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0 ZERO*堂場瞬一

  • 2022/07/06(水) 10:15:42


「すごい原稿がある」――ベストセラー作家が死の間際に残した一言より始まった原稿捜索。しかしそれは、出版業界を揺るがしかねないパンドラの箱だった……「創作」の倫理をも問う問題作!


病死した作家・岩佐友は人と関わることを避け孤立していた。同郷で高校大学と同窓の作家である主人公の古谷悠が、唯一親しくしていた人物と言っても過言ではない。岩佐が亡くなった後、息子の直斗から、未発表のすごい作品がある、という話を聞き、編集者の未知とともに探すことになる。岩佐の評伝を書こうと、未発表作品を含む岩佐のことを調べて歩くうちに、古谷の純粋な興味もあって、調べは枝葉を広げ、岩佐と彼の後輩に関することへと進んでいく。読者も、古谷とともに未発表作品への興味、岩佐と後輩の関係に対する興味、孤立を選んだ岩佐本人への興味で、次の展開を早く知りたくて仕方なくなる。ラスト近くに配された、作品中の作品とも言える重苦しい章に、結局すべての謎が含まれていて、読後感を一層重くしている。岩佐にとって、人生とはいったい何のためにあったのだろうか。ずしりと胸に重い一冊である。

壊れる心*堂場瞬一

  • 2022/04/26(火) 16:41:51


私は今、刑事ではない。被害者の心に寄り添い、傷が癒えるのを助ける。正解も終わりもない仕事。だが、私だからこそしなければならない仕事――。月曜日の朝、通学児童の列に暴走車が突っこんだ。死傷者多数、残された家族たち。犯人確保もつかのま、事件は思いもかけない様相を見せ始める。-文庫書下ろし-


警察官が主人公の物語である。とは言っても、刑事ではなく、犯罪被害者支援課という部署にスポットが当てられている。捜査はせず、被害者の気持ちに寄り添い、心の傷を少しでも癒して立ち直らせるための部署である。主人公の村野は、自らも事件の被害に遭って怪我を負い、捜査一課から志願して転課してきたという経緯があり、他の課員とは心構えからしていささか違っているせいか、マニュアル以上の対応をしがちではある。それがいいことなのかそうでないのかは、案件にもよるが、今回は、被害者家族にとっても、村野にとっても、他の課員たちにとっても、かなりきつい結果になったのは間違いない。被害者家族の身になってみれば、心情的には判らなくもないので、やりきれないことこの上ない。刑事課や交通課とのせめぎあいにももどかしさを感じる。正解がひとつではないだけに、さまざま考えさせられる一冊だった。

脅迫者 警視庁追跡捜査係*堂場瞬一 

  • 2018/10/12(金) 18:50:02

脅迫者 警視庁追跡捜査係 (ハルキ文庫)
堂場瞬一
角川春樹事務所
売り上げランキング: 4,026

新人刑事時代のある捜査に違和感を抱いていた追跡捜査係の沖田は、二十年ぶりの再捜査を決意。自殺と処理された案件は、実は殺人だったのではないか―内部による事件の隠蔽を疑う沖田を、同係の西川はあり得ないと突っぱねるが、当時事件に携わった刑事たちへの事情聴取により、疑惑はさらに高まる。そんな折、沖田は何者かに尾行されていることに気づくが…。シリーズ史上最も厄介な敵を相手に、熱き男たちの正義感が爆発する!書き下ろし警察小説。


二十年前の自殺事件のとき、新人だった自分だけが蚊帳の外に置かれ、何ひとつ教えてもらえなかったことに違和感を抱き続けていた沖田は、追跡捜査係の仕事の一環として再捜査を始めた。自殺ということで、なんの捜査もせず、記録さえろくに残されていなかった事件の真相は、もしかすると殺人だったのではないかと当たりをつけはしたが、再捜査はなかなか進まない。そんな折、沖田が何者かに尾行されていることに気づく。そこから、闇はどんどん深くなり、思っていたほど単純な構図ではないことが次々に明らかになっていく。はたして、沖田たちはとんでもない一件を引きずり出しそうになっていたのだった。それぞれの立場や思惑、上下関係や、さらにそれを上回る圧力。個人にできることはどこまでなのか、興味を惹きつけられる。捜査する側の個人的な事情も絡めながら進んでいくストーリーは緊迫感と切迫感があって、息がつけない。巨大組織の中で動くことの難しさや、正義を貫くことの意味までをも考えさせられる一冊だった。

