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流れ星が消えないうちに*橋本紡

  • 2012/09/12(水) 14:16:50

流れ星が消えないうちに流れ星が消えないうちに
(2006/02/20)
橋本 紡

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高校時代から付き合っていた恋人・加地君が自分の知らない女の子と旅先の事故で死んでから、1年半。奈緒子は、加地の親友だった巧と新しい恋をし、ようやく「日常」を取り戻しつつあった。ただひとつ、玄関でしか眠れなくなってしまったことを除いては――。
深い悲しみの後に訪れる静かな愛と赦しの物語。


泣けたらいいのに、と思いながら読み進んだ。声を上げて、だれかれ構わず思いをぶつけることができたなら、奈緒子の重荷もほんの少しは軽くなるだろうに、と。だが、そうせずに裡へ裡へと潜り込み、膝を抱えて丸くなって蹲りつづけたからこそ熟成したものもあったのかもしれない。加地君が小学生のころ落ちた溝を見た途端、堰を切ったように溢れ出た涙は、それらを浄化するとともに、受け止めてくれる巧君の存在の大きさがあったからこそのものだろう。あまりにも悲しく、哀しく、閉じた物語だが、ラストに向かってほんの小さな隙間ができたように思えて胸をなでおろした。流れ星マシンのスリットのようなほんの少しの隙間がこんなにも希望を与えてくれるのかと思わされた一冊である。

ハチミツ*橋本紡

  • 2012/07/24(火) 17:22:08

ハチミツハチミツ
(2012/06/22)
橋本 紡

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しっかり者の澪、おっとりした環、天然な杏は歳の離れた三姉妹。いつも美味しいものを食べながら仲良く暮らしている…はずでした。なのに次女、環の妊娠をきっかけに、それぞれの人生に転機が訪れて―。恋、仕事、からだのこと…女子は生きてるだけで悩みがいっぱい!曲がり角だらけの人生を暖かく包み込むガールズ長編小説。


高校生の杏が作る朝食が、まずおいしそうである。そして一緒に朝食のテーブルを囲む三姉妹が微笑ましい。ほのぼのした物語が始まるのか、と思えばさに非ず。三姉妹の母親はそれぞれ別の女性なのである。恋愛に関してはどうしようもない父親を持った三姉妹の性格もさまざまで、職場や学校での在り様と、帰ってきて姉妹と交わす会話で、彼女たちの抱える悩みや葛藤がリアルに息づいているようである。疎ましく情けなくもある父との関係も三人三様でありながら、やはり父が吉野家の要であり、良くも悪くも三姉妹に大きな影響を与えているのが判るのもとてもいい。いつまでも離れない家族でいてほしいと願わずにはいられない一冊である。

葉桜*橋本紡

  • 2011/09/25(日) 21:40:16

葉桜葉桜
(2011/08/26)
橋本 紡

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高校生の佳奈は、書道教室の継野先生へ思いを寄せてきた。けれど、先生には由季子さんという奥さんがいて…。美人で天才、自由奔放な妹の紗英が背負っている、命の不安。他の教室からやってきた津田君の、真摯に書道に打ち込む姿。周囲の思いに背中を押されるように、佳奈のなかで何かが大きく変わろうとしていた―。春から夏へ、少女から大人へ。まぶしく切ない青春恋愛小説。


精神集中が必要とされる書道というものを介することによって、櫻井佳奈の恋心は心をこめて墨をするのに似た趣を帯びているように思える。静かに見えて、その実内側に熱いものを秘めているようである。あまりにも長い恋心を胸に抱えながらも、櫻井家に言い伝えられる哀しい運命に翻弄される妹の紗英のことも日々気にかかる。そして、書道塾の継野先生と知り合いの書家の関係や、その弟子で、継野先生の教室に特別に習いにきた津田君のことも気になる佳奈なのだった。さまざまな想いを自分の胸に問いただし、あるべき場所に収めるために書道の一連の所作がとても象徴的な一冊である。

九つの、物語*橋本紡

  • 2008/10/18(土) 21:26:08

九つの、物語九つの、物語
(2008/03)
橋本 紡

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大切な人を、自分の心を取り戻す再生の物語
大学生のゆきなのもとに突然現われた、もういるはずのない兄。奇妙で心地よい二人の生活は、しかし永遠には続かなかった。母からの手紙が失われた記憶を蘇らせ、ゆきなの心は壊れていく…。


 

