砂に泳ぐ*飛鳥井千砂

  • 2014/11/03(月) 07:01:28

砂に泳ぐ砂に泳ぐ
(2014/09/27)
飛鳥井 千砂

商品詳細を見る

大学卒業後、地元で働いていた紗耶加は、やりがいを見つけられず息苦しい毎日を過ごすなか、思いきって東京に行くことを決心する。新しい職場で気の合う同僚に恵まれ、圭介という優しい男性にも出会うことができた。やがて圭介と半同棲をすることになったが、彼の自分勝手な言動に違和感を抱きはじめる。苦悩する紗耶加を救ってくれたのは、写真を撮ることだった。そして、思いがけない新たな出会いが紗耶加の運命を変えていく―。仕事や恋愛で揺れ動く女性の生き様を圧倒的リアリティで描いた、勇気と希望の物語。


どこにいてもいつでも自分なりに真面目に一生懸命やっている紗耶香だったが、いつもなんとなく満たされない思いにもやもやしていた。そんなとき、職場の携帯ショップで出会ったパキスタン人のミシュラさんの生き方の一端に触れ、心が動く。そして彼にもらった水色のコンパクトデジカメで写真を撮るようになるのである。東京に出てきても、思い通りに行かないともやもやすることも多いが、写真はいつも紗耶香を元気にしてくれるのだった。紗耶香自身は思い通りに行かないと思いつづけているのかもしれないが、傍から見ると結構いつでも自分で自分の道を切り拓いているように見える。思い描いた通りではないとしても、やりたいことを見つけ、その道を歩きはじめているのだから、しあわせなことである。なにより周囲の人間関係に恵まれて、いつも助けられている。そのことを忘れずに歩き続けていってほしいと願う一冊である。

チョコレートの町*飛鳥井千砂

  • 2014/07/02(水) 07:19:52

チョコレートの町チョコレートの町
(2010/07/21)
飛鳥井 千砂

商品詳細を見る

不動産会社で店長の遼は、故郷にある店舗に一時的に赴任する。閉塞的な土地柄や何事にもいい加減な家族を嫌っていたが、友人の結婚問題や、父親の退職にまつわるトラブルなどを経て、見方が変わっていく。そして遼自身も自分を見つめ直していた。共感度抜群のエピソードがちりばめられた、一人の青年の成長物語。


日本で四本か五本の指には入るであろう地方都市のすぐ近くの小さな町を故郷に持つ早瀬遼は、東京――と言っても川崎だが――の不動産会社で店長をしている。ある日、故郷の町の支店の店長の不祥事で、臨時店長として赴任し、久々の実家暮らしをすることになるのである。何もかもが中途半端な町や家族にいらいらしながらも、支店の人たちや、前店長の後始末をしに来ている人事部監査室の吉村さんとの関係は良好で、あちこちで出会う同級生たちも何かと声をかけてくれる。反対に、本来自分が店長を務める川崎の店には必要とされていないのではないかと、いささか自信を失ったりもする。自分自身の立ち位置や気持ちの変化に戸惑いながらも、いままで見えていなかった町のこと、家族のことが見えてきて、あれほど嫌っていた町を見直したりもするのだった。自分がほんとうにどうしたいのか、はっきりと答えが出たわけではないが、どこに暮らしていても、帰りたいと思える故郷になったことは間違いなさそうである。読めば故郷を愛していると思わず言ってしまいそうな一冊である。

鏡よ、鏡*飛鳥井千砂

  • 2014/04/30(水) 13:07:08

鏡よ、鏡鏡よ、鏡
(2014/03/19)
飛鳥井 千砂

商品詳細を見る

佐々木莉南、愛想がよく、モットーはいつも笑顔でいること。コミュニケーション力抜群で、新規のお客さんをつかむのがうまい。でもデータ処理などは苦手。仁科英理子、自分の価値観を大事にし、うわっつらの付き合いを嫌う。言葉がちょっとキツくなりがち。でもメイクの技術に優れているので、お客さんの評価は高い。化粧品会社の美容部員として出会った、莉南と英理子。まるで対照的な相手に惹かれ、親交を深める。だが、あることをきっかけに、二人は人生の選択を迫られる―。現代を生きる女性ふたりの友情と決断の物語。


