FC2ブログ

魔女は甦る*中山七里

  • 2019/05/20(月) 16:41:55

魔女は甦る
魔女は甦る
posted with amazlet at 19.05.20
中山 七里
幻冬舎
売り上げランキング: 872,696

埼玉県の長閑な田園地帯で、肉片と骨の屑のようなバラバラ死体が発見された。被害者は現場近くにある製薬会社・スタンバーグ製薬に勤めていた桐生隆。仕事ぶりも勤勉で質素な暮らしを送っていた青年は、なぜ殺されなければならなかったのか?埼玉県警捜査一課・槙畑啓介は捜査を続ける過程で、桐生が開発研究に携わっていた“ヒート”と呼ばれる薬物の存在を知る。それは数ヶ月前、少年達が次々に凶悪事件を起こす原因となった麻薬だった。事件の真相に迫るほど、押し隠してきた槙畑の心の傷がえぐり出されていく。過去の忌まわしい記憶を克服し、槙畑は桐生を葬った犯人に辿り着けるのか。


『ヒートアップ』を先に読んでしまったが、それでも充分に恐ろしさに戦慄させられた。国は、都合の悪いことはすべて隠そうとするが、現実にも知らされていないだけで、本当は恐ろしいことがすぐそこに迫っているように思えてきて、心底震える。極近い関係者しか知らない恐怖が、ほかにも多数ありそうで疑心暗鬼に駆られる。本作の事案の場合は、良心とかつての悔恨を原動力に、戦ってくれる警察官の存在で、爆発的に恐怖が広がる危険はいったんは回避されたが続く物語のことを思えば、決して穏やかではいられない。現実社会では、科学者の良心を切に願うのみである。息ができなくなる心地の一冊だった。

ヒートアップ*中山七里

  • 2019/05/15(水) 16:53:05

ヒートアップ
ヒートアップ
posted with amazlet at 19.05.15
中山 七里
幻冬舎
売り上げランキング: 889,004

七尾究一郎は、厚生労働省医薬食品局の麻薬対策課に所属する麻薬取締官。警視庁のみならず関東一円の捜査員の中で有名な存在だ。その理由は、おとり捜査を許された存在であることの他に、彼の特異体質が一役買っている。現在は、渋谷など繁華街の若者の間で人気の違法薬物"ヒート"の捜査に身を投じている。"ヒート"は、ドイツの製薬会社スタンバーグ社が局地戦用に開発した兵士のために向精神薬で、人間の破壊衝動と攻撃本能を呼び起こし、兵器に変えてしまう悪魔のクスリ。それによって、繁華街の若者チームの抗争が激化しており、数ヶ月前敬愛する同志・宮條が殉職した。絶望と怒りを胸に捜査を進める七尾に、ある日、広域指定暴力団の山崎から接触があった。目的は、ヒート売人・仙道の捜索について、手を組まないかというものだった。山崎の裏の狙いに気を付けながら、仙道確保のため情報を交換し共闘することを約束した七尾だったが、ある日仙道が殺される。そして、死体の側に転がっていた鉄パイプからは、七尾の指紋が検出された……。犯行時刻のアリバイがなく、特異体質のせいでヒート横領の動機があると見なされ拘留された七尾。これは山崎の仕掛けた罠なのか! ?


どうやら『魔女は甦る』の続編のようである。うっかりこちらを先に読んでしまった。何やら現実に起こりそうな事案であり、戦々恐々としながら読み進んだ。特異体質を持つ麻薬取締官・七尾と、反社会的団体のNo3・山崎が大同の元小異を捨てて、今回限りの共闘を組んだ。二人のキャラクタや駆け引きが興味深い。ヒートを撲滅し、売人を逮捕するという単純なストーリーではなく、事はもっと大きな枠組みの中で起こっているのだった。後半は、これでもかというほど凄惨なアクションシーンが続き、さらに、日本が舞台だとはにわかに信じられないような展開になる。この辺りはもう想像の域をかなり超えてくる。だが、現在の世の中を見ると、絶対にありえないとは言えないところが空恐ろしいところでもある。読むのに覚悟がいる一冊である。

もういちどベートーヴェン*中山七里

  • 2019/05/06(月) 16:45:21

もういちどベートーヴェン
中山 七里
宝島社
売り上げランキング: 46,412

ピアニストの道を挫折した高校生の岬は、司法試験をトップの成績で合格して司法修習生となった。
彼は、ベートーヴェンを深く愛する検事志望の同期生・天生高春と出会う。
天生は岬の才能に羨望を抱き嫉妬しつつも、その魅力に引き込まれていき……。
いっぽう、世間では絵本画家の妻が絵本作家の夫を殺害したとして、
妻を殺害容疑で逮捕したというニュースをはじめ、3件の殺人事件を取り上げる――。
それぞれの物語の全貌が明らかになったとき、「どんでん返しの帝王」中山七里のトリックに感嘆する!