 第一話・・・・・「縷紅新草」(泉鏡花著)
 第二話・・・・・「待つ」(『女生徒』太宰治著)
 第三話・・・・・「蒲団」(田山花袋著)
 第四話・・・・・「あぢさゐ」(永井荷風著)
 第五話・・・・・「ノラや」(内田百著)
 第六話・・・・・「山椒魚(改変前)」(井伏鱒二著)
 第七話・・・・・「山椒魚(改変後)」(井伏鱒二著)
 第八話・・・・・「わかれ道」(樋口一葉著)
 第九話・・・・・「コネティカットのひょこひょこおじさん」・・・・・(J・D・サリンジャー著)


傷ついたゆきなの心の再生の物語である。
兄の部屋の本棚から選んだ一冊の本。それがそれぞれの物語の核になっていて趣き深い。ゆきなが手に取った本が絶妙に物語の展開を暗示したり、ときどきの悩みにヒントを与えたり、自分の心の動きを気づかせてくれたりもする大事なキーにもなっている。
そして、兄が作ってくれる食事のあたたかさも、物語の魅力になっている。特性トマトスパゲティ、ご飯を詰めた丸鶏、クロックマダム、パエリアなどなど・・・・・。妹・ゆきなへの思いがぎゅっと詰まったあたたかな食事である。
どの物語もやさしく、あたたかく、そしてあまりに切ない。気づかないうちに頬を涙があたたかく濡らすような一冊だった。

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彩乃ちゃんのお告げ*橋本紡

  • 2008/04/06(日) 17:10:36

彩乃ちゃんのお告げ彩乃ちゃんのお告げ
(2007/11/03)
橋本 紡

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風変わりな少女・彩乃ちゃんを預かることになった人々。素朴で真面目で礼儀正しい彼女には、不思議な能力があるというが…。小学5年生にして「教主さま」と呼ばれる少女と、迷える人々との、3つの奇跡の物語。


「夜散歩」 「石階段」 「夏花火」という彩乃ちゃん三話。

ある新興宗教の教祖である祖母の跡目争いという大人の都合で、あちこちの知らない人に預けられる小学五年にして教主さまの彩乃ちゃんの物語である。三話に共通して登場するのは彩乃ちゃんだけであり、主役は彩乃ちゃんであるはずなのだが、それぞれの物語のなかでの彩乃ちゃんは、あくまでも脇役で、それぞれの物語に登場する人たちに、ぴかっと光る道をほんの少し見せてあげる役割を果たすのである。
普通の女の子でありながら、不思議な力を持ち、一緒にいる人たちをほんの少ししあわせにして去っていく。それが不思議な力を持ったものの定めであるとはいえ、彩乃ちゃん自身の淋しさで胸がしんとしてしまう。しあわせであたたかく、とてつもなく淋しい一冊だった。

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ひかりをすくう*橋本紡

  • 2006/10/31(火) 17:14:04

☆☆☆・・

ひかりをすくう ひかりをすくう
橋本 紡 (2006/07/21)
光文社

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智子は、仕事を辞めることにした。評価の高いグラフィックデザイナーだったが超多忙の生活を送るうちに、パニック障害になってしまったのだ。一緒に暮らす哲ちゃんも賛成してくれた。職場で知り合った哲ちゃんはひと足先に仕事を辞め、主夫として家事をこなしている。哲ちゃんは智子が最初にパニック障害で倒れたときも病院に付き添ってくれた、料理の上手なパートナーだ。
ふたりで都心から離れ、家賃の安いところで、しばらく定職を持たずに生活することにした。
 ひょんなことから不登校の女子中学生、小澤さんの家庭教師を始めることになった。そして、小澤さんがひろってきた捨て猫のマメ。3人と1匹の生活はつつましくも穏やかに続く。やがて薬を手放せなかった日々がだんだんと遠いものとなっていった。
 そんなある日、哲ちゃんの元妻から電話があって……。

『半分の月がのぼる空』『流れ星が消えないうちに』で多くの読者の共感を得た注目の著者、待望の書下ろし長編!


軌道に乗り、指名で依頼が来るほどに任されるようになっていたグラフィックデザインの仕事。境目のない日常に一度きっちり線を引き すっぱり仕事を辞めるには、他人には理解されないかもしれないが それ相当の理由があった。そんな自分の強さも弱さもひっくるめて丸ごと受け容れて自然に寄り添ってくれたのが哲ちゃんだった。
ストレスを溜め込むのも小さなひとつひとつの積み重ねであるならば、凝り固まった心を解きほぐすのも そんな日常のなんでもない小さなひとつひとつの積み重ねなのだと、あふれるばかりの朝の光を掌にすくいながら感じられる智子は 病気をだましながら付き合い続けるとしても しあわせなのだと思う。

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