ポイズンドーター・ホーリーマザー*湊かなえ

  • 2016/10/13(木) 20:23:32

ポイズンドーター・ホーリーマザー
湊 かなえ
光文社
売り上げランキング: 6,788

湊かなえ原点回帰! 人の心の裏の裏まで描き出す極上のイヤミス6編!!
私はあなたの奴隷じゃない! 母と娘。姉と妹。男と女--。ままならない関係、鮮やかな反転、そしてまさかの結末。あなたのまわりにもきっといる、愛しい愚か者たちが織りなすミステリー。さまざまに感情を揺さぶられる圧巻の傑作集!!


「マイディアレスト」 「ベストフレンド」 「罪深き女」 「優しい人」 「ポイズンドーター」 「ホーリーマザー」

人にはさまざまな顔がある。表に見せる顔がすべてではなく、人には見せない部分にこそ本当の顔を隠し持っていると言ってもいいだろう。そんな人間の裏側の顔を覗き見るような物語たちである。ただ、それは一面的なものではなく、悪だと思っていると、ちょっと視点を変えるだけで景色ががらりと変わることもあるので注意が必要なのである。人の裏表が描かれていると同時に、ひとりの人から聞いた話だけで判断することの危うさにも気づかされる。ハッピーエンドはなく、どれも厭な気分にさせられる物語ばかりだが、自分の裏側を見せつけられたような気もして、主人公たちを嫌いにはなりきれない一冊でもある。

ユートピア*湊かなえ

  • 2016/06/09(木) 18:35:48

ユートピア
ユートピア
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湊 かなえ
集英社
売り上げランキング: 5,800

善意は、悪意より恐ろしい。
足の不自由な小学生・久美香の存在をきっかけに、母親たちがボランティア基金「クララの翼」を設立。
しかし些細な価値観のズレから連帯が軋みはじめ、やがて不穏な事件が姿を表わす――。
湊かなえが放つ、心理サスペンスの決定版。

地方の商店街に古くから続く仏具店の嫁・菜々子と、夫の転勤がきっかけで社宅住まいをしている妻・光稀、移住してきた陶芸家・すみれ。
美しい海辺の町で、立場の違う3人の女性たちが出会う。
「誰かのために役に立ちたい」という思いを抱え、それぞれの理想郷を探すが――。


菜々子、光稀、すみれという育ちも立場も三者三様の女性たちを軸に、彼女らの娘たち、地の人たちと他所から来た人たちの関係性、過去の殺人事件、とさまざまな要素が絡み合い、それぞれの思惑がもつれ合って表面的には穏やかな鼻崎町にどす黒い淀みとなっている様から目が離せない。同じものを見て同じ体験をしても、各自が自分を中心に置いて受け取れば、こうも違った景色になるのかということにも、もどかしさを感じつつ興味深く、その先を知りたくさせる要素のひとつである。終盤、過去の殺人事件を絡めてラストに向かう辺りから、いささか先を急ぎ過ぎたような印象であり、あまりにもあっけなかったようにも思われる。ただ、母親たちのせめぎあいに目を奪われている陰で、子どもたちにも子どもたちなりの真剣な悩みがあったことを思うと、切なくやるせなくもある。結局は真に分かり合えたとは言えず、胸に澱むものを残して終わった一冊である。

リバース*湊かなえ

  • 2016/01/23(土) 18:52:09

リバース
リバース
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湊 かなえ
講談社
売り上げランキング: 19,810

深瀬和久は、事務機会社に勤めるしがないサラリーマン。今までの人生でも、取り立てて目立つこともなく、平凡を絵に描いたような男だ。趣味と呼べるようなことはそう多くはなく、敢えていうのであればコーヒーを飲むこと。そんな深瀬が、今、唯一落ち着ける場所がある。それは〈クローバー・コーヒー〉というコーヒー豆専門店だ。豆を売っている横で、実際にコーヒーを飲むことも出来る。深瀬は毎日のようにここに来ている。ある日、深瀬がいつも座る席に、見知らぬ女性が座っていた。彼女は、近所のパン屋で働く越智美穂子という女性だった。その後もしばしばここで会い、やがて二人は付き合うことになる。そろそろ関係を深めようと思っていた矢先、二人の関係に大きな亀裂が入ってしまう。美穂子に『深瀬和久は人殺しだ』という告発文が入った手紙が送りつけられたのだ。だれが、なんのために――。
深瀬はついに、自分の心に閉じ込めていた、ある出来事を美穂子に話し始める。全てを聞いた美穂子は、深瀬のもとを去ってしまう。そして同様の告発文が、ある出来事を共有していた大学時代のゼミ仲間にも送りつけられていたことが発覚する。”あの件”を誰かが蒸し返そうとしているのか。真相を探るべく、深瀬は動き出す。


