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境界線*中山七里

  • 2021/02/16(火) 09:38:27


2018年刊行の『護られなかった者たちへ』と同じく宮城県警捜査一課を舞台に、東日本大震災による行方不明者と個人情報ビジネスという復興の闇を照らし出していく。震災によって引かれてしまった“境界線”に翻弄される人々の行く末は、果たして。「どんでん返しの帝王」・中山七里が挑む、慟哭必至の骨太の社会派ヒューマンミステリー小説。


その場にいなかった者には、到底計り知れないダメージが、それを経験した人たちそれぞれに深く重く刻みつけられていることは想像できる。逆に言うと、想像することしかできない。だからこそ、本作で描かれている事々を、平時の常識に当てはめて考えることは難しい気がする。より深く昏い闇が、追われる者の心にも追う者の心にも沈んでいるのだろうと思われる。だからといって、犯罪を犯していいという理屈にはならないが、切なくやりきれない思いが拭いきれないのも確かである。永遠にすっきりすることはない気持ちなのだとは思う。それでも生きることの苦悩がにじみ出る一冊だった。

銀齢探偵社 静かおばあちゃんと要介護探偵2*中山七里

  • 2021/02/07(日) 16:44:35


元裁判官で80歳を超えた今も信望が厚い高遠寺静と、中部経済界の重鎮にして車椅子の〝暴走老人〟香月玄太郎の老老コンビが難事件を解決する、人気シリーズ第2弾。
今回は舞台を東京に移し、玄太郎ががんを患った状況下で5つの事件に挑む!
静のかつての同僚たちが、次々と謎の死を遂げた。事件の背後の「悪意」の正体とは?


なんだかんだ言って、名コンビである。静の人徳はもちろんのこと、暴走老人・玄太郎も、根っこのところにあるのは誠実なのが折々に見て取れるので、ため息をつきながらも、安心して(というのは言い過ぎかもしれないが)任せられるところが大きい。それにしても、退官してずいぶん時が経つのに、これほど恨み続けられるとは、判事という仕事の大変さを思い知らされる気がする。孫の円も登場して、『静かおばあちゃんにおまかせ』へと続く布石にもなっている。ラストの一行からすると、もう続編はないのだろうか。もっと二人の活躍を観たいシリーズである。

テロリストの家*中山七里

  • 2020/10/10(土) 07:37:03


国際テロを担当する警視庁公安部のエリート刑事・幣原は、イスラム国関連の極秘捜査から突然外された。間もなく、息子の秀樹がテロリストに志願したとして逮捕された。妻や娘からは仕事のために息子を売ったと疑われ、組織や世間には身内から犯罪者を出したと非難される。公安刑事として正義を貫くか、父としてかけがえのない家族を守るか、幣原の選択とは―。衝撃の社会派長編ミステリー!


警察官者に暮らす公安部のエリート刑事・幣原一家に起こった出来事の顛末である。テロリスト志願という衝撃的な題材ではあるが、テロリストの物語ではなく、家族の物語と言った方がいいだろう。刑事として生きるか、父親や夫として生きるかという究極の選択を迫られもし、その時々で揺れ動く幣原の胸の裡が切なく、迫ってくるものがある。家族もそれぞれが、ばらばらのようでいて互いを思いやっており、家族だからこそ起こった哀しい出来事でもあったのかもしれない。誰もが、自分で処理しきれない理不尽な悲しみや憤怒を、どこにぶつければいいのか思いあぐね、長年にわたって地下で溜まり続けたマグマがある日突然噴火とともに流れ出すように、胸の裡のものが噴出したような事件なのかもしれない。登場人物の誰もが哀しく切なくやりきれなさにまみれているが、幣原一家にも、ひとすじの救いはあるような気がする。なんともやりきれなくもどかしい一冊だった。

毒島刑事最後の事件*中山七里

  • 2020/09/23(水) 13:25:55


刑事・毒島は警視庁随一の検挙率を誇るが、出世には興味がない。一を話せば二十を返す饒舌で、仲間内でも煙たがられている。そんな異色の名刑事が、今日も巧みな心理戦で犯人を追い詰める。大手町の連続殺人、出版社の連続爆破、女性を狙った硫酸攻撃…。捜査の中で見え隠れする“教授”とは一体何者なのか?動機は怨恨か、享楽か?かつてない強敵との勝負の行方は―。どんでん返しの帝王が送る、ノンストップミステリ!