黒と白、静と動。ことごとく正反対の英理子と莉南が主人公である。初めは、互いに反感を持ち、相手の理不尽さにうんざりしていたのだが、あるきっかけで正面からぶつかり合った後は、ウソのように仲好くなり、正反対であることが余計にふたりを結びつけるのだった。だが二人とも、表の顔とは別に、育った環境に由来するコンプレックスを抱えており、それもあって思いが一度すれ違ってしまうと、修復不可能なまでにこじれてしまうのだった。合わせ鏡を見ているような揺らぎを感じさせられる。五年後の二人が描かれていてよかった。華やかだが根深い一冊である。

学校のセンセイ*飛鳥井千砂

  • 2014/02/23(日) 08:26:15

学校のセンセイ学校のセンセイ
(2007/06)
飛鳥井 千砂

商品詳細を見る

センセイって、もっと特別な人がやるものだと思ってたんだ。とくにやりたいことがなく、気がつけば先生になっていた。生徒は可愛げがないし、同僚とのつきあいも面倒だ。それでも、“センセイの日々”は続いて行く…。第18回小説すばる新人賞受賞作家が描く、“フツーの教師”の青春物語。


いまどきの高校で先生になってしまったいまどきの若者・桐原が主人公である。なんとなく教師になってしまったが、熱血先生とは対極にある。一見冷静にそつなくこなしているように見えるのは、ひとえに面倒くさいからという消極的な理由なのである。だが、先輩教師や同僚教師たち、問題生徒との日々のかかわりの中、先生としてのあり方は少しずつ変化を見せる。同時に、かつての同級生・中川や浅見、向いのアパートのツイッギー激似の小枝や彼氏の高校生・亮と知り合ったことで、私生活でも様々な変化がある。やる気のなさそうな桐原に、なんとなく親近感を抱いてしまうのは、そう言いながらも生徒を見離してはいないからかもしれない。先生も生徒も同級生も隣人も、みんなそれぞれ普通の人間で、さまざまな悩みを抱えながらも真摯に生きているのだと思わされる一冊でもある。

アシンメトリー*飛鳥井千砂

  • 2013/10/19(土) 11:06:35

アシンメトリーアシンメトリー
(2009/09/25)
飛鳥井 千砂

商品詳細を見る

結婚に強い憧れを抱く女―朋美。結婚という形を選んだ男―治樹。結婚に理想を求める男―貴人。結婚に縛られない女―紗雪。結婚願望の強い朋美はある時、友人の紗雪が突如結婚を決めたことにショックを受けた。紗雪の相手は幼馴染みの治樹。心から祝えない朋美だったが、ふたりの結婚パーティーで出会った年下の貴人と恋仲になる。しかし、紗雪と治樹の結婚には秘密があった…。現代における「結婚」とは何か?アシンメトリー(非対称)な男女4人を描く、珠玉の恋愛小説。


結婚という形をめぐる、それぞれ結婚観のまったく違う四人の男女の物語である。違う人間であるゆえに、同じものを見ていても異なることを感じ、受け取るものも違うのは当然のことである。結婚に関してもそれは同じこと。それぞれの想いがたまたま重なったり、すれ違ったり、前を向いて並んだままだったりするものである。それが、満たされたり、切なかったり、もどかしかったりして、悩むのだろう。それぞれが少しずつ強くなり、何かを乗り越えかけているような終わり方が希望を持たせてくれる。人は誰でもどこか歪なアシンメトリーな存在であり、それを認めるところから始まるのだと気づかされる一冊でもある。