司法修習生の岬洋介も、その容姿と頭脳とで周囲を圧倒している。だが、褒められても喜ぶどころか嫌がっているようにすら見える。普通なら嫌味なことこの上ないのだが、どういうわけか、彼は嫌われることもなく、誰からも認められ、ついつい目をやってしまう存在になるのである。狙っているわけではなく、いわゆる天然とでも言おうか、興味の対象が人とは全く異なるゆえの反応のずれのようなものかもしれない。司法修習生の身でありながら、事件の証拠に関して目のつけ所が他とはまるで違い、他人が見落としている些細な一点に、ひたすらこだわり、結果として、解決へと導くきっかけを作ったりするのである。しかも、同じグループの天生(あもう)によって覚醒させられた音楽の才能にも恵まれすぎ、他人から見れば、これ以上何を望むのだ、と思うような人物なのだが、本人はいたって飄々としていて、本心が見えてこないので、周りを戸惑わせるばかりである。なんとも不思議で魅力的な人物である。謎解き要素よりは、岬洋介の魅力を伝える部分が色濃いが、謎解きでは、思わぬどんでん返しもあり、いろんな意味で愉しませてくれる一冊である。

静かおばあちゃんと要介護探偵*中山七里

  • 2019/03/09(土) 16:35:54

静おばあちゃんと要介護探偵
中山 七里
文藝春秋
売り上げランキング: 213,320

大学でオブジェが爆発し、中から遺体を発見。詐欺師を懲らしめるため2人は立ち上がった。
父が認知症で悩む男性の相談に乗ったら…。同級生が密室で死亡。事故か、他殺か、自殺か。
高層ビルから鉄骨が落下、外国人労働者が被害に。
『さよならドビュッシー』でおなじみ、玄太郎おじいちゃん登場。介護、投資詐欺、外国人労働者…難事件を老老コンビがズバッと解決!日本で20番目の女性裁判官で、80歳となった今も信望が厚い高遠寺静。お上や権威が大嫌いな中部経済界の怪物、香月玄太郎。2人が挑む5つの事件。


一風変わった探偵コンビの誕生である。方や、下半身不随で、車椅子が必須にもかかわらず、アクが強くて上から目線であちこちに口出しするが、自分のなかには確固たる信念を持つ中部経済界のドン・香月玄太郎。方や、優秀な女性判事として名を馳せ、80歳になったいまも、望まれて講演やら大学の非常勤講師やらを務める、正義の人・高遠寺静。なんとも相性の悪そうな二人であり、実際、静はできることなら付き合いたくないと思っているのだが、どうしたわけか、玄太郎に見込まれてしまい、二人で探偵まがいのことをする羽目になったのである。だがこれが面白い。無理難題とわかって吹っ掛ける玄太郎と、それを戒めながらも事件の解明に興味を持って向かう静が、ちょうどいいバランスで成り立っているように見える。これからもこのコンビの活躍を観たいと思わされる一冊である。

ふたたび嗤う淑女*中山七里

  • 2019/02/23(土) 16:36:25

ふたたび嗤う淑女
ふたたび嗤う淑女
posted with amazlet at 19.02.23
中山 七里
実業之日本社
売り上げランキング: 29,352

金と欲望にまみれた“標的”の運命を残酷に弄ぶダークヒロイン、降臨。

類い稀な話術で唆し、餌食となった者の人生を狂わせる――
「蒲生美智留」が世間を震撼させた凶悪事件から三年。
「野々宮恭子」と名乗る美貌の投資アドバイザーが現れた。
国会議員・柳井耕一郎の資金団体で事務局長を務める藤沢優美は、
恭子の指南を受け、資金の不正運用に手を染めるが……

どんでん返しの帝王が放つ衝撃の連鎖! 史上最恐、完全無欠の悪女ミステリー!