犯人としては、こんなに厭な取り調べはないだろうと、思わず同情してしまいたくなるくらい、ねちねちと執拗で、人間性の根底から否定してかかるような、ある種嫌がらせ全開の手法である。作戦というか、これはもう、毒島刑事の身の裡からにじみ出るものかもしれない。普段の一見した人当たりの良さとのギャップが、なおさら厭らしさを増幅しそうである。だが、その思いは、終始一貫していて、ぶれることがないので、読者としては、犯人がどんなふうに落ちていくかを手に汗握りながら見守ればいいが、上司の麻生は、いつも冷や汗ものであろうことは想像に難くない。自分が犯人にならない限り、格好いい毒島刑事なのである。読み応えのある一冊だった。

ヒポクラテスの試練*中山七里

  • 2020/09/06(日) 16:08:32


偏屈だが解剖の腕は超一流の光崎藤次郎教授が率いる浦和医大法医学教室に、城都大附属病院の内科医・南条がやって来た。前日に搬送され急死した前都議会議員・権藤の死に疑問があるという。肝臓がんが死因とみられたが、九カ月前に受けた健康診断では問題がなかった。捜査に駆り出された埼玉県警の古手川は、権藤の甥が事故米を使って毒殺を目論んだ証拠を掴む。しかし、光崎が司法解剖から導き出した答えは恐るべき感染症だった!直後、権藤の周囲で新たな不審死が判明。感染源特定に挑む新米助教・栂野真琴が辿り着いた驚愕の真実とは―!?


原因も状況も違うが、まさにいま読むために書かれたようなストーリーである。良いのか悪いのかは別にして、エキノコックス感染症でパンデミックになった時の状況が想像しやすい。パンデミックを封じるために動く光崎教授と研究室のメンバーの必死さ。それに比べて、感染元を疑われる都議会の面々の歯切れの悪さ。アメリカにまで渡った調査の過程で目にし、耳にした事々の醜悪さ。人間の弱さ醜さ、自己保身、プライド、などなどあまりにも多くの要素が絡み合った結果の、悶絶死なのである。思わず目を覆いたくなる。読後感は決して良くはないが、人の命を救うことにかける情熱がぐいぐいと伝わってくる一冊ではある。

カインの傲慢*中山七里

  • 2020/08/23(日) 16:02:52


違法な臓器売買の検挙は、形を変えた殺人だ―。練馬区の公園で、少年の死体が発見された。調査の結果、少年は中国人だと判明。しかも死体からは臓器が持ち去られていた。捜査一課の犬養隼人は、後輩の高千穂明日香と共に捜査に乗り出す。少年の生家は最貧層の家庭だった。日中の養子縁組を仲介する不審な団体の存在も明らかに…。その頃、都内では相次いで第2、第3の死体が見つかる。やはり被害者たちは貧困家庭の少年で―。背後に見え隠れする巨大な陰謀。それに立ち向かう犬養たちの執念と葛藤。驚愕のラストが待つ、医療と社会の闇にも迫った警察ミステリ。


犬養刑事シリーズ最新作。臓器が取り出され、荒く縫合された少年の遺体が連続して見つかるという、痛ましい事件である。事件の実行犯を逮捕すればそれでめでたしめでたし、とはいかない事件でもある。現実に目の前で起こったことの裏にあるのは、あまりにも巨大な組織であり、ネットワークであり、さらに言えば、ごく個人的な気持ちでもある。犬養も、けいじとしての立場と、病児を持つ親としての気持ちのはざまで、どれほど葛藤し、心を揺さぶられただろうか、と思うと、他人事ながら胸を締めつけられる。真実を暴くことが、誰かの命を絶つことになるという究極の選択は、人に迫られるべきものだろうか。読み終えた後でもなお、心が揺れ続ける一冊である。

