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カケラ*湊かなえ

  • 2021/07/29(木) 16:24:41


美容クリニックに勤める医師の橘久乃は、久しぶりに訪ねてきた幼なじみから「やせたい」という相談を受ける。カウンセリングをしていると、小学校時代の同級生・横網八重子の思い出話になった。幼なじみいわく、八重子には娘がいて、その娘は、高校二年から徐々に学校に行かなくなり、卒業後、ドーナツがばらまかれた部屋で亡くなっているのが見つかったという。母が揚げるドーナツが大好物で、それが激太りの原因とも言われていた。もともと明るく運動神経もよかったというその少女は、なぜ死を選んだのか――?
「美容整形」をテーマに、外見にまつわる固定観念や、人の幸せのありかを見つめる、心理ミステリ長編。


美容整形外科医の橘久乃のクリニックを訪れ、痩せたいと訴えるかつての同級生から話を聴くうちに、太っていたほかの同級生のことに話が及び、その娘の自殺のことにも触れられる。その真実を知るため、久乃は関係者に話を聴くのだが、ひとつの章が、ひとりの語りになっていて、少しずつ積み重なって次第に真実があぶり出されるのかと期待が膨らむ。美容整形の場が舞台になっていて、美しさの基準や価値について考えさせられる物語ではあるのだが、謎解きの本筋はそこではない気がする。愛情とか、信頼とか、承認欲求とか、無条件に安心していられる場所への希求とか。それらを失ったとわかった時に、人は想像以上に脆くなるのではないだろうか。提示されたものと結末の落としどころに、多少の違和感を覚えた一冊でもあった。

ドキュメント*湊かなえ

  • 2021/07/27(火) 18:45:51


湊かなえ最新刊! 興奮と感動の高校部活小説!

人と人。対面でのコミュニケーションがむずかしくなった今だからこそ、
「”伝える”って何だ?」ということを、青海学院放送部のみんなと、真剣に考えてみました。 ――湊かなえ

中学時代に陸上で全国大会を目指していた町田圭祐は、交通事故に遭い高校では放送部に入ることに。圭祐を誘った正也、久米さんたちと放送コンテストのラジオドラマ部門で全国大会準決勝まで進むも、惜しくも決勝には行けなかった。三年生引退後、圭祐らは新たにテレビドキュメント部門の題材としてドローンを駆使して陸上部を撮影していく。やがて映像の中に、煙草を持って陸上部の部室から出てくる同級生の良太の姿が発見された。圭祐が真実を探っていくと、計画を企てた意外な人物が明らかになって……。


著者のイヤミスを期待して読むと、肩透かし気分になるかもしれない。まったく趣の違う物語である。舞台は高校の部活、しかも放送部である。「伝える」ということに焦点を当てて、部員たちそれぞれの、これまでの人生や、取材対象の人間関係まで絡めて、何を伝えたいか、どう伝えたいか、さらには、伝わらないもどかしさと、俯瞰して眺めること、その先を見据える大切さなどを、成功体験や失敗体験を通して、ひとつずつ納得し、成長していく過程が描かれている。自分のふがいなさに地団太を踏みたくなる姿は、胸に迫ってきて、何とかしてやりたくなるし、先輩たちの考え方の大きさには拍手を送りたくなる。部員たちそれぞれに寄り添って、一度にいくつもの人生を生きた心地にもなれる一冊と言えるかもしれない。

落日*湊かなえ

  • 2019/11/23(土) 12:47:45

落日
落日
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湊 かなえ
角川春樹事務所 (2019-09-02)
売り上げランキング: 6,290

新人脚本家の甲斐千尋は、新進気鋭の映画監督長谷部香から、新作の相談を受けた。『笹塚町一家殺害事件』引きこもりの男性が高校生の妹を自宅で刺殺後、放火して両親も死に至らしめた。15年前に起きた、判決も確定しているこの事件を手がけたいという。笹塚町は千尋の生まれ故郷だった。この事件を、香は何故撮りたいのか。千尋はどう向き合うのか。“真実”とは、“救い”とは、そして、“表現する”ということは。絶望の深淵を見た人々の祈りと再生の物語。


笹塚町一家殺人事件を題材にした映画を企画している映画監督・長谷部香と、脚本を打診された甲斐千尋が主人公である。
笹塚町に縁のある二人、それぞれの視点で、事件にスポットが当てられ、それぞれの家庭の事情とも絡めて、当時の仔細が少しずつ明らかにされていく。割と早い段階からおそらく多くの読者が真相に近いところまで予想できるとは思うが、それをさらに超えるラストだったのではないだろうか。中盤、進みがゆっくりで、急かしたい気分にならなくもなかったが、そのもどかしさも含めて物語の雰囲気を盛り上げていたように思われる。近くにいても気づかないこと、近くだからこそ知ることができないこともあるのだと、思い知らされる気がする一冊でもあった。

