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星をつなぐ手―桜風堂ものがたり―*村山早紀

  • 2018/10/03(水) 18:55:49

星をつなぐ手 桜風堂ものがたり
村山 早紀
PHP研究所
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田舎町の本屋と、ある書店員の身に起こった奇跡を描き、全国書店員の共感を集め、2017年本屋大賞5位になった『桜風堂ものがたり』。その続編の登場です!
郊外の桜野町にある桜風堂書店を託され、昔の仲間たちとともに『四月の魚』をヒット作に導いた月原一整。しかし地方の小さな書店であるだけに、人気作の配本がない、出版の営業も相手にしてくれない、という困難を抱えることになる。そんな折、昔在籍していた銀河堂書店のオーナーから呼び出される。そのオーナーが持ちかけた意外な提案とは。そして一整がその誠実な仕事によって築き上げてきた人と人とのつながりが新たな展開を呼び、そして桜野町に住む桜風堂書店を愛する人たちが集い、冬の「星祭り」の日に、ふたたび優しい奇跡を巻き起こす。
今回も涙は流れるかもしれません。しかし、やはり悲しい涙ではありません!


いろいろあって銀河堂書店を辞め、桜風堂書店を任されることになった月原一整とその周辺の物語である。田舎の小さな個人書店である桜風堂には、さまざまな問題や悩みが尽きない。人気作家の新刊が配本されなかったり、店内の展開が思うようにできなかったり、人手が足りなくても専門の人を雇うことができなかったり、と。そんなたくさんの問題を抱えながらも、周りの本が、書店が好きな人たちに助けられ、紙の本離れや書店の閉店の一因ともいえるインターネット上のネットワークまでもが味方になって、桜風堂を盛り上げてくれる様子には胸が高鳴った。何事も、諦めては何も始まらないのだ。こうしたい、こうなりたい、これを守りたい、という思いを持ち続けてこそ、ほんの小さなきっかけを見逃すことなくつかまえられるのである。次々に歯車がかみ合うように、星まつりの夜に向けて高まっていく興奮が伝わってくるようで、あたたかくこみ上げるものを抑えきれない一冊だった。

噺家ものがたり~浅草は今日もにぎやかです~*村瀬健 

  • 2018/07/18(水) 07:35:12

噺家ものがたり ~浅草は今日もにぎやかです~ (メディアワークス文庫)
村瀬 健
KADOKAWA (2018-03-23)
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大学生の千野願は、寝過ごしてしまった就職の最終面接へ向かうタクシーの中で、ラジオから流れてきた一本の落語に心を打たれる。その感動から就職はもちろん、大学も辞め、希代の天才落語家・創風亭破楽への弟子入りを決意。何度断られても粘りを見せ、前座見習いとなるも、自らの才能のなさに落ち込む千野願だったが、ある日、初めて人を笑わせる快感を覚える。道が開けたように思えたそのとき、入門前から何くれとなく世話を焼いてくれた兄弟子・猫太郎が突然―。第24回電撃小説大賞選考委員奨励賞受賞作。


噺家を扱った作品は数多くあるが、どの登場人物もひと癖あって魅力的だと思う。今作でも、創風亭破楽師匠はじめ、主人公の千野願(せんのねがう)や、脇を固める人々のキャラクタもみんないい。ほろりとさせられるエピソードもたくさんあって、人情噺のようでもある。多分シリーズ化されるのだろうと思うが、これからの展開が待ち遠しくなる一冊である。

春の旅人*村山早紀+げみ

  • 2018/06/09(土) 07:49:58

春の旅人 (立東舎)
春の旅人 (立東舎)
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村山 早紀 げみ
立東舎
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大人気作家・村山早紀の未発表作品を含む3つの短編を数多くの装幀で知られるイラストレーター・げみの世界観に寄り添うやさしいイラストが彩る、華麗な1冊。「花ゲリラの夜」さゆりさんは、いつもポケットに花の種や小さな球根を隠し持っている。散歩のふりをして、町中に種をまくのだけれど…。「春の旅人」夜のゆうえんち。そこで出会ったおじいさんから、ぼくは星をみながらとあるお話を聞くことになった。「ドロップロップ」ドロップロップかんをふるところん―。大人も子どもも楽しめる、カラフルなお話。


前回の読書(『連続殺人鬼カエル男』)とは打って変わって、心が穏やかになるやさしくあたたかい物語である。短いお話だが、想像力を掻き立てられ、別の世界に入り込んだような心地になる。イラストと物語がやさしく寄り添う一冊である。