夜がどれほど暗くても*中山七里

  • 2020/07/09(木) 18:34:18


人間の不幸に底はないのか?水に落ちた犬は叩かれ続けるのか?息子の殺人疑惑で崩れ去った幸せ―。スキャンダルとネットの噂に奪われた家族。だが男は諦めなかった―。


息子が殺人を犯し、しかもその場で命を絶ったと、警察から知らされた、大手出版社の雑誌の副編集長・志賀の目線で描かれた物語である。息子・健輔は、大学のゼミの教授の家に押しかけ、教授とその夫を殺したあげく自殺したという。仕事にかまけて、ひとり息子と向き合わずに来た志賀は、健輔のことを何も知らないことに愕然とする。妻の鞠子との関係も壊れ、その後の志賀がどう行動するのか興味深かったが、まず不思議に思ったのは、健輔の犯行を思いのほかあっさりと認めてしまったように見えることである。いくら最近の彼のことを知らないとはいえ、そこまでの状況に陥った理由を突き詰め、息子の無実の可能性を探ろうとしなかったのが、いささか腑に落ちないところではある。そこを於けば、犯罪加害者家族に向けられる世間のバッシングや、ひとり残された被害者の中学生の娘のその後など、興味深く惹きつけられる要素は多かった。最終的にはよかったと言えるのかもしれないが、失った命が帰らない限り、後味の悪さは残る一冊ではある。

合唱 岬洋介の帰還*中山七里

  • 2020/06/20(土) 19:06:26


幼稚園で幼児らを惨殺した直後、自らに覚醒剤を注射した“平成最悪の凶悪犯”仙街不比等。彼の担当検事になった天生は、刑法第39条によって仙街に無罪判決が下ることを恐れ、検事調べで仙街の殺意が立証できないかと苦慮する。しかし、取り調べ中に突如意識を失ってしまい、目を覚ましたとき、目の前には仙街の銃殺死体があった。指紋や硝煙反応が検出され、身に覚えのない殺害容疑で逮捕されてしまう天生。そんな彼を救うため、あの男が帰還する―!!


誰が主人公になってもおかしくないようなキャスティングであり、実際に、読み始めてしばらくは、主役と思しき人物が何度か入れ替わるような展開になっている。さらに言えば、主題も、これかと思えば覆され、そう来たかと思わせておいて、さらに違う展開に持ち込まれるという、嬉しい裏切りが満載である。なにより、岬洋介が突然帰国したにもかかわらず、レコーダーに吹き込まれたたった一音しかピアノが出てこないのである。そして、そんなことさえ忘れさせられるほど、彼の活躍に目を惹かれ、惹きこまれるのである。御子柴も(普段とはいささか別の意味で)いい仕事をしてい、好感度アップである。贅沢な一冊である。

帝都地下迷宮*中山七里

  • 2020/06/16(火) 07:37:10


鉄道マニアの公務員、小日向はある日、趣味が高じて、廃駅となっている地下鉄銀座線萬世橋駅へと潜り込む。そこで思いがけず出会ったのは、地下空間で暮らす謎の集団。身柄を拘束された小日向に、彼らは政府の「ある事情」により、地下で生活していると明かす。その地下空間で起こる殺人事件。彼らを互いにマークする捜査一課と公安の対立も絡み、小日向は事件に巻き込まれていく。


突拍子もない設定ではあるが、政府の隠ぺい体質、事なかれ主義、身内第一主義等を考えると、ちょっぴり背筋が寒くなるところでもある。きわめてシリアスな舞台の中に、廃駅オタクの区役所職員が偶然紛れ込んだことで、一見穏やかだった水面にさざ波が立ち、次第に波紋が広がるように、物語がうごいていくのである。警察側の動きには、あまりスポットが当てられていないので、切迫感、緊迫感がやや薄れた感があり、だからこそ、サクサク読める印象でもある。さまざまな問題を考えさせられる一冊でもあった。

騒がしい楽園*中山七里

  • 2020/03/17(火) 19:37:07


見えない魔の手から子どもたちを守ることができるのか?埼玉県の片田舎から都内の幼稚園に赴任してきた幼稚園教諭・神尾舞子。待機児童問題、騒音クレーマー、親同士の確執…様々な問題を抱える中、幼稚園の生き物が何者かに殺される事件が立て続けに発生する。やがて事態は最悪の方向へ―。12ヶ月連続刊行企画第1弾!