大学のゼミ仲間と友人の別荘に出かけたとき、遅れてきた別荘の主本人を車で迎えに行った広沢が、崖から落ちて亡くなった。そのことを胸に抱えて社会人になった深瀬たちに、「人殺しだ」という告発文が届き、事態が新たに動き出す。広沢のことを知りたいと、彼をよく知る昔の友人たちに話を聴いて回る深瀬だったが……。それぞれの身勝手さ、心の弱さ、保身など、さまざまな面があぶりだされる中、最後の最後の最後の最後にとんでもない事実が明らかになるのである。まさにオセロゲームの白黒が一瞬にして入れ替わるように、世界の見え方が裏返るのである。一瞬思わず息を呑んだ。最後にタイトルの意味に納得する一冊である。

絶唱*湊かなえ

  • 2015/12/18(金) 07:11:47

絶唱
絶唱
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湊 かなえ
新潮社
売り上げランキング: 103,583

悲しみしかないと、思っていた。でも。死は悲しむべきものじゃない――南の島の、その人は言った。心を取り戻すために、約束を果たすために、逃げ出すために。忘れられないあの日のために。別れを受け止めるために――。「死」に打ちのめされ、自分を見失いかけていた。そんな彼女たちが秘密を抱えたまま辿りついた場所は、太平洋に浮かぶ島。そこで生まれたそれぞれの「希望」のかたちとは? 〝喪失〞から、物語は生まれる――。


阪神淡路大震災からちょうど二十年目のその日に出版された一冊である。二十年という月日が、物語にするために必要だったのだと思うと、胸に迫るものがある。直接的、間接的に、大震災で負った傷を背負って、逃げるように、あるいは祈るように、南の島にたどり着いた女性たちの、いままでとこれから、そして圧倒的ないまが描かれている。悲しみや苦しみを忘れ、捨て去るのではなく,認めて受け容れられてこそ、次のステップに臨めるのだと教えられる気がする。少しずつリンクする彼女たちの人生。僅かでもかかわることで、互いのこれからに良い影響を与え合っているようにも思えてほっとする。ここからが始まりなのだと思わされる一冊である。

物語のおわり*湊かなえ

  • 2015/01/25(日) 17:06:11

物語のおわり物語のおわり
(2014/10/07)
湊 かなえ

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妊娠三ヶ月で癌が発覚した女性、
父親の死を機にプロカメラマンになる夢をあきらめようとする男性……
様々な人生の岐路に立たされた人々が北海道へひとり旅をするなかで受けとるのはひとつの紙の束。
それは、「空の彼方」という結末の書かれていない物語だった。
山間の田舎町にあるパン屋の娘、絵美は、学生時代から小説を書くのが好きで周りからも実力を認められていた。
ある時、客としてきていた青年と付き合い婚約することになるのだが、憧れていた作家の元で修業をしないかと誘いを受ける。
婚約を破棄して東京へ行くか、それとも作家の夢をあきらめるのか……
ここで途切れている「空の彼方」という物語を受け取った人々は、その結末に思いを巡らせ、自分の人生の決断へと一歩を踏み出す。
湊かなえが描く、人生の救い。


「空の彼方」 「過去へ未来へ」 「花咲く丘」 「ワインディング・ロード」 「時を超えて」 「湖上の花火」 「街の灯り」 「旅路の果て」

冒頭の「空の彼方」をキーにした連作物語である。当初はそうは思わず、それぞれの物語に結末がなく、読者に想像させる仕組みなのだと思ったが、さにあらず。冒頭の手記のような小説がリレーのようにバトンタッチされていき、受け手にさまざま影響を与えては、また次にバトンタッチされていくのである。そして、長い時間をかけて熟成された壮大な物語は、次々にあちこちと繋がって完成されるのである。読み終えてあたたかい気持ちになれる一冊である。

豆の上で眠る*湊かなえ

  • 2014/08/08(金) 16:50:34

豆の上で眠る豆の上で眠る
(2014/03/28)
湊 かなえ

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行方不明になった姉。真偽の境界線から、逃れられない妹――。あなたの「価値観」を激しく揺さぶる、究極の謎。私だけが、間違っているの? 13年前に起こった姉の失踪事件。大学生になった今でも、妹の心には「違和感」が残り続けていた。押さえつけても亀裂から溢れ出てくる記憶。そして、訊ねられない問い――戻ってきてくれて、とてもうれしい。だけど――ねえ、お姉ちゃん。あなたは本当に、本物の、万佑子ちゃんですか? 待望の長編、刊行!


