暗幕のゲルニカ*原田マハ

  • 2016/06/21(火) 17:08:14

暗幕のゲルニカ
暗幕のゲルニカ
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原田 マハ
新潮社
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一枚の絵が、戦争を止める。私は信じる、絵画の力を。手に汗握るアートサスペンス! 反戦のシンボルにして2 0世紀を代表する絵画、ピカソの〈ゲルニカ〉。国連本部のロビーに飾られていたこの名画のタペストリーが、2003年のある日、突然姿を消した―― 誰が〈ゲルニカ〉を隠したのか? ベストセラー『楽園のカンヴァス』から4年。現代のニューヨーク、スペインと大戦前のパリが交錯する、知的スリルにあふれた長編小説。


過去と現代を行きつ戻りつしながら、ただ「ゲルニカ」をめぐって語られる物語である。ピカソのアトリエの様子、パリの朝の空気、忍び寄る戦争の足音、ピカソとその作品のために身をなげうって尽くす人たちの熱。そして、それらの想いを、はるか時を隔てた現代で、10歳のときに胸に刻み、それを期にピカソの研究家になり、MoMAのキュレーターとなった瑶子。たったひとつの作品に関わる熱く切実な想いが、物語中に満ち満ちている。ドキュメンタリーを見ているように、そのときどきの空気感まで伝わってくるようで、わくわくどきどきはらはらさせられ通しである。いまにも飛び立とうとしている鳩のドローイングがいいアクセントになっている。想像を掻き立てられる壮大な一冊だった。

翔ぶ少女*原田マハ

  • 2016/06/15(水) 18:49:06

翔ぶ少女 (一般書)
翔ぶ少女 (一般書)
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原田マハ
ポプラ社
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「生きて、生きて、生きぬくんや!」1995年、神戸市長田区。震災で両親を失った小学一年生の丹華(ニケ)は、兄の逸騎(イッキ)、妹の燦空(サンク)とともに、医師のゼロ先生こと佐元良是朗に助けられた。復興へと歩む町で、少しずつ絆を育んでいく四人を待ち受けていたのは、思いがけない出来事だった―。


震災で両親を一度に亡くしたニケたち三兄妹は、近所に住む心療内科の医師で、同じく震災で妻を亡くした佐元良(さもとら)先生(ゼロ先生)に助け出され、佐元良家の養子になる(ニケは、サモトラケのニケになったのである)。復興住宅の人たちや、おっちゃん(ゼロ先生)や由衣ねえに支えられながら、成長していく姿を見守りながら、ときおり胸が熱くなる。震災で怪我して自由にならない右足のせいで、ニケは同級生たちとは距離を置くようになり、勉強はできるが物静かな少女になっていく。兄妹が互いを思いやって助け合う姿にも胸がじんとする。思春期を迎えたニケに起こったことは、一見突拍子もないことに見えるが、物語を象徴する出来事でもある。誰かをまごころで想うことの尊さは、自分の身を削っても相手をしあわせにしたいと願うことなのかもしれない。震災という理不尽な哀しみは二度と起きてほしくはないが、ニケたちには、乗り越えてさらにしあわせになってほしいと願うばかりである。あたたかさと力強さを感じた一冊である。

ロマンシエ*原田マハ

  • 2016/01/15(金) 09:13:37

ロマンシエ
ロマンシエ
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原田 マハ
小学館
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乙女な心を持つ美術系男子のラブコメディ!

有名政治家を父に持つ遠明寺(おんみょうじ)美智之(みちの)輔(すけ)は、子どもの頃から絵を描くことが好きな乙女な男の子。恋愛対象が同性の美智之輔は、同級生の高瀬君に憧れていたが、思いを告げることもないまま、日本の美大を卒業後、憧れのパリへ留学していた。
ある日、アルバイト先のカフェで美智之輔は、ぼさぼさのおかっぱ髪でベース形の顔が目を惹く羽生(はぶ)光(み)晴(はる)という女性と出会う。凄まじい勢いでパソコンのキーボードを打つ彼女は、偶然にも美智之輔が愛読している超人気ハードボイルド小説の作者。訳あって歴史あるリトグラフ工房idemに匿われているという。
過去にはピカソなどの有名アーティストが作品を生み出してきたプレス機の並ぶその工房で、リトグラフの奥深さに感動した美智之輔は、光晴をサポートしつつ、リトグラフ制作を行うことになるが……。

【編集担当からのおすすめ情報】
小説『ロマンシエ』に登場するパリのリトグラフ工房“idem”とコラボした展示会がを開催します(2015年12月5日から2016年2月7日まで、東京・丸の内のステーションギャラリーにて)。小説を読んでから展覧会に行くもよし、展覧会でリトグラフを楽しんでから小説を読んでもよし。小説(フィクション)と展覧会(リアル)がリンクした初の試みをお楽しみください。