都内の幼稚園が舞台。モンスターペアレントはここにもいるし、田舎の幼稚園よりも周辺住民からの風当たりは強い。母親同士の上下関係や、子ども同士の関係性の微妙さ、加えて待機児童問題など、配慮しなければならないことは様々あるが、それどころではない忌まわしい問題が起こるのである。警察はなかなか本腰を入れてくれないように見えるが、事態はどんどんエスカレートし、とうとう園児にまで被害が及ぶ。ここで警察もやっと本格的に捜査を始める。園長の事なかれ主義に憤り、園外の出来事にどこまで責任を負えばいいのかに悩み、子どもたちの受けるショックに胸が痛み、大人の身勝手に怒りを覚える。何より真犯人の自分のことしか考えない幼さに愕然とさせられる。いろんな感情が渦巻く一冊だった。

人面瘡探偵*中山七里

  • 2020/01/17(金) 07:45:28



相続鑑定士の三津木六兵の右肩には、人面瘡が寄生している。六兵は頭脳明晰な彼を“ジンさん”と名付け、何でも相談して生きてきた。信州随一の山林王である本城家の当主が亡くなり、六兵は遺産鑑定のため現地に派遣される。二束三文だと思われていた山林に価値があると判明した途端、色めき立つ一族。まもなく長男が蔵で、次男が水車小屋で、と相続人が次々に不審死を遂げていく。これは遺産の総取りを目論む者の犯行なのか?ジンさんの指示を受けながら事件を追う六兵がたどり着いたのは、本城家の忌まわしい歴史と因習深い土地の秘密だった。限界集落を舞台に人間の欲と家族の闇をあぶり出す圧巻のミステリー。


設定はとんでもないが、面白い探偵コンビである。物語のテイストは、まさに横溝ワールドといったもので、都会の常識が全く当てはまらない時代錯誤的な因習が大手を振っている地域で起こった、一族の忌まわしい関係性にまつわる事件である。本作は、いわば探偵コンビの自己紹介的な印象で、次作以降本格的に面白さが増していくのではないかと察せられる。愉しみなシリーズになりそうな一冊である。

死にゆく者の祈り*中山七里

  • 2019/11/30(土) 19:11:32



囚人に仏道を説く教誨師の顕真。ある日、拘置所で一人の死刑囚が目に留まる。それは、大学時代に顕真を雪山の遭難事故から救った、無二の親友・関根だった。人格者として知られていた友は、なぜ見ず知らずのカップルを殺めたのか。裁判記録に浮かび上がる不可解な証言をもとに、担当刑事と遺族に聞き込みをはじめた顕真。一方、友として、教誨師として、自分にできることとは何か。答えの見出せぬまま、再び関根と対峙することとなる。想像を絶する、事件の真相とは。そして、死刑執行直前、顕真が下した決断は―。人間の「業」を徹底的に描く、渾身のミステリ長編!


重い題材の物語である。と同時に、熱い思いの物語でもある。教誨師として、僧侶として、友人として、そして一人の人間として、顕真の衝動と行動は、時として規範を外れてはいても、人の道は踏み外していないと思う。かつて命を助けられた友人の、まさに命の瀬戸際で、その真実を明らかにできたことは、奇跡と言っても言い過ぎではないが、さまざまなめぐりあわせと、顕真の熱意によって成し得たことであるのは間違いない。いろいろ考えさせられる一冊だった。

笑え、シャイロック*中山七里

  • 2019/07/12(金) 16:42:13

笑え、シャイロック (角川書店単行本)
KADOKAWA (2019-05-31)
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帝都第一銀行に入行し、都内の大型店舗に配属が決まった結城。そこはリーマン・ショック後に焦げついた債権の取り立て部署、上司となるのは伝説の債権回収マンとして悪名高い山賀だった。百戦錬磨の山賀の背中を見ながら、地上げ屋、新興宗教、ベンチャー企業など、回収不可能とされた案件に次々と着手せざるを得ない結城。そんなある日、山賀が刺殺体で見つかる。どうやら帝都第一銀行の闇を山賀が握っていたようなのだ―。“どんでん返しの帝王”が放つ、ノンストップ・金融ミステリー!