小学一年生の結衣子は、二つ上の病弱な姉・万佑子ばかりが母に可愛がられていると思っていた。だが姉が読み聞かせてくれる物語はとても魅力的で、その声を忘れることができない。二人で遊んで、ひと足先に帰った万佑子の行方がわからなくなり、結衣子は戸惑い、悩み、なんとか母を喜ばせようとする。結衣子の想いが切ない。そして二年後、万佑子が不意に戻ってくる。衰弱しているとは言え、以前の万佑子とは思えず、結衣子は別人ではないかと疑いを抱くが、無条件で受け入れている母に訊ねることもできない。大学生になって思いがけず真相を知ることになるのだが、それは驚くべき内容だった。いくら成長期の子どもとは言え、たった二年間で別人のようになってしまい、それをすんなり受け入れるというのはいささか不自然な気がするし、小学生とは言え妹の結衣子に何の説明もないのも不自然に思われる。そしてなにより、二年間行方知れずになっていた万佑子の決断が不可解に思えてしまう。ずっと家族と信じて過ごしていた家に帰りたいと思わなかったのだろうか。真実がわかってしまうとあれこれ腑に落ちないこともあるが、そこにたどり着くまでのドキドキ感は見事な一冊だった。

望郷*湊かなえ

  • 2013/04/06(土) 07:12:11

望郷望郷
(2013/01/30)
湊 かなえ

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島に生まれ育った人々の、島を愛し島を憎む複雑な心模様が生み出すさまざまな事件。推協賞短編部門受賞作「海の星」ほか傑作全六編。


「みかんの花」 「海の星」 「夢の国」 「雲の糸」 「石の十字架」 「光の航路」

瀬戸内の小さな島、白綱島が舞台で、一話ごとに語り手を替える連作短編集である。島ならではの人間関係の濃密さや閉塞感、都会への憧れと途切れなく続く日々の暮らし。そんな環境だからこそ起こった数々の出来事や事件、そして、時を隔てたからこそ明らかにすることのできる隠されていた真実。世界の縮図とも、ひとりの人間の縮図とも言えそうな、さまざまな思惑のせめぎ合いは、ときにに切なく恐ろしいが、読み応えがある。凪いだ水面をかき乱すような心地にさせられる一冊である。

母性*湊かなえ

  • 2012/12/28(金) 11:24:26

母性母性
(2012/10/31)
湊 かなえ

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「これが書けたら、作家を辞めてもいい。そう思いながら書いた小説です」著者入魂の、書き下ろし長編。持つものと持たないもの。欲するものと欲さないもの。二種類の女性、母と娘。高台にある美しい家。暗闇の中で求めていた無償の愛、温もり。ないけれどある、あるけれどない。私は母の分身なのだから。母の願いだったから。心を込めて。私は愛能う限り、娘を大切に育ててきました──。それをめぐる記録と記憶、そして探索の物語。


第一章/厳粛な時 第二章/立像の歌 第三章/嘆き 第四章/ああ 涙でいっぱいのひとよ 第五章/涙の壺 第六章/来るがいい 最後の苦痛よ 終章/愛の歌

終章以外の各章が、「母性について」「母の手記」「娘の回想」という三部から成っている。それぞれ主役になっているのが誰なのか。母と娘はすぐに判るが、母性について語るのが誰なのかはなかなか明らかにはされない。だが、母と娘が体験したことごとの受け取り方、感じ方が語られる間に、母性についてというクッションがあることによって、読者は母娘の世界に浸りきることなく、一旦現実的な興味に引き戻され、立ち止まって考えることができるような気がする。母と娘の関係性の強さ太さと儚さ脆さ、母性というものの千差万別さを改めて考えさせられる一冊でもあった。

白ゆき姫殺人事件*湊かなえ

  • 2012/12/08(土) 18:46:06

白ゆき姫殺人事件白ゆき姫殺人事件
(2012/07/26)
湊 かなえ

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美人会社員が惨殺された不可解な殺人事件を巡り、一人の女に疑惑の目が集まった。同僚、同級生、家族、故郷の人々。彼女の関係者たちがそれぞれ証言した驚くべき内容とは。「噂」が恐怖を増幅する。果たして彼女は残忍な魔女なのか、それとも―ネット炎上、週刊誌報道が過熱、口コミで走る衝撃、ヒットメーカーによる、傑作ミステリ長編。


