翼がなくても*中山七里

  • 2017/04/24(月) 16:52:11

翼がなくても
翼がなくても
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中山 七里
双葉社
売り上げランキング: 100,256

「何故、選りにも選って自分が。何故、選りにも選って足を」陸上200m走でオリンピックを狙うアスリート・市ノ瀬沙良を悲劇が襲った。交通事故に巻きこまれ、左足を切断したのだ。加害者である相楽泰輔は幼馴染みであり、沙良は憎悪とやりきれなさでもがき苦しむ。ところが、泰輔は何者かに殺害され、5000万円もの保険金が支払われた。動機を持つ沙良には犯行が不可能であり、捜査にあたる警視庁の犬養刑事は頭を抱える。事件の陰には悪名高い御子柴弁護士の姿がちらつくが―。左足を奪われた女性アスリートはふたたび羽ばたけるのか!?どんでん返しの先に涙のラストが待つ切なさあふれる傑作長編ミステリー。


御子柴礼司シリーズの最新作、というにはいささか趣を異にする物語ではあるのだが、御子柴が弄する策略にしてやられた感はある。しかも、御子柴が出てこなくても、パラリンピック、スポーツ義肢、障碍者スポーツの在り方、障碍者のQOLの問題、などなど様々に考えさせられる要素が盛り込まれていて、さらに、努力が報われる達成感や爽やかさも味わえるので、ミステリ要素はさほど強くはないのだが、先へ先へと興味が引っ張られていく一冊である。

セイレーンの懺悔*中山七里

  • 2017/02/18(土) 16:44:39

セイレーンの懺悔
セイレーンの懺悔
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中山 七里
小学館
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少女を「本当に殺した」のは誰なのか――?
葛飾区で発生した女子高生誘拐事件。不祥事によりBPOから度重なる勧告を受け、番組存続の危機にさらされた帝都テレビ「アフタヌーンJAPAN」の里谷太一と朝倉多香美は、起死回生のスクープを狙って奔走する。警察を尾行した多香美が廃工場で目撃したのは、暴行を受け、無惨にも顔を焼かれた被害者・東良綾香の遺体だった。
クラスメートへの取材から、綾香がいじめを受けていたという証言を得た多香美。主犯格と思われる少女は、6年前の小学生連続レイプ事件の犠牲者だった。
少女を本当に殺したのは、誰なのか――?
”どんでん返しの帝王”が現代社会に突きつける、慟哭のラスト16ページ!!


誘拐事件、殺人事件、いじめ、非行、家庭崩壊、などなど様々な社会問題が盛り込まれた物語である。そして、事件に対する警察とマスコミの役割の違いによる対応の差にも迫る物語でもある。さらに言えば、真犯人を追う物語でありながら、スクープを追い求める物語でもあり、好悪はともかくとして、それぞれが自分の職責を全うしようとする姿が描かれているとも言えると思う。立場や役割が違えど、詰まるところは想像力と相手を思いやる心が芯になければ、よい仕事はできないのだとも思わされる。罪を犯さなかった人がひとりもいないように見える一冊でもある。

ヒポクラテスの憂鬱*中山七里

  • 2016/12/14(水) 16:45:07

ヒポクラテスの憂鬱
ヒポクラテスの憂鬱
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中山七里
祥伝社
売り上げランキング: 76,601

“コレクター(修正者)”と名乗る人物から、埼玉県警のホームページに犯行声明ともとれる謎の書き込みがあった。直後、アイドルが転落死、事故として処理されかけたとき、再び死因に疑問を呈するコレクターの書き込みが。関係者しか知りえない情報が含まれていたことから、捜査一課の刑事・古手川は浦和医大法医学教室に協力を依頼。偏屈だが世界的権威でもある老教授・光崎藤次郎と新米助教の栂野真琴は、司法解剖の末、驚愕の真実を発見する。その後もコレクターの示唆どおり、病死や自殺の中から犯罪死が発見され、県警と法医学教室は大混乱。やがて司法解剖制度自体が揺さぶられ始めるが…。