各章の前半は、その章の主人公にとって誠に魅力的な提案によって事が進んでいく。何もかもが、野々宮恭子の言うとおりにしていればうまくいきそうに思えてくる。だが、抜き差しならない状況まで進むと、事態は一変し、そこに至ってやっと自分が陥れられたのだということに気づき、しかも、ほぼ同時に人生さえ強制終了させられてしまうのである。まったくもって恐ろしい女である。さらに最後の最後に、また不敵に嗤われるのだからたまったものではない。「みたび嗤う淑女」もありそうだと思わされる一冊である。

TAS特別師弟捜査員*中山七里

  • 2018/11/06(火) 13:43:47

TAS 特別師弟捜査員 (単行本)
中山 七里
集英社
売り上げランキング: 205,470

「ねえ。慎也くん、放課後ヒマだったりする?」楓から突然声をかけられた慎也は驚いた。楓は学園のアイドルで、自分とは何の接点もないからだ。用件を言わず立ち去る楓を不審に思いながらも、声をかけられたことで慎也の胸は高鳴っていた。彼女が校舎の3階から転落死するまでは―。学校は騒然となり、さらに楓が麻薬常習者だったという噂が流れる。警察の聞き取り調査が始まった。そこに現れたのは、慎也の従兄弟で刑事の公彦。公彦は、転落死の真相を探るため、教育実習生として学園に潜入することを決める。一方の慎也も、楓が所属していた演劇部に入部し、楓の周辺人物に接触を図る。なぜ楓は、慎也を呼び出したのか―。慎也と公彦は、真相解明に挑む。“どんでん返しの帝王”が新たに仕掛けるバディ×学園ミステリ!


設定には、小説ならではの部分もあるが、興味をそそられるストーリーである。舞台は学園、同級生たちには内緒の潜入捜査、従兄弟の刑事も教育実習生として潜入。そして、演劇部に情熱をかける仲間たち。きゅんとくる要素が盛りだくさんである。だが、生徒の、しかも演劇部員の不審な死が二件も続いているのである。誰が、どんな理由で。いやでも展開が気になって先を急ぎたくなる。しかも、捜査の進捗状況だけではなく、合間には、演劇部の存続をかけた熱いやり取りがぎっしり詰め込まれているのだからなおさらである。明らかになった真実は、いかにもありそうと言えばそうなのだが、溜まりたまったものが、瞬時に爆発するような凶暴な衝動によって、人はあっけなく一線を越えてしまうのかもしれないという驚愕に、身が凍る心地にもなる。慎也・公彦コンビの活躍をまた見てみたいとは思うが、この先の生徒たちことが思わず心配になってしまう一冊でもある。

能面検事*中山七里

  • 2018/10/28(日) 07:24:20

能面検事
能面検事
posted with amazlet at 18.10.27
中山七里
光文社
売り上げランキング: 187,695

巷を騒がす西成ストーカー殺人事件を担当している、大阪地検一級検事の不破俊太郎と新米検察事務官の惣領美晴。どんな圧力にも流されず、一ミリも表情筋を動かすことのない不破は、陰で能面と呼ばれている。自らの流儀に則って調べを進めるなかで、容疑者のアリバイは証明され、さらには捜査資料の一部が紛失していることが発覚。やがて事態は大阪府警全体を揺るがす一大スキャンダルへと発展し―警察内から裏切りと揶揄される不破の運命は、そしてストーカー事件の思いもよらぬ真相とは―大阪地検一級検事・不破俊太郎。孤立上等、抜き身の刀、完全無欠の司法マシンが、大阪府警の暗部を暴く!


表情筋を1㎜も動かさず、感情の動きが全く読めない検事・不破と、彼につく検察事務官・美晴の物語である。被疑者に対するときだけではなく、誰に対してもいつでも感情表出がないので、周りにもよく思われず敵も多い不破であるが、これはあくまでも自分流の手法であり、変える気は毛頭ないようなので、一日中一緒に過ごす美晴にとってもやりにくいことこの上ない。だが、その捜査をつぶさに見ているうちに、美晴にも少しずつ彼の行動様式が理解できるようになってくる。権威にも与しない不破には、所内に隠れファンもいるようなので、ちょっぴり安心する。いささか極端に過ぎるとは思うが、個人的には不破を応援したくなる。もっと不破の捜査を見てみたいとも思わされる一冊である。シリーズ化されると嬉しいのだが。

中山七転八倒*中山七里

  • 2018/10/16(火) 18:14:24

中山七転八倒 (幻冬舎文庫)
中山 七里
幻冬舎 (2018-08-03)
売り上げランキング: 70,610

雑誌連載が10本に減り大いに危機感を抱き、プロットが浮かばずブランデーをがぶ飲み。原稿の締め切り直前、設定していたトリックが使えないことが判明。栄養ドリンクの三種混合を一気飲みし、徹夜で考え抜く――。どんでん返しの帝王がプロットの立て方や原稿の進め方、編集者とのやりとりを赤裸々に告白。本音炸裂、非難囂々の爆笑エッセイ!