噂話、マンマローというTwitterのようなSNSサイトのつぶやき、週刊誌の取材記事などを集めて、美人OL殺人事件の真実を浮かび上がらせようという趣向の物語である。恩田陸さんの『Q&A』と手法は少し似ている感じではあるが、真実への迫り方が、本作はいささか甘い気がしなくもない。というか、そもそも真実に迫っていこうというところに本質があるわけではないようなので、これはこれでいいのかもしれないが。噂やつぶやきが、どれほど無責任で興味本位であり、真実とかけ離れたところにあるか、というのが見どころの一冊なのかもしれない。

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サファイア*湊かなえ

  • 2012/06/15(金) 07:36:07

サファイアサファイア
(2012/04)
湊 かなえ

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7つの宝石に込められたそれぞれの想い。あなたに返し忘れたもの。それは・・・・・。
湊かなえの新境地。


真珠、ルビー、ダイヤモンド、猫目石、ムーンストーン、サファイア、ガーネットと、宝石の名がタイトルになっており、その宝石にまつわるエピソードが綴られた短編集である。
石の持つ力、というわけではなく、それぞれの主人公の時どきの気持ちが石に対する思い入れになっていたりする。短編なので、黒く冷酷な部分はさほど強調されてはいないが、物語によってはピリッとブラックなスパイスが効いているものもあって、やはり、と思う。ただそれだけではなく、胸が温まる場面もあって、そのあたりが新境地と言われるのか、とも思う。プチブラックな一冊である。

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境遇*湊かなえ

  • 2011/11/27(日) 17:07:38

境遇境遇
(2011/10/05)
湊 かなえ

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主人公は36歳のふたりの女性。
政治家の夫と幸せな家庭を築き、さらに絵本作家としても注目を浴びる主婦の陽子。
家族のいない天涯孤独な新聞記者の晴美。ふたりは親友同士であるが、共に生まれてすぐ親に捨てられた過去を持つ。
ある日、「世間に真実を公表しなければ、息子の命はない」という脅迫状と共に、陽子の5歳になる息子が誘拐された。
真実とは一体何なのか ……。
晴美と共に「真実」を求め奔走する陽子。すると、陽子の絵本のファンだという一人の女性の存在が浮上する。
犯人はその女性なのか、それとも……。
人 は生まれる環境を選べない。しかし、その後の人生は自分の意思で選び、自分の手で築いていくことができる。
犯人の示す「真実」が明らかになるとき、ふたりの歩んできた境遇 =人生の意味が改めて浮き彫りになっていく。


この設定にしては、心がどんよりと重くて仕方がなくなるような物語ではなかったが、誰にも気を許せない不幸を感じられる物語ではある。登場人物の描き方もいささかわかり易すぎと言ってもいいかもしれない。陽子さんも夫の正紀さんも、いい人過ぎる。面白かったが、著者にはもっと上を期待してしまう。裕太くんが傷つかなくてよかった、と思わされる一冊。

花の鎖*湊かなえ

  • 2011/09/21(水) 19:34:32

花の鎖花の鎖
(2011/03/08)
湊 かなえ

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毎年届く謎の花束。差出人のイニシャルは「K」。女たちが紡ぐ感動のミステリ。


英語教室の元講師・梨花、なかなか子どもに恵まれないが夫婦ふたり仲良く暮らす深雪、アカシア商店街の人気者で絵画教室の講師の紗月。地方の町に暮らす三人の女性を軸に、きんつばが名物の和菓子屋・梅光堂や山本生花店、そしてさまざまな花を鎖のように繋いで物語りは進んでいく。半ば過ぎまではなんの疑念もなく平面として物語を愉しみ、どんな風にひとつになっていくのだろうと思っていたが、ふとした表現からそれまでの思い込みが覆され、物語が急に陰影を持った立体として浮かび上がってきたのだった。そこから先は、ひたすら真実を知りたくてページを捲った。哀しくやるせないけれど、強く揺るがない愛を湛えた一冊でもある。

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夜行観覧車*湊かなえ

  • 2011/03/08(火) 06:53:58

夜行観覧車夜行観覧車
(2010/06/02)
湊 かなえ

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父親が被害者で母親が加害者--。高級住宅地に住むエリート一家で起きたセンセーショナルな事件。遺されたこどもたちは、どのように生きていくのか。その家族と向かいに住む家族の視点から、事件の動機と真相が明らかになる。『告白』の著者が描く、衝撃の「家族」小説。


