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ぷくぷく*森沢明夫
- 2020/06/02(火) 16:17:08
都会でひとり暮らしをしている恋に臆病なイズミ。臆病なのは、誰にも明かしていない心と身体の傷があったから。そんな彼女をいつも見つめているボク。言葉を交わしたことはないが、イズミへの思いは誰よりも強い。もどかしい関係の「ふたり」の間に、新たな男性の存在が。果たしてイズミの凍った心を溶かす恋は始まるのか…。最高のハートウォーミング小説!
タイトルだけ見ると、畠中恵氏の一太郎シリーズのようだが、さにあらず。その意味は、読み始めるとほどなくわかり、きゅんとさせられる。主人公は「ユキちゃん」、舞台は「イズミ」の部屋と、出窓の四角く切り取られた外。とても狭い範囲で、登場人物もものすごく限られているのだが、果てしない広がりを感じられる。狭くて寂しくて切ないが、広々と開けてやわらかく、あかるくあたたかく、希望に満ちた一冊である。
雨上がりの川*森沢明夫
- 2019/01/18(金) 08:01:19
川合淳、妻の杏子、娘の春香は、平凡だが幸せな暮らしを送ってきたはずだった。しかし、春香がいじめに遭って部屋に引きこもり、一家に暗雲が立ち込める。現状を打破するために、杏子が尋ねた「ある人」とは――。
窓からふたつの空が見えるマンションが、忙しい編集者・川合家の住まいである。ほんとうの空と、川面に映る空は、季節により、天気によって、その表情をときどきに変える。中学二年の娘・春香がいじめに逢って家にこもるようになってから、河合家にはぎこちない空気が流れていた。さらに妻の杏子の様子が少しずつおかしくなってくるのに気づく。そんな折、川辺でいつも釣り糸を垂れている元心理学の教授だった・千太郎と知り合うのである。その後に起こるあれこれは、考えさせられることが盛りだくさんだが、どこの家庭にも起こり得ることで、他人事ではない。千太郎と春香のタッグが見事で、途中から予想できていたとはいえ、すっとした。この家族は、これからもきっと大丈夫だと思える。あたたかい心持ちになれる一冊である。
水曜日の手紙*森沢明夫
- 2019/01/15(火) 18:53:48
会うことのないあなたへ――最小で最高の奇蹟をお届けします。
家族が寝静まった夜更け、日課として心の毒をこっそり手帳に吐き出していた井村直美は、そんな自分を変えたいと夢を叶えた理想の自分になりかわって空想の水曜日をしたため、「水曜日郵便局」に手紙を出す。一方、絵本作家になる夢を諦めた今井洋輝も婚約者のすすめで水曜日の手紙を書いていた。会うことのない2人の手紙は、やがてそれぞれの運命を変えていき――。『夏美のホタル』『虹の岬の喫茶店』の著者が贈る、ほっこり泣ける癒やし系小説!
水曜日郵便局とは……
水曜日の出来事を記した手紙を送ると、かわりに知らない誰かの日常が綴られた手紙が届くという、一週間に一度・水曜日だけ開くちょっと不思議なプロジェクト。
ちょっとしたきっかけで水曜日郵便局を知った人たちが、胸にたまった思いを便せんにしたため、水曜日郵便局に送り、同じような見知らぬ誰かの手紙を受け取ったことがきっかけで、少しだけ気持ちの持ちようが前向きになって、一歩前に踏み出せるようになるまでの物語である。そして、人々の心を受けとめる水曜日郵便局で働く人とその家族の物語も添えられていて、さらに胸があたたかくなる。これまでの作品で見知ったあれこれもちょこちょこと出てきて、思わず頬が緩む。バタフライ効果のように、前向きな気持ちが伝染していくのが目に見えるようで、嬉しくなる一冊である。
キッチン風見鶏*森沢明夫
- 2018/09/01(土) 12:36:35
港町で三代続く老舗洋食屋「キッチン風見鶏」。おすすめは、じっくりと手をかけた熟成肉料理だ。漫画家デビューを夢見るウエイター・坂田翔平は、幽霊が見えてしまうのが悩みのタネ。お客さん一人ひとりに合わせた料理が好評なオーナーシェフ・鳥居絵里は、家族の健康を案じつつ空元気を出して奮闘中!誰しも未来は不安だし、人生は寂しいものだ。でも、だからこそ、自分の心に嘘をつかずに生きていく―。美味しさとやさしさが溢れる傑作長編。