誤断*堂場瞬一

  • 2018/10/02(火) 12:42:23

誤断 (中公文庫)
誤断 (中公文庫)
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堂場 瞬一
中央公論新社 (2017-11-22)
売り上げランキング: 162,558

長原製薬の広報部員・槇田は、副社長から極秘である調査を命じられた。相次いで発生している転落死亡事故に、自社製品が関わっている可能性があるというのだ。各地の警察に赴き、自社製品の使用履歴を密かに調べる槇田。経営不振により外資企業と合併交渉中の長原製薬にとって、この時期の不祥事は致命的だ。槇田は被害者家族の口を金で封じるという業務を任されるのだが、過去の公害事件も再燃してきて――。警察小説の旗手が挑む、社会派サスペンス!


大手製薬会社と、過去から連綿と続く隠ぺい体質、さらには、薬害の事後処理とそれに当たる社員の苦悩、そして経営悪化による合併と、さまざまな事情が絡み合って、胃が痛くなるようなストーリーである。製薬の現場に関しては全くの素人なので、現実にこんなことがあるのかどうかは確かめようもないが、絶対にあってほしくない事象であり、もしその当事者になってしまったとしたら、と考えると、うかうかと薬も飲めない気分である。しかもこの対応である。会社を守るのか、人間としての矜持を守るのか、実際に突き付けられたときの葛藤は、計り知れないものがある。重苦しさに胸を押しつぶされるようだったが、槙田の決断をたたえたいと思わされる一冊だった。

ネタ元*堂場瞬一

  • 2017/11/10(金) 18:26:32

ネタ元
ネタ元
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堂場 瞬一
講談社
売り上げランキング: 256,282

記者と刑事の会話は騙し合いだ――。
1964年、1972年、1986年、1996年、2017年。
時代とともに、事件記者と「ネタ元」の関係も変わる。
50年の変遷をひとつの新聞社を舞台に描いた、
著者にしか書けない新聞記者小説集。


時系列で描かれる連作短編集である。前作の登場人物が、次作では年齢を重ね、違った立場で登場するのは、過去の経緯の行く末を見るようで、ストーリーの流れとは別に、それもまた興味深い。ネタ元と新聞記者との関係性も、時代によって変化し、取材方法や倫理観も少しずつ移ろっていく。事件の起こり方や、情報源の変容など、時系列に描かれているからこその面白さが味わえる一冊である。

犬の報酬*堂場瞬一

  • 2017/07/17(月) 13:27:09

犬の報酬
犬の報酬
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堂場 瞬一
中央公論新社
売り上げランキング: 138,876

「企業の〈失敗〉に対し、男たちは如何に動いたか」
大手メーカーのタチ自動車は、自動運転技術の開発に取り組んでいた。政府の自動運転特区に指定されている千葉・幕張での実証実験中、実験車両が衝突事故を起こす。軽微な事故ということもあり、警察は発表しなかった。ところが数日後、この事故に関するニュースが東日新聞に掲載される。東日新聞社会部遊軍キャップの畠中孝介に情報を流したのは、いったい誰なのか? トラブル対応時の手際の見事さから社内で「スーパー総務」と揶揄されるタチ自動車総務課係長・伊佐美祐志を中心に、「犯人探し」のプロジェクトチームが発足するが……。 「事故隠し」を巡る人間ドラマ――話題の「自動運転」のリアルに迫る、最新で渾身の経済エンタメ長篇。


自動運転の開発中の事故、事故隠し、警察と企業との癒着、内部告発、社内の対策の方向性、取材する新聞記者の立場、などなど、要素が盛りだくさんである。自動車会社の総務課の伊佐美には、情報提供者がおり、新聞社の畠中にも当然ネタ元がいる。内部告発者を探し出すことを第一義としたタチ自動車と、同社の方針を良しとしない東日新聞の対決の様子が描かれる。畠中のネタ元が誰かは、割と早い段階で薄々想像がつくが、それが最後にこう言う展開になるとは想像ができなかった。ただ、そこの掘り下げ方がもう一段階深かったら、もっと興味をそそられたかもしれないとも思ってしまう。なんとなく尻切れトンボで終わってしまった感が無きにしも非ずなのである。個人の持つ価値観について、改めて考えさせられた一冊でもあった。

