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ついでにジェントルメン*柚木麻子

  • 2022/08/13(土) 09:28:41


分かるし、刺さるし、救われる――自由になれる7つの物語。

編集者にダメ出しをされ続ける新人作家、女性専用車両に乗り込んでしまったびっくりするほど老けた四十五歳男性、男たちの意地悪にさらされないために美容整形をしようとする十九歳女性……などなど、なぜか微妙に社会と歯車の噛み合わない人々のもどかしさを、しなやかな筆致とユーモアで軽やかに飛び越えていく短編集。


それぞれの物語の主人公のように、実際に行動に移すかどうかはさておき、心のなかのこととしては共感できる部分が多いと思う。普段、胸にしまってあるモヤモヤを、ここまで解放して描き出し、さらには、コメディタッチでありながら、ふと切なさやるせなさを感じさせられるのは、芯がしっかりあるからだろう。さらっと読める風で、さまざま考えさせられる一冊でもある。

らんたん*柚木麻子

  • 2022/02/25(金) 18:20:52


大正最後の年。かの天璋院篤姫が名付け親だという一色乕児は、渡辺ゆりにプロポーズした。
彼女からの受諾の条件は、シスターフッドの契りを結ぶ河井道と3人で暮らす、という前代未聞のものだったーー。


現在、女性が当たり前に教育を受けられる環境にいられる礎を作った女性たちの物語である。ことに、その中心にいて、恵泉女学園の創立者でもある河合道の果たした役割と、時代に翻弄されながらも、絶やすことのなかったその熱意、そして、彼女を取り巻く、自立した女性たちとの関りが生き生きと描かれていて引き込まれる。史実に基づいた物語であり、女性たちの考え方に偏ったところがないとは言えないが、彼女たちがいてくれたからこそのいまなのだと思うと、よくぞあきらめずにいてくれたと思わずにはいられない。パワーを注入される心地の一冊である。

踊る彼女のシルエット*柚木麻子

  • 2021/08/30(月) 16:29:30


義母が営む喫茶店を手伝う佐知子と芸能事務所でマネージャーをする実花。
出会ってから十六年。趣味にも仕事にも情熱的な実花は、佐知子の自慢の親友だった。
だが、実花が生み育てたアイドルグループが恋愛スキャンダルで解散に追い込まれたのをきっかけに、彼女は突然“婚活"を始める。
「私には時間がないの」と焦る実花に、佐知子は打ち明けられないことがあり……。
幸せを願っているのに、すれ違ってしまう二人が選ぶあしたとは。
揺れうごく女の友情を描く長編小説、待望の文庫化。(単行本『デートクレンジング』より改題)


型にはまりたくない、といいながらも、自ら型にはまりに行って、そこで縛られることから逃げ出そうとしてもがいているように、個人的には見えてしまって、あまり共感できなかった。自縄自縛という感じだろうか。唯一、見るからにふわふわと甘くアイドルの典型に見えていた春香だけが、最初から最後まで「自分」を持っていたのが救いかもしれない。どうしてそんなにがんじがらめにされに行くのだろうと思ってしまう一冊だった。

奥様はクレイジーフルーツ*柚木麻子

  • 2019/06/21(金) 16:50:53

奥様はクレイジーフルーツ
柚木 麻子
文藝春秋
売り上げランキング: 341,165

夫と安寧な結婚生活を送りながらも、セックスレスに悩む初美。同級生と浮気未満のキスをして、義弟に良からぬ妄想をし、果ては乳房を触診する女医にまでムラムラする始末。この幸せを守るためには、性欲のはけ口が別に必要…なのか!?柚木がたわわに実る、果汁滴る12房の連なる物語。


「セックスレス問題」で一冊にしてしまう力業も見事だが、じめじめした印象ではなく、ともすればコメディかと思えてくることもあるくらいである。実感としては、初美に寄り添うことはできないし、彼女のような行動をとることもないだろうとは思うが、まったく共感できないかと言えばそうでもない。夫婦の在りようは、夫婦の数だけあるものなので、一概には言えないが、もしかするといまの時代、こんな夫婦が増えているのかもしれない、とも思わされる。働き方改革なんのそのの仕事の忙しさや、男性の草食化など、さまざまな要素も絡み合っているようにも思える。軽く読めるが軽いだけではない一冊である。

マジカルグランマ*柚木麻子

  • 2019/06/19(水) 16:37:02

マジカルグランマ
マジカルグランマ
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柚木 麻子
朝日新聞出版
売り上げランキング: 1,959