老舗の洋食屋さんを舞台にしたハートウォーミングな物語、なのかと思いきや、舞台のキッチン風見鶏も、登場人物たちも、ある意味一風変わっていて、普通の人が経験できないさまざまなことを経験してきている。プロファイリングが得意だったり、背後霊が見えたり、彼らと会話ができたり……。たぶんこのお店には、そんな人たちを引き寄せるなにかがあるのだろう。興味を惹かれる要素が盛りだくさんなので、あれも知りたいこれも知りたいと、ページを繰る手が止まらなくなる。ひとつずつ解決されていく過程で、どんどん読んでいるこちらの気持ちがやさしくなっていく気がする。ずっと浸っていたいと思わされる一冊だった。
失恋バスは謎だらけ*森沢明夫
- 2017/10/31(火) 18:33:26
経営危機に瀕している旅行会社の名物企画「失恋バスツアー」。
このツアーの趣旨は、失恋した参加者に、鄙びた旅館、わびしい粗食、
うら寂しい観光地を提供してどん底まで落ち込んでもらい、
あとは上がるだけ、グイグイ元気になってもらいましょうというもの。
しかし、添乗員として乗り込んだ37歳の天草龍太郎は、カウンセラーとして
同じく添乗している小雪に自らがフラれたばかりだった。ツアー中も小雪はツレない態度。
しかも今回の参加者はとことん濃いメンツで、やたら元気な金髪ハーフ美女、
自称パンクロッカー、修験者のような巨漢、謎の中国人、文学少女ふうお嬢様など、
彩りが豊かすぎる9名。ハプニング続きで翻弄される龍太郎だが、
意外な事実が次々と明かされていく。笑いあり、涙ありの感動ツアー、いざ出発進行!
龍太郎が企画した失恋バスツアー。今回は、珍しく人選を買って出たイヤミな課長が選んだ、やたらと個性的で曰くありげなメンバーである。しかも添乗員の龍太郎自身が失恋したばかり。さらにその相手は同乗しているカウンセラーの小雪なのである。初めから何かありそうな雰囲気に満ち満ちている。予想に違わず、それぞれが何かしら厄介事を起こし、対応に追われるが、そんな中でも折に触れて小雪のことが気になる龍太郎なのである。読者もおそらくかなり早い段階から気づいているだろうことを、気づかないのは龍太郎だけなのがもどかしい。なにやら不思議な連帯感を抱くようになった参加者たちが、最後に企てたことは……。ハラハラドキドキ、そしてほっこり温かくなる一冊である。
たまちゃんのおつかい便*森沢明夫
- 2016/07/30(土) 18:47:37
移動販売で「買い物弱者」に元気を届けたい!!
心にエネルギーが満ちる、癒しの感動長編
過疎化と高齢化が深刻な田舎町で「買い物弱者」を救うため、
大学を中退したたまちゃんは、移動販売の「おつかい便」をはじめる。
しかし、悩みやトラブルは尽きない。外国人の義母・シャーリーンとのいさかい、
救いきれない独居老人、大切な人との別れ……。
それでも、誰かを応援し、誰かに支えられ、にっこり笑顔で進んでいく。
心があったまって、泣ける、お仕事成長小説。
<目次>
第一章 血のつながり
第二章 ふろふき大根
第三章 涙雨に濡れちゃう
第四章 秘密の写真を見つけた
第五章 まだ、生きたい
第六章 かたつむり
あとがき
三重県で「まおちゃんのおつかい便」という移動販売をしている真央さんをモデルに出来上がった物語だそうである。交通事故で12歳の時に亡くなったお母さんの母親・静子ばあちゃんの不便さを見て、おつかい便を思いついたたまちゃんは、移動販売の先輩で、元やくざと噂されている強面の正三さんに弟子入りし、オークションで安く落札したキャリィを同級生で、常田モータースの跡取り息子の壮介に整備とペイントを任せ、やはり同級生で、引き篭もっているマッキーをチラシ作りやデザイン仕事に巻き込んで、着々と準備を進めていく。父の後妻でフィリピン人のシャーリーンは、とてもいい人なのだが、どうしてもぬぐえない違和感をもてあまし、自己嫌悪に陥るたまちゃんでもある。いろんな人からいろんな言葉をもらい、見えたり見えなかったりする助けを得ながら始まったおつかい便だが、予想外の出来事で、頓挫してしまう。だが、そんな時こそ、周りの人たちの思いやりが身に沁みるのである。嬉しい出会いあり、悲しい別れあり、舞い上がったり落ち込んだり、気持ちはさまざまだが、ひとつとして身にならないことはないと思わされる。静子ばあちゃんの最期はとても印象的で、理想的な命の幕引きだと思う。誰もがあたたかく、胸をひたひたとあたたかいもので満たされる心地の一冊である。