コンビニたそがれ堂 小鳥の手紙*村山早紀

  • 2018/05/28(月) 10:03:42

(P[む]1-17)コンビニたそがれ堂 小鳥の手紙 (ポプラ文庫ピュアフル)
村山 早紀
ポプラ社 (2018-03-03)
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千花が幼い頃、隣家の庭に不思議なポストがあった。そこに手紙を入れると、なぜか空の上の「あの人」から返事がくる。結婚を控え故郷を離れようとしている千花は、もう一度だけ優しい手紙を読みたくなって。知らぬ間に見守ってくれていた温かなまなざしの物語、「小鳥の手紙」。春の風早の街を舞台にした二話と、話題作『百貨の魔法』の番外編を収録。大切な探しものが見つかる不思議なコンビニたそがれ堂、大人気シリーズ第7弾!


表題作のほか、「雪柳の咲く頃に」 番外編「百貨の魔法の子どもたち」

子どものころに体験した不思議なことは、いくつになってもその人の心のどこかに仕舞われていて、何かの折にふと思い出すと、この上なくやさしく懐かしい気持ちにさせてくれるものである。今作も、そんな不思議な経験と、懐かしさにあふれた物語たちである。子どものころに、こんな体験をした人は、大人になって、たとえ間違った道を選びそうになったとしても、自然に正しいほうに導かれていきそうな気がする。信じる心や想像力のパワーをとても感じられる物語である。じんわりほろりの一冊だった。

百貨の魔法*村山早紀

  • 2017/11/16(木) 16:59:00

百貨の魔法
百貨の魔法
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村山 早紀
ポプラ社
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時代の波に抗しきれず、「閉店が近いのでは?」と噂が飛び交う星野百貨店。エレベーターガール、新人コンシェルジュ、宝飾品売り場のフロアマネージャー、テナントのスタッフ、創業者の一族らが、それぞれの立場で街の人びとに愛されてきたデパートを守ろうと、今日も売り場に立ちつづける――。百貨店で働く人たちと館内に住むと噂される「白い猫」が織りなす、魔法のような物語!


風早の街に古くからある星野百貨店が舞台である。建物にも年季が入り、決して近代的とは言えないが、昔からの電灯が脈々と受け継がれているような、愛着のある重々しさがある。街の人たちに愛され、もちろん従業員たちにも愛されている星野百貨店なのだが、もう先がないという噂が飛び交うようなこのごろである。そんなときに、新しく作られたコンシェルジュとしてやって来た芹沢結子は、ちょっぴり不思議な存在ながら、誰からも愛され、なんとなく懐かしさをも感じさせられる女性である。彼女はいったい何者なのか。そして、金と銀の瞳を持つ不思議な白猫の噂とともに、百貨店で働く人たちや、子どものころからお客として来店していたひとたちの、それぞれの深い思いが描かれていて、星野百貨店の存在の大きさがうかがい知れる。どこを読んでも、人のまごころのあたたかさに涙を誘われ、とてもしあわせな心地にさせられる。外では読めない一冊でもある。

桜風堂ものがたり*村山早紀

  • 2017/08/26(土) 16:34:39

桜風堂ものがたり
桜風堂ものがたり
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村山 早紀
PHP研究所
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百貨店内の書店、銀河堂書店に勤める物静かな青年、月原一整は、人づきあいが苦手なものの、埋もれていた名作を見つけ出して光を当てるケースが多く、店長から「宝探しの月原」と呼ばれ、信頼されていた。しかしある日、店内で起こった万引き事件が思わぬ顛末をたどり、その責任をとって一整は店を辞めざるを得なくなる。傷心を抱えて旅に出た一整は、以前よりネット上で親しくしていた、桜風堂という書店を営む老人を訪ねるために、桜野町を訪ねる。そこで思いがけない出会いが一整を待ち受けていた……。
一整が見つけた「宝もの」のような一冊を巡り、彼の友人が、元同僚たちが、作家が、そして出版社営業が、一緒になってある奇跡を巻き起こす。『コンビニたそがれ堂』シリーズをはじめ、『花咲家の人々』『竜宮ホテル』『かなりや荘浪漫』など、数々のシリーズをヒットさせている著者による、「地方の書店」の奮闘を描く、感動の物語。