いつも優しくて、穏やかな「理想のおばあちゃん」(マジカルグランマ)
は、もう、うんざり。夫の死をきっかけに、心も体も身軽になっていく、75歳・正子の波乱万丈。

若い頃に女優になったが結婚してすぐに引退し、主婦となった正子。
映画監督である夫とは同じ敷地内の別々の場所で暮らし、もう五年ほど口を利いていない。
ところが、75歳を目前に先輩女優の勧めでシニア俳優として再デビューを果たすことに!
大手携帯電話会社のCM出演も決まり、「日本のおばあちゃんの顔」となるのだった。
しかし、夫の突然の死によって仮面夫婦であることが世間にバレ、一気に国民は正子に背を向ける。
さらに夫には二千万の借金があり、家を売ろうにも解体には一千万の費用がかかと判明する。

亡き夫に憧れ、家に転がり込んできた映画監督志望の杏奈、
パートをしながら二歳の真実ちゃんを育てる明美さん、
亡くなった妻を想いながらゴミ屋敷に暮らす近所の野口さん、
彼氏と住んでいることが分かった一人息子の孝宏。
様々な事情を抱えた仲間と共に、メルカリで家の不用品を売り、
自宅をお化け屋敷のテーマパークにすることを考えつくが――

「理想のおばあちゃん」から脱皮した、
したたかに生きる正子の姿を痛快に描き切る極上エンターテインメント! 「週刊朝日」連載の書籍化


本作の主人公はおばあちゃんの柏葉正子だが、さまざまな立場のステレオタイプにはまらずに生きていこうとするすべての年代のすべての人々が主役になり得る物語なのだろうと思う。何の疑がいも抱かずに、「おばあちゃんはこうあるべき」という世間の目に応えるような自分であろうとしてきた正子だったが、ある事件をきっかけに、本来の自分に目覚めてみれば、これがなかなか具合がよく、なんだかいろんなことが身の回りに起こるようにもなってきた。憤慨したり、悩んだり、自己嫌悪したり、またやる気を出したりしながら、愉しんだり落ち込んだりして生きていくのも悪くないかもしれない、と改めて自分の立ち位置を見回してみたくなる一冊だった。

デートクレンジング*柚木麻子

  • 2018/07/16(月) 07:16:05

デートクレンジング
デートクレンジング
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柚木 麻子
祥伝社
売り上げランキング: 21,666

「私にはもう時間がないの」
女を焦らせる見えない時計を壊してしまえたらいいのに。

喫茶店で働く佐知子には、アイドルグループ「デートクレンジング」のマネージャーをする実花という親友がいる。
実花は自身もかつてアイドルを目指していた根っからのアイドルオタク。
何度も二人でライブを観に行ったけれど、佐知子は隣で踊る実花よりも眩しく輝く女の子を見つけることは出来なかった。
ある事件がきっかけで十年間、人生を捧げてきたグループが解散に追い込まれ、実花は突然何かに追い立てられるように“婚活"を始める。
初めて親友が曝け出した脆さを前に、佐知子は大切なことを告げられずにいて……。

自分らしく生きたいと願うあなたに最高のエールを贈る書下ろし長編小説。


婚活、妊活、保活、などなど。「~~活」と名づけた途端に、本来愉しく希望の持てるはずのものまで、一刻も早く達成しなければならない義務になってしまう気がする。世間に蔓延する、何となくの雰囲気に焦らされ、前へ前へ、次へ次へと動き続けなければ、取り残され落ちこぼれてしまうという、ある種の強迫観念に縛られる人たちが、さまざまな形で描かれている。擦りむいた傷にできたかさぶたをはがされるような痛々しさもあり、客観的に眺めている読者としては、もっと楽に考えればいいのに、と言ってあげたくなる。女同士の友情や、家族とのかかわりも絡め、女たちの生き辛さがひしひしと伝わってくる。自分を縛っているのは、もしかしたら自分なのかもしれないとも思わされる。どんな立場にあっても、自分のことが好きでいられればそれが幸せかもしれないとも思う一冊だった。

さらさら流る*柚木麻子

  • 2017/12/09(土) 16:11:36

さらさら流る
さらさら流る
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柚木 麻子
双葉社
売り上げランキング: 154,763