エミリの小さな包丁*森沢明夫
- 2016/06/17(金) 18:28:55
KADOKAWA/角川書店 (2016-04-27)
売り上げランキング: 53,813
信じていた恋人に騙され、職業もお金も、居場所さえも失った25歳のエミリ。藁にもすがる思いで10年以上連絡を取っていなかった祖父の家へ転がり込む。心に傷を負ったエミリは、人からの親切を素直に受け入れられない。しかし、淡々と包丁を研ぎ、食事を仕度する祖父の姿を見ているうちに、小さな変化が起こり始める。食に対する姿勢、人との付き合い、もののとらえ方や考え方…。周囲の人たち、そして疎遠だった親との関係を一歩踏み出そうと思い始める―。「毎日をきちんと生きる」ことは、人生を大切に歩むこと。人間の限りない温かさと心の再生を描いた、癒やしの物語。
傷心のエミリは、嫌っている母の父親で、千葉の漁師町・龍浦で、銅の風鈴を作りながらひとりで暮らしている祖父・大三の元に転がり込んだ。なにも訊かずにエミリを受け入れてくれた祖父は、自ら釣った魚やご近所さんからもらった野菜などで、毎日おいしいご飯を作ってくれる。出てくるお惣菜が、どれもこれもおいしそうで、下ごしらえの丁寧さや、素材を無駄にしないで、無駄なく使いまわす大三さんの姿勢が素敵すぎてしびれる。大三さんを通して龍浦で知り合った人たちの思いやりやあたたかさに触れ、しっかりと包丁を研ぎ、丁寧に料理をしておいしくいただく。そんな日々がエミリを少しずつ変えていく。男出入りが激しいと毛嫌いしていた母の実情は、読者にはわかったがエミリはまだ知らない。でも、大三さんが言うように、遠くない日にきっと知ることになるのだろうと思わせるラストで、希望が見えるのがいい。登場人物たちみんなのこれからをずっと見守っていたい心地にさせられる一冊である。
きらきら眼鏡*森沢明夫
- 2016/01/07(木) 18:38:27
愛猫ペロを亡くした喪失感にうちひしがれていた立花明海は古本屋で普段は読まない自己啓発本を買った。
中には前の所有者か、「大滝あかね」と書かれた名刺が挟まっていた。
そして自分が唯一心を打たれたフレーズには傍線が。明海は思い切ってあかねにメールしてみるが……。
新たな出会いとともに違う人生が現れ、明海は悩み、勇気を奮い、道を決めていく。
明海(あけみ)という名前でいじめられ、名付け親だと思っていた祖母を責めたことがトラウマになり、人の反応を先読みして、できるだけ害にならないように生きてきた25歳の青年が、人や言葉との出会いによって少しずつ自分を認め、受け容れ、成長していく物語である。会社の先輩の弥生さんや、ケラさん、そして、古本屋で買った自己啓発本に挟まっていた名刺の持ち主・あかねさん。誰もが胸の裡に屈託を抱え、それをそれぞれのやり方でなだめながら生きている。悲しみや苦しみに満ちた毎日だとしても、心の中のきらきら眼鏡をかけることによって、輝きにあふれたものに変えていくことはきっとできるのだ。後半はあたたかな涙が止まらなくなって困った。人前では読まない方がいい一冊である。
癒しやキリコの約束*森沢明夫
- 2014/09/09(火) 06:53:46
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昭和歌謡を流す純喫茶「昭和堂」のオーナー・霧子は、四十路の美しい女性だが、金にはがめつく、性格はだらしない。営業中でも、お気に入りのロッキングチェアに腰掛けて、漫画片手にビールをごくごく…。雇われ店長として働くアラサー女性・カッキーと、愉快な常連客たちが、なんとか店を支えている。しかも「昭和堂」には裏稼業が…。町の人々の悩みを解決する「癒し屋」だ。噂が噂を呼び、癒しの依頼はひっきりなしだが、依頼者が持ちかける無理難題に、カッキーと常連客たち「アシスタント」はいつも大わらわ。しかも、霧子の奇想天外なアイディアで、結果は必ず予想外の展開へ!そんなある日、店に霧子への殺人予告が届く…。明日への希望が、心をやさしくほぐす、爽快エンタメ小説。