エッセイというか、2016年と2017年の日記そのものの体裁である。それだけで605ページも読ませるのだから、さすがと言ってもいいだろう。ずいぶん希釈されていたり、伏字になていたりするものの、作家と編集者の内幕がかなりシビアに暴露されていて、読者ののぞき見趣味も満足させてくれる。とはいえ、個人的には、作家の各エッセイに好みに合わないものが多いので、途中からは、いささかお腹いっぱいの感は否めなかった。しかも、図書館ユーザーで、愚にもつかない感想をアップしている身。針の筵感も半端ないのである。事情はとてもよく理解できるが、こちらにも事情があるのよ、とちょっと言ってみたくなる一冊でもあった。

連続殺人鬼 カエル男ふたたび*中山七里

  • 2018/09/11(火) 16:54:58

連続殺人鬼カエル男ふたたび
中山 七里
宝島社
売り上げランキング: 23,440

口にフックをかけられてマンションの13階から吊るされた全裸死体と、
子どもが書いたような稚拙な文章での犯行声明――。
埼玉県飯能市を震撼させた“カエル男連続猟奇殺人事件"から10ヵ月、
事件を担当した精神科医、御前崎教授の自宅が爆破され、家からは粉砕・
炭化した死体が出てきた。そしてあの稚拙な犯行声明が見つかる。
カエル男・当真勝雄の報復に、協力要請がかかった渡瀬&古手川コンビは現場に向かう。
さらに医療刑務所から勝雄の保護司だった有働さゆりもアクションを起こし……。
破裂・溶解・粉砕。ふたたび起こる悪夢に、二転三転する怒濤の展開と激震のラストが待ち受ける!


筆舌に尽くしがたい凄惨な事件現場の描写が多々あって、気分が沈むが、だからといってページを閉じようとは思わせないのが著者である。刑法第39条の存在ゆえにその罪を逃れる者がいる一方、医療刑務所の手薄さなどの理由もあって、早々と外に出されることにより、新たな被害者を生むこともあり得る。前作で決着がついたと思われたカエル男事件だったが、ここにきて新たな被害者が現れ、今度の標的は「サ」から始まる。しかも、範囲が首都圏全域に及び、一般市民たちを恐怖に陥れるのである。誰の筋書きなのか、どこまで続くのか。渡瀬・古手川コンビが今回も捜査にどっぷりつかることになる。まったくもって救いのない物語である。そしてさらに背筋を凍らせるのは、医療刑務所から脱走したあの人物がまた新たな事件を起こし、野に放たれたままだということである。この後どんな展開が待っているのか、想像するのもおぞましいが、物語はここで本当に終わりなのだろうか。うまく呼吸ができなくなるような一冊である。

連続殺人鬼 カエル男*中山七里

  • 2018/06/09(土) 07:44:08

連続殺人鬼 カエル男 (宝島社文庫)
中山 七里
宝島社 (2011-02-04)
売り上げランキング: 2,240

口にフックをかけられ、マンションの13階からぶら下げられた女性の全裸死体。傍らには子供が書いたような稚拙な犯行声明文。街を恐怖と混乱の渦に陥れる殺人鬼「カエル男」による最初の犯行だった。警察の捜査が進展しないなか、第二、第三と殺人事件が発生し、街中はパニックに…。無秩序に猟奇的な殺人を続けるカエル男の目的とは?正体とは?警察は犯人をとめることができるのか。


あまりにも凄惨な場面が多そうなので、ずっと敬遠していたのだが、続編が出たのをきっかけに、やはり手に取らずにはいられなくなってしまった。危惧した通りの凄惨さで、読み進めるのがつらくなることもあったが、真犯人に対する興味がそれを上回り、途中からはページを繰る手が止まらなくなった。遅々として進まない操作の果てに、やっと一筋の光が見えたと思えば、あっさりと裏切られ、さらにそれも裏切られ、とんでもないところまで行きついたころには、残りページはわずかで、このまま終わってしまうのかと不安にさせられた挙句のあのラストである。これは続編を楽しみにせざるを得ない。絶対にあってほしくない犯罪ではあるが、興味深い一冊だった。