「堕ちる」 「熱中せる(のぼせる)」 「焼ける」 「停まる」 「吊るす」 「暴く」 


浦和医大法医学教室シリーズの二作目。主人公の栂野真琴や光崎教授、県警の古手川刑事など、主要な登場人物のキャラクタもすっかりなじんでこなれた印象である。自称コレクター(修正者)の、県警のホームページへの書き込みに注目し、事件で亡くなった遺体を司法解剖した結果、ほんとうの死の原因が究明され、事件解決につながる、という件が発生し、県警も法医学教室も、振り回されることになる。コレクターとは何者なのか、事件の内容をどうやって知り得たのか。謎が謎を呼び、解剖の予算は尽き、事件は次々に起こる。そして、いくつもの事件の裏に、さらに底知れない闇が隠れていることに驚かされる。シリアスなのだが、登場人物たちの掛け合いが面白く、コメディ要素も紛れ込み、愉しめる一冊でもある。

作家刑事毒島*中山七里

  • 2016/11/19(土) 13:42:21

作家刑事毒島
作家刑事毒島
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中山 七里
幻冬舎 (2016-08-10)
売り上げランキング: 108,866

この男、
前代未聞のトンデモ作家か。
はたまた推理冴え渡る名刑事か! ?

中山史上最毒・出版業界激震必至の本格ミステリ!

殺人事件解決のアドバイスを仰ごうと神保町の書斎を訪れた刑事・明日香を迎えたのは、流行作家の毒島。虫も殺さぬような温和な笑顔の持ち主は、性格の歪んだ皮肉屋だった。捜査過程で浮かび上がってきたのは、巨匠病にかかった新人作家、手段を選ばずヒット作を連発する編集者、ストーカーまがいの熱狂的な読者。ついには毒島本人が容疑者に! ? 新・爆笑小説!


いつもの著者とはひと味違うテイストである。警察官でありながら、作家を兼業し、比類ないシビアな目線と、徹底的に対象者のコアを抉る物言いで、容疑者を完膚なきまでに追い詰め落とす。登場人物はほとんど出版関係者や作家志望者と、本に関わる人たちなので、興味はいやがうえにも高まる。出版業界の過酷な裏側も覗き見られ、刺激を受けるが、物語が終わった後の著者紹介の下の一文に、さらに苦笑させられる。これ以上なくシビアなのにコミカルで、すっかり毒島ファンになってしまう一冊である。

どこかでベートーヴェン*中山七里

  • 2016/08/11(木) 09:10:40

どこかでベートーヴェン (『このミス』大賞シリーズ)
中山 七里
宝島社
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ニュースでかつての級友・岬洋介の名を聞いた鷹村亮は、高校時代に起きた殺人事件のことを思い出す。岐阜県立加茂北高校音楽科の面々は、九月に行われる発表会に向け、夏休みも校内での練習に励んでいた。しかし、豪雨によって土砂崩れが発生し、一同は校内に閉じ込められてしまう。そんななか、校舎を抜け出したクラスの問題児・岩倉が何者かに殺害された。警察に疑いをかけられた岬は、素人探偵さながら、自らの嫌疑を晴らすため独自に調査を開始する。


岬洋介シリーズ最新刊であるが、岬洋介始まりの物語とも言える、高校時代の物語である。岬の唯一の友人と言ってもいい鷹村亮が、ふと見たニュース映像から高校時代を思い出すという趣向である。ここが始まりではあるが、やはり大人になってからの岬洋介を知っておいた方がより納得しながら愉しめると思う。岬自身のキャラクタは、ほぼ変わっていないのもちょっぴり微笑ましく、そのままでいてほしいと思ってしまう。ピアノに関わっている以外の岬の性格には、説明されても理解しがたい部分も多くあるが、解らないところも含めて彼の魅力になっているのだろう。岬洋介にとって、この時期が人生最大の試練の時だったことがよくわかって痛ましくもあるが、その後につながっていくのだと思えば納得するしかない。ラストのちょっとした種明かしにも思わず頬が緩む。岬洋介のことをもっともっと知りたくなる一冊でもある。

恩讐の鎮魂曲(レクイエム)*中山七里

  • 2016/05/24(火) 18:25:15

恩讐の鎮魂曲
恩讐の鎮魂曲
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中山 七里
講談社
売り上げランキング: 14,218

韓国船が沈没し、251名が亡くなった。その事故で、女性から救命胴衣を奪った日本人男性が暴行罪で裁判となったが、刑法の「緊急避難」が適用され無罪となった。一方、医療少年院時代の恩師・稲見が殺人容疑で逮捕されたため、御子柴は弁護人に名乗り出る。稲見は本当に殺人を犯したのか?『贖罪の奏鳴曲』シリーズ最新作!!圧倒的迫力のリーガル・サスペンス!