ブロードキャスト*湊かなえ

  • 2018/12/28(金) 16:54:05

ブロードキャスト
ブロードキャスト
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湊 かなえ
KADOKAWA (2018-08-23)
売り上げランキング: 5,965

町田圭祐は中学時代、陸上部に所属し、駅伝で全国大会を目指していたが、3年生の最後の県大会、わずかの差で出場を逃してしまう。その後、陸上の強豪校、青海学院高校に入学した圭祐だったが、ある理由から陸上部に入ることを諦め、同じ中学出身の正也から誘われてなんとなく放送部に入部することに。陸上への未練を感じつつも、正也や同級生の咲楽、先輩女子たちの熱意に触れながら、その面白さに目覚めていく。目標はラジオドラマ部門で全国高校放送コンテストに参加することだったが、制作の方向性を巡って部内で対立が勃発してしまう。果たして圭祐は、新たな「夢」を見つけられるか―。


なんと学園ドラマである。陸上部の描写という、タイトルから想像したのとは全く違う始まり方をしたが、信じがたい出来事のせいで、タイトルの流れに戻ってきた。圭祐は、正也に放送部に誘われなければ、ひき逃げ事故で足を怪我するという自分の不運を呪い続け、高校三年間ずっと立ち直れなかったかもしれないと思うと、中学時代から圭祐の声の良さに目をつけてくれていた正也には、いくら感謝してもし足りないかもしれない。放送部という、一見地味な文化部の実際の活動を知ることができたのも興味深い。みんな、それぞれの場所で熱意をもって日々を過ごしているのだと、改めてじんとする。熱意を持ち続けて、若者たち、と思わず応援したくなる一冊でもある。

未来*湊かなえ

  • 2018/10/30(火) 17:04:23

未来
未来
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湊 かなえ
双葉社
売り上げランキング: 15,158

「こんにちは、章子。わたしは20年後のあなたです」ある日、突然届いた一通の手紙。
送り主は未来の自分だという……。『告白』から10年、湊ワーールドの集大成!
待望の書き下ろし長編ミステリー!!


445ページというボリュームだが、それを感じさせられずに読み終えた。虐待、DV、虐め、などなど、これでもかというほど胸が締めつけられる描写が続くが、未来の自分からの手紙に返事を書くことで、そのつらさを宥める章子が芯にいる物語である。過去、現在、未来、彼女の周りの人たちに起こる不幸な出来事が、厭になるほど描かれていて、この悲惨な状況がいつまで続くのか、どの時点でだれが救ってくれるのかと、次の展開を早く知りたくてたまらなくなる。だが、読んでも読んでも、不幸は連鎖し、昏くなる気持ちをどうやって立て直したらいいのかわからなくもなる。過去にも現在にも安らぎは見いだせないが、未来にはきっと自分がいていい場所があると、ほんの少しでも信じられるのは、20年後の大人章子からの手紙があるからなのだ。章子と近しい人たちの未来に、小さくても光が灯ることを切に祈る一冊である。

ポイズンドーター・ホーリーマザー*湊かなえ

  • 2016/10/13(木) 20:23:32

ポイズンドーター・ホーリーマザー
湊 かなえ
光文社
売り上げランキング: 6,788

湊かなえ原点回帰! 人の心の裏の裏まで描き出す極上のイヤミス6編!!
私はあなたの奴隷じゃない! 母と娘。姉と妹。男と女--。ままならない関係、鮮やかな反転、そしてまさかの結末。あなたのまわりにもきっといる、愛しい愚か者たちが織りなすミステリー。さまざまに感情を揺さぶられる圧巻の傑作集!!


「マイディアレスト」 「ベストフレンド」 「罪深き女」 「優しい人」 「ポイズンドーター」 「ホーリーマザー」

人にはさまざまな顔がある。表に見せる顔がすべてではなく、人には見せない部分にこそ本当の顔を隠し持っていると言ってもいいだろう。そんな人間の裏側の顔を覗き見るような物語たちである。ただ、それは一面的なものではなく、悪だと思っていると、ちょっと視点を変えるだけで景色ががらりと変わることもあるので注意が必要なのである。人の裏表が描かれていると同時に、ひとりの人から聞いた話だけで判断することの危うさにも気づかされる。ハッピーエンドはなく、どれも厭な気分にさせられる物語ばかりだが、自分の裏側を見せつけられたような気もして、主人公たちを嫌いにはなりきれない一冊でもある。

