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桜の咲かない季節*伊岡瞬
- 2014/05/20(火) 12:52:16
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インドで襲われ一年後に亡くなった父の『占い拠 七ノ瀬』を継いだ桜子は、客が喜ぶ占いをするのが苦手で、占い師として致命的。そんな桜子を心配して、表に裏にと駆けずり回るのが乾耕太郎だ。ふだんはしがないフリーカメラマンをしている。仕事がないときがよくあるのだが、そんなときは奔走しっぱなし。というのも桜子に気があるからだ。二人の前に立ちはだかる五つの謎を解いて、男を上げろ、耕太郎。
表題作のほか、「守りたかった男」 「翼のない天使」 「ミツオの帰還」 「水曜日の女難」
亡き父・天山の跡を継ぎ占い処を営んでいるが、不吉な予見が得意という、およそ流行そうもない占い師・桜子。父親同士が親しく、父亡きあとは数年天山の家に下宿していたこともある乾耕太郎。桜子の家の一室を仕事場として使わせてもらいながら、ときどき占い処の留守番もする耕太郎だが、天山が亡くなった原因は、自分にあると言ってもよく、いまだに桜子に対して責任を感じ続けている。そんなこともあって、桜子が巻き込まれる謎を解き明かそうと奔走する耕太郎なのである。そもそもの結びつきに影が差しているということを除けば、よくある設定であるが、幼馴染や近所の情報通のおばさんなどがいい味を出していて、古き良き町内会的雰囲気を醸し出しているのがいい感じでもある。この先二人はどうなっていくのか、ちょっと興味がある一冊である。
明日の雨は。*伊岡瞬
- 2014/05/05(月) 18:31:04
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「明日の雨は、明日にならなければ降らない」―親父の遺した言葉の意味は、今の俺には分からない。森島巧は公立小学校で音楽の臨時教師として働き始めた23歳だ。音楽家の親の影響で音大を卒業するも、流されるように教員の道に進んでしまう。腰掛け気分で働いていた森島だが、学校で起こる予想外のトラブルに巻き込まれていき…。「M」と教員の間で呼ばれる宮永敏美は連日学校にクレームを付けてくる。今年は新人教師・安西久野がターゲットにされたようだ。ある日、宮永と親しい大柴家でぼや騒ぎが起こる。翌日、宮永が学校に怒鳴り込んできて、ぼや騒ぎの犯人は安西だと断定するのだが…。曇りがちな心を晴れやかにする珠玉の青春ミステリー。
自分自身の身の処し方さえ覚束ない音大卒の23歳・森島巧が主人公である。公立小学校の臨時音楽教師という職をなんとなく得て、流されるままに腰掛け気分で勤め始めた。だがそこには、思ってもいなかったさまざまな――生徒の、保護者の、そして教師の――問題があり、どれも無責任に放っておけるものではなかった。巧は次第に学校の問題に真剣になっていき、生徒の問題にも真剣に向かい合うようになるのである。教師になり切っていないからこそできることもあったかもしれない。流されるままだった巧の成長譚でもあり、熱意を持って臨むことや自分に正直に生きることの大切さを身をもって示す物語でもある。これからますますノリにノッテくる巧の姿をもっと見たいと思わされる一冊である。
七月のクリスマスカード*伊岡瞬
- 2014/04/23(水) 17:09:19
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両親の離婚後、母と弟の3人で暮らす小学6年の杉原美緒。無理をしてきた母はアルコールに依存し、入退院を繰り返すようになってしまった。弟とともに母の従妹の薫に引き取られた美緒は、ますます内にこもっていく。そんな折、薫が経営する喫茶店の常連で元検事という初老の男と知り合いになる。美緒は徐々に心を開いていくのだが、彼は過去に娘を誘拐され、その事件は未だ解決されていないことを知る。数年後、成長した美緒は何かに背中を押されたかのように未解決の誘拐事件を探りはじめ、その裏に複雑な人間関係と驚愕の事実が隠されていたことを突き止める―。
小学六年生の少女にとってはあまりにも過酷な家庭環境にあって、美緒は心を閉ざし、周りと関わりを持とうとしなくなっている。母の従妹・薫の古くからの知人である永瀬は、愛娘・瑠璃を誘拐されるという痛ましい想いを抱えながら生きている。薫の店で出会った二人は、互いに何か感じるところがあったのか、次第に打ち解け、頼り頼られる存在になっていく。永瀬の娘の誘拐事件の顛末を間に挟み、時間はずいぶん飛ぶのだが、いくら時が経っても過去の事件が尾を引いており、永瀬の身にも次々と災いが降りかかるのがやるせない。美緒は瑠璃ちゃん事件を追いかけ、真相と思えるところまでたどり着くが、それと同時にいままで自分をがんじがらめにしていた家族の真実にも気づくのだった。だがどちらも、真実が判ったからと言って救われることがないのがあまりにも哀しい。この先の美緒の人生を応援したくなる一冊である。
145gの孤独*伊岡瞬
- 2014/04/06(日) 17:05:20
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プロ野球投手として活躍していた倉沢修介は、試合中の死球事故が原因で現役を引退した。その後、雑用専門の便利屋を始めた倉沢だが、その業務の一環として「付き添い屋」の仕事を立ち上げることになる。そんな倉沢のもとに、ひとりの人妻が訪れる。それは「今週の水曜、私の息子がサッカーの観戦をするので、それに付き添ってほしい」という依頼だった。不可思議な内容に首を傾げながらも、少年に付き添うことになる倉沢。その仕事が終わるや、またも彼女から「来週の水曜もお願いします」という電話が入る。不審に思った倉沢は…。情感豊かな筆致で綴りあげた、ハートウォーミング・ミステリ。第25回横溝正史ミステリ大賞受賞第一作。
プロ野球の試合中の事故で野球選手としてのエリートコースを外れ、便利屋をやっている倉沢に、屈託があることは初めから判っていたが、それが想像以上のものだと明らかになるのは、物語も終わりに近づいてからだった。倉沢の苦しみと、その姿を目の当たりにする周りの人たちの哀しみ、そして願い。少しずつ噛み合わず屈折していくそれぞれの想いがやるせない。そして、倉沢に仕事を斡旋してくれる戸部もまた、とんでもない覚悟を抱え込んでいたのだった。苦しく哀しい人たちの想いが凝縮しているような物語であるが、そんな中にも明日を生きる希望の光が差し込むのだと思わせてもくれる一冊である。
いつか、虹の向こうへ*伊岡瞬
- 2014/04/01(火) 07:14:13
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奇妙な同居生活を送っている元刑事の尾木と3人の居候。家出少女が彼らの家に転がり込んできたことをきっかけに、殺人事件に巻き込まれてしまうが……。第25回横溝正史ミステリ大賞&テレビ東京賞ダブル受賞作。
このタイトルでハードボイルドだとは思わなかった。正直、ハードボイルドは苦手分野である。本作もむごたらしい乱闘シーンがないわけではない。だが、ただそれだけで終わらない深いところまで沁みとおって傷を癒してくれるような熱がある。あまりに深い哀しみを奥深くに畳み込んだ人と人との、並々ならない繋がりがなんとも言えず切なく、そして嬉しい。絶対に捨てない芯を守っているかのような一冊である。
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