高級住宅地ひばりヶ丘でいちばん小さな家に暮らす遠藤家。中学生の娘・彩花はたびたび癇癪を起こし母・真弓を罵り暴れる。向かいの高橋家の夫は医者であり、三人の子どもたちもみな優秀で人も羨むような一家である。遠藤家の隣に古くから住む小島さと子は、夫は忙しく、息子夫婦は海外にいて、ひばりヶ丘の住人であることに誇りを持ち、新参者たちによい感情を持っていない。そんななか、事件は起きたのだった。
物語は、遠藤家、高橋家、そして小島さと子、とそれぞれの立場で描かれながら進んでいく。家の中でなにが起こっているのか、そして家の外ではどうなのか。周りはそれをどう見ているのか。当事者はどう感じているのか。著者の作品はどれも、気持ちが沈みこむような内容で、物語自体は好きとは言えないのだが、なぜか引きずり込まれるように読み進んでしまう。知れば知るほどやりきれなくなると判っていても、最後まで見届けずにはいられない心地にさせられるのである。ラストに辿り着いたからと言って明るい未来がぱっと開けるわけではない。それでもひと筋の光の気配を何とかして見つけようとしてしまうのである。昏く重くやりきれない一冊である。

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Nのために*湊かなえ

  • 2011/03/05(土) 07:24:26

NのためにNのために
(2010/01/27)
湊 かなえ

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「N」と出会う時、悲劇は起こる―。大学一年生の秋、杉下希美は運命的な出会いをする。台風による床上浸水がきっかけで、同じアパートの安藤望・西崎真人と親しくなったのだ。努力家の安藤と、小説家志望の西崎。それぞれにトラウマと屈折があり、夢を抱く三人は、やがてある計画に手を染めた。すべては「N」のために―。タワーマンションで起きた悲劇的な殺人事件。そして、その真実をモノローグ形式で抒情的に解き明かす、著者渾身の連作長編。『告白』『少女』『贖罪』に続く、新たなるステージ。


冒頭に描かれている事件を読んだ段階では、単なる痴情のもつれが引き起こした事件のようであったのが、読み進むにつれてどんどん様相を変えていくのに驚かされる。目に見える事実と真実が必ずしも一致しないということを再認識させられもする。登場人物たちの隠したい欲求と読者の知りたい欲求とのせめぎあいのような読書であった。心の最奥に抱えるものの深さと昏さを見せられた一冊だった。

贖罪*湊かなえ

  • 2010/11/30(火) 18:46:55

贖罪 (ミステリ・フロンティア)贖罪 (ミステリ・フロンティア)
(2009/06/11)
湊 かなえ

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取り柄と言えるのはきれいな空気、夕方六時には「グリーンスリーブス」のメロディ。そんな穏やかな田舎町で起きた、惨たらしい美少女殺害事件。犯人と目される男の顔をどうしても思い出せない四人の少女たちに投げつけられた激情の言葉が、彼女たちの運命を大きく狂わせることになる―これで約束は、果たせたことになるのでしょうか?衝撃のベストセラー『告白』の著者が、悲劇の連鎖の中で「罪」と「贖罪」の意味を問う、迫真の連作ミステリ。本屋大賞受賞後第一作。


フランス人形 PTA臨時総会 くまの兄妹 とつきとおか 償い 終章


空気が綺麗な田舎町しか知らない四人の少女と都会からやってきた裕福な一人の少女。一緒に遊んでいるときに、その一人の少女だけが作業服姿の見知らぬ男に殺された。少女のひとりの知らせを受けた母はこれ以上ないほど取り乱し、娘の亡骸を抱きしめて泣き叫んだ。そして、殺されなかった少女たちもそれぞれに心に深い傷を負ったのだった。それに追い討ちをかけるように殺された少女の母に突きつけられた言葉に、彼女たちの人生はがんじがらめにされていく。
直接関係のない人々にとっては流れる日々のほんのひと駒であることが、当事者にとってどれほどの重みを持つものかということが、やりきれなさと共に実感される。結果的には、終章で語られる「わたしの人生ってなんだったんだろう」というひと言が事件の性質をよく著していると思う。なぜ彼女たちは巻き込まれなければならなかったのだろう、ほんとうに償うべきはだれだったのだろう、と。身勝手ということを思わされる一冊でもある。