錯迷*堂場瞬一

  • 2017/05/27(土) 16:50:06

錯迷
錯迷
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堂場 瞬一
小学館
売り上げランキング: 24,941

順調にキャリアを重ねてきた神奈川県警捜査一課課長補佐の萩原哲郎に突然の異動命令が下された。行き先は鎌倉南署。それも署長としての赴任。異例の昇格人事の裏には事情があった。それは女性前署長の不審死の謎を解くこと。署内の結束は固く、協力者を得られないまま、孤独の秘密捜査を始める萩原。そして忘れ去られた過去の未解決殺人事件との関連が浮上して……。著者渾身の本格警察小説。


出世頭と言ってもいい萩原に、鎌倉南署の所長としての移動命令が下された。前署長・桜庭の突然の死の真相を究明するという秘密の特命を帯びた移動であることもあり、署員との関係の築き方に悩む萩原の姿に、ついつい同情してしまう。思わせぶりな態度を見せる署員たち、常に監視されているような居心地の悪さ、言いたいことがあるのに踏ん切りをつけられずにいる女性警察官。そこに新たな殺人事件が発生し、五年前の未解決事件につながっている疑いが浮上する。後半は、パズルのピースがパタパタとはまっていく快感もあるが、起こった事実に対する驚きと、その後の出来事のやるせなさに胸がふさがれる。警察内部の複雑な事情と、署員たちの気持ちのせめぎ合いが興味深い一冊でもある。

独走*堂場瞬一

  • 2017/04/10(月) 18:58:09

独走
独走
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堂場 瞬一
実業之日本社
売り上げランキング: 382,378

五輪柔道金メダリストの沢居弘人は、スポーツ省から、国の特別強化指定選手「SA」の陸上選手・仲島雄平のサポートを命じられる。仲島は実力はあるもののメンタルが弱いという致命的な弱点があった。「金メダル倍増計画」を掲げ莫大な予算でアスリートを管理育成する国で、選手は何を目的に戦うのか。オリンピック、ドーピング問題、引退後の人生設計…現代スポーツ界が抱える様々なテーマを内包して物語は疾走する!!


オリンピックで金メダルを増産するために、スポーツ省があらゆる手を尽くす時代の物語である。有望な選手を早くから囲い込み、税金をつぎ込んで贅沢な環境を提供し、高度なトレーニングを受けさせる代わりに、始終監視下に置かれ、決められたレールから外れるとSA指定を外され、さらにそれまでの経費を返済しなければならないという契約に縛られている。金メダルの最有力候補としてSAに選ばれた陸上選手・仲島は、実力には目を瞠るものがあるが、メンタルが弱すぎるため、手厚いサポートがつけられる。仲島の速く走りたいという本能的な欲求と、オリンピックの金メダルというお仕着せの目標のための走ること以外のわずらわしさ、などなど、さまざまな問題を絡めながら、オリンピックの在り方から、選手自身の人生の選択まで、考えさせられることの多い一冊である。

解*堂場瞬一

  • 2016/05/10(火) 17:04:01

解
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堂場 瞬一
集英社
売り上げランキング: 445,848

「俺たちは同志だ。俺たちは、日本を変えていく」平成元年、夢を誓った二人は社会に飛び出す。大蔵官僚、IT会社社長を経て政治家に転身した大江。新聞記者から紆余曲折を経て、人気作家になった鷹西。だが、二人の間には、ある忌まわしい殺人事件が横たわっていた―。1994年、封印された殺人の記憶。2011年、宿命の対決が幕を開ける。バブル崩壊、阪神・淡路大震災、IT革命、そして3.11。「平成」を徹底照射する、衝撃の“問題作”。


1994年から2011年の間の日本という国の時代の流れと空気感がとてもよく伝わってくる物語だった。大江と鷹西という大学の同期生がそれぞれ社会の別の分野で活躍するようになる様子にも興味を掻き立てられ、その友情と信頼が、いつまでも続くようにと願うのである。だが、混迷を深める国を立て直すためとかなんとか、もっともらしい理屈をつけたとしても、その一点をうやむやにしてしまうことが、どうしても腑に落ちず、消化不良な後味の悪さが残ってしまう。むしろここから先を読みたいと思ってしまう一冊でもある。

Killers 下*堂場瞬一

  • 2016/01/13(水) 21:06:53

Killers(下)
Killers(下)
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堂場 瞬一
講談社
売り上げランキング: 83,708

渋谷が生まれ変わる時、「Killers」も新たな「使者」を送る。正義を描いてきた著者が、書かずにはいられなかった集大成長篇!