あの人の中には、淀んだ流れがあった――。28歳の井出菫は、かつて恋人に撮影を許した裸の写真が、
ネットにアップされていることを偶然発見する。恋人の名は光晴といった。
光晴はおどけたりして仲間内では明るく振る舞うものの、どこかそれに無理を感じさせる、ミステリアスな危うさを持っていた。しかし、なぜ6年も経って、この写真が出回るのか。
菫は友人の協力も借りて調べながら、光晴との付き合いを思い起こす。
飲み会の帰りに渋谷から暗渠をたどって帰った夜が初めて意識した時だったな……。
菫の懊悩と不安を追いかけながら、魂の再生を問う感動長編。


読み始めてしばらくは、なんだかとらえどころのない物語だという印象だった。だが、暗渠をたどって家まで歩く道筋で、菫と光晴の不安定な安定とでもいうようなものが、すでにちらちらと顔をのぞかせていて、その後の展開に興味が湧いた。客観的にみれば言いたいことはいくらでもあるような二人の関係なのだが、菫の心の動きも光晴の屈託も、すんなりと胸に落ち、どうにもならない心の動きの、まったくどうにもならなさにやり切れなくもなりながら、ある意味共感を覚えたりもする。リベンジポルノ――と言っていいのかどうかはよく判らないが――が題材の一部になってはいるが、決してそれだけではなく、包まれるように守られてきた菫が、自分の脚で立つ物語とも言える。さまざまなことが象徴されているような一冊だと思う。

あまからカルテット*柚木麻子

  • 2016/08/23(火) 16:48:02

あまからカルテット
あまからカルテット
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柚木 麻子
文藝春秋
売り上げランキング: 558,641

女子校時代からの仲良し四人組、ピアノ講師の咲子、編集者の薫子、美容部員の満里子、料理上手な由香子も、いよいよ三十歳目前。恋に仕事に押し寄せる悩みを、美味しい料理をヒントに無事解決へ導けるか!?


まったくタイプの違う女子四人組が、時に反発し合い、文句を言いながらも、お互いを無条件に信頼し、その信頼に応えようとする様は、見ていて微笑ましい。それぞれに持ちあがる日常の謎的出来事を、解決に導く道筋も、それぞれらしくて好感が持てる。ラストの場面での「四人で一人だと思っていたけれど、一人でもやれるから四人でもやれるんだ」という咲子のつぶやきが、すべてを物語っているようである。この世人をもっともっと見たいと思わされる一冊である。

幹事のアッコちゃん*柚木麻子

  • 2016/06/01(水) 09:55:51

幹事のアッコちゃん
幹事のアッコちゃん
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柚木 麻子
双葉社
売り上げランキング: 20,505

背中をバシッと叩いて導いてくれる、アッコさん節、次々とサク裂!妙に冷めている男性新入社員に、忘年会プロデュースの極意を…(「幹事のアッコちゃん」)。敵意をもってやって来た取材記者に、前向きに仕事に取り組む姿を見せ…(「アンチ・アッコちゃん」)。時間の使い方が下手な“永遠の部下”澤田三智子を、平日の習い事に強制参加させて…(「ケイコのアッコちゃん」)。スパイス絶妙のアドバイスで3人は変わるのか?そして「祭りとアッコちゃん」ではアッコ女史にも一大転機が!?突破の大人気シリーズ第3弾。


今度は幹事である。水戸黄門的お約束な流れも含めて、アッコさん流のおもてなし術を愉しんだ。アッコさんと美智子の掛け合いをまた眺められたのも嬉しかった。まだまだアッコさんに教わる部分が多い美智子も、すっかり中堅社員になり、自分でしっかり考えて仕事ができるようになっていて頼もしさも感じたが、アッコさんと二人の関係は、もうずっと続くのだろうと、その関わりの濃密さが羨ましくなるほどである。ラストではちょっぴりほろりとさせられるアッコさんのひと言もあって、美智子のやる気もますます盛り上がることだろう。次はアッコさん、どこに出没するのか、何を始めるのか、ずっとずっと続いてほしいシリーズである。

私にふさわしいホテル*柚木麻子

  • 2016/04/20(水) 07:43:48

私にふさわしいホテル (扶桑社BOOKS)
扶桑社 (2012-12-31)
売り上げランキング: 6,006

「元アイドルと同時受賞」という、史上最悪のデビューを飾った新人作家・中島加代子。さらに「単行本出版を阻止される」「有名作家と大喧嘩する」「編集者に裏切られる」etc.絶体絶命のトラブルに次々と襲われる羽目に。しかし、あふれんばかりの野心と、奇想天外なアイデアで加代子は自分の道を切り拓いていく―。何があってもあきらめない不屈の主人公・加代子。これぞ、今こそ読みたい新世代の女子下剋上物語。