ユートピア*湊かなえ

  • 2016/06/09(木) 18:35:48

ユートピア
ユートピア
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湊 かなえ
集英社
売り上げランキング: 5,800

善意は、悪意より恐ろしい。
足の不自由な小学生・久美香の存在をきっかけに、母親たちがボランティア基金「クララの翼」を設立。
しかし些細な価値観のズレから連帯が軋みはじめ、やがて不穏な事件が姿を表わす――。
湊かなえが放つ、心理サスペンスの決定版。

地方の商店街に古くから続く仏具店の嫁・菜々子と、夫の転勤がきっかけで社宅住まいをしている妻・光稀、移住してきた陶芸家・すみれ。
美しい海辺の町で、立場の違う3人の女性たちが出会う。
「誰かのために役に立ちたい」という思いを抱え、それぞれの理想郷を探すが――。


菜々子、光稀、すみれという育ちも立場も三者三様の女性たちを軸に、彼女らの娘たち、地の人たちと他所から来た人たちの関係性、過去の殺人事件、とさまざまな要素が絡み合い、それぞれの思惑がもつれ合って表面的には穏やかな鼻崎町にどす黒い淀みとなっている様から目が離せない。同じものを見て同じ体験をしても、各自が自分を中心に置いて受け取れば、こうも違った景色になるのかということにも、もどかしさを感じつつ興味深く、その先を知りたくさせる要素のひとつである。終盤、過去の殺人事件を絡めてラストに向かう辺りから、いささか先を急ぎ過ぎたような印象であり、あまりにもあっけなかったようにも思われる。ただ、母親たちのせめぎあいに目を奪われている陰で、子どもたちにも子どもたちなりの真剣な悩みがあったことを思うと、切なくやるせなくもある。結局は真に分かり合えたとは言えず、胸に澱むものを残して終わった一冊である。

リバース*湊かなえ

  • 2016/01/23(土) 18:52:09

リバース
リバース
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湊 かなえ
講談社
売り上げランキング: 19,810

深瀬和久は、事務機会社に勤めるしがないサラリーマン。今までの人生でも、取り立てて目立つこともなく、平凡を絵に描いたような男だ。趣味と呼べるようなことはそう多くはなく、敢えていうのであればコーヒーを飲むこと。そんな深瀬が、今、唯一落ち着ける場所がある。それは〈クローバー・コーヒー〉というコーヒー豆専門店だ。豆を売っている横で、実際にコーヒーを飲むことも出来る。深瀬は毎日のようにここに来ている。ある日、深瀬がいつも座る席に、見知らぬ女性が座っていた。彼女は、近所のパン屋で働く越智美穂子という女性だった。その後もしばしばここで会い、やがて二人は付き合うことになる。そろそろ関係を深めようと思っていた矢先、二人の関係に大きな亀裂が入ってしまう。美穂子に『深瀬和久は人殺しだ』という告発文が入った手紙が送りつけられたのだ。だれが、なんのために――。
深瀬はついに、自分の心に閉じ込めていた、ある出来事を美穂子に話し始める。全てを聞いた美穂子は、深瀬のもとを去ってしまう。そして同様の告発文が、ある出来事を共有していた大学時代のゼミ仲間にも送りつけられていたことが発覚する。”あの件”を誰かが蒸し返そうとしているのか。真相を探るべく、深瀬は動き出す。


大学のゼミ仲間と友人の別荘に出かけたとき、遅れてきた別荘の主本人を車で迎えに行った広沢が、崖から落ちて亡くなった。そのことを胸に抱えて社会人になった深瀬たちに、「人殺しだ」という告発文が届き、事態が新たに動き出す。広沢のことを知りたいと、彼をよく知る昔の友人たちに話を聴いて回る深瀬だったが……。それぞれの身勝手さ、心の弱さ、保身など、さまざまな面があぶりだされる中、最後の最後の最後の最後にとんでもない事実が明らかになるのである。まさにオセロゲームの白黒が一瞬にして入れ替わるように、世界の見え方が裏返るのである。一瞬思わず息を呑んだ。最後にタイトルの意味に納得する一冊である。

絶唱*湊かなえ

  • 2015/12/18(金) 07:11:47

絶唱
絶唱
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湊 かなえ
新潮社
売り上げランキング: 103,583