はらはらどきどきしながら最後はすっと胸がすくストーリーである。債権回収マンの結城がどんな手を打ち出してくるかに、とても興味を惹かれ、毎回それがとんでもないものなので、債務者の度肝を抜きつつ共感も呼んでうまくいってしまうという、お定まりのような展開ではあるものの、それがかえって心地よくもある。ただ、残念なのは、元祖シャイロックの山賀が、早い段階で消えてしまったことである。彼の元祖たるゆえんをもっとじっくり味わいたかった。とはいえ、過酷で非情ながら、万事うまくいってしまう展開を愉しめる一冊である。

魔女は甦る*中山七里

  • 2019/05/20(月) 16:41:55

魔女は甦る
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中山 七里
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埼玉県の長閑な田園地帯で、肉片と骨の屑のようなバラバラ死体が発見された。被害者は現場近くにある製薬会社・スタンバーグ製薬に勤めていた桐生隆。仕事ぶりも勤勉で質素な暮らしを送っていた青年は、なぜ殺されなければならなかったのか?埼玉県警捜査一課・槙畑啓介は捜査を続ける過程で、桐生が開発研究に携わっていた“ヒート”と呼ばれる薬物の存在を知る。それは数ヶ月前、少年達が次々に凶悪事件を起こす原因となった麻薬だった。事件の真相に迫るほど、押し隠してきた槙畑の心の傷がえぐり出されていく。過去の忌まわしい記憶を克服し、槙畑は桐生を葬った犯人に辿り着けるのか。


『ヒートアップ』を先に読んでしまったが、それでも充分に恐ろしさに戦慄させられた。国は、都合の悪いことはすべて隠そうとするが、現実にも知らされていないだけで、本当は恐ろしいことがすぐそこに迫っているように思えてきて、心底震える。極近い関係者しか知らない恐怖が、ほかにも多数ありそうで疑心暗鬼に駆られる。本作の事案の場合は、良心とかつての悔恨を原動力に、戦ってくれる警察官の存在で、爆発的に恐怖が広がる危険はいったんは回避されたが続く物語のことを思えば、決して穏やかではいられない。現実社会では、科学者の良心を切に願うのみである。息ができなくなる心地の一冊だった。

ヒートアップ*中山七里

  • 2019/05/15(水) 16:53:05

ヒートアップ
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中山 七里
幻冬舎
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七尾究一郎は、厚生労働省医薬食品局の麻薬対策課に所属する麻薬取締官。警視庁のみならず関東一円の捜査員の中で有名な存在だ。その理由は、おとり捜査を許された存在であることの他に、彼の特異体質が一役買っている。現在は、渋谷など繁華街の若者の間で人気の違法薬物"ヒート"の捜査に身を投じている。"ヒート"は、ドイツの製薬会社スタンバーグ社が局地戦用に開発した兵士のために向精神薬で、人間の破壊衝動と攻撃本能を呼び起こし、兵器に変えてしまう悪魔のクスリ。それによって、繁華街の若者チームの抗争が激化しており、数ヶ月前敬愛する同志・宮條が殉職した。絶望と怒りを胸に捜査を進める七尾に、ある日、広域指定暴力団の山崎から接触があった。目的は、ヒート売人・仙道の捜索について、手を組まないかというものだった。山崎の裏の狙いに気を付けながら、仙道確保のため情報を交換し共闘することを約束した七尾だったが、ある日仙道が殺される。そして、死体の側に転がっていた鉄パイプからは、七尾の指紋が検出された……。犯行時刻のアリバイがなく、特異体質のせいでヒート横領の動機があると見なされ拘留された七尾。これは山崎の仕掛けた罠なのか! ?


どうやら『魔女は甦る』の続編のようである。うっかりこちらを先に読んでしまった。何やら現実に起こりそうな事案であり、戦々恐々としながら読み進んだ。特異体質を持つ麻薬取締官・七尾と、反社会的団体のNo3・山崎が大同の元小異を捨てて、今回限りの共闘を組んだ。二人のキャラクタや駆け引きが興味深い。ヒートを撲滅し、売人を逮捕するという単純なストーリーではなく、事はもっと大きな枠組みの中で起こっているのだった。後半は、これでもかというほど凄惨なアクションシーンが続き、さらに、日本が舞台だとはにわかに信じられないような展開になる。この辺りはもう想像の域をかなり超えてくる。だが、現在の世の中を見ると、絶対にありえないとは言えないところが空恐ろしいところでもある。読むのに覚悟がいる一冊である。