御子柴礼司シリーズの三作目。冒頭は、韓国船籍の旅客船の沈没事件の描写から始まる。、物語にどんな関係があるのかわからないまま、特別養護老人ホームで起きた殺人事件に流れが移る。被害者は、特養の介護士、被疑者は御子柴の医療少年院時代の教官だった稲見。御子柴は、強引な策を弄して稲見の弁護人になるのである。罪を認めている稲見だが、御子柴の鼻は、何かきな臭いものを嗅ぎ取っている。次々に明らかになる事実はどれも驚くべきもので、一時も目を離せない。御子柴の屈託や、稲見の矜持も見どころである。まだまだ御子柴から目が離せないシリーズである。

ハーメルンの誘拐魔*中山七里

  • 2016/03/16(水) 19:00:18

ハーメルンの誘拐魔
ハーメルンの誘拐魔
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中山 七里
KADOKAWA/角川書店 (2016-01-29)
売り上げランキング: 57,880

病院からの帰り道、母親が目を離した隙に15歳の少女・香苗が消えた。現場には中世の伝承「ハーメルンの笛吹き男」の絵葉書が残されていた。警視庁捜査一課の犬養隼人が捜査に乗り出し、香苗が子宮頚がんワクチン接種の副作用によって記憶障害に陥っていたことが判明する。数日後、今度は女子高生・亜美が下校途中に行方不明になり、彼女の携帯電話と共に「笛吹き男」の絵葉書が発見された。亜美の父親は子宮頚がんワクチン勧奨団体の会長だった。ワクチンに関わる被害者と加害者家族がそれぞれ行方不明に。犯人像とその狙いが掴めないなか、さらに第三の事件が発生。ワクチン被害を国に訴えるために集まった少女5人が、マイクロバスごと消えてしまったのだ。その直後、捜査本部に届いた「笛吹き男」からの声明は、一人10億、合計70億円の身代金の要求だった…。


子宮頸がんワクチンの副作用に苦しむ少女たちやその家族にスポットを当てた物語である。被害者と加害者の埋めようもない意識の差。苦しむ被害者と頬かむりする加害者という構図が印象的である。ハーメルンの笛吹き男をキーにしたのは、誘拐される人数の多さのみによるものだったのだろうか。そこにもっと深い意味を読み取れなかったのがいささか残念ではあるが、誘拐の顛末は斬新で、驚かされ、その気持ちに胸が痛んだ。被害者と加害者の問題意識のあまりの違いに憤りも感じる一冊である。

闘う君の唄を*中山七里

  • 2015/12/02(水) 18:50:33

闘う君の唄を
闘う君の唄を
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中山七里
朝日新聞出版
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新任教諭として、
埼玉県秩父郡の神室幼稚園に赴任した喜多嶋凛。
モンスターペアレンツたちの要求を果敢に退け、自らの理想とする教育を実践するのだが……。
どんでん返しの帝王が仕掛ける物語は、いったいどこへ向かうのか?
読者の予想を裏切る著者の真骨頂!


 一. 闘いの出場通知を抱きしめて
 二. こぶしの中 爪が突き刺さる
 三. 勝つか負けるか それはわからない
 四. 私の敵は私です
 五. 冷たい水の中をふるえながらのぼってゆけ

主人公は、幼稚園の信任教諭・喜多嶋凛。前半は、凛の理想に向かう熱意と子どもたちへのあふれる愛情と、保護者会という名のモンスターペアレンツの対決という図式である。よくあるように、凛の熱意がいつしか親たちのかたくなさを解きほぐし、これで何もかもうまくいくかと思わせる。ここまでは、これまでの著者の作風とかなり違う印象なのだが、中山流が本領発揮するのはまだまだこれからだったのである。園児に慕われ、保護者からも認められつつある凛の立場ががらりとひっくり返る事態になる。このまま凛は埋もれてしまうのかと不安になった矢先、またまた事態はひっくり返るのである。そうくるか、と思わされるような厭な感じである。子どもたちや園のことを考えると暗い気持ちになるが、きっと凛はここからもうひと踏ん張りするだろうと応援したくもなる一冊である。