悲しみしかないと、思っていた。でも。死は悲しむべきものじゃない――南の島の、その人は言った。心を取り戻すために、約束を果たすために、逃げ出すために。忘れられないあの日のために。別れを受け止めるために――。「死」に打ちのめされ、自分を見失いかけていた。そんな彼女たちが秘密を抱えたまま辿りついた場所は、太平洋に浮かぶ島。そこで生まれたそれぞれの「希望」のかたちとは? 〝喪失〞から、物語は生まれる――。


阪神淡路大震災からちょうど二十年目のその日に出版された一冊である。二十年という月日が、物語にするために必要だったのだと思うと、胸に迫るものがある。直接的、間接的に、大震災で負った傷を背負って、逃げるように、あるいは祈るように、南の島にたどり着いた女性たちの、いままでとこれから、そして圧倒的ないまが描かれている。悲しみや苦しみを忘れ、捨て去るのではなく,認めて受け容れられてこそ、次のステップに臨めるのだと教えられる気がする。少しずつリンクする彼女たちの人生。僅かでもかかわることで、互いのこれからに良い影響を与え合っているようにも思えてほっとする。ここからが始まりなのだと思わされる一冊である。

物語のおわり*湊かなえ

  • 2015/01/25(日) 17:06:11

物語のおわり物語のおわり
(2014/10/07)
湊 かなえ

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妊娠三ヶ月で癌が発覚した女性、
父親の死を機にプロカメラマンになる夢をあきらめようとする男性……
様々な人生の岐路に立たされた人々が北海道へひとり旅をするなかで受けとるのはひとつの紙の束。
それは、「空の彼方」という結末の書かれていない物語だった。
山間の田舎町にあるパン屋の娘、絵美は、学生時代から小説を書くのが好きで周りからも実力を認められていた。
ある時、客としてきていた青年と付き合い婚約することになるのだが、憧れていた作家の元で修業をしないかと誘いを受ける。
婚約を破棄して東京へ行くか、それとも作家の夢をあきらめるのか……
ここで途切れている「空の彼方」という物語を受け取った人々は、その結末に思いを巡らせ、自分の人生の決断へと一歩を踏み出す。
湊かなえが描く、人生の救い。


「空の彼方」 「過去へ未来へ」 「花咲く丘」 「ワインディング・ロード」 「時を超えて」 「湖上の花火」 「街の灯り」 「旅路の果て」

冒頭の「空の彼方」をキーにした連作物語である。当初はそうは思わず、それぞれの物語に結末がなく、読者に想像させる仕組みなのだと思ったが、さにあらず。冒頭の手記のような小説がリレーのようにバトンタッチされていき、受け手にさまざま影響を与えては、また次にバトンタッチされていくのである。そして、長い時間をかけて熟成された壮大な物語は、次々にあちこちと繋がって完成されるのである。読み終えてあたたかい気持ちになれる一冊である。

豆の上で眠る*湊かなえ

  • 2014/08/08(金) 16:50:34

豆の上で眠る豆の上で眠る
(2014/03/28)
湊 かなえ

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行方不明になった姉。真偽の境界線から、逃れられない妹――。あなたの「価値観」を激しく揺さぶる、究極の謎。私だけが、間違っているの? 13年前に起こった姉の失踪事件。大学生になった今でも、妹の心には「違和感」が残り続けていた。押さえつけても亀裂から溢れ出てくる記憶。そして、訊ねられない問い――戻ってきてくれて、とてもうれしい。だけど――ねえ、お姉ちゃん。あなたは本当に、本物の、万佑子ちゃんですか? 待望の長編、刊行!


小学一年生の結衣子は、二つ上の病弱な姉・万佑子ばかりが母に可愛がられていると思っていた。だが姉が読み聞かせてくれる物語はとても魅力的で、その声を忘れることができない。二人で遊んで、ひと足先に帰った万佑子の行方がわからなくなり、結衣子は戸惑い、悩み、なんとか母を喜ばせようとする。結衣子の想いが切ない。そして二年後、万佑子が不意に戻ってくる。衰弱しているとは言え、以前の万佑子とは思えず、結衣子は別人ではないかと疑いを抱くが、無条件で受け入れている母に訊ねることもできない。大学生になって思いがけず真相を知ることになるのだが、それは驚くべき内容だった。いくら成長期の子どもとは言え、たった二年間で別人のようになってしまい、それをすんなり受け入れるというのはいささか不自然な気がするし、小学生とは言え妹の結衣子に何の説明もないのも不自然に思われる。そしてなにより、二年間行方知れずになっていた万佑子の決断が不可解に思えてしまう。ずっと家族と信じて過ごしていた家に帰りたいと思わなかったのだろうか。真実がわかってしまうとあれこれ腑に落ちないこともあるが、そこにたどり着くまでのドキドキ感は見事な一冊だった。