風早の老舗百貨店にある、やはり老舗の銀河堂書店と、近郊の過疎化が進む桜野町の桜風堂書店、そして、書店や出版にまつわる人々の物語である。出版業界や書店の日々の仕事の苦労や喜び、書店員さんたちの本に対する愛情や熱意が、読み手にもしっかり伝わってくる。読後は、書店の見方が変わってくるかもしれない。そして書店の物語というだけではなく、生きていくうえで、居場所があるということの大切さや、言葉で伝えることのむずかしさと必要性、認めることと認められること、差させ合い助け合うことのすばらしさ、などなど、たくさんのことを考えさせられる一冊でもある。

コンビニたそがれ堂 祝福の庭*村山早紀

  • 2017/07/28(金) 19:22:32

コンビニたそがれ堂 祝福の庭 (ポプラ文庫ピュアフル)
村山 早紀
ポプラ社 (2016-12-02)
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本当にほしいものがあるひとだけがたどりつける、不思議なコンビニたそがれ堂。北国の高校を卒業し、いまは街角の洋品店で働くつむぎが、たそがれ堂で手にしたものは―。かつて諦めてしまった夢の続きを描いた「ガラスの靴」、老いた人気漫画家と少女の交流がユーモラスな「神様のいない家」、サンタクロースに手紙を書いた少年たちの物語「祝福の庭」。すべてを突き抜けてあふれだす魔法のようなきらめきと温もり、大人気シリーズ第六弾!


今回は、一冊まるごとクリスマスである。いまは真夏なので、季節が逆ではあるが、クリスマスには祝福がとても似合う。赤い鳥居の向こうのコンビニたそがれ堂も、今回はクリスマスのきらびやかなディスプレイになっているのがちょっぴり可笑しい。でも、相変わらずおでんとお稲荷さんなのは、コンビニたそがれ堂ならではだと安心したりもする。クリスマスは特に、人と人との結びつきのことを思う季節だという気がする。そしてコンビニたそがれ堂のお客たちが買い求めたものも、大切な人との結びつきを確かめるのに役に立っている。気持ちを持って、あるいは無意識に、助けたり助けられたり。人はひとりでは生きていけないものだと、あたたかい気持ちで思わされる一冊である。

コンビニたそがれ堂 星に願いを*村山早紀

  • 2017/06/22(木) 19:52:33

(P[む]1-3)コンビニたそがれ堂 星に願いを (ポプラ文庫ピュアフル)
村山 早紀
ポプラ社
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大事な探しものがある人だけがたどり着ける、不思議なコンビニたそがれ堂。
今回のお客様は、お隣のお兄ちゃんに告白したくてがんばる少女、
街角で長くコーヒーをいれてきた喫茶店のマスター、
子どもの頃、変身ヒーローになりたかった会社員......
夜空の星に切なる願いをかけた時、やさしい奇跡が起こる----。
つまずきがちな毎日に涙と笑いを運んでくれる、好評シリーズ第3弾。


コンビニたそがれ堂に行き着くまでの、異界に迷い込むような非日常的な警戒感はだいぶ薄れてきたし、長い銀髪に金色の瞳の店員さんもすっかり親しい存在になっているが、それでもたそがれ堂が特別な存在であることは疑いもない。必要としている人が、ちゃんと必要なものを手に入れ、それが結局は、自分のため人のために役立つことになるのである。たそがれ堂に行き着くまでの胸の裡の葛藤や切なさ、やるせなさが強いほど、たそがれ堂に行き着けたときに(読者は)ほっとする。これで何とか打開できる、と。だが、主人公たちにとってはここからが本番とも言えるのだ。ひとつとして同じ解決法はないが、みんな等しくあたたかい気持ちになるのである。読んでいるこちらまでやさしい気持ちになれるシリーズである。

コンビニたそがれ堂 神無月のころ*村山早紀

  • 2017/06/16(金) 16:58:43

(P[む]1-11)コンビニたそがれ堂 神無月のころ (ポプラ文庫ピュアフル)
村山 早紀
ポプラ社
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本当にほしいものがあるひとだけがたどりつける、不思議なコンビニたそがれ堂。今回は、化け猫「ねここ」が店番として登場!遺産相続で廃墟のような洋館を譲り受けた女性と忘れられた住人たちの物語「夏の終わりの幽霊屋敷」、炭坑事故で亡くなった父と家族の温かな交流を描いた「三日月に乾杯」など、ちょっぴり怖くてユーモラスな5つの物語を収録。深い余韻がいつまでも胸を去らない、大人気コンビニたそがれ堂シリーズ、第5弾!