総理にされた男*中山七里

  • 2015/10/15(木) 17:08:47

総理にされた男
総理にされた男
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中山 七里
NHK出版
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売れない舞台役者・加納慎策は、内閣総理大臣・真垣統一郎に瓜二つの容姿とそ精緻なものまね芸で、ファンの間やネット上で密かに話題を集めていた。ある日、官房長官・樽見正純から秘密裏に呼び出された慎策は「国家の大事」を告げられ、 総理の“替え玉”の密命を受ける 。慎策は得意のものまね芸で欺きつつ、 役者の才能を発揮して演説で周囲を圧倒・魅了する 。だが、直面する現実は、政治や経済の重要課題とは別次元で繰り広げられる派閥抗争や野党との駆け引き、官僚との軋轢ばかり。政治に無関心だった慎策も、 国民の切実な願いを置き去りにした不条理な状況にショックを受ける。義憤に駆られた慎策はその純粋で実直な思いを形にするため、国民の声を代弁すべく、演説で政治家たちの心を動かそうと挑み始める。そして襲いかる最悪の未曽有の事態に、慎策の声は皆の心に響くのか――。
予測不能な圧巻の展開と、読後の爽快感がたまらない、魅力満載の一冊。


政治にはど素人の売れない役者・加納慎策が、真垣総理に瓜二つという理由のみで、病に倒れた総理の影武者にされ、現役国会議員や国民を惹きつけて政治を動かしていくという物語である。素人であるがゆえに純粋に考えることができ、政策の矛盾にも素直に反応する姿が私利私欲にまみれた政治家の心までも打ち政治行動までをも動かすというのは、胸がすく。だが、どうしてもつい先ごろ放映されていた池井戸氏原作のドラマと重ね合わせてしまうので、素直に愉しめなかった部分も多い。面白かっただけにもやもやが残る一冊でもある。

ヒポクラテスの誓い*中山七里

  • 2015/06/28(日) 19:09:06

ヒポクラテスの誓い
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中山七里
祥伝社
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「あなた、死体は好き――?」 栂野真琴は浦和医大の研修医。単位不足のため、法医学教室に入ることになった。真琴を出迎えたのは法医学の権威・光崎藤次郎教授と「死体好き」な外国人准教授キャシー。傲岸不遜な光崎だが、解剖の腕と死因を突き止めることにかけては超一流。光崎の信念に触れた真琴は次第に法医学にのめりこんでいく。彼が関心を抱く遺体には敗血症や気管支炎、肺炎といった既往症が必ずあった。「管轄内で既往症のある遺体が出たら教えろ」という。なぜ光崎はそこにこだわるのか―—。 凍死、事故死、病死……何の事件性もない遺体から偏屈な 老法医学者と若き女性研修医が導き出した真相とは? 死者の声なき声を聞く迫真の法医学ミステリー!


「生者と死者」 「加害者と被害者」 「監察医と法医学者」 「母と娘」 「背約と誓約」

医師が取るべき行動の規範を示したヒポクラテスの誓いがタイトルである。医師は常に患者の利益を考え、どの患者をも等しく扱うべきである、というその教えは、法医学教室の教授・光崎の行いそのものである。そして彼に心酔するキャシー准教授もその教えに従っている。そんな法医学教室に単位不足故に送り込まれた真琴は、初めは納得できず反感を覚える場面も多々あったが、光崎の揺るがない行動原理と巧みな手技に接するうちに、次第に心がけが変わってくるのである。光崎教授のところに出入りする古手川刑事とのやり取りもお決まり感はあるものの、ちょっとしたスパイスにもなっていて好感が持てる。光崎教授の真の思惑は想像外だったが、それがまた光崎らしくていい。好きな一冊である。

嗤う淑女*中山七里

  • 2015/04/01(水) 18:35:38

嗤う淑女嗤う淑女
(2015/01/31)
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“稀代の悪女”蒲生美智留。天賦の美貌と巧みな話術で、人々の人生を狂わせる!!美智留の罠に徹夜確実!?ノンストップ・ダークヒロイン・ミステリー。


