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幻の少女*安東能明

  • 2007/02/23(金) 07:11:58

☆☆☆☆・

幻の少女 幻の少女
安東 能明 (2003/08)
双葉社

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社長が心中事件を起こした日、突然記憶喪失になった営業部部長。彼は次期社長の一番手と目されていた。限界状況に置かれた人間を新進気鋭の作家が鋭く抉る。記憶が溶けていく恐怖をリアルに描いた問題作。


冒頭からショッキングな場面。燃え上がる車の中にいるのは誰なのか?少女を助け出したのは誰なのか?そして銀のライターは?

火傷を負い、5月15日早朝、記憶を失くして家の前に座り込んでいた松永秀夫。冒頭で少女を助け出したのは彼なのか?車に火をつけたのも彼なのか?
松永自身の記憶が消失しているので、真実がわからないもどかしさの中物語は進む。そして、もうひとつのもどかしさは、虚血性の痴呆と診断された松永の症状ゆえの掴みどころのなさ、心許なさである。真相に迫りそうでいて、あっという間に逆戻りして白紙に戻ってしまうようなことが繰り返され、読者のもどかしさは募り、先を急ぎたくなる。
そして真相は・・・・・。
冒頭のシーンではサスペンスにも思われる物語が一転ミステリになる。途中から想像はできたが、それでも凍りつくような想いがした。

強奪箱根駅伝*安東能明

  • 2005/08/24(水) 18:17:50

☆☆☆・・



 生放送がジャックされた?!
 混乱をきわめるTV局、嘲笑う犯人

 各区間で演じられる激走のドラマと、犯人側との攻防がシンクロする!
 一気読み間違いなしの感涙サスペンス。
          (帯より)


12月30日の夕方、神奈川大学駅伝チームのマネージャー水野友里が足りないものを買いに出たまま行方不明になり、そのころ箱根駅伝を中継するTV局には女を監禁するところを生中継する映像が送られてくる。
そして神奈川県警には
 “みずのはあずかった かえしてほしかったら いかのもの
 きたる はこねえきでんに さんかするな
 じんだい つるこうすけ”

という脅迫状が送りつけられており、捜査員が、中継をするTV局にやってきたことで、先の映像が一瞬にして事件性を帯びたのだった。

幾重にも巧妙に姿を隠しながら電波を乗っ取ったのは誰なのか。
犯人のターゲットは誰なのか。
割と早い時期にそれらは明らかにされるのだが、犯人たちに連帯感も緊張感も感じられなくて、電波ジャックの技術の巧妙さだけが浮き上がって見えてしまった。
犯人の最後の詰めもあまりにも甘く、あっけなかった。
たしかに一気読みはしたのだが...。
映像にした方が緊迫感があって面白いかもしれない。

鬼子母神*安東能明

  • 2005/02/20(日) 13:27:05

☆☆☆☆・


保健婦、工藤公恵が主人公。
保健婦として巡り合った幼児虐待にまつわる物語である。
が、しかし、それだけではない。
公恵自身も深く暗いものを抱えているのだった。

結局、解決されたことは何もないに等しく、残された弥音の将来も、公恵自身の問題も混沌としたままである。
ただ、公恵の心のどこかに ほんのひとすじ光が差しかけているように思えることだけが救いと言えるだろうか。

15秒*安東能明

  • 2004/08/18(水) 14:15:01

☆☆☆☆・


午前5時を期して 時間が15秒遅れた。
発端はたったそれだけのことだった。
それによって人が死ぬなどということは 誰が考え得ただろうか。しかし たしかにそのたった15秒によって何人もの人間が命を落としたのである。

そもそも時間とはどこで誰が決めるのか?
電話やテレビなどの時報もすべてが正確に一致しているわけではないと言う。時計を見せずに生活させると 人間は一日を25時間として動くようになるとも言われる。時間とは一体何なのだろう。
こんなにも不確かであるにもかかわらず 日常からなくすことのできない時間というものを 乗っ取ることができるとしたら 人はどうするだろうか。そして時間を乗っ取られたら世界はどうなってしまうのか。
限りなく荒唐無稽で観念的な「時間」というものが素材とされながら 鉄道・ケーブルテレビ・病院というきわめて日常的な場面として描かれているのが いっそう不気味さを掻き立てる。
足もとを掬われそうな一冊である。