今回は、たそがれ堂の店主・風早三郎は店を開けていて、ねここがアルバイトの店番である。不思議と訪れた人がつい胸の中のもやもやを聞いてもらいたくなるのである。そして、少しだけ胸の裡を軽くして帰っていくのだ。ねここちゃん、なかなか向いているかもしれない。ほんとうに欲しいものが何かわからずにやってくるお客さんも、その人がほんとうに求めているもの、その人に本当に必要なものを手に入れて帰っていくのである。初めは、異界に迷い込むような怖さもあったが、読んでいるうちに、この世になくてはならないもののように思えて、愛すべきものになっている。コンビニたそがれ堂で出てくる食べ物や飲み物が、どれもとてもおいしそうなのもなんとも惹かれる。いつまでもいつまでも読み続けたいシリーズである。

コンビニたそがれ堂 空の童話*村山早紀

  • 2017/06/12(月) 07:24:38

(P[む]1-7)コンビニたそがれ堂 空の童話 (ポプラ文庫ピュアフル)
村山 早紀
ポプラ社 (2013-01-04)
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本当にほしいものがある人だけがたどり着ける、不思議なコンビニたそがれ堂。今回はその昔小さな出版社から刊行された幻の児童書『空の童話』をめぐって、優秀な兄に追いつこうと頑張ってきた若い漫画家の物語、なぜかおやゆび姫を育てることになった編集者の物語、閉店が決まった老舗の書店の書店員と謎めいたお客様たちの物語、そして老いた医師が語る遠い日の夜桜の物語の四作を収録。感動の声が続々寄せられる大人気シリーズ、待望の第四弾。


今回は『空の童話』という児童書がキーになっている。いまでは書店に並ばなくなった『空の童話』にまつわる登場人物それぞれの記憶と、その物語に触れたときの感情が、大人になり、乗り越えるべきものに行き当たったときによみがえってくる様子が、手に取るように伝わってきて、主人公と同じように胸が熱くなる心地である。大切なものは、ただそこにあるだけではなく、見えないところで誰かが守ってくれているのだという、忘れがちなことを思い出させてもくれる。どれも切なくあたたかく、やはり必ず一度は泣かずにいられないシリーズである。

コンビニたそがれ堂 奇跡の招待状*村山早紀

  • 2017/06/04(日) 16:56:28

(P[む]1-2)コンビニたそがれ堂 奇跡の招待状 (ポプラ文庫ピュアフル)
村山 早紀
ポプラ社
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大事な探しものがある人だけがたどり着ける、不思議なコンビニたそがれ堂。ミステリアスな店長が笑顔で迎えるのは、大好きな友だちに会いたいと願う10歳のさゆき、あるきっかけからひきこもりになってしまった17歳の真衣、学生時代の恋をふと思い出した作家の薫子…そこで彼女たちが見つけるものとは?ほのかに懐かしくて限りなくあたたかい4編を収録したシリーズ第2弾、文庫書き下ろしで登場。


「雪うさぎの旅」 「人魚姫」 「魔法の振り子」 「エンディング~ねここや、ねここ」

どれも切ない物語である。主人公はみんな健気で、一生懸命考えている。それでもうまくいかずどうにもならないことがある。そんなときに現れるのが「コンビニたそがれ堂」なのである。その人が必要な時に、必要なものを手に入れることができる。そして、進むべき道へといざなってくれるのである。ここに行き着くまでの苦しみと、これで何かいい方向に向かうに違いないという安堵、そしてどんな風にして道が開けるのかを見守っていると、必ず一度は涙でページが見えなくなる。行ってみたいような、行かずに済むならそれがいちばんなような「コンビニたそがれ堂」。不思議な魅力の一冊である。

コンビニたそがれ堂*村山早紀

  • 2017/05/25(木) 20:29:37

(P[む]1-1)コンビニたそがれ堂 (ポプラ文庫ピュアフル)
村山 早紀
ポプラ社
売り上げランキング: 75,096

駅前商店街のはずれ、赤い鳥居が並んでいるあたりに、夕暮れになるとあらわれる不思議なコンビニ「たそがれ堂」。大事な探しものがある人は、必ずここで見つけられるという。今日、その扉をくぐるのは・・・・・・? 慌しく過ぎていく毎日の中で、誰もが覚えのある戸惑いや痛み、矛盾や切なさ。それらすべてをやわらかく受け止めて、昇華させてくれる5つの物語。