一 野々宮恭子  二 鷺沼紗代  三 野々宮弘樹  四 古巻佳恵  五 蒲生美智留

美智留と、美智留の昏い人生に巻き込まれた人たちの物語である。母に捨てられ、実父に性的暴力を受け続けた13歳の美智留は、その時点ですでに悪女だった。環境がそうさせたのかもしれないが、とても13歳とは思えない策略をめぐらせ、同級生たちを、そうとは気づかせずに思いのままに操っていたのだった。そして、折々にあちこちで人助けを装ってターゲットを巧みに唆し、犯罪を犯させては自分の懐を潤わせ、さっと姿を消すことを繰り返すようになる。ターゲットにされた者は、巧みに取り込まれ、完全に信用した上に、崇拝に近い感情を抱くようにさえなる。その過程を見ていると、空恐ろしくなってくる。犯罪にしてはかなり杜撰な仕掛けのように見えるのだが、それがかえって信用を得る手立てになっているようにも思われる。子どもの頃の環境が彼女を作ったのだとすると、哀れにも思われるが、どこまでも平然と悪事を働く美智留に同情する気にはなれない。こんな女に近寄られたくないと心から思う一冊である。

テミスの剣*中山七里

  • 2015/01/17(土) 07:24:56

テミスの剣テミスの剣
(2014/10/24)
中山 七里

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昭和五十九年、台風の夜。埼玉県浦和市で不動産会社経営の夫婦が殺された。浦和署の若手刑事・渡瀬は、ベテラン刑事の鳴海とコンビを組み、楠木青年への苛烈な聴取の結果、犯行の自白を得るが、楠木は、裁判で供述を一転。しかし、死刑が確定し、楠木は獄中で自殺してしまう。事件から五年後の平成元年の冬。管内で発生した窃盗事件をきっかけに、渡瀬は、昭和五十九年の強盗殺人の真犯人が他にいる可能性に気づく。渡瀬は、警察内部の激しい妨害と戦いながら、過去の事件を洗い直していくが…。中山ファンにはおなじみの渡瀬警部が「刑事の鬼」になるまでの前日譚。『どんでん返しの帝王』の異名をとる中山七里が、満を持して「司法制度」と「冤罪」という、大きなテーマに挑む。


渡瀬刑事シリーズの一環ということになるのだろうか。といっても、渡瀬刑事が登場する作品を読んでいないので、あまりピンとは来ないのだが、それでも惹きこまれる内容である。そして、高遠寺静が現役裁判官時代に唯一心を残した案件が主題でもあり、興味深く読んだ。さらには、途中で真犯人がつぶやいたひと言がなかなか回収されないなと思っていたら、それこそが最後の最後にとんでもない隠し玉となって、一連の状況に新たな驚愕をもたらすことになるのである。初めから終わりまで興味が持続し、ページを繰る手が止まらない一冊だった。

静おばあちゃんにおまかせ*中山七里

  • 2014/12/30(火) 21:12:19

静おばあちゃんにおまかせ静おばあちゃんにおまかせ
(2012/07)
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神奈川県内で発生した警官射殺事件。被害者も、容疑者も同じ神奈川県警捜査四課所属。警視庁捜査一課の葛城公彦は、容疑者となったかつての上司の潔白を証明するため、公休を使って事件を探り出したが、調査は思うに任せない。そんな葛城が頼りにしたのは、女子大生の高遠寺円。――円はかつてある事件の関係者で、葛城は彼女の的確な洞察力から事件を解決に導いたことがあった。円は中学生時代に両親を交通事故で亡くし、元裁判官だった祖母の静とふたり暮らしをしている。静はいつも円相手に法律談義や社会の正義と矛盾を説いており、円の葛城へのアドバイスも実は静の推理だったのだが、葛城はそのことを知らない。そしてこの事件も無事に解決に至り、葛城と円は互いの存在を強く意識するようになっていった――(「静おばあちゃんの知恵」)。以下、「静おばあちゃんの童心」「不信」「醜聞」「秘密」と続く連作で、ふたりの恋が進展する中、葛城は円の両親が亡くなった交通事故を洗い直して真相を解明していく。女子大生&おばあちゃんという探偵コンビが新鮮で、著者お約束のどんでん返しも鮮やかなライトミステリー。