望郷*湊かなえ

  • 2013/04/06(土) 07:12:11

望郷望郷
(2013/01/30)
湊 かなえ

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島に生まれ育った人々の、島を愛し島を憎む複雑な心模様が生み出すさまざまな事件。推協賞短編部門受賞作「海の星」ほか傑作全六編。


「みかんの花」 「海の星」 「夢の国」 「雲の糸」 「石の十字架」 「光の航路」

瀬戸内の小さな島、白綱島が舞台で、一話ごとに語り手を替える連作短編集である。島ならではの人間関係の濃密さや閉塞感、都会への憧れと途切れなく続く日々の暮らし。そんな環境だからこそ起こった数々の出来事や事件、そして、時を隔てたからこそ明らかにすることのできる隠されていた真実。世界の縮図とも、ひとりの人間の縮図とも言えそうな、さまざまな思惑のせめぎ合いは、ときにに切なく恐ろしいが、読み応えがある。凪いだ水面をかき乱すような心地にさせられる一冊である。

母性*湊かなえ

  • 2012/12/28(金) 11:24:26

母性母性
(2012/10/31)
湊 かなえ

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「これが書けたら、作家を辞めてもいい。そう思いながら書いた小説です」著者入魂の、書き下ろし長編。持つものと持たないもの。欲するものと欲さないもの。二種類の女性、母と娘。高台にある美しい家。暗闇の中で求めていた無償の愛、温もり。ないけれどある、あるけれどない。私は母の分身なのだから。母の願いだったから。心を込めて。私は愛能う限り、娘を大切に育ててきました──。それをめぐる記録と記憶、そして探索の物語。


第一章/厳粛な時 第二章/立像の歌 第三章/嘆き 第四章/ああ 涙でいっぱいのひとよ 第五章/涙の壺 第六章/来るがいい 最後の苦痛よ 終章/愛の歌

終章以外の各章が、「母性について」「母の手記」「娘の回想」という三部から成っている。それぞれ主役になっているのが誰なのか。母と娘はすぐに判るが、母性について語るのが誰なのかはなかなか明らかにはされない。だが、母と娘が体験したことごとの受け取り方、感じ方が語られる間に、母性についてというクッションがあることによって、読者は母娘の世界に浸りきることなく、一旦現実的な興味に引き戻され、立ち止まって考えることができるような気がする。母と娘の関係性の強さ太さと儚さ脆さ、母性というものの千差万別さを改めて考えさせられる一冊でもあった。

白ゆき姫殺人事件*湊かなえ

  • 2012/12/08(土) 18:46:06

白ゆき姫殺人事件白ゆき姫殺人事件
(2012/07/26)
湊 かなえ

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美人会社員が惨殺された不可解な殺人事件を巡り、一人の女に疑惑の目が集まった。同僚、同級生、家族、故郷の人々。彼女の関係者たちがそれぞれ証言した驚くべき内容とは。「噂」が恐怖を増幅する。果たして彼女は残忍な魔女なのか、それとも―ネット炎上、週刊誌報道が過熱、口コミで走る衝撃、ヒットメーカーによる、傑作ミステリ長編。


噂話、マンマローというTwitterのようなSNSサイトのつぶやき、週刊誌の取材記事などを集めて、美人OL殺人事件の真実を浮かび上がらせようという趣向の物語である。恩田陸さんの『Q&A』と手法は少し似ている感じではあるが、真実への迫り方が、本作はいささか甘い気がしなくもない。というか、そもそも真実に迫っていこうというところに本質があるわけではないようなので、これはこれでいいのかもしれないが。噂やつぶやきが、どれほど無責任で興味本位であり、真実とかけ離れたところにあるか、というのが見どころの一冊なのかもしれない。

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サファイア*湊かなえ

  • 2012/06/15(金) 07:36:07

サファイアサファイア
(2012/04)
湊 かなえ

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7つの宝石に込められたそれぞれの想い。あなたに返し忘れたもの。それは・・・・・。
湊かなえの新境地。


真珠、ルビー、ダイヤモンド、猫目石、ムーンストーン、サファイア、ガーネットと、宝石の名がタイトルになっており、その宝石にまつわるエピソードが綴られた短編集である。
石の持つ力、というわけではなく、それぞれの主人公の時どきの気持ちが石に対する思い入れになっていたりする。短編なので、黒く冷酷な部分はさほど強調されてはいないが、物語によってはピリッとブラックなスパイスが効いているものもあって、やはり、と思う。ただそれだけではなく、胸が温まる場面もあって、そのあたりが新境地と言われるのか、とも思う。プチブラックな一冊である。

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