流せ」 「みんな俺であれ」 「集団自殺と百二十億頭のイノシシ」 「あの言葉」 「悟りの化け物」 「まごころを君に」 「歌姫のくちびる」 「あるいはマンボウでいっぱいの海」

SF&ホラーテイストといういささか苦手なジャンルではあり、グロテスク極まりない描写には一瞬立ち止まらざるを得なかったが、それでも田中啓文ここにあり、という物語であふれている。近未来のものは特に、捻りが効いていて、背筋がぞっとするほどである。元ネタを知っていても知らなくても愉しめ怖がれる一冊である。

お奉行様の土俵入り--鍋奉行犯科帳*田中啓文

  • 2015/08/02(日) 16:40:02

お奉行様の土俵入り (集英社文庫)
田中 啓文
集英社 (2015-05-20)
売り上げランキング: 106,704

町奉行職をほったらかして、稽古後の飲み食い目当てで相撲部屋に入りびたる大邉久右衛門。いつものように力士もあきれるほどの食べっぷりを披露している最中、食うや食わずの弱小部屋の関取が侍に襲われたという報を耳にする。折しも難波新地では花相撲興行を控えており、なにか裏があるようなのだが―(「餅屋問答」)。豪快に食べまくる3編を収録した満腹絶倒の痛快時代小説、シリーズ第5弾!


第一話「餅屋問答」  第二話「なんきん忠臣蔵」  第三話「鯉のゆくえ」  

大邉久右衛門、相変わらずよく食べよく飲み、よく食べたがっている。だが、そのことで無理難題を吹っ掛けるというよりも、それが人助けや町の治安維持に貢献していると言った趣になっている。仕事を怠けて食べてばかりいるように見えて、その実結構いい仕事をしている(こともある)のである。周りの者たちも、なんだかんだ言いながら、役得に預かっているとも言え、苦労も絶えないが楽しそうな職場だなぁ、などと思ってしまう。次回は何を食べどんな粋な計らいをしてくれるのか愉しみなシリーズである。

京に上った鍋奉行*田中啓文

  • 2015/02/06(金) 18:30:34

京へ上った鍋奉行 (集英社文庫)京へ上った鍋奉行 (集英社文庫)
(2014/12/16)
田中 啓文

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大坂の町に、将軍家治のご落胤「天六坊」なる者が現れた。すわ天下を揺るがす一大事!のはずが、こんな時でも大食漢の西町奉行・大邉久右衛門の頭の中は美食の探究一辺倒。貧乏飯屋「業突屋」のトキ婆さんからもらったハゼを天ぷらにしたのだが、どうにも口に合わない。実は大坂と江戸の天ぷらには大きな違いがあって…(「ご落胤波乱盤上」)。他、型破り奉行が大活躍の2編を収録。シリーズ第4弾。


相変わらずの久右衛門である。たらふく食べては次の食事時まで寝ていることもよくあることで、周りも困りながらもそんなものだと心得ている風である。だが今回も、その食通ぶりがものを言って、事を解決してしまうのである。それが久右衛門の思慮深さによるものなのか、はたまた偶然の運によるものなのかは神のみぞ知る、である。とはいえ、ただ食べて寝ているだけではない懐の深さと人を見る目を披露した今作である。勇太郎と小糸の恋物語の進展は、今回も足踏み状態。何とももどかしいことである。次はどんなおいしいものが出てくるか愉しみなシリーズである。

ストーミー・ガール--サキソフォンに棲む狐Ⅱ*田中啓文

  • 2014/09/17(水) 16:44:10

ストーミー・ガール サキソフォンに棲む狐II (サキソフォンに棲む狐 2)ストーミー・ガール サキソフォンに棲む狐II (サキソフォンに棲む狐 2)
(2014/08/19)
田中 啓文

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父の死の謎と母娘に迫る黒い影が潜む街・新宿で、音楽と運命の嵐が吹き荒れる。さらに典子の音楽の道に立ちはだかる母との対決…。JAZZって何?人生で一番大事なものは何だろう?高校生・典子が、悩んで、苦しんで、楽しんで、疾走っていく本格ジャズ青春小説。ミステリーの楽しみと音楽の喜びが見事に合体した魅力溢れる長編完結編。


サキソフォンと出会い、ジャズと出会い、質屋で運命的に楽器と出会い、典子は運命のように荒波に漕ぎだしていくのである。トモキとは誰なのだろう。父の死の真相は。ジャズとは、自由とは。典子の頭の中は、はてなマークだらけだったが、ひとたびジャズに触れると、考えるより先に躰が動いてしまうのである。知らない方がしあわせだなどと言う人もいるかもしれないが、知った上で前を向いている典子をますます応援したくなる。ジャズのことはまったく知らないが、その漲るものの中に身を置いてみたくなる一冊である。