長いスパンの物語である。小説家として成り上がろうともがく主人公・中島加代子(筆名=相田大樹、あるいは有森樹李)の浮いたり沈んだり突進したり突っかかったりの人生模様の顛末なのである。大学の先輩で担当編集者でもある遠藤や、勝手に宿敵と決めた大御所作家・東十条宗典が、反発し合い罵り合いながらも、なんだかんだでいつもそばにいて、互いにお尻を叩き、あるいはもたれ合いながらも、いつの間にか前に進んでいるのも皮肉っぽくて面白い。コミカルな中に、ほろ苦さやほのかな甘み、温か味も感じられる一冊である。

ナイルパーチの女子会*柚木麻子

  • 2015/06/02(火) 07:21:39

ナイルパーチの女子会
柚木 麻子
文藝春秋
売り上げランキング: 5,634

丸の内の大手商社に勤めるやり手のキャリアウーマン・志村栄利子(30歳)。実家から早朝出勤をし、日々ハードな仕事に勤しむ
彼女の密やかな楽しみは、同い年の人気主婦ブログ『おひょうのダメ奥さん日記』を読むこと。決して焦らない「おひょう」独特の価
値観と切り口で記される文章に、栄利子は癒されるのだ。その「おひょう」こと丸尾翔子は、スーパーの店長の夫と二人で気ままに
暮らしているが、実は家族を捨て出て行った母親と、実家で傲慢なほど「自分からは何もしない」でいる父親について深い屈託を
抱えていた。
偶然にも近所に住んでいた栄利子と翔子はある日カフェで出会う。同性の友達がいないという共通のコンプレックスもあって、二
人は急速に親しくなってゆく。ブロガーと愛読者……そこから理想の友人関係が始まるように互いに思えたが、翔子が数日間ブロ
グの更新をしなかったことが原因で、二人の関係は思わぬ方向へ進んでゆく……。
女同士の関係の極北を描く、傑作長編小説。


他人、ことに同性との関係の築き方、距離の取り方が判らない栄利子は、社内でも浮いた存在になっている。ランチにも誘われず、当然女子会にも声がかからない。そのことに達観できてしまえば楽なのだろうが、そうもいかず、女友達を求めるあまり、偶然出会ったお気に入りブログの書き手の翔子に自分の理想を投影しすぎてしまう。女ってなんて難しいのだろうという思いとともに、自分を正当化する理屈に絡め取られがんじがらめにされていく過程は、とてもよく判る部分もあって、一歩間違えば自分も、と背筋が寒くなる心地にもなる。何事においても「自分」「自分」で「相手」が不在なのだろうなぁ。哀しくやりきれなくもあるが、最後には遠くにちいさな光が見えるようでもあるので、少しほっとする。他人あっての自分なのだということを改めて胸に刻もうと思った一冊である。

3時のアッコちゃん*柚木麻子

  • 2014/11/05(水) 16:58:50

3時のアッコちゃん3時のアッコちゃん
(2014/10/15)
柚木 麻子

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アッコ女史ふたたび! 大人気の「ランチのアッコちゃん」に、待望の続編が登場!!
澤田三智子は高潮物産の契約社員として、
シャンパンのキャンペーン企画チームに入っているが、会議は停滞してうまくいかない。
そこに現れたのが黒川敦子女史、懐かしのアッコさんであった。
イギリスでティーについて学んできたというアッコさんが、お茶とお菓子で会議の進行を激変させていく。
またもやアッコさんの底知れぬ力をまざまざと見せつけられる三智子であった――
表題作ほか、「メトロのアッコちゃん」「シュシュと猪」「梅田駅アンダーワールド」を含む全4編。


「アッコちゃん」とたいとるにもつく二作は、アッコさんの知恵と愛が光る、正統派アッコちゃんシリーズといった趣である。ほかの二作は、番外編といおうか、神戸と梅田という東京を離れた場所が舞台になっていて、アッコさんの活躍物語という感じではないので、個人的にはちょっぴり物足りなさもある。だが、順調なことばかりではなく、凹んでいるときにこそ、アッコさんの想いが温かいスープのように身に沁みるのである。アッコさんアッコさんした次作をたのしみに待ちたいシリーズである。