下巻で描かれるのは主に現在である。捜査陣は代替わりし、当時の担当で犯人に殺された生沢の孫娘・薫が刑事になって、未解決のまま、なお続いていると思われる十字殺人の犯人を追っている。長野保が犯人だろうということは判っていながら、どうしても本人にたどり着けず、いたずらに被害者が増えていくのは、警察としてはどれほど歯がゆいことだろう。しかも、過去の捜査の穴がいまごろになって見つかっ足りもするのでなおさらである。だが、どれだけ読んでも、長野保の心理状態がさっぱり理解できない。しかも事件はまったく終わらないのである。面白かったが、後味の悪い一冊である。

Killers 上*堂場瞬一

  • 2016/01/09(土) 18:20:56

Killers(上)
Killers(上)
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堂場 瞬一
講談社
売り上げランキング: 30,633

殺人者は、いつの時代にも存在する。

2020年東京五輪に向けて再開発が進む渋谷区のアパートで、老人の他殺体が発見され、かつての名家の人間だったことが判明する。いったい、この男は何者なのか――。
五十年、三世代にわたる「Killers」=殺人者の系譜と、追う者たち、そして重なり合う渋谷という街の歴史。

警察小説の旗手・堂場瞬一のデビューから100冊目を飾る、記念碑的文芸巨編1500枚!


東京オリンピックとは言っても、前回のオリンピックの時代が上巻の大方を占めている。老人ばかりが被害に遭った連続殺人事件が起こり、被害者の額には決まって十字のしるしがつけられていた。犯人は政治家の次男で、彼の目線で語られる部分と、警察の側から語られる部分とで物語は進む。舞台は渋谷だが、時間経過はものすごく長く、ときおり時代が一気に進み、過去を振り返る描写が差し挟まれているのが、もどかしさと空恐ろしさを増幅させる。使命感さえ帯びて殺人を続け、あるいは唆す様子は見るだけで虫唾が走るが、事態は少しずつ変化している印象でもある。上巻では、今後の展開が読めないが、どのように決着がつけられるのか、早く下巻も読みたくなる一冊である。

十字の記憶*堂場瞬一

  • 2015/10/06(火) 16:57:59

十字の記憶
十字の記憶
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堂場 瞬一
KADOKAWA/角川書店 (2015-08-29)
売り上げランキング: 71,395

新聞社の支局長として20年ぶりに地元に戻ってきた記者の福良孝嗣は、着任早々、殺人事件を取材することになる。被害者は前市長の息子・野本で、後頭部を2発、銃で撃たれるという残酷な手口で殺されていた。一方、高校の陸上部で福良とリレーのメンバーを組んでいた県警捜査一課の芹沢拓も同じ事件を追っていた。捜査が難航するなか、今度は市職員OBの諸岡が同じ手口で殺される。やがて福良と芹沢の同級生だった小関早紀の父親が、20年前に市長の特命で地元大学の移転引き止め役を務め、その後自殺していたことがわかる。早紀は地元を逃げるように去り、行方不明になっていた…。


新聞記者と刑事が、かつて見過ごしてしまった同級生の心を救おうと、互いの立場を超えて奔走する物語であり、大元に横たわる市長一族の利権と市の私物化を暴く物語でもある。しかしながら、なんとなくそれぞれの要素に対する動機づけが弱いと感じてしまうのはわたしだけだろうか。いまひとつのめり込めなかった印象である。なんとなくもやもやが残る一冊だった。

夏の雷音*堂場瞬一

  • 2015/08/30(日) 16:35:58

夏の雷音
夏の雷音
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堂場 瞬一
小学館
売り上げランキング: 53,195

神保町の楽器店から消えた1億2000万円のヴィンテージギター。それはアメリカの伝説のミュージシャンが所有していたものだった。オークションで落札した楽器店主は謎の死を遂げるが…。生まれも育ちも神保町の大学准教授・吾妻幹は事件を追い始めるが、愛する街で起きた殺人事件は思いも寄らぬ展開を見せ始めていく。実在する食の名店も多数登場。一気読み必至の神保町ミステリー。