タイニー・タイニー・ハッピー*飛鳥井千砂

  • 2013/09/05(木) 14:05:46

タイニー・タイニー・ハッピー (角川文庫)タイニー・タイニー・ハッピー (角川文庫)
(2011/08/25)
飛鳥井 千砂

商品詳細を見る

東京郊外の大型ショッピングセンター「タイニー・タイニー・ハッピー」、略して「タニハピ」。商品管理の事務を務める徹は、同じくタニハピのメガネ屋で働く実咲と2年前に結婚。ケンカもなく仲良くやってきたつもりだったが、少しずつズレが生じてきて…(「ドッグイヤー」より)。今日も「タニハピ」のどこかで交錯する人間模様。結婚、恋愛、仕事に葛藤する8人の男女をリアルに描いた、甘くも胸焦がれる、傑作恋愛ストーリー。


「ドッグイヤー」 「ガトーショコラ」 「ウォータープルーフ」 「ウェッジソール」 「プッシーキャット」 「フェードアウト」 「チャコールグレイ」 「ワイルドフラワー」

郊外のショッピングセンター「タイニー・タイニー・ハッピー(通称タニハピ)」で繰り広げられる数組の恋愛模様の物語である。と書くと、なにやら安っぽく聞こえるが、登場人物たちがそれぞれ、恋愛以外にも一生懸命に生きていることが伝わって心地好い。不平不満もないわけではなく、いやむしろ、愚痴を言いたいことは日常にあふれるほどあるのだが、そんな中でも自分を認め、他人をも認め、思いやりをもって接しているのがよく判る。いま答えが出たからと言って、それがこの先永遠に続くものでもなく、ときどきに形の違う波になって向かってくることになるのだろうが、どんなことがあっても何とか乗り越えていけるのではないかと思わせてくれる一冊である。

はるがいったら*飛鳥井千砂

  • 2013/09/02(月) 18:49:58

はるがいったらはるがいったら
(2006/01/05)
飛鳥井 千砂

商品詳細を見る

「今」を見事に描き切る、新しい才能の誕生。
気が付けば他人のファッションチェックまでしている完璧主義者の姉。何事もそつなくこなすが熱くなれない「いい子」な弟。どこかが行き過ぎで、何かが足りない姉弟の物語。第18回小説すばる新人賞受賞作。


14年前に公園で拾った雑種犬。ちょうど春だったので、ちゃんとした名前はあとで考えようと、とりあえず「はる」と名づけ、はるのまま14年一緒にいる。姉・園(その)は22歳、僕・行(ゆき)は18歳になった。いまは老い、日がな一日うつらうつらとしているだけなので、生き生きとした描写はないが、14年の間に姉弟に起きたさまざまなことのそばには、いつもはるがいた。それぞれに理由は違うが、自分というものの扱いにいささか戸惑う姉弟の現在(いま)が、どちらもよく判って微笑ましくも辛くもある。はるを送ったことで、ほんの少し何かが変わっていくのかもしれない、と安堵する心地にもなる一冊である。

UNTITLED*飛鳥井千砂

  • 2013/08/28(水) 18:24:50

UNTITLED (一般書)UNTITLED (一般書)
(2013/08/06)
飛鳥井千砂

商品詳細を見る

31歳の桃子は実家暮らしで未婚。自分の中で培ってきた“ルール”を厳格に守り、家族や勤めている会社の人間にも一切スキを見せることなく暮らしている。ある日、桃子の携帯に弟の健太から2年ぶりに連絡が入る。子供の頃から迷惑をかけられっぱなしで、「一家の癌」だと思っている弟からの連絡は意外な内容だった…。ベストセラー『タイニー・タイニー・ハッピー』の著者が功妙に描きだす、ありふれた家族の真実のカタチ。


「あなたは誰?」と問われて、わたしは何と答えるだろう。名前や出身地や家族構成や学歴や職歴を並べるほかに、答えるべき何かを持っているだろうか。正しさとか、人間関係とか、価値観とか、存在意義とか、さまざまなことを考えさせられる一冊だった。