自分の性に葛藤する美智之輔が、パリで人気小説家の羽生光晴と出会うことで生まれた物語である。生まれて初めて自由を感じられたパリで、大ファンのハルさんと触れ合い、思い描いていた道とは違うが、創作の現場に立ち会い、そこで働く人々と親しむことで、ある意味逃げるように日本を出てきた彼の中の何かが花開いていくのがよく判って涙を誘われる。長年の忍ぶ恋は報われなかったが、美智之輔にとってもハルさんにとっても、新たな道が開けているのがとてもうれしい。気楽に読めるのに、深みのある一冊だった。

モダン*原田マハ

  • 2015/07/17(金) 12:55:17

モダン
モダン
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原田 マハ
文藝春秋
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ニューヨークの中心、マンハッタンに存在し、1920年代から「ザ・モダン」と呼ばれたモダンアートの殿堂。それが「MoMA」ニューヨーク近代美術館。近現代美術、工業デザインなどを収集し、20世紀以降の美術の発展と普及に多大な貢献をしてきたこの美術館を舞台に、そこにたずさわる人々に起きる5つの出来事を描いた自らの美術小説の原点にとりまくんだ美術小説短編集がついに刊行。

『楽園のカンヴァス』で、山本周五郎賞を受賞、本屋大賞三位を獲得した原田マハが、半年間勤務し、『楽園のカンヴァス』でも重要なモチーフとなった〈ルソー〉の「夢」も所蔵する「MoMA」が舞台。『楽園のカンヴァス』とは、世界観を共有し、その作中人物も登場。「新しい出口」は、マティスとビカソ、そしてある学芸員の友情と別れを描いた作品。そのほかにも、アメリカの国民的画家〈アンドリュー・ワイエス〉と〈フクシマ〉の原発事故について描く「中断された展覧会の記憶」、MoMAに現れる一風変わった訪問者にまつわる監視員の話「ロックフェラーギャラリーの幽霊」、初代館長アルフレッド・バーと、美しきMoMAの記憶を、インダストリアルデサイナーの視点から描いた「私の好きなマシン」、美術館に併設されたデザインストアのウィンドウにディスプレイされた日本に待つわるものについての意外なエピソードをつづった「あえてよかった」など、著者ならではの専門的かつ、わかりやすい視点で、芸術の面白さ、そして「MoMA」の背景と、その歴史、そして所蔵される作品群の魅力を、十二分に読者へと伝える待望の「美術館」小説集。


「中断された展覧会の記憶」 「ロックフェラー・ギャラリーの幽霊」 「私の好きなマシン」 「新しい出口」 「あえてよかった」

美術館が舞台であり、MoMAで働くさまざまな職種の人たちにスポットが当てられた短編集である。美術館の表舞台に出るのはもちろん作品であるが、その舞台裏ではたくさんの人々が尽力し、展覧会が開催されるまでには数多の折衝や個人的な葛藤もあり、そのまた裏には直接には関係のない個人的な事情が思いもしない影響を及ぼすこともあるのだという思いを新たにさせられる。どこにいても何をしていても、人は人だし、ひとりで生きていくことはできないのだとも思わされる一冊である。

異邦人(いりびと)*原田マハ

  • 2015/04/06(月) 07:24:44

異邦人(いりびと)異邦人(いりびと)
(2015/02/25)
原田 マハ

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一枚の絵が、ふたりの止まった時間を動かし始める。
たかむら画廊の青年専務・篁一輝(たかむら・かずき)と結婚した有吉美術館の副館長・菜穂は、出産を控えて東京を離れ、京都に長期逗留していた。妊婦としての生活に鬱々とする菜穂だったが、気分転換に出かけた老舗の画廊で、一枚の絵に心を奪われる。画廊の奥で、強い磁力を放つその絵を描いたのは、まだ無名の若き女性画家。深く、冷たい瞳を持つ彼女は、声を失くしていた――。
京都の移ろう四季を背景に描かれる、若き画家の才能をめぐる人々の「業」。
『楽園のカンヴァス』の著者、新境地の衝撃作。


惹きこまれるように読んだ。京都の古より続く暮らしの美しさ、暮らす人々の立居振舞の美しさ、日々の暮らしに根づいた風流を肌で感じられる気がした。そこに、声を失ったという謎めいた未開拓の画家の登場である。惹きこまれないはずがない。東京での篁家と有吉家の関わりや、それぞれのお家事情などが絡みあって、セレブリティの内幕を興味本位で覗くようなミーハー的悦びもあり、純粋に美に没入する菜穂を応援したい気持ちにもなる。画家・白根樹(たつる)の謎が解かれるとき、それまでの不可解が腑に落ちる。ただ、菜穂を京都に長逗留させるのに必要だったのだろうとは思うが、原発事故の影響から胎児とともに逃れることを理由にしたのには少し引っかかるものがあったのも事実である。美しく純粋で残酷な一冊である。