道頓堀の大ダコ--鍋奉行犯科帳*田中啓文

  • 2013/10/22(火) 16:38:29

道頓堀の大ダコ (鍋奉行犯科帳) (集英社文庫)道頓堀の大ダコ (鍋奉行犯科帳) (集英社文庫)
(2013/08/21)
田中 啓文

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道頓堀に巨大なタコが現れた。対処に大わらわの大坂西町奉行所の面々をよそに、大食漢の名物奉行・大邉久右衛門が用人・佐々木喜内に命じたのは―(『蛸芝居』)。連日連夜、豆腐ばかりの献立に、久右衛門は爆発寸前。どうやら財政難のせいばかりではないようで―(『地獄で豆腐』)。書き下ろし1編を含む垂涎必至の4編を収録。大坂を舞台に描く、謎あり恋ありグルメありの食いだおれ時代小説第2弾。


江戸物ではない時代小説が珍しいということもあり、やはり面白い。商人の町大坂らしく、武士の形無し感がなんとも味があり、可笑し味がある。久右衛門の食べっぷりも相変わらずで、胸が空くし、今回は南蛮料理がどれもおいしそうである。勇太郎の恋の行方も気にかかるが、いつの時代も女性の方が攻めているのが頼もしくもありもどかしくもある。次も愉しみなシリーズである。

シャーロック・ホームズたちの冒険*田中啓文

  • 2013/06/19(水) 16:44:06

シャーロック・ホームズたちの冒険シャーロック・ホームズたちの冒険
(2013/05/30)
田中 啓文

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シャーロック・ホームズ&アルセーヌ・ルパン、ミステリ界が誇る両巨頭の新たなる冒険譚。赤穂浪士討ちいりのさなか吉良邸で起こった雪の密室殺人。あのアドルフ・ヒトラーがじつは大変なシャーロキアンで…。ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)が日本に来た本当の理由とは。著名人の名推理に酔いしれる、連作短編集。奇才・田中啓文が贈る、ミステリ五番勝負!


ホームズやルパンはただでさえ謎に包まていて、あれこれと想像したりもしたし、名前を聞いただけでわくわくするが、それをこんな風に展開して見せるとは、著者もきっと想像たくましくあれこれと思い描いたのだろう。そして、それがここに結実したのだろう。当然のことながら、わたしなどの想像よりも何倍もぶっ飛んだ内容である。そうだったのか、と危うく信じそうにもなる(こともある)。想像力をかきたてられる一冊である。

鍋奉行犯科帳*田中啓文

  • 2013/01/14(月) 15:27:54

鍋奉行犯科帳 (集英社文庫)鍋奉行犯科帳 (集英社文庫)
(2012/12/14)
田中 啓文

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大坂西町奉行所に型破りな奉行が赴任してきた。名は大邉久右衛門。大食漢で美食家で、酒は一斗を軽く干す。ついたあだ名が「大鍋食う衛門」。三度の御膳が最優先で、やる気なしの奉行に、与力や同心たちはてんてこ舞い。ところが事件が起こるや、意外なヒラメキを見せたりする。ズボラなのか有能なのか、果たしてその裁きは!?食欲をかきたてる、食いだおれ時代小説。


大阪が舞台の時代小説(?)である。時代小説なので、西町奉行とか与力などという役職名がたくさん出てくるし、奉行の名には背けないという縛りもあるが、それ以外はいつの世にも通ずるコメディである(言い切ってしまっていいのだろうかあ)。だが、ただのドタバタで終わっているわけではなく、そこは著者であるので、ちゃんとミステリにもなっていて、胸のすくラストも用意されている。事件を解決すべく走り回っているのは西町奉行所の同心・村越勇太郎のたちようなきがしなくもないが、肝心要のところでの奉行・大邊久右衛門の裁きが実に見事なものなので、日ごろの食い意地に関わる我儘も許せてしまうのかもしれない。掛け値なく面白い一冊である。

獅子真鍮の虫*田中啓文

  • 2012/10/17(水) 16:45:11

獅子真鍮の虫 (永見緋太郎の事件簿) (創元クライム・クラブ)獅子真鍮の虫 (永見緋太郎の事件簿) (創元クライム・クラブ)
(2011/03/24)
田中 啓文

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クインテットでの活動を休止にして海外に旅立つ唐島に、同行すると言いだした永見。ニューヨーク、シカゴ、ニューオリンズでふたりが出合った、ジャズと不思議な出来事。“日常の謎”的ジャズミステリーシリーズ、第三弾。あこがれのミュージシャンが遺した楽器を手に入れた唐島を襲った災難、ニューヨークで管楽器の盗難事件に巻きこまれた永見が見いだした真相、シカゴで仲良くなった老人が行方不明になっていた伝説のジャズマンだったことに端を発した騒動の顛末…、など全七編を収録。田中啓文おすすめのジャズレコード、CD情報付。


表題作のほか、「塞翁が馬」 「犬猿の仲」 「虎は死して皮を残す」 「サギをカラスと」 「ザリガニで鯛を釣る」 「狐につままれる」

アメリカのジャズシーンめぐりのような趣である。そして、どこにいてもふらっといなくなったり、さらっと謎を解いたりする永見緋太郎である。マイペースなのはいつものことながら、音楽に関しては強い衝撃を受け、本場の洗礼をも受け、大きな影響を受けて成長もしたようである。相変わらず彼の中心は音楽なのである。ジャズにはまるで疎いが、お腹に響くような圧倒的な音に包まれた心地にもなった。永見緋太郎シリーズはこれをもって一旦おしまい、というのが残念な一冊である。