純喫茶・昭和堂の主である霧子さんのマイペースというか、お金への執着や、<わたしが法律>のごとき振舞いにまず目がいく。だが、一見荒療治にも見える霧子さんの癒しの手法に立ち会っているうちに、霧子さんの本質が垣間見られ、次第に雇われ店長のカッキーや個性的過ぎる常連客達が、チームキリコに見えてくる。それぞれが抱えているものの重さや辛さに、胸が痛むこともあるが、そんなこんながあっていまがある、という前向きな気持ちにもなれるのである。霧子さんの覚悟が潔くてほれぼれする一冊である。
夏美のホタル*森沢明夫
- 2014/09/06(土) 07:10:04
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山奥に忘れられたようにぽつんとある、小さくて古びた一軒の店「たけ屋」と、そこで支え合うように暮らしている母子、ヤスばあちゃんと地蔵じいさん。ぼくと夏美は、夏休みの間ずっと「たけ屋」の離れで暮らしてみる―という、なんとも心躍る展開になったのだけれど…。誰かを想うこと誰かの幸せを願うこと。切なくて、あたたかい、心の故郷の物語。
実在の店と人物がモデルなのだそうである。物語と同じ、通りがかりにトイレを借りたのが縁で親しくなったそうである。そこから始まる物語は、都内から車で三時間ほどの場所とは思えないほど自然豊かで、人の知恵でいくらでも愉しく豊かに暮らせるところなのだ。夏美と慎吾の若者二人も、そうやって日常の様々なことを身をもって学びながらひと夏を「たけ屋」の離れで暮らす。その夏は、夏美と慎吾にとっては特別な夏だったが、ヤスばあちゃんや地蔵さんにとってもまた特別なひとときだったのだと、あとになってしみじみ想う。目を閉じると、その夏の風景が鮮やかに浮かんでくるような一冊である。
Love & Peanut*森沢明夫
- 2014/08/13(水) 13:56:27
![]() | ラブ&ピーナッツ (2010/09/16) 森沢 明夫 商品詳細を見る |
わたしの名前は佐倉すみれ。静岡の田舎から上京した32歳の独身女。ある日、わたしはDEEP SEAというバンドと衝撃的な出会いを果たし、彼らを育てるために勤めていた大手レコード会社を退社。そして、夢を追ってインディーズのレコード会社を立ち上げた。そう、今日からわたしは女社長。ところが、人生は甘くなかったのだ。仕事優先で放置気味だった恋人の亮からは突然の「バイバイ」メールがくるわ、人生をかけたバンドがライブ当日に会場に現れないわ…。これって、どういうこと!?仕事、恋愛、友情、父娘関係…すべてに必死。おもしろキャラ続出で、笑って泣ける“超爽快”ジェットコースター小説。
smileから名づけられたという主人公・佐倉すみれのキャラがまずいい。猪突猛進、というか、夢中になったらとことん突っ走り、デートに向かう途中に力尽きて路上で行き倒れ、眠ってしまうような32歳の女性である。それでいてやけに自信なさげな時もある。そして彼女を取り巻く友人や仕事仲間や彼も、それぞれ自分の世界を持っているようでみんないい。友人・凛子の占いや、父がメールで送ってくる格言にも助けられながら、すみれはすみれの道を行くのだ。やさしく元気な気持ちになれる一冊である。
あなたへ*森沢明夫
- 2014/07/23(水) 16:44:30
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富山の刑務所で作業技官として働く倉島英二。ある日、亡き妻から一通の手紙が届く。そこには遺骨を故郷の海に撤いてほしいと書かれており、長崎の郵便局留めでもう一通手紙があることを知る。手紙の受け取り期限は十二日間。妻の気持ちを知るため、自家製キャンピングカーで旅に出た倉島を待っていたのは。夫婦の愛と絆を綴った感涙の長編小説。