悪徳の輪舞曲*中山七里

  • 2018/04/27(金) 09:36:10

悪徳の輪舞曲
悪徳の輪舞曲
posted with amazlet at 18.04.27
中山 七里
講談社
売り上げランキング: 23,018

14歳で殺人を犯した悪辣弁護士・御子柴礼司を妹・梓が30年ぶりに訪れ、母・郁美の弁護を依頼する。郁美は、再婚した夫を自殺に見せかけて殺害した容疑で逮捕されたという。接見した御子柴に対し、郁美は容疑を否認。名を変え、過去を捨てた御子柴は、肉親とどう向き合うのか、そして母も殺人者なのか?


御子柴礼二シリーズ四作目である。依頼に訪れたのは、なんと三十年ぶりに会う実の妹・梓だった。再婚した夫殺しの容疑で拘留されている母の弁護の依頼だった。かつて「死体配達人」と呼ばれた御子柴が、実の家族の弁護を通して、人間らしい心を取り戻すかどうかが大きな見どころである。すっかり家族とは決別し、一片の迷いもないと考えていた御子柴自身が、時に受ける衝撃と動揺、それに続く葛藤と戸惑い、さらには自制と抑圧の感情に読者も飲み込まれていく。家族に対する愛情を取り戻したかと問われれば、即座に否と言えるが、全くの他人の場合と寸分の違いもなかったかと言われれば、それもまた否であろう。揺れる部分が残っていることに、ほっとするところもあり、ここまで来たら悪辣を貫いてほしいという勝手な希望もあり、こちらの心も揺れるのである。これからの御子柴礼二がますます愉しみになる一冊である。

逃亡刑事*中山七里

  • 2017/12/28(木) 07:48:27

逃亡刑事
逃亡刑事
posted with amazlet at 17.12.27
中山 七里
PHP研究所
売り上げランキング: 40,112

千葉県警の警察官が殺された。捜査にあたるのは、県警捜査一課で検挙率トップの班を率いる警部・高頭冴子。陰で〈アマゾネス〉と呼ばれる彼女は、事件の目撃者である八歳の少年・御堂猛から話を聞くことに。そこで猛が犯人だと示したのは、意外な人物だった……。
思わぬことから殺人事件の濡れ衣を着せられた冴子。自分の無実を証明できる猛を連れて逃げ続ける彼女に、逆転の目はあるのか!? 冴子は真犯人にどう立ち向かうのか? どんでん返しの帝王と呼ばれる著者が贈る、息をもつかせぬノンストップ・ミステリー


内容紹介の通り、まさにページを繰る手が止まらなかった。現実的とは言えないかもしれないが、アマゾネスの異名をとる女性刑事を主役に据え、たったひとりの直属の部下を除いて、県警内部の誰が敵かも判らない状況で、真実を暴こうと奮闘する高頭冴子の体当たり刑事生活が爽快である。正攻法とは言えない捜査方法ではあるが、だからこそ得られた協力の手が頼もしく、胸がすく思いがする。最後の猛のひと言で、すべてが報われた気がする。爽快な読書タイムをくれた一冊である。

ワルツを踊ろう*中山七里

  • 2017/11/17(金) 19:20:44

ワルツを踊ろう
ワルツを踊ろう
posted with amazlet at 17.11.17
中山 七里
幻冬舎 (2017-09-07)
売り上げランキング: 125,105

金も仕事も住処も失った“元エリート"溝端了衛が帰った故郷は、7世帯9人の限界集落に成り果てていた。
携帯の電波は圏外。住民は曲者ぞろい。地域に溶け込もうと奮闘する了衛の身辺で、不審な出来事が起こりはじめ……。