表題作のほか、「手をつないで」 「桜の声」 「あんず」 「あるテレビの物語」 エンディング~たそがれ堂

元々児童書だったものを、大人向けにするために加筆修正をしたものらしい。必要のある人にだけ見つけることができるちょっと不思議なコンビニ「たそがれ堂」。そこにいけば、欲しいものが必ず見つかるのである。そしてそれは、その人が心に抱えているさまざまな気持ちを温かく包み込んでくれる。ついほろりとさせられる一冊である。

コンビニ人間*村田沙耶香

  • 2017/02/18(土) 20:37:35

コンビニ人間
コンビニ人間
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村田 沙耶香
文藝春秋
売り上げランキング: 122

36歳未婚女性、古倉恵子。大学卒業後も就職せず、コンビニのバイトは18年目。これまで彼氏なし。日々食べるのはコンビニ食、夢の中でもコンビニのレジを打ち、清潔なコンビニの風景と「いらっしゃいませ!」の掛け声が、毎日の安らかな眠りをもたらしてくれる。ある日、婚活目的の新入り男性、白羽がやってきて、そんなコンビニ的生き方は恥ずかしいと突きつけられるが…。「普通」とは何か?現代の実存を軽やかに問う衝撃作。第155回芥川賞受賞。


幼いころから「普通」という括りに入らず、周りから疎まれていた古倉恵子は、なるべく外界と関わらないように生きてきたが、大学生の時偶然出会ったコンビニでアルバイトを始める。そこでは、指示通りに行動していれば、「コンビニ店員」として生きていけると悟った彼女は、日々指示通りに真面目に働くのである。コンビニには、自分を必要としてくれる人がいて、社会の歯車として誰かの役に立つことができるのである。常識とか普通といわれる価値観が備わっていない人間の生きづらさと、周囲の無理解が浮き彫りにされている。自分の価値観で他人を量っている限り、無意識に誰かを傷つけていることもあるのかもしれないと思わされもする。理解できるとは言えないが、閉ざしてはいけないと思う一冊である。

しろいろの街の、その骨の体温の*村田沙耶香

  • 2016/03/30(水) 07:26:19

しろいろの街の、その骨の体温の
朝日新聞出版 (2013-03-11)
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クラスでは目立たない存在である小4の結佳。女の子同士の複雑な友達関係をやり過ごしながら、習字教室が一緒の伊吹陽太と仲良くなるが、次第に伊吹を「おもちゃ」にしたいという気持ちが強まり、ある日、結佳は伊吹にキスをする。恋愛とも支配ともつかない関係を続けながら彼らは中学生へと進級するが――野間文芸新人賞受賞、少女の「性」や「欲望」を描くことで評価の高い作家が描く、女の子が少女に変化する時間を切り取り丹念に描いた、静かな衝撃作。


小学4年生という、ことに女子にとっては自分の躰のなかで起こる激動に心がついていかずにあたふたする年頃である。男子との精神年齢のギャップもいちばん目立つ頃ではないだろうか。そんな年頃の自意識過剰の結佳と、まだまだまったくのお子ちゃまの伊吹との歪んだ関わり、表皮だけでつきあう級友たち、クラス内カーストを必要以上に意識し、蔑まれながらもあらゆる人たちを見下すという複雑な精神構造。描かれることすべてに思い当たることがある人も少なくないことと思う。もちろん程度の差はあるが。それにしても伊吹がひとり――空気を読めないのか、一瞬にして全体の空気を読めすぎるのか――超越していてかっこよすぎる。舞台設定も見事だと思う一冊である。

ギンイロノウタ*村田沙耶香

  • 2016/03/29(火) 13:26:18

ギンイロノウタ
ギンイロノウタ
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村田 沙耶香
新潮社
売り上げランキング: 466,045

私となんの関係もないあなたを、私は殺したい。ブログで、書評で、注目度No.1の新鋭、最新作品集。


表題作のほか、「ひかりのあしおと」

初読みの作家さんである。好みが分かれるという評判は聞いていたけれど、さもありなんという感じ。思春期の、自分で自分を制御しきれず、自分の躰の中で何かが暴れ出して、皮膚を突き破って出てきそうな焦燥感とか歯がゆさとか、いらだちなどが、とても適切に描かれていて、この年齢で読むから訳が分かるけれど、思春期ど真ん中の人たちが読んだらどんな感想を抱くのか、気になるところでもある。大人との関係や、自分の存在そのものに対する懐疑。程度の差こそあれ誰しも通ってくる道である。大多数は、なんでもないことのような外側をしてやり過ごすのだろうが、それができない不器用さで真正面から立ち向かう姿は痛ましくも逞しい。人の成長っていろいろ大変なのだと改めて思わされる一冊でもある。