ギターのことはまったく判らないが、オークションで1億2000万円で競り落としたのが、後輩の楽器店店主・安田で、しかもそれが盗まれたと知って、明央大学准教授の吾妻幹(あずま かん)は、ギター探しに協力することになる。そんな矢先に安田が殺され、吾妻はヴィンテージギターにまつわる裏の動きを調べる羽目になるのである。神保町とギターに馴染みのある人にとっては、はらはらどきどきにわくわくも加わって何倍も愉しめそうだが、どちらにも親しんでいないわたしとしては、個人的にはさほどのめり込めはしなかったというのが正直なところである。吾妻先生と父親との今後の関係には興味があるので、吾妻先生のこれからは少し見てみたいと思わされる一冊だった。

埋もれた牙*堂場瞬一

  • 2015/02/09(月) 19:40:35

埋れた牙埋れた牙
(2014/10/15)
堂場 瞬一

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ベテラン刑事の瀧靖春は、自ら願い出て、警視庁捜査一課から生まれ育った吉祥寺を管轄する武蔵野中央署に移った。ある日、署の交通課の前でうろうろする大学時代の旧友、長崎を見かける。事情を聞くと、群馬から出てきている姪で女子大生の恵の行方がわからなくなっているという。新人女性刑事の野田あかねの“教育”もかねて、まず二人だけの「捜査」を始めると、恵の失踪は、過去の未解決事件へとつながっていった――。

「ここも、特別な街じゃないんだ。どんな街にも、一定の割合で悪い奴はいるんだよ」

都市でもなく、地方でもない――この街には二つの水流がある。「住みたい街」として外部を惹きつける、上品な水流。だがその下には、この地で長年暮らしてきた人たちが作った土着的な水流がある。

「私は、この街の守護者でありたいと思っている」

愛する街とそこに住む人々を守るために――「地元」に潜む牙に、独自の捜査手法で刑事が挑む、異色の警察小説が誕生!


吉祥寺という人気の街を舞台にしながら、物語は古くからの住人の「地方ならではの」と言ってもいいようなしがらみや地元意識に根差しているのがミスマッチでもあって興味深い。吉祥寺という街をひと皮剥いた感じでもある。そしてそこで起こっている事件は、警察が見逃していた古い案件から繋がるものだった。ベテラン刑事の瀧と、新人の野田あかねとの噛み合わない心情も興味深い。事件の真相自体は、ある程度想像がつくものであるが、野田あかねの今後を見てみたい気がする一冊である。

警察(サツ)回りの夏*堂城瞬一

  • 2014/11/09(日) 18:42:27

警察回りの夏警察回りの夏
(2014/09/26)
堂場 瞬一

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甲府市内で幼い姉妹二人の殺害事件が発生。盗みの形跡はなく、母親は消息不明。
マスコミは「虐待の末の殺人では」と報道を過熱させていく。日本新報甲府支局のサツ回り担当の南は、
この事件を本社栄転のチャンスにしようと取材を続けていた。
だが、殺害された姉妹の祖父が度重なるマスコミの取材攻勢によって追いつめられていく。
世間のムードは母親叩きからマスコミ叩きへと一変。粘り強く取材を続けていた南は、警察内部からの
リークで犯人につながる重要な情報を掴む。だがそこには、大きな罠が待ち受けていた――。
やがて日本新報本社では、甲府2女児殺害事件の報道に関する調査委員会が立ち上げられる。
元新聞記者でメディア論研究者の高石が調査委員会委員長に抜擢。事件報道の背景を徹底調査しはじめるが……。
果たして真相はどこにあるのか? 報道の使命とは何か? 現代社会に大きな問いを投げかける、渾身の書き下ろし事件小説。


世間の興味を煽る要素のある殺人事件を、警察ではなく新聞社にスポットを当てて描かれた物語である。読み進むと、事件そのものが本筋ではなく、とんでもないはかりごとが背後に隠れているのが見えてくる。読めば読むほど新たな興味が掻き立てられ、真相を知りたい欲求がいやでも高まる。それを高石をはじめとする調査委員会の面々が代わりにやってくれるという感じである。事件の真犯人が判っても、裏で進んでいたはかりごとがすっきりしたわけではないが、一応カタルシスは得られる。警察と報道の関係、ネットの風評など、いろいろ考えさせられる一冊でもある。