刑事には見えない葛城は、どういうわけか難事件を最後の最後で解決してしまうのである。実はその陰には、法曹界を目指す女子大生・高遠寺円の名推理があるのだった。そして実はそれは円の推理でさえなく、さらにその陰には、元裁判官である彼女の祖母・静の存在があったのである。葛城の円に対する思いが、事件解決のためと理由をつけて円に会おうとすることになり、静おばあちゃんの推理に頼ることになるという仕組みである。静おばあちゃん、格好いい。だが、最後に明らかにされる静おばあちゃんの真実には驚かずにはいられない。シリーズ化されると嬉しいのに、と思いながらも、このラストではそれも無理だと諦めざるを得ない一冊である。

アポロンの嘲笑*中山七里

  • 2014/12/22(月) 07:13:25

アポロンの嘲笑アポロンの嘲笑
(2014/09/05)
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<管内に殺人事件発生>の報が飛び込んできたのは、東日本大震災から五日目のことだった。
被害者は原発作業員の金城純一。被疑者の加瀬邦彦は口論の末、純一を刺したのだという。
福島県石川警察署刑事課の仁科係長は移送を担うが、余震が起きた混乱に乗じて邦彦に逃げられてしまう。
邦彦は、危険極まりない“ある場所"に向かっていた。仁科は、純一と邦彦の過去を探るうちに驚愕の真実にたどり着く。
一体何が邦彦を動かしているのか。自らの命を懸けても守り抜きたいものとは何なのか。そして殺人事件の真相は――。
極限状態に置かれた人間の生き様を描く、異色の衝撃作!


ただでさえ胸が痛み気持ちが沈む大震災とそれに続く原発事故の現場を舞台にした物語である。殺人事件の被害者は、阪神淡路大震災で被災し、心機一転福島に移住し、原発で働く青年。被疑者は、阪神淡路大震災で、盾になってくれた両親のおかげで奇跡的に命拾いしたが、その後の不遇により期せずして福島で原発作業員として働く男。それだけで充分背負ったものの重さにやり切れなくなるのだが、運命はさらに彼らを追いつめたのだった。福島第一原発の作業の過酷さ、政府や東電の対応の杜撰さに憤りを覚え、地団太踏みたくなるのはもちろん、それとは別に、その中で不気味に進んでいた計画の恐ろしさに背筋が寒くなる。なにより、実際にそんなことがあったとしても――そしてこのことだけではもちろんなく――、一般国民には全く知らされずに闇に葬られる可能性を想うと、一体何を信じればいいのだろうという虚しさが胸を覆う。穏やかな暮らしがいちばんだと改めて思わされる一冊でもある。

いつまでもショパン*中山七里

  • 2014/10/10(金) 17:07:57

いつまでもショパン (『このミス』大賞シリーズ)いつまでもショパン (『このミス』大賞シリーズ)
(2013/01/10)
中山 七里

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ポーランドで行なわれるショパン・コンクールの会場で、殺人事件が発生した。遺体は、手の指10本が全て切り取られるという奇怪なものだった。コンクールに出場するため会場に居合わせたピアニスト・岬洋介は、取り調べを受けながらも鋭い洞察力で殺害現場を密かに検証していた。さらには世界的テロリスト・通称“ピアニスト”がワルシャワに潜伏しているという情報を得る。そんな折、会場周辺でテロが多発し…。


舞台はポーランド、ショパンコンクール。岬洋介もコンテスタントのひとりである。そんななか、コンクール会場で十本の手指が切り取られた遺体が見つかる。コンクールの緊張感、ポーランドの歴史と切り離せないショパンとその楽曲の親密性、コンテスタントたちの胸の裡や駆け引き、そして何より演奏の描写など、興味深い要素が山盛りである。そんなショパンコンクールにまつわる物語の裏に、ミステリ要素が静かに流れているような印象である。音楽とテロという一見もっとも遠いように思えることが最後でぐっと近くなるのもぞくっとする。岬先生の素晴らしさがいよいよ際立つ一冊である。