ねじまき片想い*柚木麻子

  • 2014/10/03(金) 17:05:13

ねじまき片想い (~おもちゃプランナー・宝子の冒険~)ねじまき片想い (~おもちゃプランナー・宝子の冒険~)
(2014/08/11)
柚木 麻子

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毎朝スカイツリーを見上げながら、水上バスで通勤する富田宝子、28歳。浅草にあるおもちゃ会社の敏腕プランナーとして働く彼女は、次から次へと災難に見舞われる片想い中の西島のため、SP気分で密かに彼のトラブルを解決していく…!やがて、自分の気持ちに向き合ったとき、宝子は―。


「スカイツリーを君と」 「三社祭でまちあわせ」 「花やしきでもう一度」 「花火大会で恋泥棒」 「あなたもカーニバル」

乙女チックなふんわりしたファッションに身を包み、自分をしっかり持っておもちゃプランナーとして仕事をしている宝子だが、長年の片想い相手の西島に対すると、途端に気弱になってしまう。誰にも気づかれていないと思っている宝子だったが、実は職場のみんなが知っていて、もっといい人がいるのにと言い合いながらも密かに応援しているのである。報われない想いをぶつけるように、宝子は西島のために探偵まがいのことをして彼の心を曇らせる物事を解決していく。そんな中で、ほんとうに大切なことに徐々に気づかされていく宝子なのである。片思い物語、お仕事物語でもあり、ミステリでもあって贅沢に愉しめる一冊である。

本屋さんのダイアナ*柚木麻子

  • 2014/06/18(水) 13:39:04

本屋さんのダイアナ本屋さんのダイアナ
(2014/04/22)
柚木 麻子

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私の呪いを解けるのは、私だけ――。すべての女子を肯定する、現代の『赤毛のアン』。「大穴(ダイアナ)」という名前、金色に染められたバサバサの髪。自分の全てを否定していた孤独なダイアナに、本の世界と彩子だけが光を与えてくれた。正反対の二人だけど、私たちは一瞬で親友になった。そう、“腹心の友”に――。自分を受け入れた時、初めて自分を好きになれる! 試練を越えて大人になる二人の少女。最強のダブルヒロイン小説。


姉のような歳でキャバ嬢の母と二人暮らしの大穴(ダイアナ)と誰もが羨む家庭環境にある彩子の二人が主人公の物語である。大筋は、彩子が挫折し、ダイアナが思い通りの道を掴み取るという、大方の想像通りではあるが、付随する出来事が、それぞれにとってなかなか過酷に描かれている。だが、それぞれが自分を信じ、自分自身でそれを乗り越えた先で再会し、再び心を通わせる場面は、心底ほっとさせられる。そして、小学校三年生からずっとダイアナを見守り続ける肉屋の武田君がとてもいい。ダイアナの母ティアラも、これほど極端に走らず、もう少し何とかならなかったものかと思いもするが、それでこその物語なのでまあ良しとするか。自分に呪いをかけるのもそれを解くのも、自分だけなのだと改めて思わされる一冊でもある。

その手をにぎりたい*柚木麻子

  • 2014/05/11(日) 16:41:44

その手をにぎりたいその手をにぎりたい
(2014/01/24)
柚木 麻子

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80年代。都内のOL・青子は、偶然入った鮨店で衝撃を受けた。そのお店「すし静」では、職人が握った鮨を掌から貰い受けて食べる。
青子は、その味に次第にのめり込み、決して安くはないお店に自分が稼いだお金で通い続けたい、と一念発起する。
お店の職人・一ノ瀬への秘めた思いも抱きながら、転職先を不動産会社に決めた青子だったが、到来したバブルの時代の波に翻弄されていく。一ノ瀬との恋は成就するのか?


バブル真っ盛りの地方から出てきたOL青子(せいこ)が主人公の物語である。バブルの恩恵を当然のこととして享受し、その時代を駆け抜けたひとりの女としての青子、そしてまた、どの時代にもいるひとりの女としての青子。ある日上司に連れていかれた銀座の高級すし店「すし静」の職人・一ノ瀬のにぎる寿司に、青子は衝撃を受ける。そして恋に落ちるのである。一ノ瀬になのか、彼のにぎる寿司になのか。儚い泡沫の時代を背景に、青子の生き様が逞しくもあり切なく哀しくもある。熱に浮かされたような時代の恋物語とも言える一冊である。