実直な倉島が、妻の遺言に従って、彼女の生まれ故郷に散骨のための旅をする。妻と旅するために買ったキャンピングカーで、妻の遺骨とともに。旅の途上で出会い、ひとときを共に過ごした人たち。妻の故郷で出会い恩を受けた人たち。その不思議なめぐりあわせは、運命を感じさせるものである。妻・洋子の生前の言葉「過去と他人は変えられなくても、未来と自分は変えられる」「人生に賞味期限はない」という言葉とともに、人生の出会いと生きる意味について考えさせられる一冊である。
あおぞらビール*森沢明夫
- 2013/12/19(木) 21:16:02
![]() | あおぞらビール (双葉文庫) (2012/07/12) 森沢 明夫 商品詳細を見る |
ボートで川下りをしたら滝に落ちそうになり、露天風呂で裸になったらアブの大群に襲われ、103歳のスーパーおばあちゃんと野宿し、電気クラゲの海に飛び込んで…。アウトドア遊びや貧乏旅で、ぼくと悪友たちが遭遇した抱腹絶倒の珍事件を綴る、青春エンタメエッセイ。
著者、10代~20代前半のことを語ったエッセイである。なかなかハードで愉しい青春時代を謳歌されていた様子が目に見えるようで、苦笑し、同情し、感動し、ため息をつき、そして何と言ってもお腹を抱える。ネタじゃないの?と思わせるようなエピソード満載なのである。それぞれに個性的な仲間たちとの交流も、見ていて清々しくあたたかい。何度も言っているが、小説家の書くエッセイはどちらかと言えば苦手なのだが、本作で初めて著者を知ったとしても、ぜひ小説を読んでみたいと思わせる魅力のある一冊である。
ミーコの宝箱*森沢明夫
- 2013/12/16(月) 19:58:05
![]() | ミーコの宝箱 (2013/09/19) 森沢 明夫 商品詳細を見る |
生まれてすぐに両親に捨てられ、祖父母に育てられたミーコの特技は、毎日、「小さな宝物」を見つけること―。孤独と不安のなかにも、一縷の希望を探し続けるミーコの半生を、祖父、同級生、教師、ボーイフレンド、そして愛する娘・幸子の視点で切り取った感涙のハートフル・ストーリー。
タイトルから想像する内容と表紙の写真とがミスマッチだなぁと、読む前には思っていたが、読んでみればそういうことだったのか、と納得する。哀しみや寂しさ、満たされなさが満ち満ちていて、そしてそれをどこかへ押しやるほどに愛が満ちている物語である。鬼のようだと思っていた祖母の愛、いつもその隣にいる祖父の愛、学校の友だちの数少ない愛、常連客の愛、そして愛娘・チーコにそそぐ無償の愛とチーコがミーコに抱く愛。哀しく寂しく切ないが、とてもしあわせであたたかい一冊である。
ヒカルの卵*森沢明夫
- 2013/10/30(水) 19:30:18
![]() | ヒカルの卵 (2013/10/10) 森沢 明夫 商品詳細を見る |
世界初?たまごかけご飯専門店にようこそ!「限界集落」に暮らす村人たちを、俺が元気にしてやんべ!養鶏農家でお人好しの二郎は「たまごかけご飯専門店」を開くと決意した。しかも、限界集落からさらに山奥に入った森のなかで。このあまりにも素っ頓狂な計画に、村人たちは大反対するが…。小さな山村に暮らす愉快な面々が繰り広げる、笑って泣ける物語。
ムーミンにそっくりで「ムーさん」と呼ばれている村田二郎が主人公であるが、物語中でもずっとムーさんと呼ばれているので、つい本名を忘れてしまう。ムーミンのような見た目どおり、一瞬で人を和ませるおおらかな性格の持ち主であり、「俺はツイてる」が口癖のいいやつなのである。そんなムーさんが、ひとりで考え抜き、あたためている村おこし計画が、ひょんなことから公になり、周囲に無謀と言われながらも次々と成功させ、村を元気にする、という物語であり、それだけでも充分感動に値するのだが、本作はそれだけではない。幼馴染たちや、村人たち、外から移住してきた陶芸家など、協力者たちのそれぞれの動きが粋で、それがまた堪らないのである。そしてなにより、村の人たちが、自分たちの生業である農業に誇りを持ち、少しでもおいしいものを食べてもらいたいという気概が伝わってくるのがいい。ゆらゆら揺れる吊り橋は苦手だが、卵かけご飯を食べに行きたくなる一冊である。ホタルも見たいし、帰りに百笑館で野菜を買い、ロールケーキも買って帰りたい。
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