都会で何もかも失い、父が残した古家があったとはいえ、七世帯九人の限界集落に、よくぞ帰って住みつく気になったものだと、まずそこに感心する。曲者揃いの上に、排他的な村民たちになんとか溶け込もうと奮闘する了衛だが、することなすこと裏目に出るのだが、それでも、ただ一人解ってくれる能見(事情があって村八分にされている)のアドバイスも参考にしながら、次の策を考えるのである。竜川野菜の通販を始めたときには、これで村がひとつにまとまってめでたしめでたしという流れか、と思ったのだが、池井戸潤や荻原浩ならそうかもしれないが、中山七里はそう簡単には上手くいかせてくれないのである。一瞬でもハッピーエンドを想像してしまったので、その後の展開は、ショックが大きかった。それなのに、最後にそれ以上の裏切りがあり(ここは多少想像できたが)、さらにその先にも、しっかり伏線を回収する形でしっぺ返しが配されているのはお見事である。何度も期待を裏切られ、ストーリーの流れも裏切られて、とんでもない結末なのに思わずにんまりしてしまう一冊である。

ネメシスの使者*中山七里

  • 2017/10/27(金) 18:38:07

ネメシスの使者
ネメシスの使者
posted with amazlet at 17.10.27
中山 七里
文藝春秋
売り上げランキング: 94,404

ギリシア神話に登場する、義憤の女神「ネメシス」。重大事件を起こした懲役囚の家族が相次いで殺され、犯行現場には「ネメシス」の血文字が残されていた。その正体は、被害者遺族の代弁者か、享楽殺人者か、あるいは…。『テミスの剣』や『贖罪の奏鳴曲』などの渡瀬警部が、犯人を追う。


温情判事と呼ばれる渋沢が死刑判決を出さなかったばかりに、凶悪犯が刑務所の中でのうのうと生きながらえる現状に、怒りや悲しみのやり場をなくす被害者遺族。刑務所の中の犯人に手出しができない分、加害者家族をうっぷん晴らしの対象にする匿名の悪意の数々。死刑制度の存廃の問題や、正義を振りかざして八つ当たり的な行動をとる者たちの問題まで、考えさせられることが山積みである。ネメシスを名乗る犯人は、思ってもいないところにいたが、意外にもあっさりと罪を認めて刑務所行きとなる。だが、そこからの企みががさらに恐ろしい。人の恨みの深さと、思い込みの激しさの恐ろしさをまざまざと見せつけられるようである。やりきれなさに身悶えする一冊でもある。

ドクター・デスの遺産*中山七里

  • 2017/08/02(水) 18:31:45

ドクター・デスの遺産
中山 七里
KADOKAWA (2017-05-31)
売り上げランキング: 62,367

警視庁にひとりの少年から「悪いお医者さんがうちに来てお父さんを殺した」との通報が入る。当初はいたずら電話かと思われたが、捜査一課の高千穂明日香は少年の声からその真剣さを感じ取り、犬養隼人刑事とともに少年の自宅を訪ねる。すると、少年の父親の通夜が行われていた。少年に事情を聞くと、見知らぬ医者と思われる男がやってきて父親に注射を打ったという。日本では認められていない安楽死を請け負う医師の存在が浮上するが、少年の母親はそれを断固否定した。次第に少年と母親の発言の食い違いが明らかになる。そんななか、同じような第二の事件が起こる――。


人間の尊厳と安楽死について、最期をどう迎えるかということについて、いくら考えても何が最善なのかわわからない。だが、安楽死という選択について、深く考えるきっかけになる物語である。少年の通報によって動き出した捜査一課は、安楽死を請け負うサイトにたどり着き、かつて、積極的安楽死を推奨した病理学者、ジャック・ケヴォーキアンの意志を受け継ぐそのサイトの管理者を、一連の安楽死事件の真犯人と読み、ケヴォーキアンがそう呼ばれたのにちなんで、ドクター・デスと呼んで捜査を始める。ドクター・デスは、見事なほど印象が薄い男で、頭が薄い小男という証言しか得られず、容易に迫ることができない。そんな折、共に行動していた看護師を見つけ出し、彼女の証言によってドクター・デスの名前が判り、それを糸口にして真犯人を逮捕するところまで行くのである。だが、そのあとの展開は、全く想像の外だったので驚くしかなかった。なるほどそういうことだったのか。安楽死はもちろん、現在の日本では違法であり、実行すれば殺人罪に問われるものである。自分自身も難病に苦しむわけでもなく、身近に病人を抱えるわけでもないので、法を犯してまで安楽死を望もうとは思わないが、実際に当事者になったときにどうなるか、確固として安楽死の誘惑を退けられるかどうか、いささか自信が持てないのも確かである。超高齢化社会目前のわが国において、なにが最善なのか、真剣に考えなければならないと思わされる一冊である。